電光超人グリッドマンの第26話


決戦!ヒーローの最期
〔後編〕


毒煙怪獣ベノラ登場





ゆか「本当に、死んじゃったの……? グリッドマン! 直人!!」
一平「しっかりしろ、グリッドマン!!」

倒れ伏したグリッドマンは指一本動かさない。
グリッドマンに代わってダイナドラゴンがベノラに立ち向かっているが、弾幕を張られ、近づくこともできない。
その様子は、武史が用意したデッドプロジェクターで現実世界にも投影されている。

大地「グリッドマンが…… グリッドマンが死んじゃった!」
カナ「もうダメ…… 大地、早くうちへ帰りましょ!」
大地「でも、グリッドマンが!」
カナ「このままじゃあたしたちも死んじゃうよ! 早く!」

大地の腕をつかんで駆け出すカナ。


倒れたグリッドマンは懸命に力を振り絞り、少しでも体を動かそうとしていた。

グリッドマン「あ…… ぁあ……」
ゆか「動いてる…… グリッドマンはまだ生きてるわ!」
一平「やった……! グリッドマン、ひとまず退却だ!!」

ゆかがパサルートを開いてグリッドマンとダイナドラゴンを回収する。
グリッドマンと分離した直人がジャンクの前に現れるが、呼吸すらままならない。

一平「直人!」
ゆか「しっかりして!! ……一平、ベッドを作って!」
一平「おう!」
ゆか「しっかりして、直人! ……直人!!」

一平が折り畳み式のベッドを出して、ゆかと一緒に直人を抱き上げ、ベッドに寝かせる。

一平「おい、大丈夫かよ!?」
ゆか「直人!」
一平「大丈夫か!?」
直人「……い、一平…… ゆか…… お、俺は……?」
ゆか「怪獣にやられたのよ。怪獣の毒ガスにね……」

体を起こそうとする直人をゆかが静止。

ゆか「無茶しないで! 今は寝てた方がいいわ」
直人「……ちくしょう……」
ゆか「悔しい気持ちはわかるけど、体の方が大切よ! 大丈夫……?」
直人「ああ…… ちょっと頭が痛いけど、大丈夫だ。だけど、幻覚が……」
一平「幻覚?」
直人「ああ…… 頭ん中に、怪獣にやられてる様子が見えて…… どうしようもないんだ……」
ゆか「あの毒ガスの影響ね。たしか私、頭痛薬を持ってたと思うけど」

ゆかが自分のバッグの中から薬を取り出し、直人に差し出す。

ゆか「直人、これ飲んで」

黙って薬を飲み下す直人。

ゆか「一平、スープか何か、栄養の付くもの作ってあげて」
一平「ああ、まかしとけ」

一平が自宅の台所へ向かう。

ゆか「直人、眠りなさい。少し眠った方がいいわ」
直人「ああ……」

目をつぶる直人。


武史の家──

カーンデジファー「フハハハハハハ…… おそらくグリッドマンは生き返るまい。これで世界は、このカーンデジファー様のもの。武史! 今こそベノラを存分に暴れさせ、人間どもを恐怖と混乱のどん底に陥れるのだ!!」
武史「はい、カーンデジファー様」

武史の指示でベノラが破壊活動を再開。
現実世界は、もはや目の前さえ見えないほどの排煙に包まれた。

宗一郎「おい、大地じゃないか! カナちゃんも!」
カナ「おじさん!」
大地「僕、も、もうダメだよ!」
宗一郎「家までもう少しだ、頑張れ! な? カナちゃんもうちに来なさい。もうこのまま外走ってると死んじゃうぞ」

3人は命からがら家までたどり着いた。

宗一郎「いや~、ひどい目に遭ったな、しかし!」

直人の母・道子が3人を出迎える。

道子「あっ! 良かった~、あなた、帰ってきてくれたのね。あら、大地もカナちゃんも大丈夫?」
大地「大丈夫じゃないよ、こんなの……」
宗一郎「なんだ、おい、ガムテープなんか持っちゃって」
道子「煙が窓の隙間からうちん中どんどん入ってくるのよ、目張りしてたの。あなたも手伝って」
宗一郎「ああ、わかった」
道子「とにかく顔洗いなさい、いらっしゃい」

3人を洗面所へ連れていく道子。
町では小金村巡査ら警察が必死に人々を救おうとしている。

小金村「皆さん、避難してくださーい!! 早く建物の中に避難してください!! 皆さん、大丈夫ですか!?」

排煙は、今や桜が丘(多摩)だけでなく、押上、銀座、渋谷といった23区にまで広がっていた。

カナ「真っ黒になっちゃった」
大地「タオルまで真っ黒」
道子「これじゃ洗濯もできないわ」
宗一郎「それどころじゃないよ、ちょっと。とにかくお風呂沸かして、お風呂。気持ち悪いよ」
大地「……グリッドマンが負けちゃったからこうなったんだよ」
宗一郎「パパも見たよ…… 雲に映ってたんだ。あの怪獣が暴れてるせいで、この煙が止まんないんだそうだ」
道子「それ、あたしもさっきテレビで見たわよ。ねぇ、今までのおかしな騒ぎも、全部、その…… コンピューターなんとかに出てきた怪獣のせいなんですってね」
大地「『コンピューターワールド』だよ。今まではグリッドマンが、怪獣を倒してくれてたんだ。なのに……」
カナ「どうなるの? あたしたち……」
宗一郎「いや、そう言われてもなぁ…… おじさんたちがなんとかできるわけじゃないし……」


直人の絶叫がジャンクの地下室に響く。
ゆかの助言で眠りについたはずの直人は、夢の中でもかつての戦いのトラウマ*1に苦しめられていたのだった。
うなされ、悶える直人。吹き出す汗を、ゆかが必死に拭っている。

直人「もう…… ダメだっ……」
ゆか「直人、しっかりして! なんでもないのよ。お願いだからダメだなんて言わないで!!」

直人が少し落ち着きを取り戻す。

ゆか「……もう平気よ。大丈夫だからね」
直人「……ゆか……」

ようやく安静になった直人を優しく見つめるゆか。
直人に向かってゆっくりと顔を近づけ、そして──


直人が目を覚ました。

直人「……ゆか?」
ゆか「えっ……」
直人「なんだか、俺…… 今……」

自分の唇をぬぐい、体を起こす直人。

ゆか「……怖い夢を見たのね」
直人「ああ。でも……」
ゆか「大丈夫。なんでもないのよ」
直人「……なぁ、ゆか……」
ゆか「ん?」

直人がゆかの目をはっきりと見つめながら言う。

直人「俺、もう勝てないかもしれない」
ゆか「……何言ってるの!? いつからそんな弱気になったの!? 私たち、今までだってピンチを乗り越えて戦ってきたじゃない!!」
直人「わかってるよ。だけど……」
ゆか「思い出してみて、今までのことを。今まで私たちがやってきたことを!」

回想──

カーンデジファーと武史にパサルートを封鎖され、立ち往生するグリッドマンを助けるべく、ゆかがバリア破壊プログラムを開発したこと(第2話)。
サポートロボ・ゴッドゼノンの初陣(第12話)。
一度のみの登場となったアシストウェポン・ドラゴニックキャノン(第18話)。
アシストウェポン・ゴッドタンクによるグリッドマンの援護(第16話)。
ダイナファイターとキングジェットの合体光線で、透明怪獣メカステルガンの透明化を破った瞬間(第20話)。

ゆか「自信を取り戻して。落ち込んだ直人なんて、私、見たくない」
直人「わかったよ…… 俺、やるよ、もう一度!」

一平がスープを持って降りてくる。

一平「ゆか、表が大変だぜ…… あれ? 直人、起きてていいのか」
直人「ああ。少し寝て元気が出たよ」
一平「そうか、よかった。ま、せっかく作ったんだ。俺の特製スープでも飲めよ。ニンニクたっぷり入れといたからな」
直人「サンキュー」
ゆか「一平、大変って表はどうなってるの?」
一平「工場からの煙でえらい騒ぎさ。これ見てみろよ」

一平がジャンクのテレビスイッチを入れる。

アナウンサー「──とにかく、有毒ガスの煙は関東一円に広がり、政府は先ほど、非常事態宣言を行いました。この黒煙は、今日中に日本全国に広がるものと思われます」
一平「もう、とにかくそこらじゅう真っ黒なんだ」
アナウンサー「──現象は、コンピューターワールドに現れた怪獣の影響だと断定されました」

眉根を寄せる直人。
グリッドマンがベノラに苦しめられる映像がテレビに映る。

アナウンサー「コンピューターワールドに現れた怪獣の話題は、これまで噂として世間に広まっておりましたが、その存在が認められたのは今回が初めてです。また、これまで怪獣と戦ってきた『グリッドマン』というヒーローの存在も認められましたが、そのグリッドマンが倒されたことにより、今回の事態がさらに悪化したものと思われます」

その時、突然ノイズとともに映像が切り替わり、デッドプロジェクターに投影されたカーンデジファーの姿が大写しになった。

カーンデジファー「ハハハハハハハハハハ…… 愚かな人間どもよ、よーく聞け。我が名は、カーンデジファー! 貴様たちの運命は、このカーンデジファー様にかかっているのだ」
直人「くそぉ……」
カーンデジファー「もはやグリッドマンは存在しない。貴様たちの味方をしてくれるヒーローなど、どこにもいないのだ。さぁ、人類は今から、このカーンデジファー様の下僕(しもべ)となり、いかなる時も、俺様の命令通りに行動するのだ。フハハハハハハ……!!」
一平「ちくしょう!! 言いたいこと言いやがって!!」

おもむろに直人が立ち上がる。

直人「俺、もう一度行くよ」
ゆか「直人……」
一平「行くったって、また同じ目に遭うぞ! ……あっ、そうだ、防毒マスクだ! 直人、待て。グリッドマンに防毒マスクみたいな鎧を作ろう」
ゆか「防毒マスクみたいな鎧?」
一平「ああ。サンダーグリッドマンの時みたいに、ダイナドラゴンを鎧にすることができるかもしれない」

一平がダイナドラゴンのCGデータを開き、検証を開始する。

直人「……一平、鎧は出来上がり次第送ってくれ」
一平「えっ!?」
ゆか「直人、できるまで待った方がいいわ! じゃないと毒ガスが……」
直人「毒ガスなんて構うもんか! さっき弱気になるなって言ったろ? これ以上カーンデジファーの思い通りにさせるわけにはいかない。早くあの怪獣を倒さないと、俺たち…… いや、人類が滅ぼされてしまうかもしれないじゃないか」
グリッドマン「直人、私も覚悟はできている!」

うなずく直人。

ゆか「……直人、今度こそきっと勝てる! 私がついてるわ」
一平「お前の気持ちはわかった。できるだけ早く、鎧を送るよ」
直人「ああ。頼んだぞ」

直人がジャンクの前に立ち、アクセプターを構える。

直人「……行くぞ! アクセス・フラッシュ!!」

直人がグリッドマンと合体してコンピューターワールドへ向かう。
グリッドマンとベノラの再戦が開始された。

カーンデジファー「何、グリッドマンがよみがえっただと? バカめ。また同じ苦しみを味わいに、わざわざ舞い戻ってくるとは…… 武史! 再び奴に毒ガス攻撃を浴びせるのだ。今度こそ、奴の命を断ち切ってしまえ!!」
武史「はい、カーンデジファー様」

毒ガスを放たせないように果敢に攻め続けるグリッドマン。

ゆか「その調子よ! 連続技で相手に毒ガス攻撃をさせる隙を与えないで! ……一平、考えはまとまった?」
一平「ダメだ。ダイナドラゴンじゃ難しすぎる」
ゆか「もう、弱気にならないで! 直人やグリッドマンがどうなってもいいの?」
一平「わかってるさ! でも複雑すぎて、頭がこんがらがる……」
ゆか「だったらもっとシンプルに考えてみれば?」
一平「……そうだ。こいつを分離して……」

一平はダイナドラゴンをダイナファイターとキングジェットに分離させ、キングジェットのCGデータのみを拡大表示。

一平「……そうか、わかったぞ!」

グリッドマンはベノラの肩に飛び乗って毒ガス攻撃の死角となる後頭部を攻めるが、振り落とされてしまう。
それでもマウントをとってパンチの連打を浴びせるが、至近距離から火炎弾を吐かれて劣勢に陥る。

カーンデジファー「今だ! ベノラよ、毒ガス攻撃の再開だ」

起き上がったベノラが両肩から毒ガスを噴射。グリッドマンはまたも悪夢に引き込まれる。

再生シノビラーの鎖鎌(第15話)。
裂刀怪獣メカバギラの尻尾攻撃(第18話)。
結晶怪獣メカギラルスの鋼鉄の爪(第14話)。
電気怪獣ジェネレドンのエネルギー吸収(第13話)。

ベノラの毒ガス攻撃によって、グリッドマンの中枢神経がマヒし始めた。
かつて戦った怪獣たちの怨念とも言える映像がよみがえり、グリッドマンを
苦しめているのだ。

ベノラがとどめの火炎弾を撃ち込んでいく。

武史「ふん、無様な奴め。意味のない悪あがきをするからこんな目に遭うんだ」
カーンデジファー「武史。デッドプロジェクターを使って、人間どもにグリッドマンの無様な姿を見せつけてやるがいい」

劣勢に陥るグリッドマンの姿が現実世界に投影される。

アナウンサー「皆さん、グリッドマンが生きてました! あれがコンピューターワールドを守るために活躍を続けていた、グリッドマンです! 頑張って、グリッドマン!!」

直人の家族とカナが、手に汗を握りながら中継を見つめる。

宗一郎「どうしたんだ、グリッドマン!!」
道子「あーっ、やられちゃう!」
大地「頑張れ、グリッドマン!!」
カナ「しっかりっ!!」


地下室にはすでにジャンクの警報音が鳴り響いている。

ゆか「一平、まだできないの!? このままじゃグリッドマンが本当に死んじゃうわ!!」
一平「わかってるって!! くそっ、あとちょっと……」
ゆか「急いで!!」

グリッドマンの新たな「鎧」のデザインは、すでに8割ほど組み上がっていた。
しかし、当のグリッドマンは毒ガスと火炎弾を交互に浴び続け、初戦時と同じように力なく倒れ伏してしまった。

宗一郎「いかん! やられっぱなしだ!」
大地「グリッドマン、死なないで!」

「鎧」のCGデータに色が付けられていく。

一平「やった…… できたぞ!!」
ゆか「キングジェットが鎧になるのね」
一平「ああ、それがグリッドマンを守る! 名付けて『キンググリッドマン』だ!!」
ゆか「グリッドマン、待ってて。ダイナドラゴン、出撃!!」

パサルートが開き、実体を得たダイナドラゴンが発進する。
渾身の力を込めて立ち上がるグリッドマン。
ダイナドラゴンの四肢が分離し、肩、腕、脚を覆うアーマーになる。
大きくジャンプし、空中で静止したグリッドマンにアーマーが装着されていく。
そしてダイナファイターにあたるパーツが取り払われ、残った部分がグリッドマンの上半身と顔を覆う。

キンググリッドマン「合体竜帝・キンググリッドマン!!

ついに、新たなスーパーヒーローが誕生した!

ゆか「やったわ!!」
一平「成功だ!!」
武史「あれはいったいなんだ!?」
カナ「キンググリッドマンだって!」
大地「頑張れ、キンググリッドマン! そんな怪獣のしちまえ!」
カーンデジファー「何をしている! ベノラよ、毒ガスで奴を吹き飛ばしてしまえ!!」

キンググリッドマンはベノラの毒ガス攻撃をものともしない。

一平「ざまあみろ! あんなガス、屁みたいなもんだぜ!」

そのままベノラの毒ガス噴射孔をパンチで粉砕。
連続パンチをベノラの顔面に喰らわせていく。

ゆか「キンググリッドマン、怪獣を倒して世界を救って!」

ベノラは火炎弾でキンググリッドマンを攻撃するが、キンググリッドマンは仁王立ちしたまま微動だにしない。

キンググリッドマン「キンググリッドランチャー!!」

キンググリッドマンの両腕にあるペネトレーター砲から放たれた光線がベノラに炸裂。

キンググリッドマン「キンググリッド…… ビ──ム!!

そして、とどめの必殺光線がベノラを完全に消滅させた。

一平「ヤッホー、勝ったぞ!」
ゆか「ついに勝ったのね、私たち!」
一平「おう。キンググリッドマンのおかげだぜ」
ゆか「それと…… 直人の……」


一方、カーンデジファーと武史は怒りと悔しさに打ち震えている。

武史「くそっ…… ベノラが倒されるとは……!」
カーンデジファー「またしても奴に勝利を奪われた。しかし覚えておれ! いつか必ず、この仕返しをしてやるぞ」


破壊されたコンピューターワールドと汚染された現実世界は、キンググリッドマンの修復光線「フィクサービーム」で元に戻された。

カナ「やった~、グリッドマンが勝った!」
宗一郎「いや~、しかし、かっこいいなぁ!」
道子「本当、惚れ惚れしちゃうわ」
大地「あっ、空が晴れていくよ!」
宗一郎「あっ! いや~、よかったなぁ。これでゆっくり風呂に入れるな」


直人たちは再び展望台から町を見下ろしていた。

一平「いやー、今度こそはグリッドマンも終わりかと思ったぜ」
ゆか「本当、危なかったわ」
直人「実は俺ももうダメかと思ったんだ」
一平「だろうなぁ」
直人「でも、あの時声が聞こえたんだ」
一平「なんて?」
直人「『私がついてるから頑張って』って」
一平「……誰の声だよ?」
直人「へへん」
一平「……ゆか? お前、あの時……!!」
ゆか「きっと空耳よ」
一平「ちっきしょ~、なんでゆかは直人ばっかり……」
ゆか「だから、空耳だって言ってるでしょ?」
一平「俺がスープ作ってる間になんかあったんじゃないか?」
ゆか「なんにもないわよ! 私は介抱してただけ。何かあったとしたら、それはグリッドマンと…… ね、直人!」

ゆかが展望台の階段を下りていく。

直人「あ、ああ」
一平「な~んか怪しいな…… おい、正直に話せよ?」
直人「なんにもないって! 俺、覚えてないもん」
一平「ほんとか!?」
直人「ほんとだってば! あっ、それよか行こうぜ!」

直人と一平もゆかを追って地上に下りていく。



こうして、グリッドマン最大の危機は去った。
しかし、本当の戦いは、まだ始まったばかりかもしれない。

この青い空と、人類の平和を守るために、戦え直人!
戦え、グリッドマン!!



つづく

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2021年05月06日 13:37

*1 第21話、幻覚怪獣ダズルバ戦。