超速パラヒーロー ガンディーンの最終回

大志はコーチの京に、謎の青年グーや変身のことを秘密にしたまま、車椅子レースの特訓を続ける。
しかし京が怪獣に襲われ、大志は変身して京を救う。
危機は脱したものの、京はショックから脱しきれない。



第3話 / 共闘 : team



京「あれは何なんですか!? 何であんなものが襲ってくるんですか!? 大志くん、私に『強くなりたい』って言ってたけど、まさか、あんなのと戦うためだったの!? 『コーチの私には何でも話して』って言ったのに、何で話してくれなかったの!?」
大志「それは……」
源「すみません、俺が大志に口止めしてました」
京「だったらちゃんと説明してください! なんで大志くんが変身とかしてるんですか!? 彼は誰!? 何者!?」
モーメン「あぁ、彼は宇宙からヤッテ来て……」
赤城「モーメン!?」
京「宇宙からって!? そ、そんな……!? 無理…… か、帰ります……」
大志「深井さん! 怖い思いをさせてしまって、申しわけありませんでした」

大志は、深々と頭を下げる。

京「……次の記録会は、どうするつもりなの?」
大志「もちろん、出たいです」
京「なら、私と一緒に来て! うちの大学に合宿所があるから、そこに避難して! トレーニングに専念するの!」
大志「それは…… できません」

京は無言で立ち去る。


後日、京は大学院の食堂で、大志たちのことを思っている。
坂本が背後から、京の肩をポンと叩く。

坂本「よぉ」
京「きゃ、きゃあっ!!」

京が過剰に驚き、食器を落とす。

京「あ、す、すみません!! 私、またトカゲが襲ってきたのかと……」
坂本「トカゲ?」
京「あ、いえ…… すみません、大丈夫ですか?」
坂本「それは、私が君に聞くことだ。──何があった?」
京「……絶対に、信じられないことが起こったら、どう対処すればいいんでしょうか?」
坂本「どの程度の、信じられないことによるんじゃないかな」
京「大志くん…… 怪物を退治するって言いだしたんです」
坂本「……?」

京は真剣に、坂本を見据える。

坂本「──なるほど、真面目な話のようだ。怪物退治?」
京「はい。遥か、宇宙の彼方からやって来たんです」
坂本「つまり、トカゲのような宇宙怪物?」

京が、怪物に襲われた傷跡を見せる。

坂本「まともに信じられる話じゃないが、君が心底怯え、激しく動揺していることは、手に取るようにわかる。だから、その、なんだ…… トカゲ? それも信じよう」
京「はい……」
坂本「彼は、大丈夫なのか? 彼の家族や、工場の人たちは?」
京「はい。というか、あれと戦って、追い返したりしてて」
坂本「戦った? まさか、『シュワッチ』とか、変身して?」

坂本がおどけて、ウルトラマンを真似たポーズをとる。
京の真剣な様子は変わらない。

坂本「マジか…… はぁ……」
京「私…… もう、続けられません。申しわけありません」
坂本「……心底そう思うなら、辞めなさい。『命の危険を冒してまで続けろ』なんて、誰にも言えるわけはない。ただ──」
京「ただ?」
坂本「少し残念かな。君なら、一度は大きな挫折を経験した君なら、大志くんのコーチを任せられると思ったから」
京「……」
坂本「大志くんが陸上を続ける気でいるかどうか、それだけは確認してくれ。君が辞めたら、別の誰かを捜してやらなきゃならない。君を紹介した私の責任もあるし」
京「別の誰かって、自衛隊か何かじゃなきゃ無理ですよ! もし彼が続ける気なら、そのコーチも一緒に戦うことになるかもしれないんですよ!?」
坂本「『選手とコーチは一心同体。アスリートが死ぬ気で努力するなら、コーチも命がけで付き合う』── 一般論だ。『一緒に宇宙怪獣と戦え』なんて、どんなコーチングマニュアルにも書かれてない。君は彼と距離を置きなさい。それが一番だ」


京は、大志の練習場をそっと覗く。
大志は単身、車椅子レースの特訓に励んでいる。

(大志『俺に誰かを守ることなんて、できると思いますか?』)

大志くん、あのとき……

(大志『俺にだって、限界はあるんだよ!』)

京が大志の前に進み出る。

京「次。バトルロープ、いくよ!」
大志「深井さん!? どうして?」
京「選手が逃げないのに、コーチが逃げるわけにはいかないでしょ? そりゃ、今だってあの怪物は怖いし、見たくもない。でも、それは大志くんも同じだよね?」
大志「深井さん……」
京「陸上を続けるって話、信じていいの?」
大志「……もちろんです!」
京「大志くんが本気で陸上を続ける気持ちがあるなら、私も戦う。だって──」

そう。私、言ってたよね……

京「選手とコーチは、一緒に戦うバディだから!」
大志「深井さん……!」
京「あんな怪物には邪魔されたくない。とにかく、トレーニングのときは集中。今できることに集中するの。あっ、でもそれは、ただ練習をこなすってだけのことじゃなくて──」

源と理央が駆けこんでくる。

源「大志ぃ!! っと、深井さん!?」
理央「グーがいなくなっちゃった!!」
大志「えっ!?」
理央「『僕はここにいちゃいけない。けど、どこにも行けない。だから僕は隠れる。絶対に捕まらないように』って」
大志「どういうこと? なんか、怯えてる感じ」
源「あれだ……!」
大志「あれ?」
源「あれを解明すれば、きっとグーのことがわかる。たぶん……」
大志「だから、あれって何!? 親父?」


大志たちに京や工場一同も加わり、第1話でも大志たちが参拝していた、友裡(ともうら)神社へやってくる。
源は一同に、神社の神体を見せる。

源「これだ」
理央「ご神体じゃん、これ」
源「こいつの秘密を解く」
京「秘密って何ですか? これは一体……」
源「大昔、双子星の秘密がこの中に収められたと聞いてる。ただ、何やっても開かない」
理央「お婆ちゃんから教わってた。開けるんじゃない、ご神体の言葉を聞くの」
大志「えっ? これ、喋んの!?」

理央が神体に、手をかざす。

理央「アレット・タエラ── アレット・タエラ── 源さん、トキエ婆ちゃんが『ありがとう』って言ってる」

光があふれ、空中に太陽系の姿が浮かび上がる。
そして、それとそっくりなもう一つの恒星系の姿。

地球とアラート星は、
数十万光年離れた別の銀河にありながらも
互いの命をシンクロさせた、
双子のような存在なのだと、ご神体は、
私たちの心に直接、語りかけてきた。

どちらかが熱を出せば、もう一方も熱を出す。
そんな、双子のような星。

その双子星に住む、とある種族には、
数世代に1人、
とてつもない力を持つ者が生まれるという。

それがどんな力かっていうと……

人間と無機物を植物の力に変える。
これを「緑死(りょくし)」という。

地球とその文明を緑化させ、
アラート星そっくりな星に変えてしまう
強大な力と、ご神体は語った──

京「……って、理解の限界、越えてるんですけど!?」
若林「もしかして、グーがその、数世代に1人の!?」
源「赤い角の女の狙いは、グーのそのパワーか」
大志「えっ? じゃあ…… グーは、人類殲滅兵器ってこと?」
理央「グーが怯えてたのは、それを教えられちゃったから?」
京「赤い角に捕まるわけにはいかない。だけど逃げようにも、地球から離れることも今はできない。だから──」
大志「身を隠すしかない、ってこと? そんなの駄目だよ! グーはどこに!?」

神体が光を放ち、どこかの地を指す。

源「何だ!?」
理央「グーのいるとこ、教えてるのかも?」
大志「じゃあ、行こう!」
理央「ちょっと!? 私、『かも』って言ったんだよ!?」
源「可能性があるなら動くのみだ。君たちはご神体を頼む」
若林「あ、頼まれちゃった……」


大志、源、京、理央が、光の指した辺りを捜しまわる。

源「どっちだ?」
理央「なんで私がわかると思うの?」
大志「『こっちかも』みたいなこと言ってくれるかなって」
源「『かも』はいいから! じゃあ大志、理央、こっちへ。深井さん、我々はこっちへ」

一同は手分けして、グーを捜す。

大志「グー!」
理央「グー!」
大志「……理央、こっち!」
理央「ちょっと、何!?」

大志が理央を連れ、木陰に身を隠す。
アラート星から来た怪物ラゲルトが、頭上で空を舞っている。

大志「あいつもグーを捜してるんだ」
理央「早く見つけなきゃ…… グーを1人にしとけない」
大志「……こんな真剣な理央、初めて見た」
理央「グーは生まれて初めて、『私でも何かできる』って思わせてくれた人だから……」

大志と理央は、グーの捜索を続ける。

理央「大志はさ、何があっても前向きだったじゃん。馬鹿みたいな夢も本気で語っちゃってさ。でも私には、やりたいことなんて何もない…… 『何のために生きてんだろ。生きる意味あんのかな』って。でもグーの絵文字を読めて、初めてみんなの役に立てた気がして、すごく嬉しかったんだ。『生きてていいんだ』って言われてるみたいでさ」
大志「ずっと前から…… 理央は俺らの役に立ってるよ」
理央「?」
大志「俺は、理央がいてくれるだけで嬉しい」
理央「やだ…… 告ってる? この非常事態の真ん中で」
大志「いや、そうじゃなくて──」

不意に脳裏に、グーの姿が浮かぶ。

大志「理央!」
理央「何? どうしたの?」

一方の源と京。

源「すいません、こんなことに巻き込んでしまって……」
京「いいんです。大志くんのコーチになるってことは、私が決めたことですし、ここで中途半端なことしたら、絶対後悔しちゃいますから」

大志たちが、源と鉢合わせする。

源「大志!?」
大志「親父! 頭ん中で、グーが俺に助けを! こっち!」

グーが頭に血を流して倒れている。

大志「グー! 親父、手伝って!」
源「大丈夫か!? おい!」

ラゲルトの声が迫ってくる。
大志が変身し、手を宙にかざす。
周囲に無数のツタ植物が張り巡らされ、大志たちを覆う。

理央「大志、すげぇ……」
大志「シッ!」

ラゲルトは大志たちの姿を見失ったように、飛び去ってゆく。


グーは森宮家に連れ戻され、意識を取り戻し、傷の手当てを受ける。

グー「ダイシ……」
理央「喋った!?」

それ以上は喋れないようで、空中に絵文字のメッセージを表示する。
理央がそれを読み取り、通訳する。

理央「『君たちを巻き込んでしまった』──」
大志「今さら何言ってんだよ」
源「お前さんが人類絶滅規模の危険物なら、そこらへんに放っとけんしな」
理央「『僕のせいで』──」
大志「待って、読まなくてもわかる」


赤城たちは工場で、大志のために、レーサー用車椅子を戦闘用に改造している。

赤城「レーサーでいくって選択、間違ってないですよね」
若林「強度より速さだ。どのみち向こうの攻撃をまともに食らったら、どんなに強度を上げたってもたない。なら攻撃を受ける前に、素早くよけられるほうがいい」

理央が顔を出す。

理央「モーメン、できた?」
若林「えっ、何何?」

モーメンがボディのロゴを示す。
英字の「G AND D」をデザインしたロゴが描かれている。

若林「あっ! グーと大志で、ジー・アンド・ディー!」
赤城「じゃなくて、ガンディーだ!」
モーメン「ノーノー!」
理央「もっと、ヒーローらしく! せーの!」
理央・モーメン「ガンディーン!!

理央とモーメンがポーズを決め、その姿に番組ロゴが重なる。

若林「え~、何それ?」
赤城「やりたいやりたい!」
若林「せーの!」
一同「ガンディーン!!

源まで加わっている。

源「ガンディーン…… 何?」

グーは一同に、輪状のカッター武器を示す。

赤城「おぉ! 凄い!」
若林「グー、それ使っていいの?」
モーメン「でも、何に使います?」
一同「ホイール!」
源「ハンドル! ……あっ、違う?」


大志は京のコーチのもと、より一層、練習に励んでいる。

京「もっともっと! ほら、視線! 上に上げて! 下げないで!」「もっと大きく、上まで降って! そうそう、いい感じ!」

源が練習場に飛び込んでくる。

源「大志! またトカゲが出たぞ!」
大志「どこに!?」

そして場面は、第1話冒頭の場面となる。
テレビのニュースが、街中に現れた怪物ラゲルトのことを報じている。

アナウンサー『午後2時頃に現れた巨大生物は依然、破壊行為を続けています。その影響で、近隣では停電が起き、交通網も麻痺して…… あっ、あちらをご覧ください! 巨大生物が見上げる先に、人影が!』

ビルの上に、グーを狙う謎の女、大志たちが言うところの「赤い角」のラルーがいる。

京「あの女!?」

ラルーが宙に、絵文字のメッセージを描き出す。

若林「女からの絵文字!?」
アナウンサー『これは、何かのメッセージなのでしょうか?』
理央「『お前の視線を感じる。逃げても隠れても、お前の種族は救えない。それがわからないのか』── どうするのよ、大志!?」
大志「どうするも何も……」

戦闘用の車椅子「ハイパーホイール」は、すでに完成している。

大志「グーは、俺が守る。もちろん、みんなも」
源「……大志の覚悟は決まった。君はどうする?」

源がグーを見やる。
グーは静かに頷き、大志を見据える。

工場の外で、グーが手をかざす。
光があふれ、宙に穴が開く。

大志はハイパーホイールに乗り、装甲に身を固めたヒーロー・ガンディーンに変身する。


怪物ラゲルトが街中で、暴挙を続ける。
空間を突き抜けて、ガンディーンが姿を現す。

ガンディーンが突進して、火炎放射を見舞う。
ラゲルトはそれをかわし、ガンディーンを跳ね飛ばし、自らも翼で宙を舞う。
ガンディーンが蔓草を伸ばして、怪物にしがみつく。

ビルを砕きつつ、空中戦が続く。
ガンディーンが振り落とされ、どうにか地上に着地する。
ラゲルトは地面を砕きつつ、激しく突き進んでくる。

そこへガンディーン同様、空間を突き抜けて、京の運転する軽トラックが飛び出す。
京のトラックがラゲルトをはね飛ばして、ガンディーンを窮地から救う。

京「大志くん!」
ガンディーン「深井さん!?」
京「グーからの伝言! 『あの怪物は、ただ操られてるだけ。だから怪物を止めるなら』──」
ガンディーン「あの女を!」

ラゲルトは翼で宙を待っている。
ガンディーンのハイパーホイールから、グーに託されたカッターが伸びる。
ビルの垂直な壁を駆け登って大ジャンプ、カッターでラゲルトに攻撃をしかける。


ガンディーンと戦いの様子が、テレビで報じられている。
源や理央たちが、固唾を飲んで見入っている。

アナウンサー『現在、香布市駅前から、中継でお送りしています。午後2時頃に現れた巨大生物は……』

源「俺たちはチームだ。サポートするぞ!」
一同「えっ!?」「ちょ、ちょっと」「まさか、社長さん!?」

源が、大志のために作っていたロケットを示す。

源「こいつをミサイルにする。尻に火ぃつけてぶっ飛ばせばいい。んなもん、花火と同じだ」
若林「でも町にミサイルだなんて、無茶です!」
源「グーの力を使えば、あの怪物の真ん中まで一瞬で飛ばせる。だよな、グー?」

グーが力強く、サムズアップを決める。

グー「グー!」
赤城「……だったら、私たちもやりますよ!」
モーメン「地球の一大事ダア!」
若林「怖気づいてる場合じゃねぇな!」
源「おい理央、当たったら痛そうなもん、何でもいいから集めて来い! 弾頭に詰め込む!」
理央「はい!」
源「やるぞぉぉ!!」
一同「お──っ!!」

ガンディーンはラゲルトに捕らわれて、絶体絶命。

源「カウントダウン、開始!」
若林「10…… 9…… 8……」
源「7654321! 点火!」
赤城「う、嘘ぉ!?」

ミサイルが噴煙を上げて、飛び立つ。
工場の上空から、グーの力で空間を超えて、ガンディーンのもとへ飛び出す。

ガンディーン「無茶だろ、親父!?」

ミサイルがラゲルトに炸裂する。
大爆発と共にラゲルトが落下、ガンディーンも解放される。

京「よしっ!」

源たちが、煤だらけの真っ黒な顔で歓喜する。

一同「やったぁ──!!」「大志! 大志!」

ラゲルトが地上に叩きつけられ、ガンディーンも着地する。
ラゲルトは片翼を失い、再び地上戦となる。

ガンディーンは攻撃を避けつつ、矢のように疾走する。
しかし連続攻撃を避けきれず、ハイパーホイールから投げ出されてしまう。

ガンディーン「駄目か……!?」

(京『やる前からできないなんて言わないで。やれるだけ、やってみるしかないっしょ!』)

京「大志いぃぃ──!!」

ガンディーンが体一つで、ラゲルトの体にしがみつく。

ガンディーン「やれるだけ、やってみるしかないっしょ!!」

そのまま、腕2本だけで力強く、ラゲルトの体表をよじ登り、頭上までたどり着く。

ガンディーン「うぅおおぉぉ──!! どりゃああ!!

渾身の鉄拳を叩き込み、ラゲルトの額の角が砕け散る。

ラゲルトが制御を失って倒れ、ガンディーンが宙に投げ出される。
京はとっさにトラックに乗って、その真下へと走り出す。

ガンディーンが手を伸ばす。
京が腕を伸ばす。

2つの手が空中で結ばれる。

京のトラックが走り去る。
ラゲルトが倒れ、完全に動きを止める。

ラルーは絶叫しつつ、姿を消す。


その様子を、誰かが密かにスマートフォンに収めている──


その夜。
源は工場で、巡査の聞き込みに応対している。

源「いやいや。『ミサイル』ってお巡りさん、ちょっと待って。花火、花火です。火薬が多くてね、ちょっと……」
巡査「中で何やってんの?」
源「うちは、夢と希望を作ってます」
巡査「みんな顔、真っ黒だけど、何?」
源「いや、ちょっと花火に火つけたら、ちょっと……」
巡査「いや、花火にしちゃ規模が大きいでしょ?」


テレビのニュースで、ガンディーンの戦いが報じられている。

アナウンサー『現場の瑞原です。競技用の車椅子に似たあの乗り物には、こんな文字が── これは、ジー・アンド・ディーと読むのでしょうか?』

理央「じゃなくて、ガンディーン!」
源「あ~、参った参った。何とかごまかせたけどなぁ」
若林「もう、あのロケットに何年かかったと……」
源「大志が無事なら、また何年かかったって、作り直しゃいいだろ」
赤城「まぁ、確かに……」

京「もう、大志くんたちは安全なの?」

グーが頷く。

大志「今日は、グーを守れた。だから、きっと明日も大丈夫」
理央「宇宙船が直るまでここにいるならさ、言葉おぼえなよ。通訳は、私のやりたいことじゃないし」
大志「おぉ? 何か、やりたいこと見つかった?」
理央「やりたくないことは何かってこと、リストアップすることにした! 通訳はその1番目」
源「炊事のバイトは何番目だ? あ~、腹減ったぁ!」
理央「バイト代、上げてね! ここ結構、危険な職場だし!」

グーが大志を真似るように、拳を突き出す。
大志が拳を重ね、白い歯を見せて笑顔を返す。
グーもかすかに、頬を緩めて応える。


どこかの部屋。
黒い服の怪しげな男たちが、書類とガンディーンの写真を見ている。

「穏便に処理したと、本庁から連絡が」
「この男の持つ力…… 興味深いね」
「すでに捜させています」

男たちの目の前で、シャッターが開く。
防護服姿の作業員たちが、怪物ラゲルトの死体の解析に当たっている。


青空の下の競技場。
大志が京のもとで、車椅子レースの準備を進めている。

私の大志くんの前に立ちはだかる壁。
それがどんなものであっても、
これからは一緒に乗り越えていく。

そう、もう迷わない。

だって── だって私は、
大志くんのコーチで、バディなんだから!

大志「深井さん、誰と話してるんですか?」
京「あっ、何でもない! じゃあ、行くよ!」

「オン・ユア・マーク。セット・ゴー!!」

大志が勢いよく駆け出す。

青空がどこまでも広がっている。

その向こう、不穏な空気を予感させるように暗雲が満ち始め、雷が不気味に鳴っている──


(終)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2021年07月23日 21:12