聖闘士星矢Ωの最終回

聖闘士星矢Ω(セイントセイヤオメガ)の最終回


土星を前にした宇宙空間で繰り広げられる、光牙(コウガ)とサターンの、最後の闘い。
仲間たちの力と想いを受け、光牙の纏う天馬座(ペガサス)聖衣(クロス)は、最強最後の進化を遂げた。

サターン「永遠の時の前で、まだ抗うか? 人間が!」
光牙「今この時をお前に刻み込む! 俺たちの小宇宙(コスモ)Ω(オメガ)で!!



闘いの果て!
光牙よ、伝説となれ!




サターン「フン。Ωなど、どうということはない。その力、すでに見切っているわ!」

光牙とサターンが同時に突進し、拳が交錯する。

サターン「やはり効かぬか」

──と思われたとき、サターンの纏っている刻衣(クロノテクター)の一部が砕ける。

サターン「な、何ぃ!? 余の刻衣が!?」

光牙の周囲に浮かび上がる、大勢の仲間の聖闘士(セイント)たちの姿。

サターン「人間たちが互いを想い合う心から生じる奇跡の力、Ω。小宇宙が集まれば集まるほど、その力が増すのだとしたら…… まさか、Ωには限界がないというのか!?」
光牙「Ωを知りたいか? サターン」
サターン「何ぃ!?」
光牙「知りたければ、来い!」
サターン「ほざけぇ!」
光牙「ペガサス彗星拳──!!

光牙の拳がサターンの頬をかすめ、血がにじむ。

サターン「人間の分際で、この世の顔に傷をつけるとは……! 許さんっ!」

強烈な攻撃を繰り出すサターン。

光牙「ペガサスローリングクラ──ッシュ!!

光牙がその攻撃を跳ね返す。

サターン「おのれぇ!」
光牙「サターン。お前、まだ全力じゃねぇだろ? 本気でかかって来い!」
サターン「……!」

サターンが突進。強力な攻撃で光牙の聖衣が砕け、衛星に叩きつけられる。
だが光牙は衛星を砕いて突進、逆にサターンにキックを見舞い、刻衣を砕く。

サターン「まさか、これが人間の力だというのか!?」
光牙「まだだ! こんなものじゃない! Ωの力はぁぁ!!」

拳がぶつかり合い、互いの腕の聖衣と刻衣が砕ける。

サターン「余と互角に渡り合うとは、やはりΩは恐るべき力…… 人間が持つべき力ではない! 今ここで、完全に消滅させる」
光牙「消せはしないさ! 人間の、Ωの輝きは!!」

壮絶な拳のぶつかり合い。

サターン (なんだ、これは? 怒りではない、痛みでもない。憂いも、虚しさもない……)

まともにサターンの拳を浴びた光牙が、大きく吹き飛ぶ。

サターン「全身の血が沸き立つような、この高揚は……!?」

ついに光牙の聖衣が、サターンの攻撃で完全に砕かれてしまう。

光牙「まだだ…… 聖衣を失っても、みんなの力はまだ溢れてくる! この拳には力が溢れてるぜ!!」
サターン「余は悠久の時間を生きてきた……」
光牙「うぅおぉ──っ!!

光牙の渾身の素拳で、サターンの刻衣もまた完全に破壊される。

サターン「だが、このような濃密な時が、血が燃えたぎる瞬間が、かつてあっただろうか……?」

かつてサターンが人間・昴として生きたときの記憶──

サターン「熱い……!」
光牙「絶望するな、サターン」
サターン「……絶望だと? 余が絶望しているというのか?」

かつて光牙と昴が共闘し、大群を前にして絶対絶命に陥ったとき──

昴「いくら倒しても、こんなに囲まれちゃ! 畜生、このままじゃ……」
光牙「昴、絶望するな」
昴「えっ?」
光牙「何をしてもムダとか──」

光牙「──どうせ消えるとか、終わるとか、1人で冷めたことを言って諦めるな!」
サターン「余を誑かすなぁ!」

素拳でのサターンの連打が、光牙の顔面を捉える。

光牙「はぁ、はぁ…… よく聞け、サターン!」

光牙の傍らに、蒼摩(ソウマ)の姿が浮かび上がる。

蒼摩「お前だって熱くなれる! 俺たちと同じだ!」
サターン「うっ……! 一瞬しか生きられぬ人間が、何を言うか!?」

ユナと龍峰(リュウホウ)の姿も浮かび上がる。

ユナ「そうね。あなたからしたら、私たちが生きている時間なんて、ほんの一瞬かもしれない」
龍峰「たとえ時が過ぎ去っても、共に戦った仲間との絆は、永遠に消えない」
光牙「昴! うぉおぉ──っっ!!」

サターン目がけて拳を繰り出す光牙。その傍らに、栄斗(ハルト)の姿が浮かび上がる。

栄斗「昴、お前もわかっているはずだ!」
サターン「うぅっ! この、感覚……?」

昴「俺は誰の助けも借りねぇ! たとえ1人んなっても、戦い抜いてやる!」
栄斗「お前は何もわかっていない。たとえ離れていても、互いを想う心が力になる。俺たちは、言わば血を分けた兄弟も同然……」
昴「兄弟……?」

サターン「これは…… 余の中にある昴の記憶!?」

そして、エデンの姿も浮かび上がる。

エデン「昴。お前の中にも、Ωがある」
サターン「何……?」

エデン「昴。お前の正体が何者であろうと、共に戦う仲間に、素性も過去も関係ない。志と想いがあれば、十分だ。行こう」
昴「エデン……!」

サターン「何だというのだ!? 人間の声を聞くたびに、昴の記憶が鮮明に甦ってくる! えぇい、人間ども、小癪なマネを! お前たちが昴の記憶で、余を誑かしているというのか!?」

蒼摩たちの姿を掻き消しつつ、サターンが突進。

サターン「ならば、完全に消してやろう! 余は…… 余は、時の神サターン!」

昴が初めて光牙に逢ったとき──
そのときも昴は激昂し、光牙に拳を振るった。

昴「お前を倒して、俺は神になる!」

かつての昴と同様に、サターンの拳が光牙の顔面に命中する。

光牙「この拳…… やっと、戻ってきたな! 昴!!」
サターン「心が燃えたぎるように熱い……! この熱い拳が、昴!?」
光牙「昴! 神だろうが人間だろうが、一度火がついた心の炎は、もう消すことはできない!」

地球の向こうから太陽が覗き、光が溢れる。

光牙「太陽が何度も昇って来るようにな! 輝け! 俺の小宇宙ぉぉ!!
蒼摩たち「俺たちのΩ!!
光牙「ペガサス流星拳──っっ!!
サターン「余の前に、このような力など!」

最後の流星拳を放つ光牙。サターンが防御で無数の拳を食い止める。

光牙「はあぁぁ──っっ!!」

激しい力の奔流の中、中身の光牙とサターンが対峙する。

サターン「愚かな人間たちよ、地上は任せられぬ。お前たちは、これからも醜い争いを繰り返し、過ちを犯し続ける。歴史が証明するように」
光牙「そうかもしれない…… でも、俺は絶望しない。たとえ間違っていても、やり直すことができる。俺だけだったら、ここまで来られなかった…… 皆がいたから闘えた! 皆が、俺に勇気と力を与えてくれたんだ!」
サターン「その力も、ここで消える── なぜ立ち向かう? 余の肉体は永遠、滅びることはない。何度挑んでも、余に勝つことはできぬのに」
光牙「その答が知りたくて、お前は昴になったんだろう? 何度でも立ち向かう! それがアテナの聖闘士だ!」

光牙「俺は諦めない! お前との闘いも、人間の未来も信じる!! うぅおぉ──っ!!
サターン「これは…… この輝きは、Ω!?」

光牙の放つ流星拳の拳一つ一つに、大勢の仲間たちの小宇宙が宿っている。

サターン「人間たちの想い、不屈の闘志! 一瞬の命の輝き、奇蹟、希望…… あぁ、美しい……!!」

歓喜の表情で拳を浴びるサターン。そして、とどめの光牙の一撃がサターンの胸に直撃──


衛星上に降り立つ光牙とサターン。光牙の拳を浴びたサターンの胸には、深い傷が刻まれている。

2人「はぁ、はぁ……」
サターン「これほどまでに我が刻衣を砕き、我が身を傷つけた者は初めてだ。見事だ!」
光牙「俺だけの力じゃない。これは……」
サターン「Ωか!」

砕けたはずのサターンの刻衣が、元通りの姿となって現れる。

サターン「余の肉体と刻衣は、永遠に滅びることはない。それでも、まだ向かって来るか?」
光牙「その質問の答、もう訊くまでもないことは、お前も知っているはずだ」
サターン「……フッ、そうであったな。人間たちが互いを想い合う心から生じる奇跡の力── Ω。Ωの精神を持ち続けている限り、人間には希望がある」
光牙「……」
サターン「ペガサス光牙、お前が刻んだこの傷、永遠に残しておこう。お前という聖闘士と会いまみえた、このかけがえのない時を忘れぬために。お前の熱き心に免じて今は去ろう。だが、お前たちがΩを失ったとき、再び地上を奪いに来るぞ!」
光牙「そのときは、また俺たちアテナの聖闘士が、相手になるぜ!」
サターン「フン。なおも神と拳を交える気か?」

サターンの背後に、昴の姿が浮かび上がる。

昴「懲りないヤツだなぁ! それでこそ、ペガサス光牙だぜ!」

昴の纏っていた、子馬座(エクレウス)の聖衣が現れる。

光牙「子馬座の聖衣!?」
サターン「聖衣はたとえ聖闘士が死しても、その想いとともに、未来へと受け継がれてゆく。青き地球を永久(とわ)に美しく…… 子馬座よ、余の想いも受け継いでいってくれ!」

サターンが刻衣とともに宙に浮く。

サターン「さらばだ、ペガサス光牙よ! 熱き血潮の兄弟たちよ……!」
光牙「昴……!」

サターンと刻衣が、土星の中へと消えてゆく。


地上で時間を止められて凍りついていた人々、聖闘士たちも元に戻り、息を吹き返す。

貴鬼(キキ)「光牙……!」
フドウ「Ωの輝き、私も初めて見た……」
ハービンジャー「あいつら!」
沙織「光牙、やってくれたのですね……!」

タイタン「パラス様!」
パラス「タイタン……」

光牙のもとに、エデンが降り立つ。

光牙「エデン!」
エデン「去ったか、昴は」
光牙「あぁ……」

そして蒼摩、ユナ、龍峰、栄斗も。

ユナ「光牙……!」

星矢が光牙たちを見上げ、満足げに頷く。


何日か後。闘いで破壊されたパラスベルダの城下町に、パラスとタイタンが身分を隠して佇んでいる。
復興作業が行なわれているものの、町の傷跡はまだ深い。

タイタン「パラス様……」
パラス「私はとんでもないことを、この町の人々に……」
声「お姉さん、大丈夫?」
パラス「えっ?」

かつて光牙たちと交流した町の少女・セレーネが、紅茶の出店を出している。

セレーネ「お姉さん、あまりにも辛そうだったから」
パラス「辛いのは、この町の人々…… 私は、どう償えばいいのか……」
セレーネ「……? ちょっと待ってて!」

セレーネが紅茶を入れ、差し出す。

セレーネ「どうぞ!」
パラス「……これを、私に?」

勧められた紅茶を、パラスが口にする。

パラス「おいしい……」
セレーネ「でしょう? 元気出た? ほら、町のみんなも元気だよ!」

復興作業にあたる工員たち。青空学校で学ぶ子供たち。青空市場の人々。

セレーネ「みんな、前よりももっと素敵な町にしようって、がんばってるよ。だから、お姉さんもがんばって!」
パラス「……そうね。私も、がんばらないとね」

パラスが懐から、手製のアテナ人形を取り出す。

パラス「あなたの人生が、愛に満ち溢れたものになりますように…… これ、あなたにあげる。おいしいお茶のお礼よ」
セレーネ「わぁ~っ! お姉さん、ありがとう! 私、大事にするね」

嬉しそうに人形を抱き、セレーネが駆け去る。

タイタン「人間は弱く、その命は儚い。しかし、なんと逞しい……」
パラス「えぇ、私も見習わなくては。行きましょう、タイタン。愛を育む人々を助け、その未来を築くお手伝いをするために」
タイタン「はい…… パラス様!」


そして、聖域(サンクチュアリ)黄金聖闘士(ゴールドセイント)たち。

ハービンジャー「おい、貴鬼! 今、何つった!?」
貴鬼「教皇になれ、ハービンジャー」
フドウ「教皇とは、全聖闘士の頂点に立つ存在だ」
インテグラ「闘いで疲弊している今、聖闘士を束ねる教皇が必要だというのが、我らの見解だ」
ハービンジャー「貴鬼! お前がやりゃあいいだろう!?」
貴鬼「私は、この闘いで壊れた聖衣の修復で忙しい」
ハービンジャー「えっ? だったら、フドウ!」
フドウ「ハービンジャー。君こそが教皇にふさわしい」
ハービンジャー「じゃあ……」
インテグラ「私も同感だ。それに、お前を教皇にと指名したのは、アテナだ」
ハービンジャー「ア、アテナだとぉ!?」
貴鬼「星矢も同意見だ。聞いたぞ。我らのために憤慨し、刻闘士(パラサイト)と激戦を繰り広げたと」
ハービンジャー「う……! それは……」
羅喜(ラキ)「教皇はとっても骨の折れる仕事なのだ。人の骨ばっかり折ってないで、これからはお仕事で自分の骨を折るのだ!」
ハービンジャー「簡単に言うな、羅喜!」
貴鬼「権力欲しさに教皇の座を欲する者よりも、お前のような真っすぐな者のほうが適任だ」
フドウ「恐れることはない」
インテグラ「困ったときは、我々も手助けする」
羅喜「みんなで協力! Ωするのだ──!」
貴鬼「ハービンジャー、頼む」
ハービンジャー「くッ…… わ、わーったよ! 教皇でも何でもやってやらぁ! その代り、てめぇら全員コキ使ってやるから、覚悟しやがれ!」
声「ハハハハハ!」

光牙が現れる。

光牙「新教皇ハービンジャーか。どんな聖域になるか、楽しみだな」
ハービンジャー「うるせぇ! 何の用だ、光牙!?」
光牙「挨拶さ。貴鬼、聖衣の修復ありがとな。俺、旅に出るよ」
羅喜「どこへ行くのだ?」
光牙「さぁな…… しばらく世界を回って来るぜ」
貴鬼「光牙。君の前途に、幸があることを祈っている」
ハービンジャー「フン! どこへ行こうと構わねぇが、帰って来いよ! お前もアテナの聖闘士なんだからよ!」
光牙「あぁ!」


聖域の慰霊地。無数の墓標を見つめる沙織と星矢。

沙織「また、多くの命が失われました……」
星矢「それ以上に救われた命もある。忘れないでほしい。俺たち聖闘士はあなたを守り、支えているということを」

そこへ光牙が現れる。

光牙「沙織さぁ──ん!」
星矢「光牙! 行くのか?」
光牙「あぁ、行って来る!」

光牙が手を振り、駆け去る。

沙織「寂しくなりますね……」
星矢「だから言っただろう? 俺がいるって。沙織さん」
沙織「ありがとう…… 星矢!」

星矢がそっと沙織の肩に手を触れ、その手を沙織が握り返す。


聖域を出ようとする光牙を、蒼摩、ユナ、龍峰、栄斗の4人が待ち構えている。

蒼摩「よぉ、光牙!」
光牙「蒼摩!? みんな…… どうして?」
蒼摩「お前を見送りに来たんだよ!」
ユナ「旅に出るなら出るって、ちゃんと言いなさいよ!」
光牙「なんか苦手なんだよ、こういうの……」
龍峰「光牙、君は本当に水臭いんだから」
栄斗「それで、いつ帰って来るんだ?」
光牙「さぁな…… みんな、俺が世界を守ったって言うけど、ピンと来ないんだよな。だって俺、この世界のこと、まだ知らないし」

拳を握りしめる光牙。

光牙「聖闘士として闘ってきたことに悔いはない。でも、俺自身が何もないって気づいたんだ。故郷も、親兄弟も。やりたいことも夢も、何もない…… だから、何かを見つけたいんだ」
ユナ「あるわ! 何もない、なんてことはない。あなたにはある!」

ユナが拳を突出し、蒼摩たちも拳を重ねる。

光牙「……あぁ、そうだな!」

光牙も拳を重ね、5人がしばし、見つめ合う。
不意に光牙が大ジャンプし、一気に一同を飛び越えて手を振る。

光牙「見送り、ありがとな! じゃ、行って来る!」
ユナ「光牙……」
蒼摩「へっ、あいつらしいや!」


聖域の出口に差し掛かる光牙。

光牙「見送りに来てくれたのか……」

エデンが静かに佇んでいる。

光牙「エデン!」
エデン「一応、挨拶くらいしておこうと思ってな。僕は旅に出る。自分のすべきことを捜すために……」
光牙「……っハハハハハ!」
エデン「なぜ笑う?」
光牙「俺とまったく同じだからさ」

笑いながら光牙が、エデンの肩を抱く。

エデン「お、おい?」
光牙「行こうぜ、エデン!」
エデン「……一緒に行くとは、一言も言っていないが」
光牙「旅は道連れってな! 1人で旅するより、仲間と一緒のほうが面白そうだろ?」

エデンも笑みを浮かべる。

エデン「……それもそうだな」
光牙「行こう、エデン!」
エデン「あぁ、光牙!」

どこまでも続く広い世界を目指し、光牙とエデンが笑顔で駆けて行く──


おわり

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最終更新:2015年05月10日 17:09