夜。
女子中学生、日出佳乃は腰を抜かしていた。
佳乃「うわっ・・・」
佳乃の前では、眼鏡をかけた女性に、
鎌やクワを構えた女性達が迫っていた。
女性(眼鏡)「くっ・・・」
佳乃が目をつむったその時———
炎の中から、甲冑を纏い、大剣を抱えた赤髪の女性が出てきた。
女性(赤髪)「非情の大剣!」
「・・・ふっ、はあ―――っ!」
赤髪の女性が大剣を振るい、炎の斬撃を放ち、鎌やクワを構えた女性達を吹き飛ばした。
そして、赤髪の女性は佳乃に話しかけた。
女性(赤髪)「おい、貴様、何者だ?」
佳乃(今思えば、これがあたしの災難の始まりでした、多分・・・)
現代日本。
佳乃(私は小さいころから、色々トラブルに巻き込まれることが多くって…)
満員電車で佳乃が乗客に押されていた。
佳乃「苦しい・・・着いた」
電車が駅で止まり、降りる乗客たちのカバンが佳乃の頭にぶっかった。
佳乃「いったた、もう何なのよ・・・」
佳乃「ああ!降ります、降りまーす!」
佳乃が乗客をかき分けて、出ようとしたが入ってきた乗客に中へ押し込まれ、そのまま電車が発車していった
佳乃「また遅刻しちゃう――!」
伊達「織田信長は1534年にこの世に生を受け、まさに戦国動乱時代の・・・」
女性教師の伊達が授業をしている所に、佳乃がこっそりと入った。
佳乃の友達のアケリンが、佳乃に紙切れを渡した。
アケリン「ヒデヨシ。お願い」
佳乃がもう一人の友達のトクニャンに紙切れを渡した。
佳乃「トクニャン」
トクニャン「サンキュー」
佳乃(そーっと、そーっと)
佳乃が自分の席に座った。
佳乃「ふう」
伊達「日出さん」
佳乃「う!」
伊達が佳乃の隣の席に座っていた。
伊達「また、遅刻ですか?」
佳乃「え、えへへへ・・・」
佳乃(でも、まさかあんな事になるなんて、思わなかったんです‥‥)
佳乃は伊達の所に呼び出された。
伊達「どうしてそう、毎日毎日遅刻なの」
佳乃「中々起きられないんです。電車がラッシュですごく混んでて・・・」
伊達「あっ、それ触らないで」
佳乃「えー、伊達先生のケチ」
伊達「ケチじゃありません。じゃあもう一本早い電車に乗ればいいじゃないの」
佳乃「そうなんですけど、今でさえギリなんですよ。これ以上の早起きは無理です!」
伊達「早く寝ればいいでしょ」
佳乃「・・・そ、それはそうなんですけど、夜は色々あることがあるんです」
伊達「色々って?」
佳乃「えっと、アイドルのタマちゃんのブログ見たり、ネットオークションチックしたり、雑誌呼んで研究したり、後友達とメールでしょ。夜はおやつを食べて・・・
伊達「・・・・・」
佳乃「そんなこんなで、あっという間に時間が経っちゃうんです」
伊達「日出さん。色んなことに興味があるのはいいけど、遊びのことだけじゃなくて、少しは勉強の事も考えて・・・」
佳乃「遊びじゃないです!悪いけど私、お洒落とお菓子には命懸けてますから!遊びじゃないんです!」
伊達「はいはい、分かったわ」
佳乃「本当ですから、伊達先生」
伊達「あのね、今度の試験で赤点取ったら、夏休みまでず—————っと補修授業受けてもらうことになるのよ!」
佳乃「マジですか?」
伊達「マジです。さ、分かったら早く帰って勉強なさい」
佳乃「ふに~」
伊達「先生、今日用事があるから、あんまり時間ないのよ」
佳乃「え—、生徒が困ってるのに先生冷たい」
伊達「まずは自分で頑張りなさい。それでも駄目なら手助けしてあげるかもね」
佳乃「ふにゅ~、アケリンどうしよう」
アケリン「どうしようだって、試験勉強しないと仕方ないじゃん」
トクニャン「せめて豊臣秀吉だけでもちゃんと覚えておきなよ。ヒデヨシのあだ名が泣くよ」
佳乃「無理だよトクニャン。それだって、豊臣秀吉とか言う人が好きで付いたんじゃないしさ」
アケリン「秀吉って・・・確かに、日出佳乃だから、ヒデヨシって何のひねりも無いしね」
トクニャン「でもさ、とにかく本気で頑張んないとまずくない?」
佳乃「うう――、私のフリーでラブリーな放課後が・・・どうしよう・・・」
そうぼやく佳乃の横を、上機嫌な男が通り過ぎた。
男「神頼みでバトロワリーチ!神様お願いしてからっねー」
佳乃「神頼み、ねえ・・・・願いが叶う、のかなあ」
丁度、佳乃の目の前に神社があった。
佳乃は石段を登っていく。
佳乃「長い・・・きつい・・・なんかめっちゃ縁起わるぅ・・・しかも暗っ・・・ホラー映画みたい・・・」
佳乃は神社に着いた。
佳乃「着いた・・・けど、やっぱホラー?何か、だぁれもいないし、あ、おみくじ・・・」
佳乃「まあ神頼みと言うよりは、運試し・・・・」
佳乃は400円のストラップを取った。
佳乃「あ、これでいいじゃん。ふーん、あ、お金お金」
ひょうたんのストラップが佳乃の携帯に付けられた。
佳乃「よし!完璧!これで補修は無いね!あ、まだお参りしてないや・・・」
佳乃のサイフには、1円玉しか無かった。
佳乃「さて、どうしたものか・・今月の残高は一円なり・・・やっぱ少なすぎるかな~」
今日はこれだけしかないので、後は出世払いで・・・ん、あってるのかな?」
その1円玉を佳乃は落としてしまった。
佳乃「う、うっそ!私の放課後ライフが~」
佳乃は1円玉を拾うためにかがんだが、その拍子に奥の様子が見えた。
佳乃「何だろう?」
神社の中で、誰かが座禅を組んでいて、その周りに光の陣が浮かんでいた。
佳乃「誰かいる・・・何これ?すごい・・・」
佳乃が中をのぞき込んだ拍子に、カバンが扉に当たって音を立てた。
佳乃「あ・・・」
?「え?」
佳乃「何!?」
佳乃が慌てて飛び退いたが、下に転がっていたパチンコ玉を踏んでしまった。
佳乃「わわわわ!」
佳乃が賽銭箱に倒れ込み、その拍子に鈴の紐を掴んでしまい、
鈴が落ちてきた。
佳乃「ひいいいい!」
佳乃は転がって鈴をかわし、神社の中に入った。
佳乃「あわわわわ・・・・」
よろける佳乃を神社の中に居た人が支えたが、
光の陣がより強い光を放ちだし――――
?「しまった!」
光の陣が佳乃達を包み込み、次の瞬間、二人の姿は消え失せていた。
その後、佳乃は森の中で目覚めた。
佳乃「あれ・・・寝てた・・・ここ、公園・・・じゃないな。森?・・・何で?山・・・?あ、何だろう・・・焚き火かな・・・?・・・じゃないっ!?」
佳乃の前で、建物が燃えていた。
佳乃「火事!?消防車!119番!電話!あっ・・・」
佳乃は倒れた人達と倒れた人を抱える女性を見つけた。
佳乃「人だ!」
佳乃がその人達の所に降りてきた。
佳乃「すみませ—ん!大丈夫ですか!早く消防車・・・あ!」
その眼鏡をかけた女性は、アケリンとそっくりの顔をしていた。
佳乃「アケリン!良かった!何か神社いたら訳分かんないことになってさ・・・どうなっての、ここ!何か燃えてるし!あっ消防車呼んだ?アケリン!」
女性(眼鏡)「何訳の分からないことを言ってる!貴様など知らん!」
佳乃「ちょっと!今そういう冗談、全然っ笑えないから!」
女性(眼鏡)「!」
眼鏡の女性が佳乃を突き飛ばし、そこへクワが飛んできた。
女性(眼鏡)「曲者!」
クワや鎌を抱えた女性たちが佳乃と眼鏡の女性の前に出てきた。
佳乃「何この人たち!放火魔?強盗?ねえ!」
女性(眼鏡)「話はあとだ!」
「この村を襲ったのは貴様らか!」
女性達は答えずに、得物を構えた。
眼鏡の女性と、襲ってきた女性達が相対し―――
そして、時間は冒頭に戻り、襲ってきた女性達は赤髪の女性に撃退された。
女性(眼鏡)「お館様!」
女性(赤髪)「おい」
佳乃「あ・・・」
女性(赤髪)「貴様何者だ?」
佳乃「え?あ、あたし!?あたしは日出、佳乃とじゃなくて、うたっておりまする・・・
あ、えっと・・・ヒデヨシって呼ばれてます」
女性(赤髪)「・・・ヒデヨシか、よい名だ」
とある城。
厠から佳乃が出てきた。
佳乃「今時水洗じゃないって・・・取り合えず言われるままに付いてきちゃったけど・・・
暗ぁ・・・それにしても何ここ?何で電気使わないのかな?省エネ?
雰囲気あるけど、ろうそくって目悪くなりそー、何かすっごく大きいお屋敷なのにさー」
佳乃が入った部屋で、眼鏡の女性と赤髪の女性が話していた。
女性(眼鏡)「此度のこと、真に申し訳ありません」
女性(赤髪)「おぬしのせいではない。気に病むな」
女性(眼鏡)「はっ」
佳乃(一体どういうこと?アケリンのそっくりさんと、もう一人の人もなんか変だし)
(そっか、コスプレイヤーだ。しかもかなりなりきりの。そうだよねー、家までこんな風にしちゃうんなんてすごいな。あ、つか、ここどこだろ?)
「えっと、地図、地図っと・・・」
佳乃がカバンから携帯を取り出した。
女性(赤髪)「何だそれは?」
佳乃「何だって、携帯ですよ。あっ、これ最新機種なんですよね。今GPS使って場所を・・・ってあれ、ここ圏外だ」
女性(赤髪)「けんがい?」
佳乃「ん———、電波がですねー」
女性(赤髪)「でんぱ?先ほどから何、訳の分からないことを言ってる」
佳乃「えっとですね、やっぱ電波来てないですね」
女性(赤髪)「だから、でんぱ、とはいかようなものか」
佳乃「ほら。圏外だからアンテナ一本も立ってないじゃないですか」
女性(赤髪)「あ、あんてな?」
佳乃「ほら、これ、圏外でしょ。ここって、電波状態悪すぎませんか?」
女性(赤髪)「よこせ!」
赤髪の女性が佳乃から携帯をひったくった。
女性(赤髪)「こういうものは、こうしてしまえば!」
赤髪の女性が、甲冑の右膝に携帯を叩きつける。
佳乃「何するんですか!」
女性(赤髪)「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス。役に立たぬのなら壊すまでのこと!」
赤髪の女性が大剣を振り上げたが、佳乃が滑り込んで携帯を拾った。
佳乃「壊れちゃいますから!立たぬなら立つ場所へと移動しようです・・・」
女性(赤髪)「ほう」
女性(眼鏡)「貴様!親方様に向かって無礼だぞ!」
女性(赤髪)「まあ、待て。それ程までに大切なものなのか?」
佳乃「そりゃあもう・・・これが無いと生きていけないです・・・」
女性(赤髪)「そうであったか・・・」
佳乃「うーん、やっぱ立たないなー、ほれほれ立て立て—、ほら言う事聞け—」
女性(眼鏡)「おい、貴様。その、けいたいとやらは役に立ちそうなのか?」
佳乃「あー駄目みたいです。全然アンテナ立たないし」
女性(眼鏡)「お館様、もういいでしょう。このものを一刻も早く城・・・」
女性(赤髪)「ミツヒデ、儂はこ奴にも手伝わせてはどうかと思う」
ミツヒデ「そんな!あのような素性の知れぬ者を!いくらお館様でも・・・」
女性(赤髪)「ミツヒデ!ここだけで考えるのではなく、たまにはここで感じて動いてみろ」
赤髪の女性は、ミツヒデと呼ばれた眼鏡の女性の胸を指で突いた。
女性(赤髪)「あの者、確かに見た目は面妖だがそれなりに使えそうだ」
ミツヒデ「あの者のどこが・・・」
女性(赤髪)「理由などないわ」
佳乃「え?」
女性(赤髪)「儂の心がそう感じておるのだ」
佳乃「あのー、さっきから当の本人の私を置いてけぼりにして、話が進んでるみたいなんですけど・・・」
ミツヒデ「何だ?」
佳乃「あたし、そろそろ帰りたいんですが・・・」
女性(赤髪)「・・・そうか。ならばしかたないな」
佳乃は外に出た。
佳乃「近所にこんなお城あったっけ・・・落ち着け、落ち着くんだあたし!
えと・・・・確か学校の帰りに神社寄って、開運ストラップ買って・・・・
何か分かんないけどピカっと光って、鈴が落ちてきて・・・
目が覚めたらここにいて・・・」
女性(赤髪)「帰りの足代を与えてやる」
ミツヒデ「ええっ?」
佳乃に渡されたのは、未知の硬貨だった。
佳乃「これがお金・・・それに・・・」
佳乃がカバンから歴史の教科書を出した。
佳乃「織田信長、戦国武将。1543年から・・・」
赤髪の女性とミツヒデが改めて名乗った。
ノブナガ「儂の名は、織田ノブナガじゃ」
ミツヒデ「私は明智ミツヒデだ」
佳乃「え、永禄って?年号って平成じゃないの?」
ミツヒデ「へいせい?なんだそれは?」
佳乃「でも何で女なの?なんかおかしい・・・」
佳乃「真っ暗―、てか駅どこ?帰るったてどこ行きゃいいの?」
「大っきいな・・・・」
佳乃のお腹が鳴った。
佳乃「う、お腹減ったな~、ハンバーガー食べたい・・・
今日はダイエット中止でいいよね。
ポテトもⅬで・・・って、コンビニも何もないじゃん。ホント、ここどこなんだろう?まさか、本当に・・・嘘、だよね・・・うっ・・・・!」
そこへ、白馬に乗ったノブナガが来た。
ノブナガ「どうした?帰ったのではないのか?」
佳乃「そのつもりだったんですけど、何か駅とか無いし、ここ何線通ってんのかも分かんないし・・・つーかぶっちゃけ帰れる気しないし・・・そちらこそ、何でここに?」
ノブナガ「それは・・・その、無事帰れたかと・・・」
佳乃のお腹が鳴った。
ノブナガ「腹が減っておるのか?」
佳乃「あ・・・いや・・・」
城に戻った佳乃に食事が出された。
ノブナガ「どうした?腹が減っていたのではないのか?」
佳乃「あ、いや。ケチャップとかマヨって無いですかね?」
ノブナガ「ん?何か言ったか?」
佳乃「ああ、いえ」
ミツヒデ「時に貴様、親方様の恩義におすがりするそうだな」
佳乃「えっとですね、その帰り方が分かんなくて、おすがりっていうか、お泊りっていうか・・・」
ミツヒデ「とにかく!しばらくここにいるのであろう」
佳乃「はい・・・残念ながら・・・」
ミツヒデ「ならその間、親方様の役に立て!」
佳乃「え?」
ノブナガ「儂の手伝いをせんか?儂は天下を取りたいのだ」
佳乃「天下って?私は何すればいいんですか?」
ノブナガ「甲冑探しだ」
佳乃「はあ?」
真紅の兜が佳乃の前に出された。
ノブナガ「これは代々、わが織田家に伝わってきた兜での」
佳乃「ほ—う」
ノブナガ「今まではただの兜と蔵に打ち捨ててあったのだが、最近この真紅の甲冑の謂れを記す文が儂の元に届いたのだ。そこにはこう書かれていた」
「この真紅の甲冑を纏う武将は必ずや天下を獲れる。
伝説では、真紅の甲冑を纏った武将は神の怒りを買い、命を落とし、甲冑は散逸したという。
その謂れを知った瞬間、儂はこれだと思った。
散逸した甲冑が再びすべて揃えば、かねてからの心願であった天下統一は更に勢いを増し、
この日ノ本をより強固な一枚岩にすることが出来ると」
佳乃(う—ん、何か難しいことばっかでよく分かんなかったけど、んと、アイテムをコンプリートしたいってことだよね、多分。そういえば私もおまけ目当てでついつい買っちゃうってこともあるもんな)
「うん、分かりました。あたしも手伝います」
ミツヒデ「ふん、調子のいい・・・・」
ノブナガ「そうか、期待しておるぞ」
佳乃「はい。えへへへへ」
佳乃は再び厠に入っていた。
佳乃「まっ、帰る方法が見つかるまでお手伝いするってことでいいか。
あのノブナガって人、いい人っぽいし。
色々なんか納得いかないことはあるけど、取り合えず明日考えるってことで。つーか、このトイレ何とかなんないのかな?」
厠から出た佳乃の前に、兜を着けた白い子犬がいた。
佳乃「あっ・・・犬?ふふ、可愛い~何か兜かぶってるし、何か変~」
子犬?「誰だてめえ」
その子犬が喋った。
佳乃「えっ・・・・」
(続く)
最終更新:2019年11月11日 23:33