銀座のデパート。
店内の客たちが、大混乱に陥っている。
アナウンス「皆様、騒いではいけません! 気を落ち着けてください!」
逃げ惑う客たちを押しのけて、2人の巡査が駆けつける。
玩具売場で、かつて科学特捜隊の前に現れた友好珍獣ピグモンが、無邪気に声をあげていた。
客たちが遠巻きに見ており、母に連れられた子供もいる。
子供「ママ、ピグモン! ピグモンだよ」
ある日、銀座の真ん中にあるデパートに、
真昼間、突然、ピグモンが姿を現し、人々を驚かせた。
店長「お巡りさん、何ぼんやりしてるんですよ!? 早く引きとってくださいよ! うちの店には、怪獣に売る物なんて置いてないんだから! さぁ、早く早く!」
巡査たち「こ、こういう事件は……」「か、科学特捜隊!」
通報を受けて、科学特捜隊の隊員たちが駆けつける。
ムラマツ「ピグモンはどこです!」
巡査たち「シーッ!」「ご苦労様です」
ピグモンは静かに、眠っている。
フジ「ピグモン! ピグモン、起きなさい」
ピグモンが目を覚まし、一同の姿を認め、嬉しそうに声をあげる。
ムラマツ「やぁ、しばらくだったな、ピグモン」
フジ「やっぱり、あのときのピグモンだわ。ようこそ、ピグモン」
ピグモン「クゥーッ! クゥーッ!」
ピグモンが急に、何かを訴えるような激しい声をあげる。
フジ「どうしたの、ピグモン? 何かあったの!?」
ハヤタ「キャップ、ピグモンは我々に何か言いたいことがあるようですね」
イデ「あのぉ、どなたか通訳できる方はいらっしゃいませんか?」
アラシ「馬鹿。怪獣の言葉がわかる人なんて、いるもんか」
フジ「何か事件でも起きるのかしら?」
店長「あの…… この怪獣さん、このへんで引き取っていただけないでしょうか?」
ムラマツ「皆さん、安心してください。ピグモンは恐ろしい怪獣ではありません。我々人間に味方する、気の優しい動物なんです」
子供「ね? ママ、僕の言った通りだろ?」
科学特捜隊一同は、ピグモンを連れて本部に帰還する。
ムラマツ「フジくん、ピグモンの様子はどうかね?」
フジ「喋り疲れたのか、ぐったりして寝ちゃいました」
ムラマツ「あの様子では、ただごとじゃないね。一体、何が言いたいんだろう?」
ハヤタ「どうも、気になりますね」
アラシ「そうだ! 東西大学の権田博士に、ピグモンの言葉を分析してもらいましょうよ」
ムラマツ「権田博士って、例の、イルカの言葉を研究している?」
アラシ「そうです、イルカ博士です。あの人なら、何かわかるかもしれませんよ」
フジ「グッドアイディアだわ! ピグモンの声は、単なる音声とは思えないわ。あれは確かに言葉よ」
権田博士のもと、ピグモンの声の分析が始められる。
権田「見てください。この通り、周期的に同じことを繰り返しています。これは間違いなく、言葉です」
ムラマツ「解読できますか?」
権田「さぁ…… 難解な暗号文を解くよりも難しい作業ですからなぁ。しかし、やってみましょう」
ムラマツ「よろしくお願いします」
こうして、ピグモンはイルカ博士のもとに預けられ、言葉の分析が開始された。
だが、さすがのイルカ博士も、「怪獣語」の分析には、ほとほと手を焼いていた。
科学特捜隊本部。
アラシが怒りの様子で、イデに自分の武器類を見せる。
アラシ「おい、イデ! 何だ、これは! スパイダーもマルス133も調子がおかしいからって、3日も前から修理を頼んでおいたじゃないか!?」
イデ「……ごめん、忘れてたんだ」
アラシ「何ぃ!? 忘れたとは何だ! 武器の修理は君の任務じゃないか!」
フジ「アラシ隊員! 何も、そんなに怒鳴らなくたって!」
アラシ「いや、許せないよ。もし事件でも起こったらどうするんだい!? 敵と丸腰で戦えってのかい!? 武器の整備は科学特捜隊の基本だからね!」
フジ「今、イデ隊員はね、怪獣語翻訳機に取り組んで、毎晩徹夜の連続なのよ?」
アラシ「それとこれとは別だ!」
イデ「……すまん。すぐに修理するよ」
そこへ、ムラマツとハヤタが現れる。
ムラマツ「おい、みんな! 権田博士の努力で、何とかピグモンの言葉が解明できそうだぞ!」
ハヤタ「明日中には結果が出るそうだ。……おい、イデ、翻訳機は完成したろうな?」
イデ「それが…… まだなんだ」
ハヤタ「何、まだ!?」
ムラマツ「どうしたんだ? いつもの君にしては、仕事のスピードが遅いじゃないか」
イデ「申しわけありません…… 今夜中に仕上げます」
イデが去る。
ハヤタ「どうしたんだ、イデの奴? 馬鹿に元気がないじゃないか」
アラシ「そうなんだよ。最近どうも様子がおかしいんだ、あいつ!」
ムラマツ「まぁ、ほっとけ、ほっとけ。いくら呑気者のイデでも、人の子だ。悩みぐらいあるさ」
イデは自室で深夜まで、翻訳機の製作に取り組んでいる。
ハヤタがコーヒーを運んでくる。
ハヤタ「ご苦労さん」
イデ「どうも…… 遅れてすまん。今夜中には仕上げるよ」
ハヤタ「少し休めよ。明日までに完成すればいいんだ。昼間は武器のことで、アラシにやられたそうじゃないか」
イデ「僕が悪かったんだ……」
ふいに、イデがハヤタを見る。
イデ「ハヤタ、君は何も感じないか?」
ハヤタ「何を?」
イデ「仕事のことさ。我々科学特捜隊が、どんなにがんばっても、結局敵を倒すのは、いつもウルトラマンだ……」
ハヤタ「……」
ウルトラマン自身であるハヤタは、言葉を失う。
イデ「僕がどんな新兵器を作っても、大抵、役に立たんじゃないか。いや、新兵器だけじゃない。我々科学特捜隊も、ウルトラマンさえいれば、必要ないような気がするんだ!」
ハヤタ「何を言うんだ、イデ。スーパーガンやスパイダーショット、それにマルス133も立派に敵を倒したじゃないか。それに、科特隊がウルトラマンを助けたことだってある。アントラーに青い石を投げなかったら、ウルトラマンはアントラーの犠牲になったかもしれん。ケムラーと戦ったときだって、マッドバズーカを撃ち込まなかったら、ケムラーの亜硫酸ガスで、ウルトラマンはやられていたかもしれない。持ちつ持たれつだよ!」
イデ「そうかなぁ…… 僕はウルトラマンさえいれば…… 十分だと思うんだ……」
権田博士は依然、ピグモンの声の分析を続けている。
ピグモンが突然、激しい声をあげる。
ピグモン「クァ──ッ!! クァ──ッ!!」
権田「ピグモン、どうしたんだ!?」
その頃、とある山中で、かつて倒されたはずの彗星怪獣ドラコと地底怪獣テレスドンが目覚め、再び活動を開始した。
両者が戦い始める。ドラコの腕にかみつくテレスドン。するとそこに、また別の怪獣の唸り声が響き渡った。
戦いをやめ、天地を揺るがすようなその声の主にかしずく怪獣たち──。
一夜が明けて──
権田博士の車が、科学特捜隊本部に向かっていた。
権田がピグモンを連れ、科学特捜隊本部を訪ねる。
ムラマツ「よくやってくれました、感謝します」
権田「ピグモンが、よく協力してくれましたからね」
ムラマツ「では早速、始めましょう。イデ、準備を頼む」
イデ「はい」
イデが、完成した怪獣語翻訳機を準備する。
イデ「地下の電子頭脳には、すでに怪獣語のアルファベットを記憶させてありますから、ピグモンの声をこの翻訳機にかければ、人間の言葉に訳されて送られてきます」
ムラマツ「ピグモン、さぁ、準備はできたぞ」
ピグモン「クウ──ッ! クウ──ッ!」
ピグモンの声が、翻訳機により人間語に変換され、再生される。
翻訳機『科学特捜隊とウルトラマンに倒された怪獣たちが、ジェロニモンの力で命を復活して、科学特捜隊に復讐するため、総攻撃をかける』
ムラマツ「怪獣総攻撃!?」
フジ「ピグモン、本当なの!?」
アラシ「シッ!」
翻訳機『あと5時間で、世界各地から60匹以上の怪獣が、日本に集結する。今の内に、早くジェロニモンを倒せ』
ムラマツ「ジェロニモン……?」
翻訳機『ジェロニモンは、怪獣の酋長だ。超能力を持っている。注意せよ』
ムラマツ「すると怪獣どもは、ジェロニモンの超能力で命を吹き返したのか」
フジ「でも、その中のピグモンが人類の味方だっていうことを、さすがのジェロニモンも気がつかなかったのね」
ムラマツ「ピグモン、よく連絡してくれた。ありがとう!」
ピグモン「ク──ッ、ク──ッ!」
アラシ「キャップ! あと5時間で、60匹以上の怪獣が姿を現すんですよ? ピグモンの言う通り、ジェロニモンを叩きましょう!」
ムラマツ「もちろんだ! だが…… ジェロニモンは一体どこにいるんだ」
ピグモン「ク──ッ、ク──ッ!」
権田「ガイドは任せろって言ってるんですよ」
ムラマツ「ピグモン、よろしく頼むぞ。よし、出動!!」
科学特捜隊がピグモンを連れて、戦闘攻撃機ジェットビートルで出動する。
こうして、怪獣たちの恐るべき計画をキャッチした科学特捜隊は
ピグモンの案内で、一路、怪獣集結の地点に向かった!
ピグモン「クーッ、クゥーッ」
ハヤタ「わかった、右だな」
ピグモン「──クゥ、クウッ」
アラシ「えっ? ──そうか。直進!」
ムラマツ「このまま進めば、大岩山の方向だ」
一同はピグモンの声と仕草で、ビートルを現場に向かわせる。
やがてピグモンが激しく鳴き出す。
地上の岩山に、ドラコとテレスドンの姿が見える。
アラシ「あっ、ドラコ発見!」
ハヤタ「テレスドンもいるぞ!」
ムラマツ「何、もう集まってるのか!? 他には?」
ハヤタ「他にはいません。ドラコとテレスドンの2匹だけです」
ムラマツ「よし、着陸するんだ」
ビートルが、地上に着陸する。
ムラマツ「2班に分かれて戦おう。ハヤタとイデはドラコ、アラシ・フジは私とテレスドンを。一度は戦ったことのある相手だが、決して油断してはならない。いいな?」
一同「了解!」
ピグモン「クウ──ッ! クゥッ、クゥッ!」
ムラマツ「残念ながらピグモンはビートルの留守番だ、万一のことがあったら大変だからな。行くぞ!」
フジ「ピグモン、表に出ては駄目よ。ね?」
一同は二手に分かれて、それぞれ標的の方へに向かう。
ハヤタ「イデ、急げ! 4時間後には敵が60匹だぞ── あっ!」
2人がドラコを見つける。
ハヤタは攻撃の準備にかかるものの、イデは空を見上げている。
ハヤタ「何を見てるんだ?」
イデ「ウルトラマンが今に来るさ……」
ハヤタ「馬鹿を言え! 『棚から牡丹餅』式で勝利が得られるか!? ウルトラマンは、我々が力一杯戦ってるときだけ力を貸してくれるんだ!」
ドラコが2人の横を通り過ぎた。
ハヤタ「今だ!」
ハヤタたちがドラコを銃撃する。
一方でムラマツたちも、テレスドンに立ち向かっている。
スーパーガンで銃撃を加えるものの、テレスドンには効果がない。
ムラマツ「アラシ、フジ、トリプルショットだ!」
3人がそれぞれのスーパーガンを1つに合わせ、三位一体の光線を放つ。
強烈な一撃を受けて、テレスドンが倒れる。
ムラマツ「やった!」
一方のハヤタとイデ。
イデは攻撃もせずに、依然、ウルトラマンを待っている。
イデ「ウルトラマン、何をやってるんだ!?」
ハヤタが単身、ドラコに攻撃を加える。
右肩をやられたドラコがハヤタたちを見つけ、怒って向かってくる。
イデ「ウルトラマ──ン!!」
イデは攻撃もせず、空に向かって、ウルトラマンを呼び続ける。
イデ「ウルトラマ──ン!! ウルトラマ──ン!!」
ハヤタが物陰に隠れ、変身アイテムのベータカプセルを手にする。
──が、イデを想い、敢えてそれをしまう。
ドラコが次第に、イデに迫る。
イデ「わ、わぁっ!?」
あわやと思われたそのとき、ビートルにいたはずのピグモンが、その場に飛び出してくる。
ピグモン「クウ──ッ!! クウッ、クウ──ッ!!」
イデをかばい、ドラコの注意をひくように、激しく声をあげる。
ドラコは忌々しそうに、ピグモンを叩き潰す。
そのまま転がり落ちるピグモン──
ハヤタ「ピグモンっ!!」
ハヤタがピグモンに駆け寄る。
ハヤタ「ピグモン!! ピグモ──ン!!」
ピグモンが静かに目を閉じ、事切れる。
イデを睨みつけ、胸ぐらをつかむハヤタ。
ハヤタ「イデ!! ピグモンでさえ、我々人類の平和のために、命を投げ出して戦ってくれたんだぞ!? 科特隊の一員としてお前は、恥ずかしいと思わんのか!!」
ハヤタの平手打ちが、イデの頬に飛ぶ。
イデ「僕が間違っていた……! くそぉ!!」
イデが、これまでの弱気とは別人のような形相で、ドラコに単身で立ち向かう。
ドラコが地面を蹴り、岩礫が降り注ぐ。
イデは岩礫を浴びながらも、くじけずにドラコを見据える。
イデ「畜生!! イデ隊員発明の新兵器・スパーク8をお見舞いするぜ!!」
スーパーガンにアタッチメントを、装着する。
イデが怒りを込め、ドラコ目がけて銃撃を放つ。
強烈な光弾が無数に炸裂し、ドラコの体が跡形もなく消滅する。
イデ「やったぁ!!」
一方、ハヤタ・イデのもとへ急ぐムラマツたちの前に、唸り声をあげて怪獣酋長ジェロニモンが姿を現す。
ムラマツ「ジェロニモンだ。こんなところに隠れていたのか…… 撃て!!」
ムラマツたちがスーパーガンを撃つが、ジェロニモンには通じない。
ジェロニモンの光線を浴び、ムラマツたちの体が重力を奪われ、宙に舞い上がる。
それを見たハヤタがウルトラマンに変身!
空中のムラマツたちを受け止めて、地上に降ろし、ジェロニモンに立ち向かう。
ジェロニモンは、尾の羽根を手裏剣のように撃ち出す。
ウルトラマンは飛んできた羽根をいくつか受けるが、ウルトラ念力で羽根を空中に静止させ、そのままスペシウム光線で焼き払う。
そして地上に降り、背後からジェロニモンに馬乗りになると、頭に付いている羽根をすべてむしり取った。
怒ったジェロニモンが、ムラマツたちを襲った無重力光線を、再び放つ。
ウルトラマンはそれをバリアーで跳ね返し、逆にジェロニモン自身が宙を舞う。
空から落ちてくるジェロニモンを、ウルトラマンが受けとめる。
だがウルトラマンもダメージを負っている上に、すでにカラータイマーが点滅を始めている。
ウルトラマンがジェロニモンを抱え上げたまま、地上のイデにとどめを刺すよう促す。
イデ「よし!!」
ウルトラマンが必死にジェロニモンを支える中、イデは狙いを定める。
イデのスパーク8が火を吹き、ジェロニモンは跡形もなく消滅──!!
イデ「やったぁ!! やったぞぉ!! ジェロニモンは俺がやったぞぉ!!」
ウルトラマンが頷き、空へと飛び去る。
イデ「ウルトラマン……!」
ムラマツたちが駆けて来る。
ムラマツ「イデ──っ!! 大活躍だったな!!」
イデ「すみません、キャップ! 依頼心を捨てて、人類の平和のためにがんばりまーす!!」
フジ「イデ隊員は今日の英雄よ!!」
そこにハヤタが、ピグモンを抱いて現れる。
ハヤタ「英雄はここにもいるぜ」
フジ「ピグモン……」
ハヤタ「ピグモンも立派に戦ったんだ」
フジ「ピグモン!」
ピグモンの亡骸を、一同が悲痛な面持ちで見つめる。
涙を流すフジ。
ムラマツ「我々科学特捜隊はピグモンに対し、人類の平和に尽くしたその功績を認めて、科学特捜隊特別隊員の称号を与える!」
アラシ「黙祷──っっ!!」
最終更新:2021年08月29日 22:53