今朝起きると敷き布団のシーツが破れていて、苔色の麻地が縦に裂けて中から花柄の下地が見えていた。
裁縫なんか生涯としてまともにやったことがないので、はてどうしたものやらと朝飯のお茶漬けを食べながら思案していたところ。
何故かその裂け目が剥き身の蟹肉に見えてしかたがなくなってきた。
「とどのつまり、何が言いたいんだ? その話は」
「蟹が食べたい。蟹をくれ」
「起きたまま寝言いってんじゃない」
ピシャリ
乾いた音は、はたかれた頬だったか、閉ざされた戸口だったか。たぶん両方だ。
「要は繕えばいいんだろう? その破れ目さえどうにかすれば、寝ぼけて不届きなことを言う口は永劫に閉まるってことだ」
早朝の竹林は物の怪の喧騒もほどなく、哲学すら閃きそうな静謐に満ち満ちていた。薮から差し込むわずかな朝日が体を舐めてゆく。
妹紅は欠伸を押し殺そうともせずに、もんぺに片手を突っ込んで俺の前を歩く。空いた手には裁縫道具と思しき木箱を携えて。
「朝早い時分になんだと思えば―――全く……」
思えば寝ぼけていたのかしらん。
実際、妹紅の宅を訪ねたのに大した意味はない。ないが、俺が彼女の家を訪ねる場合、意味を伴うことは少ない。
何となく訪れ、そこでお茶をしたり、外界の見聞を披露したり、碁を興じたり、本を貸し合ったり、永遠亭のお姫様とやらとの一騎打ちに巻き込まれたりが常だ。
それに安息を感じる己にはとうの昔に気がついていた。対する彼女も、言行は荒いが特別に迷惑がる様子もないので、俺の竹林に向かう足は止まない。
妹紅は、良い友人だった。
俺の住居は人里から幾らか離れた低平な土地にある。
あまり人好きのする性分ではないので、こうした遠すぎず近すぎずな位置は非常に気に入っている。
妹紅は畳の上に胡坐をかきながら、甲斐甲斐しくシーツを繕っていた。
「意外だな」
卓の上に、たくあんと緑茶を置く。
「何だい。私に家事が出来ると変てか」
「とんでもない。意外とそういう格好が似合うな、って思っただけさ。どこの嫁に行ってても不思議ない」
さっそく湯のみに手をつけていた妹紅が、にわかに吹き出した。
「おいおい」
「おいおいはお前だ。変なこと言いやがって」
やにわに妹紅の顔がみるみる赤くなってきたので、俺は慌てて布巾を取り出しつつ謝罪した。
「何だかわからんが済まん」
「全く。……」
妹紅は俺から受け取った布巾で口と零した茶を拭った。しかし顔は赤いままだ。恐らくさっきの言葉の中で、何か失礼なことを言ってしまったことに違いない。
時として俺は、こうして何事か妹紅を赤くさせることがしばしばある。
いくら考えても俺の言行のいずこに角が立ったのか判然としないこともある。そういう時に俺は自身の口下手を自覚する。
何となく、気まずい雰囲気が流れた。
「っつ」
「どうした」
妹紅が指を傷つけたのは多分必然のことだった。先ほどから見るからに手の動きがたどたどしくなっていたからだ。
薬指に赤い球体が膨らんで行き、つうと指を伝って流れ落ちてゆく。
「絆創膏、持ってくるかい」
「いや――平気」
俺が席を立ちかけた次の瞬間には、出血は止まり、流れた赤い雫だけが残るのみとなっていた。
不死身。
普段顔を付き合わしている分には、ただの気安い女性なので、たびたび俺はそのことを失念する。
しかし、痛みはあるのだ。流れ落ちた血を見ていると、不意に申し訳ない気持ちが一杯に押し寄せてきた。
「妹紅」
「なんだよ……」
「やはり見ていられない。俺が何か悪いことを言ったんだろう? はっきりと謝らせてほしい」
「そんなんじゃ――ないさ」
妹紅はばつが悪そうにそっぽを向いた。
繕い終わったらしい布団のシーツを敷き布団に被せなおしている。
その背中が、気丈に振舞う普段の姿よりもめっきりと縮こまって見えた。俺はこのことが、このまま捨て置いてはいけないことに思えてならなくなった。
「誰ぞの嫁……と言ったのが気に障ったのか」
後ろ背中に声をかけると、はっきりと妹紅の動きが止まった。
「嫁……嫁か」
そう上の空に呟くと、再びこちらに向き直って胡坐をかいてくる。
その目は沈んでいる。
「○○、私が蓬莱の秘薬を飲み、不老不死の身になっていること、話して久しいよな」
「ああ」
「私、さ」
「千と……数百年。昔は自分が、その歳月を過ごすことに、今ほどの恐れも持ち合わせてなかったよ……。
でも、だんだん、だんだんだ。気付いてゆき、気付かれていくのさ。世間と自分の決定的な隔絶が。
私は一つところに留まって生きるということが出来なくなっていた。
おおくの人間には排斥され、親しくなったわずかな者たちには先立たれる。それはそれは、暗いかめの水底のような心地だ。
巡り巡って、今私を支えている唯一の生き甲斐が、同じ蓬莱の者――私をこんな体にした、輝夜との殺し合い。
最も憎むべき相手にのみ生かされている自分が、芥も残らぬほど焼き尽くしたくなる」
妹紅の瞳が、話の中の暗いかめの水底になるのを、俺は黙って見つめている。
俺が口を差し挟まないのを見ると、妹紅は静かに言葉を連ねた。
「私は誰とも具せない……」
「そんな私にずけずけと入り込んでくるのがお前だ、○○。
どうせお前も、いずれ私を恐れるかくたばるかして、私の前からいなくなってしまうのだろう?
陳腐な話だが、私は何かを失う辛さより、持たざる孤独に慣れた人間さ。そしてそれに慣れようと考えている。そうでなければ生きて行かれない。
私が奪い奪われる関係は、同じ不老不死のあいつだけでいい。お前みたいな普通の人間が、こうして私にかまけていると、ろくでもないことになる」
「そう、ろくでもないんだ。お前といると、調子が狂う。
○○が平凡に暮らしているように、私も暮らせるような気がしてくる。○○が言うと、冷たかった人の言の葉が、色味を帯びて熱くなる」
「もう、止してくれ……。私の蓬莱人としての覚悟には……堪らないことだ」
気がつくと、窓から差し込む陽光はすっかり明るくなっていた。
湯のみから上がっていた湯気は消えている。
「俺は」
「謝りたいと言ったけど、折角だが謝らないことにした」
「俺はさあ、おつむは良かないし、気の利いたことも何一つできない、冴えない普通の人間だよ。
そんな普通の人間からすると、その、妹紅が、俺みたいに暢気に暮らしちゃいけない理由がわからないんだ。
なあ、生きてるって、そんな、つまらないもんじゃないよ。そんな風にずっと考えていたら、いずれ心を亡くしてしまうよ。
ただ臓物が脈を打ってるだけで、死んじまってるようなものさ……。お前がもしそうなっちまったら、悲しむ人間がいるんじゃないか。
妹紅、お前は人間なんだよ。確かにちょっと強かったり頑丈だったりするけれど、俺が見るところじゃ可愛くて綺麗な娘さんだ。
そんなお前が、人間を止めて生きてゆく覚悟をしている。
俺は……それが悲しくてならねえんだよ。藤原妹紅のあんたに、生きていてほしいんだよ」
俺の家は、これほどまでに静かだったろうか。
いつも蔵にある糊をつついて騒がしい小鳥の声すら、今は絶え果てている。馬小屋からもいびきがさっぱり聴こえない。
そういう風に気が散っていたのは、余りに沈黙が長かったからだ。
妹紅は俺の話を聞くと、さっきとは比べ物にならないほど真っ赤になって俯いていた。
弱った。もしかしてまた俺は変なことを言ってしまったのか。
と慌て始めた矢先に、妹紅がいきなり俺に抱きついてきた。
「もう知らないぞ、○○! そんな、そんなこと言うんだったら、とことん私に付き合ってもらうぞ!
お前がよぼよぼのじじいになってくたばるまでだ! 嫌だって言ったってきかないからな!」
妹紅は俺の胸の中で、ぐしゃぐしゃになって泣いている。
突然の事態に、慣れない長い話をして熱過労を起こしつつある俺の脳味噌は、更なるオーバーヒートを迎えた。
「ちょ、ちょっと、妹紅、落ち着け。羊を数えて落ち着くんだ。あれ? なんか違う……」
「ここここれが落ち着いてられるもんか! 羊が一匹二匹よんひき!」
まるで計ったかのように、元通りに敷かれた敷布団の上に俺は押し倒された。
そんでもって―――。
結局、シーツはまた破けた。
俺達は、真昼ぐらいになってやっと、ほったらかしにしていたお茶とたくあんを食べた。
冷めていたはずだけど。
なんだか熱い気がした。
「今度、何かもっとうまいものを食べに行こうか」
「そうだな―――」
『蟹とか?』
なんで俺達が、同じことを思いついたのかは知れない。
うpろだ1333
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-いつもどおり、今日も夜の竹林を歩いていたところだった。
迷ってる人間などを里に帰してやるのをいつもの日課としていた。
急病で永遠亭に向かうという人間の護衛も終わり、だんだんと夜も更けてきた今、そろそろ引き返して休もうとしていたところだ。
闇夜に光る歪な半月も、傾いている。
「…少し休むか」
私は目の前にあった大きい切り株に腰掛ける。
空を見上げたまま、しばし体を休めていた。
カサッ
「…?」
…足音?
今確かに枯れ葉を踏む音が聞こえた。
自分の音じゃない…
それに、かすかに人間とは違うにおいがする。
軽く身構えると、音の生まれた場所を凝視した。
-ガサッ
-ガサッ
…近い。
座ったまま、少量の気を右手にためる。
-カササッ
葉が揺れる。
…来る。
ガサンッ
「のわっ」
影が深緑の景色の中から飛び出てきた。
「ぐへぅ」
ドサン。
緑の中から現れたのは、
10代半ばの体つきをしている、"人間"の男だった。
「…っつぅ」
男はゆっくりと体を起こすと、服についた土を枯れ葉をたたき落とした。
たたき終えたところで、ようやく私の存在に気づく。
暗闇の中で目が合い、私と男は少しの沈黙に包まれる。
「…大丈夫か?」
私が座ったまま問いかける。
「…あ、あぁ」
鳩が豆鉄砲食らったような驚いた顔をしながら、男は少し笑った。
それがこいつに出会った最初だった。
「…迷い人か?」
「ん、…まぁそんなものかもしれん」
男は私の隣に座り、一緒に半月を見上げていた。
「私は迷い人を里に帰すのが日課だ。送って行くぞ」
腰をたたき、少しついた汚れを落としながら立ち上がる。
「ん?…別にいいさ。迷ってるわけじゃなければ里の人間でもない」
「…?」
私はよく意味がわからず、また切り株に腰掛けた。
「どういう意味だ?」
「ん?そのままの意味だ」
「ふむ…」
埒が明かないと感じた私は、それ以上の追及をやめた。
この男が送って行けというなら里に送るし、大丈夫だというなら私は少し休んでから戻るだけだ。
「…あんた、名前は?」
男が不意に問いかけてきた。
「…自分はただの健康マニアの焼鳥屋だ」
そういうと男はプッと軽く吹き出して
「なんだよそれ…」
と笑った。
「そういうお前はどうなんだ?」
と、逆に問いかけた。
「ん?俺、か…しがない占い師だ」
占い師、か。
「いつも大きいローブにくるまりながら、人の手を見てそいつの人生を占っている」
「へぇ」
私は少し感心したように、男の話を聞いた。
今まで何人占ったか、どんな人間がいたか、どういう町を歩んできたか。
「人の手を見ながらいろいろな街を歩んでいく…か、面白そうな職業だな」
「ん…そうでもないさ」
男は少し空を見上げる。
「最初にそういうことができるって気づいたときはうれしかった。それを使えばお金だって儲けられるし、夢見てた旅も実現できるってな」
男は続ける。
「でも、毎日毎日同じことの繰り返し、新しい進展もなければ戻ることもできない場所まで離れた」
「…」
私は男の話を聞いている。
男はいったん話を区切ると、ポケットの中から煙草を取り出した。
「…煙草は体に悪いぞ」
「ん…いいさ」
男は煙草を口に咥えると、またポケットを探り始めた。
「んー…おっかしいな…ライター…」
「…」
私は軽く指を鳴らすと、煙草の先端に火をつけてやった。
「…!」
男が一瞬驚愕の顔をしてから、ゆっくりを笑顔になった。
「あんた、すごいな…どういう手品だ?」
「極まった健康マニアならできるのさ」
私は少し得意げになって、空を見上げた。
「今回だけだぞ」
私は後から付け足した。
「ありがとう」
そういうと男は、煙草を吸い始めた。
「そういえば、お前家族は?そんな歳でこんな時間まで出歩いて、両親が心配しないのか?」
男は、煙草を咥えたまま、ずっと歪な半月を見ていた。
「両親は…物心ついたときにはいなかったな」
「…。そうか、すまなかったな」
私は失言を悔やんで謝罪をした。
「謝んなさんな、気にしてない」
男は煙を口から吐き出しながらいう。
「あんたはどうなんだ?」
「…自分は健康マニアの焼鳥屋だ」
「…ちぇっ」
自分のことは黙秘にしていることにやっと気づいたのか、男はそれから追及することはなくなった。
「だったら、左手貸してみ?少し占ってやろう」
男が右手を差し出してきた。
私は占いに多少の関心を持ち始めていたので、左手を右手に乗せた。
…暖かい人の肌の感触だ。
男はすでに手慣れているのか私が女でも気にしてないらしい。
…本当に久しぶりの人の肌に、もしかしたら顔が赤くなってるかも知れない。
「…ふむ」
男がまじまじと左手を食い入るように見つめる。
「今いる大切な人を、大事にしてやったほうがいい。いるだろう?」
「…すごいな」
この男がいったのは、多分慧音のことだろう。
「なんでもわかるのか?」
「左手っていうのは、その人間の人生…生きた証、歩み方をそのまま表す」
左手のしわにあわせて、男は指をなぞらせる。くすぐったい。
「健康運はばっちりだな…まぁさすが健康マニアといったところか…」
そういうと男は笑った。
「これからも病気は少ないが…多少運が悪い時期があるかも知れん」
…輝夜の襲来に用心しとくか…。
「最後に生命運だな…」
男はまた指でしわをなぞる。
「どれどれ…」
男は生命運とやらのしわを見つけると、また食い入るようにみつめる。
「…?」
男はなぜか何度も何度も繰り返し見る。
「…おかしいな」
…?
「あんた…何回死んで、いや」
「何年生きてる?」
「…!…すごいな、そんなことまでわかるのか」
私は本当に占いに驚いた。
そこまでわかるものなのか。
「…ここのしわでわかるんだが…圧縮されすぎてあんたの歩みが見えん。この分だと軽く千や二千は年を越してるだろう…?」
「…お前はすごいな」
「まぁな…まぁきかんでおこう。どうせ健康マニアの焼き鳥屋だろう?」
「わかってるじゃないか」
そういうと、私と男は二人で笑い出した。
そろそろ明け方、空に明るみが出てきたころだ。
「今日は楽しかった、今までいろんな人間を見てきたが、あんたみたいな人間ははじめてだ」
「私もだ。まさか私の経歴がわかるほどすごい人間がいるとはなぁ…」
里への道を歩きながら、二人で会話をしていた。
「里への道まで教えてもらって悪いな」
「気にするな、日課だからな」
「そうか、ありがとう」
男は感謝をいうと、私も少し微笑んでやった。
「…またきてもいいか?」
「きてもいいが、見かけても私からは声をかけないぞ?」
「いいさ、自分であんたのこと見つけ出す」
男は空を見上げながら、そんなことを言い出すもんだから少し照れくさくなってしまった。
「…ここからずっとまっすぐに歩いていけばもう里だ」
「そうか」
私は立ち止まり、男だけが先に歩いていく。
「今日は本当にいい日だった。また夜に会いにくるよ」
「見つけられればいいな」
そういうと男は苦笑いをする。それを見て、私は少し笑った。
「んじゃ、"また"な、妹紅」
「あぁまた…?!」
今、私の名前を…
「名前ぐらい、しわで簡単なんだぜ?ふふん」
男はそうとだけいうと、里に向かって歩き始める。
「…一本とられたな」
私はそういうと、久しく名前を呼ばれたからか、暖かい心を持ちながら竹林に戻っていった。
うpろだ1361
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「やぁ」
最近のおなじみの声だ。
「お、今日もきたのか。ご飯時だぞ、運がいいな」
「お、タイミングいいな、見計らってきたけどぴったりだ」
○○はそういうと少し笑った。
「やぁ○○さん、あなたも妹紅のご飯を食べに?」
「やぁ慧音さん。ご馳走になりにきましたよ」
そういうと慧音は目を輝かせながら
「そうだろう!そうだろう!妹紅のご飯はいつでもおいしいからな!」
慧音が妹紅の晩御飯のよさを一気に話し出した。
それを聞きながら照れくさそうに妹紅は顔を紅に染める。
「ほら、そんなのはどうでもいいからまずは食べろ」
妹紅はちゃっちゃと茶碗に炊きたての白米をよそる。
「今日は焼き魚か」
慧音が白米がどっしりのった茶碗を受け取ると、箸を取り出す。
自分で持ってきてるあたり準備万端といったところだ。
「今日ちょっと川で釣りをしてな、いい感じにつれたんだ」
「そうか、妹紅は釣りもうまかったな!」
見てるだけで面白い。
慧音の妹紅へのベタ惚れさは見てて心が暖かくなる。
○○も自然に口から笑みがこぼれた。
「まぁとりあえず○○も食べろ」
「ん、あぁ」
○○も妹紅から茶碗をもらい、箸をとる。
「んじゃ、ありがたくご馳走になるよ」
○○が魚に箸をつけて、身をつまむ。
「どれどれ…」
○○と慧音が白米と身を一緒に口に入れる。
『うまい!』
二人揃えていったせいか、妹紅は少し驚きながら、顔を紅潮させる。
「そ、そうか…?よかった」
妹紅は安心した顔で自分の茶碗にもご飯をよそる。
「いや、普通にうまいよこれは」
「妹紅が作るのはなんでもうまいな!」
二人が口々に料理を褒め、また顔を紅潮させる。
「…はは」
○○が少し笑った。
「ん?どうした?○○さん」
慧音が魚を食べながら聞いた。
「いや、さぁ…こんなに面白く飯が食えるって、単純だけどほんと幸せだなってさ」
○○が茶碗をおく。
「こうやって楽しい話をしながらうまい飯を食べてると、ほんと他のことなんかどうでもよくなってくる」
○○はそういってから、また魚を食べはじめた。
「…そうだな。私も慧音と食べる晩御飯はいつでもおいしかった」
「それは私もいつでもだ!」
そう慧音が言うと、妹紅がくすりと笑った。
「それから○○がここにくるようになって…またおいしくなったな」
妹紅がははっと笑ってまたご飯を食べはじめる。
「…」
○○が少し黙る。
「…?どうした?○○」
妹紅が何か失言でもしたかと心配そうに聞いてくる。
「いや、別になんでもないんだ」
○○がそういって、魚とご飯を一気にかきこんだ。
「…?」
妹紅はいまいち釈然としない様子で、魚をつまんだ。
「…妹紅」
○○が口を開く
「このご飯食べたら少し話したいことがある。…少し時間あるか?」
「…あぁ、あるが…」
妹紅は不思議そうな顔をして、○○を見た。
その間慧音は幸せそうな顔をしながら妹紅の手作りご飯を食べていた。
「今日の月は歪だな」
竹林を妹紅と散歩しながら、不意に○○が口を開いた。
「そうだな…○○とあったのも、こんな形を半月だったな」
私がそういうと、「そうだな」といい、あの日を懐かしむような目をした。
「幻想郷にきて1ヶ月か。里の暮らしにはなれたか?」
「ん?あぁ、おかげさまでな。慧音さんがいろいろと紹介してくれてね」
「そうか」
慧音に○○のことを話し、少し手伝ってやるようにいったが、○○もなかなか慧音さんと打ち解けてくれたようで私的にはうれしかった。
「慧音さんは寺子屋で勉強を教えてるんだな」
「そうだな…頭は少し固いが、悪いやつじゃない」
「固いやつ…ねぇ」
○○はそういうと、今日の晩御飯のときを思い出してたのか、少し笑った。
「ま、まぁ悪いやつじゃないだろ?」
「…そうだな、普通にいい人だ」
○○もいい人の点には納得したようで、素直に慧音のよさをわかっていた。
「…食べたばっかもあるし、少しつかれたな」
○○が腿のあたりをさすりながら言った。
「…そうだな、…もう少ししたら休もう」
私がそういうと、○○も一緒に歩き出した。
「…ここか」
○○がそういうと、私と最初に出会った切り株に腰を下ろした。
「一人できたら迷いそうだ」
○○がそういって苦笑いをした。
「はは、そうかもな」
私もそれにあわせて笑いながら答えた。
「…」
二人で切り株に腰掛け、少しの沈黙。
二人は共に空を見上げ、あの日と変わらない歪な半月を見上げていた。
「…○○」
「ん?」
「話ってのはなんだ?」
私はずっと疑問に持っていたことを持ち出した。
「…あぁ」
○○は空を見上げながら口を開く。
「いや、さ。俺が幻想郷にきて、妹紅にはお世話になりっぱだな…と」
「…そんなことか。きにするな」
「…そうか」
…また少しの沈黙が流れる。
「…少し寒いな」
「そうだな…」
出会ったのが10月の半ばごろ。
もうそろそろ12月になりかけの今、さすがに厚着もしないで秋夜を出歩くのは寒い。
「…」
○○が私に寄り添う。
「…な?」
いきなりのことだったから、私は口どもって焦ってしまった。
「…寒いか?」
○○が心配そうに問いかけてくる。
「い、いや、大丈夫だ」
「そうか、よかった」
そういうと○○は笑った。
○○のことだからそういうことで寄ってきたんじゃないだろう。
それでも自然と顔が熱くなる。
…よく見ると○○の顔も赤かった。
寒さのせいだろうか…
「…妹紅」
「な、なんだ?」
いきなり呼ばれたので、噛みながら返事をする。
「…大事な話があるんだ」
「…?」
大事な話…?
さっきの話で終わりじゃないのか…。
そういうと、○○は立ち上がって、私と向かい合うようにたつ。
「あー…うん…」
○○にしては珍しく、話を切り出すのに抵抗があるようだ。
「…どうした?」
「いや、うーん…」
…なんだ?
「ほら、早くしないと帰るぞ。寒くなってきたしな」
「あ…あぁ…あのな」
○○が帰るという単語に少し焦ったのか、できる限り早く話をいおうとした。
「…妹紅」
「ん?」
私は○○の顔を見つめた。
「あー…なんていうか」
○○はそういってから、言葉をつなげた。
「お前の左手を見てから、いや、最初にあったときから、妹紅のことが気になり出したんだ」
一呼吸おいてから、また続ける。
「別に、妹紅の特別な経歴とか、不思議な能力に惹かれたわけじゃない。純粋に妹紅のことが気になり出した」
「…」
…待てよ、○○。そこまでいったらどんな鈍いやつだって、言いたいことはわかってしまう…。
…○○…。
「妹紅…」
「…なんだ?」
○○は一呼吸おいてから、少し強めに言葉を発する。
「俺は…お前自身のことが純粋に好きなんだ」
「…」
…くそっなんで、なんでよりによって!
なんでお前に言われるんだ!
お前に言われたら…悲しくなるだけじゃないか…。
「…○○…わかるだろう…?お前の時計じゃ…私と同じ時は刻めないんだ」
「…」
「私じゃ何もお前に…幸せにさせてやれん」
「…」
「…お前が死んだあと、私はどうすればいいんだ…?」
「…」
そこまでいうと、○○は黙ってしまった。
…悲しいが、私は不老不死の体だ。
○○と同じ時は刻めない…。
わかってくれ…○○…。
「お前と…同じ時計…か」
不意に○○が口を開く。
「…これが…、俺の覚悟だ」
○○はポケットをまさぐると、小さいビンに入った、何かの飲み物を取り出す。
「…?」
「…お前について、多少調べたんだ…すまない」
○○は申し訳なさそうにうつむく。
…!
「それは…!」
「…」
○○は何も答えなかった。
…それがすでに答えだ。
「どこで…」
「永遠亭に忍びこませてもらった。比較的簡単に倉庫で見つけられた」
「…○○!」
「きけ!」
私が言葉を紡ごうとすると、それは○○の叫びで遮られた。
「…お前の答えを聞きたいんだ。お前が不老不死だとか…そんなのはどうでもいい。お前が俺のことをどう思っているかが大切なんだ」
「○○…」
「…もしダメだと言うなら…俺はお前に顔を合わせることはもうない。…頼む」
「…」
…○○…。
「…煙草を一本ゆっくりめに吸う。…その間に答えが欲しい。」
「…」
○○が煙草を一本出すと、ポケットを探る。
「…煙草、逆だぞ」
「…む」
○○が間違いに気づき、煙草を咥え治す。それと同時に軽く指をならす。
それと同時に○○の前に火が灯る。
「…すまん」
「あぁ…」
そういうと、○○はゆっくりと竹林に歩いていった。
…○○にあって1ヶ月か…。
この1ヶ月、短いようですごく圧縮された毎日だったな…。
…私は、○○のことをどう思っているんだ…?
…いや、隠すのはもういい。
…確かに私は○○が好きなんだ。
だが…いった通り、あいつと同じ時計じゃ、同じ時は刻めん…。
それに…あいつがあの薬を飲んだところで、本当にそれが○○の幸せなのか…?
○○…!
「…吸い終わった」
後ろから不意に声が生まれる。
それに気づき、私は後ろを向いた。
「…答えが欲しい」
「…ッ」
…なんて答えればいいんだ…
嫌いだと言えば、もとからいる存在じゃなかった○○は消え、また慧音と二人、"元通り"の生活になるだろう。
だがしかし、そんな簡単に消せるほど私のなかで○○はちいさくない存在だ…。
好きだが、蓬莱の薬は飲まないで欲しいと言えば…?
…確かに幸せな時間がくるだろう。
だが…果たして何年だろう。
60年?70年?
…私にとってはちっぽけな時間だ。
それに、○○だってそんな曖昧な返事は望んでないだろう。
…かといって、○○が蓬莱の薬を飲んだところで、それが本当に○○の幸せなのか…?
…ッ!
「…妹紅」
「…」
「お前と同じ時が刻めなくても。現在(イマ)は共に刻めるだろう」
○○が言葉を紡いでいく。
「…お前は俺に優しさと温もりのある時間をくれたじゃないか」
「…」
○○…。
「…お前が俺が死ぬのが悲しいというのなら、俺はいつだってこの薬を飲む」
そういって、○○は蓬莱の薬を取り出した。
「…俺が幸せなのは、この薬を飲むことや、不老不死をえられることじゃない…」
「…」
「お前と…同じ時を刻むことができるのが一番の幸せなんだ!」
…!
「…○○…ッ!」
私は○○に向かって駆け出そうとした。が、それは○○に遮られた。
「…すまない。返事が欲しいんだ…ここで妹紅と触れ合ったら、離れることが絶対にできなくなる…」
「…!」
…○○!
「好きだ!」
私は声を張り上げて叫んだ。
「私も…○○が好きなんだ!」
少し目尻に涙が浮かんできた。それでも言葉を紡ぐ。必死に。
「○○と一緒に時を共にしたい!優しさが欲しい!」
「…妹紅」
○○も少し目尻に涙を浮かべ、顔を紅潮させる。
「○○…好きだ!」
…そうだ。
私は○○が好きなんだ。
…もう迷わない。
○○と共に、永遠を共にしよう。
…怖くない。
○○がいるなら、永遠だってなんだって越えていけるはずだ。
…これが幸せなんだ。
○○はビンのふたをあけ、中身を一気に飲み干す。
それを見終えて、私は○○に走りだした。
固く抱きしめてくれた○○の腕の中で、歪な三日月の下、静寂な時を刻んだ。
「…これから共に歩もう。永遠を。な?」
「あぁ…もう迷わない。…好きだ」
「俺もだ。…なんだか不老不死って実感がないな」
「ふふ、これからさ。…でも、お前と一緒なら私はどこでもいけるさ」
「あぁ、俺もさ」
『共にいこう、永月を。』
うpろだ1363
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時は神無月。
とある隙間妖怪が外の世界へと旅行を計画、
伴侶を伴うならば参加を許可するという条件で一般にも開放され、様々な人妖が参加しているらしい。
私もそれに便乗する為、申込書を記し、我が恋人である愛しの妹紅を勧誘。
もじもじとしながら、
「さ…、さんかしても……、…いぃょ…」
と返答した妹紅は非常に愛らしく愛しくてもう私の理性は瓦解しそうになりながらも電光石火の勢いで準備を終え、共に旅立った。
数ヶ月ぶりに訪れた私の故郷は特に変化もせず漫然と灰色の空気を私に浴びせかけてきていたが、
妹紅にとっては見る物全てが――まあそれも当然だが――珍しいようで、興味津々な子猫のような愛人は非常に私の心の癒しとなっていた。
まず踏みしめている地を見、前方を塞ぐコンクリートジャングルを眺め、まるで弾幕のように流れる人々に驚いた。
私はそんな恋人を眺めているだけでもう旅行にきた事に満足していたが、私には非常に重要な用を果たすために旅にきている。
気を取り直し、恋人と外の世界の観光をすることに決めたのだ。
そこからはもう存分にイチャついたと自負している。
街で、駅で、店で、レストランで、料亭で、ホテルで、旅館で、家で、
常に妹紅と共に在った。
どこかへ連れて行くたびに、妹紅は笑い、私も笑い。とても幸せな時であった。
さんざん遊び倒し、桃色空間を展開させ、明日、いざ帰ろうとする時。
私は妹紅を呼び止めた。
「なあ妹紅、聞いてくれないか」
「なっなんだい、○○。そんな暗い顔して」
「妹紅、私は最低の男だ。私は最低の男だ。重要なので二度言った」
「さらに繰り返す、私は最低だ」
「私の精神は非常に未発達で原始的で幼稚で利己的であり、理性的とは程遠い」
「私の肉体は非常に醜悪で貧相で軟弱で脆弱で、健康的とは程遠い」
「私の性格は非常に鬱屈としていて狡猾で迂闊で残念で、
さらに私の駄目さ加減を君に正確に伝えるためには広辞苑を引用しつつ一週間かけて日本語の勉強をし直さなければならない」
「そして私は人間として無能である。これは断言できる確定的に明らかな事実だ」
………。
「妹紅、ここまでは君は認識しているかな?」
「い、いや、ちょっと待ってよ。突然何さ、○○はそんな酷い人じゃないよ」
「ああ、私に対する擁護は今はいいよ。妹紅は優しいから、きっと全部否定して受け入れてくれるに違いない。
でも、今話したいのはそういうことじゃないんだ」
「……? まぁ、○○がいいって言うなら良いけどさ…」
「話を続けよう。
妹紅、僕は君に恋して、君を愛して、君から愛してもらうようになってからふと、感じていた感情があるんだ。勿論、恋慕以外で、さ。
最初はそれがどうして感じるのか、どうしてそんな事を思うのか、非常に不思議ででしょうがなかった」
「理解が出来なかった、そのことに嫌悪したりした。
考えては妹紅と一緒にいて、考えては仕事して、考えては食べ、そして寝た。
でもある時、その正体に気づいて戦慄した時、同時に悟ってしまったんだ」
………、言ってしまっていいのか?
「それはいわゆる、『恐怖』だったんだよ、妹紅」
ああ、やっぱり。そんな悲しそうな顔をしないでくれ。
「私の行動が何か妹紅に害を成していないか?」
「私の言動が妹紅の品位を落としていないか?」
「私の存在が妹紅の存在を侵蝕していないか?」
「私の行為が妹紅の思考を妨げていないか?」
「私の何かが、妹紅を冒し、変質させ、
その何かが妹紅として本来あるべき『モノ』――例えば反応とか、言動とか、行動理念とか――を破壊していないか、恐怖だった」
「 ……私は○○にされる事なら、どんなことでも平気だよ?」
「嬉しいよ、妹紅。
やっぱり妹紅に愛されている私という個人は今この地球という概念全体に存在するありとあらゆる存在よりも幸福に違いない」
もうここまでだ。ここからは駄目だ!
「…でも、そういうことじゃないんだ」
やめろ!それ以上言ったら抑えられなくなる!
「…わけわかんない。今日の○○はなんかおかしいよ? あんまり行きたくないけど、帰ったら永遠亭に連れて行ってあげようか? 」
「それには及ばないんだ、妹紅、私はいたって正気なんだよ、残念ながら。
……妹紅、君はそんな最低な『私』と一緒にいたら、きっといつか、私が原因のなにか理不尽で悲しい目に遭う時が来ると思う。
いや、妹紅が気づいていないだけで既に遭っている可能性だってあるんだ。
でもきっと妹紅は気づかない、『私』という存在に対する愛のせいで気づいていない。そして私も気づいていない、私は鈍感だからね。
これが一体どんなに悲劇的なことだかわかるかい!? 妹紅! 」
「その悲劇はまず間違いなく私のせいだ。
君が私を愛するような関係にしたのは私だ。
妹紅が気づかないでいるよう妹紅を変質させてしまったのも私だ。
そしてその悲劇にたいして認識すらしないような存在に君は愛を注ぎ込んでいるんだ!
そんな愚者が幸福の内に無意識的に君を攻撃し、蹂躙しているかもしれないと考えると、私は! 私は!! 」
「○○! ○○っ! しっかりして、おちついて。
本当にどうしたの今日は? ○○、何か変だよ。何かに酷く怯えてるみたいだ」
アア、モウトマラナイ。引キ返セナイ!
「そうだよ! この感情はまさしく恐怖なんだ!
妹紅!! 私は君が恐ろしい!君が怖い!! 」
私を愛してくれて、私は感謝してもしきれず、ただただ感謝して
「どうすれば君が喜んでくれるのか?」
「何か会話をする? 何か贈り物をする? 何か行動する? 何か振舞う? 何か、何か、何だ!?
私はどうすればいい? 私はどうすればいいんだ? 私はどうすればいいのか?
もし君が喜んでくれなかったら?
いや、もし君が嫌な思いをしたら? 私のせいで何か不愉快な思いをしたら?」
「私のせいで君を怒らせてしまったら!?」
君にはいつも笑顔で居て欲しくて、笑っていて欲しくて、笑わなくても、穏やかな気持ちでいてほしくて
「私は妹紅に嫌われたくない!」
君が傷つくのが怖くて、それ以上に君に嫌われるのが怖くて
「振り向いてくれなくてもいいから、とにかく嫌われたくない!
しかし私は妹紅にもっと幸せになって欲しい!
そのためには私は君の前から消え去っても良い!体が滅びても構わない! 」
妹紅がいないと、もう私は生きていけなくて、でも私が死んで妹紅が悲しむくらいなら、最初から妹紅を好きにならなければよかった訳で
「これはひどいわがままだ!!」
到底吊り合わないのに、こんな歪で異形な私を君は愛してくれて。私は妹紅の事が愛しくて
「こんな大きな矛盾が私には突き刺さっていたんだ!! なんて醜いんだ!! 私はっ!!」
愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて、壊れてしまいそうで
「嗚呼、私は醜い!! 自己嫌悪する私が! 自己卑下する私が! 欝かね!? 私は!」
彼女がただただ愛しくて愛シくて愛しクて愛シクて愛しくテ狂っテシまイそうで!!
「○○っ!!」
私の胸に飛び込んできてくれる妹紅。ああ暖かい、柔らかい。
ふわりと彼女の髪が私の頬と肩をくすぐる、なんていい香りなんだ!
彼女の体温を感じ、少し落ち着いてきた。やはり私は、言うなれば妹紅中毒のようだ。
「○○、しっかりしてよ。○○、私はあなたがいればそれだけでいいんだ。
○○さえいればもうそれだけで私は幸せになれちゃうんだよ?
だからそんな辛そうな顔をしないでよ、自分をそんな風に責めないでよ、そんな風に泣かないでよ…」
「………私は、泣いているのかね?」
「んーん、涙は出てない。でもあなたは今、泣いてるんだと思う」
「……。そうかい、妹紅が言うのならそうかもしれないな。…でももう大丈夫、妹紅に元気にしてもらった。」
「ふふっ、現金な奴。……でも元気になってくれたなら嬉しい。」
「すまないな、妹紅。…………なあ、…妹紅」
「なあに○○? 何でも言ってよ。何でもやっちゃうから」
「君を■■てもいいかい?」
「えっ―――?」
「性的な意味でも、その本来の意味としても、だ」
「だっだめだよ!!もちろんいつ戴いてくれちゃってもいいけどっ!いやそうじゃなくってもう何言わせるのさ!!そんなことしたら○○が…」
「ああ、死ねなくなるな。だがそれがどうしたね?」
本当にどうしたというのか。
「『どうしたね?』じゃないよ!! 死ねないって、想像以上に辛いことだよ?
っていうか! 死ねるから生きるって素晴しいんだよ!? それを、○○は!! 」
「でも妹紅は死ねないではないか」
「そうだけど!! いやむしろだから………、っ……ぅう~とにかく駄目っ!! 」
「どうしても? 」
「どうしても!! 」
「成る程、では実力行使に移ろう」
「………なに? 分かってると思うけど私は○○よりかなり強いよ?
やりたくないけど、今後そんなこと二度と思わないように一回お灸を据えてあげようか? 」
ああ、妹紅、
「……なあ妹紅、さっき話した恐怖の話、まだ続きがあるんだ」
愛しい、妹紅、
「…? いきなりなにさ? 」
君は 私の 世界の 中心 で、
「妹紅、私が死んだら、妹紅はどうする? 」
君の 笑顔は 私の 狂喜 で、
「……とりあえず凄く悲しむ。悲しんで泣いて嘆いてこの世の終わりみたいな顔して、叫んで喚いて慟哭して悲観にくれる。
少なくともその後1000年ぐらいはそんな感じだと思うけど」
君の 涙は 私の 慟哭 で、
「じゃあ、今私が死んだらどうする? 」
ああ、愛しい妹紅
「えっ? 悪い冗談はよしてよ。もう何がなんだかわからなくなっちゃう自信があるけど、とりあえず永遠亭かな 」
君は 私に 笑顔 を くれ た。 だから、 だから―――妹紅!
「ああ、完璧な回答をありがとう。ここからは、○○マジックタイムだ!! 」
私は 君から 孤独を 永遠に 奪い去ろう―――!!
「はあっ!? 」
「サア我ガ右手ニ握リタルハ一本ノ注射器!
所謂一ツノ最高傑作ニシテ私ノ頂点ニシテ起爆剤!!マズハ之ヲ我ガ頚動脈ニ打チ込ミマス!」
そのままヅグン!っと一突き、何のためらいもなく打ち込んだ。
痛覚は無い―――というか興奮により阻害され、感じない。
「次ニ我ガ右手ニ取リ出シタルハ一振リノ短剣!銘ハ『プラグ』!
コノ短剣ハカツテ鎖帷子ヲモ刺シ貫イタト言ワレル『スティレット〔メイルブレイカー〕』ヲ模シタ剣兼鍵!!
コノ短剣ヲ…… 」
「っ!」
身構え、腕に炎を灯す妹紅、ああ美しい。しかしその行動を確認した私はにやりと笑い、大きく思いっきり振りかぶり勢いをつけて。
「ガフゥッ!!」
私の 首に 突き立てそ のまま 脳 が わたs の命 令を 正しく実 行するうtに―――
「ギはあァッ!!」
引k抜k―――!
ズブッ ぞぷん…ップシャアアアア………
「○○っ!?○○っ!?○―――」
―――……
>>―――再構築、再構成、再起動―――<<
「はい、生き返りましt…」
目の前に、炎をまとった拳が空気を切り裂きながら接近してくる。
「馬鹿ぁあ!!! 」
ドガッ――
妹紅の怒りを存分に蓄えた右手が、見事に私の頬に突き刺さった。
「何てことしてるんだ!! びっくりした、心配した!! とりあえず一回死ねぇ!! 」
「ちょ、もこー落着いて…」
「馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! この大馬鹿野郎!! 」
罵られる度に妹紅の懇親の一撃が、その愛くるしい拳が、次々と私に着弾する。
「何でっ! なんでっ! どうしてっ!! どうして人間をやめたんだ!! この馬鹿っ!! 」
殴られ、叩かれ、殴打され…、そのたびに、「ああ、愛されてるんだなぁ」と実感が沸く。
「ひっぐ…、これじゃあ、○○が死ねないよぅ……、私のせいで…、○○が死ねなくなっちゃった…、……ぐすっ」
「それは違うな、妹紅。私は人間であることをやめたが、蓬莱人になったわけじゃないんだ。ちゃんと死ぬ方法はあるのさ」
「一緒だよ!!私のせいで…、○○が……、○○がっ…!! 」
「聞いてくれ、妹紅。
私は今、私の意思で自分に鍵を刺したんだ。一体この行為のどこに君という存在が介入する余地があったというのかね? 」
「屁理屈なんていらない!! 私さえいなければ○○はそんな怪しげな存在にならなくても…、むぐっ!? 」
言っても聞かない口は塞いでやれ、落着かない子はこうだ!!
「むーっ!? むーっ!! 」
………………。
「ぷはぁっ!! 」
「落着ついたかい? 」
「…んな訳ないだろ!! この馬鹿! 」
また一回殴られた。
「ふぐぅっ! …なかなかバイオレンスな愛だね、妹紅。
でも私は妹紅がすることならなんだって受け入れようじゃないか。それはもう残酷なm…」
「なに格好つけてんの? …そんなに死にたいの? 馬鹿なの? 死ぬの? 」
ふと目の前の妹紅を見ると、目は据わり、能面のような表情をしていた。
しかも妹紅の背中から不死鳥の羽が生えている、本気モードなんですね、見ればわかる。とりあえずそろそろ潮時か。
「すいません」
The・土下座~☆大盛りすたいる☆~
このポーズで許してもらえなかったらもう特盛りしかない。
しかし特盛りは一部の高等テクニックを習得したものにした体現できぬ技…、果たして今の私に出来るのか…?
「………」ゲシッ!!
黙って頭を踏みつけられる、私の尊厳はどっかへ行ってしまいそうだよ。
「………で? 説明してもらおうじゃないの。中途半端とか嘘とかだったらぶち殺すから」
「ははあ! 」
それから私の体の現在の状況をいろいろ話した。正座で。
きちんと手順を踏めば死ねること、恐らく(この場合、私が蓬莱人がどのようなメカニズムで生き返るかきちんと理解していないので暫定だが)
蓬莱人とは別の存在であること、この先身体能力の衰退成長はあれども老化はしないこと、妹紅が滅びるまでは死ぬつもりが無いこと、その他いろいろ喋った。
「……なんで? 」
「えぇっ? 何故と聞かれても、そういう存在になりたかったから努力と根性で実験して発明したからとしか…」
「どうして、そんな存在になろうなんて、思っちゃったの? 」
「……、簡単な話だよ。妹紅ともっと一緒にいたい、私の寿命なんかじゃ全然足りない、私が死んだら妹紅が悲しむ。
じゃあそういう存在から脱却しよう、っていうのが動機さ」
「そんな、……やっぱり○○は馬鹿だよ。私みたいな女のためにそんなことまで……ふむぐぅ!? 」
「んー♪ 」
「んー! むーっ? 」
むちゅー
「ぷはぁっ」
「ふふふ妹紅の唇は非常に美味かつ甘露だね。やはり私は妹紅中毒レベル5といったところか」
「いきなり人の唇奪っといて何言ってんの!? まるで人を何かの毒物みたいに言わないでよ、失礼な」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……妹紅」
「…なにさ」
「愛してる」
「………私も……」
「………」
「……っき………だ…よ…? 」
パリーン ピシャーン (なにか種子的な物が割れ、はじける音)
「ええい愛しい妹紅め!! 一体何度私の心と理性を粉砕すれば気が済むのか!! 」
「ひゃっ!? ちょっといきなり……ひゃあん!! 」
「何度自分の理性が崩壊しないようにと抑えてきたか! そしてまたいつかは、またいつかはと、それを一体何度繰り返してきた!! 」
「んぅっ! ゃっ、あぁん!! こんなっいきなりっ…! 」
「もう止まらぬさ!! 所詮己の理性など己の抑えられる所までしか抑えられん!! 」
「ちょっ! ぅあ、だめっ! ああん! 」
「そして私は本能に従う!! 従うべくしてな!! 」
「意味がわからっ! あ、あっ、せめてもうちょっとやさしく…くぅん! 」
そこで私は一つ言い忘れていたことをかろうじて思い出し、ピタリと動きを止めた。
「………妹紅」
「はぁ、はぁ、何よ…」
そして妹紅の前で一度手を合わせ
「………いただきます」
「っ!? ばかぁっ!! ひゃ、やあん!! 」
………
……
…
『はい、ここまでよ』
えー!? もっとみせろー!!
『はいはい、まだまだ他の組のがあるんだから。それにこの後はそれはもうねっちょねちょな行為が延々と』
っ!! そこまでよ!!
『っていうわけだし、私もあそこで文字通り真っ赤に燃えてる乙女が怖いし次いくわよ次ー』
ぉおーー!!
「ぉおーー!!……ああ、妹紅、すまないがそこの八目鰻をとってくれないかね」
「ごめん○○、ちょっとあの悪いスキマをしばき倒してくるからあとで……、ってなんで○○まで面白そうに見てんのよ!? 」
「いやぁ、妹紅の愛らしい姿がもう一度見れるなんて幸せだなあと思っていただけさ」
「―――っ!? 死ね! やっぱり一回死ね! ばーか! 」
「ああ照れる妹紅もかわいいよ妹紅、実にグッジョブだ。今のこの気持ちを表すならばそう…、『あもい』」
「………まーた変なこと言い始めて…」
「そう、『嗚呼妹紅かわいいよ妹紅君のことが愛しすぎて私はもう妹紅のことが妹紅妹紅妹紅妹紅妹紅妹紅ーーーー!! い』の略だ」
「………なんでこんな変な奴に惚れちゃったんだろ…、…今でも好きだけど…… 」
パリーン ピシャーン
「妹紅ーーーーーーーーーーーー!! 」
「っ!? こらっ! こんな所で! や、やめっ」
『そこまでよ!! 』
おまけ
「…えーきさま、えーきさま」
「なんですか小町」
「なんか一人、人間が寿命を弄くったみたいなんですけど…、どうしましょ」
「………ああ、その件なら問題ありません。…いえ、問題はあるのですがどうしようもありません」
「…ああ、輪廻の輪から外れちゃった感じですか? あの月人関係で」
「月人関係と言ったら関係がありますが、蓬莱の薬では無いのですよ」
「………、馬鹿の類で? 」
「……まあ馬鹿といったら馬鹿でしょうね。なんていったって恋人と添い遂げるために己の手で己を新たな存在に昇華させてしまったわけですから」
「あれ、でもこいつ元々外の人間じゃないですか」
「ええ、故に馬鹿の類なのです。
もし、彼が幻想郷へ来なかったとしたら?
外の世界は社会体系が激変していたところでしょう。少ない手順で不死になり、且つ好きなときにとある手順を踏めば死ねる。
そんな傲慢で理不尽な存在が、64億余突如として出現することになりますからね」
「…それって大変なことじゃないですか? 」
「とりあえず閻魔と死神たちは職を失いますね。天界も冥界も地獄も人口流入がストップし、深刻な人手不足に陥り最終的には我々は孤独な存在と化します」
「大問題ですね。転生する端から不死にされたんじゃ、どんどんこっち側の人口は減りますし、輪廻のバランスが取れなっちまいますよ? 」
「しかし彼は今幻想郷にます。それに彼自身は少なくとも吹聴してまわるような性格でもないし、その気も無いようです。
………まあ、それはそれとして、その内裁きには行きますが」
「彼の自宅に残された資料や薬品の類はどうするんです? 」
「一人の馬鹿が独自の理論で完成させた技術です。
恐らくただの奇特なガラクタとして処分されるか、机上の空論だと一蹴されて忘れ去られるでしょう」
「まあ、彼が恋人と一緒に居たいが為だけにやっちまったモノですしね」
「ま、蓬莱人が一人増えたと思っていても問題は無いでしょう」
「わかりました、そういう風にあつかっときます。…じゃ」
「…待ちなさい小町、今日の分のノルマは?」
「………あーとーでー♪」
「………だーめーよー♪」
新ろだ89
───────────────────────────────────────────────────────────
「けーねおねえちゃんどこぉ…」
一人の少年が薄暗い竹林を彷徨っていた。
名を○○と言い、歳は十にも満たず外の世界から神隠しに遭いこの幻想卿に迷い込んだのであった。
幸い妖怪に襲われる前に里の住人に助けられ上白沢慧音が引き取り共に過ごすに至った。
少年にとってこの世界は全ての事が新鮮でよく村の外で遊ぶようになり、慧音には暗くなるまでには絶対帰るようにと
念を押されていたがこの好奇心旺盛で多感な少年期には中々難しい注文であった。
友達と遊んでいたらいつの間にか逸れてしまい、さまよい歩く内に日が暮れてしまった。
瞳には大粒の涙を貯め、泣きだす寸前だった○○の後ろで何か物音がし、それに驚いた○○は腰を抜かしへたり込んで身動きが取れなくなってしまった。
「ん?何だ、○○じゃないか。こんな所で何してるんだ?」
「…も、もこーおねーちゃん?う、うわぁぁぁぁ~ん!」
見知った顔を見て安心したのか、○○は極限にまで伸ばされた緊張の糸が切れ泣き出してしまった。
一体何のことか分からなかった妹紅は取り合えず泣きじゃくる○○をあやし、おぶって慧音の家まで連れて行くことにした。
妹紅は帰りの道中さまざまな話を聞かせ、○○はその話に表情をコロコロと変えていたが途中で寝息へと変わっていた。
遊び疲れと泣き疲れたのが両方一気に押し寄せて眠りの世界へと誘っていたのであった。
「ほら○○、家に着いたぞ。で、こわ~い奴のお出ましだ」
妹紅の声で目覚めると慧音が目の前に佇んでいた。
表情からご立腹であることは幼少の○○でも容易に想像がついた。
「○○!」
「ご、御免なさい…けーねおねえちゃん!」
「まぁまぁ慧音、男の子はこれくらい元気じゃないと」
「妹紅、あまり○○を甘やかさないでくれ。今回はお前が見つけてくれたから良かったが
妖怪にでも喰われてからじゃ遅いんだぞ」
「○○だって怖い目にあったんだ。大丈夫だな○○」
そう言い妹紅は○○の頭を優しく撫でた。
「まったく…この子には甘いな」
口ではそう言うが心底心配していた慧音は○○を優しく慈しむように抱きしめてあげた。
「もこーおねえちゃんありがとう!そうだ!僕ね、大きくなったらおねえちゃんとけっこんする!」
「なっ!!!」
「だそうだ妹紅、良かったな。嫁の貰い手が出来たぞ」
腹を抱えて笑う慧音とキョトンとする○○に妹紅は顔を真っ赤にし
「○○、あのな?嬉しいけどお前と結婚する慧音が私のお義母さんになるからな。それで…」
「私は○○の母親じゃない!保護者だ!」
慧音の頭突きが見事に決まりその場に崩れる妹紅に駆け寄り○○は必死に呼びかけたが
妹紅の意識は途切れていった…
○○は慧音や妹紅、里の人達から愛情を受けすくすくと成長していった。
「昔はもっと可愛げがあったのにな…」
「ん?何か言ったか?」
「いーや、何も」
時は流れ○○は青年になっていた。
「ちょっと昔の事を思い出したんだよ」
「昔ねぇ…」
妹紅の淹れた茶を啜り○○は寝転がった。
「お前さ、わざわざ人の家に来て茶啜って寝てるだけって暇人だな」
「いいだろ別に、今日は仕事が休みなんだよ」
「しかし、○○が薬師ねぇ…」
○○は数年前永遠亭の八意永琳に頼み込んで住み込みで弟子にしてもらっていた。
「よくあの薬師を説得出来たね」
「まぁ…な」
「ふぅん」
歯切れが悪かったが元々○○はそういう所があったので妹紅はさして気に止めなかった。
「そういえば独り立ちしたからってたまには慧音に会いに来てあげなよ。
寂しがってたよ」
「ちゃんと会いに帰ってるよ。ご馳走さん」
○○は残ったお茶を飲み干し、湯飲みを水場に置き土間から降り際に妹紅に告げた。
少し散歩しようか、と。
「ねえ○○、私と初めて会った時の事覚えてる?」
「初めて会った時って言うと…何だっけ?」
二人は竹林を当ても無く彷徨っていた。
「覚えてない?慧音が○○の手を引いて私の目の前に現れてさ」
「あ~…妹紅が何か言って頭突き喰らってたな」
「そうそう、ついに慧音も一児のお母さんか、ってね。何も頭突きしないでもさ」
「そういうお年頃だったんだろうさ、慧音は」
その時○○は妹紅の事をちょっと怖いと思ったが何てことはなかった。
妹紅は面倒見が良く、○○とすぐ打ち解ける事が出来た。○○にとって妹紅はもう一人の保護者と言っても過言ではなかった。
「でも何だかんだ言って慧音は親馬鹿さ。○○の事となると周りが見えなくなるし
寺子屋で一番になった時は上機嫌で暴れまわってたし」
「止めてくれ、アレは恥ずかし過ぎ」
寺子屋一の秀才になった時慧音は親しき人達を集め宴会を催したがその時の
あまりのはっちゃけ振りは未だに目に焼きついて離れなかった。
「そんだけ愛されてたのに自分の下から離れてあんな怪しい連中の所に行ってるんじゃ、親の心子知らずだね」
「師匠は確かに性格がちょっとアレだけど間違いなく天才さ、怪しさで言ったら妹紅もいい勝負だな」
「あ~あ昔の○○は素直で優しくて可愛げがあったのに、今じゃ夜遊びもするし慧音はどこで教育を間違えたんだか」
「後天的、周りの影響だな」
「里の友達か?確かに悪ガキが多かったからな」
「もっと身近で影響力のある奴だよ」
「じゃあ不良中年達だな」
「…はいはい。自分で言ってりゃ世話無いな」
こんな風に昔の話に華を咲かせ二人は一緒に歩いて行った。
しかしこの好ましい時間もいずれは終わりが来る。○○と妹紅とでは時間の進み方がまるで違う。
妹紅は不老不死、いずれ別れの時が来る。親しい人達との別れは辛い、独りでいる事の方がまだ心は楽だ。
いくら不老不死でも精神は人間のままで肉体的な死よりも精神的なショックの方が妹紅には辛かった。
だから大概の人とはある程度距離を置いてきたのだ。にもかかわらず○○はいつの間にかもっとも近い存在になっていた。
限られているからこそ今という時を大事にしたかった。二人の時間を。
「なあ妹紅、お前の望みは何だ?姫様への復讐か?それとも…普通の人間に戻って死ぬことか?」
「いきなり何だ…よ?」
○○の表情は何時にも増して真剣で、妹紅は一瞬胸が高鳴った。
「教えてくれ」
「ん~…輝夜との事は難しいな。まだ憎いかって言われりゃこんな体にしたから憎いけどさ
今まで散々殺しあって互いに暇潰ししてそれなりに楽しかったし。それに普通の人間に戻るのは…無理だよ」
「そうか…」
妹紅の声のトーンが一気に下がった。顔を伏せているが妹紅は悲しい表情をしているのだろうと○○は思った。
ふいに○○は妹紅を後ろから抱き締めた。
「こ、こら○○!ふざけるのもいい加減に…」
「妹紅、俺はお前が好きだ」
不意に耳元で妹紅は囁かれ、見る見るうちに顔が真っ赤になった。
妹紅は何か言おうとしていたがまるで言葉に出来ず、抵抗することも止め大人しくなった。
「このまま聞いてくれ。俺にとって妹紅は姉であり母であり…女性なんだ。
妹紅は強くていつも妖怪から俺を守ってくれた。そのお前が一度だけ幼い俺の前で泣いたことがあったんだ。
ただ一言辛い、と」
「っ――」
「俺はそんなお前を見たくないんだ。いつだって不適に笑って自信に溢れてるカッコイイお前が好きなんだ。
今…俺は師匠の下で蓬莱人から普通の人間に戻る薬を研究している」
「無理だよ…そんなの出来っこない」
「ああ、"人間の寿命"じゃ絶対無理だ」
「人間のって…」
「はっきり言ってこれは俺の勝手な想像でお前にとって大きなお世話かも知れない。
でも妹紅が望み、迷惑じゃなかったら…お前の肝を俺にくれ」
妹紅は絶句した。蓬莱人の肝を食べれば新たな蓬莱人が誕生する。
抱き締められた状態で○○の表情を窺ったがその瞳には揺ぎ無い決意が読み取れた。
「数百年数千年かけてでも俺がお前を元に戻してやる」
「そんなの前例がないし…」
「前例がないならこれから俺が作る」
「でも私なんかの為に○○の人生をぶち壊しになんか出来ない!ほら、一時の気の迷いかもしれないし。ね?」
妹紅の瞳からは大粒の涙がこぼれ出した。
「俺だって一時の感情かもって思った。でも今まで頑張って来た。それは紛れもなく妹紅と一緒に同じ時間を過ごし共に死ぬ、その為だ。
その気持ちに嘘偽りはない。だからさ、一緒に苦労しよう。妹紅」
慧音に教えを乞い知識を授かり鍛錬を積み体を鍛え日が沈むころに紅魔館の図書館で夜遅くまで知識を貪欲に吸収する。
そして今は月の頭脳の弟子となった。それら全てはたった一つの事に集約されていたのであった。
「私だって……本当は○○と一緒にいたい…でもそれは…夢なんだ、無理なんだって…諦めた」
涙で顔はボロボロになり言葉もやっとのことで紡ぎ出している状態であった。
そんな妹紅が愛おしくなり○○はもっと強く抱き締めた。
「夢で終わるかどうかは妹紅次第だ。俺は腹を決めた、妹紅は?」
「…じゃあもう一回好きって言ってキスして」
「何度でも言ってやる。好きだ妹紅」
そう言い○○は妹紅に優しく口付けをした。
それはただの触れ合うだけの幼稚なキスであったが、今の二人にはそれで充分に満たされた。
「○○、ちょっと後ろ向いてて。恥ずかしいから」
妹紅は○○が後ろを向くのを確認するとおもむろにシャツを脱ぎだした。
そして自分で自分のの腹部を掻っ捌いた。
「ぐっ!…がはっ!」
いくら蓬莱人で死なないとはいえ激痛は伴う。傷が再生しないように妹紅は痛みに絶えながら急いで肝を
取り出した。そしてまだ生暖かく血が滴る肝を○○に手渡した。
「ハハ…結構痛いね」
そして妹紅は無理に笑顔を作ったがその場に座りこんだ。
「次は俺の番か…」
覚悟を決め一口それを含むが○○は強烈な吐き気に襲われた。
血抜きなどを一切行っていない生の肝なのだから血と鉄の味でとても食べれたものではなかった。
しかし○○は時間をかけて何度も吐き出しそうになりながらも肝を貪った。
完全に肝を食べ切った時には少し日が傾き始め、○○はぐったりとした表情で妹紅の隣に腰を下ろした。
「これで、俺も蓬莱人の仲間入りか…実感ないけどな」
「歓迎していいのか微妙だけどね」
妹紅は嬉しいという感情よりも後悔の念の方が大きかった。
自分のせいで○○は幼くして信念を固めてしまい、他にあったかもしれない道を閉ざしてしまった。
無意識に妹紅は謝罪の言葉を吐いた。
「○○…ごめん」
「何度も言わせるなよ、俺が決めたんだ」
「そうだね…でもごめん」
このままでは拉致が明かなそうなので○○は話題を変えた。
「でもまぁ、レバーは嫌いじゃなかったんだけどこれはきっついな」
「すっごい匂いだね」
「ああ、…今更だけどレバーの炒め物とかにすれば良かったかな?」
「馬鹿、そんな軽口叩ければ大丈夫だね」
「妹紅の方は?」
「しばらくしたら元通りになるさ」
傷口が痛々しいが先程より妹紅の表情は幾分か楽そうであった。
「ハハ、俺もお前”も紅”に染まったな」
二人とも血だらけでその血が少し酸化し始め深い紅色になっていた。
「うん…一緒だね」
○○は妹紅の肩を抱き寄せたが妹紅は驚き頬を染めたままどこか所在無さげであった。
「どうした?」
「その…こういった経験ないから甘え方が分からない」
望まれない子供として生まれ、決して恵まれた子供時代を送れなかったが為に誰かに甘えることは出来ず
蓬莱人になってからも誰にも甘えることは出来なかった。
「可愛いね、お前」
「こんな事するのは○○だけだから…
「ホント可愛いね、お前。でもそろそろ着替えないか?血の匂いってヤツは長時間嗅いでいると嫌になってくるからな。それに慧音に報告しないと」
「そうだね」
その提案に妹紅も頷きそれぞれ着替え慧音の家へと向かった。
「なるほど、ついに妹紅に打ち明けたか」
「ああ」
慧音は一口飲んだお茶を卓袱台に置きじっと二人を見つめた。
○○と妹紅が二人揃って訪ねて来た時の雰囲気と表情から慧音は薄々感づいてはいた。
昔、まだまだ子供だと思っていた○○から聞かされた夢物語が本当に始まろうとしている、慧音にとっては
それは複雑な心境であった。
我が子同然に育ててきた○○が言わば人間を止め、答えがあるかどうかも分からない道を往く。
他に道は幾らでもあるだろうがわざわざ難儀な道を選んだ○○に慧音は心底心配であった。
だが子供が決めた事を応援するのもまた親の役割の一つであった。
「慧音、私は…」
妹紅が申し訳なさそうに口を開いたが慧音はそれを制止した。
「妹紅、○○は頑固で融通が利かず不器用な生き方しか出来ない。それに一つの事に没頭すると周りが見えなくなり自分の事も疎かになるような
まるで駄目な男だが根は良い奴だ。どうか見捨てないでやってくれ」
「分かった」
「オイ…」
自分が褒められているのか貶されているのか微妙で、もっと良い評価が欲しかった○○であった。
「○○」
「な、何だよ?」
○○は昔から慧音の説教が嫌いで、気付いたら説教されそうな雰囲気を読み取る程度の能力を手に入れたのであった。
そして今まさにソレを感知し身構えた。
「妹紅を絶対幸せにするんだぞ。もし泣かせるような事があったら神に変わって私が天罰を下すぞ?」
「善処します…」
「そうしてくれ。で、これからどうするんだ?」
「まずは永遠亭から妹紅の家に引っ越すよ。幸い竹林から永遠亭は近いから助かるよ」
「一人で暮らすには広かったから二人で暮らすには困らないしね」
「人里離れてるから思いっきりイチャイチャ出来るしな」
「○、○○!」
二人からは早くもバカップルオーラが発せられていた。
「…で、式は挙げるのか?」
その場に居た堪れなくなった慧音は話題を振ってそのオーラを払拭しようと試みた。
「いや、今は恋人って関係を楽しむよ。式はその後に、紅白の貧乏巫女の神社ででも挙げるさ」
「そうだな、二人にはそれが丁度いいな。だがまぁ…程々にな、色々と」
○○は慧音の好物の羊羹を土産として持ってきたのであったがまったく手をつけていない事に気が付いた。
「食べないのか?好きだろ?その羊羹」
「好きだがな、今のお前達を見ていたら甘いものはいらないよ。ご馳走様」
そういってお茶を啜る慧音に妹紅は頭上に疑問符を浮べていた。
「慧音」
しばし雑談をしていた時急に○○は姿勢を正し、慧音の方へと体を向けた。
「この幻想郷に迷い込んで里の人たちに拾われ慧音に出会い、そして俺を育ててくれた。
迷惑も掛けてきたし俺の我侭に付き合せてた事、本当にすまないと思う。…そしてありがとう」
「珍しいこともあるもんだな。お前からそんな言葉を聞けるなんて」
「こんな時じゃなきゃ言えないさ。心から感謝してる」
「そう思うならたまには孝行をしろ。馬鹿」
慧音は目頭が熱くなり泣き出しそうになったのを必死で堪え笑顔を作った。
「ああ、時間ならたんまりあるからな。覚悟してろよ……母さん?」
「…っ。全く…この、馬鹿、息子が…っ。期待、しているぞ?」
仲睦まじく竹林の方へと去る二人に慧音は手を振り見送った。
「はぁ……子を送り出す親の心境か、こんなにも辛いものなのだな」
「そう思うのなら私の元に居て!って引き止めればよかったのに」
ズイっとスキマから八雲紫が慧音の前に突然現れた。
「そんな事出来るわけがないだろう。○○を嗾けた張本人が何を言う。それに盗み見とは趣味が悪いな」
「あら、人聞きが悪い。数年前私を訪ねてきた少年に可能性を教えただけよ?そう、暗闇に光を射す方法をね」
紫は口元を扇子で隠しながら笑みを浮べ、その仕草が胡散臭さを一層引き立てた。
「あのバカにはその小さな光があまりにも眩し過ぎてそれしか見えなくなってしまった」
愚直な性格、○○の長所であり短所
「私はそういうバカは嫌いじゃないわよ。それに針みたいな小さな光でも深い闇を貫くことは出来るわ」
「そうあって欲しいものだ」
「大変ね、お母さんは」
「フン…放っておけ」
―せめて○○と妹紅に死が訪れるまで幸多からん事を―
「あのね○○、私もう一個夢が出来たんだ」
二人は竹林への道を歩いていた。
これから気の長い時を二人で過ごすであろう竹林へと。
「ん?何だ?」
「私と○○の子供をたっくさん産んで輝夜に見せつけてこう言ってやるんだ。
どうだ羨ましいだろって。そして奴の悔しがる顔を見て笑ってやるんだ」
「素敵な夢だな…。でもそれには俺の協力も必要不可欠な訳だな」
「うん…ちょっと恥ずかしいかも」
頬を紅く染め上目遣い…凛々しい妹紅も良いが可愛い妹紅もヤバイ。○○の妹紅メモに新たな項目が追加された瞬間であった。
「でも私慧音みたいに胸大きくないから大丈夫かな?」
「妹紅は人間に戻れば成長期だから大丈夫だろ。なんなら俺が手伝ってやってもいいけど?」
「○○って人の胸大きく出来るの?ハッ!まさか慧音の胸を大きくしたのは○○か」
「いや…その…今の言葉は気にするな」
「?」
どうやらそういった知識に妹紅は疎いようで、そんな初心な所に○○は妹紅の可愛さを再確認したのであった。
危うくその場で妹紅を押し倒しそうになったが、場所が場所でムードの欠片もなかったので○○はグッと堪えた。
「何一人で楽しそうにしてんのさ、それよりほら」
一人悶々としている○○に妹紅は手を差し出した。
「これから忙しくなるんだろ?」
「そうだな…まずは永遠亭から俺の荷物を妹紅の家に運ばないと」
「私達の、だろ?これからは」
「ああ、そうだったな」
そして差し出された妹紅の手を○○はしっかりと力強く握り締めた。
願わくばこの手を離す時は死が二人を分かつ時であることを…
新ろだ282
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表では子供達が走り回り、眠っていた動物達もちらほらと姿を見せ始めていた。誰もが春の訪れを感じるそんな日。
里の中のとある一軒、ここは○○という青年の家である。
普段なら仕事に行く為に出てくる時間なのだが、今小屋の前からは誰も出てくる気配が無い。
それもその筈、彼は風邪をこじらせ仕事どころでは無いのだ。
この男数日前から熱っぽさを感じていたが、ただ調子が悪いという事で片付けていた。
それが間違いであったという事実に彼が気付くのに時間はかからなかった。
あっという間に体の調子を損ない、必要な時以外は布団の中で過ごすハメになってしまったのだ。
「ああ…くそ、熱が下がる気配が無い…。薬合ってないんじゃないのか」
誰に聞かせる訳でも無く天井を見つめそう呟いた。
それ以上独り言を言う力も無いのか、そう言ったきり彼は眠りの中へと落ちていった。
あれからどれくらい経ったのだろうか。彼は誰かが自分の名前を呼ぶ声で目を覚ました。
少し休んでいたとはいえ玄関まで出て応対する力など出せるはずも無い。
今自分を呼んでいる人物には悪いが、このままやり過ごさせてもらおう。彼はそう決めた。
誰も出てこないと分かると声は次第に無くなっていった。
次に聞こえてきたのは声では無く、誰かが扉を開け家へと入ってくる音であった。
強盗の類であれば、健康体であっても太刀打ち出来るかは分からない。この状態なら尚更である。
そして部屋に飛び込んできた人物、それは大きなリボンに腰まであろうかという長い髪をたなびかせた女性であった。
飛び込んできた女性、彼女の名前は藤原妹紅。
里で寺子屋を教えている上白沢慧音の知り合いであるようで
彼自身も何度か顔を合わせて話を交えたこともあり、知らない仲でも無いのである。
「あれだけ呼んでるんだから返事くらいはしてくれてもいいんじゃない?」
「してはやりたかったが、こんな調子じゃちょっとな」
「あぁやっぱり慧音の不安が当たってたか」
寝込んでいる彼を目の当たりにして、彼女は少し溜息をついた。
「慧音が俺の心配してくれてるの?ありがたいなぁ。病気になった甲斐があったよ」
「ふざけない。で快復の兆しは見えてきてるの?」
「薬は飲んでるんだが、一向に治らなくてね」
「飲んでるだけじゃすぐには良くならないよ。…風邪引いてからまともな物食べてないでしょ」
「え、ああ、確かに寝てる事だけで精一杯だったからそんなに食べてないかな」
「だと思ったよ。はいこれ」
そう言い彼女は布団の上に少し大きめの風呂敷を置いた。
「慧音からの差し入れ、中身はお粥だけどもね」
風呂敷を開けると中には蓮華とふたの付いた丼が入っていた。
「ほら食べさせてあげるよ、口開けて」
「いや恥ずかしいからお前が帰った後でゆっくり食べさせてもらうよ」
「誰も見てないんだから別に良いじゃない。ほら、あーん」
少し抵抗していた○○であったが、おずおずと粥の入った蓮華を口にした。
「どう?美味しい?」
「…美味しいよ。ここ二日で口にした中で一番美味しい」
「慧音が作ったんだから当然だね。ほらもう一口」
二度目ともなると恥ずかしさは消え彼はすんなり口に入れていた。
何度か粥を口に入れるともうお腹は膨れていた。
「しかし食事だけとは言え面倒見てもらって悪いな」
「良いよ、慧音の頼みだし。それに…」
「それに…?」
「い、いや私自身も暇だったし丁度良いかななんて思ってたんだ。うん。」
「理由は何だって良いさ。助けてもらたったんだし、何かお礼をしないとな」
「いらない。見返りが欲しくてやった訳じゃないよ」
「それじゃ俺の気が済まないんだ。出来る範囲で礼をさせてはくれないか?」
「なら、もしも私が病気にかかったりしたら○○にした事を私にもして欲しい。これじゃダメかな」
「そんな事で良いのか?…分かったいつになるか分からないけど約束する」
「本当に?絶対に約束だよ」
「そんなに念押しするなって、嘘はつかない性分だから安心してくれ」
と、何だか腹も膨れたし、また眠くなって来たな。」
「寝付くまでは傍にいるよ、何が起こるか分からないでしょ?」
「流石にそこまでは望んでないけれども…」
「良いじゃない、私がしてあげたいと思ってるんだから。問題は無いでしょ」
「それもそうかな…それじゃお休み妹紅」
「お休みなさい、○○」
目を閉じて眠りに落ちていく彼を見つめながら妹紅は静かに微笑んでいた。
>>新ろだ436
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裁縫なんか生涯としてまともにやったことがないので、はてどうしたものやらと朝飯のお茶漬けを食べながら思案していたところ。
何故かその裂け目が剥き身の蟹肉に見えてしかたがなくなってきた。
「とどのつまり、何が言いたいんだ? その話は」
「蟹が食べたい。蟹をくれ」
「起きたまま寝言いってんじゃない」
ピシャリ
乾いた音は、はたかれた頬だったか、閉ざされた戸口だったか。たぶん両方だ。
「要は繕えばいいんだろう? その破れ目さえどうにかすれば、寝ぼけて不届きなことを言う口は永劫に閉まるってことだ」
早朝の竹林は物の怪の喧騒もほどなく、哲学すら閃きそうな静謐に満ち満ちていた。薮から差し込むわずかな朝日が体を舐めてゆく。
妹紅は欠伸を押し殺そうともせずに、もんぺに片手を突っ込んで俺の前を歩く。空いた手には裁縫道具と思しき木箱を携えて。
「朝早い時分になんだと思えば―――全く……」
思えば寝ぼけていたのかしらん。
実際、妹紅の宅を訪ねたのに大した意味はない。ないが、俺が彼女の家を訪ねる場合、意味を伴うことは少ない。
何となく訪れ、そこでお茶をしたり、外界の見聞を披露したり、碁を興じたり、本を貸し合ったり、永遠亭のお姫様とやらとの一騎打ちに巻き込まれたりが常だ。
それに安息を感じる己にはとうの昔に気がついていた。対する彼女も、言行は荒いが特別に迷惑がる様子もないので、俺の竹林に向かう足は止まない。
妹紅は、良い友人だった。
俺の住居は人里から幾らか離れた低平な土地にある。
あまり人好きのする性分ではないので、こうした遠すぎず近すぎずな位置は非常に気に入っている。
妹紅は畳の上に胡坐をかきながら、甲斐甲斐しくシーツを繕っていた。
「意外だな」
卓の上に、たくあんと緑茶を置く。
「何だい。私に家事が出来ると変てか」
「とんでもない。意外とそういう格好が似合うな、って思っただけさ。どこの嫁に行ってても不思議ない」
さっそく湯のみに手をつけていた妹紅が、にわかに吹き出した。
「おいおい」
「おいおいはお前だ。変なこと言いやがって」
やにわに妹紅の顔がみるみる赤くなってきたので、俺は慌てて布巾を取り出しつつ謝罪した。
「何だかわからんが済まん」
「全く。……」
妹紅は俺から受け取った布巾で口と零した茶を拭った。しかし顔は赤いままだ。恐らくさっきの言葉の中で、何か失礼なことを言ってしまったことに違いない。
時として俺は、こうして何事か妹紅を赤くさせることがしばしばある。
いくら考えても俺の言行のいずこに角が立ったのか判然としないこともある。そういう時に俺は自身の口下手を自覚する。
何となく、気まずい雰囲気が流れた。
「っつ」
「どうした」
妹紅が指を傷つけたのは多分必然のことだった。先ほどから見るからに手の動きがたどたどしくなっていたからだ。
薬指に赤い球体が膨らんで行き、つうと指を伝って流れ落ちてゆく。
「絆創膏、持ってくるかい」
「いや――平気」
俺が席を立ちかけた次の瞬間には、出血は止まり、流れた赤い雫だけが残るのみとなっていた。
不死身。
普段顔を付き合わしている分には、ただの気安い女性なので、たびたび俺はそのことを失念する。
しかし、痛みはあるのだ。流れ落ちた血を見ていると、不意に申し訳ない気持ちが一杯に押し寄せてきた。
「妹紅」
「なんだよ……」
「やはり見ていられない。俺が何か悪いことを言ったんだろう? はっきりと謝らせてほしい」
「そんなんじゃ――ないさ」
妹紅はばつが悪そうにそっぽを向いた。
繕い終わったらしい布団のシーツを敷き布団に被せなおしている。
その背中が、気丈に振舞う普段の姿よりもめっきりと縮こまって見えた。俺はこのことが、このまま捨て置いてはいけないことに思えてならなくなった。
「誰ぞの嫁……と言ったのが気に障ったのか」
後ろ背中に声をかけると、はっきりと妹紅の動きが止まった。
「嫁……嫁か」
そう上の空に呟くと、再びこちらに向き直って胡坐をかいてくる。
その目は沈んでいる。
「○○、私が蓬莱の秘薬を飲み、不老不死の身になっていること、話して久しいよな」
「ああ」
「私、さ」
「千と……数百年。昔は自分が、その歳月を過ごすことに、今ほどの恐れも持ち合わせてなかったよ……。
でも、だんだん、だんだんだ。気付いてゆき、気付かれていくのさ。世間と自分の決定的な隔絶が。
私は一つところに留まって生きるということが出来なくなっていた。
おおくの人間には排斥され、親しくなったわずかな者たちには先立たれる。それはそれは、暗いかめの水底のような心地だ。
巡り巡って、今私を支えている唯一の生き甲斐が、同じ蓬莱の者――私をこんな体にした、輝夜との殺し合い。
最も憎むべき相手にのみ生かされている自分が、芥も残らぬほど焼き尽くしたくなる」
妹紅の瞳が、話の中の暗いかめの水底になるのを、俺は黙って見つめている。
俺が口を差し挟まないのを見ると、妹紅は静かに言葉を連ねた。
「私は誰とも具せない……」
「そんな私にずけずけと入り込んでくるのがお前だ、○○。
どうせお前も、いずれ私を恐れるかくたばるかして、私の前からいなくなってしまうのだろう?
陳腐な話だが、私は何かを失う辛さより、持たざる孤独に慣れた人間さ。そしてそれに慣れようと考えている。そうでなければ生きて行かれない。
私が奪い奪われる関係は、同じ不老不死のあいつだけでいい。お前みたいな普通の人間が、こうして私にかまけていると、ろくでもないことになる」
「そう、ろくでもないんだ。お前といると、調子が狂う。
○○が平凡に暮らしているように、私も暮らせるような気がしてくる。○○が言うと、冷たかった人の言の葉が、色味を帯びて熱くなる」
「もう、止してくれ……。私の蓬莱人としての覚悟には……堪らないことだ」
気がつくと、窓から差し込む陽光はすっかり明るくなっていた。
湯のみから上がっていた湯気は消えている。
「俺は」
「謝りたいと言ったけど、折角だが謝らないことにした」
「俺はさあ、おつむは良かないし、気の利いたことも何一つできない、冴えない普通の人間だよ。
そんな普通の人間からすると、その、妹紅が、俺みたいに暢気に暮らしちゃいけない理由がわからないんだ。
なあ、生きてるって、そんな、つまらないもんじゃないよ。そんな風にずっと考えていたら、いずれ心を亡くしてしまうよ。
ただ臓物が脈を打ってるだけで、死んじまってるようなものさ……。お前がもしそうなっちまったら、悲しむ人間がいるんじゃないか。
妹紅、お前は人間なんだよ。確かにちょっと強かったり頑丈だったりするけれど、俺が見るところじゃ可愛くて綺麗な娘さんだ。
そんなお前が、人間を止めて生きてゆく覚悟をしている。
俺は……それが悲しくてならねえんだよ。藤原妹紅のあんたに、生きていてほしいんだよ」
俺の家は、これほどまでに静かだったろうか。
いつも蔵にある糊をつついて騒がしい小鳥の声すら、今は絶え果てている。馬小屋からもいびきがさっぱり聴こえない。
そういう風に気が散っていたのは、余りに沈黙が長かったからだ。
妹紅は俺の話を聞くと、さっきとは比べ物にならないほど真っ赤になって俯いていた。
弱った。もしかしてまた俺は変なことを言ってしまったのか。
と慌て始めた矢先に、妹紅がいきなり俺に抱きついてきた。
「もう知らないぞ、○○! そんな、そんなこと言うんだったら、とことん私に付き合ってもらうぞ!
お前がよぼよぼのじじいになってくたばるまでだ! 嫌だって言ったってきかないからな!」
妹紅は俺の胸の中で、ぐしゃぐしゃになって泣いている。
突然の事態に、慣れない長い話をして熱過労を起こしつつある俺の脳味噌は、更なるオーバーヒートを迎えた。
「ちょ、ちょっと、妹紅、落ち着け。羊を数えて落ち着くんだ。あれ? なんか違う……」
「ここここれが落ち着いてられるもんか! 羊が一匹二匹よんひき!」
まるで計ったかのように、元通りに敷かれた敷布団の上に俺は押し倒された。
そんでもって―――。
結局、シーツはまた破けた。
俺達は、真昼ぐらいになってやっと、ほったらかしにしていたお茶とたくあんを食べた。
冷めていたはずだけど。
なんだか熱い気がした。
「今度、何かもっとうまいものを食べに行こうか」
「そうだな―――」
『蟹とか?』
なんで俺達が、同じことを思いついたのかは知れない。
うpろだ1333
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-いつもどおり、今日も夜の竹林を歩いていたところだった。
迷ってる人間などを里に帰してやるのをいつもの日課としていた。
急病で永遠亭に向かうという人間の護衛も終わり、だんだんと夜も更けてきた今、そろそろ引き返して休もうとしていたところだ。
闇夜に光る歪な半月も、傾いている。
「…少し休むか」
私は目の前にあった大きい切り株に腰掛ける。
空を見上げたまま、しばし体を休めていた。
カサッ
「…?」
…足音?
今確かに枯れ葉を踏む音が聞こえた。
自分の音じゃない…
それに、かすかに人間とは違うにおいがする。
軽く身構えると、音の生まれた場所を凝視した。
-ガサッ
-ガサッ
…近い。
座ったまま、少量の気を右手にためる。
-カササッ
葉が揺れる。
…来る。
ガサンッ
「のわっ」
影が深緑の景色の中から飛び出てきた。
「ぐへぅ」
ドサン。
緑の中から現れたのは、
10代半ばの体つきをしている、"人間"の男だった。
「…っつぅ」
男はゆっくりと体を起こすと、服についた土を枯れ葉をたたき落とした。
たたき終えたところで、ようやく私の存在に気づく。
暗闇の中で目が合い、私と男は少しの沈黙に包まれる。
「…大丈夫か?」
私が座ったまま問いかける。
「…あ、あぁ」
鳩が豆鉄砲食らったような驚いた顔をしながら、男は少し笑った。
それがこいつに出会った最初だった。
「…迷い人か?」
「ん、…まぁそんなものかもしれん」
男は私の隣に座り、一緒に半月を見上げていた。
「私は迷い人を里に帰すのが日課だ。送って行くぞ」
腰をたたき、少しついた汚れを落としながら立ち上がる。
「ん?…別にいいさ。迷ってるわけじゃなければ里の人間でもない」
「…?」
私はよく意味がわからず、また切り株に腰掛けた。
「どういう意味だ?」
「ん?そのままの意味だ」
「ふむ…」
埒が明かないと感じた私は、それ以上の追及をやめた。
この男が送って行けというなら里に送るし、大丈夫だというなら私は少し休んでから戻るだけだ。
「…あんた、名前は?」
男が不意に問いかけてきた。
「…自分はただの健康マニアの焼鳥屋だ」
そういうと男はプッと軽く吹き出して
「なんだよそれ…」
と笑った。
「そういうお前はどうなんだ?」
と、逆に問いかけた。
「ん?俺、か…しがない占い師だ」
占い師、か。
「いつも大きいローブにくるまりながら、人の手を見てそいつの人生を占っている」
「へぇ」
私は少し感心したように、男の話を聞いた。
今まで何人占ったか、どんな人間がいたか、どういう町を歩んできたか。
「人の手を見ながらいろいろな街を歩んでいく…か、面白そうな職業だな」
「ん…そうでもないさ」
男は少し空を見上げる。
「最初にそういうことができるって気づいたときはうれしかった。それを使えばお金だって儲けられるし、夢見てた旅も実現できるってな」
男は続ける。
「でも、毎日毎日同じことの繰り返し、新しい進展もなければ戻ることもできない場所まで離れた」
「…」
私は男の話を聞いている。
男はいったん話を区切ると、ポケットの中から煙草を取り出した。
「…煙草は体に悪いぞ」
「ん…いいさ」
男は煙草を口に咥えると、またポケットを探り始めた。
「んー…おっかしいな…ライター…」
「…」
私は軽く指を鳴らすと、煙草の先端に火をつけてやった。
「…!」
男が一瞬驚愕の顔をしてから、ゆっくりを笑顔になった。
「あんた、すごいな…どういう手品だ?」
「極まった健康マニアならできるのさ」
私は少し得意げになって、空を見上げた。
「今回だけだぞ」
私は後から付け足した。
「ありがとう」
そういうと男は、煙草を吸い始めた。
「そういえば、お前家族は?そんな歳でこんな時間まで出歩いて、両親が心配しないのか?」
男は、煙草を咥えたまま、ずっと歪な半月を見ていた。
「両親は…物心ついたときにはいなかったな」
「…。そうか、すまなかったな」
私は失言を悔やんで謝罪をした。
「謝んなさんな、気にしてない」
男は煙を口から吐き出しながらいう。
「あんたはどうなんだ?」
「…自分は健康マニアの焼鳥屋だ」
「…ちぇっ」
自分のことは黙秘にしていることにやっと気づいたのか、男はそれから追及することはなくなった。
「だったら、左手貸してみ?少し占ってやろう」
男が右手を差し出してきた。
私は占いに多少の関心を持ち始めていたので、左手を右手に乗せた。
…暖かい人の肌の感触だ。
男はすでに手慣れているのか私が女でも気にしてないらしい。
…本当に久しぶりの人の肌に、もしかしたら顔が赤くなってるかも知れない。
「…ふむ」
男がまじまじと左手を食い入るように見つめる。
「今いる大切な人を、大事にしてやったほうがいい。いるだろう?」
「…すごいな」
この男がいったのは、多分慧音のことだろう。
「なんでもわかるのか?」
「左手っていうのは、その人間の人生…生きた証、歩み方をそのまま表す」
左手のしわにあわせて、男は指をなぞらせる。くすぐったい。
「健康運はばっちりだな…まぁさすが健康マニアといったところか…」
そういうと男は笑った。
「これからも病気は少ないが…多少運が悪い時期があるかも知れん」
…輝夜の襲来に用心しとくか…。
「最後に生命運だな…」
男はまた指でしわをなぞる。
「どれどれ…」
男は生命運とやらのしわを見つけると、また食い入るようにみつめる。
「…?」
男はなぜか何度も何度も繰り返し見る。
「…おかしいな」
…?
「あんた…何回死んで、いや」
「何年生きてる?」
「…!…すごいな、そんなことまでわかるのか」
私は本当に占いに驚いた。
そこまでわかるものなのか。
「…ここのしわでわかるんだが…圧縮されすぎてあんたの歩みが見えん。この分だと軽く千や二千は年を越してるだろう…?」
「…お前はすごいな」
「まぁな…まぁきかんでおこう。どうせ健康マニアの焼き鳥屋だろう?」
「わかってるじゃないか」
そういうと、私と男は二人で笑い出した。
そろそろ明け方、空に明るみが出てきたころだ。
「今日は楽しかった、今までいろんな人間を見てきたが、あんたみたいな人間ははじめてだ」
「私もだ。まさか私の経歴がわかるほどすごい人間がいるとはなぁ…」
里への道を歩きながら、二人で会話をしていた。
「里への道まで教えてもらって悪いな」
「気にするな、日課だからな」
「そうか、ありがとう」
男は感謝をいうと、私も少し微笑んでやった。
「…またきてもいいか?」
「きてもいいが、見かけても私からは声をかけないぞ?」
「いいさ、自分であんたのこと見つけ出す」
男は空を見上げながら、そんなことを言い出すもんだから少し照れくさくなってしまった。
「…ここからずっとまっすぐに歩いていけばもう里だ」
「そうか」
私は立ち止まり、男だけが先に歩いていく。
「今日は本当にいい日だった。また夜に会いにくるよ」
「見つけられればいいな」
そういうと男は苦笑いをする。それを見て、私は少し笑った。
「んじゃ、"また"な、妹紅」
「あぁまた…?!」
今、私の名前を…
「名前ぐらい、しわで簡単なんだぜ?ふふん」
男はそうとだけいうと、里に向かって歩き始める。
「…一本とられたな」
私はそういうと、久しく名前を呼ばれたからか、暖かい心を持ちながら竹林に戻っていった。
うpろだ1361
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「やぁ」
最近のおなじみの声だ。
「お、今日もきたのか。ご飯時だぞ、運がいいな」
「お、タイミングいいな、見計らってきたけどぴったりだ」
○○はそういうと少し笑った。
「やぁ○○さん、あなたも妹紅のご飯を食べに?」
「やぁ慧音さん。ご馳走になりにきましたよ」
そういうと慧音は目を輝かせながら
「そうだろう!そうだろう!妹紅のご飯はいつでもおいしいからな!」
慧音が妹紅の晩御飯のよさを一気に話し出した。
それを聞きながら照れくさそうに妹紅は顔を紅に染める。
「ほら、そんなのはどうでもいいからまずは食べろ」
妹紅はちゃっちゃと茶碗に炊きたての白米をよそる。
「今日は焼き魚か」
慧音が白米がどっしりのった茶碗を受け取ると、箸を取り出す。
自分で持ってきてるあたり準備万端といったところだ。
「今日ちょっと川で釣りをしてな、いい感じにつれたんだ」
「そうか、妹紅は釣りもうまかったな!」
見てるだけで面白い。
慧音の妹紅へのベタ惚れさは見てて心が暖かくなる。
○○も自然に口から笑みがこぼれた。
「まぁとりあえず○○も食べろ」
「ん、あぁ」
○○も妹紅から茶碗をもらい、箸をとる。
「んじゃ、ありがたくご馳走になるよ」
○○が魚に箸をつけて、身をつまむ。
「どれどれ…」
○○と慧音が白米と身を一緒に口に入れる。
『うまい!』
二人揃えていったせいか、妹紅は少し驚きながら、顔を紅潮させる。
「そ、そうか…?よかった」
妹紅は安心した顔で自分の茶碗にもご飯をよそる。
「いや、普通にうまいよこれは」
「妹紅が作るのはなんでもうまいな!」
二人が口々に料理を褒め、また顔を紅潮させる。
「…はは」
○○が少し笑った。
「ん?どうした?○○さん」
慧音が魚を食べながら聞いた。
「いや、さぁ…こんなに面白く飯が食えるって、単純だけどほんと幸せだなってさ」
○○が茶碗をおく。
「こうやって楽しい話をしながらうまい飯を食べてると、ほんと他のことなんかどうでもよくなってくる」
○○はそういってから、また魚を食べはじめた。
「…そうだな。私も慧音と食べる晩御飯はいつでもおいしかった」
「それは私もいつでもだ!」
そう慧音が言うと、妹紅がくすりと笑った。
「それから○○がここにくるようになって…またおいしくなったな」
妹紅がははっと笑ってまたご飯を食べはじめる。
「…」
○○が少し黙る。
「…?どうした?○○」
妹紅が何か失言でもしたかと心配そうに聞いてくる。
「いや、別になんでもないんだ」
○○がそういって、魚とご飯を一気にかきこんだ。
「…?」
妹紅はいまいち釈然としない様子で、魚をつまんだ。
「…妹紅」
○○が口を開く
「このご飯食べたら少し話したいことがある。…少し時間あるか?」
「…あぁ、あるが…」
妹紅は不思議そうな顔をして、○○を見た。
その間慧音は幸せそうな顔をしながら妹紅の手作りご飯を食べていた。
「今日の月は歪だな」
竹林を妹紅と散歩しながら、不意に○○が口を開いた。
「そうだな…○○とあったのも、こんな形を半月だったな」
私がそういうと、「そうだな」といい、あの日を懐かしむような目をした。
「幻想郷にきて1ヶ月か。里の暮らしにはなれたか?」
「ん?あぁ、おかげさまでな。慧音さんがいろいろと紹介してくれてね」
「そうか」
慧音に○○のことを話し、少し手伝ってやるようにいったが、○○もなかなか慧音さんと打ち解けてくれたようで私的にはうれしかった。
「慧音さんは寺子屋で勉強を教えてるんだな」
「そうだな…頭は少し固いが、悪いやつじゃない」
「固いやつ…ねぇ」
○○はそういうと、今日の晩御飯のときを思い出してたのか、少し笑った。
「ま、まぁ悪いやつじゃないだろ?」
「…そうだな、普通にいい人だ」
○○もいい人の点には納得したようで、素直に慧音のよさをわかっていた。
「…食べたばっかもあるし、少しつかれたな」
○○が腿のあたりをさすりながら言った。
「…そうだな、…もう少ししたら休もう」
私がそういうと、○○も一緒に歩き出した。
「…ここか」
○○がそういうと、私と最初に出会った切り株に腰を下ろした。
「一人できたら迷いそうだ」
○○がそういって苦笑いをした。
「はは、そうかもな」
私もそれにあわせて笑いながら答えた。
「…」
二人で切り株に腰掛け、少しの沈黙。
二人は共に空を見上げ、あの日と変わらない歪な半月を見上げていた。
「…○○」
「ん?」
「話ってのはなんだ?」
私はずっと疑問に持っていたことを持ち出した。
「…あぁ」
○○は空を見上げながら口を開く。
「いや、さ。俺が幻想郷にきて、妹紅にはお世話になりっぱだな…と」
「…そんなことか。きにするな」
「…そうか」
…また少しの沈黙が流れる。
「…少し寒いな」
「そうだな…」
出会ったのが10月の半ばごろ。
もうそろそろ12月になりかけの今、さすがに厚着もしないで秋夜を出歩くのは寒い。
「…」
○○が私に寄り添う。
「…な?」
いきなりのことだったから、私は口どもって焦ってしまった。
「…寒いか?」
○○が心配そうに問いかけてくる。
「い、いや、大丈夫だ」
「そうか、よかった」
そういうと○○は笑った。
○○のことだからそういうことで寄ってきたんじゃないだろう。
それでも自然と顔が熱くなる。
…よく見ると○○の顔も赤かった。
寒さのせいだろうか…
「…妹紅」
「な、なんだ?」
いきなり呼ばれたので、噛みながら返事をする。
「…大事な話があるんだ」
「…?」
大事な話…?
さっきの話で終わりじゃないのか…。
そういうと、○○は立ち上がって、私と向かい合うようにたつ。
「あー…うん…」
○○にしては珍しく、話を切り出すのに抵抗があるようだ。
「…どうした?」
「いや、うーん…」
…なんだ?
「ほら、早くしないと帰るぞ。寒くなってきたしな」
「あ…あぁ…あのな」
○○が帰るという単語に少し焦ったのか、できる限り早く話をいおうとした。
「…妹紅」
「ん?」
私は○○の顔を見つめた。
「あー…なんていうか」
○○はそういってから、言葉をつなげた。
「お前の左手を見てから、いや、最初にあったときから、妹紅のことが気になり出したんだ」
一呼吸おいてから、また続ける。
「別に、妹紅の特別な経歴とか、不思議な能力に惹かれたわけじゃない。純粋に妹紅のことが気になり出した」
「…」
…待てよ、○○。そこまでいったらどんな鈍いやつだって、言いたいことはわかってしまう…。
…○○…。
「妹紅…」
「…なんだ?」
○○は一呼吸おいてから、少し強めに言葉を発する。
「俺は…お前自身のことが純粋に好きなんだ」
「…」
…くそっなんで、なんでよりによって!
なんでお前に言われるんだ!
お前に言われたら…悲しくなるだけじゃないか…。
「…○○…わかるだろう…?お前の時計じゃ…私と同じ時は刻めないんだ」
「…」
「私じゃ何もお前に…幸せにさせてやれん」
「…」
「…お前が死んだあと、私はどうすればいいんだ…?」
「…」
そこまでいうと、○○は黙ってしまった。
…悲しいが、私は不老不死の体だ。
○○と同じ時は刻めない…。
わかってくれ…○○…。
「お前と…同じ時計…か」
不意に○○が口を開く。
「…これが…、俺の覚悟だ」
○○はポケットをまさぐると、小さいビンに入った、何かの飲み物を取り出す。
「…?」
「…お前について、多少調べたんだ…すまない」
○○は申し訳なさそうにうつむく。
…!
「それは…!」
「…」
○○は何も答えなかった。
…それがすでに答えだ。
「どこで…」
「永遠亭に忍びこませてもらった。比較的簡単に倉庫で見つけられた」
「…○○!」
「きけ!」
私が言葉を紡ごうとすると、それは○○の叫びで遮られた。
「…お前の答えを聞きたいんだ。お前が不老不死だとか…そんなのはどうでもいい。お前が俺のことをどう思っているかが大切なんだ」
「○○…」
「…もしダメだと言うなら…俺はお前に顔を合わせることはもうない。…頼む」
「…」
…○○…。
「…煙草を一本ゆっくりめに吸う。…その間に答えが欲しい。」
「…」
○○が煙草を一本出すと、ポケットを探る。
「…煙草、逆だぞ」
「…む」
○○が間違いに気づき、煙草を咥え治す。それと同時に軽く指をならす。
それと同時に○○の前に火が灯る。
「…すまん」
「あぁ…」
そういうと、○○はゆっくりと竹林に歩いていった。
…○○にあって1ヶ月か…。
この1ヶ月、短いようですごく圧縮された毎日だったな…。
…私は、○○のことをどう思っているんだ…?
…いや、隠すのはもういい。
…確かに私は○○が好きなんだ。
だが…いった通り、あいつと同じ時計じゃ、同じ時は刻めん…。
それに…あいつがあの薬を飲んだところで、本当にそれが○○の幸せなのか…?
○○…!
「…吸い終わった」
後ろから不意に声が生まれる。
それに気づき、私は後ろを向いた。
「…答えが欲しい」
「…ッ」
…なんて答えればいいんだ…
嫌いだと言えば、もとからいる存在じゃなかった○○は消え、また慧音と二人、"元通り"の生活になるだろう。
だがしかし、そんな簡単に消せるほど私のなかで○○はちいさくない存在だ…。
好きだが、蓬莱の薬は飲まないで欲しいと言えば…?
…確かに幸せな時間がくるだろう。
だが…果たして何年だろう。
60年?70年?
…私にとってはちっぽけな時間だ。
それに、○○だってそんな曖昧な返事は望んでないだろう。
…かといって、○○が蓬莱の薬を飲んだところで、それが本当に○○の幸せなのか…?
…ッ!
「…妹紅」
「…」
「お前と同じ時が刻めなくても。現在(イマ)は共に刻めるだろう」
○○が言葉を紡いでいく。
「…お前は俺に優しさと温もりのある時間をくれたじゃないか」
「…」
○○…。
「…お前が俺が死ぬのが悲しいというのなら、俺はいつだってこの薬を飲む」
そういって、○○は蓬莱の薬を取り出した。
「…俺が幸せなのは、この薬を飲むことや、不老不死をえられることじゃない…」
「…」
「お前と…同じ時を刻むことができるのが一番の幸せなんだ!」
…!
「…○○…ッ!」
私は○○に向かって駆け出そうとした。が、それは○○に遮られた。
「…すまない。返事が欲しいんだ…ここで妹紅と触れ合ったら、離れることが絶対にできなくなる…」
「…!」
…○○!
「好きだ!」
私は声を張り上げて叫んだ。
「私も…○○が好きなんだ!」
少し目尻に涙が浮かんできた。それでも言葉を紡ぐ。必死に。
「○○と一緒に時を共にしたい!優しさが欲しい!」
「…妹紅」
○○も少し目尻に涙を浮かべ、顔を紅潮させる。
「○○…好きだ!」
…そうだ。
私は○○が好きなんだ。
…もう迷わない。
○○と共に、永遠を共にしよう。
…怖くない。
○○がいるなら、永遠だってなんだって越えていけるはずだ。
…これが幸せなんだ。
○○はビンのふたをあけ、中身を一気に飲み干す。
それを見終えて、私は○○に走りだした。
固く抱きしめてくれた○○の腕の中で、歪な三日月の下、静寂な時を刻んだ。
「…これから共に歩もう。永遠を。な?」
「あぁ…もう迷わない。…好きだ」
「俺もだ。…なんだか不老不死って実感がないな」
「ふふ、これからさ。…でも、お前と一緒なら私はどこでもいけるさ」
「あぁ、俺もさ」
『共にいこう、永月を。』
うpろだ1363
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時は神無月。
とある隙間妖怪が外の世界へと旅行を計画、
伴侶を伴うならば参加を許可するという条件で一般にも開放され、様々な人妖が参加しているらしい。
私もそれに便乗する為、申込書を記し、我が恋人である愛しの妹紅を勧誘。
もじもじとしながら、
「さ…、さんかしても……、…いぃょ…」
と返答した妹紅は非常に愛らしく愛しくてもう私の理性は瓦解しそうになりながらも電光石火の勢いで準備を終え、共に旅立った。
数ヶ月ぶりに訪れた私の故郷は特に変化もせず漫然と灰色の空気を私に浴びせかけてきていたが、
妹紅にとっては見る物全てが――まあそれも当然だが――珍しいようで、興味津々な子猫のような愛人は非常に私の心の癒しとなっていた。
まず踏みしめている地を見、前方を塞ぐコンクリートジャングルを眺め、まるで弾幕のように流れる人々に驚いた。
私はそんな恋人を眺めているだけでもう旅行にきた事に満足していたが、私には非常に重要な用を果たすために旅にきている。
気を取り直し、恋人と外の世界の観光をすることに決めたのだ。
そこからはもう存分にイチャついたと自負している。
街で、駅で、店で、レストランで、料亭で、ホテルで、旅館で、家で、
常に妹紅と共に在った。
どこかへ連れて行くたびに、妹紅は笑い、私も笑い。とても幸せな時であった。
さんざん遊び倒し、桃色空間を展開させ、明日、いざ帰ろうとする時。
私は妹紅を呼び止めた。
「なあ妹紅、聞いてくれないか」
「なっなんだい、○○。そんな暗い顔して」
「妹紅、私は最低の男だ。私は最低の男だ。重要なので二度言った」
「さらに繰り返す、私は最低だ」
「私の精神は非常に未発達で原始的で幼稚で利己的であり、理性的とは程遠い」
「私の肉体は非常に醜悪で貧相で軟弱で脆弱で、健康的とは程遠い」
「私の性格は非常に鬱屈としていて狡猾で迂闊で残念で、
さらに私の駄目さ加減を君に正確に伝えるためには広辞苑を引用しつつ一週間かけて日本語の勉強をし直さなければならない」
「そして私は人間として無能である。これは断言できる確定的に明らかな事実だ」
………。
「妹紅、ここまでは君は認識しているかな?」
「い、いや、ちょっと待ってよ。突然何さ、○○はそんな酷い人じゃないよ」
「ああ、私に対する擁護は今はいいよ。妹紅は優しいから、きっと全部否定して受け入れてくれるに違いない。
でも、今話したいのはそういうことじゃないんだ」
「……? まぁ、○○がいいって言うなら良いけどさ…」
「話を続けよう。
妹紅、僕は君に恋して、君を愛して、君から愛してもらうようになってからふと、感じていた感情があるんだ。勿論、恋慕以外で、さ。
最初はそれがどうして感じるのか、どうしてそんな事を思うのか、非常に不思議ででしょうがなかった」
「理解が出来なかった、そのことに嫌悪したりした。
考えては妹紅と一緒にいて、考えては仕事して、考えては食べ、そして寝た。
でもある時、その正体に気づいて戦慄した時、同時に悟ってしまったんだ」
………、言ってしまっていいのか?
「それはいわゆる、『恐怖』だったんだよ、妹紅」
ああ、やっぱり。そんな悲しそうな顔をしないでくれ。
「私の行動が何か妹紅に害を成していないか?」
「私の言動が妹紅の品位を落としていないか?」
「私の存在が妹紅の存在を侵蝕していないか?」
「私の行為が妹紅の思考を妨げていないか?」
「私の何かが、妹紅を冒し、変質させ、
その何かが妹紅として本来あるべき『モノ』――例えば反応とか、言動とか、行動理念とか――を破壊していないか、恐怖だった」
「 ……私は○○にされる事なら、どんなことでも平気だよ?」
「嬉しいよ、妹紅。
やっぱり妹紅に愛されている私という個人は今この地球という概念全体に存在するありとあらゆる存在よりも幸福に違いない」
もうここまでだ。ここからは駄目だ!
「…でも、そういうことじゃないんだ」
やめろ!それ以上言ったら抑えられなくなる!
「…わけわかんない。今日の○○はなんかおかしいよ? あんまり行きたくないけど、帰ったら永遠亭に連れて行ってあげようか? 」
「それには及ばないんだ、妹紅、私はいたって正気なんだよ、残念ながら。
……妹紅、君はそんな最低な『私』と一緒にいたら、きっといつか、私が原因のなにか理不尽で悲しい目に遭う時が来ると思う。
いや、妹紅が気づいていないだけで既に遭っている可能性だってあるんだ。
でもきっと妹紅は気づかない、『私』という存在に対する愛のせいで気づいていない。そして私も気づいていない、私は鈍感だからね。
これが一体どんなに悲劇的なことだかわかるかい!? 妹紅! 」
「その悲劇はまず間違いなく私のせいだ。
君が私を愛するような関係にしたのは私だ。
妹紅が気づかないでいるよう妹紅を変質させてしまったのも私だ。
そしてその悲劇にたいして認識すらしないような存在に君は愛を注ぎ込んでいるんだ!
そんな愚者が幸福の内に無意識的に君を攻撃し、蹂躙しているかもしれないと考えると、私は! 私は!! 」
「○○! ○○っ! しっかりして、おちついて。
本当にどうしたの今日は? ○○、何か変だよ。何かに酷く怯えてるみたいだ」
アア、モウトマラナイ。引キ返セナイ!
「そうだよ! この感情はまさしく恐怖なんだ!
妹紅!! 私は君が恐ろしい!君が怖い!! 」
私を愛してくれて、私は感謝してもしきれず、ただただ感謝して
「どうすれば君が喜んでくれるのか?」
「何か会話をする? 何か贈り物をする? 何か行動する? 何か振舞う? 何か、何か、何だ!?
私はどうすればいい? 私はどうすればいいんだ? 私はどうすればいいのか?
もし君が喜んでくれなかったら?
いや、もし君が嫌な思いをしたら? 私のせいで何か不愉快な思いをしたら?」
「私のせいで君を怒らせてしまったら!?」
君にはいつも笑顔で居て欲しくて、笑っていて欲しくて、笑わなくても、穏やかな気持ちでいてほしくて
「私は妹紅に嫌われたくない!」
君が傷つくのが怖くて、それ以上に君に嫌われるのが怖くて
「振り向いてくれなくてもいいから、とにかく嫌われたくない!
しかし私は妹紅にもっと幸せになって欲しい!
そのためには私は君の前から消え去っても良い!体が滅びても構わない! 」
妹紅がいないと、もう私は生きていけなくて、でも私が死んで妹紅が悲しむくらいなら、最初から妹紅を好きにならなければよかった訳で
「これはひどいわがままだ!!」
到底吊り合わないのに、こんな歪で異形な私を君は愛してくれて。私は妹紅の事が愛しくて
「こんな大きな矛盾が私には突き刺さっていたんだ!! なんて醜いんだ!! 私はっ!!」
愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて、壊れてしまいそうで
「嗚呼、私は醜い!! 自己嫌悪する私が! 自己卑下する私が! 欝かね!? 私は!」
彼女がただただ愛しくて愛シくて愛しクて愛シクて愛しくテ狂っテシまイそうで!!
「○○っ!!」
私の胸に飛び込んできてくれる妹紅。ああ暖かい、柔らかい。
ふわりと彼女の髪が私の頬と肩をくすぐる、なんていい香りなんだ!
彼女の体温を感じ、少し落ち着いてきた。やはり私は、言うなれば妹紅中毒のようだ。
「○○、しっかりしてよ。○○、私はあなたがいればそれだけでいいんだ。
○○さえいればもうそれだけで私は幸せになれちゃうんだよ?
だからそんな辛そうな顔をしないでよ、自分をそんな風に責めないでよ、そんな風に泣かないでよ…」
「………私は、泣いているのかね?」
「んーん、涙は出てない。でもあなたは今、泣いてるんだと思う」
「……。そうかい、妹紅が言うのならそうかもしれないな。…でももう大丈夫、妹紅に元気にしてもらった。」
「ふふっ、現金な奴。……でも元気になってくれたなら嬉しい。」
「すまないな、妹紅。…………なあ、…妹紅」
「なあに○○? 何でも言ってよ。何でもやっちゃうから」
「君を■■てもいいかい?」
「えっ―――?」
「性的な意味でも、その本来の意味としても、だ」
「だっだめだよ!!もちろんいつ戴いてくれちゃってもいいけどっ!いやそうじゃなくってもう何言わせるのさ!!そんなことしたら○○が…」
「ああ、死ねなくなるな。だがそれがどうしたね?」
本当にどうしたというのか。
「『どうしたね?』じゃないよ!! 死ねないって、想像以上に辛いことだよ?
っていうか! 死ねるから生きるって素晴しいんだよ!? それを、○○は!! 」
「でも妹紅は死ねないではないか」
「そうだけど!! いやむしろだから………、っ……ぅう~とにかく駄目っ!! 」
「どうしても? 」
「どうしても!! 」
「成る程、では実力行使に移ろう」
「………なに? 分かってると思うけど私は○○よりかなり強いよ?
やりたくないけど、今後そんなこと二度と思わないように一回お灸を据えてあげようか? 」
ああ、妹紅、
「……なあ妹紅、さっき話した恐怖の話、まだ続きがあるんだ」
愛しい、妹紅、
「…? いきなりなにさ? 」
君は 私の 世界の 中心 で、
「妹紅、私が死んだら、妹紅はどうする? 」
君の 笑顔は 私の 狂喜 で、
「……とりあえず凄く悲しむ。悲しんで泣いて嘆いてこの世の終わりみたいな顔して、叫んで喚いて慟哭して悲観にくれる。
少なくともその後1000年ぐらいはそんな感じだと思うけど」
君の 涙は 私の 慟哭 で、
「じゃあ、今私が死んだらどうする? 」
ああ、愛しい妹紅
「えっ? 悪い冗談はよしてよ。もう何がなんだかわからなくなっちゃう自信があるけど、とりあえず永遠亭かな 」
君は 私に 笑顔 を くれ た。 だから、 だから―――妹紅!
「ああ、完璧な回答をありがとう。ここからは、○○マジックタイムだ!! 」
私は 君から 孤独を 永遠に 奪い去ろう―――!!
「はあっ!? 」
「サア我ガ右手ニ握リタルハ一本ノ注射器!
所謂一ツノ最高傑作ニシテ私ノ頂点ニシテ起爆剤!!マズハ之ヲ我ガ頚動脈ニ打チ込ミマス!」
そのままヅグン!っと一突き、何のためらいもなく打ち込んだ。
痛覚は無い―――というか興奮により阻害され、感じない。
「次ニ我ガ右手ニ取リ出シタルハ一振リノ短剣!銘ハ『プラグ』!
コノ短剣ハカツテ鎖帷子ヲモ刺シ貫イタト言ワレル『スティレット〔メイルブレイカー〕』ヲ模シタ剣兼鍵!!
コノ短剣ヲ…… 」
「っ!」
身構え、腕に炎を灯す妹紅、ああ美しい。しかしその行動を確認した私はにやりと笑い、大きく思いっきり振りかぶり勢いをつけて。
「ガフゥッ!!」
私の 首に 突き立てそ のまま 脳 が わたs の命 令を 正しく実 行するうtに―――
「ギはあァッ!!」
引k抜k―――!
ズブッ ぞぷん…ップシャアアアア………
「○○っ!?○○っ!?○―――」
―――……
>>―――再構築、再構成、再起動―――<<
「はい、生き返りましt…」
目の前に、炎をまとった拳が空気を切り裂きながら接近してくる。
「馬鹿ぁあ!!! 」
ドガッ――
妹紅の怒りを存分に蓄えた右手が、見事に私の頬に突き刺さった。
「何てことしてるんだ!! びっくりした、心配した!! とりあえず一回死ねぇ!! 」
「ちょ、もこー落着いて…」
「馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! この大馬鹿野郎!! 」
罵られる度に妹紅の懇親の一撃が、その愛くるしい拳が、次々と私に着弾する。
「何でっ! なんでっ! どうしてっ!! どうして人間をやめたんだ!! この馬鹿っ!! 」
殴られ、叩かれ、殴打され…、そのたびに、「ああ、愛されてるんだなぁ」と実感が沸く。
「ひっぐ…、これじゃあ、○○が死ねないよぅ……、私のせいで…、○○が死ねなくなっちゃった…、……ぐすっ」
「それは違うな、妹紅。私は人間であることをやめたが、蓬莱人になったわけじゃないんだ。ちゃんと死ぬ方法はあるのさ」
「一緒だよ!!私のせいで…、○○が……、○○がっ…!! 」
「聞いてくれ、妹紅。
私は今、私の意思で自分に鍵を刺したんだ。一体この行為のどこに君という存在が介入する余地があったというのかね? 」
「屁理屈なんていらない!! 私さえいなければ○○はそんな怪しげな存在にならなくても…、むぐっ!? 」
言っても聞かない口は塞いでやれ、落着かない子はこうだ!!
「むーっ!? むーっ!! 」
………………。
「ぷはぁっ!! 」
「落着ついたかい? 」
「…んな訳ないだろ!! この馬鹿! 」
また一回殴られた。
「ふぐぅっ! …なかなかバイオレンスな愛だね、妹紅。
でも私は妹紅がすることならなんだって受け入れようじゃないか。それはもう残酷なm…」
「なに格好つけてんの? …そんなに死にたいの? 馬鹿なの? 死ぬの? 」
ふと目の前の妹紅を見ると、目は据わり、能面のような表情をしていた。
しかも妹紅の背中から不死鳥の羽が生えている、本気モードなんですね、見ればわかる。とりあえずそろそろ潮時か。
「すいません」
The・土下座~☆大盛りすたいる☆~
このポーズで許してもらえなかったらもう特盛りしかない。
しかし特盛りは一部の高等テクニックを習得したものにした体現できぬ技…、果たして今の私に出来るのか…?
「………」ゲシッ!!
黙って頭を踏みつけられる、私の尊厳はどっかへ行ってしまいそうだよ。
「………で? 説明してもらおうじゃないの。中途半端とか嘘とかだったらぶち殺すから」
「ははあ! 」
それから私の体の現在の状況をいろいろ話した。正座で。
きちんと手順を踏めば死ねること、恐らく(この場合、私が蓬莱人がどのようなメカニズムで生き返るかきちんと理解していないので暫定だが)
蓬莱人とは別の存在であること、この先身体能力の衰退成長はあれども老化はしないこと、妹紅が滅びるまでは死ぬつもりが無いこと、その他いろいろ喋った。
「……なんで? 」
「えぇっ? 何故と聞かれても、そういう存在になりたかったから努力と根性で実験して発明したからとしか…」
「どうして、そんな存在になろうなんて、思っちゃったの? 」
「……、簡単な話だよ。妹紅ともっと一緒にいたい、私の寿命なんかじゃ全然足りない、私が死んだら妹紅が悲しむ。
じゃあそういう存在から脱却しよう、っていうのが動機さ」
「そんな、……やっぱり○○は馬鹿だよ。私みたいな女のためにそんなことまで……ふむぐぅ!? 」
「んー♪ 」
「んー! むーっ? 」
むちゅー
「ぷはぁっ」
「ふふふ妹紅の唇は非常に美味かつ甘露だね。やはり私は妹紅中毒レベル5といったところか」
「いきなり人の唇奪っといて何言ってんの!? まるで人を何かの毒物みたいに言わないでよ、失礼な」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……妹紅」
「…なにさ」
「愛してる」
「………私も……」
「………」
「……っき………だ…よ…? 」
パリーン ピシャーン (なにか種子的な物が割れ、はじける音)
「ええい愛しい妹紅め!! 一体何度私の心と理性を粉砕すれば気が済むのか!! 」
「ひゃっ!? ちょっといきなり……ひゃあん!! 」
「何度自分の理性が崩壊しないようにと抑えてきたか! そしてまたいつかは、またいつかはと、それを一体何度繰り返してきた!! 」
「んぅっ! ゃっ、あぁん!! こんなっいきなりっ…! 」
「もう止まらぬさ!! 所詮己の理性など己の抑えられる所までしか抑えられん!! 」
「ちょっ! ぅあ、だめっ! ああん! 」
「そして私は本能に従う!! 従うべくしてな!! 」
「意味がわからっ! あ、あっ、せめてもうちょっとやさしく…くぅん! 」
そこで私は一つ言い忘れていたことをかろうじて思い出し、ピタリと動きを止めた。
「………妹紅」
「はぁ、はぁ、何よ…」
そして妹紅の前で一度手を合わせ
「………いただきます」
「っ!? ばかぁっ!! ひゃ、やあん!! 」
………
……
…
『はい、ここまでよ』
えー!? もっとみせろー!!
『はいはい、まだまだ他の組のがあるんだから。それにこの後はそれはもうねっちょねちょな行為が延々と』
っ!! そこまでよ!!
『っていうわけだし、私もあそこで文字通り真っ赤に燃えてる乙女が怖いし次いくわよ次ー』
ぉおーー!!
「ぉおーー!!……ああ、妹紅、すまないがそこの八目鰻をとってくれないかね」
「ごめん○○、ちょっとあの悪いスキマをしばき倒してくるからあとで……、ってなんで○○まで面白そうに見てんのよ!? 」
「いやぁ、妹紅の愛らしい姿がもう一度見れるなんて幸せだなあと思っていただけさ」
「―――っ!? 死ね! やっぱり一回死ね! ばーか! 」
「ああ照れる妹紅もかわいいよ妹紅、実にグッジョブだ。今のこの気持ちを表すならばそう…、『あもい』」
「………まーた変なこと言い始めて…」
「そう、『嗚呼妹紅かわいいよ妹紅君のことが愛しすぎて私はもう妹紅のことが妹紅妹紅妹紅妹紅妹紅妹紅ーーーー!! い』の略だ」
「………なんでこんな変な奴に惚れちゃったんだろ…、…今でも好きだけど…… 」
パリーン ピシャーン
「妹紅ーーーーーーーーーーーー!! 」
「っ!? こらっ! こんな所で! や、やめっ」
『そこまでよ!! 』
おまけ
「…えーきさま、えーきさま」
「なんですか小町」
「なんか一人、人間が寿命を弄くったみたいなんですけど…、どうしましょ」
「………ああ、その件なら問題ありません。…いえ、問題はあるのですがどうしようもありません」
「…ああ、輪廻の輪から外れちゃった感じですか? あの月人関係で」
「月人関係と言ったら関係がありますが、蓬莱の薬では無いのですよ」
「………、馬鹿の類で? 」
「……まあ馬鹿といったら馬鹿でしょうね。なんていったって恋人と添い遂げるために己の手で己を新たな存在に昇華させてしまったわけですから」
「あれ、でもこいつ元々外の人間じゃないですか」
「ええ、故に馬鹿の類なのです。
もし、彼が幻想郷へ来なかったとしたら?
外の世界は社会体系が激変していたところでしょう。少ない手順で不死になり、且つ好きなときにとある手順を踏めば死ねる。
そんな傲慢で理不尽な存在が、64億余突如として出現することになりますからね」
「…それって大変なことじゃないですか? 」
「とりあえず閻魔と死神たちは職を失いますね。天界も冥界も地獄も人口流入がストップし、深刻な人手不足に陥り最終的には我々は孤独な存在と化します」
「大問題ですね。転生する端から不死にされたんじゃ、どんどんこっち側の人口は減りますし、輪廻のバランスが取れなっちまいますよ? 」
「しかし彼は今幻想郷にます。それに彼自身は少なくとも吹聴してまわるような性格でもないし、その気も無いようです。
………まあ、それはそれとして、その内裁きには行きますが」
「彼の自宅に残された資料や薬品の類はどうするんです? 」
「一人の馬鹿が独自の理論で完成させた技術です。
恐らくただの奇特なガラクタとして処分されるか、机上の空論だと一蹴されて忘れ去られるでしょう」
「まあ、彼が恋人と一緒に居たいが為だけにやっちまったモノですしね」
「ま、蓬莱人が一人増えたと思っていても問題は無いでしょう」
「わかりました、そういう風にあつかっときます。…じゃ」
「…待ちなさい小町、今日の分のノルマは?」
「………あーとーでー♪」
「………だーめーよー♪」
新ろだ89
───────────────────────────────────────────────────────────
「けーねおねえちゃんどこぉ…」
一人の少年が薄暗い竹林を彷徨っていた。
名を○○と言い、歳は十にも満たず外の世界から神隠しに遭いこの幻想卿に迷い込んだのであった。
幸い妖怪に襲われる前に里の住人に助けられ上白沢慧音が引き取り共に過ごすに至った。
少年にとってこの世界は全ての事が新鮮でよく村の外で遊ぶようになり、慧音には暗くなるまでには絶対帰るようにと
念を押されていたがこの好奇心旺盛で多感な少年期には中々難しい注文であった。
友達と遊んでいたらいつの間にか逸れてしまい、さまよい歩く内に日が暮れてしまった。
瞳には大粒の涙を貯め、泣きだす寸前だった○○の後ろで何か物音がし、それに驚いた○○は腰を抜かしへたり込んで身動きが取れなくなってしまった。
「ん?何だ、○○じゃないか。こんな所で何してるんだ?」
「…も、もこーおねーちゃん?う、うわぁぁぁぁ~ん!」
見知った顔を見て安心したのか、○○は極限にまで伸ばされた緊張の糸が切れ泣き出してしまった。
一体何のことか分からなかった妹紅は取り合えず泣きじゃくる○○をあやし、おぶって慧音の家まで連れて行くことにした。
妹紅は帰りの道中さまざまな話を聞かせ、○○はその話に表情をコロコロと変えていたが途中で寝息へと変わっていた。
遊び疲れと泣き疲れたのが両方一気に押し寄せて眠りの世界へと誘っていたのであった。
「ほら○○、家に着いたぞ。で、こわ~い奴のお出ましだ」
妹紅の声で目覚めると慧音が目の前に佇んでいた。
表情からご立腹であることは幼少の○○でも容易に想像がついた。
「○○!」
「ご、御免なさい…けーねおねえちゃん!」
「まぁまぁ慧音、男の子はこれくらい元気じゃないと」
「妹紅、あまり○○を甘やかさないでくれ。今回はお前が見つけてくれたから良かったが
妖怪にでも喰われてからじゃ遅いんだぞ」
「○○だって怖い目にあったんだ。大丈夫だな○○」
そう言い妹紅は○○の頭を優しく撫でた。
「まったく…この子には甘いな」
口ではそう言うが心底心配していた慧音は○○を優しく慈しむように抱きしめてあげた。
「もこーおねえちゃんありがとう!そうだ!僕ね、大きくなったらおねえちゃんとけっこんする!」
「なっ!!!」
「だそうだ妹紅、良かったな。嫁の貰い手が出来たぞ」
腹を抱えて笑う慧音とキョトンとする○○に妹紅は顔を真っ赤にし
「○○、あのな?嬉しいけどお前と結婚する慧音が私のお義母さんになるからな。それで…」
「私は○○の母親じゃない!保護者だ!」
慧音の頭突きが見事に決まりその場に崩れる妹紅に駆け寄り○○は必死に呼びかけたが
妹紅の意識は途切れていった…
○○は慧音や妹紅、里の人達から愛情を受けすくすくと成長していった。
「昔はもっと可愛げがあったのにな…」
「ん?何か言ったか?」
「いーや、何も」
時は流れ○○は青年になっていた。
「ちょっと昔の事を思い出したんだよ」
「昔ねぇ…」
妹紅の淹れた茶を啜り○○は寝転がった。
「お前さ、わざわざ人の家に来て茶啜って寝てるだけって暇人だな」
「いいだろ別に、今日は仕事が休みなんだよ」
「しかし、○○が薬師ねぇ…」
○○は数年前永遠亭の八意永琳に頼み込んで住み込みで弟子にしてもらっていた。
「よくあの薬師を説得出来たね」
「まぁ…な」
「ふぅん」
歯切れが悪かったが元々○○はそういう所があったので妹紅はさして気に止めなかった。
「そういえば独り立ちしたからってたまには慧音に会いに来てあげなよ。
寂しがってたよ」
「ちゃんと会いに帰ってるよ。ご馳走さん」
○○は残ったお茶を飲み干し、湯飲みを水場に置き土間から降り際に妹紅に告げた。
少し散歩しようか、と。
「ねえ○○、私と初めて会った時の事覚えてる?」
「初めて会った時って言うと…何だっけ?」
二人は竹林を当ても無く彷徨っていた。
「覚えてない?慧音が○○の手を引いて私の目の前に現れてさ」
「あ~…妹紅が何か言って頭突き喰らってたな」
「そうそう、ついに慧音も一児のお母さんか、ってね。何も頭突きしないでもさ」
「そういうお年頃だったんだろうさ、慧音は」
その時○○は妹紅の事をちょっと怖いと思ったが何てことはなかった。
妹紅は面倒見が良く、○○とすぐ打ち解ける事が出来た。○○にとって妹紅はもう一人の保護者と言っても過言ではなかった。
「でも何だかんだ言って慧音は親馬鹿さ。○○の事となると周りが見えなくなるし
寺子屋で一番になった時は上機嫌で暴れまわってたし」
「止めてくれ、アレは恥ずかし過ぎ」
寺子屋一の秀才になった時慧音は親しき人達を集め宴会を催したがその時の
あまりのはっちゃけ振りは未だに目に焼きついて離れなかった。
「そんだけ愛されてたのに自分の下から離れてあんな怪しい連中の所に行ってるんじゃ、親の心子知らずだね」
「師匠は確かに性格がちょっとアレだけど間違いなく天才さ、怪しさで言ったら妹紅もいい勝負だな」
「あ~あ昔の○○は素直で優しくて可愛げがあったのに、今じゃ夜遊びもするし慧音はどこで教育を間違えたんだか」
「後天的、周りの影響だな」
「里の友達か?確かに悪ガキが多かったからな」
「もっと身近で影響力のある奴だよ」
「じゃあ不良中年達だな」
「…はいはい。自分で言ってりゃ世話無いな」
こんな風に昔の話に華を咲かせ二人は一緒に歩いて行った。
しかしこの好ましい時間もいずれは終わりが来る。○○と妹紅とでは時間の進み方がまるで違う。
妹紅は不老不死、いずれ別れの時が来る。親しい人達との別れは辛い、独りでいる事の方がまだ心は楽だ。
いくら不老不死でも精神は人間のままで肉体的な死よりも精神的なショックの方が妹紅には辛かった。
だから大概の人とはある程度距離を置いてきたのだ。にもかかわらず○○はいつの間にかもっとも近い存在になっていた。
限られているからこそ今という時を大事にしたかった。二人の時間を。
「なあ妹紅、お前の望みは何だ?姫様への復讐か?それとも…普通の人間に戻って死ぬことか?」
「いきなり何だ…よ?」
○○の表情は何時にも増して真剣で、妹紅は一瞬胸が高鳴った。
「教えてくれ」
「ん~…輝夜との事は難しいな。まだ憎いかって言われりゃこんな体にしたから憎いけどさ
今まで散々殺しあって互いに暇潰ししてそれなりに楽しかったし。それに普通の人間に戻るのは…無理だよ」
「そうか…」
妹紅の声のトーンが一気に下がった。顔を伏せているが妹紅は悲しい表情をしているのだろうと○○は思った。
ふいに○○は妹紅を後ろから抱き締めた。
「こ、こら○○!ふざけるのもいい加減に…」
「妹紅、俺はお前が好きだ」
不意に耳元で妹紅は囁かれ、見る見るうちに顔が真っ赤になった。
妹紅は何か言おうとしていたがまるで言葉に出来ず、抵抗することも止め大人しくなった。
「このまま聞いてくれ。俺にとって妹紅は姉であり母であり…女性なんだ。
妹紅は強くていつも妖怪から俺を守ってくれた。そのお前が一度だけ幼い俺の前で泣いたことがあったんだ。
ただ一言辛い、と」
「っ――」
「俺はそんなお前を見たくないんだ。いつだって不適に笑って自信に溢れてるカッコイイお前が好きなんだ。
今…俺は師匠の下で蓬莱人から普通の人間に戻る薬を研究している」
「無理だよ…そんなの出来っこない」
「ああ、"人間の寿命"じゃ絶対無理だ」
「人間のって…」
「はっきり言ってこれは俺の勝手な想像でお前にとって大きなお世話かも知れない。
でも妹紅が望み、迷惑じゃなかったら…お前の肝を俺にくれ」
妹紅は絶句した。蓬莱人の肝を食べれば新たな蓬莱人が誕生する。
抱き締められた状態で○○の表情を窺ったがその瞳には揺ぎ無い決意が読み取れた。
「数百年数千年かけてでも俺がお前を元に戻してやる」
「そんなの前例がないし…」
「前例がないならこれから俺が作る」
「でも私なんかの為に○○の人生をぶち壊しになんか出来ない!ほら、一時の気の迷いかもしれないし。ね?」
妹紅の瞳からは大粒の涙がこぼれ出した。
「俺だって一時の感情かもって思った。でも今まで頑張って来た。それは紛れもなく妹紅と一緒に同じ時間を過ごし共に死ぬ、その為だ。
その気持ちに嘘偽りはない。だからさ、一緒に苦労しよう。妹紅」
慧音に教えを乞い知識を授かり鍛錬を積み体を鍛え日が沈むころに紅魔館の図書館で夜遅くまで知識を貪欲に吸収する。
そして今は月の頭脳の弟子となった。それら全てはたった一つの事に集約されていたのであった。
「私だって……本当は○○と一緒にいたい…でもそれは…夢なんだ、無理なんだって…諦めた」
涙で顔はボロボロになり言葉もやっとのことで紡ぎ出している状態であった。
そんな妹紅が愛おしくなり○○はもっと強く抱き締めた。
「夢で終わるかどうかは妹紅次第だ。俺は腹を決めた、妹紅は?」
「…じゃあもう一回好きって言ってキスして」
「何度でも言ってやる。好きだ妹紅」
そう言い○○は妹紅に優しく口付けをした。
それはただの触れ合うだけの幼稚なキスであったが、今の二人にはそれで充分に満たされた。
「○○、ちょっと後ろ向いてて。恥ずかしいから」
妹紅は○○が後ろを向くのを確認するとおもむろにシャツを脱ぎだした。
そして自分で自分のの腹部を掻っ捌いた。
「ぐっ!…がはっ!」
いくら蓬莱人で死なないとはいえ激痛は伴う。傷が再生しないように妹紅は痛みに絶えながら急いで肝を
取り出した。そしてまだ生暖かく血が滴る肝を○○に手渡した。
「ハハ…結構痛いね」
そして妹紅は無理に笑顔を作ったがその場に座りこんだ。
「次は俺の番か…」
覚悟を決め一口それを含むが○○は強烈な吐き気に襲われた。
血抜きなどを一切行っていない生の肝なのだから血と鉄の味でとても食べれたものではなかった。
しかし○○は時間をかけて何度も吐き出しそうになりながらも肝を貪った。
完全に肝を食べ切った時には少し日が傾き始め、○○はぐったりとした表情で妹紅の隣に腰を下ろした。
「これで、俺も蓬莱人の仲間入りか…実感ないけどな」
「歓迎していいのか微妙だけどね」
妹紅は嬉しいという感情よりも後悔の念の方が大きかった。
自分のせいで○○は幼くして信念を固めてしまい、他にあったかもしれない道を閉ざしてしまった。
無意識に妹紅は謝罪の言葉を吐いた。
「○○…ごめん」
「何度も言わせるなよ、俺が決めたんだ」
「そうだね…でもごめん」
このままでは拉致が明かなそうなので○○は話題を変えた。
「でもまぁ、レバーは嫌いじゃなかったんだけどこれはきっついな」
「すっごい匂いだね」
「ああ、…今更だけどレバーの炒め物とかにすれば良かったかな?」
「馬鹿、そんな軽口叩ければ大丈夫だね」
「妹紅の方は?」
「しばらくしたら元通りになるさ」
傷口が痛々しいが先程より妹紅の表情は幾分か楽そうであった。
「ハハ、俺もお前”も紅”に染まったな」
二人とも血だらけでその血が少し酸化し始め深い紅色になっていた。
「うん…一緒だね」
○○は妹紅の肩を抱き寄せたが妹紅は驚き頬を染めたままどこか所在無さげであった。
「どうした?」
「その…こういった経験ないから甘え方が分からない」
望まれない子供として生まれ、決して恵まれた子供時代を送れなかったが為に誰かに甘えることは出来ず
蓬莱人になってからも誰にも甘えることは出来なかった。
「可愛いね、お前」
「こんな事するのは○○だけだから…
「ホント可愛いね、お前。でもそろそろ着替えないか?血の匂いってヤツは長時間嗅いでいると嫌になってくるからな。それに慧音に報告しないと」
「そうだね」
その提案に妹紅も頷きそれぞれ着替え慧音の家へと向かった。
「なるほど、ついに妹紅に打ち明けたか」
「ああ」
慧音は一口飲んだお茶を卓袱台に置きじっと二人を見つめた。
○○と妹紅が二人揃って訪ねて来た時の雰囲気と表情から慧音は薄々感づいてはいた。
昔、まだまだ子供だと思っていた○○から聞かされた夢物語が本当に始まろうとしている、慧音にとっては
それは複雑な心境であった。
我が子同然に育ててきた○○が言わば人間を止め、答えがあるかどうかも分からない道を往く。
他に道は幾らでもあるだろうがわざわざ難儀な道を選んだ○○に慧音は心底心配であった。
だが子供が決めた事を応援するのもまた親の役割の一つであった。
「慧音、私は…」
妹紅が申し訳なさそうに口を開いたが慧音はそれを制止した。
「妹紅、○○は頑固で融通が利かず不器用な生き方しか出来ない。それに一つの事に没頭すると周りが見えなくなり自分の事も疎かになるような
まるで駄目な男だが根は良い奴だ。どうか見捨てないでやってくれ」
「分かった」
「オイ…」
自分が褒められているのか貶されているのか微妙で、もっと良い評価が欲しかった○○であった。
「○○」
「な、何だよ?」
○○は昔から慧音の説教が嫌いで、気付いたら説教されそうな雰囲気を読み取る程度の能力を手に入れたのであった。
そして今まさにソレを感知し身構えた。
「妹紅を絶対幸せにするんだぞ。もし泣かせるような事があったら神に変わって私が天罰を下すぞ?」
「善処します…」
「そうしてくれ。で、これからどうするんだ?」
「まずは永遠亭から妹紅の家に引っ越すよ。幸い竹林から永遠亭は近いから助かるよ」
「一人で暮らすには広かったから二人で暮らすには困らないしね」
「人里離れてるから思いっきりイチャイチャ出来るしな」
「○、○○!」
二人からは早くもバカップルオーラが発せられていた。
「…で、式は挙げるのか?」
その場に居た堪れなくなった慧音は話題を振ってそのオーラを払拭しようと試みた。
「いや、今は恋人って関係を楽しむよ。式はその後に、紅白の貧乏巫女の神社ででも挙げるさ」
「そうだな、二人にはそれが丁度いいな。だがまぁ…程々にな、色々と」
○○は慧音の好物の羊羹を土産として持ってきたのであったがまったく手をつけていない事に気が付いた。
「食べないのか?好きだろ?その羊羹」
「好きだがな、今のお前達を見ていたら甘いものはいらないよ。ご馳走様」
そういってお茶を啜る慧音に妹紅は頭上に疑問符を浮べていた。
「慧音」
しばし雑談をしていた時急に○○は姿勢を正し、慧音の方へと体を向けた。
「この幻想郷に迷い込んで里の人たちに拾われ慧音に出会い、そして俺を育ててくれた。
迷惑も掛けてきたし俺の我侭に付き合せてた事、本当にすまないと思う。…そしてありがとう」
「珍しいこともあるもんだな。お前からそんな言葉を聞けるなんて」
「こんな時じゃなきゃ言えないさ。心から感謝してる」
「そう思うならたまには孝行をしろ。馬鹿」
慧音は目頭が熱くなり泣き出しそうになったのを必死で堪え笑顔を作った。
「ああ、時間ならたんまりあるからな。覚悟してろよ……母さん?」
「…っ。全く…この、馬鹿、息子が…っ。期待、しているぞ?」
仲睦まじく竹林の方へと去る二人に慧音は手を振り見送った。
「はぁ……子を送り出す親の心境か、こんなにも辛いものなのだな」
「そう思うのなら私の元に居て!って引き止めればよかったのに」
ズイっとスキマから八雲紫が慧音の前に突然現れた。
「そんな事出来るわけがないだろう。○○を嗾けた張本人が何を言う。それに盗み見とは趣味が悪いな」
「あら、人聞きが悪い。数年前私を訪ねてきた少年に可能性を教えただけよ?そう、暗闇に光を射す方法をね」
紫は口元を扇子で隠しながら笑みを浮べ、その仕草が胡散臭さを一層引き立てた。
「あのバカにはその小さな光があまりにも眩し過ぎてそれしか見えなくなってしまった」
愚直な性格、○○の長所であり短所
「私はそういうバカは嫌いじゃないわよ。それに針みたいな小さな光でも深い闇を貫くことは出来るわ」
「そうあって欲しいものだ」
「大変ね、お母さんは」
「フン…放っておけ」
―せめて○○と妹紅に死が訪れるまで幸多からん事を―
「あのね○○、私もう一個夢が出来たんだ」
二人は竹林への道を歩いていた。
これから気の長い時を二人で過ごすであろう竹林へと。
「ん?何だ?」
「私と○○の子供をたっくさん産んで輝夜に見せつけてこう言ってやるんだ。
どうだ羨ましいだろって。そして奴の悔しがる顔を見て笑ってやるんだ」
「素敵な夢だな…。でもそれには俺の協力も必要不可欠な訳だな」
「うん…ちょっと恥ずかしいかも」
頬を紅く染め上目遣い…凛々しい妹紅も良いが可愛い妹紅もヤバイ。○○の妹紅メモに新たな項目が追加された瞬間であった。
「でも私慧音みたいに胸大きくないから大丈夫かな?」
「妹紅は人間に戻れば成長期だから大丈夫だろ。なんなら俺が手伝ってやってもいいけど?」
「○○って人の胸大きく出来るの?ハッ!まさか慧音の胸を大きくしたのは○○か」
「いや…その…今の言葉は気にするな」
「?」
どうやらそういった知識に妹紅は疎いようで、そんな初心な所に○○は妹紅の可愛さを再確認したのであった。
危うくその場で妹紅を押し倒しそうになったが、場所が場所でムードの欠片もなかったので○○はグッと堪えた。
「何一人で楽しそうにしてんのさ、それよりほら」
一人悶々としている○○に妹紅は手を差し出した。
「これから忙しくなるんだろ?」
「そうだな…まずは永遠亭から俺の荷物を妹紅の家に運ばないと」
「私達の、だろ?これからは」
「ああ、そうだったな」
そして差し出された妹紅の手を○○はしっかりと力強く握り締めた。
願わくばこの手を離す時は死が二人を分かつ時であることを…
新ろだ282
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表では子供達が走り回り、眠っていた動物達もちらほらと姿を見せ始めていた。誰もが春の訪れを感じるそんな日。
里の中のとある一軒、ここは○○という青年の家である。
普段なら仕事に行く為に出てくる時間なのだが、今小屋の前からは誰も出てくる気配が無い。
それもその筈、彼は風邪をこじらせ仕事どころでは無いのだ。
この男数日前から熱っぽさを感じていたが、ただ調子が悪いという事で片付けていた。
それが間違いであったという事実に彼が気付くのに時間はかからなかった。
あっという間に体の調子を損ない、必要な時以外は布団の中で過ごすハメになってしまったのだ。
「ああ…くそ、熱が下がる気配が無い…。薬合ってないんじゃないのか」
誰に聞かせる訳でも無く天井を見つめそう呟いた。
それ以上独り言を言う力も無いのか、そう言ったきり彼は眠りの中へと落ちていった。
あれからどれくらい経ったのだろうか。彼は誰かが自分の名前を呼ぶ声で目を覚ました。
少し休んでいたとはいえ玄関まで出て応対する力など出せるはずも無い。
今自分を呼んでいる人物には悪いが、このままやり過ごさせてもらおう。彼はそう決めた。
誰も出てこないと分かると声は次第に無くなっていった。
次に聞こえてきたのは声では無く、誰かが扉を開け家へと入ってくる音であった。
強盗の類であれば、健康体であっても太刀打ち出来るかは分からない。この状態なら尚更である。
そして部屋に飛び込んできた人物、それは大きなリボンに腰まであろうかという長い髪をたなびかせた女性であった。
飛び込んできた女性、彼女の名前は藤原妹紅。
里で寺子屋を教えている上白沢慧音の知り合いであるようで
彼自身も何度か顔を合わせて話を交えたこともあり、知らない仲でも無いのである。
「あれだけ呼んでるんだから返事くらいはしてくれてもいいんじゃない?」
「してはやりたかったが、こんな調子じゃちょっとな」
「あぁやっぱり慧音の不安が当たってたか」
寝込んでいる彼を目の当たりにして、彼女は少し溜息をついた。
「慧音が俺の心配してくれてるの?ありがたいなぁ。病気になった甲斐があったよ」
「ふざけない。で快復の兆しは見えてきてるの?」
「薬は飲んでるんだが、一向に治らなくてね」
「飲んでるだけじゃすぐには良くならないよ。…風邪引いてからまともな物食べてないでしょ」
「え、ああ、確かに寝てる事だけで精一杯だったからそんなに食べてないかな」
「だと思ったよ。はいこれ」
そう言い彼女は布団の上に少し大きめの風呂敷を置いた。
「慧音からの差し入れ、中身はお粥だけどもね」
風呂敷を開けると中には蓮華とふたの付いた丼が入っていた。
「ほら食べさせてあげるよ、口開けて」
「いや恥ずかしいからお前が帰った後でゆっくり食べさせてもらうよ」
「誰も見てないんだから別に良いじゃない。ほら、あーん」
少し抵抗していた○○であったが、おずおずと粥の入った蓮華を口にした。
「どう?美味しい?」
「…美味しいよ。ここ二日で口にした中で一番美味しい」
「慧音が作ったんだから当然だね。ほらもう一口」
二度目ともなると恥ずかしさは消え彼はすんなり口に入れていた。
何度か粥を口に入れるともうお腹は膨れていた。
「しかし食事だけとは言え面倒見てもらって悪いな」
「良いよ、慧音の頼みだし。それに…」
「それに…?」
「い、いや私自身も暇だったし丁度良いかななんて思ってたんだ。うん。」
「理由は何だって良いさ。助けてもらたったんだし、何かお礼をしないとな」
「いらない。見返りが欲しくてやった訳じゃないよ」
「それじゃ俺の気が済まないんだ。出来る範囲で礼をさせてはくれないか?」
「なら、もしも私が病気にかかったりしたら○○にした事を私にもして欲しい。これじゃダメかな」
「そんな事で良いのか?…分かったいつになるか分からないけど約束する」
「本当に?絶対に約束だよ」
「そんなに念押しするなって、嘘はつかない性分だから安心してくれ」
と、何だか腹も膨れたし、また眠くなって来たな。」
「寝付くまでは傍にいるよ、何が起こるか分からないでしょ?」
「流石にそこまでは望んでないけれども…」
「良いじゃない、私がしてあげたいと思ってるんだから。問題は無いでしょ」
「それもそうかな…それじゃお休み妹紅」
「お休みなさい、○○」
目を閉じて眠りに落ちていく彼を見つめながら妹紅は静かに微笑んでいた。
>>新ろだ436
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