百練の覇王と聖約の戦乙女〈ヴァリキュリア〉(漫画版)の第1話

二つの軍勢が戦う中、
銀髪の少女が桃色の髪の少女に剣を突きつけていた。

銀髪の少女「〈〈角〉〉の宗主(パトリアーク)、〈〈狼〉〉が召し捕ったり――――!!」


百練の覇王と聖約の戦乙女〈ヴァルキュリア〉第1話 〈〈狼の宗主〉〉

戦地に張られた天幕の中。
リアーネ「ええい、押すなっ、自分で歩ける!」
桃色の髪の少女、〈〈角〉〉の宗主リアーネが縛られて、
玉座に座る黒髪の少年の前に引き立てられた。
リアーネ(―――何故だ、何故こんなことに―――)

少年「・・・この子が、〈〈角〉〉の宗主か?」
少年の横に控える金髪の少女、フェリシアが言った。
フェリシア「はい、彼女が宗主のリアーネ殿です」
少年「まだ子供じゃないか」
リアーネ「貴様だってボクと同じぐらいだろうがっ!」
少年「まあ、ここではそうおかしなことでもないか」
リアーネ「・・・?」
少年「とりあえず自己紹介をしておこうか」

勇斗「俺は勇斗、〈〈狼〉〉の宗主だ」
リアーネ「・・・ふん」
勇斗「言葉を弄するのは好かん。単刀直入に訊こう。
俺の子分にならないか?」
リアーネ「断る!ふっ・・・子分だと・・・?なぜ〈〈角〉〉が〈〈犬〉〉ごときの風下に立たねばならぬ!確かに今回の戦では敗北を喫したが、奇跡は何度も起こらない。寝言も大概にしろ」
勇斗「・・・・」

フェリシア「貴女こそ寝言は大概にした方がよいですよ?」
リアーネ「・・・なに?」
フェリシア「一体いつの話をしているのかと。確かに以前までは我らは〈〈犬〉〉だったのかもしれません。しかし我らはお兄様の手で生まれ変わりました、強く逞しい〈〈狼〉〉へと」
「お兄様率いる限り敵ではありませんわ。鈍重な〈〈豚〉〉など」
リアーネ「!?――――ッ、そんな貧相なヤツがどれほどの者だ!?」

その時、リアーネを捕らえた銀髪の少女、ルーネが側にあった机を拳で砕いた。
ルーネ「・・・口を慎め、父上への侮辱は許さん」
リアーネ「・・・ッ」
ルーネ「貴様も若くして宗主となったからどれ程かと思えば・・・これでは父上の足下にも及ばん」
フェリシア「まあルーネ、比べること自体お兄様に対して失礼ですわ」
ルーネ「・・・それは同感だ」
リアーネ「ぐっ・・・っ、ぐうう・・・っ」
フェリシア「・・・あら。そんな風に唸っているとどちらが犬か分かりませんわね」
ルーネ「そうだな。どうせなら「ぶーぶー」とでも鳴くのがお似合いだろ。豚だけに」
リアーネ「な・・・!?おのれっ、なめるかっ!」
勇斗「控えろ二人とも!!」
「彼女は曲がりなりにも〈〈角〉〉の宗主だ、無礼な口は慎め」
フェリシア・ルーネ「「はっ」」
リアーネ「・・・・」

勇斗「女どもが失礼したな、〈〈角〉〉の宗主殿。まったく子分のしつけがなってなくて申し訳ない」
リアーネ「・・・いやボクも、〈〈犬〉〉とか言ってすまなかったな」
勇斗「話を戻そう、どこまで話したかな」
「そう、子分の話だ」
リアーネ「・・・なる気はないと言ったぞ」
勇斗「・・・・ふむ、では妹分ならどうだ?」

リアーネ(―――駄目だ)
(断固拒否だ、それしかないのは判っているのに・・・・)

リアーネ(この世界、ユグドラシルでは宗主が氏族の人間すべての「親」であり、氏族はその子弟である)
(「誓杯」、その神聖な儀式により宗主と子弟は固い絆で結ばれ、宗主は子分や弟分を慈しみ、子分や弟分は宗主は親分や兄貴分として敬う。こうして築かれた「杯の親子関係」は実の親子関係よりも重視され、一度受けた杯に背くことは絶対のタブーとされる)
(つまり我らが〈〈狼〉〉の宗主と杯を交わし師弟関係を結べば、滅多な事ではこいつには逆らえなくなってしまう・・・だからこそ安易に他氏族からの杯は受けない、受けるはずがない――――・・・なのに)
(なぜ、言葉が出てこない――――・・・)


〈〈角〉〉の高官「〈〈狼〉〉が隆盛を誇っていたのはせいぜい3~4代前までのこと。今や落ちぶれた弱小民族です。さらに〈〈爪〉〉との争いで兵は疲弊してるのことです」
リアーネ「―――現在の宗主もどこの馬の骨と知れない16歳の少年・・・なのだな」
〈〈角〉〉の高官「はい我々の勝利は確たるものかと、姫様」
リアーネ「そうは言えど戦には万全を期す。兵を集めろ!」

リアーネ(〈〈角〉〉の兵は〈〈狼〉〉の倍以上。たやすく勝利を収めるはずの戦は完膚なきまでの敗北に終わった)
(・・・我々は、とんでもない見込み違いをしていたとでも言うのか――――?)
「妹分か・・・?」
勇斗「譲歩はこれが最初で最後だ」
リアーネ「~~~っ。ううっ、だが・・・」
(よく考えろ、〈〈犬〉〉ごときに従うのか・・・?おめおめと妹分になり国へ戻れば、
自分の命惜しさに国を売ったなどと謗られるだろう。それならいっそ死んだ方がマシだ―――)
「・・・・や、やはり我ら〈〈角〉〉は〈〈狼〉〉の風下には――――・・・」

勇斗「そうか、ならば仕方ない。お前たちをヴァンの二の舞にしてやろう」
リアーネ「!?、街を焼き払うと言うのか!?」
ルーネ「さすがに知っていたか」
フェリシア「ヴァン―――あの小さな街は焼き払われ、住人は女子供の別なく一人残らず虐殺された。それを命じたのがお兄様ですわ。眉ひとつ動かすことなく・・・・」
勇斗「俺の盃を受けんというなら・・・俺は・・・俺に逆らうヤツに容赦するつもりはない」
「さあ、どうする?早く決めろ」
「俺はそう、気は長くない」
リアーネ「―――――~~~~っ」
「・・・・・た・・・分かった。わかったよ!妹分になる!だが子分にはならないからな!あくまで妹分だからな!」

こうして、〈〈角〉〉は〈〈狼〉〉の傘下に入ることになった。

リアーネが天幕から出ていった。

フェリシア「・・ふふっ、その姿ではまさか、近隣に雷名を轟かす「悪名高き狼」とは誰も思いませんでしょうね」
勇斗「そりゃ疲れるっての・・・これが本当の、俺なんだから」
勇斗が玉座からずれ落ちて、床にへたり込んだ。




(続く)

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最終更新:2019年04月15日 00:26