ポンニー王国。
1人の兵士が傷だらけで、王城に帰還する。
一同「帰還、帰還──!」「大丈夫か!?」「大丈夫か!?」
王国軍の若き士官、カトウ。
カトウ「どうだ、様子は?」
兵士「魔王の復活は、間違いないようです! 国境の町はもう、魔王の手に…… この城下に迫るのも、時間の問題かと!!」
一同「おい、誰か手当てしてやれ!「大丈夫か!?」「もう終わりだ…… もはや、魔王を食い止めるのは無理だ!」「逃げよう!」
カトウ「……静まれぇ!!」
カトウの一喝で、慌てふためいていた一同が静まる。
カトウ「お前たち、忘れたか? 我々には、あのお方たちがついていることを。10年前、魔王討伐の旅に出、魔物たちをなぎ倒し、ついには魔王を封印した、あのお方たちを忘れたか? その強さ、その勇敢さで、我々の世界に平和をもたらしてくれた、あのお方たちだ!」
一同「おぉっ!」「そうだ、あのお方たちがいれば……」「忘れてた!」
カトウ「彼らのある限り、我々の未来は明るい!!」
一同「おぉ──っっ!!」
カトウが伝令のため、伝書バトを放つ。
カトウ「彼らに知らせてこい。『我々の未来は、あなたたちに託した』と」
レーワ2年 闇の世界を統べる魔王がよみがえり かつてのパーティーに再び命が下った |
かつてのパーティーの1人、魔法使いのメイが、家で電話を受けている。
メイ「はい。先ほど届きました」
メイ「はい、まさか魔王が…… すぐにでも戦いに参加したいのですけど。──はい、いや…… ですから、小さい子供がいて、難しくて。──それはわかってるんですけど、だって、保育所が空いてないんですよぉぉ!!」
カトウがメイの家を訪ねている。
カトウ「どうしても、駄目ですか?」
メイ「私も行きたいんですけど」
カトウ「本当ですか? では」
メイ「いや、何度も申し上げてますが……」
カトウは伝書バトを回収しようと、四苦八苦している。
カトウ「あっ!? ちょ、動くな! おい、おとなしくしろ!」
メイ「あ…… 大丈夫ですか?」
カトウ「失礼しました。魔王の侵攻はもう、予断を許さないところまで来ています。多くの人が家を破壊されて、住むところが無くなっているんです。もう、メイさんが立ち上がるしかないんです」
メイ「そうですけど……」
カトウ「あっ! ちょ、おい! あっ!?」
ハトがカトウの手を離れ、部屋中を飛び回る。
メイ「あ~っ!? ねぇ、ちょっと、子供が起きちゃうから!」
揺り籠の中で、メイの1人娘・さつきが、ハトに驚いて目を覚ましている。
カトウ「はぁ…… もう、これだから生き物は……」
メイ「ってか、なんで伝書バトで伝えるんですか!? 携帯あるでしょ!?」
カトウ「公式行事には、ハトなんです」
メイ「何の意味が……?」
カトウ「それで、魔王討伐、行ってくれるんですか?」
メイ「話、聞いてました?」
カトウ「もちろん」
メイ「カトウさん、勢いで何とかしようとしてません?」
カトウ「いえいえ、とんでもない」
メイ「いいですか? ここは城下町、保活の激戦区。そんな思い立ったときに、ポイッと子供預けられないんです!」
カトウ「いえ、ですが……」
メイ「それなのに、保育所の設備が全然追いついてないんです。特に0歳児の途中入所は絶望的で、保育所は11月に申し込みを締め切るのに、今、何月ですか!? 新年度ですよ!! なんで魔王は11月までに復活してくれなかったんですかぁ~!!」
カトウ「……すいません」
メイ「……すいません。あなたにこんなこと言っても、しょうがないですよね」
カトウ「メイさん」
メイ「えっ?」
カトウ「私たちには、あなたの力が必要なんです。我が国の危機を救えるのは、あなた方しかいないんです! あなたの力は、家に眠らせておくにはもったいない」
メイ「……」
カトウが去り、夜、メイの夫のモブが帰宅する。
モブ「ただいま」
メイ「お帰りなさい」
モブ「う~、疲れた。飯は?」
メイ「すぐ温めるね」
モブ「ねぇ、ニュース見たけどさ。魔王復活して、大変みたいだな」
メイ「うん…… ねぇ、モブくん。カトウさんって、覚えてる?」
モブ「おぉ、今、城に仕えてんだっけ」
メイ「実は…… さっき、久しぶりに連絡が来て」
モブ「へぇ~。魔王討伐の依頼でも来た?」
メイ「えっ!?」
モブ「いや、冗談だよ。何だ? そのリアクション」
メイ「あ、いや……」
モブ「ま、さすがに無いわな。無理じゃん。赤ちゃんいるし、俺も仕事あるしさ。ま、勇者たちもいるから、お前が行く必要、無いよな」
メイ「はぁ…… そうですよね」
モブ「で、カトウさん、何?」
メイ「ん? うぅん、何でもない」
カトウが王城で、国王に事の次第を報告する。
国王「えぇ~っ!? 魔法使い、断ってきたの!? しかも、そんな理由で~!?」
カトウ「すみません……」
国王「なんで言うこと聞かないの? 私、偉いんだよね?」
臣下「それはもう、国王ですから」
国王「怖~っ。権力者の言うこと聞かないって、一番怖っ!」
大臣「怖いですねぇ~」
国王「えっ、何が問題? 保育所にさ、1人くらい詰め込めばいいじゃんかさ」
大臣「仰る通りです」
国王「だよね? 詰め込めばいいよね~」
大臣「さすが陛下!」
カトウ「陛下、恐れながら──」
国王「なんで?」
カトウ「えっ?」
国王「なんで『恐れながら』?」
カトウ「それは……」
国王「私が、偉いから?」
カトウ「……そうです」
国王「OK、続けて」
カトウ「はい。1人の保育士が受け持てる子供の数には、限りがございます。詰め込むことはできません」
国王「マジか! 何それ!?」
カトウ「保育環境を安全にするための、法律があるんです」
国王「誰が決めたの、その法!?」
大臣「誰が決めたんだね!?」「連れてきたまえ、ここに!」
カトウ「恐れながら、陛下です」
国王「あ、私が決めた?」
カトウ「はい」
国王「どうして私が、そんなことを決めるの?」
大臣「そうだ! なんで陛下がそんなことを決めるんだ!」
カトウ「偉いからです」
国王「なるほどねぇ~! そう来た。ん──…… あっ、いいこと思いついちゃった! おい、君」
カトウ「はい?」
国王「こんなことを思いつくなんて、やはり私は偉いな」
カトウ「……えっ?」
メイは娘を保育所に預けようと、町の子育て担当課を訪れる。
メイ「100人!? 100人も待ってるんですか?」
受付係「申し訳ありません」
メイ「えっ? それって、普通に並んだら、それぐらいかかるんですか?」
受付係「まぁ、そこまでは…… 2年」
メイ「2年?」
受付係「と、2か月くらいですかね」
メイ「えっ…… 2年2か月も待たなきゃ入れないんですか、保育所!?」
受付係「申し訳ありません」
メイ「そんなの、魔王の世界征服、終わっちゃいますよ!!」
受付係「子育てを後回しにした人類の負けですね。おとなしく滅びましょう。次の方──」
メイ「いや、あの! ちょっと待ってください」
受付係「……なんでしょう」
メイ「えっ? じゃあ、どうしたらいいんでしょうか?」
受付係「……ご実家のお母様に預けるとか」
メイ「そんなの預けられれば、真っ先に」
受付係「預けますよね」
メイ「はい…… 実家、遠いんですよ。もっと近ければいいんですけど…… あっ!」
メイは自宅に戻り、呪文を唱えつつ、薬草を鍋で煮詰める。
メイ「エロイムエッサイム・エロイムエッサイム── ……できた!」
薬で布に魔法陣を描いた後、実家の母に電話をかける。
メイ「もすも──す、お母ちゃん?」
実家の畑で、母が電話を受ける。
母『何ね?』
メイ「今から、さっちゃん、そっちで預かってほすぃんだわ」
母『おめぇ、そんなごと言ったって、どんだけ離れでんど思ってんだ?』
メイ「大丈夫、ワープで連れてっから」
母『ワープぅ?』
メイ「とにかぐ、今からさっちゃん、そっち連れていぐがら、畑にいてけろ」
母『ほいさ』
メイは、さつきを抱いて魔法陣の上に立ち、思念を集中する。
メイ「ベビルーラ!」
光があふれ、メイを残し、さつきだけが消える。
メイ「えっ!? あれ、さっちゃん? えっ? どこ、どこ?」
メイは慌てて、電話をかける。
メイ「今さっちゃん、そっち行った?」
母『えっ? 来ねぇけど?』
メイ「えぇ~っ!? さっちゃん!? どこ行ったの!? さっちゃん!? さっちゃん! ねぇ、さっちゃん、どこぉ!?」
テレビでは、料理番組が映っている。
出演者が料理の皿を開けると、中で、さつきが泣いている。
メイ「さっちゃぁぁ~ん!?」
メイはテレビ局からさつきを取り戻し、再び子育て担当課にいる。
メイ「さっちゃん、ごめんね…… ごめんね」
受付係「あの、普通に申し込まなくったって、あなたなら陛下に特例をお願いすれば、すぐにでも預けられるんじゃないんですか?」
メイ「特例で……?」
受付係「それでよろしいですか? では、最優先で」
周囲には、メイ同様に、赤ちゃんを抱いている母親が大勢いる。
メイ「あの……」
受付係「はい?」
メイ「それはできません。困ってるのは、私だけじゃないんで」
受付係「いや、でも……」
メイ「順番は、順番ですから」
受付係「あっ! 1つだけあります。保育所に、優先的に入れる方法」
メイ「えっ! 何ですか!?」
受付係「ご主人を殺してください」
メイ「……え?」
受付係「……あ、冗談です」
メイが落胆しつつ、帰宅する。
メイ「はぁ…… ただいま」
家の中は散らかり放題。
メイ「えっ? あれ? えっ、何これ? ……あっ、モブくん?」
モブが倒れている。
メイ「あっ!? モブくぅん!! ねぇ、モブくん、大丈夫!? しっかりして、モブくん!!」
モブ「……」
メイ「大丈夫?」
モブ「ごめん……」
メイ「えっ? えっ、何が?」
モブ「会社、クビになった」
メイ「えっ? えっ、どうして?」
モブ「わかんない。今日、退勤するとき、上司に急に呼ばれて『もう来なくていい』って」
メイ「そんなぁ……」
モブ「本当に、ごめん!」
メイ「そんな、謝らないで。仕事は、また捜せばいいじゃん。しばらくは、貯金だってあるしね」
モブ「うん……」
メイ「モブくんはさ、働きづめだったから、ゆっくり休んで、ゆっくり次の仕事、捜そうよ」
モブ「うん…… ありがとう」
メイ「うぅん。ねぇ、そうそう…… ゆっくり休んで…… 家で。──あの……」
モブ「えっ?」
メイ「あ、うぅん。うや、何でもない」
モブ「何だよ、言えよ」
メイ「……魔王討伐の依頼が来たの」
モブ「……えっ?」
メイ「私…… 行かなきゃいけないみたいなんだけど…… 駄目かな?」
モブ「……そんなの、駄目に決まってんだろ」
メイ「……ですよね」
モブ「……いや、嘘、嘘! 冗談だよ。俺が専業主夫になればいいってことだろ? 俺が見ててやるよ、この子」
メイ「……本当に?」
モブ「うん」
メイ「えっ、本っっ当に!?」
モブ「本当だって」
メイ「でも、ほら、子育てなんてさ、やったことは無い……」
モブ「そんなの、覚えりゃいいだろ? あれじゃん。イクメンとか今、流行ってるしさ。何か、恰好いいじゃん」
メイ「モブくん……!」
モブ「まぁ、とにかく、俺に任せろって」
メイ「モブち~ん!! わぁ、嬉しいよ!! 本当に!?」
後日の王城で、パーティー再結成の祝宴が開かれる。
国王「伝説のパーティーの再結成を祝して、乾杯」
一同「乾杯!!」
メイはかつてのパーティー仲間、シーフ(盗賊)のベラ、女戦士のポコと再会する。
ベラ「めっちゃ久しぶり~!」
メイ「ポコさん、ベラさん!」
ポコ「っていうか、魔王討伐断ったって聞いたよ」
メイ「子供が8か月で、どうにもならなくて……」
ベラ「で、結局、行けるようになったの?」
メイ「はい、夫が見てくれることになって」
ポコ「旦那さん、仕事は?」
メイ「なんでかわかんないんですけど、会社をクビになって」
新メンバー、僧侶のクウカイが現れる。
クウカイ「ウッス、初めまして」
ベラ「えっ、誰? 知り合い?」
ポコ「えっ、聞いてない? 新メンバーの、クウカイくん。一緒に冒険に出ることになったんだよ」
クウカイ「僧侶やってる、クウカイ。一緒に冒険行けて、もう光栄っス。もう大ファンなんで、お願いします。ってか、旦那さん、偉いっスね」
メイ「えっ?」
クウカイ「子育てやってくれるんでしょ? 代りに」
メイ「あぁ、うん、ありがたいよね~」
クウカイ「よくやりますよねぇ。俺なら、勘弁だわ」
ベラ「ちょちょ、クウカイくんだよね? 今どきこういうの、普通だから」
クウカイ「だって子育てって、ぶっちゃけ、女の仕事じゃないっスか」
ベラ「はぁ?」
クウカイ「ってか、旦那さん、仕事捜せなくなりますよね?」
メイ「えっ?」
クウカイ「いや、だって、慣れない子育てしてたら、就活できないじゃなっいスか」
クウカイの言葉が攻撃のごとく、メイに炸裂する。
メイ「あっ! あれ?」
クウカイ「しかも、ただでさえクビになって、辛いわけでしょ? そのタイミングで子供押し付けるって、メイさん、鬼っスね」
メイ「うぅっ! ゴホ、ゴホッ!」
ベラ「大丈夫?」
メイ「わ、私…… やっぱり、帰ろうかな」
ベラ「ちょちょ、気にしないでいいって、そんな。」
ポコ「そうだよ。今までメイさんに子育て押し付けてきて、人生奪ってきたんだから。今度は、旦那の人生、奪ってやればいいんだよ」
メイ「うぅっ!!」
ポコの言葉がとどめとなり、メイが倒れる。
ベラ「あんたのせいで、また揺らいじゃったじゃんぉよ!!」
ポコ「えっ、なんで?」
クウカイ「確かに旦那さんの人生は、これで閉ざされましたね」
ベラ「うるせぇんだよ、さっきから。黙れよ! 二度と喋んな、おい!」
国王「やぁやぁ、君たち。よく冒険に出る決断をしてくれたねぇ~!」
メイ「陛下!」
ベラ「当然でございます」
国王「やだぁ~、かしこまって。えっ、なんでかしこまるの?」
カトウ「陛下が偉いからです」
国王「もう、やだぁ~! 本当ねぇ」
カトウ「皆さん、ありがとうございます。これでもう、世界は救われました」
国王「そうなの。ありがとね。期待してるね~」
声「あっ、メイさんたちだ!」「ベラさんもいる!」「本当だ!」
大勢の人々が、メイたちを取り囲む。
一同「がんっばってください!」「魔王をやっつけてくださいね」
メイ「ありがとうございます」
国王「みんな~! 勇者のスピーチが始まるよ~!」
かつてのパーティー仲間、勇者マサムネがマイクを手に、皆の前でスピーチを述べる。
マサムネ「え──、皆さん。あっ、初めましての方もいらっしゃいますね。どうも、伝説の勇者です」
ポコ「自分で伝説って言ってる」
ベラ「恥ぅ……」
マサムネ「私たち、伝説のパーティーが魔王を倒して」
ポコ「伝説のパーティーとか言わないでよ」
マサムネ「世界は平和を保っていましたが、このたびねぇ、めでたく魔王が復活したということで…… めでたくないだろ! っつって。ハハハハ! いやいや、今のは冗談ですけど」
ベラ「いやいや、全然笑えないから。人、死んでんだぞ」
ポコ「あいつ、引きずり下ろした方がいいんじゃない?」
マサムネ「ちょちょ、ボリューム小さくない? MAX、MAXにして」
ベラ「音響のせいにしてんだけど。自分が滑ってんのに」
ポコ「ヤバくね?」
マサムネ「しかし、皆さん! 安心してください。私たちがいます。私たちは、戦うために生まれてきました! 私たちがいれば、世界は再び、平和を取り戻します。ではここで、前回私たちが魔王討伐後に発売しましたアルバムから、そう、例のアルバムから、この曲を聴いてもらいましょう! みんなも一緒に歌おうぜ!」
ベラ「止めて止めて! まずいまずい!」
ポコ「はずい、はずい」
音楽が鳴り、皆の手拍子と共に、マサムネのステージが始まる。
マサムネ「♪俺たち~ レジェンドパーティ~ 魔王の手から世界を救ったヒーロ~!♪」
メイが帰途につき、カトウが送る。
カトウ「ご決心いただき、本当にありがとうございます」
メイ「はい」
カトウ「これで安心しました。ご主人が大変なときに、すみません」
メイ「……えっ?」
カトウ「え?」
メイ「なんで知ってるんですか?」
カトウ「あ…… あ、いや、あの、それは……」
(国王『旦那の会社に圧力かけて、クビにしちゃえばいいじゃんか。そしたら子守りできるっしょ』)
カトウ「あの…… ご主人の会社に僕の友人がいて、それで……」
メイ「……そうなんですか」
カトウ「はい…… いや、ですが冒険に出れば、かなりの給金が出ますし、これで大金持ちですね。うらやましい限りです」
メイ「ハハ…… そうですね」
カトウ「クビになって、良かったとも言えますね」
メイ「……」
カトウ「あ、いえ…… 失言です」
メイ「私も、そう思っちゃったんです」
カトウ「えっ?」
メイ「夫がクビになったって聞いたとき、私、嬉しいって思っちゃったんです。『これで戦いに行ける、チャンスだ』って。さっき、皆さんに『あなたの力が必要だ』って言っていただいたとき、『あぁ、私はまだ終わりじゃないんだ』って、『まだ働けるんだ』って…… そう思えて、嬉しかったんです」
カトウ「……」
メイ「悲しいですよね、普通。でも私は、そう思わなかったことが、何ていうんだろう? 悲しいです……」
カトウ「……あの」
メイ「あっ、すみません、こんなこと。がんばります、私」
カトウ「……はい」
メイ「ここで」
カトウ「メイさん!」
メイ「はい?」
カトウ「以前の魔王討伐の際、家族を助けてくださったこと、本当に感謝しています。あなたがいなければ、僕の家族も、僕自身も、今ここにはいません。だから…… だからというか…… 応援させてください!」
メイ「……ありがとうございます!」
メイ「ただいま……」
さつきが大泣きしている。
メイ「あ~っ!! 何何!? どうしたの、どうしたの 大丈夫?」
家の中は散らかり放題。
粉ミルクの缶が床に転がり、ミルクが散乱している。
メイ「あれぇ? ねぇ、パパは?」
モブ「おっ、やっと帰ってきた。遅いよぉ」
メイ「さっちゃん、泣いてるよ?」
モブ「そうなんだよ、ずっと泣いてんだよ。どうにかして」
台所には、作りかけらしき離乳食の鍋がある。
メイ「えっ? この子、ご飯は?」
モブ「あっ、ごめん。まだ食わせてない」
メイ「6時に離乳食とミルク100って、お願いしたと思うんだけど」
モブ「だって、作り方わかんねぇよ、俺」
メイ「一緒に練習したじゃん! これにも書いておいたと思うんだけどな」
メイが食事の作り方を書いたメモを示す。
モブ「いや、ムズくない?」
メイが、さつきのおむつが膨らんでいることに気づく。
メイ「ねぇ…… モブくん。これ、いつから?」
モブ「えっ?」
メイ「いつから替えてないの!? ねぇ、タプンタプンだよ!」
モブ「いや、ちょっと、わかんないけど」
メイ「ウンチもしちゃってるんだよ! ねぇ、においでわかんなかった!? さっちゃん、お尻かぶれやすいから、ウンチのときはすぐに替えてって言ったよね!?」
モブ「だってお前、おしっこならまだいいけど、ウンチのおむつ替えんの、男にはハードルたけぇだろ!?」
メイ「ハードルって……」
モブ「そんじゃ、お願いね」
メイ「ちょ、ちょっと、待って!」
モブは居間でゲーム機を手にし、ヘッドホンをつける。
メイ「待って、待って! 何してんの?」
モブ「おい、何だよ?」
メイ「何、装着してんの!?」
モブ「だって、着けないと、音楽聞こえないじゃん」
メイ「着けてたら、さっちゃんの鳴き声、聞こえないでしょ!?」
モブ「マジで? ──あ、聞こえねぇわ」
メイ「でしょ?」
モブ「すげぇな、ヘッドホンって」
メイ「すごいじゃなぁい!!」
モブ「あれ、泣き止んだ?」
さつきは、灰皿のタバコの吸い殻を口にしようとしている。
メイ「あ──っ!? 駄目ぇぇ!!」
メイが必死に、タバコと灰皿を取り上げる。
メイ「モブくん、何これ!?」
モブ「あっ、ごめん。久々に吸っちゃった」
メイ「もう~!! 何してるんですかぁ!!」
モブ「うるさいなぁ!! 何なんだよ。何をそんなに怒ってんだよ。何? ヒステリー? もう、勘弁してくれよ~ こっちもストレスたまってんだからさぁ~」
メイ「……ごめんなさい」
モブ「あのさぁ…… やっぱ、無理じゃない? 俺」
メイ「えっ?」
モブ「子育てとか、無理でしょ。俺、向いてない」
メイ「……えっ、向いてない?」
モブ「お前はさ、魔法使って楽に子育てできるのかもしれないけどさ」
メイ「そんなこと、私……」
スマホが鳴る。
モブ「電話、鳴ってるよ」
メイ「もしもし……」
電話の向こうでは、パーティー一同が、盛大に宴会を開いている。
マサムネ『あのさぁ、国王とかと今、二次会やってんだけど、いつ出発すんのかって…… うるさいから、もう!』
メイ「出発ぅ!?」
マサムネ『国王、国王。メイ、メイ』
国王『あぁ、もしもし? どうするよ? こういうの、早い方がいいからね』
メイ『よっ、メイちゃんですかぁ~!』
国王『うるさい! 魔王、活発だし』
メイ「あ、陛下、あの……」
国王『明日とかどう? 明日
メイ「あ、明日!? いや、あの…… ちょっとだけ、待ってもらってもいいですかね?」
国王『だから、明日出発ね。はいはい。じゃあね、は──い』
メイ「明日? あ、あし、明日……?」
モブ「やっぱ考えたんだけどさ。仕事は、お前じゃなくてもいいじゃん。でもさ、子育てはさ、絶っっ対に男親じゃなくて、母親の方がいいと思うんだよ。母親の代りは、誰にもできないだろ? そんじゃ、頼むわ」
メイ「ええっっ──っっ!?」
翌日、パーティー一同がついに冒険に出発する。
勇者マサムネ、戦士ポコ、盗賊ベラ、魔法使いメイ。
メイの押す乳母車の上で、さつきが無邪気に笑っている。
ベラ「ちょちょ、何これ?」
メイ「すいません…… 連れて来ちゃいました」
ベラ「いや、『連れて来ちゃいました』じゃなくてさ…… 戦場だよ?」
メイ「家の方が危険なんです」
マサムネ「メイの子供?」
クウカイ「マジっスか?」
ポコ「可愛いね~!」
メイ「そうなの! 可愛いの~」
ベラ「旦那が面倒みるんじゃないの!?」
マサムネ「敵だ!」
マサムネ「逃がしはしないぞ!」
なんばんのぼうけんのしょに きろくしますか? 1 : めい 2010.06.01 じょうかまち 2 : めい 2020.02.01 こっきょうのそうげん |
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最終更新:2020年04月09日 20:03