「だけどね、僕には『負けない心』があるんだ。それを君より少し大きくなった時代に大切な友達や仲間に教わった。だから『強く』なれたんだ」
私は小さな頃から苛められ孤立していた。細い体、小さな身長、ぶっきらぼうな表情、一重の目、堪に障る喋り方…言い挙げればキリがない。
自分が何故苛められるのか、ある意味自分でも理解していた。
だから、苛められていても当然だと思っていた。
だから、苛めッコが悪いなんて思った事はなかった。だから、諦めていた。
だから、自分の存在を認めたくなかった。
だからだからだから…。
ある日の学校の帰り道。
家にも帰りたくなくて、公園のベンチで一人で本を読んでいた。
知らないおじさんが私に声をかける。
とても優しそうなおじさんだった。
「なんか寂しそうだね。嫌な事でもあったのかな?」
私は首を横に振る。だって嫌な事があったんじゃない。自分が嫌な存在なだけだから。
おじさんは「そっか」と言い優しい笑顔で私の頭を撫でる。
そしておじさんは言った。
「自分が変わらなきゃ、周りは何も変わらないよ。例え今いる『場所』から逃げても、また自分の周りの環境を自分自身が作っちゃうからね」
おじさんは私の目を見ながら話をした。私もおじさんの目を見た。とても優しい、だけど凄く強い目をしていた。
「僕は見ての通り体も小さいし、これと言った特技もない。スポーツが出来る訳じゃないし、勉強もまぁ…ちょっとだけマシって程度」
おじさんは喋り続ける。
「だけどね、僕には『負けない心』があるんだ。それを君より少し大きくなった時代に大切な友達や仲間に教わった。だから『強く』なれたんだ」
私は熱く語るおじさんをじっと見ていた。
言ってる事は大人の綺麗事だと思った。
だけど不思議な感じのするおじさんはなんだか嫌いじゃないと思えた。
おじさんは一度、その熱い目で遠くを見て、もう一度私の頭を撫でた。
「そろそろ行かなきゃ」と呟き、大きな旅行鞄を手にする。
「焦らなくていい。でも大切な友達を作るんだ。いいね?」
私の手を握り熱い目で言った。
私はコクンと頷く。ひねくれた私を頷かせる強い力がおじさんにはあった。
「じゃあね。またどこかで会えたら嬉しいね」
手を振りながらおじさんは行った。
とてもとても不思議なおじさんだった。
帰ろうとするとおじさんが走って戻ってくる。
おじさんは小さな声で呟く。
「〇〇〇〇、〇〇〇〇…」
スッっと私の腕に触れ、また走って去って行った。
おじさんの触れた腕を見て見る。
まるで『漫画の描き文字』の様なモノが浮かんでいた。
『ワクワク』と書いてあった。
不思議な文字を見てると突然そこから『音』が飛び出す。
「ワクワク!ワクワク!ワクワク!ワクワク!」
文字から音が出てる。魔法の様なこの現象に笑いが込み上げてくる。
「くすっ」
笑ったのなんていつぶりだろう?
なんだか、恥ずかしい気分になる。だけど嬉しい楽しい。
これが『ワクワク』なのかも知れない。この文字の『ワクワク』の意味なんだな。そう思えた。そう感じた。
少しすると文字は消えた。だけど私の腕には『ワクワク』が刻まれた様な感じがした。
『友達、仲間、ワクワク』
初めて友達が欲しいと思った。自分を変えてみようと思った。
あの日の『思い出』と『意志』は一生忘れない。
そして今日から中学生になる。
きっと新しい出会いや思い出が沢山出来るだろうと思う。
あの日、目覚めたこのコと一緒に頑張ってみようと思う━━。
まだまだ笑顔は苦手だけどなんとかなるよね?
眼鏡をかけ、真新しい制服を着て部屋を後にした。
『友達、仲間、ワクワク……沢山出会えるといいッスね!』
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