"アルレッキーノ"

対訳

登場人物

  • アルレッキーノ(テノール):コメディア・デラルテの類型的なキャラクターの道化師。ペテン師だが、極悪非道ではない。基本的には台詞の役だが、少し歌の箇所があり、CDではテノールが歌っている。
  • コロンビーナ(メゾソプラノ):アルレッキーノの妻
  • 仕立屋マッテオ(バリトン) :仕立屋の親方で、ダンテを愛読。
  • 神父コスピクオ(バリトン)
  • 医者ボンバスト(バス)
  • 騎士レアンドロ(テノール):貴族
  • アヌンツィアータ :マッテオの妻(黙役)
  • 巡邏兵2名(黙役)、ロバ曳き、窓辺の人々

あらすじ

  • 時代:18世紀頃
  • 場所:ベルガモ(イタリア)

幕の前で

  • アルレッキーノが、芝居というのは子供のためのものでも、神々のものでもなく、人間を理解するためのものです。その世界の縮図を見せましょうと、口上を述べる。

第1楽章 悪漢アルレッキーノ

  • 仕立屋のマッテオ親方が、家の前で仕事をしながらダンテの「神曲」を読み、モーツァルトの音楽が聞こえるとうっとりしている時、2階ではアルレッキーノがマッテオの若妻と逢瀬を楽しんでいる。1階の戸が閉まっているので、アルレッキーノが窓から跳び下りると目の前にマッテオがいて、とっさに「もうすぐ野蛮人が来て、女たちを連れ去る。その前に中に入って戸を閉めろ。」と言ってマッテオを脅して中に入れ、マッテオは慌てて家じゅうを閉めきる。
  • 世間話をしながら神父と医者がやって来ると、昼間からマッテオの家が閉まっているので、二人は不審に思ってマッテオに声を掛ける。マッテオは、野蛮人が襲って来ると二人に伝えて、また戸を閉める。二人はちょっと一杯と、ワイン酒場に入って行く。

第2楽章 軍人アルレッキーノ

  • 軍服を着て変装したアルレッキーノが、自分は隊長で、徴兵に来たと言ってマッテオの家に来る。マッテオが支度をする間に、アルレッキーノはこっそり拝借していたマッテオの家の鍵を元に戻す。
  • 即席の軍服を着たマッテオが現れ、マッテオが巡邏兵に連れられて行くと、アルレッキーノは新しい鍵で開けようとする。

第3楽章 亭主アルレッキーノ

  • コロンビーナがその隊長に声をかけ、夫が自分をほったらかしだと愚痴を言う。アルレッキーノは声で自分の妻のコロンビーナだと気づく。コロンビーナもそれが自分の夫だと分かり、あなたはまたこんなことをしているとアルレッキーノを責める。するとアルレッキーノは、誠実なんてものは悪徳だと居直り、コロンビーナがアルレッキーノをおだてているうちにこっそり逃げる。
  • 騎士レアンドロがやってきて、甘いテノール声でコロンビーナを口説く。コロンビーナもまんざらではないふりをする。アルレッキーノがそれを見て、コロンビーナをワイン酒場に押し込んでから、騎士レアンドロに決闘を挑む。レアンドロは初め、同じ身分でないと決闘できないと拒否するが、正当防衛ならやむを得ないと剣を抜き、アルレッキーノの一突きで、死んだように倒れる。

第4楽章 勝利者アルレッキーノ

  • ワイン酒場から神父、医者、コロンビーナが出てきて、人が倒れているのに気がつく。神父と医者は死んでいるというが、コロンビーナはまだ生きていると言って、助けを呼ぶ。が、近所の人は窓から覗くだけで、誰も助けてくれない。神の摂理で、ロバ曳きが現れ、その荷車に載せてもらって病院へ行く。
  • その時、アルレッキーノが現れ、マッテオの若妻を連れて遁走する。
  • マッテオが疲労困憊して戻って来ると、「夕べの祈りに出かけます。できるだけ早く戻って来ます。」という若妻の置手紙がある。マッテオは「不可解だ」と言いつつも、仕事をしながら、ダンテを読みながら、妻を待つことにする。

幕の前で

  • 騎士レアンドロとコロンビーナが腕を組んで登場。続いて、神父と医者、ロバ曳き、最後にアルレッキーノがマッテオの妻アヌンツィアータを連れて出て来る。
  • アルレッキーノは仮面を外して、ここから教訓を引き出すのは皆さんですと語る。
  • 再び幕が上がると、仕立物をしながら本を読んでいるマッテオがいる。

訳者より

  • フェルッッチョ・ブゾーニ(1866~1924)はイタリアの出身だが、母方からドイツの血をひいており、主にドイツを中心に活躍した。リストを敬愛し、バッハを研究し、またモーツァルトに親しみを感じていて、イタリアの影響を受けた作品は、このオペラ『アルレッキーノ』と『トゥーランドット』だけと言ってもいい。
  • 若い頃にコメディア・デラルテの故郷のベルガモで見た、コメディア・デラルテの役者のアルレッキーノが印象に残っていたところに、1913年頃、私的な演奏会でシェーンベルクの『月に憑かれたピエロ』を聴いたことが、このオペラの作曲に決定的な影響を与えたと言われている。ブゾーニはシェーンベルクのように無調には向かわなかったが、このオペラの主人公のアルレッキーノはシュプレッヒシュティンメの影響を受けた語り役である。また、当時『トゥーランドット』が劇音楽付きで上演された時のカラフ役の役者を気に入って、アルレッキーノ役にその役者を念頭に置いていたからとも言われている。
  • アルレッキーノというと、私たちに馴染みのあるところではレオンカヴァッロのオペラ『道化師』に出て来る優男で、『道化師』ではコロンビーナとの浮気の現場を見つかるとさっさと逃げていくが、このオペラのアルレッキーノはなかなかのしたたか者である。またこのオペラではコロンビーナはアルレッキーノの妻となっている。(コメディア・デラルテにおいては、コロンビーナはアルレッキーノの恋人だったり妻だったり、どちらもある。)
  • コメディア・デラルテが舞台の上で、世の中で起こっていることをコミカルに描いて風刺するのと同様に、このオペラ『アルレッキーノ』でブゾーニは「世界の縮図をお見せしましょう」とアルレッキーノに言わせている。そしてそこに登場するのは、ダンテに心酔し、モーツァルトが聞こえると気取りながら、目の前の妻の浮気に気のつかない間抜けな夫や、俗物じみた神父と医者、いかにもイタリアオペラから出て来たような甘いテノールの騎士といったキャラクターだ。このテノールが声を張り上げて歌う箇所はヴェルディ風だ。マッテオが「モーツァルトが聞こえる」と言う場面ではモーツァルト風の音楽が鳴るし、アルレッキーノが騎士レアンドロに「私はあなたの公爵の子かもしれない」とうそぶく場面は、モーツァルトの『フィガロの』を思わせる。
  • このオペラの中で仕立屋のマッテオが夢中になって読んでいるのはダンテの『神曲』である。ダンテの『神曲』からの引用は、岩波文庫の山内丙三郎訳を使わせていただいた。アルレッキーノも『神曲』からの引用を語っているが、当時の人は、それほどよくダンテを知っていたのだろうか?
  • 普通、オペラは第〇幕(Akt)あるいは、第〇場(Szene)という分け方をするが、この『アルレッキーノ』では第〇楽章(Satz)という分け方をしている。オペラを交響曲に見立てたのかもしれない。尚、4つの楽章の前後に口上があるのは、コメディア・デラルテの影響と思われる。

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@ Aiko Oshio

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最終更新:2024年10月06日 09:01