これはとある町の、とある学校で起きた、とある青年が体験した奇妙な物語である
***
青年は、友人の高校で開かれる文化祭に招待されていた
「お前達の高校は随分派手な文化祭をやるんだな」
「気合い入ってるよねェーー。確かにそれはアタシも思ってた」
「…一度無くなっちゃいましたから、この学校…だから余計に張り切ってるのかも」
「成る程ねェ…あれ?そういえばあいつ等は何処行った?さっきまで此処に居たと思ったんだが」
「あー…あの二人は…ねェ?」
「……うんうん」
「……?なんだよ」
「邪魔するのは野暮ってもんなのよ。ほらほら、アタシ達も出し物あるし、暫く適当に回っててよ」
「何なんだ一体。折角だから一緒に回った方が…なッ、ちょ、押すなよ!分ったから!」
青年は渋々了解し、押されるがままに校内へと歩を進める
「ん?」
その時青年の視界に映ったのは、大きなカボチャだ
「(いや違うな。ありゃ人だ)」
大きなカボチャの被り物を被った少女が、テコテコと歩いている
「なぁ、ありゃあ何だ?今日はハロウィンじゃあないだろ?」
「あー、彼女は変わってるのよ。“川瀬 飾(カワセ カザリ)”ちゃんって言うんだけど、一年中あんな格好してるのよね」
「へぇ…ハロウィン好きなのか」
「…『スタンド使い』…だったりして?」
「高確率で変人は『スタンド』持ってるわよね。さてと、じゃあここら辺で一旦お別れだね。楽しんでいってねー」
「ああ、頑張って来い」
手を振って少女達を送り出す
「何処から回るか――」
歩き出したところで、ドンッと先程のハロウィン娘にぶつかってしまった
「うおッ…と。スマン、大丈夫…」
「『トリック・オア・トリート』!」
「………?」
「『トリック・オア・トリート』!!」
少女はぶつかったことなど気にも留めず、ひたすら『トリック・オア・トリート』と喋るばかり
「(待て……この『声』はこの娘のものか?)」
「『トリック・オア・トリート』!!!」
「分った分った!今なんか出すから」
青年は偶然にも懐に入れてあったキノコの山を取り出すと、少女に手渡す
少女はそれを受け取ると、カボチャの被り物を外し、満面の笑みでこう告げる
「ありがと!」
そして、瞬く間に走り去ってしまった
「変わった娘も居るもんだな……」
***
「文化祭ってだけはあるな…文化系の部活がハッスルしてやがる」
校内を巡っている時、何度か「ジョジョさん!次はこっちに行きましょう!」「いや、ちょ、待っ」
と言うやり取りが聞こえた気がする。死ねばいいのに。
「お」
特に当ても無く廊下を歩いていると、目の前に『美術部:作品展示中』と書かれた看板が現れた
「行く場所もないし…入ってみるか」
机を台にして、多数の作品が飾られている
部員は出払っているのか、一人もおらず、それどころか自分以外の人間も見当たらない
「……うわぁ」
それもそうだろう。と青年は思った
作品のレベルはお世辞にも高いとは言えず、精々小学生が必死こいて作った夏休みの宿題止まりだろう
「(おいおい…これなら展示しない方がいいんじゃあないのか)」
部員と鉢合わせる前に帰ろうと踵を返したところで
「あら、お客さんかしら」
「(うげッ)」
スラリとした顔立ちの、如何にも気の強そうな少女が立っていた
「あ、ああ…でも見終わったから今出てい」
「遠慮せずご覧になって下さいね。どれも素晴らしい作品ですよ」
「そ、そうですね…(人の話聞けよ…)」
「それとも――」
少女は青年に背を向けると、形容し難いオーラを全身から放ち始める
「(なッ…コイツまさかッ!)」
「――『こんなレベルの低い作品なんか見てられるか!』とでも言いたいのかしらァ~~~ッ!!」
少女の体から、水中眼鏡のようなものをかけた人型のヴィジョンが飛び出す!
「『スタンド使い』ッ!」
「顔に出てるんだよォ~~~!『今すぐこんな部屋から出たい』ってなァ~~~」
「なんつー無茶苦茶な!ええいッ、『トンガリ・コーン』!」
青年の指にあるお菓子を模した三角帽子のような『スタンド』が発現する
「あら、貴方も『超能力』が使えるのね。でも無駄よ、そんな貧相なものでは私の『カプセル』に傷一つ付けることなど出来ないわッ!」
「どうかな…『スタンド』ってのは『精神の形』だ。重要なのは『やってやる』って言う気持ちなんだぜ」
「『トンガリ・コーン』ッ!」
青年の指から弾丸の様に三発の『トンガリ・コーン』が射出される
「くッ…『カプセル』!弾き落として!」
カンカンカン!と、少女の『スタンド』が『トンガリ・コーン』を弾いていく
「この程度、私の『カプセル』の敵では――あれ?」
青年の姿は、部屋から消えていた
***
「まともに取り合ってたら埒が明かねーぜ…成るべくあの部屋には近づか」
ビュオン――ゴシカァン!パラパラパラ....
「………」
突然、廊下の壁に穴が空く
異変に気付いた生徒や来校者がざわつき始めた
「こ、こいつはッ!」
小さな粒だ
粒の集合体が壁に穴を空けたのだ
「なんて奴だ…一般人も居る中で躊躇いなくッ!」
「フフ…逃がさないわよ。そしてこれが私の『カプセル』の能力!」
少女は部室の入り口にたったまま、青年を睨みつける
粒が集まり、人の腕を形作る
勢いよく振るわれたそれを青年は屈んで避ける
「(『粒』!『粒』が集まった『スタンド』か!)」
「くそッ…こいつはマズイな」
青年の『トンガリ・コーン』では、こう人が多いと満足に射出することは出来ない
しかし、『粒』となれる少女の『スタンド』ならば、人混みの中で青年のみを捕捉、攻撃出来る
「貴方はチェスで言うところの詰みに嵌ったのよ!」
「さて、そいつはどうかな?」
バシュバシュバシュバシュバシュ!
真上に向けて、五発の『トンガリ・コーン』が撃ち出される
パリン!と廊下の中心に並ぶ蛍光灯を砕き、無数の破片が降り注ぐ
当然、下に居る人間はたまったものではない
悲鳴が響き、人々は破片から逃れる為慌てて廊下の端へ移動する
部室の入り口に立っていた少女にとって、それは進行を阻害される以外の何者でもない
結果、それは青年の逃走経路となった
「な……ッ!く…待ちなさい!」
青年は脱兎の如く廊下を走り抜け、少女の視界から消えた
***
「少し荒っぽいやり方だったが…仕方ないか」
「全くね、怪我人が居なかったから良かったようなものの」
「ッ!?」
┝゛┝゛┝゛┝゛┝゛┝゛┝゛┝゛.....
「驚いた?なにも『粒』になれるのは『スタンド』…だったかしら。『スタンド』だけではないのよ」
「自分の身体を『粒』に変えて人混みを抜けて来たってのか……こ、こいつはクレイジーだぜ」
「貴方、その『スタンド』…数が減っているようだけど?」
「……ッ!」
「大方、次弾の装填には時間が掛かるってところかしら」
「(ま、マズイぜ…)」
追い詰められた青年は徐に懐から大量のお菓子を取り出す
少女は面を喰らって暫く言葉を失ってしまう
「あ、貴方なんのつもり!?この状況でお菓子なんて…」
「いいや限界だッ!食うねッ!」
「(未だにどれを喰えば『スタンド』の回復するスピードが速くなるのか分らないが…)」
「(やるしかないッ!コイツの攻撃を避けながら菓子を食うッ!)」
バリボリバリボリ!
「ちょ、『カプセル』!」
「むぐ…『トンガリ・コーン』!」
最後の二発で少女を牽制し、青年は菓子を貪る
「(せめて一人…奴の気を逸らすだけでもいい…)」
「(たった一つ!イレギュラーな存在さえあれば!)」
「弾は尽きたようね!止めよ、『カプセル』!」
「(間に合わないか――!)」
――ゴガギィン!
凄絶な音が響く、しかし其処に浮かぶ光景は凄惨ではない
マントを着たカボチャの姿
それこそ正しく、ハロウィンで見かけるであろうジャック・ランタンのような『スタンド』が、『カプセル』の攻撃を受け止めていた
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ......
「な…あ、貴女は!?」
「お、お前は……ッ!」
青年を庇った『スタンド』の傍らに立つ少女
それは件のハロウィン娘であった
「あの時の…そうかやはり『スタンド使い』だったのか」
「か、川瀬さんじゃあないの!ま、まさか貴女も『スタンド』と言う奴を……」
「トリック・オア・トリート。お菓子をくれたお兄さんに助太刀するよ!」
「私の『ロリポップ・キャンディ・バッド・ガール』はお菓子をくれた人のピンチに駆けつけるんだからね!」
「一人だろうと二人だろうと、私の『カプセル』は負けないわ!」
『粒』となった『カプセル』の身体が、弾丸のように川瀬へ飛ばされる
「無駄!」
『ロリポップ・キャンディ・バッド・ガール』のマントの裏側に隠されていたナイフが展開される
『粒』とナイフが空中でかち合い、互いに弾ける
「………」バリバリ...ボリ...ボリバリ...
再び『粒』が集結し、川瀬へ向けて攻撃を放つ
『ロリポップ・キャンディ・バッド・ガール』の投げるナイフを『粒』になることで躱し、懐へ入る
振るわれた『カプセル』の拳を受け止めた『スタンド』ごと、川瀬は後退する
「………ッ!」ボリ...ハッ!
「ちィ……ッ!」
「埒が明かないね……ん?」
┝゛
┝゛ ┝゛
┝゛ ┝ ゛ ┝゛.....
「成る程な……」
青年の手には、『トンガリ・コーン』が再装填されている....
「見付けたぞ、お前の『スタンド』の弱点をな」
「弱点ですって?フン、私の『カプセル』は無敵よ!」
『カプセル』が片手を銃の形に変化させる
「貴方の『スタンド』よりもずっと優秀!そんな一発ごとにリロードが必要になる『スタンド』など――」
『カプセル』の指先から、青年へ向けて『粒』が弾丸のように発射される!
「『ロリポッ――』」
素早く川瀬の『スタンド』が動き、盾になろうとするが、『粒』の弾丸達は容易くそのバリケードを突破する
背後の青年を撃ち貫く為に、勢いは衰えない
青年は避ける素振りすら見せず、ただ立ち尽くす
数秒後、そこには血に塗れた青年の身体がある筈だった
だが
「な、なんで…」
「………」
『粒』達は、青年の手前で、青年に当たるギリギリのところで停止している
無論、それは少女の意思ではない
「なんで『これ以上進めない』のよォーーーッ!」
「『Lesson1』だ……“己の限界を知れ”!」
ギャルルルルルルルルルルルルルルル!
『トンガリ・コーン』が凄まじい音を立てて回転する
あの時闘った、殺人鬼へ放った一発のように
「俺の『トンガリ・コーン』は――」
バシュン!
目の前の『粒』も、川瀬女史も、少女も、音でさえも
置き去りにした一発が、少女の肌を掠めた
「ヒィッ……!」
「『音速』を超える。どうだ、まだやるか?」
青ざめた少女の顔を見る限り、良い返答が得られそうだ
***
「と、言うことがあったんだが」
「…やっぱり『スタンド使い』だったんですか」
「うーん…これが瓢箪から出た駒ってやつなの?」
「『スタンド使い』は惹かれ合うって言いますけど、まさか私達意外にも学校に『スタンド使い』が居るなんて…」
「……妙だな」
「なにがだよ?」
「この町の『未来』には『霧』が掛かっている。はっきりと先を見通すことが出来ない」
「件の騒動もそうだが、どうもこの町は『惹き付けている』らしい」
「(『クレイジー・ダイヤモンド』、奴に会ってみるか)」
おわり
使用させていただいたスタンド
No.666 | |
【スタンド名】 | トンガリ・コーン |
【本体】 | お菓子大好きの青年 |
【能力】 | この常に回転する謎の尖がった弾を操る |
No.1864 | |
【スタンド名】 | カプセル |
【本体】 | 美術部員の女子高生 |
【能力】 | 本体の身体をたくさんの粒に変えて飛ばす |
No.1758 | |
【スタンド名】 | ロリポップ・キャンディ・バッド・ガール |
【本体】 | 川瀬 飾(カワセ カザリ) |
【能力】 | このスタンドと本体にお菓子をくれた人間の元へ、世界中どこにいても即座に瞬間移動する |
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