大雨の降りしきる中。雄介は喫茶ポレポレのカウンターで、ココアで体を暖めて息をつく。
同じようにおやっさんと奈々も、カップを手して息をついている。
おやっさん「バカだねぇ、お前は。こんな雨の日にわざわざ栃木だ、千葉だって」
奈々「いいやんか、ほっと一息ついてんねんから。ね、五代さん」
雄介「はい」
おやっさん「俺の予想じゃね、もうすぐクシャミが出るよ、絶対…… ハックシュン!」
奈々「きったないなぁ……」
おやっさん「な?」
雄介「な、なって、おやっさんこそ気をつけて下さいよ。俺はね、一応ほら、冒険で慣れ……ックシュン!」
奈々「もう!」
おやっさん「アハハハハ!」
雄介「よし、ごちそうさま! 奈々ちゃん。おかげで暖まったよ」
奈々「いいえ」
雄介「よし、じゃあ俺はまた、続き行ってきます!」
奈々「……どこへですか?」
雄介「ん──、色々回って、そのまま冒険に行こうかなって」
奈々「冒険って!?」
おやっさん「今からか?」
雄介「はい」
おやっさん「なんだ……? ずいぶん急だな」
雄介「すいません、でも、やっとそんな感じになったんで」
おやっさん「ん、いい顔してる。行ってこい、行ってこい」
雄介「ほんとに、ありがとうございました! 奈々ちゃんも、ほんとにありがとね」
奈々「なんで……? なんでこんなときに行くんですかぁ!?」
雄介「ほんとにごめんね。でも俺、クウガだから」
おやっさん「!?」
雄介「今度こそ絶対、0号を倒したいんです」
おやっさん「えっ!?」
雄介「奈々ちゃん、お芝居がんばってね」
奈々「五代さん……!?」
雄介「おやっさんも店、がんばって下さいね」
おやっさん「あ、あぁ」
雄介「じゃ!」
2人にサムズアップを送り、雄介は店を飛び出す。
奈々「五代さ…… 五代さん!? 今のどういうことなん、0号って!?」
おやっさん「今度こそって…… あいつ、まさか!?」
廃屋で一条が、古代文字を綴った碑書を発見。そこに足音が近づいて来る。
バラのタトゥの女こと、ラ・バルバ・デ。
バルバ「やはり、お前か」
一条「究極の闇の目的は何だ? ここに書かれていることと関係があるのか? 答えろ」
バルバ「リントも、我々と等しくなったな」
一条「お前たちと我々は違う! お前たちのような存在がいなければ──」
バルバ「だがお前は、リントを狩るための、リントの戦士のはずだ」
一条「答えろ…… これには、何と書いてあるんだ!」
一条が碑書を突きつけて迫るが、バルバは彼をやすやすと突き飛ばす。
バルバが廃屋を去り、一条が追う。
海を目の前にして埠頭を歩くバルバに、一条は銃を撃つ。神経断裂弾がバルバの背を1発、2発と貫く。
バルバが振り向く。さらに断裂弾が3発、4発、5発、6発と撃ち込まれる。
一条が全身ずぶ濡れで、息を切らす。
かすかに笑みをもらすバルバの口から、一筋の血が流れる。
バルバ「ビビギダダ・ゴラゲゾ・パラダ・ガギダ・ギロゴザ」
バルバの目が閉じ、その身は海へと落ちてゆく。
建物の屋上に立つグロンギ王ン・ダグバ・ゼバ(人間態)。バルバの最期を直感したかのように、無邪気に笑う。
妹・みのりの見守る前で、雄介が園児たちに、手製のお守りを作っている。
雄介「よし。これで、全員か? いない子の分もあるよな?」
園児たち「ある──!」
雄介「よし。じゃあ俺は、みんなが作ってくれたこれを持って、ちょっと冒険に行ってくるな」
園児「どこいくのぉ?」
雄介「ん? そうだな~、どこまでもどこまでも、青い空があるところ」
みのりは無言で、兄を見つめている。
園児「ぼくもそれ、みたぁい!」
雄介「見れるさ!」
園児「でも……」
窓の外は大雨。
雄介「この雨だって絶対やむよ。そしたら青空になる。今だってこの雨を降らせてる雲の向こうには、どこまでも青空が広がってるんだ」
みのり「……」
園児たち「ゆうすけ、いっちゃうのやだぁ」
雄介「先生、やだって言われちゃいました」
笑顔の雄介に助けを求められ、みのりが笑顔で、園児たちの肩を抱く。
みのり「みのり先生が、その分がんばるから。笑顔でバイバイしよ! ね?」
兄妹が笑顔をかわす。
雄介「よし! じゃあな! みんな元気で、がんばれよ!」
雄介がサムズアップを決めると、園児たちもサムズアップで答える。
合同対策本部で、レーダーシステムが開発されている。
本部長の松倉貞雄、杉田守道、笹山望見のもとに、一条の通信が届く。
一条『一条です。江東区辰巳5丁目の埠頭で、B1号を倒しました』
松倉「本当か!?」
一条『水中に落下したため、死体の確認は実行できていませんが、ほぼ確実だと思います」
松倉「そうか……!」
杉田「あとは第0号! このシステムに、我々の命運のすべてを賭けるしかありませんね」
桜子が、雨の降り続く窓の外を見つめ。その後姿をジャンが見つめている。
桜子「雨、早くやまないかな……」
バイクの音が近づいてくる。桜子が夢中で外へ駆け出す。雨の中、雄介が立っている。
雄介「やぁ」
桜子「五代くん……」
雄介「桜子さん……」
しばしの沈黙の後、2人が同時に笑顔になる。
桜子「なるんだよね、『凄まじき戦士』に」
雄介「うん…… で、0号を倒したら、そのまま冒険に行こうと思ってる」
桜子「……だと思った」
雄介「……さすが」
桜子「みんなの笑顔を…… 守りたいんだもんね」
雄介「うん……」
桜子「でも…… 聖なる泉を、涸れ果てさせちゃダメだよ」
雄介「うん……」
桜子「それから、太陽を闇に葬ったりしないこと」
雄介「うん」
桜子「それから……」
2人の会話を遮るように、無線の呼び出し音が鳴る。
雄介「はい!」
一条『五代、第0号が長野市に現れた』
雄介「できたんですか、レーダー!?」
一条『いや、奴に先を越された。だがレーダーも、もう間もなく完成する。俺もすぐに向かう』
雄介「わかりました!」
桜子「行くんだね!」
雄介「うん!」
桜子「行ってらっしゃい!」
雄介「……行ってきます!」
桜子「がんばってね!」
雄介「がんばる! ……じゃあね!」
雄介がサムズアップを決め、ビートチェイサーで走り去る。
桜子が我慢しきれないように、雨の中を傘も差さずに駆け出す。
桜子「絶対絶対、がんばってね! 窓の鍵、開けとくから……」
無数の人間の死体が燃え上がり、炎に囲まれてダグバが笑顔を浮かべている。
関越自動車道 花園I.C.付近 07:11 p.m. |
笹山『本部から全車! レーダーシステム、たった今作動を開始し、第0号の動きがわかりました。松本市に向かって移動している模様」
一条『五代、今どこだ!?』
雄介「関越の花園辺りです!」
一条『だったら、藤岡から上信越道に入って、そこで一般道に入るルートだ。そこで合流しよう』
雄介「わかりました!」
雄介が現場に到着。焼き尽くされた死体が無数に転がっている。
雄介は、その凄惨さに声を失う。彼方で、ダグバが待ち構えている。
ダグバ「来たんだね。今度は僕と同じになれるのかな?」
雄介「……」
ダグバ「だったらあそこで待っているよ。思い出の、あの場所でね」
ダグバの姿が消える。そこへ一条が駆けつける。
一条「五代!」
雄介「一条さん!?」
一条「第0号は!?」
雄介「たぶん、九朗ヶ岳だと思います」
一条「そこで決着をつけるつもりか……」
雄介「行きましょう!」
一条「あぁ!」
吹雪の中、雄介と一条が九朗ヶ岳に辿り着く。
クウガのベルトが発見された場所、そしてダグバが甦った場所。
雄介「椿さんに聞いたんですけど、ベルトの傷、やっぱまだ治ってませんでした。だから、狙うときはここをお願いします」
自分の腹を指す。
一条「五代……」
雄介「いやもちろん、万が一、俺が『究極の闇をもたらす存在』になっちゃったら、ですけどね」
真剣な視線を送る一条に、雄介は笑顔を返す。
一条「こんな寄り道はさせたくなかった……」
雄介「え?」
一条「君には、冒険だけしていてほしかった」
雄介「……」
一条「ここまで君をつき合わせてしまって……」
雄介「ありがとうございました」
一条「……」
雄介「俺、良かったと思ってます」
一条「……?」
雄介「だって、一条さんと会えたから」
一条「五代……」
雄介が笑顔で、サムズアップを決める。一条も真剣な顔のまま、サムズアップを返す。
雄介「じゃあ、見てて下さい…… 俺の変身」
一条が力強く頷く。
雄介が一条に背を向け、変身ポーズをとる。
全身が、これまでのクウガとは異なる姿、アルティメットフォームへと変貌してゆく。
鋭角的な黒の生体甲冑。額には4本の角。赤い複眼。
クウガがかすかに一条を振り向き、雪原へと駆けて行く。
吹雪の中、ダグバが無邪気な笑顔のままでクウガを迎える。
ダグバ「なれたんだね。『究極の力を持つ者』に」
ダグバもまた、怪人態へと変身する。
ダグバがクウガを目掛け、手を伸ばす。超自然発火能力により、クウガの体が燃え上がる。
クウガも手を伸ばすと、ダグバの体もまた同様に燃え上がる。
まったく同様の能力を持つクウガとダグバ。双方の能力が相殺されて炎が消え去る。
クウガ「うおぉぉ──っ!」
ダグバ「はぁ──っ!」
2人が同時にパンチを繰り出し、2人とも吹き飛ばされる。
すぐさま2人とも起き上がり、再びパンチを繰り出し始める。
同一の超能力同士では勝負がつかず、戦いは肉弾戦となる。
一条が雪と草木をかき分けて、戦いの場へ向かう。
強力な拳の応酬が双方の体をえぐり、血しぶきが飛び散る。
クウガの渾身のパンチがダグバの腹に炸裂。ダグバのベルトに亀裂が走る。
ダグバ「あ!? ……う……うっ……」
クウガ「はぁぁ──っ!!」
苦しむダグバの隙をついて、クウガが連続攻撃を繰り出す。
だがダグバの反撃のパンチが、クウガの腹部に炸裂。 クウガのベルトにも亀裂が走る。
クウガ「うわぁぁっ! うっ……!?」
一条の目に、ようやく戦いの景色が飛び込む。
ベルトに損傷を負って変身を解除された2人は、人間の姿のまま、素手で殴り合う。
ダグバは戦いを心から楽しみ、笑いながら拳を振るう。そして雄介は、泣きながら拳を振るう。
2人は息を切らし、血を流し、延々と殴り続ける。
雄介「わああぁぁ──っ!!」
ダグバ「アハハハハ!!」
2人が同時にパンチを繰り出す。双方が渾身の拳を顔面に浴び、血を吐き出す。
雄介、ダグバが2人とも地面に倒れ伏す。
真っ白だった雪原が、2人の流した血で赤く染まっている。
ダグバはもう動かない。そして雄介も……
一条「五代……!? 五代――!!」
最終更新:2017年07月16日 08:03