とあるところにテンバールという王国がありました。
幸せに暮らしていた王国のそばで、ある日突然、恐ろしい魔物が溢れてきました。
王様は国で一番の精霊魔法使いの青年を頼りました。
青年は精霊と共に魔物退治へ向かいます。しかしとてつもない数の魔物が溢れていました。
「私の力全て使い果たしていい。君の力を貸してくれ」最後の力を振り絞り青年は精霊にお願いしました。
精霊は悲しそうな顔を浮かべましたが彼の願いを聞き入れ、そして一瞬で魔物を退治しました。
青年は力を使い果たし倒れました。
息絶えた青年を抱いた精霊は彼を助けると言い残し、彼と共に精霊の国へと帰っていきました。
青年は国を救った英雄となりました。
屋台の店主がそんな伝説を語っていた相手は、フードで顔を隠した青年と彼が肩に乗せている少女の2人だった。
少女「それで――――その英雄さんは王国に帰ったんですか?」
店主「ははは、まだね英雄は帰ってきていないんだよ。この国の人は無事でいてほしいと何年も祈っているんだけどね」
青年「あー・・・すまない店主、その肉串を2本もらえるか?」
店主「おっ、まいどありぃ!」
少女が肉串を食べる。
少女「・・・で、一度でも帰ったんですか?」
青年「あ―――――・・・それは聞かない約束だよ・・・」
少女「そんな約束してないもん――――――」
女の子「びぇえぇぇえ!!!」
少女の後ろから、女の子の泣き声が聞こえてきた。
少女「あれは・・・」
通行人「どうしたの?」
女の子「ひぐっ、お母さんにもらったブローチが壊れちゃったの・・・・大切にしてたのに・・・えぐっ・・・・」
通行人「あらら、人にぶつかって落としちゃったのね」
少女「・・・・」
「・・・とーさま、ちょっと壁になってもらえますか?あとお肉持ってて下さい」
青年「エレン?何を―――――・・・」
「!まさか―――――!!」
エレンと呼ばれた少女の足下に魔法陣が浮かんだ。
エレン(あのブローチ、材質は――――5周期14族元素、原子番号50、錫。それに合わせて原子番号を調整、構造を組み直して)
(現実に反映させます!)
通行人「ほらいつまでも泣いてないで、お母さんに見せてみなさい」
「・・・あら?」
「壊れてないじゃない」
女の子「あ・・・あれ?でも、さっきは本当に・・・・」
青年「エ~レ~ン~力はむやみに使っちゃダメって言ってるでしょ」
エレン「あはは・・・・ごめんなさいとーさま。でもちょっと見ていられなくて・・・」
青年「ああもうエレンはやさしいなぁ、そんなところろもカワイイなぁ」
そう言いながらエレンを抱きしめる青年を、一人の男が見つけた。
男「ロヴェル様・・・?やはりロヴェル様!!ロヴェル様ではございませんか!?」
通行人たち「ロヴェル?」
「ロヴェルってまさか――――・・・」
ロヴェルと呼ばれた青年は、エレンを抱えて脱兎のごとく逃げだした。
男「あっ!!?」
「何故にげるのですか!?ロヴェルさま!!」
逃げるロヴェルと追いかける男の様を、ある女性が水鏡で見ていた。
女性「あらあら~あっちは大変そうね~」
「はあ・・・それにしても・・・わたくしも肉串食べたいわあ」
エレン(皆様はじめまして!どういうわけだか、生まれ変わって現在8歳のエレンと申します)
(生まれ変わる前は日本で科学者をしていました。私のいた研究所では物質の合成・測定・試作など、新物質の探索や新しい素材の開発を日々行っていたのです)
(はてさて、何故自分が死んだのかさっぱり覚えていません。寝ずの研究だったので過労で倒れたのかもしれません)
(そしてどういう因果かはわかりませんが、私は元素の精霊としてこちらの世界に転生したのでした。私の能力は先程見ていただいたとおり、物質の化合や構造配列を好きにかえられる、そんなチートスキルです)
(そんな私が何故ここにいるのか?それを語りたいところですが・・・)
(・・・今は立て込んでいるのでまた今度お話しますね)
男がロヴェルとエレンに追いついた。
男「ロヴェル様!!ぜひヴァンクライフト家にお戻り下さい!!」
エレン「・・・とーさま、この方は?」
ロヴェル「あ―――――・・・アルベルト、俺の元護衛だ。はぁ・・・マズった・・・転移して逃げればよかった。でも人目についたしな-、こうなれば今からでも記憶を消して・・・」
エレン「物理ですか?」
アルベルト「・・・本当におひさしぶりです。目と髪の色が変わっておられたので気付くのが遅れました」
ロヴェル「まあ・・・色々あったからな」
アルベルト「・・・ところでそちらのお子様は――――」
ロヴェル「俺の娘だ、可愛いだろう!?世界一!!」
アルベルト「・・・本当に変わられましたね・・・」
ロヴェル「なんだその含みのある言い方は!!?」
ロヴェル「それで、ヴァンクライフト家がなんだって?」
アルベルト「・・・今大変なことになっております。先の災厄の後、弟君のサウヴェル様がご当主となっておられるのですが―――――・・・」
エレン(ヴァンクライフト家・・・とーさまの実家ですね)
ロヴェル「だったら今さら帰ったところで俺の居場所などないだろう。サウヴェルにもいらぬ世話をかけるだけだ」
アルベルト「最後までお聞き下さい!実は――――――・・・」
ロヴェル「馬鹿な―――――!!あの女がいるだと・・・!?」
アルベルト「王命ゆえ断れませんでした・・・」
エレン(女・・・?)
ロヴェル「嫌だ!!アイツがいるなら俺は絶対に帰らないからな!!い――や――だ―――!!」
アルベルト「で・・・ですが!!」
エレン「・・・・」
「とーさま」
エレンが腰掛けていた樽から降りた。
エレン「ご事情はわかりませんが、とーさまがご実家に連絡をしなかったせいで皆様に心配をかけているのです。ダダなんてこねてないでご挨拶くらいしてはどうですか?」
「それにきっと帰らないかぎり、この先ずっとお家の方について回られますよ」
アルベルト「たしかに!」
ロヴェル「んなっ!?」
エレン「あとご家族を大切にしないとーさまなんて幻滅です、嫌いです」
ロヴェル「キライ!?」
エレン「ね?とーさま」
エレンは笑顔で圧力をかけていく。
ロヴェル「・・・・・はぁ、わかった・・・娘に免じて帰ってやる。は―――――、ホントは帰りたくない、あ――ヤダヤダ」
アルベルト「ロヴェル様!!」
ロヴェル「ただし!先に寄るところがある」
ロヴェル達が立ち寄ったのは、教会だった。
神父「婚姻届でございますか?」
「ええ、もちろん可能ですよ」
ロヴェル「助かる。向こうで式は挙げているんだが、こちらでも証明が欲しいと思ってね」
アルベルト「!!?」
ロヴェル「ちょっと訳ありでな。今すぐ式を挙げたい。礼は弾む」
神父「承知いたしました!」
神父がその場を離れた。
アルベルト「ろっ・・・ロヴェル様!!お子様がいるというのはまだしも、すでに結婚されているというのは――――!?」
ロヴェル「そのままの意味だ。俺は婿養子だな」
アルベルト「はぁあああ!?」
エレン「ところでとーさま、何故突然結婚式を?」
ロヴェル「・・・あの女が家にいる以上、打てる手は打っておかないとな」
ロヴェルとエレンが神父の元に向かった。
神父「準備は整っております。こちらが双女神――――ヴォールとヴァールの婚姻証になります。ええと・・・お相手の方は・・・」
ロヴェル「今喚ぶ」
神父「?」
ロヴェル「オーリ来てくれ!ここで結婚式をしよう!」
水鏡でロヴェルを見ていた女性にその声が届き―――
オーリ「――――!きゃああぁあ!!」
「ロヴェルぅうう!!」
宙に浮かんだ魔法陣から、女性――オーリが飛び出てきて、ロヴェルはオーリを受け止めた。
エレン「とーさま、いっけめ―――ん!」
アルベルト「なっ!?」
「転移・・・精霊!?まさか貴女様がロヴェル様の――――!?」
「元始の王。全ての母、精霊の女王――――オリジン様!」
オーリ「あら・・・・アルベルトだったかしら?おひさしぶりね、10年ぶりくらい・・・かしらね?」
10年前、精霊界に連れて行かれた青年は―――
一年ほどして目を覚まし、そして契約を結んでいた精霊と恋仲となり契りを結びました。
そのことが原因で青年は半精霊化。その後は娘を連れ、人間界で力をなじませるための修行をしています。
神父「ああ・・・そんなことが・・・ご無事でいらっしゃったのですね」
「英雄、ロヴェル・ヴァンクライフト様!!」
そう―――英雄はすでにこの国に帰ってきていたのです!
ロヴェルが婚姻届にサインし――――
神父「汝ら健やかなる時も病める時も―――互いに支えあい―――」
エレン「おお」
ロヴェルとオーリがキスをし、祝福の鐘が鳴り響いた。
エレン「とーさま、かーさまおめでとうございます!ふたりとも左手を出して下さい」
ロヴェル・オーリ「「?」」
2人が出した左手の薬指に、エレンが指輪を錬成した。
エレン「左手薬指は心臓に直結し、創造を象徴する指と言われています。心から相手を守る。愛と幸せ、願いの実現。そんな意味がある指です」
オーリ「エレンちゃん、これは?」
エレン「ダイヤモンドですよ、かーさま!」
「永遠の絆、確かなるもの、清純無垢」
「二人にダイヤモンドの祝福を!」
「ライスシャワーはないけど!」
エレンが頭上に錬成したダイヤモンドの塊が砕け、欠片となって降り注いでいった。
ロヴェル「あぁ・・・娘からも素晴らしい祝福を得られて幸せだ」
オーリ「ええ・・・あなた・・・」
ロヴェル「婚姻の承認は女神により認められた!二人はこれより夫婦となる!」
この日――――
英雄の帰還は国中に喜びをもって伝わりました。
ですが・・・
同時に英雄を欲する者達もまた――――・・・
「ラヴィスエル様!!ロヴェル様が・・・・!!」
?「・・・ぐふ」
エレン「とーさま!さっきはとってもカッコよかったですよ!」
ロヴェル「えっ?ほんと?」
今のロヴェルはデレデレしていた。
エレン「・・・今のとーさまは残念です!」
ロヴェル「ナンデ!?」
オーリ「ロヴェル、わたくしも肉串が食べたいわぁ」
ロヴェル「ここで肉串!?」
エレン(もし・・・そのような者が私達の幸せを脅かすようなことがあれば)
(そのときは)
(大切な家族を守るため―――――)
「敵は、潰します♥」
(つづく)
最終更新:2020年06月27日 19:20