CANAAN(漫画版)の第1話

飛行機の中。駆け出しカメラマンの大沢マリアが、窓から見える地上の景色に目を見張る。

マリア「あ! 見えた! わぁっ!」



CANAAN
第一話
カナン




舞台は上海の街。
フリーライターの御法川(みのりかわ) (みのる)は、雑誌の取材でここを訪れていた。

御法川「くだらん…… くだらん! くだらん カラオケバーの美女 中国四千年の秘技でニィハオ極楽浄土! 怪奇! 村人が一夜にして消えた村!? くだらん! 見事に下らん!! しかも 同行カメラマンがマリア(おまえ)なんて……」

御法川が頭を抱えるそばで、マリアは笑顔でカメラを構えている。

マリア「はい! 素敵な旅になりそうですね!」

お祭りが開催されており、様々な出し物がパレードしてゆく。

マリア「わぁ 見てください 御法川(みの)さん! すッごーい! スゴ…… 

マリアが次々に、人に押される。

マリア「わ わ !

様々な仮装の人たちが、楽しくパレードしている。
マリアは夢中で、シャッターを切る。

マリア「すごい すごい! …… みのさん?」

いつの間にか、御法川の姿がない。

この世界には──
誰も見てないものがいっぱいある

見ようと思えばホントは
見えないものなんてないのに
わざと目を閉ざしてる

この目でそれを見てしまうのは
──…痛すぎるし 辛すぎるから
だから閉ざしてる

私は── 見たい
目を閉ざさずに知らない世界を

怖いけど… でも あの子はずっと
見つめ続けているんだから

巨大な龍の出し物が登場し、観衆が大きな歓声を上げる。

マリア「──すごい! すごい!」

龍が口から火を吐くかの如く、赤い水を吹き出し、マリアが頭から水をかぶる。

マリア「きゃあっ すごい! すごーい!
声「スーゴーイ!

そばで現地の子供たちが、マリアの口癖を真似ている。

子供たち「スーゴーイ
マリア「すごーい!
子供たち「スーゴーイ!!」「スーゴーイ!」「あははははは
マリア「あはっ」

マリアと子供たちが笑い合う。
誰かが、マリアにぶつかる。

マリア「あ すみませ…」

仮装行列の一員なのか、頭に被り物を被った2人が走り去っていく。

マリア「……?」
2人「はぁ はぁ はぁ」

龍が口から水を吹き出し、その2人に水が浴びせられる。
勢いで1人の男の被り物が外れ、途端に男が苦しみだす。

男「ぐ あ がぁ あ あ あ がぁ あ お あ
観衆「ハハハハハ」「あはは」
マリア「?」

観衆は祭りの余興の一つとても思っているのか、その苦しむ男を見ても笑うだけ。
マリアも撮影を再開する。
祭りの風景…… 様々な出し物…… 楽しむ人々…… 痣の浮かんだ腕……

マリア「!

先ほど苦しんだ男が倒れて動かなくなっている。
腕に、奇妙な痣が浮かび上がっている。
目が血走っており、尋常な状態ではない。

マリア「あの…?」

背後にそっと、仮面で顔をかくした2人組が近づく。
次の瞬間、誰かがマリアの腕をつかみ、駆け出す。

声「走って!

2人組が銃を放つ。

マリア「え…… カ カナン!?

マリアを連れて駆け去ったのは、マリアの旧友で中東の工作員の少女、物語の主人公・カナン。

走る2人を、銃撃が襲う。

マリア「きゃ わっ」
カナン「なんで上海(ここ)にいるの!?」
マリア「こっちのセリフだよ ずっと会いたかったのにっ 連絡くれなくてっ ──また 悪い人と戦ってるの?」
カナン「愚かな人、かな」
マリア「わかんないよッ

ふと、カナンが足を止める。
路上で1人の少女が射的の屋台を営んでいる。

少女「はーい いらっしゃーい 楽しい射的よー やってく?」
カナン「──コレ 私が取った」

射的の的の一つのぬいぐるみに、銃撃の穴があいている。

少女「お客さーん 営業妨害なら…」

カナンが鞄を開いて見せる。
中に拳銃があるのを見て、少女の顔色が変わる。

少女「お… おーあたりー!!

少女が銅鑼を鳴らすと、カナンがぬいぐるみを取って駆け出す。
次の瞬間、無数の銃撃が炸裂して、的が次々に撃ちぬかれる。
少女が泣きながら、銅鑼を鳴らす。

少女「お おーあたり~ おーあたり~」


カナンたちは銃撃から逃れ、路地裏に身をひそめる。

マリア「カナン…」
カナン「シッ」

銃撃戦の最中というのに、カナンの手にはしっかりと、ぬいぐるみが抱かれている。

マリア「ぬいぐるみ… 好きなんだ?」
カナン「…なんとなく 何の色もしないから ここから動かないで」
マリア「いや いやだよ 動きたいよ だって お祭だよ…?」
カナン「…あれ 持ってきてる?」
マリア「あれ? …… あ」

マリアが鞄から、あやとりの糸を出す。
かつて、カナンと知り合ったときに遊んだものである。

マリア「これのこと?」
カナン「持ってきてたんだ」
マリア「もちろん これがあったからカナンと友達になれたんだもん」
カナン「手 後ろにして」
マリア「え うん?」

カナンはその糸を使い、マリアの手を、後ろ手に縛る。

カナン「よし」
マリア「?」
カナン「これで動けないよね」
マリア「え゛ ただの毛糸だもん… ひっぱれば簡単に切れ…」
カナン「切っちゃうんだ」
マリア「え?」
カナン「これがあったから 友達になれたのに」
マリア「あ…」

カナンが笑い、マリアを置いて走り出す。

マリア「い いじわる カナン──!


一方、マリアとはぐれた御法川。

御法川「大沢はどーこ行きやがったんだ? まったく…」

観衆がざわめく。
建物の屋根の上をカナンが走り、彼女目がけて銃撃の雨が降り注いでいる。

御法川「派手なパフォーマンスだなぁ…」

銃撃が屋根を砕き、飛び散った破片の一つが御法川の額をかすめる。

御法川「ッ 痛ッ」

額を拭うと、血が滲んでいる。

御法川「! お おい こりゃ遊びなんかじゃ…」

周囲の群集はカナンを見て、盛んに歓声を送っている。

御法川「…… こいつら… 祭りの余興だと思って…?」

御法川がカメラを構える。
そこへマリアが、後ろ手を縛られたまま駆けて来る。

マリア「カナーン! あ みのさん! これほどいてください!」
御法川「何やってんだ お前は!?

カナンと追っ手たちとの銃撃戦が続く。
屋根の陰に身をひそめて一息ついたカナンが、狙いを定めて一気に飛び出し、銃撃。
一瞬にして追っ手たち数人が一掃される。

カナンが屋根の上を駆け去る。

マリア「!」
御法川「おい 行っちまうぞ 早くおいかけ…」

カナンは… 生きてる

その命は 激しく輝いて
目で直接見つめるには 眩しすぎて

少し怖いけど… 触れてみたい
その輝きに──…


どこかの街角で、カナンが携帯電話をかけている。

カナン「『アンブルーム』に生存者はいなかったよ とりあえず『蛇』の追っ手は片付けておいた」
通話相手『ええ すでに処理に向かわせています』
カナン「早いね」
通話相手『あれだけ派手にやればどこにいても情報は入ってきます』

カナン「…じゃあ これは知ってる? 私が ──宝物をみつけたこと」


(続く)

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最終更新:2018年10月30日 08:09