アールスハイト王国――――
民衆優遇の政策を打ち出し、国力を増大させ、今や世界を代表する大国。
この国では全ての国民に、初等学院から中等学院までの義務教育が施され、
優秀だった物はさらにその上の高等学院に進学する事が許される。
そして数多くある高等学院の中でも「専門高等学院」と呼ばれる特別な学院が3校存在する。
将来の官僚や商会の幹部を育成する「高等経法学院」、
卒業後はそのまま軍隊に入隊し幹部となる「騎士養成士官学院」、
そして優秀な魔法使いを育成し、輩出する「高等魔法学院」
別の私立学院を優秀な成績で卒業したとしても、三大高等学院の卒業生とは明らかに区別されてしまう、それほど特別な学院である。
そんな、名門アールスハイド高等魔法学院にとある天才が入学した。
後に彼は「賢者」と呼ばれる事になる。
メリダ「ダメだよっ。急に何を言い出すかと思ったら、アタシ達の昔話が聞きたいだって」
メリダの元に、シシリーとマリアが来ていた。
シシリー「はいっ」
マリア「特に本には書かれてないお二人の学生時代などを!!」
メリダ「かんべんしてくれよ、そんなこっ恥ずかしい話」
マリア「・・・・はー、やっぱりダメですよねー・・・」
シン「えー、何でだよ、ばあちゃん」
メリダ「!」
シンとオーグ、それにマーリンが帰ってきた。
メリダ「アンタ達が・・・何だい、早かったね」
シン「お土産~」
「オレもじいちゃんとばあちゃんの昔の話聞きたいよ」
シン「ただいま・・・シシリー」
シシリー「おかえりなさい、シン君」
マリア「はーいそこ、いきなり二人の世界に入らないで下さーい」
メリダ「はー・・・まったくアンタ達は・・・」
シン「ごっ、ゴホン・・・・さっきの話の続きなんだけど」
オーグ「はい、ぜひ私もそのお話はお聞きしたいですね、シンとクロードの本の参考になると思うんですよ」
シン「オーグっ」
オーグ「心配するなシン、すでに2巻目の企画も進行中だ。しかも次はラブロマンスものになる予定だ(笑)」
シン「ちょつ待てっ!オーグてめぇー!!」
シシリー「ラッ、ラブロマンス―――――・・・・・・!!」
シン「ちょっ、ちょっとシシリーッ」
マリア「あ~はいはい、ごちそうさまです」
マーリン「・・・・・・・・・アレ、ワシまた空気?」
メリダ「はぁ~わかったよ。ただし学園時代だけだよ!それ以降の話はアンタ達もよく知ってるだろうからね」
シシリー・マリア「「本当ですかっ!?」」
シン「えっ!?」
メリダ「・・・・・とはいえ、何から話したもんか・・・」
メリダが横のマーリンをちらりと見てから、ニヤリと笑った。
メリダ「そうさね、高等魔法学院至上最高の「天才」と呼ばれ―――・・・・」
マーリン「ウォイッ!」
シン達はソファーに座り、うずきながらも話を聞こうとしていた。
メリダ「バカみたいに調子に乗ってた男の話から始めようかね」
マーリン「イヤー、若気の至りじゃ~~~~~~」
アールスハイト高等魔法学院
当時1年だったメリダ=ボーウェンが、庭で誰かを探していた。
メリダ「ウォルフォード君どこなの~、授業とっくに始まってるんだけど。はぁー、何で私が・・・本当・・・どこ」
「んっ!!」
メリダの元に風が吹いた。
その風の吹いてきた方で、木の枝の上に当時1年だったマーリン=ウォルフォードが寝ていた。
メリダ「あ」
マーリン「くぁ~・・・・・」
メリダ「い、いた~~っ!!ウォルフォード君っそんな所で何してるの!授業始まってるんだからねーっ」
マーリン「?」
「なんだよ、ボーウェンか。お前もサボリかよ?」
メリダ「ちっがうわよ!!」
「私だって授業抜けたくなんてなかったわよ」
マーリン「・・・・・だったらお前だけ授業戻れよ」
メリダ「だ・か・ら!!」
?「・・・・・ダメだよマーリン」
マーリン「!チッ、なんだよ・・・お前もいたのかよ」
もう一人の1年生、カイル=マクリーンが来ていた。
カイル「マーリンのお陰で授業がストップしてるんだよ。全員揃うまで再開しないってさ」
マーリン「ったく、面倒くせえ事しやがって」
メリダ「何が面倒よ!!学生が授業受けるのは当然でしょ、何でいつもサボッてばっかりなのよ!」
カイル「まあまあ、ボーウェンさん」
マーリン「だってな~~~~・・・」
(授業で得るもんが見当たらんなんて言ったら・・・・)
メリダ(想像)「その根性叩き直してやるー!!」
マーリン「いや何でもねえ」
メリダ「はぁっ!!何よそれっ」
カイル「まさに火に油だ・・・・・はぁー」
「ねえマーリン、君が授業をつまらないと思うのも無理はないけど、授業サボッってうかうかしてると」
「追い抜かれちゃうよ」
マーリンが木から降りた。
マーリン「へえー、言うじゃねえか」
カイル「何なら試してみる?」
マーリン「上等!」
マーリンがカイルの目の前に立った。
そこから炎の魔法を込めた拳を振るも、カイルは飛び退いた。
メリダ「ちょっと・・・・アンタ達」
マーリン「ああっ、なんだよ今から良いところなっ・・・・」
メリダの体が、雷の魔力を帯びていた。
メリダ「何が良いところなのかしら?私を無視して盛り上がってんじゃないわよ」
マーリン「ッ!?なっ、なんだよ、何いきなりキレてんんだよ」
マーリンがカイルの横まで下がった。
カイル「そ、そうだよ。そんなの放ったら危ないから落ち着いて」
メリダ「うるさいっ!!」
雷の魔力がメリダのスカートを動かした。
マーリン・カイル「「おっ!?」」
メリダ「毎日毎日!」
マーリン「オオオッ」
メリダ「いいかげん・・・・・・へぇ?」
メリダのスカートがめくり上がり、白い下着が露わになった。
マーリン・カイル「「あっ」」
マーリンは鼻血を零しながら、サムズアップした。
マーリン「ナイスです」
メリダ「!!!」
メリダがスカートを抑えた。
カイル「だ、大丈夫!一瞬だったから見えてな・・・・・」
マーリン「白」
カイル「・・・・・・・」
(マーリン――――――!!)
メリダ「ア、ア、アンタ達~!!」
マーリン「おい・・・待て、ウソダロッ」
メリダ「死ねーッ!!」
メリダの放った電撃が、マーリンとカイルに炸裂した。
マーリン・カイル「「あばばばばば」」
メリダ「ほら、さっさと戻るわよ」
メリダがマーリンとカイルを引きずっていく。
カイル「はぁ・・・・何で僕まで」
マーリン「なあカイル・・・・コイツってこんなに強かったか?」
カイル「多分怒りで限界突破したんだよ。もう怒らせない方がいいよ」
マーリン「はぁ、堅物な上に凶暴かよ。手に負えねえなあ」
メリダ「何か言った?」
マーリン「何でもありません!!」
教師(・・・・・遅い、いったいどこまで行ってるんだ)
メリダが教室に戻った。
メリダ「すみません、遅くなりました。マーリン=ウォルフォードを連行してきました」
マーリン「連行って・・・犯罪者じゃねえんだから・・・・」
メリダ「ああっ?」
マーリン「・・・・・ッ、何でもねえよ」
教師「どっ、どうしたウォルフォード・・・・教師の言う事も聞かんお前がボーウェンの言う事を聞くなんて」
マーリン「別にそんなんじゃねえよ」
メリダ「ちょっとウォルフォード君、先生に向かってその口の利き方は何!?」
マーリン「いちいちうるせえな、これだからクソ真面目な奴はよ」
メリダ「真面目の何が悪いのよ!!不良よりよっぽどマシよっ」
マーリン「不良って誰の事だっ、ゴラ!!」
メリダ「アンタよっ」
教師「お、おいマクリーン、ボーウェンはどうしたんだ?」
カイル「いやぁ・・・・マーリンの行動にとうとう堪忍袋の緒が切れたみたいで・・・・」
教師「そ、そうか、あのボーウェンがなあ」
カイル「・・・・・・」
教師「ハァ―――」
「ウォルフォード!ボーウェン!いい加減にしろっ、いつまで経っても授業が始められんっ!」
メリダ「・・・・・・」
マーリン「・・・・・・」
メリダ「ちょっと!アンタのせいで私まで叱られたじゃないっ」
マーリン「はぁ!?お前だって!!」
教師がマーリンとメリダの頭を叩いた。
マーリン「いっ」
メリダ「あうっ」
教師「よーし、ようやく授業再開だ」
生徒たち「「「・・・・・・・・」」」
マーリン「痛って~」
メリダ「・・・・・・」
(・・・・・・叱られた!うう・・・アイツのせいだ・・・絶対許さない)
マーリン(ゾワッ)
教師「さてようやく授業を再開できるわけだが。ウォルフォード」
マーリン「なんだよ」
メリダがマーリンの腹に肘打ちを叩き込んだ。
マーリン「な、何ですか・・・・・先生」
教師「今日の授業は魔力制御がどれくらいできるかと、その最大値での魔法の発動だったんだが・・・・まずウォルフォードに見本を見せてもらおうかと思ってな」
マーリン「はあっ、何でオレが!?」
教師「授業サボってた罰に決まってるだろ」
マーリン「ちっ」
メリダ「ちっ?だまって授業に集中する」
マーリン「ウルセーなっ、お前はオレのかあちゃんか!!」
教師「ゴ、ゴホン・・・・・まず制御できるめいいっぱいの魔力を集めろ。集めたらあの的に向かって何でもいいから魔法を撃て」
マーリン「へいへい」
マーリン「さて・・・やりますか」
マーリンが両手の間に炎の魔力を集め出した。
その魔力の量に生徒たちや教師が戦いた。
教師「うおっ!何だっこの魔力量は!」
カイル「マーリンは中等学院の頃は、他とレベルが違いすぎて、模擬戦禁止のほぼ隔離状態だったんですよ」
教師「マクリーン、お前この状況で随分落ち着いてるな・・・・・おお、大丈夫か?」
カイルが腰を抜かした女子を助けた。
カイル「立てる?」
「ええまあ、中等学院の時、マーリンの練習に付き合ってたのは僕ですから」
「あっ、もう魔法撃ちますよ」
教師「なっ!しまった」
マーリンが炎の槍を放った。
教師「ウォルフォードッ、待て!!」
マーリンの放った炎の槍が、壁に当たり爆炎を起こした。
教師「ウォルフォード――――ッ!・・・・・・・どう・・・・なっ」
(た~!!)
壁に穴が開き、大きく削れていた。
マーリン「これでいいか・・・ですか?」
カイル「全然よくない、やりすぎ」
マーリン「むつ、でも全力って・・・」
カイル「マーリンはもう少し他の魔法使いのレベルを知ろうか」
マーリン「他っつったて中等学院の教員とお前くらいしか知らねえしよ。それに、お前だってオレと似たようなもんだろ」
カイル「いや僕の魔力制御はあんな非常識じゃない。同じ事はできますが」
マーリン「なんだよ、自分だけいい子振りやがって」
カイル「空気が読めるって言ってくれるかい?」
メリダ「・・・・・・私だって一生懸命やってる。人一倍勉強も鍛錬もやってるのに・・・アイツを越せるイメージが沸かない」
(理不尽よ!あんな適当な奴にすごい才能なんてっ)
(・・・・・・・・)
「アイツ嫌い」
その後、マーリンとカイルにメリダが同じ机に着いていた。
マーリン「で、なんでボーウェンがいるんだよ」
メリダ「何?アンタの事はどうでもいいんだけど?」
「マクリーン君、さっきのところ・・・・」
カイル「ああ、あれはね」
マーリン「無視すんな!!」
メリダ「本当うるさいわね、私はマクリーン君に用事があるの」
マーリン「はぁ?カイルに?」
メリダ「そうよ、魔法の事で色々訊きたかったのよ」
マーリン「なぜ、オレには訊かん?」
メリダ「はあー」
「アンタが魔法を使う時、どういう風にしてるか言ってみてよ」
カイル「・・・・・・・・」
ステップⅠ
マーリン「まずグアーッと魔力を集める」
ステップⅡ
マーリン「魔法をイメージする」
ステップⅢ
マーリン「ぶっ放す!!ほら簡単」
メリダがよろけた。
メリダ(ああ神様、どうして・・・こんな奴があんなすごい魔法を・・・)
マーリン「?」
「む、何だよ」
カイル「さっきの説明で理解できるのはマーリンだけだよ。君は天才肌だからね。魔法も感覚で使っているんだよ。それを口で説明するのは無理だって」
メリダ「だからアンタには訊かなかったのよ。訊いたって無駄だから」
マーリンにとって魔法はなんとなく使えるものであり、あまり深く考えた事はなかった。
ゆえに実技はトップだが筆記がヒドく、首席にはなれなかったのである。
マーリンが鼻くそをほじって、飛ばした。
マーリン「ったく、カイルは頭で考えすぎなんだよ」
カイル「僕の場合は、頭で考えないとマーリンには遠く及ばないからね。必然的にそうなっちゃうんだよ・・・まあ」
「才能が無い人間の、悪あがきだよ」
メリダ「そんな事ないわよっ!」
カイル「!?」
メリダがカイルの手を取った。
メリダ「漢学でものを言う人なんかより、理論的に話せるマクリーン君と話すほうがよっぽど為になってるわよ」
カイル「わ、分かったよ。その・・・凡人のやり方だけど、それが役に立つなら喜んで教えるよ、ボーウェンさん」
メリダ「メリダでいいわよ、マクリーン君」
カイルが唾を飲んだ。
カイル「なら僕もカイルでいいかな?・・・・メリダさん」
メリダ「分かったわ、カイル君」
カイル「・・・・・・」
マーリン「・・・・・・おいっ」
カイル「わ!?」
マーリンがカイルの首根っこを掴んだ。
マーリン「お前に一つ言っておく」
メリダ「!?」
マーリン「カイルはなあ、オレの親友だかんなっ。だからお前が嫌がってもずっとオレが一緒にいるんだぞ!」
メリダ「・・・・分かってるわよ。本音を言えばアンタはいなくていいんだけど。確かに私が割り込む形になってるし。どっか行けなんて言わないわよ」
マーリン「?、って言ってんじゃねえかよ!!」
メリダ「だから本音は、言いたいって言ってんのよ!」
カイル「まあまあ。二人とも・・・・」
カイル「はあー。仲良くしてよ、二人とも・・・・」
この3人が今後のアールスハイドの歴史に大きく関わる事になるとは、
この時はまだ誰も知るよしはなかったのである。
(つづく)
最終更新:2019年11月25日 10:05