僕の名は時任 代人(ときとう よりと)。
しがない漫画家だ。
何だか某先生の自己紹介みたいになってしまったが、気にしてはいけない。
さて・・・折角こんな所まできて頂いたのだ、何か話でもしようか。
幸いにも仕事柄 僕には話のネタが多い。
ああ・・・あと、『境遇』的にもね。
それじゃ、僕のリズムを・・もとい、
ー奇妙な話を、聴いてくれ。
アパート『がいる荘』の一室 ー
僕は目を覚ました。
デスクの上に突っ伏していた。昨夜は原稿の締め切りが近づき 徹夜覚悟でペン入れに臨んだのだが、どうやら寝落ちしてしまったらしい。
落胆の中、行きつけのカフェへ朝食をとりに向かうべく服を着替える。いつものスタイルであるベージュのコートとグレーのマフラー姿で表に出ると、丁度廊下の掃き掃除をしていた大家のお婆ちゃんが声を掛けてきた。
「おやおやディオさん、お早うごじゃりましゅですじゃ・・」
大家 ー園谷(そのや)さんーは老眼で僕の顔がよく見えないらしく、いつも僕のことをこう呼ぶ。
誰と間違えてるんだろう。
ちなみに彼女、昔は占い師をやっていたらしい。僕も占ってもらったことがあるのだが、その時園谷さんは僕の手のひらの中心辺りの線(後で調べたところ、知能線というらしい)を凝視した後、
『ふんぬ~・・・ディオさん、貴方犬を飼ってらっしゃいましゅな?』
と言い放った。
ちなみにガイル荘はペット厳禁である。
園谷さんに返事をして別れた僕は、カフェ『ラバーズ』に向かった。この店ではモーニングセットに店長手作りのドネルケバブのサンドイッチを出してくれるのだが、これがまた絶品である。
モーニングセットを注文して待っていると、店長のダンさん(アメリカ出身。中東で料理の修行をしていたそうだ) が僕の元にやってきた。
「来てもらって早々悪いんだがね・・時任君、君にお客さんが来ているんだよ。」
僕に客? こんな所で!?
「良ければ会ってあげてくれないか?彼女・・何だか困っているようだったから。」
女性だと・・・!?
益々思い当たる節がない。
男なら担当さん辺りがあり得なくもなかったんだが・・・
「・・・まあ、兎に角会ってみるよ。有り難うございます、ダンさん。」
ダンさんは頷くと、店の奥に歩いていった。その女性の元に案内してくれるのだろう。
僕も立ち上がり、ダンさんに付いていく。
誰だろう?
妹かな?
元カノ・・・は無いな(いたこと無いし)
あ、もしかして園谷さんか!?
ダンさんが立ち止まり、右手で座席を示した。
そこにいたのは
幼女だった。
ようじょだった。
ヨウジョダッタ。
大事なことだから3回言ったよ。
「やっ」
ツインテールと手に持った猫じゃらしが特徴的な彼女は、思ったより素っ気なく僕に挨拶をした。
「あ、えっと、僕は 時任 代人・・です?」
混乱のあまり『知るか』と言われかねない奇妙な自己紹介になってしまった。
「そうか・・・わたしは わたべ だ。」
わたべ。
何だか可愛い響きがする。
オッサンの名字だったら絶対可愛くないのに。
「あんじゃっしゅのわたべとおなじかんじだそうだ。さくしゃがいってた。」
!?
な・・・何ぃ・・・ッ!!
な、何てこと言いやがるゥ!?作者だと!?
それはッ!!メタ発言ってッ!!奴じゃあないのかッ!!
「まあ、いい。それでこの かみ をみてきたんだが。」
言うと、わたべは古いチラシのような紙を手渡してきた。
「・・・?」
「・・・・・・・・・・・・ッ!!!!」
絶句。
その紙には見覚えがあった。
『怪奇現象 募集』
そう書かれた紙は、数年前漫画のネタを集めるために僕がこの店に貼ってもらった、それだった。
「オーマイガァァァァァッ!!!」
わ・・・
忘れていたァァァッ!!
・・・で、でもさ、ほら、ほら!
え~と、あの・・・・・・・・・あ!
「忘れることもあるじゃないか
・・・・・人間だもの」
「だまれ。いいわけするな、おとなのくせに。
この たび は いいわけ ばかりきいてきた たび だった・・・いいわけ はもうききあきたし、おれたちにはかんけーねぇ。」
「お前はどこからやって来たーッ!?
というか誤解されているッ!!
大人がみんな言い訳するわけじゃないんです!
ただ・・・忘れてしまうだけなんです!」
「ときとう のいまの はつげん は、いいわけでないというならなんだというんだ?」
「」
はい、論破されました。少なくとも僕は。
政治家の皆さん、気を付けて・・・!
「・・・まあいい。とっとと はなし を
すすめよう。ぎゃぐぱーと に じかん を
さきすぎだ。どくしゃ があきる。」
「・・・なぁ、わたべちゃん。」
「なんだ?まさかまだ ずるずる らーめん の
ように ぎゃぐぱーと をつづけるわけじゃ
ないだろうな?」
「続けないよ。ガラじゃないしな。只・・・
そのメタ発言は止めにしないか?」
「めたはつげん?なぁに?それおいしいの?」
キャラ変わってるぞ。
「じょうだんだ、きにしないでくれ。わたしはこういう いいまわし がすきなんだ。」
「ふぅん・・・。」
ならいいが。
「・・・で、ときとう。ひっしにうやむやにしようとしてるところわるいんだが、そろそろ ほんだい にはいっていいか?」
「・・・ああ、うん。」
駄目だ・・・もう逃れられない。
「じつはな、わたしの いえ のちかくに・・
ゆうれいやしき があるんだ。」
ほう、幽霊屋敷とな。
「ぼろぼろの あきや のはずなんだが・・・ときおり まど から ひとかげ がみえたり、
こえ がきこえたりするらしい。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「きになるからしらべたいのだが、かよわい
おとめ ひとりでは まんがいち のときこころぼそい。そこでだ、いっしょにt」
「だが断るッ!!」
「!?」
「わたべちゃん・・・君今『探検』って言おうとしたろ。」
「うん。」
「探検ッ!!それすなわちロマンッ!!君の思いは良く分かるッ!!僕も行きたい気持ちはやぶさかじゃあないッ!!しかしだッ!!」
「そのこころは?」
「時任 代人には描き上げなければならない原稿があるッ!!」
「ふーん。で?」
「ふーん。じゃあないッ!!僕は漫画家だ!仕事をしなきゃあならない!明日迄にだ!」
「仕事・・・。」
「それが終わればいくらでも付き合おう!
だから頼む、今日はもう帰・・・」
「どうしても・・・だめか?」
「・・・えっ?」
わたべはうつむいていた。
ー何か事情があるのか。ー
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
ははーん、そういうことか。
この意味深な雰囲気で僕の同情を誘おうというんだな!?
大人をなめるなよ・・・こういう手合は待って居ればいずれボロを出す。
沈黙に耐えきれず、上目遣いでチラッとこちらの様子を伺うのだ。
そこをビシッと論破してやるッ!!
さっき君が僕にやってくれたようになッ!!
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
そして。
その時はやって来っ!?

・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「わたべちゃん。」
「・・・・・・なに?」
「行こうか・・・急ぎでな。」
何故理由を偽るのか・・・隠すのか・・・
そこに興味はない。
しかし僕はマジに困っている美幼女を放っておけるほど・・・・
男を・・・もとい人を捨ててはいないのだ。
「ここが問題の幽霊屋敷か・・・。」
それは大きな洋館だった。
窓や置物は大して寂れてはいないようだが、壁は蔦に覆われすっかり劣化し、まさしく
幽霊屋敷といった趣である。
わたべはさっきからずっと僕のコートに寄り添って震えている。やはり怖いのだろう。
「と・・・ときとう・・。」
「ん?」
「すこし・・・わたしにつきあってほしい。」
「付き合う?何に?」
「わらう・・・わらったら、こわくてもあかるくなれる・・・ゆうきがでる。」
そういうと、わたべは僕に門の前に行くように指示した。
二人で門の前に立つと、わたべは大きく深呼吸をし、心を落ち着け、言った。
「ときとう。このもんをあけてみてくれ。」
僕は門を開けようとしたが、鍵がかかっていてびくともしない。
「さて ときとう、この もん をあけるにはひつようなものがある。わかるか?」
「鍵?」
「・・・・・・・・・・さる だ。」
「さ・・・・猿!?」
「もんきー(門key。つまり鍵。)なんだよ
ときとうーッ!!」
「ウヒィーーーーッ!!」
ガッハッハッハッハッハッ!!
ボロ屋敷の前で大爆笑する漫画家と美幼女。
なんだかなぁ。
「ところでわたべちゃん。」
わたべも元気になったようなので、僕の方から切り出した。
「なに?」
「実はこの屋敷なんだけど、所有者は一応いるみたいなんだよ。」
僕はなにも何の準備もなしにここに乗り込んできた訳じゃあない。
この屋敷に関する大体の情報は仕入れてきた。
「ほんとうか!?」
「ああ、不動産業者に尋ねたんだがどうやら
幽谷 劉生(ゆうこく りゅうせい)という男が今の所有者なんだそうだ。」
「じゃあ、そのひとにれんらくすれば・・・。」
「いや、実は幽谷 劉生は今・・・。
・・・消息不明らしい。」
「・・・っ」 わたべが息を飲んだ。
何でこの子『消息不明』なんて言葉知ってるんだろう。『不動産業者』にも対応してたし。
昨今の子供はスペック高いなぁ。
「それに・・・不審に思って見に来た人が実際に襲われているらしい。ここに『何か』いるのはまず間違いないだろう。
すでに幽谷 劉生が・・・『何か』に襲われたという可能性も否定できない・・!!
ここは力づくでも・・・
確かめるしか・・・ないッ!!」
さぁ・・・いよいよだ。
僕には漫画家の顔ともう一つ・・・
知られざる顔がある。
ブレたダイヤマークのような模様が刻まれたプロテクターを纏う、屈強な赤い亜人のヴィジョンが僕の全身に重なるように現れるッ!!
『ウォォォォォォォォォォォォ!!』
僕は・・・『スタンド使い』なのだ。
「マイ・ジェネレーション!」
スタンド・・・それは精神の発露。
運命に『立ち』向かうための力。
僕が頭の中で
『門の鍵を破壊する自分』
を思いうかべると、僕のスタンド
『マイ・ジェネレーション』が右腕を振りかぶりチョップの構えをとる。
『ゥルアーァァッ!!』
バキャァッ!!
錆び一つない頑丈な真鍮製の南京錠は、ビスケットのように砕けて地面に散らばった。
少々乱暴な家庭訪問だが、仕方ない。
何しろこの屋敷、インターホンはおろか呼び鈴すら付いていないのだ。
人命が懸かっているかもしれないしな。
「ほぉ・・・それが ときとう の すたんどか。なかなかかっこいいじゃないか。」
えっ?
「わ、わたべちゃん?今・・・何て?」
「・・・?『ほぉ・・・それが ときとう の
すたんどか。なかなかかっこいいじゃないか。』といったのだが。」
「え?え?わたべちゃんスタンド使えんの!?」
「うん。いぜんもいったはずだが?」
え・・・?そういや言ってたっけ・・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「いや、言ってない言ってない!今初めて聞いたよ!!」
「そっか」
嗚呼・・・なんだこのふわふわした返事・・・ストレスが和む・・・。
僕らは庭を抜け、玄関前の扉に着いた。
ここにも鍵がかかっている。
「やはりだれかなかにいる・・・ということなんだろうか?」
「・・・かな」
そのときだった。
「・・・ぅぅ・・」
!?
「い、今のは・・・うめき声ッ!?」
「や、やっぱり、だれかいる!」
僕は覚悟を決め、スタンドに正拳突きの構えをとらせた。
「や、やるのか?」
「やむを得ないッ!失礼!!」
ドグヮッシャァァ!!
マイ・ジェネレーションの頑強な拳は軽々と扉の鍵の部分を打ち抜いた。
「よし・・・行こうか。」
僕とわたべは屋敷の中に足を踏み入れた。
この中に潜む『何か』の正体を暴くために。
屋敷の中は薄暗い。
しかし、部屋のところどころにあるキャンドルの灯に照らされて、これまた古びた木造のダイニングテーブルや皮革のソファーが見える。どうやらここは大広間らしい。
「こ、これは・・・。」
わたべが張り詰めた口調で呟く。
「気を付けろ・・・『何か』がいる可能性が更に高くなったぞ・・・・。」
緊張した空気の中、いつの間にか僕らは背中合わせになり辺りを見張っていた。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
キィッ・・・
軋む、音。
僕の背中の方からだ。
「・・あ・・・。」
消え入りそうな、わたべの声。
僕が振り返ると、
広間の向こう側。
長く伸びる廊下の先。
そこに、女がいた。
いや、女らしき『何か』がいた。
有り得ない程黄ばんだ肌。
その顔はまるで造られたかのように均整がとれ、表情は不気味な程の無表情。
体の関節は異常な方向にねじまがり、
がくっ、がくっ、と
体を痙攣させながら
少しずつ、僕らの方に体を引きずって来ていた。
「あ・・・う、うぅ・・・・。」
わたべ、顔面蒼白。
僕はすかさずわたべと立ち位置を交代し、
女と向かい会った。
すると、
「ひぃっ!?」
わたべが小さく悲鳴をあげた。
今度は何だ!?
振り向くと、そこには
ぼろきれのようにぐずぐずになった沢山の人間の顔がハンガーで『吊るされて』いた。
「ヴレモン(マジか)・・・。」
なんてこった・・・・
一体何なんだコイツらは!?
てっきり女は『スタンド』だと思っていた・・・。しかしスタンドは一人につき一体ッ!!女がスタンドだとすれば、この顔は何だ!?まさか・・・この女にやられた
『犠牲者』たちの成れの果てなのかッ!?
そう考えていると、吊るされていた顔が
ぐにゃり、
と歪み、搾られた雑巾のようにねじれ始めハンガーを破壊し床に落下!
『『『ウヴあァァァァァァァァァァァァオォォォォォォォォォォォォォ!!』』』
奇声を上げ、うぞうぞとうねりながらこちらに近づいて来るッ!!
「ーーッ!!『マイ・ジェネレーションンン!!』」
飛び掛かってくる化け物どもに対し、
『ゥルア!!』
ドバババァン!!
それぞれ一発ずつ、拳を叩き込んでやった。
「!?」
すると、女の化け物が拳を叩き込まれた鳩尾からひび割れ、胴体が砕け散った!
「こ、これは・・・『スタンド』じゃあないぞッ!!これは只のマネキンだ!実体があるッ!!
このぼろきれみたいな顔もそうだ!
正しくは『ぼろきれみたいな顔』じゃあなくて『顔みたいなぼろきれ』なんだッ!!」
「ほ・・・ほんと?」
恐怖のあまり既に半泣きのわたべが、弱々しく尋ねる。
「ああ、本当だ!そして理解したッ!!
コイツらは『スタンド』の能力によって生まれたものだ!おそらくマネキンや衣服などの
『非生物』に擬似的な『生命』を与える能力!
そうだろッ!!そこのお前!!!」
そう言うと、僕はこの広間の上・・・
吹き抜けから見える二階の渡り廊下にいる人影を指差した。
継ぎはぎだらけの体・・・
あちこちに太い血管を隆起させ、
白眼をむき出す不気味な亜人のヴィジョン。
その陰に隠れる、細身の男・・・。
お前が、本体か。
『ォンマァァァァァァァッ!!』
男のスタンドが咆哮をあげた。
「ほう・・・・戦う気か。
ならとっととかかってこいッ!但し僕の
『マイ・ジェネレーション』はお前が降りて来た途端、一秒に十発は拳を叩き込んでやるがなッ!!」
『ォンマァァァァァァァッ!!』
ヴァハァァンッ!!
男のスタンドは降りて来る代わりに、大きく手を打ち鳴らした。
「っ!?」
するとスタンドの一本締めに反応するように、辺りの棚が、タンスが、クローゼットが、その他諸々の家具類がガタガタと震えだした。そして、
『『『『『『ヴァッハァォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』』』』』』
胴体の無いマネキンが、ぼろぼろの衣服が、インクの切れたペンが、足の折れた椅子が、
使われなくなったコインが、片方だけの鋏や靴が、割れた植木鉢が、動かなくなった柱時計が、蓋が無くなった水筒が、ひび割れたフライパンが、主人に棄てられた様々な家具たちが。
命をもって、
狂乱の叫びをあげた。
「ッこれはマズイっ!!
『マイ・ジェネレーション』!!」
『ゥルアァ!』
ズバォバォンバォンバォンバォンバォン!!
一点集中!
『マイ・ジェネレーション』のラッシュが
『無機物のゾンビ』の群れを掻き分け、何とか僕とわたべは廊下に脱出した。
『マテェェェェェェェェッ!!ニガサネェゼェェェェッ!ォンマー!!』
「や、やばいぞ!あの男、完全にキレてやがるッ!!わたべちゃん、大丈夫か!?」
「・・・なんとか・・・。」グスッ
「完全に囲まれてはいなかったから何とかなったが・・・もし四方八方から襲われでもしたら、流石に僕のスタンドでも全部は捌ききれないぞ・・・。
何とかしないと・・・わたべちゃん、あのスタンドについて何か気付いたことは無かったか?」
「・・・・ある。」
「本当か!?一体どんな?」
「あのすたんど・・・かんこくご で
『おかあさん』っていっt」
「-mapきtgjaあ.jmwpkやたg-tirtmふkguー
ー!!」
「お、おちつけ ときとう!よ、よしよし!」
「この切迫した状況で何を言うだぁーっ!?
韓国語でお母さんのことを『オンマァ』と言うことなんて今気付いてどうするというだぁーっ!?」
「う・・・。」
「・・・なんてな。」
「え?」
「安心してくれわたべちゃん。この時任
代人、対策ぐらい既に思いついているッ!」
「ときとう・・・・。」
「その調子で素敵なギャグでも呟きながら・・・・大船に乗ったつもりでいてくれ。」
「う・・・うん!」
やっと明るくなったな。
さて。
それじゃあ始めるとしようか。
ゾンビ・ハンティングをな!!
僕とわたべは、幽霊屋敷の渡り廊下を小走りに進んでいた。
「はぁ・・はぁ・・。」
体力があまり無いわたべに、疲れの色が見え始めた。急がなくては・・・!!
この屋敷の間取りは大まかにではあるが掴んでいる。屋敷の一番西にある部屋は、狭い上に入り口は一つしかない。つまり、追ってきたゾンビどもに囲まれることなく、小分けに始末することができる!
「後少しだ!わたべちゃん!」
「はぁ・・はぁ・・う、うん!」
例の部屋が見えてきた。行けるッ!追い付かれなかった!!待ち伏せられてもいないッ!!!
ここがお前の終着駅だッ!!
ガチャッ!!
部屋に入った僕が先ず感じたのは、
違和感。
何かが違う!本当ならなにも無い筈の壁の表面に・・・
扉!!
しまった、まさかアイツ・・・。
バァァーーン!!
『『『『『『ゥヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーォ!!』』』』』』
部屋を・・・改造してやがったッ!!
『ゥヴァーオ!!ゥヴァーオ!!』
完全に、囲まれた・・・。
『ゥヴァーオ!!ゥヴァーオ!!』
「そ、そうだ!わたべちゃん!!君も確かスタンドを使えるんだろう!?そいつを出して戦えないか!?二人でならもしかしたら・・・。」
僕がそう言うと、わたべは体を自分の腕で抱え込むような姿勢をとった。すると、腕の中から緑色の煙がボワン!と噴き出す。
現れたわたべのスタンド・・・それは笹の葉のような長い耳をもつ、ウサギとハムスターを足して二で割ったような姿だった。
その可愛いらしい外見からは、戦闘能力の『せ』の字も感じられない。
スタンドを抱き抱えるわたべも何だか凄く申し訳なさそうな表情である。
『ぷぎー!ぷっぷるっぎー!!ぷひっ、ぷひっ、ぷぎきーっ!!!』
わたべのスタンド『エディ・ラビット』は自我をもつスタンドらしい。このゾンビだらけの状況に、激しく興奮している。
要するに、戦力外。
『ゥヴァァーーォ!!ゥヴァァーーォ!!』
ゾンビたちはもう目の前まで迫っていた。
その中の一体、服ゾンビがわたべの体に飛びかかり、
「いやあぁーー!!」
瞬間、僕はプッツン来た。
『ゥルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーアア!!』
ドヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァ!!
マイ・ジェネレーションの怒号と共に放たれた拳の雨は、次々とゾンビたちを打ち飛ばしていく。
しかし、やはり捌ききることは出来なかった・・・!!無防備になった僕の顔面目掛けて、丸まって激しく回転する服ゾンビが・・・!!
飛んで・・・来なかった。
「!?」
あろうことか、僕の顔面目掛けて飛んで来た筈の服ゾンビは、失速し僕の胴体に向かって落下していく!
『ゥルアッ!!』
ドゴォッ!!
そのままマイ・ジェネレーションの間合いに入った服ゾンビは、成す術もなく殴り飛ばされた。
「まさか・・・。」
僕は身に付けていたコートを脱ぐと、天井に向けて放り投げてみた。
すると、服ゾンビたちだけが目敏く反応し、コートに飛びかかりズタズタに引き裂いた!
「やはり・・・そういうことか!このゾンビたちは、自分と『同じ』種類のものしか攻撃しないんだ!服ゾンビなら衣服しか、マネキンゾンビなら人の形をしたものしか攻撃できない!!その証拠にさっきから襲ってくるのは服ゾンビとマネキンゾンビだけで、その他のゾンビはたむろってるばかりで一切攻撃に参加していないッ!!」
そうと決まれば話は早い!!
『ゥルア!ゥルアァ!!ゥルアァァッ!!!
ゥルアァァーーアア!!!!』
マイ・ジェネレーションは残る服ゾンビとマネキンゾンビに拳を叩き込んだ。
しかし、やはりそこはゾンビ。元は命をもたない無機物。いくら怪力で圧倒しようが、問題なく起き上がってくる。
そう、普通なら。
ゾンビたちは起き上がろうとするがどうしても途中で脱力し、その場に崩れ落ちてしまう。
『ナンダァー!?ナニヲヤッテイルゥ?
サッサトオキアガランカァーッ!!』
男のスタンドの困惑した声が、どこかから聞こえてきた。
「ふっ、無理だよ!コイツらはもう起き上がれない!!」
『ナ・・・・』
「吃音症って知ってるかい?簡単に言えば上手く喋れなくなる病気なんだが・・・。
僕の『マイ・ジェネレーション』は触れたものを吃らせるスタンド!!この能力で吃らせることができるものは言葉だけに留まらない!ありとあらゆる行動が上手くいかなくなる!体が躊躇う!」
『ウ・・・ウググ・・・』
「おやおや、どうやらまだ本体さんは隠れるつもりらしいな。なら仕方ない・・・。」
マイ・ジェネレーションが再びラッシュの構えをとる。
「お前が見つかるまでじっくり屋敷を解体して、探させて貰うとするか!!」
『ゥルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
『ヤ、ヤメロォーー!!』
轟音を響かせ、部屋が崩壊していく。
残ったゾンビたちも成す術もなくラッシュに巻き込まれ、粉砕されていった。
「ひいぃーっ!や、止めてくれぇぇ!僕が悪かったぁー!!頼むからこれ以上、屋敷を壊さないでくれぇぇ!」
悲鳴をあげながら、両手を挙げた本体の男が
ようやく姿を現した。
マイ・ジェネレーションがラッシュを止めると、最早ゾンビは影も形もなかった。
わたべが安心して、床にへたりこむ。
やれやれ。
ようやく、終わったか。
「まさか・・・君が幽谷 劉生だったとはな・・・。」
僕とわたべ、そしてゾンビのスタンド
『ピース・オブ・フレッシュ』の本体だった
幽谷 劉生 の三人は、幽霊屋敷の大広間に戻りお茶を飲んでいた。
「さて、それじゃそろそろ話してくれよ幽谷劉生。今回の騒ぎに対する言い訳をな。」
「言い訳?馬鹿言うなよ。君らだって知ってるだろう、ここは正真正銘僕の屋敷だ!不法侵入者を攻撃して何が悪い?」
「何が悪いって・・・そうする前にもっと他の方法があったんじゃあないのか?
インターホンを設置するとか・・・何よりあんな外観の屋敷じゃ、空き家と思われたってしょうがないぞ?」
「・・・古い物が、好きなんだよ。」
「!?」
「僕は古い物が好きなんだ・・・使い古された家具や日用品・・・壊れて何度も何度も繰り返し修理された傷痕を残す物・・・。その儚さの中に、僕は至上の美しさを感じる・・・。使う物も然り、住む場所も然り!古い物の中でなければ、心が落ち着かない!
インターホン?通信機器?そんな近現代的な物もっての他だ!僕はアンティーク至上主義者なんだよ!」
「だったらせめて呼び鈴ぐらい付けたらどうなんだよ・・・。」
「え?外れてたの?」
「オイオイ!!」
「成る程、それは確かに僕の落ち度だな。
深く謝罪するよ。君のコートも弁償する。
それでいいだろう?」
「いや、そうは問屋が卸さないぜ幽谷 劉生。君は僕ら以外にも、訪問者に危害を加えたそうじゃないか。」
「危害って・・・大袈裟だな。怪我はさせていないよ。ゾンビで脅かして門前払いにしただけさ。」
「どうだか・・・子どもだろうが迷わずゾンビに襲わせるような奴が・・・。」
「それは君らが門をぶっ壊して押し入ってくるからだろうが!それも僕の就寝中に!こっちは強盗かと思って必死だったんだよ!」
ああ、成る程。あの時の呻き声は、起きて伸びをする時の声だったのか。
「・・・済まなかったな。」
「いいよ。さっきも言ったが、こっちにも落ち度はあるしな。少々癪だが、電話とインターホンぐらいは付けるようにするよ。」
「・・・そんなの、どうでもいい・・・。」
突然、今まで黙りこくっていたわたべが口を開いた。
「「え?」」
「みーちゃんは・・・みーちゃんはどこにいるの!?」
「み・・・みーちゃん?」
「この いえ にいるのは しっている!
はいっていくのをみたんだ!!」
「し・・・知ってるか?」
戸惑いながら幽谷に尋ねる。
「さ、さあ・・・。」
幽谷もまた困惑している。
「うわあああん!どこなの?みーちゃーん!!」
ゾンビに襲われても健気に耐えていたわたべが、とうとう大声で泣き出した。
「お、落ち着けわたべちゃん!」
「あ、あわわ・・・僕は・・・僕は一体どうすれば・・・。」
「うえーーん!みーちゃーん!みーちゃぁぁん!!」
広間がパニックになり始めた、その時。
『な~ん』
一匹の猫、真っ白な毛のマンチカンが
てくてくとこちらに歩いてきた。
「あ・・・ダリ、お前・・・・。」
幽谷 劉生の飼い猫らしい『ダリ』は、わたべの元に歩み寄ると慰めるように頬擦りをした。
「あ・・・み、みーちゃん!」
『な~ん』
「ま、まさか・・・。」
わたべは膝の上に登ってきたダリを優しく抱きしめた。
「よかった、みーちゃん・・・わたし・・・
あいたかった・・・!」
『な~ん!』
「ほんと?うん、わたしもだ・・・ありがと・・・。」
わたべが話すたびに『エディ・ラビット』がダリに向かってもにょもにょと口を動かしている。もしかしたら、動物と会話できる能力をもっているのかもしれない。
「なんだ、そうだったのか・・・ダリ・・・いや、みーちゃんに会いたかったから、僕の家に来ようと思ったんだね?」
「うん・・・。」
「だったら初めからそう言えばよかったんじゃないか?」
「すまない、ときとう。だが、わたしのいえでは ぺっとをかってはいけないことになっているから、なるべく はなし をふせておきたかったんだ。」
そうだったのか。
「悪かったね、わたべちゃん。みーちゃんはここしばらくお見合いをさせていたから、外に出してあげられなかったんだよ。」
「うん、わかってる・・・みーちゃんがはなしてくれた。」
「これからはまた外に出られるから、遊んであげてくれるかい?」
「うん!・・・うん!ありがとう!」
『な~ん!』
こうして、幽霊屋敷の謎は、解明された。
それから後は大変だったよ。
何しろ幽霊屋敷の探索に半日も時間を割いてしまったからね。原稿を仕上げるのは絶望的だった。
だけどそこは一応プロだからね。
しっかり描き上げてみせたよ。いやぁ、
人間死ぬ気でやれば出来ないことなんてそうそうないね。
ん、あの貼り紙、気になるかい?
いや、実はまだ貼って貰ってるんだよ、例のチラシ。漫画のネタがふえるしね。
何より、刺激のある人生って、楽しいじゃない?
さて、もうこんな時間か。話を聞いてくれてありがとう。
また来てくれよ。今度も奇妙な話を用意しておくから、さ。
命知らずのマイ・ジェネレーション
ー漫画家はカフェにいるー
ー漫画家はカフェにいるー
ー ENDー
使用させていただいたスタンド
No.5823 | |
【スタンド名】 | マイ・ジェネレーション |
【本体】 | 時任 代人 (ときとう よりと) |
【能力】 | 殴った対象を『どもらせる』 |
No.7888 | |
【スタンド名】 | エディ・ラビット |
【本体】 | 渡部 未来 (わたべ みく) |
【能力】 | 小動物並みの身体能力を持っており、嗅覚や聴覚が敏感 |
No.7835 | |
【スタンド名】 | ピース・オブ・フレッシュ |
【本体】 | 幽谷 劉生 (ゆうこく りゅうせい) |
【能力】 | 触れた『死んだ無生物』を『ゾンビ』にする |
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