飛行機の中。駆け出しカメラマンの大沢マリアが、窓から見える地上の景色に目を見張る。
マリア「あ! 見えた! わぁっ!」
舞台は上海の街。
フリーライターの御法川 実は、雑誌の取材でここを訪れていた。
御法川「くだらん…… くだらん! くだらん カラオケバーの美女 中国四千年の秘技でニィハオ極楽浄土! 怪奇! 村人が一夜にして消えた村!? くだらん! 見事に下らん!! しかも 同行カメラマンがマリアなんて……」
御法川が頭を抱えるそばで、マリアは笑顔でカメラを構えている。
マリア「はい! 素敵な旅になりそうですね!」
お祭りが開催されており、様々な出し物がパレードしてゆく。
マリア「わぁ 見てください 御法川さん! すッごーい! スゴ…… わ」
マリアが次々に、人に押される。
マリア「わ わ !」
様々な仮装の人たちが、楽しくパレードしている。
マリアは夢中で、シャッターを切る。
マリア「すごい すごい! …… みのさん?」
いつの間にか、御法川の姿がない。
この世界には──
誰も見てないものがいっぱいある
見ようと思えばホントは
見えないものなんてないのに
わざと目を閉ざしてる
この目でそれを見てしまうのは
──…痛すぎるし 辛すぎるから
だから閉ざしてる
私は── 見たい
目を閉ざさずに知らない世界を
怖いけど… でも あの子はずっと
見つめ続けているんだから
巨大な龍の出し物が登場し、観衆が大きな歓声を上げる。
マリア「──すごい! すごい!」
龍が口から火を吐くかの如く、赤い水を吹き出し、マリアが頭から水をかぶる。
マリア「きゃあっ すごい! すごーい!」
声「スーゴーイ!」
そばで現地の子供たちが、マリアの口癖を真似ている。
子供たち「スーゴーイ」
マリア「すごーい!」
子供たち「スーゴーイ!!」「スーゴーイ!」「あははははは」
マリア「あはっ」
マリアと子供たちが笑い合う。
誰かが、マリアにぶつかる。
マリア「あ すみませ…」
仮装行列の一員なのか、頭に被り物を被った2人が走り去っていく。
マリア「……?」
2人「はぁ はぁ はぁ」
龍が口から水を吹き出し、その2人に水が浴びせられる。
勢いで1人の男の被り物が外れ、途端に男が苦しみだす。
男「ぐ あ がぁ あ あ あ がぁ あ お あ」
観衆「ハハハハハ」「あはは」
マリア「?」
観衆は祭りの余興の一つとても思っているのか、その苦しむ男を見ても笑うだけ。
マリアも撮影を再開する。
祭りの風景…… 様々な出し物…… 楽しむ人々…… 痣の浮かんだ腕……
マリア「!」
先ほど苦しんだ男が倒れて動かなくなっている。
腕に、奇妙な痣が浮かび上がっている。
目が血走っており、尋常な状態ではない。
マリア「あの…?」
背後にそっと、仮面で顔をかくした2人組が近づく。
次の瞬間、誰かがマリアの腕をつかみ、駆け出す。
声「走って!」
2人組が銃を放つ。
マリア「え…… カ カナン!?」
マリアを連れて駆け去ったのは、マリアの旧友で中東の工作員の少女、物語の主人公・カナン。
走る2人を、銃撃が襲う。
マリア「きゃ わっ」
カナン「なんで上海にいるの!?」
マリア「こっちのセリフだよ ずっと会いたかったのにっ 連絡くれなくてっ ──また 悪い人と戦ってるの?」
カナン「愚かな人、かな」
マリア「わかんないよッ」
ふと、カナンが足を止める。
路上で1人の少女が射的の屋台を営んでいる。
少女「はーい いらっしゃーい 楽しい射的よー やってく?」
カナン「──コレ 私が取った」
射的の的の一つのぬいぐるみに、銃撃の穴があいている。
少女「お客さーん 営業妨害なら…」
カナンが鞄を開いて見せる。
中に拳銃があるのを見て、少女の顔色が変わる。
少女「お… おーあたりー!!」
少女が銅鑼を鳴らすと、カナンがぬいぐるみを取って駆け出す。
次の瞬間、無数の銃撃が炸裂して、的が次々に撃ちぬかれる。
少女が泣きながら、銅鑼を鳴らす。
少女「お おーあたり~ おーあたり~」
カナンたちは銃撃から逃れ、路地裏に身をひそめる。
マリア「カナン…」
カナン「シッ」
銃撃戦の最中というのに、カナンの手にはしっかりと、ぬいぐるみが抱かれている。
マリア「ぬいぐるみ… 好きなんだ?」
カナン「…なんとなく 何の色もしないから ここから動かないで」
マリア「いや いやだよ 動きたいよ だって お祭だよ…?」
カナン「…あれ 持ってきてる?」
マリア「あれ? …… あ」
マリアが鞄から、あやとりの糸を出す。
かつて、カナンと知り合ったときに遊んだものである。
マリア「これのこと?」
カナン「持ってきてたんだ」
マリア「もちろん これがあったからカナンと友達になれたんだもん」
カナン「手 後ろにして」
マリア「え うん?」
カナンはその糸を使い、マリアの手を、後ろ手に縛る。
カナン「よし」
マリア「?」
カナン「これで動けないよね」
マリア「え゛ ただの毛糸だもん… ひっぱれば簡単に切れ…」
カナン「切っちゃうんだ」
マリア「え?」
カナン「これがあったから 友達になれたのに」
マリア「あ…」
カナンが笑い、マリアを置いて走り出す。
マリア「い いじわる カナン──!」
一方、マリアとはぐれた御法川。
御法川「大沢はどーこ行きやがったんだ? まったく…」
観衆がざわめく。
建物の屋根の上をカナンが走り、彼女目がけて銃撃の雨が降り注いでいる。
御法川「派手なパフォーマンスだなぁ…」
銃撃が屋根を砕き、飛び散った破片の一つが御法川の額をかすめる。
御法川「ッ 痛ッ」
額を拭うと、血が滲んでいる。
御法川「! お おい こりゃ遊びなんかじゃ…」
周囲の群集はカナンを見て、盛んに歓声を送っている。
御法川「…… こいつら… 祭りの余興だと思って…?」
御法川がカメラを構える。
そこへマリアが、後ろ手を縛られたまま駆けて来る。
マリア「カナーン! あ みのさん! これほどいてください!」
御法川「何やってんだ お前は!?」
カナンと追っ手たちとの銃撃戦が続く。
屋根の陰に身をひそめて一息ついたカナンが、狙いを定めて一気に飛び出し、銃撃。
一瞬にして追っ手たち数人が一掃される。
カナンが屋根の上を駆け去る。
マリア「!」
御法川「おい 行っちまうぞ 早くおいかけ…」
カナンは… 生きてる
その命は 激しく輝いて
目で直接見つめるには 眩しすぎて
少し怖いけど… 触れてみたい
その輝きに──…
どこかの街角で、カナンが携帯電話をかけている。
カナン「『アンブルーム』に生存者はいなかったよ とりあえず『蛇』の追っ手は片付けておいた」
通話相手『ええ すでに処理に向かわせています』
カナン「早いね」
通話相手『あれだけ派手にやればどこにいても情報は入ってきます』
カナン「…じゃあ これは知ってる? 私が ──宝物をみつけたこと」
最終更新:2018年10月30日 08:09