キテレツ大百科の最終回 (アニメ版)


愛のフィナーレ!
さよならコロ(すけ)大百科



学校。
木手 英一ことキテレツが、級友みよ子、ブタゴリラ、トンガリたちとともに授業を受けている。

先生「いいか? この問題が解けなかったら、6年生になれんぞ。……まだ5年生を続けたい生徒もいるなぁ」

ブタゴリラが居眠りしており、皆がクスクス笑う。
外でパトカーのサイレンの音が響く。

ブタゴリラ「……あっ! や、八百八(はおはち)で大事件だ! 先生、俺、早引けしていいですか?」
先生「熊田、授業中だぞ」
ブタゴリラ「だって、八百八に強盗が入ったんです」
先生「今まで寝てて、なんでわかるんだ?」
トンガリ「強盗に入られた夢でも、見てたんじゃないの?」
一同「アハハハハ!」
ブタゴリラ「笑うな! うちに強盗が入ってたら、どうすんだよ?」
キテレツ「昼間っから強盗なんて」
一同「アハハハハ!」
コロ助の声「大変ナリ~っ! キテレツ~っ!」
ブタゴリラ「あっ、あの声は」
コロ助の声「大変ナリよ~っ!」
ブタゴリラ「先生、やっぱり事件スよ。ぜひ早引けさせてください」

コロ助が教室に駆け込んで来る。

コロ助「ど、泥棒が入ったナリ!」
ブタゴリラ「やっぱりそうか! 母ちゃんは無事か?」
コロ助「泥棒が入ったのは、うちナリよ」
みよ子「えぇっ!?」
キテレツ「うちに泥棒!?」


キテレツの家。
あちこちに泥棒らしき土足の足跡があり、警官がキテレツのママに事情を聞いている。

警官「すると、留守にしたのは30分ほどですね」
ママ「はい、ちょっと隣に行ってる間に……」

慌てた様子で、キテレツとコロ助が帰って来る。

ママ「あっ、英一! 大事なものがなくなってないかどうか、早く調べてみて」
キテレツ「うん」

キテレツの部屋は、すでに荒らされ放題。

キテレツ「わぁっ、メチャクチャだよ! あ~ぁ。……あ~っ!! キテレツ大百科がない!!」
コロ助「まことナリか!?」
キテレツ「どこにも見当たらないんだ!」
ママ「何がなくなってたの?」
キテレツ「キテレツ大百科がなくなってるんだよ!」
警官「ほぉ、百科事典ですか? あんな重いものをねぇ」
キテレツ「いえ、普通の百科事典とは違うんです」
警官「と言うと?」
キテレツ「つまり、その、一見すると何も書いてなくて……」
警官「要するに、ノートのようなもんだね」
キテレツ「い、いえ、あの……」
コロ助「あ~っ! 如意光(にょうこう)も無いナリよ!」
警官「ニョイコー?」
コロ助「細長くて、懐中電灯みたいな物ナリな」
警官「懐中電灯ね。2階の方は、大した被害はなかったようですな」
ママ「あぁ、良かったわ」

ほっとした様子で、ママと警官が去る。

キテレツ「良くなんかないよぉ! 大事なキテレツ大百科がなくなったら、僕は生きちゃいけないよぉ~っ!」
コロ助「しっかりするナリ、キテレツ。ワガハイがついてるナリよ」
キテレツ「コロ助。キテレツ大百科には、コロ助の設計図も載ってるんだよ」
コロ助「それがどうかしたナリか?」
キテレツ「もしコロ助の具合が悪くなっても、直してやれないってことだよ」
コロ助「あ~っ!! そ、それはないナリよ~っ!!」


隣のアパートの浪人生、勉三(べんぞう)の部屋。
みよ子、ブタゴリラ、トンガリが訪ねている。

勉三「キテレツくんは、部屋に閉じこもったきりっスか?」
トンガリ「キテレツ大百科は、キテレツの分身みたいなものだからね」
みよ子「あの本は、誰にも読めるっていう本じゃないから、盗んだとしても……」
勉三「こんなことになったのも、わしが部屋を散らかしていたのがいけなかったんス」
ブタゴリラ「ここは1年中、空き巣が入った跡みたいだもんな」
勉三「見かねたママさんが、コロちゃんと掃除に来てくれたんスよ」
トンガリ「その間に、泥棒に入られたの?」
勉三「悪いことしてしまったんス……」
みよ子「ねぇ。朝だってことは、犯人を見た人がいるんじゃないかしら?」
ブタゴリラ「そうだよ! みんなで切り込みをしようぜ!」
トンガリ「聞き込み!」


一方でキテレツはコロ助と共に、かつての発明品・回古鏡(かいこきょう)(過去の光景を写すカメラ)に手を加えている。

コロ助「これでいいナリか?」
キテレツ「うん」
コロ助「キテレツ大百科がなくても、直るナリか?」
キテレツ「古い回古鏡を改造して、キテレツ大百科を捜し出せるようにしたんだよ」
コロ助「これで泥棒を捕まえられるナリね」
キテレツ「あとは、プログラムをインプットして……」
コロ助「すごいナリね!」
キテレツ「よぉし、できたぞ! 泥棒に入られた時間に合せて……」

キテレツが改造版の回古鏡で、周囲を撮影する。

キテレツ「よし、再生だ」
コロ助「犯人逮捕も、もうじきナリね」

回古鏡の画面には、泥棒が部屋を荒らす様子が映し出される。
人物の姿は、おぼろげにしか見えない。

コロ助「部屋が荒らされてくナリ」
キテレツ「やっぱり盗まれたのは、キテレツ大百科と如意光だ」
コロ助「犯人がよくわからないナリよ」
キテレツ「盗まれた物を早く突き止めるには、この方法しかなかったんだよ。──泥棒は玄関から出て、道を左へ向かったみたいだ」
コロ助「そんなに堂々と泥棒に入られるなんて、悔しいナリ!」
キテレツ「追いかけるぞ、コロ助!」
コロ助「あっ、行くナリ!」

キテレツとコロ助は外へ出て、回古鏡で周囲を撮影しつつ、泥棒の行方を追う。

キテレツ「どんどん南へ向かってるぞ」
コロ助「犯人の姿がよくわからないナリよ」
キテレツ「犯人よりも、キテレツ大百科のほうがはっきり見えなかったら、捜しようがないじゃないか」
コロ助「ワガハイ、泥棒をコテンパンにやっつけたいナリ!」
キテレツ「盗られた物を、取り戻してからね」
コロ助「あっ、待つナリ!」

やがて、画面にはキテレツ大百科も、泥棒の姿も写らなくなってしまう。

コロ助「そろそろ犯人の居場所が分かったナリか?」
キテレツ「キテレツ大百科が消えてる!?」
コロ助「本当ナリ。如意光まで無いナリ。何かの間違いじゃないナリか?」
キテレツ「きっとキテレツ大百科は、回古鏡の探知エリアを越えてしまったんだ」
コロ助「ということは、もう見つからないナリか?」
キテレツ「もう、手がかりがなくなったからね……」
コロ助「キテレツ、ワガハイがついてるナリ。どんなことがあっても、見つけ出すナリ!」
キテレツ「あぁ~っ、キテレツ大百科はどこへ行ってしまったんだぁ!?」
コロ助「おじさんが、何か知ってるかもしれないナリよ。キテレツ、この画面に八百八のおじさんが写ってるナリ」
キテレツ「えっ!?」

コロ助が示す画面では、確かに八百八のブタゴリラの父・熊八が泥棒とすれ違っている。

コロ助「手がかりにならないナリか?」
キテレツ「八百八さんへ行ってみよう!」
コロ助「急ぐナリ!」


その八百八では、みよ子、ブタゴリラ、トンガリが聞き込みを終えたところである。

ブタゴリラ「あ~あ、世間なんて冷てぇよな。誰も『知らない、知らない』ばっかだもんなぁ」
トンガリ「まったくだねぇ」

キテレツとコロ助が駆けて来る。

コロ助「八百八のおじさぁ~ん!」
みよ子「キテレツくん!?」
熊八「おっ、ネギ坊主! 何をそんなに慌ててるんでぇ?」
コロ助「あ、あのナリね、泥棒がキテレツ大百科を盗んでって、それをおじさんが知ってるナリね!」
熊八「何? 俺が泥棒に協力した、とでも言うのか!?」
ブタゴリラ「コロ助! 俺の父ちゃんを泥棒扱いする気か!?」
コロ助「違うナリよ!」
キテレツ「あの、おじさんが配達の途中で、誰かが本を落とすのを見ませんでした?」
熊八「本を落とした?」
トンガリ「どういうこと?」
熊八「そうだ! 朝の忙しいときに『至急配達してくれ』っていうお客があったんで、その帰りだったな」

熊八の回想。泥棒が大百科を広げ、ろくに前も見ずに歩いており、自転車の熊八と衝突しそうになる。

熊八「危ね危ね危ねぇっ! 何ボヤッとしてやがんでぇ! 危ねぇじゃねぇか!」

泥棒は熊八を睨みつけると、そばに泊っているゴミ収集車に大百科を投げ込み、去って行く。

熊八「というわけで、本はゴミ収集車の中だ」
キテレツ「えぇ~っ!?」
コロ助「キテレツ……?」

駆け出そうとするキテレツを、ブタゴリラが制止する。

ブタゴリラ「ま、待てよ! どこへ行くつもりなんだよ!?」
キテレツ「ゴミ焼却場へ行くんだよ!」
みよ子「ゴミ回収は朝よ! 落ち着いて、キテレツくん」
熊八「今頃は、灰になっちまってるぜ」
キテレツ「えぇ~っ!?」


翌朝の学校。
キテレツは登校していない。

みよ子「今朝、キテレツくんを迎えに行ったんだけど、食欲もなくて、コロちゃんと一緒に寝込んでるらしいの」
ブタゴリラ「秀才はショックに弱いから、困るんだよな。帰りに寄って、ばっちりハッパかけてやっか!」
みよ子「しばらく、そっとしておいてあげましょうよ」


放課後。
勉三のもとを、ブタゴリラとトンガリが訪ねている。

勉三「取り返しのつかないことをしたんスね…… しばらくは、立ち直れないかも」
ブタゴリラ「それじゃ、ずっと座りっぱなしか?」
トンガリ「ブタゴリラ、真面目にやってよ」
ブタゴリラ「俺は永遠に真面目だ!」
トンガリ「あのねぇ!」

みよ子が顔を出す。

みよ子「ねぇ、みんな!」
勉三「キテレツくんの様子は、どうだったんスか?」
みよ子「シッ! それが、おかしいの。鼻歌なんか歌ったりして」
ブタゴリラ「キテレツ大百科が見つかったんじゃねぇのか?」
トンガリ「灰になった物が、元通りになるわけないでしょ」
ブタゴリラ「じゃ、あまりにもショックが大きすぎて……?」


一同がキテレツの家を覗くと、庭でキテレツとコロ助が、ニコニコしながら何か作業している。

ブタゴリラ「コロ助も、やけに明るいぜ」
トンガリ「気味悪いぐらいだ」
キテレツ「やぁ! どうしたの、みんな?」
みよ子「キテレツくんこそ、何かあったの?」
キテレツ「うん。これから、キテレツ大百科を捜しに行こうと思って!」
勉三「いや、しかし燃えてしまったんじゃ……?」
トンガリ「やっぱり、ブタゴリラの思った通りに……?」」
キテレツ「『航時機』で、江戸時代に行けばいいのさ!」

キテレツとコロ助が作業していたのは、航時機(こうじき)(タイムマシン)の整備。

コロ助「キテレツ斎様に逢えば、キテレツ大百科がもらえるナリ!」
トンガリ「あっ、そうか!」
キテレツ「落ち着いて考えれば、どうってことなかったのさ!」
ブタゴリラ「よぉし、俺も付き合ってやる! コロ助1人だけだと、心配だからな」
コロ助「大丈夫ナリ。江戸時代はワガハイ、得意ナリよ」
トンガリ「そう、ブタゴリラは遠慮したほうがいいよ」
勉三「んだス。また足を引っ張るようなことになるんスから」
ブタゴリラ「みんなの困ったときに、俺が活躍しなかったことがあったか!?」
トンガリ「そ、それは……」
キテレツ「みんな、僕のこと心配してくれて、ありがとう」

結局、航時機には勉三以外の全員が同乗する。

キテレツ「勉三さん。ママやパパたちが心配しないように、うまく言っといてね」
勉三「わかったっス。無理をしないようにするんスよ」
みよ子「私はトンガリくんと一緒に、ブタゴリラくんを監視するわ」
コロ助「どっかに繋いでおいたほうが安心ナリ」
ブタゴリラ「俺は犬じゃねぇんだよ!」
トンガリ「犬の方がマシだよ……」
ブタゴリラ「トンガリぃ~っ!」
キテレツ「今回は失敗が許されないんだから、おとなしくしててよ。──出発!!」
勉三「無事、戻って来るんスよ!」

航時機が宙に浮き、時を超え、過去の世界を目指す。

ブタゴリラ「航時機も快調だな!」
キテレツ「キテレツ斎様に逢えるんで、ばっちり整備したからね」


過去、江戸時代の街の上空に航時機が出現する。

ブタゴリラ「おっ! 間違いなく、江戸の町だぜ!」

河原の草むらの中に、航時機が着陸する。

トンガリ「あれは?」
みよ子「立札みたいよ」

立札に人々が群がっている。
キテレツたちも行ってみる。
そこにあった立札は、キテレツ斎の人相書き。

キテレツ「あぁっ! キテレツ斎様だよ!」

その声に、人々の中の1人の少女が反応する。

みよ子「お尋ね者ですって!?」
ブタゴリラ「大人のくせに、迷子になっちまったのか?」
トンガリ「指名手配されてんだよ!」
コロ助「キテレツ斎様が指名手配されてるナリか!?」
みよ子「これじゃ、キテレツ斎様に簡単に逢えそうにないわね……」


とある土蔵。
キテレツの先祖・キテレツ斎が、キテレツ大百科の執筆に取り組んでいる。

キテレツ斎「我が一生を賭けた発明・発見のすべてを、ここに書き残すもの也──」


一方、キテレツたちのもとには、馬に乗った役人が現れている。

役人「お主たち! キテレツ斎を知っておるのか?」
キテレツ「い、いえ。私たちは、そのような人は知りません」
コロ助「そう、そうナリ。キテレツ斎なんて、まったく知らないナリ」
ブタゴリラ「そ、そうだよ。わけのわからない発明するお爺ちゃんなんか、知るわけないじゃんか。なぁ?」
役人「ほぉ、そこまで知っているとは」
トンガリ「……ちょっと、小耳にはさんだものですから」
キテレツ「さぁ、僕たちは帰ろうよ。うちで心配するといけないから」
コロ助「そうナリ」
ブタゴリラ「そ、そうだな。さぁ、帰ろう、帰ろう」

しかし、キテレツたちは役人たちに囲まれてしまう。

トンガリ「こんなところで捕まるなんて……」
ブタゴリラ「くそぉ!」
役人たち「ますます怪しい奴らだな! 全員ひっ捕らえろ!」「はっ!」
ブタゴリラ「待て! キテレツ斎を知っているのは、この俺だけだ!」
役人「ほぉ、そうか」
ブタゴリラ「俺を捕まえる前に、こいつらを帰してやれ! 何も知らねぇんだからよ!」
役人「まず、お主を捕まえてから、考えることにしよう」
ブタゴリラ「何っ!?」
役人「捕まえろ!」
ブタゴリラ「くそっ!」

役人の乗った馬の腹を、ブタゴリラが思い切り蹴る。
馬が暴れて、役人が振り下ろされそうになる。

役人「わ、わぁっ!」
ブタゴリラ「へっ、あんな奴らに捕まってたまるかよ! できるもんなら追って来いってんだ~い!」

ブタゴリラが一目散に駆け出す。

役人「あいつを捕まえろぉ!」
ブタゴリラ「こんな奴ら、簡単にまいてやるから、キテレツ斎を早く捜し出すんだぞぉ~!」
みよ子「うまく逃げ切れるかしら……」
トンガリ「運動会じゃ、スターだから」
役人「やはり、お前らも一味だったか!」
キテレツたち「あっ!?」
役人「もう、容赦はせんぞ!」

役人が刀を抜く。

キテレツたち「わぁ~っ!?」
役人「覚悟しろ!」
コロ助「覚悟するナリ! たぁっ!」

コロ助も刀を抜き、馬の腹を突く。
馬が驚き、役人を乗せたまま駆け出す。

役人「わ、わぁっ! 助けてぇ~っ!?」
コロ助「今のうちナリ!」


キテレツ斎の土蔵。
先ほど立札の人々の中にいた少女・お(たえ)が、薬を運んで来る。

お妙「キテレツ斎様……」
キテレツ斎「お妙か」
お妙「寝てらっしゃらなくて、いいんですか?」
キテレツ斎「今日は気分が良くてな。昨夜、息子の夢を見たせいかもしれん」
お妙「息子さんって?」
キテレツ斎「お妙坊より、もっと小さいときに死んでしまったんじゃよ」
お妙「まぁ……」
キテレツ斎「これは、その子に似せて作ろうとした、からくり人形の図面じゃ」

キテレツ斎が、自分の書いていた図面を見せる。

お妙「この子!? さっき、河原で見かけました!」
キテレツ斎「そ、そんなバカなことが!?」

その図面は、コロ助の設計図だった──


一方でキテレツたちは、町外れの小道で道に迷っている。

コロ助「ここはどこナリか?」
キテレツ「路地に逃げ込めば、大丈夫だと思ったんだけど……」
トンガリ「これじゃ、キテレツ斎を見つけ出すどころじゃないよ」
みよ子「大きな道に出ると、また追われちゃいそうだし」
トンガリ「これからどうするのさ、キテレツ?」
コロ助「何があっても、キテレツ斎様だけは捜し出すナリよ」

コロ助を、お妙が追って来る。

お妙「もしかして、『コロ助』っていわない?」
コロ助「ん? なんでワガハイの名前を知ってるナリか?」
キテレツ「コロ助を知ってるってことは、キテレツ斎様の知り合いなんですね?」
みよ子「キテレツくんは、キテレツ斎様の子孫なのよ!」
トンガリ「そういう説明は、江戸時代の人に理解されないんじゃない?」
みよ子「あっ、そうね…… でもキテレツくんは、キテレツ斎様の味方だってことは、わかって」

お妙が、1枚の紙を見せる。

キテレツ「こ、これは!?」
コロ助「何ナリか?」

キテレツが、キテレツ大百科を読むことのできる眼鏡・神通鏡(じんつうきょう)で、コロ助にも紙を見せる。

コロ助「あっ、ワガハイの絵ナリ!」
お妙「もし、この絵が見えたら連れて来るよう、頼まれたの」
キテレツ「キテレツ斎様に!?」
コロ助「キテレツ斎様がいるナリね!」


お妙の案内で、キテレツたちはキテレツ斎の土蔵へ行く。
みよ子とトンガリは、土蔵の外で待っている。

トンガリ「なんで僕たちが、ここに残らなきゃいけないの?」
みよ子「ブタゴリラくんが逃げて来ても、私たちがいなかったら、わからないじゃないの」
トンガリ「うん、それはそうだけど……」

そして土蔵の中。
キテレツたちはついに、キテレツ斎に逢う。

コロ助「あっ!」
キテレツ斎「コロ助……!」
コロ助「そうナリ。ワガハイ、コロ助ナリ」
キテレツ斎「コロ助…… 私の図面、そのものだ!」
コロ助「はじめましてナリ!」

キテレツ斎は、亡き息子の姿をコロ助にだぶらせ、抱きしめる。

キテレツ斎「コロ助は、そなたが作ったのか?」
キテレツ「はい! キテレツ大百科を見て。今ここへ来たのも、航時機を使って来たんです」
キテレツ斎「航時機を作った? すると、そなたは未来から来たのか?」
キテレツ「はい、子孫の英一です!」
コロ助「みんな、キテレツって呼んでるナリ」
キテレツ斎「キテレツ? そうか、わしが書き残すことになるキテレツ大百科が、役に立ったわけじゃな!」
キテレツ「僕もキテレツ斎様にあやかって、発明家になりたいと思っています!」
キテレツ斎「そうか。発明は自分だけが頼りで、厳しい努力の積み重ねが必要だぞ」
お妙「あら? キテレツ斎様、さっきのお薬、まだお飲みになっていらっしゃらないのでは?」
キテレツ「病気なんですか?」
コロ助「本当ナリか?」
キテレツ斎「なぁに、大したことはない。コロ助とキテレツの顔を見たら、急に元気が出てきた!」
コロ助「ワガハイ、お父さんに逢ったような気がするナリ!」
お妙「それはそうよ」
キテレツ「えっ?」
コロ助「どういうことナリ?」


土蔵の外では、ようやくブタゴリラがやって来る。

みよ子「あっ、ブタゴリラくん!」
ブタゴリラ「あっ、みよちゃん!」
みよ子「無事だったのね?」
ブタゴリラ「あんな連中、簡単にまいてやったよ」
みよ子「キテレツくんとコロちゃん、キテレツ斎様に逢えたのよ!」
トンガリ「今、上にいるんだ」
ブタゴリラ「そりゃ良かった!」

しかし、大勢の役人たちがブタゴリラを追って来る。

トンガリ「全然まいてないじゃないの!」
ブタゴリラ「そうみたい…… やばい、逃げよう!」

土蔵の中のキテレツたちのもとにも、その騒ぎの声が響く。

トンガリ「わぁ~っ!? 助けて、キテレツ~っ!」
役人「者ども! よくも嘗めた真似をしてくれたな!」
お妙「捕方(とりかた)たちがやって来ています!」
キテレツ斎「戸を開けてやりなさい」
お妙「いいんですか!?」
キテレツ斎「友達を助けてあげるんだ」
お妙「……はい!」
キテレツ「コロ助、風呂敷包みの中だ!」
コロ助「あっ、そうだったナリ!」

役人「奴らをひっ捕らえて、キテレツ斎の居場所を吐かせるんだ!」

お妙が土蔵の扉を開け、みよ子たちを中へ招く。

お妙「皆さん、早く上へ!」
キテレツ「ブタゴリラ、『天狗の抜け穴』だ!」

ブタゴリラが入口で必死に、役人たちを食い止めている。
その間に、キテレツが、瞬間移動できる発明品・天狗の抜け穴で、壁面に抜け穴を作る。

キテレツ斎「そんな物まで作っていたのか! う…… ゴホ、ゴホッ!」
コロ助「早く行くナリ!」
キテレツ「ブタゴリラ、早く!」

キテレツ斎がお妙に助けられつつ、一同と共に抜け穴の中に消える。
役人たちが乗り込んで来るものの、抜け穴は元の壁に戻っており、キテレツたちの姿はない。

役人たち「小僧どもはどうした!?」「いえ、見当たりません」「さっき河原にあった箱が怪しいな……」


河原の航時機のもとに、キテレツたちが無事、逃げおおせる。

キテレツ「みんな、無事だったね!」
ブタゴリラ「危ないとこだったぜ」

キテレツ斎が、キテレツの作った航時機の出来栄えに見惚れる。

キテレツ斎「わしの図面より、はるかに良くできている!」
キテレツ「そんな……」
ブタゴリラ「へぇ、おじさんがキテレツの元祖か!」
トンガリ「先祖でしょ」
キテレツ斎「木手キテレツ斎と申す」
みよ子「はじめまして、野々花みよ子です」
ブタゴリラ「野菜の八百八の、熊田 薫で~す!」
トンガリ「僕、トンガリ」
ブタゴリラ「よく見ると妙子そっくりじゃんか!」

お妙は確かに、ブタゴリラの幼なじみの妙子そっくり。

コロ助「お妙ちゃんナリ」
キテレツ斎「お妙坊の父上は、わしをかくまってくれてるんだ」
ブタゴリラ「妙子に似てる人は、みんな偉いんだなぁ!」
トンガリ「勝手に決めつけないでよ!」
お妙「キテレツ斎様。いつまでもここにいると、お役人に……」
キテレツ「キテレツ斎様。この航時機や、天狗の抜け穴を役人に見せたら、発明というのは世間を騒がす物じゃないってことが、わかってもらえるんじゃないでしょうか?」
キテレツ斎「とんでもない。実物を見せたら、お前たちまで危険な目に遭うことになる。巻き添えにならんうちに、未来へ帰った方がいい」
キテレツ「でも……」
キテレツ斎「この時代には、私の発明も簡単には理解してもらえん。しかし、そのために他の人に迷惑をかけるようじゃ、人類の未来は開かれてこないんだ」
キテレツ「孤独で、厳しいんですね……」
ブタゴリラ「キテレツ大百科は貰えることになったのかよ、キテレツ?」
キテレツ「うぅん。僕は、キテレツ斎様に頼らず、自分の力で発明をしたいと、今、決心したんだ!」
コロ助「えぇっ!? じゃあ、もうキテレツ大百科はいらないナリか!?」
キテレツ斎「うぅっ! ゴホ、ゴホッ、ゴホッ!」
お妙「キテレツ斎様!?」
キテレツ「大丈夫ですか!?」
コロ助「ワガハイ…… あっ、役人の船が来たナリ!」

役人たちが船に乗って川を渡り、次第に近づいてくる。

キテレツ「キテレツ斎様! 早く、天狗の抜け穴へ!」
キテレツ斎「ゴホ、ゴホッ!」
お妙「しっかりしてください!」
キテレツ斎「わ、わしはもう、捕まってもいい…… 子孫にも、息子にも逢えたからな……」
コロ助「息子? ……ワガハイナリか!?」
お妙「そうなのよ。亡くなった息子さんそっくりに……」
役人「いたぞ! あそこだ!」
コロ助「あぁっ……」
お妙「キテレツ斎様、早く!」
キテレツ「逃げてください!」
コロ助「……キテレツ! ワガハイ、江戸時代に残って、キテレツ斎様と暮すナリ!」
キテレツ「コロ助!?」
みよ子「どういうことなの、コロちゃん!?」
コロ助「ワガハイ、江戸時代の方が似合うような気がするナリ。キテレツ斎様、一緒に逃げるナリ!」
キテレツ斎「あ、あぁ……」
コロ助「一緒に逃げるナリ、キテレツ斎様!」

キテレツ斎がコロ助とお妙に助けられ、天狗の抜け穴へ向かう。

トンガリ「ちょ、ちょっと待ってよ!」
みよ子「私たちと別れちゃって、いいの!?」

コロ助が振り返る。
目が潤んでいる。

コロ助「ワガハイ、いつもキテレツやみよちゃんや、トンガリやブタゴリラに可愛がってもらったナリ。今度は、ワガハイを発明してくれたキテレツ斎様を守っていきたいナリ!」
キテレツ「コロ助……!」
コロ助「こうすることが、ワガハイを作ってくれたキテレツへの、感謝の気持ちナリ!」
ブタゴリラ「キテレツ、何とか言ったらどうなんだよ!?」
キテレツ「……キテレツ斎様。未来の僕たちのためにも、早く逃げてください! コロ助、さよならは言わないからね」
コロ助「ワガハイも言わないナリ」
トンガリ「それじゃ、止めてないじゃないの!」
役人「あそこだ! 早くひっ捕らえろ!」
お妙「お役人たちがやって来ます!」
コロ助「キテレツ、行って来るナリ!」

コロ助がキテレツ斎たちとともに、天狗の抜け穴へ消える。
キテレツは潤んだ目で、しかし笑顔でそれを見送る。

役人「こら、キテレツ斎をどこへ隠した!?」

役人たちが河原に乗り込んで来る。
キテレツたちの乗った航時機が、空高く舞い上がる。

役人たち「あ──っ!?」「あ、あっ!?」
キテレツ「キテレツ斎様の発明は、人のために役立つことなんだ! そんな人を捕まえようなんて、許せない!」
役人「黙れ黙れぇ! キテレツ斎は妙な物を作って世の中を騒がす、不届き者であるぞ!」
キテレツ「わからず屋めぇ!」

キテレツが航時機を急降下させ、役人たちの頭上をかすめる。

役人「わ、わぁっ!?」
トンガリ「やるじゃん、キテレツ!」
役人「しゃらくさい、捕まえるまで! 地の果てまで追ってみせる!」

再びの航時機の急降下に煽られ、役人がひっくり返る。

ブタゴリラ「やった、やったぁ!」

江戸の町の上空を、航時機が舞う。

ブタゴリラ「江戸の町も、見納めかもしれねぇなぁ……」


そして航時機は時を超え、江戸時代を後にする。

みよ子「たくましく見えたわ、キテレツくん……」
キテレツ「えっ?」
トンガリ「考えてみれば、コロ助は江戸時代タイプかもしれないね」
ブタゴリラ「コロ助の話はするな! こんなことなら、もっといじめておけば良かったな……」

ブタゴリラは強がりを言うものの、目には涙が滲んでいる。

航時機が時を超え、一路、現代を目指す。

キテレツ「コロ助…… 今度逢うときは、キテレツ斎様に負けない発明品を持って行くからね。21世紀には、きっと!!」*1


(終)

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最終更新:2016年10月02日 19:18

*1 最終回放映年は1996年で、まだ20世紀だった。