とある神殿。
巫女の少女が舞うと、一枚の紙が落ちてきた。
巫女はそれを受け取り・・・
巫女「!」
巫女は兜を纏った騎士に、震えながら、ある事を告げようとしていた。
巫女「あ・・・あッ、アクセル・グランツ様・・・・・・大変・・・大変申し上げにくいのですが・・・」
巫女が告げようとしていたのは、先ほど受け取った紙に書かれた「職業」だった。
「今日より貴方様は初級職《運び屋》になられました」
アクセル「初級職の《運び屋》ねえ」
巫女は土下座した。
巫女「はい!転職の神はアクセル様に《運び屋》の適正を見出されてしまいました・・・職業は他に幾千もあるというのに、本当に申し訳ありません・・・・!」
アクセル「了解了解。謝る必要もないから。業務のほうどうもありがとうよ。転職神殿の巫女さん」
巫女「・・・・・アクセル様は取り乱さないのですね。最上級職の《竜騎士》からとんでもないランクダウンをなされたというのに・・」
アクセル「まあ、未練はないしな」
アクセルが兜を脱いだ。
アクセル「むしろさっぱりしたぜ。ようやくこの竜騎士王の兜を脱げたんだからな」
巫女「本当に最上級の職業である《竜騎士》の職業を捨てられてしまうのですか・・・・?《竜騎士》から《運び屋》になるなんて聞いた事ありません」
アクセル「そうなのか?」
アクセルは残る鎧も脱いでいく。
巫女「はい。そもそも《竜騎士》をつかさどる竜神様を殴り倒してしまったから《竜騎士》でいられなくなるとか、前代未聞なのですが」
アクセル「仕方ないだろう、魔王をとっちめるのに必要だったんだから」
巫女「・・・・お噂では【竜騎士王の兜】を用いていきなり《竜騎士》になられたそうで?王家所有の古代の秘宝ですよね・・・」
アクセル「そうそう、これがその兜。で、俺の職業は《運び屋》だっけ?」
巫女「ああっ・・・」
巫女が倒れた。
アクセル(そんなに駄目な職業なのか!?)
巫女「スキルは便利なのですが、能力値が・・・」
アクセル「そんなに落ち込むほど低いのか。転職後のスキルやステータス表ってどこで見るんだ?」
巫女「こちらです」
巫女がアクセルに紙を渡した。
アクセル「スキルはほとんど覚えてないんだな。このレベル1スキルの『輸送袋』って効果はどんなの―――――」
アクセルの横に、ある袋が出てきた。
巫女「その袋の中は異次元になっておりまして、見た目以上にモノが入ります。以前、神殿所属の《運び屋》の方が水を入れて計測してみたところ、内部空間がおよそ数十倍に拡張されているとの事でした」
アクセル「ほー、竜騎士のスキルよりも日常で使い勝手が良さそうだ、で、ステータスが・・・見えないんだが」
巫女「え・・・?あれ本当ですね。な、なんでしょうかこれは・・・・アクセル様の転職が前代未聞ですから転職の神様もミスをされたんでしょうかな・・・」
アクセル「でも一つだけわかったけどさ、幸運力がEってのはなかなかだな」
巫女「ですが・・・竜騎士時代は、すべてがSランクだったじゃありませんか」
「あんなに素晴らしかったのに・・・アクセル様はプラス思考すぎますよ・・・」
アクセル「まあなんだ?昔の事を気にしてもしかたないだろ。それに、こっちの職業はそこまで戦う必要もないしさ。戦闘は嫌いじゃないが好き好んでやりたくもない」
「静かに生きられるならそれが一番だと思うしさ、だから巫女さん、君がそんな切なそうな顔をする必要はないよ」
巫女「そう・・・ですか」
アクセルと巫女が神殿の外に出た。
アクセル「さて、転職もしたしスキル表ももらった事だし、俺は街に向かうとするよ」
巫女「馬車をお出ししましょうか?」
アクセル「そこまで気を遣わないでも良いって。それに付き添いもいるしな」
巫女「付き添い?」
アクセル「終わったぞーバーゼリア!」
雲を突き抜けて、巨大な竜がやってきた。
バーゼリア「待っていたよ、ご主人・・・・!」
巫女「その方が、アクセル様が竜騎士時代に乗っていた女竜王様ですか?」
アクセル「竜王って言ってもまだ子供だけどな。じゃ、俺は帰るから。またな、巫女さん」
巫女「はい。訂正したステータス表は後日お届けします。また近々!」
アクセル「うん。じゃ行こうぜ、バーゼリア」
バーゼリア「了解!」
アクセルとバーゼリアが街へ降りた。
バーゼリア「ねえねえご主人。そろそろ人になっていい?疲れちゃった」
アクセル「そんなに苦労するなら最初から人の姿で来れば良かったじゃない」
バーゼリア「うーん、でもさ・・・ご主人の竜騎士最後の日なんだから、しっかり竜の姿で見届けたかったんだ」
バーゼリアが人間の、メリハリのある体形の少女の姿になった。
バーゼリア「ふい———」
「変身終了。あれ?ご主人、ポケット光ってるよ」
アクセル「本当だ。これは・・・・まさか・・・・?」
アクセルがポケットに入れていたスキル表が書き換わっていた。
【規定距離移動完了 条件達成 《運び屋》レベルアップ!】
『輸送袋グレ―ド2効果 輸送袋内部の100%拡張』
アクセル「やっぱりレベルアップだったのか」
バーゼリア「わあい。こんなにすぐに《運び屋》として成長しちゃうなんて、さすがご主人!」
アクセル「いや、ちょっと歩いただけなんだけどな」
「———というか、話には聞いていたけれどさ、初級職のレベルアップってのはめちゃくちゃ早いぞ、これ」
(前職の竜騎士は最上級職だけあってレベル1からかなり厳しい条件を課されていたけれども・・・・)
「規定距離を移動するだけで良いってこれは楽すぎるぞ・・・・・」
「———なんだかどんどん新しいスキルが得られると思うとやる気も出るな。この調子でレベルを上げていくか。とりあえず今日は散歩って感じさ」
バーゼリア「うん。ボクも協力したいから、何か手伝える事があったら言ってね、ご主人!」
アクセルとバーゼリアは自分たちの屋敷に戻った。
「ただいま—、遠回りして汗かいちゃった。ご主人、一緒にお風呂に・・・」
アクセル「入らない、他にやる事あるからな」
バーゼリア「じゃあ先に入ってるね」
バーゼリアが服を脱ぎ捨て、風呂へ入った。
バーゼリア「は———気持ち良い———」
アクセル「さてと」
(まずはスキル【輸送袋】の容量チェックだな)
(見た目は普通のリュックのこの輸送袋に、何がどれくらい収納できるのか調べておかないとな)
「輸送袋より大きい物でも・・・余裕だな」
アクセル「すごい。内部は完全に異次元空間だ。家中のアイテムをすべて詰め込んでもまだまだ余裕があるとは・・・・・」
(入れる物がなくなった)
机の上に、メイド服が残っていた。
アクセル「・・・・メイド服?いつの間にこんな物を買ったんだ」
(まあいいや)
「そういえばさっき、他の運び屋が水を入れて実験したとか言ってたな」
巫女「以前、神殿所属《運び屋》の方が水を入れて計測してみたところ、内部空間がおよそ数十倍に拡張されているとの事でした」
アクセル「よし、風呂場で水を入れてみよう」
アクセルが風呂場に行くと、そこではまだバーゼリアが入浴していた。
バーゼリア「はうあっ!?ご主人!どうしたの!?」
アクセル「まだ入ってたのか、のぼせるぞ」
バーゼリア「きゃ———、ご主人を待ってたんだよう」
バーゼリアはアクセルに抱き着いた。
バーゼリア「巫女さんが言ってた実験を俺もやりたいんだけど、良いか?」
バーゼリア「実験?ボクの残り湯で何をするの?」
アクセル「マジかこれ・・・」
バーゼリア「ご主人」
アクセル「ああ、浴槽いっぱいの水が五杯入るとは思わなんだ。容量すげえな」
アクセルは、輸送袋からメイド服を取り出した。
バーゼリア「あ、ボクのメイド服。水を入れたのに濡れてないね」
アクセル「入れた荷物がお互いに干渉する事はないのか。その上、入れた分の重さを感じる事もない」
バーゼリア「そのお湯、何に使うの?」
アクセル(入っていた水は綺麗なままだから衛生面でも問題はなさそうだ。保存容器を使って飲料水を入れれば・・・)
「飲めるな」
バーゼリア「飲むの!?」
バーゼリア「ふい——さっぱりした。あ!ご主人、スキル表が光ってるよ!」
アクセル「え、またか?」
規定移動完了 条件達成———《運び屋》レベルアップ!
輸送袋グレード3 内部100%拡張 保冷・保温機能追加
アクセル「おいおい、もうレベル3になったぞ」
バーゼリア「いやあ、《運び屋》としての成長率とんでもないね、ご主人」
「もしかして天職なんじゃない?」
アクセル「一切仕事をしてないのに天職って言われるのは変な気がするけぢな。いやまあ、天から授かった職だけれどもさ」
(水と食料は一か月分程入る。保冷・保温機能が付いてくれたので生物や温かい物も入れられるかもしれない)
「更に旅をしやすいモノになったな」
バーゼリア「旅・・・・旅かあ、良いねえ。ボク、ご主人に今までお世話になったから、逆にご主人をお世話しながら旅をしたいな!そのために家事も覚えたし!」
アクセル「料理はからっきしで俺任せだけどな」
バーゼリア「そ、それはこれから覚えるから!上手くなってみせるから待っててよ、ご主人!」
アクセル「はいはい、まあ楽しみにしているよ」
その頃、神殿には無数の紙が降り注いでいた。
巫女「や、やっと・・・アクセル様のステータス表の掲示が届きましたか・・・!」
「・・・・今までこんな事はなかったのに・・・・・・転職の神もミスをする事があるんだなあ」
「・・・・・・これは・・・・・!?」
(本来転職をすれば能力は下がるもの———・・・ましてや・・・《運び屋》は初級で能力値は低いはずなのに!!)
「転職の神様、とんでもないビギナー職の方が生まれてしまいましたよ・・・・・・」
訂正版
アクセル・グランツ
《竜騎士》→卒業→《運び屋》
レベル1
筋力 S
魔力 S
体力 SS
速力 SS
異常耐性力 SS
幸運力 EX
スキル;輸送袋
最終更新:2019年09月06日 23:18