DOGDAYSの最終回

リコッタ「勇者様が元の世界に帰る条件。
それは、あんまりにも切なくて・・・みんなのために頑張ってくれた勇者様が、一緒に過ごした記憶さえ持ち帰れないなんて、そんなの、絶対におかしいのであります!
悲しいお別れなんて・・・いやなのであります!」

EPISODE 13 「約束」


フィリアンノ城。
泊まっていたガウルとジェノワーズが寝ている中、シンクは机に持ち物を広げ、窓の外を見ていた。

その後、シンクとミルヒは花畑で散歩をしていた。
ミルヒ「夏休みって、何日後ぐらいなんですか?」
シンク「えーと・・・地球換算だと、今日は4月4日だから・・・100日ちょっとくらいかな」
ミルヒ「100日・・・ですか。そんなに会えないと、さみしいですね」
シンク「でも、2,3日の滞在なら連休もあるし、緊急の時ならいつでもお呼ばれするから」
ミルヒ「はい・・・ありがとう、シンク」
シンク「ところで姫様、今日の式典ってホントにやらなきゃダメ・・・?」
ミルヒ「ダメですよ!シンクは勇者様なんですから、お見送りの式典はちゃんとしないとです!」


その後、シンクの送別の式典が開かれた。

老臣「ビスコッティの勇者シンクは、召喚の役目をひとまず終え、本日、故郷へと帰還される。勇者の剣、神剣パラディオンを、召喚主ミルフィオーレ姫へ」

ミルヒがシンクの手からパラディオンの指輪を外した。


図書館。
リコッタは一人、書物を調べていた。
リコッタ(まだもう少し・・・後もう少し・・・もうちょっとだけ待って欲しいであります・・・
勇者様と悲しいお別れをしなくてすむ方法・・・このページをめくれば・・・次の資料を探せば・・・見つかるかもしれないのであります・・・だから、まだ・・・」


シンク「リコ」
シンクが来ると、リコッタは涙を零しだした。

リコッタ「・・・ごめんなさい・・・ごめんなさいであります」
シンク「リコ・・・」
リコ「見つけられなかったであります・・・自分はやっぱり・・・ダメな子であります・・・」
シンク「そんな事ないよ。リコ・・・こんなに頑張ってくれた。僕は、思い出も何も持ち帰れないのかもしれないけど・・・だけど、それでも・・・絶対に忘れないし、きっと思いだすから」
リコッタ「勇者様・・・」
シンク「あ、そうだ。リコにプレゼントがあるんだ」
「これ、4色ボールペンと、あとポータブルスピーカー」
リコッタ「あ・・・」
シンク「流石に携帯は駄目だけど・・・これなら分解して遊べるんじゃないかなっって」
リコッタ「分解とかは・・・しないであります・・・大事に預かっておくであります・・・
ずっと・・・ずーっと・・・」
シンクはリコッタの頭を撫でた。


シンクとエクレールが、ハーランで召喚台に向かっていた。

エクレール「全く!最後まで貴様のお守りとはな」
シンク「そう言うなって!見送ってくれるのがエクレで、僕は嬉しいよ」
エクレール「あ・・・姫様はもう、召喚台で送還の準備をされておられる、我々もあんまりのんびりはしておれん」
シンク「うん。あっ、それでね、エクレ」
エクレール「ん?」
シンク「お古で悪いんだけど、良かったらこれ。もらってくれないかな?」
シンクが出したリストバンドを、エクレールは受け取った。

エクレール「まあ、預かっておく」
シンク「ありがと」
エクレール「そういえば何やら、みんなにも配っていたな」
シンク「うん。ダルキアン卿と騎士団長には、財布に入れてた記念コインを1個ずつ。ユッキーに携帯ストラップ、後は・・・」
エクレール「形見分けの様で、あまり感心しないな」
シンク「そうかなー」
エクレール「そうだ」


エクレール「・・・やはり・・・送還されたらもうフロニャルドには来られないのか?」
シンク「え・・・・・・うん・・・・何か記憶も無くしちゃうらいしよ、こっちで過ごした日々のこと・・・いつ・・・気付いたの?」
エクレール「リコの様子を見てたら、誰でも分かる」
シンク「そっか・・・」
エクレール「しかし・・・来る時は簡単だったと聞いてたが、帰る時にはそんな事になるとはな。馬鹿げた話だ」
シンク「うん・・・ま、忘れないけどね。フロニャルドで起きた事も、みんなと会ったことも。怒りっぽくてすぐ蹴るけど、強くて真っ直ぐな親衛隊長と・・・エクレールと、一緒にいたこと」
エクレール「私は・・・貴様の事など覚えてる自信はないが。訓練に戦に外交に・・・私も日々、忙しい」
シンク「寂しいなぁ・・・」
エクレール「忘れられて寂しいなら・・・忘れて欲しくないなら・・・」
シンク「!」
エクレール「何があろうと、貴様も我々を忘れるな・・・・それから、割と早めに帰ってこい・・・」
シンク「うん、きっと・・・」



召喚台。
ミルヒとタツマキが待っている所に、シンクが来た。
ミルヒ「シンク・・・」
シンク「姫様!」

タツマキがシンクの元に駆け寄った。
シンク「何だタツマキ、お前も来てたの?」
ミルヒ「はい、お見送りをしたいって」
シンク「あっ、そっか」

ミルヒ「送還の時には、私とシンクしかこの場に居られませんから・・・タツマキ、今のうちにシンクにご挨拶を」

シンクとタツマキは、手を重ねた。
シンク「うん、タツマキもありがと」

ミルヒ「待ってる間に、儀式の準備は済ませてあります。時間が来たら、来た時とは逆にここからシンクは空に昇って、元の世界へ帰ることが出来ます」
シンク「そう・・・」


ミルヒ「来てもらったのは、ついこの間の事のはずなのに、何だかもう、ずいぶん昔のことみたいです・・・」
シンク「うん・・・・」
ミルヒ「ここでシンクと会って、勇者になってもらって・・・色んなことがありましたけど・・・でも何より・・・・シンクが来てくれて・・・シンクといられて・・・楽しかったです・・すごく・・すっごく・・・」
ミルヒは涙を堪えていた。
シンク「・・・・僕も・・・僕だって楽しかったよ・・ビスコッティに呼んでもらって・・・姫様と居られて・・・でも、大丈夫・・・今度はきっと・・・夏休みにさ・・・
絶対、また来られるから・・・今度はきっと・・・もっと・・もっと・・・楽しいから・・・」
シンクが零した涙を、ミルヒがぬぐった。
ミルヒ「シンク・・・駄目ですよ・・・泣いちゃ・・・絶対、絶対・・・また会えるんですから・・・私達はもちろん・・シンクだって・・・私達の事、忘れたりなんかしないんですから・・・!」
シンク「忘れないよ・・・絶対、絶対・・・忘れない・・・」


2人の足下に光の陣が浮かんだ。

シンクはミルヒから離れ、陣の真ん中に向かった。

シンク「じゃあ!姫様!」

シンクが浮かび始めた。

ミルヒ「シンク・・・シンク!シンク―――!」

ミルヒがシンクの手を掴んだ。

ミルヒ「やです!帰っちゃ・・・やです!」
シンク「姫様・・・」
ミルヒ「もっとずっと!ずっとずっと!シンクと一緒にいたいです!」
シンク「そんなの・・・僕も、僕だって!姫様と!みんなと!!」
ミルヒ「大好きです!シンク!私は、ミルヒは!シンクのこと、ずっとずっと大好きです!!」
シンク「姫様・・・僕は!」

浮かぶ勢いが強くなり、ミルヒの手がシンクの手から離れた。

ミルヒ「っ!」

シンク「僕は!」
ミルヒ「シンク!」

シンク「姫様!僕だって!大好きだ!だから絶対・・・絶対また来るから!会いに来るから!約束するから―――――!!」

シンクは空の彼方へ消えていった—---


地球、紀ノ川市。
シンクの家。

レベッカ「シンク---、シンク――――起きてる?シンク――――?入るわよ」

シンクはベッドに腰かけていた。

レベッカ「お邪魔・・・」


シンク「ベッキー・・・」
レベッカ「何だ起きてるじゃない。返事ぐらいしてよね。何、今起きたの?


レベッカ「シンク・・・?」

シンクは涙を流していた。

シンク「え・・・」
レベッカ「何、どうかしたの?どっか痛い?」


レベッカ「つまり、話をまとめるとこういう事ね。春休みに入ってからの2週間、何処かに出かけていたと思うけど、どこに行っていたか全く覚えてない・・・」
シンク「イエス・・・」
レベッカ「でも、何だか凄く悲しい事があった気がする・・・」
シンク「それも、イエス・・・」

レベッカ「えと、記憶喪失、頭打った・・・嘘!8万4000件!?」
シンク「や、あの!検索とかしなくて平気!頭打ったとかじゃないと思うんだ。何かこう・・・うまく思い出せないだけって言うか・・・」
レベッカ「そう・・・でも一応病院行く!?見て貰った方が良い気がする!」
シンク「いやいや、大丈夫、大丈夫・・・」
レベッカ「それに旅行も・・・お父さんとお母さんに連絡しようか?」
シンク「ありがとうベッキー、でも本当に平気だから・・・朝ご飯食べて、出かけよう」


シンクとレベッカは道を歩く。
シンク「何か、スッゲー楽しかったような気がしてるんだよねー・・・ほっ!」

レベッカ「まあ、突発性健忘はひょんな切っ掛けで思い出すこともあるっていうし・・・」
シンク「だといいんだけど・・・」

シンクとレベッカは電車に乗った。
シンク(そうなんだ。僕は、割と普通の中学1年生で・・隣にはいつも、仲良しで優しい友達のベッキーがいて・・・)


2人は別荘に向かった。

シンク(春休みが終われば、新2年生で・・・)

シンク・レベッカ「「あ」」

七海「シンク――――!ベッキー――――!」


シンク(親戚で、師匠で、ライバルでもある七海がいて・・・)

七海が2人を抱きしめた。

七海「お久しぶりー、二人ともやっぱり可愛いな~」
シンク「久しぶりの挨拶がいきなりこれか-?」

レベッカ「あはは、七海苦しいよー」
七海「シンク~、チュ~~~」
シンク「やーめーれ!」

シンク(七海は本当に相変わらずで・・・)


シンク(海洋学者の父さんがいて・・・海洋生物学者の母さんがいて・・・)

夜、シンク達はバーベキューをした。

シンク(その辺は何も忘れてなんかいない、でも・・・でも何なんだろう・・・


シンクと七海は片手逆立ちをする。

七海「ラクショー!」
シンク「何の僕だってー!」

シンク(凄く大事な事を、忘れちゃってるこの感じ・・・とても大切なものがぽっかり抜け落ちてるみたいな、不安な気持ちを・・・)


フィリアンノ城図書館。

机で寝ていたリコの前に、ノワールが本を置いて、
その音でリコッタが起きた。

リコ「ノワ・・・?」
ノワール「ごめん、起こした?」
リコ「ううん、平気であります」
ノワール「シンクの里帰りがそんなに大変な事とは知らなくて・・・私、ちゃんと気付けば良かった・・・」
リコ「それが、勇者様の望みでありましたから」
ノワール「これ、ガレットの図書館から持ってきた召喚に関する書物・・・」
リコ「ありがとうであります


ノワール「え、この蝋冠、ビスコッティ領主のものじゃ・・・」

その手紙には「王立研究員宛 勇者召喚について」と書かれていた。

リコッタ「・・・!」

リコッタが図書館から飛び出した。

ノワール「召喚した勇者を送還する際の注意事項。
送還は、勇者が召喚主とフロニャルドと正しい関わりを持つことを拒んだ場合にのみ行う方法である。この場合、勇者はフロニャルドから記憶を含むあらゆる事を持ち帰る事が出来ない」


エクレールは、他の騎士達の訓練を見ていたが、涙の跡で顔を腫らしていた。

ノワール「ただしこの記憶は、すぐに失われる訳ではなく、送還後はいわば鍵をかけた状態となっており、その記憶が失われるまでには半年余りの日時が必要となる。
このため、送還した勇者を再召喚するためには、以下の条件を満たす必要がある」


ノワール「その1、最初の帰還から再召喚までは91日以上の時間を空けること。
その2,召喚主を含まない3名以上に対して、勇者自身が再びフロニャルドを訪れる
誓約を行い、勇者が身につけていた品物を預けておくこと。品物の内容は問わないが、元の世界から持ち込んだ品物であることが望ましい」


リコッタ「ああっ・・・」

ノワール「その3」


リコッタがミルヒの部屋に入った。
リコッタ「姫様!姫様!こんな早朝に申し訳ないであります!」
ミルヒ「リコ・・・どうしたんです?」
リコッタ「姫様、勇者様から何か預かっていたでありますよね!」
ミルヒ「はい・・・式典の後に・・・シンクが元の世界に帰ってから開けて欲しいと、これを・・・」
リコッタ「中身は!」
ミルヒ「それは・・・まだ・・・」
リコッタ「開けてみて欲しいであります!もしかしたら!もしかするとあります!」
ミルヒ「はい・・・」


ノワール「召喚主に対しては、誓約の品と約束の書を渡しておくこと・・・
約束の書には、必ず帰還の約束と共に、勇者と召喚主の名が記されていなければならない」


ミルヒ「親愛なる姫、ミルヒオーレ・F・ビスコッティ様。
勇者、シンク・イズミより。
感謝と愛と友情をこめて。

追伸。きっとまた帰ってきます。
勇者として、約束・・・リコ?」


リコッタ「やった――――!姫様!これならいけるであります!勇者様の再召喚が可能になるであります!」
ミルヒ「・・・本当!?」
リコッタ「はい!勇者様やっぱりちゃんと、約束を守ってくれたであります!」


1人、桜並木を歩いていたシンクの前に、タキマキがいた。
シンク「ん?」


タツマキがシンクに手紙を渡した。

シンク「!」

手紙の中からパラディオンの指輪が出てきて・・・



レベッカ「あ、シンク」
シンクがレベッカに抱きついた。

シンク「ベッキ―――!ベッキー!ベッキー、ベッキー、ベッキー!ベッキー!!」
レベッカ「ちょっ、シンク・・・」
シンク「ベッキー!」
レベッカ「ああっ!」

シンクがレベッカを持ち上げて、そのままこけた。
レベッカ「もう、何、どうしたの?」
シンク「思い出した!全部思い出した!」
レベッカ「あら、本当!」
シンク「すっげー楽しいとこだった!嬉しいこといっぱいあった!友達もたくさんできた!」
レベッカ「そう・・・」
シンク「夏休み、ベッキーも一緒に行こう!」
レベッカ「う、うん。まっ、行っていいなら行くけど・・・」

七海「あーー!シンク-、ベッキー!2人でずるーい、私も混ぜて!」

レベッカ「いいよー」
シンク「え?」

七海「おりゃ―――!」

七海が飛び込んできた。

シンク「おわっ!あ――――っ!」


シンク(中学1年から2年に変わる春休み、僕は勇者でした!夏休みにはまた、勇者になりに、あの場所に帰ります!)

シンクと七海が棒で打ち合う。
シンクは棒を弾かれるも、飛び上がり、棒を取って着地した。
その指に付けられたパラディオンの指輪が輝く。


ミルヒも送還台で空を見上げていた。



(完)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2021年07月05日 09:08