マシン帝国バラノイアの月面基地。
皇帝バッカスフンドのもと、工場で次々にマシン獣が製造されている。
バッカスフンド「もっともっと、ペースを上げろぉ! 出来損ないはブッ潰せ! マシン・エリートだけが、我が帝国で生きることができるのだぁ!! つまらぬ感情を持つマシンなど、生きる資格はない!」
その一方、出来損ないのマシン獣の残骸が、次々にスクラップ場に廃棄されてゆく。
落雷が轟き、スクラップが寄せ集まり、1体の、歪な人型のマシン獣の姿を成してゆく。
そのマシン獣が、バッカスフンドのもとに現れる。
バッカスフンド「貴様は!?」
マシン獣「なぜ捨てた? なぜ殺した!?」
バッカスフンド「何ぃ!?」
バッカスフンドはおもむろに、杖でマシン獣を叩きのめす。
マシン獣がバッカスフンドに槍を振るうものの、まったく歯が立たない。
マシン獣「俺は貴様が捨てた、数多くのスクラップから生まれた。マシンたちの怨念が俺を造った!」
バッカスフンド「何を偉そうに!? スクラップならスクラップらしく、おとなしくしていろぉ!」
マシン獣「俺が再び眠るのは、復讐を終えたとき!」
バッカスフンド「落ちこぼれの分際で皇帝に歯向かうとはな。宇宙の塵となるがいい! 身の程知らずが! 死ねぇぇ!!」
一際強力な攻撃で、マシン獣は吹っ飛ばされ、宇宙へと放逐される。
マシン獣「俺は死なん! 死なんぞぉ!!」
地球上。
遊園地のベンチに、超力戦隊オーレンジャーのオーブルーこと三田裕司が佇んでいる。
そばではカップルが、楽しそうに談笑している。
裕司「あ~ぁ、せっかくのオフだっていうのに。俺もガーフルレンド、欲しいよなぁ……」
1匹の犬が、裕司のそばにやって来て、鳴き声をあげる。
裕司「おっ、よしよし。どうした? お前も1人ぼっちなのか?」
そこへ通信が入る。
裕司「こちら、裕司」
通信『中央エネルギーセンターが襲われた模様。至急、現場に急行せよ』
裕司「了解!」
裕司が愛車のバイク・ブルージェッターに跨ると、先ほどの犬が追いかけてくる。
裕司「しょうがねぇな」
中央エネルギーセンター。
あのマシン獣が電源室から、電気エネルギーを奪っている。
マシン獣「パワーレベル2、3…… 7…… 駄目だ。この程度のエネルギーでは、バッカスフンドには勝てん」
裕司の変身したオーブルーが、エネルギーセンターに到着する。
ブルー「ここにいろよ」
オーブルーは犬を残し、センターへ。
職員たちが倒れている。
ブルー「気絶してるだけだ」
センター内にいるマシン獣を、オーブルーが見つける。
ブルー「貴様、バラノイア!」
オーレンジャーのオーレッドたち4人も駆けつける。
レッド「オーレッド!」
グリーン「オーグリーン!」
ピンク「オーピンク!」
イエロー「オーイエロー!」
マシン獣「どけ! 貴様たちに用はない」
ピンク「とぼけないで! エネルギーセンターを狙うなんて、見え見えの作戦じゃない、バラノイア!」
マシン獣「違う! 俺はバッカスフンドを狙う者。バラノイアではない!」
マシン獣が逃走する。
レッド「待てぇ!」
オーレンジャーたちがマシン獣を追うが、見失ってしまう。
ブルー「しかし、何者なんだ? 奴は。『バッカスフンドを狙っている』と言っていたが」
グリーン「我々を惑わすために、適当なことを言ったんじゃないですか?」
ブルー「だとしたら、思いっきり汚ねぇ野郎だぜ」
犬の鳴き声がする。
ブルー「あっ、ジロー!」
ピンク「ジロー?」
ブルー「捨て犬なんだ。さっき拾ったんだよ」
裕司がジローと名付けたその犬が、車道に迷い出る。
トラックが走って来る。
危うく轢かれそうになるジローを、先のマシン獣が救う。
変身を解いた裕司が、ジローを捜し回る。
裕司「ジロー! ジロー!」
マシン獣がジローを抱いている姿を、裕司が見つける。
ジローを愛でるその仕草に、思わず裕司の頬が緩む。
裕司「驚いたぜ。ロボットのくせに、情けがあるんだな」
マシン獣「人間にかける情けはない」
裕司「何!?」
マシン獣「少しでも欠陥のあるロボットを、バッカスフンドは数多く処分した。その処分されたスクラップから、俺は生まれたのだ。俺は憎い! バッカスフンドが!」
裕司「えっ?」
マシン獣「俺は人間に興味はない」
マシン獣がジローを放し、ジローが裕司に駆け寄る。
裕司「良かったな、ジロー」
裕司が視線を戻すと、すでにマシン獣は姿を消している。
(マシン獣『俺は憎い! バッカスフンドが!』)
一方、バラノイア基地のバッカスフンドと、執事のアチャ。
アチャ「あのスクラップ野郎、まだ生きていたとは!? 生意気なぁ!」
バッカスフンド「奴の存在はバラノイア帝国の恥。抹殺せよ!」
アチャ「いえいえ、ただ殺しては面白くありません。奴の処分は、この私にお任せを」
地球上では、今度は関東エネルギーセンターに、マシン獣が現れている。
警備員「中央エネルギーセンターを襲ったマシン獣だぁ!」
警備員たちが、マシン獣を取り囲む。
警備員「止れ! 止まらんと撃つぞ!」
マシン獣「エネルギーを…… もっとエネルギーを!」
警備員「撃てぇ!」
警備員たちが一斉に発砲する。
マシン獣「うおぉぉ──っ!!」
マシン獣は抵抗もせずに銃弾を浴び続け、ガックリと膝を突く。
警備員「まだ動いているぞ!? 撃て、撃てぇ!」
マシン獣が銃弾を浴び続け、倒れる。
警備員たちはなおもマシン獣を取り囲み、銃を突きつける。
そこへ、裕司が駆けつける。
裕司「やめろぉ! やめるんだ! オーレンジャーの三田裕司だ」
警備員「なぜ、こいつを庇うんですか!? バラノイアですよ!」
裕司「違う! こいつは…… 違うんだ!」
裕司がマシン獣を助け起こし、去ってゆく。
裕司「しっかりしろ。しっかりするんだ」
裕司はマシン獣をどうにか、人里離れた場所まで連れてゆく。
マシン獣は全身に傷を負い、煙を吹き出している。
裕司「これは…… よし」
変身ブレスレット・パワーブレスから、そのエネルギー源であるストレージクリスタルを外し、マシン獣に握らせる。
裕司「受け取れ、俺の超力エネルギーを」
裕司はマシン獣の手を握り、必死に思念を込める。
マシン獣の傷が、次第に治癒してゆく。
やがて、マシン獣の霞んだ視界に、汗まみれで息を切らす裕司の姿が映る。
マシン獣「助けたのか……? 俺を」
裕司「お前だって、ジローを助けてくれた。それにさっきだって、人間を傷つけなかったじゃないか」
マシン獣「俺の敵はバッカスフンド1人。他の者は傷つけん。それが、俺の誇りだ」
裕司「戦おうぜ。一緒に! 俺たちとお前、敵は一緒だ!」
裕司の掲げる拳を、マシン獣がしっかりと握り返す。
マシン獣「お前のような者がいるとは…… 見直さなければならないな。人間について」
裕司も頷き返す。
だがその場をぶち壊すように、銃撃が炸裂する。
アチャが、雑兵のバーロ兵たちを引き連れて現れる。
アチャ「友情ごっこはそこまでです! スクラップ野郎、バッカスフンド様の命により、お前に名前を与えましょう。お前は『バラリベンジャー』! バラノイア帝国のために、働きなさい」
マシン獣「無駄だぁ! バラノイアに就くくらいなら、死を選ぶ!」
アチャ「むぅ~っ、バーロ兵!」
バーロ兵たちが一斉に襲いかかり、マシン獣──バラリベンジャーが、裕司と共に応戦する。
裕司「超力変身!」「オーブルー!」
裕司がオーブルーに変身する。
オーレッドたち他のオーレンジャー4人も駆けつける。
一同が勢いづくが、それも束の間、一際激しい攻撃が炸裂する。
なんと、皇帝バッカスフンドが自ら地上に降り立つ。
レッド「バッカスフンド!?」
バッカスフンドの激しい攻撃が炸裂し、バラリベンジャーが大きくふっ飛ばされる。
バッカスフンド「今だ! アチャ、やれ!」
バーロ兵たちがバラリベンジャーを取押え、その顔に、アチャが小さな機械を取り付ける。
ブルー「あっ、バラリベンジャー!?」
アチャ「見たか! このコントローラーを付けられたものは、殺人マシンと化す!」
バッカスフンド「やれぃ! バラリベンジャー、オーレンジャーを倒せ!」
バラリベンジャー「うぅっ…… おのれぇ、バッカスフンド!」
ブルー「バラリベンジャー!?」
バラリベンジャーは苦悶の声を漏らしつつも、必死にバッカスフンドに挑もうとする。
バッカスフンド「何をしている、アチャ!? コントローラーのパワーを上げろ!」
アチャ「はっ!」
バラリベンジャー「おぉ!? おぉ…… おぉっ!?」
ブルー「バラリベンジャー!?」
バラリベンジャーが理性を失い、オーレンジャーたちを攻撃し始める。
ブルー「やめろ、目を覚ますんだ! お前の敵は、バッカスフンドなんだ!」
バラリベンジャーの攻撃は、なおも続く。
ブルー「やめろおぉ! 目を覚ますんだぁ!」
レッド「無駄だ! 奴は所詮、バラノイアなんだ!」
ブルー「違う!! 違う、違うんだぁ!!」
攻撃しようとするレッドを、ブルーが制する。
さらなるバラリベンジャーの攻撃で、レッドたち4人が吹き飛ばされる。
ブルー「みんなぁ!?」
そしてバラリベンジャーは、ブルーにも矛先を向ける。
抵抗できないブルーに、バラリベンジャーの槍が、深々と突き立てられる。
(バラリベンジャー『俺の敵はバッカスフンド1人。他の者は傷つけん。それが、俺の誇りだ』)
ブルー「ぐぅっ……! お前の誇り、俺が…… この俺が守ってやる!!」
ブルーが決意を固めて、バラリベンジャーの槍を胴から引き抜く。
ブルー「激突ローリングボンバー!!」「稲妻・超力トンファ!!」
ブルーの連続攻撃の前に、バラリベンジャーが大きく後ずさる。
レッド「出動、スカイフェニックス!」「ジャイアントローラー、投下!」
レッドの愛機スカイフェニックスから、必殺武器のジャイアントローラーが投下される。
ブルー「隊長、俺にやらせてください!」
レッド「駄目だ、危険すぎる」
ブルー「しかし、隊長! あいつだけは、俺に!」
レッド「……」
レッドが頷く。
レッドしか乗り込むことのできないジャイアントローラーに、ブルーが乗り込む。
ブルー「ジャイアントローラー・シュート!!」「許せ、バラリベンジャー! アタ──ック!!」
ブルーを乗せたジャイアントローラーが、火の玉と化してバラリベンジャーに炸裂。
大爆発──!
ブルーもまた衝撃で吹っ飛ばされて地面に叩きつけられ、変身を解除される。
裕司「うわああぁっ! うぅっ、ぐおっ!」
変身を解いた吾郎隊長たちが駆け寄る。
吾郎たち「裕司!」「裕司!」「しっかりして!」「大丈夫か!?」
裕司が傷ついた体を引きずりつつ、倒れているバラリベンジャーに駆け寄る。
動かなくなったバラリベンジャーを前にし、裕司は悲痛な面持ちで、言葉を失う。
バラリベンジャー「何を悲しむ? お前たちは、正しいことをしたのだ。俺の誇りを、守ってくれた……」
裕司「……」
バラリベンジャー「俺の魂は、お前たちと共に…… いつか、お前たちがバッカスフンドを倒すまで……」
一同が頷く。
裕司「あぁ…… 必ず!」
吾郎「必ず……」
バラリベンジャー「俺は、スクラップから生まれた…… そして今、スクラップに還る……」
ボロボロになったバラリベンジャーが、自分の体を引きずるように立ち上がり、去ってゆく。
裕司が跡を追おうとするが、吾郎が制し、静かに首を横に振る。
無人のスクラップ場。
バラリベンジャーがやって来る。
犬のジローが駆けて来る。
バラリベンジャーが震える手で、愛おしそうにジローを撫でる。
やがて、その手がピタリと止まる。
指先がボロボロと崩れ、腕が崩れ、そして体がバラバラに崩れてゆく。
元のスクラップ、機械の残骸と化したバラリベンジャーは、もう動かない。
ジローの悲しげな鳴き声が、乾いた風の吹く中に響く。
最終更新:2019年05月16日 21:09