発明好きの少年・木手 英一、通称キテレツは、自作のロボットを完成させた。
キテレツ「できた! 三か月のくしんが ついにむくわれたぞ。ではスイッチを入れよう」
ロボットが徐々に腕を振り上げる。
キテレツ「成功!」
ロボットのパンチの連打がキテレツの頭に命中。キテレツはコブだらけになって伸びてしまう。
キテレツ「動力をつたえるそうちがまずかった。しかし……、ぼくはくじけないぞ! エジソンだって失敗をかさねてあの大発明をしたんだから。設計からやりなおしだ」
キテレツのママがドアを叩く。
ママ「英ちゃん、英ちゃん。英ちゃんてば。ここをあけなさい」「おつかい……」
キテレツ「いま研究中でいそがしい」
ママ「また! くだらない工作にばかりむちゅうになって」
キテレツ「くだらないとは何ですか。いまにきっとぼくの発明が、世界人類のために役立つときが……」
ママ「世界人類もいいけど、今すぐママのために役立ってくれてもいいんじゃない?」
仕方なくキテレツは、おつかいに出かける。
キテレツ「どうも女の人というものは、目先のことしか考えられないんだな。あのロボットが一日も早く完成すれば、おつかいでも何でもやらせられるんだ。世界じゅうのママがたすかるんだぞ。それにしてもなあ……。あのロボットをどう直せばいいか……。歯車もゴムベルトもダメとなれば……。なんかいい思いつきが…… ひらめかないかな」
頭にボールが命中し、キテレツは伸びてしまう。
キテレツは考え事に夢中のあまり、いつの間にか少年野球の試合中の空き地を歩いていた。
仲間たち「野球やってるまん中へのこのこ出てくるやるがあるか。キテレツのバカ、またボンヤリ考えごとして歩いてたな」「だいじょうぶか キテレツ」
キテレツ「うん、平気。なれてる」
通りかかった友人・みよ子がキテレツを助ける。
みよ子「空想にふけりながら歩くの およしなさいよ いつもそれで失ぱいしてんだから、キテレツなんてへんなアダナがつくのよ」
キテレツ「いや! ぼくはその名にほこりをもってる。うちの遠い先祖に……」
みよ子「キテレツ斎という人がいたんでしょ」
キテレツ「その人は大発明家で」
みよ子「世界で最初に飛行機を作ったのよね。おぼえちゃったわ、何度もきいたから。でも、おかしいじゃない、そんな大発明の記録も作品も残っていないなんて」
キテレツ「ぼくがウソついてるというの?」
みよ子「そうじゃないけど……」
キテレツ「ちゃんとパパにきいたんだから」
その夜。キテレツはパパに、キテレツ斎のことを尋ねる。
キテレツ「ねえ、あれ ほんとでしょ。うちの先祖のこと。江戸時代の発明家」
パパ「キテレツ斎のこと? ほんとだよ」
キテレツ「くわしくききたい」
パパ「かわり者だったらしいね。家が農家だったのに、発明にばかりうちこんでたんだ」
キテレツ「飛行機を作ったんだって」
パパ「安政六年というから一八五九年。リリエンタールのグライダーより三十二年早かった。山の峰から一里半とんだという、やく六キロだね」
キテレツ「すごいなあ! みんな、どんなにか感心しただろうね」
パパ「感心しない。あやしげな術を使い、世の中をさわがせたという罪で代官所につかまった」
キテレツ「そ、そんな! ムチャクチャだ!」
パパ「そういう時代だったんだよ。たくさんの発明品やその記録は、のこらず焼きすてられたそうだ。キテレツ斎は死ぬまで座敷牢にとじこめられた。しまいには気ちがいになったということだよ」
ママ「英ちゃんも、発明なんかやめてお勉強しましょうね」
キテレツ「すると、もうなんにも残っていないんだね」
パパ「いや、なんにもというわけじゃない」
キテレツ「えっ!」
パパ「ずっと前 いなかへ帰ったとき……、倉の奥からみつけだして……、もらってきたんだが……」
キテレツ「なにを?」
パパ「これだ!」
パパが押入れから何か取り出す。和綴じの4冊の本と、「神通鏡」と書かれた箱。
パパ「その本は奇天烈大百科、キテレツ斎が自分の発明をひそかに書きのこしたものらしい」
キテレツ「すご~い! あれ……」
キテレツが大百科なる本を読んでみるが、どのページも白紙ばかり。
キテレツ「どのページもまっ白じゃない」
神通鏡と書かれた箱の中身は眼鏡。キテレツがそれをかけてみる。
キテレツ「神通鏡なんていって、ただの目がねとかわらないや」
パパ「どっちも気が狂ってからのものだろうね」
寝床でキテレツは、キテレツ斎のことを想う。
キテレツ「パパも人が悪いや。さんざん気をもたせといて……。それにしても……、気のどくな人だなあ……、あまりにもずばぬけた天才は、理かいされないんだな。よおし! ぼくはキテレツ斎のあとをうけつぐぞ! あすからかたみの神通鏡をかけて、白紙の大百科に、ぼくの発明をギッシリと書きこもう」
神通鏡をかけたキテレツが、大百科を開く。
キテレツ「!」
白紙のはずの紙面に、びっしりと図面や文章が書きこまれている。
驚いて神通鏡を外すと、紙面は白紙に見える。
キテレツ「大発見!! キテレツ斎は……、いやキテレツ斎さまは、目に見えないインクを発明したんだ。神通鏡のレンズだけがその光に感じるんだな」
わが一生をかけた発明発見のすべてをここに書きのこす。 ただし、これを読む者、秘伝を他人にもらすなかれ。 この禁にしたがわざる時は、おおいなる災をまねくべし。 |
キテレツ「むずかしい文だなあ、つまりナイショにしとけってことらしいけど……。全四巻! すばらしい発明がギッシリだ。あしたからこれ全部作ってみよう。おや? これは……。『からくり人間製法』 ロボットの作り方かしら。やっぱりそうだ! な~るほど、こんな方法があったのか。なるほど。へ~え。これならぼくにも作れるぞ」
翌朝早くから、キテレツは材料集めに取りかかる。
キテレツ「『丸きものもちうべし 頭部となす』 頭には丸い材料をつかえってことだな。このゴムマリがよさそうだ。『胴体は円筒形にして、高さ四寸、直径七寸……』 一寸がやく3センチだから……、高さは12センチあまり」
キテレツは浴室から風呂桶を持ち出す。
キテレツ「これがピッタリだ」
ママ「何してんの? 朝っぱらから」
キテレツ「『腕には かわをもちい管となす』 これは何かで代用しよう」
材料を揃え終えたキテレツは、組立てに取りかかる。
キテレツ「『エレキをみちびく あかがねの線を……』 エレキって電気だろ。あかがねって? ……、なんだ 銅線のことか」
ママ「英ちゃん、英ちゃん。朝ごはん、たべちゃいなさい」
キテレツ「いそがしいから あとで」
ママ「学校におくれても しらないから」
キテレツ「そういう小さいことにこだわってるひまはないんだよ」
ママ「もう、むちゅうになっちゃって……、前よりひどくなったみたい」
パパ「ハハハ、こまったやつだな」
ママ「ズル休みするなんて ゆるしません!」
キテレツ「いってきます。天才は理かいされない」
大慌てでキテレツが登校。そして授業を終え、大慌てで帰宅する。
キテレツ「ただいまっ」
帰るなり、キテレツは自室で、母の小言を浴びつつロボットの組み立てを続ける。
キテレツ「こごとなら あとでまとめてきくから、じゃましないでよ」
ついに、からくり人間・コロ助が完成する。
キテレツ「ついにできた! キテレツ斎さまの天才のおかげで。ああ! 長い間のユメだったロボットが、ついに完成したんだ。で、ではスイッチを……」
コロ助がひとりでに動き出す。
コロ助「そんなことしなくても動けるナリ」
キテレツ「すごいロボットだ!」
コロ助「それほどでもないナリ」
キテレツ「これでまんぞくしてちゃダメだ。ただちにつぎの発明にとりくもう」
ロボットの組み立てで散らかった部屋を、コロ助が掃除し始める。
コロ助「しごとしやすいように かたづけるナリ」
キテレツ「気がきくなあ」
ママ「英ちゃん! いいかげんにしないとおこるわよっ!」
ママが部屋のドアを叩くと、コロ助が出てくる。
ママ「?」
コロ助はママを、物置に閉じ込めてしまう。
ママ「出してえ」
コロ助「しごとのじゃま、かたづけたナリ」
キテレツ「気がききすぎるよっ」
最終更新:2016年10月02日 19:15