安錠春樹巡査が、自転車を漕いで現場に急いでいた。
安錠(今年の春――――警官であるオレに可愛い後輩ができた。
それがまた頼もしい経歴をもった子で、上層部にもそこを期待されての採用だったらしいのだがーーーオレに言わせりゃ、んなもん、ただの判断ミスだ。
考えてもみてほしいんだ。たかが卵を割るのにハンマーなんていらないようにー)
「!!」
(`特殊部隊にいた元傭兵が`婦警`を勤めたらどうなるかーーーー)
(こうなる)
安錠が現場のコンビニに着いた。
そこでは、多数の不良が倒された中、新米婦警、音無キルコが立っていた。
コンビニ店員「店長!!店の前がえらい事に!!」
店長「警察だ!!警察を呼ぶんだ!!」
コンビニ店員「あそこに立ってるのが警察です!!」
店長「ええーーーーッ!?」
女子高生たち「聞いた?また何かやらかしたらしいよ、あの婦警!」
「知ってるー、今朝のヤツでしょ?何かコンビニの前で暴れてたらしいよ」
「ヤンキー20~30人相手に・・・・」
「あっ、あたしそれ写真とった!」
「マジで!?見して!!」
「つーか何だろうねこの人・・・絶対警察じゃないよね」
「何かいつも刃物みたいなの持ってるしね、この前とか車潰してたらしいよ」
「車潰してたって何!?」
「ねーーー」
「ありえないよねぇ、「新米婦警キルコさん」!!」
女子高生の出した携帯には、ヤンキーをなぎ倒すキルコの姿が映っていた。
鱧川警察署 流島分署
安錠「さーてとォ、どーしてこうなっちゃたのかな~キルコ!!」
キルコ「・・・・・・」
「あ・・あの・・・違うんですよハル先輩、これにはちゃんと理由がありまして・・・ほーう、理由ねぇ・・・コンビニでたむろしてた若い奴らを倒しに倒して30人・・・全員が病院で「婦警がコワイ」ってうなされるようなトラウマをーーーー」
「植え付ける理由って何だァーーーーッ!!」
キルコ「ごめんなさい、ごめんなさい」
安錠「どーすんだよコレ!?まーた連帯責任でオレまで減俸されんじゃねーかァ!!」
キルコ「だ、だ、だってたむろしてたの注意したら、みんなで襲いかかって来たんですよ!?向かってこられたら倒すしかないじゃないですか!!」
安錠「ないこと無いだろ!!何だその戦場論!!」
「あーもぷいやだ!!お前がここに赴任して一週間――問題が起きてねぇ日がねぇって何だよ!?」
キルコ「そ・・・それは・・・」
安錠「オレの給料減りに減らされ、今月貰えるのたったの2千円だぞ!?」
キルコ「!!?に・・・2千・・・」
安錠「これでオレには何のメリットも無いとかマジやっとれん!!もーせめてその巨乳揉ませろコノヤロー!!」
キルコ「!!キャーーッ!!」
筒井「おーいセクハラはいかんよ~ハルくん!」
安錠「!」
そう言ったのは、流島分署の署長、筒井巻十郎だった。
筒井「命が惜しくないってのなら構わないけどね~だめだよ、新人には優しくしてあげなくちゃ、結局痛い目みるの君なんだからさ~!」
安錠「しょっ・・・署長・・・!!」
筒井「いーじゃないの、責任くらいとってあげれば、そもそもキルコちゃんの面倒みるって言い出したの君じゃないの」
安錠「!!い・・・いや、あれはっ・・・・」
キルコ「す・・・すみません署長・・・かばっていただきありがとうございます!!」
筒井「ハハハ、いーんだよ。キルコちゃん新人なだからさ」
安錠「おいおかしくないかこれ!?尻ぬぐいしたのオレなんだぞ!!なぜ署長が敬われる形に!!?」
(ち・・・ちくしょう・・・!!何なんだとこの状況は!?こんなんじゃない・・・オレが期待してたのはこんな・・・くそっ一体どうしてこうなった!!?)
(どうしてーーー)
安錠「オレの名前は安城春樹。この辺境の田舎町で警官を勤めてもう3年目になる。そんなオレがなぜ今こんな事になっているのか。この新人・・・キルコとは何者なのか、事のはじまりは一週間前にさかのぼるーーー」
一週間前。
筒井が競馬新聞を読む中、安錠が署内の掃除をしていた。
安錠「よーし!!あとはこの消臭剤まいて掃除おわりーーっ!!もうすぐ来るなあ、たのしみだなあ、新米婦警さん!!」
筒井「ごきけんだねぇハルくん、新人の配属が決まってからずっとそんな感じだよね~」
安錠「え!?いや、そっ、そりゃそうですよ署長!ホラ!!何たってはじめての後輩なわけだし!ねぇ?」
筒井「いやあ、まあそうなんだけどさ・・・それにしても、その後輩の教育係まで買って出るとは・・・8―4かな~大穴狙いすぎかな~」
安錠「ハッハッハッ、先輩として当然の事じゃないですか!」
筒井「本当にいいの?新人の失敗とか損害とか、全部君の責任になるんだよ~?」
安錠「もっ、もちろん承知の上です!!」
筒井「ふーーーん」
「まあそこまで言うなら任せちゃおうっかな~」
安錠(ふっひっひ・・・しらばっくれちゃって、まあ。聞いたんだぜ?あんたが本庁との電話で「新人は巨乳」っつってたのわな!!)
安錠「へぇ~巨乳ですかぁ」
安錠(教育係なんてむしろ土下座してもやるっつーの!!)
「うう・・・長かったなあ~~^・・・前の職場で同僚にセクハラしまくって、こんな辺境にとばされ、ヒゲおっさんと二人きりで早3年―――警察やめなくてホントよかった~~!!」
筒井「おーい、声にでてるよ~ハルく~ん」
安錠「しかし今日からはここが愛の園!!そう・・・例えばーーー」
安錠「こんにちは!!今日から君の教育係になる安錠です!!」
新米婦警「まあ・・・よろしくお願いします先輩!!」
「あのっ・・・私、緊張しちゃって、その・・・まず何をしたらいいのかーーーー」
安錠「ははっ、そんな固くなって・・・しようのねぇ新人さんだ」
「来いよ・・・ちょっとほぐしてやるから、そこの宿直室でーーー」
新米婦警「まあ・・・さすが先輩・・・捕まえるのがうまいのね・・・・!!」
安錠「なぁーんつってなァーーー!!アハハハ」
筒井「うん・・・一応言っとくけど、それやったら君クビだからね?」
安錠「 やだなぁ署長冗談ですよ。それくらい愛をもってやりますよって、そういう、ね?」
筒井「・・・・・」
当の新米婦警は、署の中に来ていた。
新米婦警「・・・・・・・」
安錠「さっ、臭いとりの続きしないと!!ず~っと男二人の職場だったからな~ムサかったもんな~」
筒井「いや、もういいんじゃないの、ハルくん。床ビチャビチャだよ」
安錠「何言ってんスか、念には念をですよ!!ほら、ヤニ臭いからタバコやめて!!」
新米婦警が、安錠と筒井のいる部屋の前に来た。
新米婦警「――――・・・、・・・ついた、ここだ・・・!!」
安錠「そうら、もう一丁~!!」
「おっ?」
新米婦警「!」
安錠がかざした消臭剤が、部屋に入ってきた新米婦警に突き付ける形になった。
筒井「、あ」
新米婦警「!!!!」
新米婦警が2丁のトンファーを振りかぶり、消臭剤を切り落としながら、安錠の首元に突き付けた。
安錠「―――――・・・」
(えっ・・・えぇええー!!?えっ・・ちょ・・・何!・何コレ!?何が起きたのこれ!?この人だれ!?何でいきなり殺されかけてんのオレー!!?)
(女・・・なのか!?眼帯とかしてますけど!?殺気だだもれてんですけど!?あと刃物!!見た事ない刃物もってんよ、この人!!何者だコイツ超こぇえーーーーッ!!そして乳でけェーーーッ!!)
(って、今、乳は関係ないだろ!!)
「お・・・おいちょっと!!何すんだよオレが何したって言うんだ。あ・・アレですか?どこかで痴漢とかしちゃいましたか!?オレ!1と・・・とにかく何か悪い事したなら謝りますから、どうか命だけはー」
筒井「・・・おーい、正気に戻って音無く~ん」
安錠「?、え・・・」
新米婦警「!!」
「あっ・・・す・・・すみません!!」
新米婦警が安錠に頭を下げた。
安錠「!」
新米婦警「銃口を向けられたのかと思って・・・体が勝手に反応しちゃいました・・・大変失礼しました、先輩!!」
安錠「は・・・・?」
「ちょっ・・・え!?先輩って・・・何言ってんのアンタ!?しょ・・・署長も!!この人知ってるんスか!?何なんですか、この人は!?」
筒井「!?、何って・・・え?あんなに楽しみにしてたじゃないの」
安錠「!?、は・・・」
筒井「かわいい子じゃないの~よかったねぇ」
安錠「!!」
(あれ・・・!?よく見たらこの女が着てるのってウチの制服じゃん、そんでオレの事を先輩って呼んで・・・それがそのままの意味って事は、まさか―――)
新米府警(ニヤッ)
安錠「!!」
新米府警「驚かせてしまってすみません先輩。私、本日よりこの流島分署に配属になりましたー――」
キルコ「元特殊部隊所属―新米警官の音無キルコです!!以後よろしくお願いします!!」
安錠「はぁあああ!!?後輩!!?これが!!?うそだろ違う!!オレが望んでいた巨乳はもっと明るくておしとやかで・・・それがこんな―――」
「・・・特殊部隊・・・!?」
キルコ「そうです!元傭兵です!!」
安錠「・・・!?よ・・・ようへいってのは・・・」
キルコ「はい、戦場で戦う雇われ兵士です!!」
隊員「死にたくなければ撃ちまくれェー――――!!」
隊員たち「「「GOGOGOGO」」」
キルコここは私にまかせて先に行きなさい!!」
隊員たち「隊長!!」
「何をそんな・・・あなた一人残して行けるもんですか!!」
「た・・・隊長・・・いんです・・オレの事は捨てて、ここを離れて・・・」
キルコ「!?、何を言って・・・だめよ、そんな―――」
隊員「オ・・・オレ、この戦いが終ったら、メアリーと結婚するって約束して来たのにな・・・!!」
キルコ「しっかりして!!諦めちゃ・・・」
隊員「隊長!!敵が来ます!!」
キルコ「・・・・!!おのれっ・・・――ここを通りたければ私を倒してから行けェ―――――!!」
キルコ「―――みたいな」
安錠「イヤァァ―――!!うそだそんなもん―――――!!ガチじゃないですかァァ」
筒井「いやぁよかったなぁ~」
安錠「「!?」
筒井「ごらんのとおり、ちょ~っとクセのある娘って聞いてたからさァ、ほんとハルくんが教育係やってくれて助かるよォ。よかったじゃないの、情報どおり巨乳の子でさぁ~」
安錠「・・・・・・・・!?」
(!)
(こ・・・これはまさか・・・・ハメられたのかオレはァ―――――ッ!!巨乳の情報を与えたのもわざとかァァ!!)
安錠「あれがつい一週間前か・・・あんなに楽しみにしてたのになオレ。冷静になってみりゃ、こんなところにくる新人なんてそりゃ、ロクでもないのに決まってるよなあ・・・!!」
キルコ「!?、何言ってるんですか、先輩?」
安錠「あ?」
キルコ「こんなとこりだなんて・・・日本の最前線の町じゃないですか、ここは。本庁の人いわく、私の腕を最大限活かせる大舞台ですよ、がんばります私!!」
安錠「?、何言ってんだお前?」
キルコ「え?」
安錠「お前・・・この町がどういうとこか本当に分かってるか?」
キルコ「?、どういうところって埋立地ですよね?大規模な空港を建設するための、ゆくゆくは新たな外交の要とすて発展していく最前線の都市だって、本庁の人が―――!?、先輩!?」
安錠「お前それ騙されてるよ・・・そんなのはバブルが弾ける前の話だって」
キルコ「!!?」
筒井「そーなんよね~そっからすっかり開発放棄されっちゃってさァ、今やただの房総の果てに浮かぶ辺境だもんね~」
キルコ「そ・・・そんな・・・私はてっきり自分の腕を買われて未来あるこの地に送り込まれたものだと・・・」
安錠「逆だバカ・・・ここへの赴任は通常‘島流し‘っつってな、警察内でどうしようもねぇはみ出し者が送られる場所なんだよ!!」
キルコ「・・・・・・・!?」
安錠「てか気づけよ、署員が二人しかいない時点で・・・・」
キルコ「わ・・・私がはみ出し者・・・!?」
キルコがガクッと崩れ落ちた。
安錠「ガクッじゃねーよ、お前が一番違和感ねぇっつの!!常に凶器持ち歩いてる警官がはみ出し者以外の何だってんだよ!?」
キルコ「だ・・・だってこのトンファブレイドは長年の相棒で持ってないと不安で過呼吸になるし・・・!!」
安錠「何それ厄介!!」
筒井「うーん、でももはやここにすら居られなくなるこもね~」
安錠「 え・・・?」
筒井「ん?だってホラ見てよ、この始末書の枚数!キルコちゃんが来て今日でちょうど一週間じゃない?明日にはキルコちゃんの報告書を上に提出しなきゃなんだけど、コレだけってのはさすがにまずいよね~、せめて何か一つでもお手柄があればよかったんだけどねぇ」」
キルコ「・・・このまま出すとどうなるんですか・・・それ?」
筒井「キルコちゃんはいいとして、教育係はヤバイでしょ~~」
安錠「!?、そ・・・それって具体的にはどんな・・・」
筒井が満面の笑みを浮かべる。
筒井「まっ悔いの残らない一日を過ごしてね、ハルくん!!」
安錠「クビになるってことかそれェ―!!!!」
安錠「あーもう!!冗談じゃねーぞ、あのタヌキオヤジ・・・何をしれっと・・・クビだけは洒落になんねーっつーの!!」
「てか・・・楽しみだった後輩は傭兵で、巨乳を眼前にしながらセクハラは封じられて―その上責任だけはオレばっかとらされて挙げ句はクビ!?何だってんだこの超劣悪環境は!!」
キルコ「せ・・・先輩・・・」
安錠「ああん!!?」
キルコ「いっ・・・いやあの・・・すみません、その色々迷惑をかけてしまって、その、あの・・・」
「私・・・もしかして向いてない・・・ですか?この仕事・・・ここに来たのも腕を見込まれたとか、全然そんなんじゃなかったし、その――――」
安錠「ああうん、向いてないよ?」
キルコ「!!?、え!?」
安錠「「え」じゃねーよ・・・そんな事ないとか言うと思ったか?」
キルコ「そ・・・そんな・・・せめて一言ぐらいフォローは・・・フォローは無しですか先輩!!」
安錠「やっかましゃあ、何が後輩だ!!いくら巨乳でも欲しか無かったわ、お前みたいな物騒な後輩はァ!!」
キルコ「あ・・・あんまりです。本庁には騙され、先輩には邪険にされ、私、今、すごく寂しいです!!」」
安錠「・・・あのなキルコ・・・今そんなこと言ってる場合じゃねーだろ。今日中に手柄あげなきゃお前のせいでオレ、クビだぞ!!?」
キルコ「!!、・・・そ・・・そうですよね・・・私のせいで」
安錠「そうだ!!そしておそらくそんなチャンスはそうないだろう・・・分かるか!!?」
「1回だ!!名誉挽回のチャンスは1回だけ―後は無いと思え!!いいな!?」
キルコ「――は・・・はいっ!!がんばります私!!」
安錠「-とは言ったものの・・・この辺境の地でそう都合よく犯罪者がいるかっっー話だがーー」
「!、ん・・・」
「―――あれは・・・!?」
安錠は、住宅街の中にサングラスとマスクで顔を隠した一人の男を見つけた。
安錠「っふせろキルコ!!」
キルコ「ハイ!!」
安錠「うわっ反応早え!!さすが軍人!!」
キルコ(ど・・・どうしたんですか先輩!?敵襲ですか!?)
安錠「違わい!!やめろって、その戦場論!!よーく見てみろあの男・・・あれはおそらく――――下着泥棒だ・・・!!」
キルコ「 はい?」
安錠「知らんだろうが、ここら辺の住人は大体が単身の女性なんだよ。加えてこの時間帯・・・挙動・・・気配、どう見ても獲物を狙う狩人だ、あれは」」
キルコ「・・・!?な・・・何でそんな・・・」
安錠「何でそんな事が分かるかって・・・?簡単な事だぜ・・・なぜならそれは、かく言うオレも同類だからさっ・・・!!」
キルコ「 ・・・・・・・・」
安錠「見てろ・・・奴は絶対犯行に及ぶ。そこをおさえてウマーっつう寸法よォ・・・」
キルコ「え!?い・・・今おさえないんですか!?」
安錠「ハア!?バカか、何もしてねーうちから捕まえられねーだろ。って、ほら見ろ。もう圏内に入ったぞあいつ!!」
キルコ「ああっ!!ま・・・まさか!本当にやる気・・・!?」
安錠「フハハハ!!なっ!?オレの目に狂いは無かっただろ!?さあ、あとはあいつが盗るのを待って、現行犯でお手柄いただき――――ん?」
キルコが立ち上がった。
キルコこらぁーーっ、そこの人!!警察です!!窃盗行為は犯罪ですよォー!!」
安錠「!?ええーっ、キ・・・キルコォォ!?」
男「!?、げっ・・・サ・・・サツ!?うそだろ!?な・・・何でこんなところに・・・!?」
安錠「うおおーー何やってんだお前ぇ!!?」
キルコ「!?え・・・何って・・・ま・・・まずは注意喚起で犯罪抑止を・・・」
安錠「いらんだろ、それ!?話きいてたかコノヤロー!!ええい、くそっ、現行犯はだめか・・・とりあえず、あいつ引き留めるぞ」
キルコ「はっ、はい!」
安錠(奴に職質をかけてボロを出させる。相手はシラを切るだろうがそこは賭けだ!!)
(もしかしたらすでに他の下着を所持してるかもそれねーし・・・)
「おいっ、今度はヘタな事するんじゃねーぞ、キル・・・ってあれ?いない?」
キルコ「ハァーッ!!」
男「ぶべらっ!!」
キルコは安錠を追い越し、男に飛び蹴りを食らわせた。
安錠「!!、いやあ―――っ、キルコォ―!!」
「いやあー何でェー!!?」
キルコ「!?と・・とめたんですけど・・・!?」
安錠「「留める」だ!!物理的に止めようとするなバカァ!!」
男「ヒイイ―!!」
男は逃げ出した。
キルコ「あっ逃げた!!やっぱ黒ですよ、あの人!!」
安錠「そら知らん婦警にいきなり飛び蹴りもらえばオレでも逃げるわ!!」
「つか、これすでにこっちが加害者じゃねーか。とっ、とにかくあいつ追わねーとォ!!」
キルコ「あ・・・はっ、はいィ!!!」
キルコがトンファブレイドを構える。
キルコ「うああ止まれェええ――――!!」
安錠「!!、だああーっ、ダメ、待てお前はァ!!」
安錠が横断歩道の上で、キルコを止めた。
横断歩道の手前で、車が止まりクラッションを鳴らす。
キルコ「うええ、今度は何ですか先輩!?逃げちゃいますよ、あの人!?」
安錠「ブレイド!!トンファブレイド使うな!!てかおちつけ!!殺人起こす気かテメェは!!戦国時代じゃねーんだぞ!!首から上だけ持って帰っても、手柄どころか逆にオレらのクビがとぶわァ!!」
キルコ「・・・・・、わ・・・私はただ確実に仕事をこなしたくて、あらゆる可能性を考えると、武装は必須かと・・・」
安錠「んなわけねーだろ!!下着ドロがライフル持ってると思うか、お前は!!」
キルコ「そ・・・そうか、そこまで想定しないと・・・」
安錠「ねーよ!!ねーって話をしてんだよ!!」
キルコでもっ、無いと思ってる事こそ戦場では命とり」
運転手「おいィ!!そこどけ邪魔なんだよォ!!」
キルコ「ちょっと今大事な公務の話してるんです!!静かにして下さい!!」
キルコがトンファブレイドで車を切り裂いた。
安錠「ああ―――っ!!」
「うわあ、ごめっ、ごめんなさいィィ。ほら逃げ・・・追うぞキルコォ!!」
運転手「くおらァ、何なんだテメーらァ――――!!」
キルコ「た・・・叩かれた。先輩に叩かれた・・・」
安錠はキルコの頭を殴ってから、キルコと一緒に逃げ出した。
安錠「ああもうっ、どうして手柄のはずが失態ばっか増えんだよ!?」
キルコ「ご、ごめんなさい先輩!!だめなんです、上手くいかないんです。仕留めるのは得意でも法律とか秩序とか気にすると私――――」
安錠「ふざけんな!!それ一番気にすんんおが警察だろうがぁ!!何で警官やろうってなった!!やっぱ全然むいてねーじゃんお前!!」
キルコ「だ・・・だって・・・むいてなくてもいいじゃないですか・・・私、ずっと戦場育ちだったから、やさしい婦警さんになってカワイイ制服着たりしたかったんですっ・・・!!案外いけるんじゃないかって思ったんです―!!」
安錠「知るかァ―!!んなバクチにオレの人生巻き込むなァァ」
男(な・・・何で泣きながら追ってくるんだ奴ら!!?)
安錠(ああ・・・まずい、このままではオレは明日から無色・・・合コンでも公務員という切り札は使えず、当然結婚なんでできず、一人寂しく老いていくのか・・・!?)
「うわああ、それだけはいやだァァ――――!!女の子!!女の子とつながりたいんだオレはァァ!!」
男「・・・・・・!!?」
(くっそ・・・何だよあいつら・・・しつけぇな・・・現行犯じゃねぇんだぞ!?オレが下着持ってるって知ってるのか・・・!!?)
「ち・・・ちくしょう・・・ん?、!!そこどけっ、ババァ!!」
おばさん「!!、ギャアッ!!」
男、いや下着ドロは通りかかったおばさんから、スクーターを奪った。
安錠「!?えっ・・・!?」
下着ドロ「ははっ、じゃあ~なァ!!」
おばさん「ああ―――――――ッ!!!!私のバイク~!!」
キルコ「な・・・・・・・・に・・・・逃げられた・・・!!下着泥棒だったかもしれないのに、こ・・・これやっぱり、私のせい・・・ですよね・・・?」
おばさん「私のバイク!!」
キルコ「ごめんなさい先輩!!私の・・・私がもっとしっかりしてれば、こんな事には―――先・・・!」
安錠は笑みを浮かべていた。
キルコ「!!!?――――――!!?せ・・・先・・・・」
安錠「現行犯・・・!!」
キルコ「―――――え?
安錠がキルコの両肩に手を置いた。
キルコ「!!」
安錠「おい・・・見たかあいつ、原付盗みやがった、オレらの目の前で!!」
キルコ「!?、そ・・・そうですね・・・」
安錠「だよな!?これであいつをパクれる、手を出せるんだよ!!」
「おいキルコ!!お前なら全力出せば原付くらい追いつけんじゃねえか!?」
キルコ「え!?はい、でも、あの、私が全力で走るとアスファルト割れるし・・・そしたら、また先輩に迷惑が―――」
安錠「細けぇこたあいいんだよ!!今はおいとけ!!」
キルコ「!?、!?」
安錠「もはやなりふりかまってられねェ・・・クビを回避するためえにはこれしかねえんだ。いいか!!本気出して犯人捕まえて来い、キルコ!!」
キルコ「!、え・・・ほ・・本気って・・・」
安錠「本気だ!!周りの事は全部気にすんな!!」
キルコ「ええっ!?」
安錠「どーせもういろんなとこに損害出してんじゃねーか。これ以上はもーかわんねーよ!!だったら―――何でもいいから手柄あげて、最悪を避けてくれ!!」
キルコ「で・・でも・・・ホントに大丈夫ですか!?私、今までド本気って一度も出してないんですけど」
安錠「・・・・・!!」
キルコ「それでも本当にやっちゃていいんですか!?」
安錠「い・・・いや!!いいよ何でも。黙ってたってクビになるんだし、それ避けられるなら減棒始末書、なんでもかかって来いってんだ!!ははははは」
キルコ「せ・・・先輩・・・」
安錠「あーもうぐだぐだ言うな!こうしてる間にも犯人は逃げちまってんだぞ」
キルコ「!、は・・はい」
安錠「いいか!?他はだめでも、犯人だけは何としても捕まえて来いよ!?
責任は全部オレがとってやる!!後輩は後輩らしく思いっきりやれェ!!」
キルコ「・・・・・・わ・・・分かりました先輩・・・!!音無キルコ―必ず犯人を捕まえて来ます!!」
安錠「・・・・!!」
(よかった・・・これでクビはどうにか免れるかも―――)
「よっしゃ行けェ―っ!!キルコ―!!」
キルコ「はいっ、仕留めて来ます!!」
(思いっきり・・・思いっきり!!)
キルコがアスファルトを砕きながら、駆け出して行った。
安錠「!!!!、な・・・・えぇぇはえぇぇ!!!!」
「・・・・・・あ・・・・・・?」
(・・・あれ・・・?や・・・やっちまったんじゃないかコレ・・・!?)
下着ドロ「・・・へ、へへへ・・・まいったぜ、まさかポリ共にはち合わせるとはな・・・まぁ所詮、こんな辺ぴな町の警察じゃあ、たかがしれてるわなァ。さーてもう一仕事といきますか・・・ん?」
「!?」
キルコが下着ドロに追いつこうとしていた。
キルコ「見つけたァァ犯罪者ァーッ!!」
下着ドロ「!!、ええええ、何だァァ―ッ!!?」
「ヒイイッ、何?何あいつ!?あの婦警!?なのか!?走って原付に追いついてくるだとィ!!?」
キルコ「フフフ・・・まだ逃亡するつもりですか?言っておきますが、さっきまでの私とはわけが違いますよ!?」
下着ドロ「!!、な・・・おわぁあ―――!!」
キルコのトンファブレイドの斬撃を、下着ドロは間一髪でかわした。
キルコ「さあ、どうしました。逃げてばかりですか、ホラ!!そっちもかかってきなさいっ!!」
下着ドロ「うぎゃああ、何だこいつはァ!!こっ・・・殺される―ッ!!」
「ぎゃあああ、お助けェ―!!」
安錠「・・・・!!」
(あああヤバイぞ、たきつけすぎた。キルコのヤツ、めっちゃテンション上がってる!!てか、あいつさっき「仕留めて来ます」とか言ってなかったか!?)
下着ドロ「こ・・この女どこまでついてくんだよ。おかしいんじゃねーのか・・・!!」
下着ドロは行き止まりに当たった。
下着ドロ「行きどまり・・・!?くっ・・・」
「・・・・・・!!」
キルコ「フフフ・・・行きどまりですね・・・どうします?大人しく投降しますか?」
下着ドロ「ふ・・・ふざけんな、さんざ刃物で人追い回して、どっちが犯罪者だよ!?何なんだテメーはあ!!」
キルコ「私ですか?私はキルコ・・・新米府警音無キルコです!!」
安錠「おほォいキルコォ!!」
安錠が追いついた。
キルコ「!あ・・・先輩!」
安錠「らめェ―!!し・・・仕留めちゃらめー!!」
下着ドロ「・・・な・・・何言ってんだ・・・こんな婦警いてたまるかって・・・クソっどけエ!!」
キルコ「!」
下着ドロがキルコの横を抜けて行った。
安錠「ああっ、お前も逃げちゃだめェ――!!死にたくないなら投降しろォ―!!」
キルコ「大丈夫ですよ先輩。見て下さい!私が見事あの犯人をカッコよく成敗してみせますから!!」
安錠「え・・・」
キルコ「これが私の―――――数多の戦場を切り抜けてきた力ですっ!!」
安錠「え・・・嫌な予感!!いやっちょっとキルコ!?違うってお前、だから成敗じゃなくて逮捕だって言ってんじゃん!!何の構えだそれは!?おいっキルっ・・・」
下着ドロ「!?」
キルコ「はァアアアア、ふきとべェ―――ッ!!!!」
キルコがトンファブレイドを振って放った衝撃波が下着ドロを吹き飛ばした。
下着ドロ「!!ギャアアアア!!」
安錠「・・・!!」
下着ドロ「うっ!!」
「ぐえっ」
地面に叩きつけられた下着ドロにキルコが手錠をかけた。
安錠「・・・・・・」
キルコ「ふー・・・!久しぶりに本気出したら何かスッキリしました」
安錠「!」
キルコ「ほらほら見て下さい先輩!犯人無事逮捕ですよ!お手柄って事でいいですよね?私これで、一人前の婦警さんに一歩近付けた気がします!」
「?、先輩、?」
安錠「はいっ!!ああ・・・うん・・・そうスね、いいんじゃないかなあ、そういう事で・・・」
(こ・・・これマジか・・・!?)
(このとき――オレは初めて、キルコがあれでも、日常でかなりの力をセーブしていたのだという事を知った)
キルコが放った衝撃波は道路までえぐり、下着ドロが持っていた無数の下着が辺りに落ちて行った。
安錠(キルコの本気ヤベェエエエ!!)
キルコ「そ・・・それとあの・・・さっきはありがとうございます」
安錠「え!?」
キルコ「正直私・・・このまま警官やっていけるか心配だったんです・・・でも、今日先輩に「責任はとってやる」って言われて・・・その、私何だかとっても気持ちが軽くなったんです!」
安錠「!!あ・・・い・・・いや、あれはその」
キルコ「だから私、今日から先輩の事信じて思いっきりやってみます!一生ついていきますから、先輩♡」
安錠「・・・!!」
安錠(-オレの元に来た後輩の新人、音無キルコ。彼女のそのひとつまみの可愛さとーその何千倍の凶気を含んだ笑顔を見てオレは思った。「キルコに懐かれるのは、もしかしてクビより最悪なんじゃないか」と―――)
筒井「いやあよかったね~お手柄あげられて!クビ免れたし、それに・・・何か二人とも打ち解けたんじゃない?-とは言え」
安錠「!!」
筒井「コレはまずいんじゃないかな~?」
記事「怪奇!流島町にパンツの嵐」
筒井「他にもかなり損害出しちゃったし、後は分かるよね?ハルくん」
安錠「・・・・・・!!」
「結局こうなんのかよ~~~^!!また減棒と始末書だよォィ!!」
筒井「ところでキルコちゃん」
キルコ「?、はい」
筒井「昨日はウチの事知って凹んだけど・・・どう?ここでやっていけそう?」
キルコ「――はい!私これからも先輩と頑張りますっ!!」
安錠「言ってねーで手伝えコノヤロー!!おめーのだっつーの!!」
(続く)
最終更新:2017年03月26日 00:40