私、小山雅は女の子だ。
別にそれだけなら、なんの問題も無い話だろう。
…趣味は野球である。
部活にも入っている。それも、男子野球部だ。
もともと野球が好きで、けれど私の家の周りに女子野球部のある高校はほとんどなくて。
運動ばかりで勉強を怠けていたから、入れるような高校はここくらいで。
女子野球部がないのなら、男子野球部に入ればいい。
そうして私は、『僕』になった。
けれどもいざ入学して見れば、野球部なんて名前だけ。
ボロボロになった看板と、空き缶の転がる部室、荒れ放題のグラウンドがある程度。
メンバーもほとんどいなくて、新入部員も同じ学年の二人だけだったらしい。
当然そんな所で野球が出来るはずもなく、一度始めた男装を止めるきっかけも失って。
私は偽りの高校生活を貫き通していたんだ。
つい、半年前まで。
「行くぞー、ショート!」
カキン、と、小気味いい音とともに、ゴロが転がってくる。
予測して先に一歩踏み出し、サードよりのそれをグラブを弾いて拾い上げ、体を捻ってファーストへ。
「ナイス、雅ちゃん!」
バッターボックスから投げかけられた声に、思わず頬が緩んでしまう。
「も…もー1球! どんどん行こー!」
ニヤけてしまいそうになるのを隠すために、バッターボックスに向けて声を張り返す。
打席の彼は微笑んで、今度はややフライ気味に打ち上げる。
「小波ー、こっちにも飛ばせよー!」
「おっしゃ、取れるもんなら取ってみろー!」
性別を偽りながら、好きな野球も出来ず、辛い高校生活の真っただ中にいた私。
そこから救いだしてくれたのが、小波君だ。
何か特別な事をしたわけじゃない、ただ野球部を復活させて、私を誘ってくれただけ。
でも、たぶん。
彼じゃなければ、僕は誘われても野球部に入ろうとは思わなかった。
彼じゃなければ、このように野球部に息吹を吹き込むことは出来なかった。
ちょっと冴えなくて、時々頼りなくて、あと割とエッチだけど。
でも、不思議と人を引きつける力があるというか、なぜか背中について行きたくなる雰囲気があるというか。
そんな彼に私が、その、まあ、惹かれてしまったとしても、それはしょうがないというか。
「よっし、ノック終わりー!各自クールダウンなり自主練習なりに切り替えて…あっと、今日は自主連は七時までなー」
彼が大きく通る声で、練習の終了を告げる。
私は真っ先にグローブをおいて、彼のもとへ駆け寄った。
「あの…小波君」
おずおずと声をかけると、気持ちのいい笑顔で振り向かれる。
「お疲れ、雅ちゃん!」
彼は私を名前で呼ぶ。
最初は名字で呼んでいたのだけど、『おやま』には『女形』とかそういうイメージがあるから呼ばれるのは苦手だ、と、
私が無理を言って下の名前を呼ぶようにお願いしたのだ。
「よ、よかったら今日も…トスバッティング付き合ってくれないかな」
「オッケー、任せて」
「ごめんね、小波君も自分の練習あるのに…」
「いや、雅ちゃんは家遠いから早く帰らなきゃだろ。俺の方が長く残れるから、全然付き合うよ」
雅ちゃん、と呼ばれるたびに、くすぐったいような切ないような気持が背筋を走る。
彼は僕を男の子として扱っている、そんなのわかっているのに。
「それにしても、やっぱり雅ちゃんは守備上手いよなぁ」
「そ、そうかな…えへへ」
「うん。やっぱり俺より、雅ちゃんがショートにいた方がいいな」
「あ、……」
誉められて無遠慮に笑ってしまった自分を恥じる。
彼が悲しそうに笑いながらトスをだすのに、私は何も返せなかった。
小波君の守備位置はショート。私と同じだ。
けれど贔屓目無しに見ても、守備は私の方が一回り上手い。
だから彼は、いつも裏方に回ってしまう。
せいぜい代打か、サブポジションで別の守備に入る程度だ。
彼が誰よりもみんなと野球をしたがっているのに、ショートにいる私が邪魔なせいで。
まあ、逆に打撃は彼の方が上手いのだけれど。
確か合宿では、青葉君の魔球にも喰らいついていたし。
だからこうして、私も打撃練習は欠かさない。
彼が抜けた分、打線でも貢献できるように。
「……でもさ」
と、彼はやっぱり笑って言う。
「雅ちゃんはショートがベストポジションだろ。俺はホラ、どこ守っても変わらないし」
「……」
「それなら、裏方に回ってチームを補強する役割に徹したほうがいいだろ」
最近は外野の守備も慣れてきたし、と、ややおおげさな遠投のフォームをして見せる。
私なんかいなければ、と思う。
女の子なのに男子野球部に入って、彼の居場所を奪って。
「どうせ狙うなら甲子園、だしね。勝つためには、どんなことでもやらなきゃ」
もし私が女の子だとバレたら、甲子園どころではなくなってしまう。
その意味でも、私なんかいなければいいのに。
そしたらこの部活も、見えない爆弾に脅かされずに済むのに。
と、
「――!?」
「え」
ギィン、と、隣のネットから鈍い音がした。
練習の最中だというのに考え事をしていた私は、一瞬反応が遅れてしまった。
「う、ぇ…っ!!」
今度は、ドス、と、もっと鈍い音がした。
次いで脇腹に、熱が灯る。
ひゅ、と口から息が漏れて、私はその場に突っ伏した。
「雅ちゃん!?」
「ご、ゴメンでヤンス!」
頭上から小波君と矢部君の声が響く。
「あ、……か、はっ…!」
熱がゆっくりと痛みに変わる。
息を吸おうとしても、上手く肺が空気を取り込めない。
苦しい。
視界が黒くなっていく。
トスバッティング中の矢部君の打球があらぬ方向に跳ね、私を直撃したのだ。
おそらく勢いはそれほど強くなかったのだろうけど、避けも受けもしなかった私に、ボールは容赦なく突き刺さった。
耳元で矢部君が謝っている。
違う、矢部君は悪くない。私の不注意だ。
そう言いたくても、ろくに空気も吸えないせいで、言葉を上手く発せられない。
「俺、保健室連れてくよ」
いつの間にか周りに集まっていた仲間達に、小波君は言った。
「みんなは練習再開してて。矢部君は一応監督とマネージャーに報告。いいね」
そう伝えながら彼は、
「……!?」
私を軽々と、背に負ぶった。
ちょっと、待って。
これは、恥ずかしすぎる。
アンダーウェアと服越しに、彼の体と私の体が密着して。
暗くなっていった視界が、一気に冴えた。
同時に、肺のあたりにあった熱が、一気に顔にまで伝染したかのように火照る。
「あ、あの、…コホッ、小波君…」
「大丈夫、すぐ連れて行くから」
振り向いた彼の表情がとても真剣で、私は何も言えなくなってしまい。
意外と背中大きいんだとか、肩幅広いとか、そんなことを考えながら必死に羞恥心を誤魔化して。
校舎の中、彼に背負われて保健室に行くのを、顔から火が出る思いで耐えるしかなかったわけである。
「加藤先生、いらっしゃいますか」
保健室の扉を開けると、色っぽい女性教諭が椅子を回してこちらを向いた。
「あら、どうしたの?」
「練習中に硬球が当たってしまって…診察をお願いしたいんですけど」
「あ、あの、そんなに大げさなものじゃなくて…」
優しく椅子に下ろされる頃には、少しだけど痛みは引いていた。
保健室まで来るほどのものではなかったのかもしれない。
脇腹を殴られた直後は息も出来なかったが、今は少し痛みを感じる程度だ。
けれど、
「大げさなもんか!」
「そうよ、怪我を甘く見ると怖いわよ」
「あぅ…」
二人があまりに真剣な目つきで言うので、私はそれ以上反論できなくなる。
「俺、一応部活の方に戻って、あとで迎えに来ます」
「はいはい」
と、私の意見なんてまるで介さず、矢のようなスピードで小波君は保健室を後にした。
部屋に取り残されたのは、私と加藤先生。それと静寂。
「…慌ててたわね、彼」
「え?」
「一目見ては分からないかもしれないけれど…いつもよりも早口で、人の話を聞かなかったでしょ」
普段はそんな子じゃないのよ、と、可笑しそうに加藤先生が笑う。
く、と、再び肺が苦しくなった気がした。
いつも一緒にいる私よりも、この人の方が小波君を知っているような気がして。
大人の女性の余裕に当てられて、どこか不安になってしまう。
加藤先生は若くて、美人で、スタイルもよくて。
私なんか、性別を誤魔化そうと思えば簡単に誤魔化せるくらい貧相な体で。
きっと小波君も、加藤先生みたいな女の人が好きなんだろうな、と、なぜかちょっとへこみそうになる。
「じゃ、服脱いで」
「へ?」
と、また関係ないことを考えていたからだろうか。
私の存在自体を脅かすその言葉に、またしても私は反応を遅らせてしまった。
「聞こえなかったの? 服。脱がないと診れないでしょ」
「…!!」
加藤先生は、なんでもない当たり前のことを言っている。
怪我をしたのなら、患部を直に見ないと診察できない、と。
けれど、理屈は当たり前だけど、私という存在はイレギュラー。
その当たり前の理屈に、脅かされてしまう。
見られたら、バレてしまうのだ。
女の子が男子野球部に入っていると。
「あの、あの…僕、本当に大丈夫だから…問題ないから、見なくていいですっ」
「あのねぇ…それを決めるのは、あなたじゃなくて養護教諭の私なの」
呆れたように溜息を吐かれても、こっちにとっては死活問題なわけで。
性別を偽って、公式大会に出場しようだなんて。
それがバレてしまえば、一大事だ。
下手をすれば部活動の停止や、出場の取り消しだってあるかもしれない。
私のせいで、小波君に…部活に、迷惑がかかってしまう。
それだけは、あってはならない。
「ホラ、男ならぐずぐずしないでさっさと脱ぎなさい!」
少し怒った顔つきで、先生が服に手を伸ばす。
「やっ、待って…! お願い、お願いします!」
手から逃れようと必死に体を捩るも、流石に大人に力で叶うわけも無し。
更に加藤先生は器用で、私の両手を軽くつかみ、上で固定してしまう。
「あ……!」
一瞬で。
私は上着を剥ぎ取られ、貧相な裸体を外気に晒すこととなってしまった。
「は…!?」
加藤先生が驚いて目を見開く。
貧層とはいえども、けっして男子だとは偽れない、わずかな胸の膨らみ。
慌てて両手で隠すけれど、もう遅かった。
「あなた……女の子、だったの…!?」
「っ……」
「ち、違います…僕は、男です…」
「…あのね、私は養護教員よ。裸を見て、男か女か見分けられないワケないでしょ」
ごもっともである。
驚きと呆れの入り混じった顔で、加藤先生は私を見る。
裸にされても、恥ずかしさよりも先立って私の頭を覆い尽くしたのは、焦り。
「どうしたものか、ねぇ」
バサリ、と髪を仰いで、加藤先生が困惑の表情を浮かべる。
「あ、あの」
先手を、取らなければ。
「お願いです、小波君には、…いや、誰にも言わないでください…! お願いします!」
「いや、別に誰にも言ったりは、」
「お願いしますっ…私、何でも言うこと聞くから、お願いします…」
ピクリ、と、加藤先生の眉が動く。
「……何でも?」
困惑に模られていた表情が、すこし歪む。
「はい、だから……」
「……そうよねぇ」
「ひゃっ…?」
つ、と、加藤先生の指が脇腹を突く。
そのままするすると、触れるか触れないかのくすぐったい指遣いで、私の裸体を撫でまわし始める。
「あ、あのっ…」
「小波君、ね。あなたが女の子だと知ったら、どんな顔するかしら」
「っ…」
細められた目が近付いてきて、私の耳元に口を寄せる。
指は体を這い続け、たまらず私は体を捩った。
「公になれば、大会出場も危険かもね。あの子、みんなで大会に出るの楽しみにしてたし…」
「そんな…!」
耳元で腐るほど甘い声にささやかれ、ぞくりと怖気が走った。
「黙っていて欲しかったら……わかるわね?」
ああ、なにかをされてしまう。
具体的なことはわからないけれど、きっと辛いこと。
それでも、私には頷く以外の選択肢は、残されていない。
首を縦に振ると、ニヤリと加藤先生が笑った。
「…服を全部脱いで、ベッドに横になりなさい」
「ぜ、全部、ですか」
「ええ、そうよ。私は保健の先生だし、別に恥ずかしいことも無いでしょ」
いや、それは。
さすがに人前で脱ぐことへの羞恥心は拭えない。
特に、性別を隠すために人前で着替えなんてほとんどしてこなかったのだ。
そう思うと、上着を脱がされたという自分の状態への羞恥心が、ようやくやってきた。
「ホラ、早く。大丈夫よ、危ないことはしないから」
「う、…」
加藤先生が見ている前で、ゆっくりと服に手をかける。
向こうを向いてください、なんて言える立場じゃない。
彼女の視線を感じて、羞恥心で頭が燃え上がりそうだった。
「し、下着もですか…?」
「全部よ」
カーテンに隠されてはいるものの、誰かが保健室に入ってきたら、丸見え。
そんな状況で、私は、
「っ……脱ぎ、ました」
胸と下を、手で隠すだけ。
生まれたままの、一糸まとわぬ姿になってしまっている。
「…運動している割に、結構綺麗なものね」
じろじろと、先生が体を舐めまわすように見る。
羞恥心から、鼓動が早くなって、息も荒くなってしまう。
見ないで、お願い。
怖い、恥ずかしい、情けない。
「そんなに怯えなくてイイのよ」
私の内心を見透かしたかのように、可笑しそうに加藤先生が笑う。
「痛いことはしないわ」
「…ホント、ですか?」
「ええ、むしろ気持ちいいことよ」
意味がよくわからずに、私は首をかしげる。
そんな私の背中を押して、加藤先生はベッドを示した。
「横になって。大丈夫、鍵もかけるしカーテンも閉めるから、恥ずかしくないわ。ホラ、手もどけて」
「あぅ」
ベッドの上に横になり、両手もわきに退けられて。
胸も、あんなところも、私は全部晒してしまっていた。
「あ、あの、結局何をされるんですか…?」
「んー? や、ちょっと新薬の実験をね」
そういうと、ゴソゴソと自分のデスクを漁る。
内心、私はホッとした。
薬の実験と言うのなら、よくアルバイトなんかでもあるのだし。
でも、それならなぜ裸にされたのだろう。
「両手挙げて、バンザイして」
「?」
ペットボトルのようなものを手に取り、そこから何か粘性の高い液体を絞っている。
新薬とは、日焼け止めのローションのようなものなのだろうか。
言われた通りに両手をあげると、
「…!? ひゃ、あっ!」
真っ先に先生の手が、胸へと降りてきた。
さすがに、それは。
「コラ、動かないの」
「あのっ…で、でも」
「……なるほど。小波君の夢は、あなたにとってどうでもいいものなのね」
「!!」
そうだ。
今の私は、この人に逆らってはいけないんだ。
「んっ…」
下げかけていた腕を、再び頭の上に戻す。
恥ずかしさに顔をそむけながらも、自分は無抵抗だ、とアピールする。
「…よろしい。続けるわよ」
手に取ったローションを胸の上で広げられる。
ぬるぬると、知らない感触が胸の上で踊る。
「……んっ」
心なしか、乳首の周辺に、入念に塗りこまれている気がする。
くるくると、指で弄ぶように塗られて、ひゅ、と肺が縮む。
「気持ちいいのかしら?」
「はぇ…?」
加藤先生の甘い声が、ぼんやりと響く。
気持ちいい、のだろうか。よくわからない。
少し、胸の先端がジンジンしてくる。
「ふふ、可愛いわね、あなた」
「そんな、可愛くなんか…男の子だって言っても気付かれないし……っ、ひぅ…」
言葉を遮る様に、爪の先端で乳首を擦られる。
「あ、ふ……」
ぞくり、と、知らない感覚が背筋を駆け抜けて、体が震えた。
「ふふ、気持ちいいのね…オナニーはするの?」
「え…」
カッ、と、額に熱が灯った。
オナニー。
野球部のみんなが、よくエッチな本を見ながら口にしている。
そういえば、あの中に小波君もいたっけ。
家に帰って、お父さんやお母さんが眠ってから辞書やパソコンで調べて、一人で興奮したんだ。
その後試しに、自分のその…そういうところを触ってみたけれど、刺激があまりに強すぎて、怖くて止めてしまったんだ。
「知ってはいるけど、やったことはない…って顔ね」
「う…」
正確に言い当てられて、反論も出来ない。
どうも、こういう大人の女性は苦手だ。
余裕を見せて、色香を漂わせて、こっちの考えなんか全部お見通しで。
そうやって、小波君も惹きつけてしまうんだろう。
「じゃ、イったこともないのね?」
と、まるで小動物でも愛でるような顔で、加藤先生は微笑み、
するり、と、私の足の間へと手を伸ばした。
「ふぁっ!?」
思わず驚いて、足を閉じてしまう。
自分で触るのとは違う、くすぐったいような甘い感覚。
ふ、と目をあげると、加藤先生がジト目で私を見ていた。
「…別に私は、やめてもいいのよ」
「…」
「ただ、あなたが我が身可愛さに私を拒めば、代償に小波君の夢が失われること……わかっているわよね?」
「そんな…っ」
ん?と、首をかしげて加藤先生が再び内股に足を這わせた。
ぞわり、ぞわり、さっきまでのくすぐったさとは違う、不安になるような感覚。
お腹の奥、たぶん子宮のあたりが、酷くヒクついている。
「どうするの? もうやめておく?」
「っ…続けて、ください」
内股から伝わる感覚と怖れと、その両方で震えながらも、私は再び足を開いた。
「ひっ……あ、ふゃっ」
割れ目をひと撫でされて、思わず情けない声をあげてしまう。
お風呂で自分で洗う時よりも、すごく敏感になっているみたいで。
「やっぱり、若いとみずみずしさが違うわね…ここも」
「んっ、ぅ、ふっ……」
「胸を軽く弄っただけなのに、もうこんなに濡れちゃって…」
息を止めて、必死に声を我慢する。
こんなことされてあんな声あげて、まるで変態みたいだ。
それこそ、みんなが部室で読んでいる本に出てくる、エッチな女の人みたいに。
私は違う。エッチじゃない。
加藤先生に逆らえず、仕方なくこんなことやっているんだ。
「ダメっ…触っちゃ、ダメです、そこっ……ん、ふぅっ…」
「その割には、腰が突き出てるわよ。いやらしい子ね…」
「あっ、うぁっ…!!」
ピシっ、と、爪で一番敏感な所を弾かれる。
電撃が背筋を駆け抜けて、思わず背中を反らした。
「こっちは割と大きいのね。小指の先端くらいかしら」
「あっ、ひゃ…!! つ、摘ままないでっ…あう、んっ! はぁうっ!!」
コリコリと指で遊ぶように転がされ、何度も電撃が走って、腰が勝手に浮いてしまう。
そんな敏感な所を、加藤先生は少し乱暴に弾いたり、擦ったり。
「ひっ、ひぃぎっ!! あっ、かはぅ……!」
「んー、ちょっと刺激が強いかな? でも、これくらい耐えられないと、後がきついわよ」
息を止めて声を我慢、だなんて、到底出来ない。
電気が走るたびに、勝手に体が弾けて、肺が痙攣するように呼気を出して。
「やめ、やめてっ…ふ、ぃぎっ!! ひ、ひぃんっ!!」
情けない声が何度も漏れて、足を閉じたくても力が入らず。
あまりの感覚に、涙まで零れ出す。
「…あなた、もしかして強い方が好みなの?」
「ふぇ…?」
言うが早いか加藤先生は、デコピンの要領で一番敏感な豆を弾き飛ばした。
「ひっ、あぎぃいいいいいっ!!!」
バチバチ、と、目の前がショートする。
一瞬奔る痛みの後に、じんわりと温かい何かが零れだした。
「あっ、か、ひっ……」
ヒクンヒクンと、あそこが痙攣する。
「ふーん…」
奥の深い目が、私の顔を捉えて覗き込んだ。
「いやらしいのね…ちょっと痛くて激しい方が気持ちいだなんて」
『いやらしい』…?
「ち、違い…ます…」
「違わないでしょ?」
ビシっ!
「あがっ、……っ!!」
「ほら、そんなにアヘっちゃって。将来が思いやられるわね」
ビシッ、バチっ!
「ひっ、ぎ!! や、やめっ……いやぁ…!!」
刺激が怒涛の奔流になって、脳髄を駆け巡る。
痛みなんて些末なもので、強すぎるその感覚に脳が焼けてしまいそうになる。
「ひぅっ……、っ!? や、ダメ…っか、はぅ…な、なにか…あぁああっ!!」
蓄積され、脳で処理しきれないそれを、確かにこの体は快感と感じ始めてしまっている。
認めたくないのに、その私自身の声が、反応が、その何よりの証拠。
背筋をゾクゾクと、より大きな波が走り抜けていく。
あ、ヤバい。
クリトリスを指で弾かれる度に、どんどんとその波が大きくなっていく。
なにか、来る。
腕や足が自由に動かなくなって、背中が拘束されたようにピンと張って大きく反って。
体が、変だ。
「やめ、センセっ……あ゛ぁああっ!! も、もう、いじめないでくださっ…」
「イきそうなの? いいわよ、イって」
それまで力強く爪先で弾いていたのが、一転して優しい手つきに。
軽く爪を立て、カリカリと引っ掻かれて。
急な変化に私の体は快感を我慢できない。
「あっ、あ、あぁ…っ、い、やぁあ、ああああぁああっ!!!」
力の入らないはずの四肢が、一層に大きく跳ねて。
体中を、それまでの比じゃない快感が走り抜けた。
「あっ……! か、はひぃっ……!」
上手く呼吸が出来ずに、鯉のように口をパクパクさせて酸素を求める。
天井を貫いたような突き抜ける快感が、私の体を支配する。
時間にしては数秒だろうけれど、その数秒がとても、息苦しくて、切なくて。
チクリ、と、
「い、っ…?」
そんな恍惚状態で身動き一つ満足できない隙を狙って、加藤先生が私の首に何かを押し当てている。
鋭い痛み、金属。これは…
「な、にを…?」
「うん? 動かないでね、血管破れちゃうわよ」
脅しともとれる言葉で、身動きを封じられる。
どちらにせよ、まだ足に力が入らない今では、激しい抵抗なんて出来やしないのに。
「さ、それじゃ実験台になって貰うわよ」
「え」
顔から血の気が引いて行く。
今ので終わりだとばかり、思っていたのに。
「あの、え…?」
「ああ、さっきのローションはちょっと肌が敏感になる程度のものだから、関係ないわよ」
そういって首から注射器を外し、今度は別の針でもって、私のクリトリスを、
「って、ちょっと、先生…!?」
「大丈夫、痛くはないから」
「ひ、ぁああっ……、…?」
細い針で貫かれる激痛を想像して、それが訪れないことに拍子抜けする。
どこをどうやっているのかは知らないけど、確かに針は私のクリトリスに刺さってしまっている。
それなのに、感じるのは痛みではなく、むしろ、
「…ふぁぁあっ…!?」
「うん、感度良好ね。さっき散々揉みほぐしたし、これならすぐかな」
「へ…?」
蕩けそうになる律動が、クリトリスに走る。
ドクン、ドクン。
まるで、そこに大きな血管でもあるかのように。
「あぅっ…えっ、えぇっ!?」
ちがう、気のせいじゃない。
本当に、クリトリスに大きな血管が奔っている。
何をどうしたのかは分からない。
でも、その形はどう見ても、
「こ、これって、男の子の…!?」
「よかったわね、小山さん。これで男子野球部の仲間入りよ」
親指ほどに大きくなってしまったクリトリスに、加藤先生が優しく指を這わせた。
表面積が増えてしまった分、性感はさっきの比じゃなかった。
「ひっ……あぁぁあぁ…」
「まあ、おちんちんに見えるってだけで、ホントに生えてしまったわけじゃないわ、安心なさい」
「やっ、やだぁああ…」
軽く腰を揺するだけで、慣性でクリトリスが揺れ、それだけで感じてしまう。
こんなの、日常生活に支障が出るレベルだ。
「戻して、戻してください!」
「大丈夫よ、時間が経てば戻るから」
こともなげに言って、また加藤先生が指を這わせる。
「あぁうっ…!」
危険だ、と脳が伝える一方で、下半身がギュっと強張る。
この刺激は、危ない。
私が、私じゃなくなってしまう。
背骨を鷲掴みにされるような、頭のブレーカーが落ちてしまいそうな、大きすぎる感覚。
危険だ。それなのに、
「あっ…!? いや、いやぁあっ!」
それを拒もうと手を伸ばそうにも、腕は動かず。
それを防ごうと足を閉じようにも、脚は動かず。
それを避けようと腰を浮かそうにも、力を入れた先から、抜けていってしまう。
「さっき首筋にした注射があるでしょう…随意筋の活動を緩慢化させるお薬よ。気をつけてね、息止めたら死ぬから」
そんな、そんな…!
おびえなくていい、痛いことはしないと言ってくれたのに…
「ふぁっ、あ…! ダメっ、っ…~~~!!!!」
快楽という名の恐怖に責め立てられ、私は絶頂に堕ちていった。
脳が、締め付けられる。
視界が焼け、意識が海に沈んでいくときのように、深く遠くなる。
あそこが、熱い。
クリトリスが、焦げ付いてしまう。
腰全体に、鈍痛によく似た重い快感が響き渡っている。
「~~~っ!!、は、ぁあぁあ……っ!!? ちょ、待……許し、て、…あぅっ!! ぐ、ふぃいいぃいっいぃいいっ!!」
絶頂を迎えて一区切り、と思っていた私をあざ笑うかのように。
加藤先生はクリトリスを離すことなく、興味深げな目で、それを曲げてみたり、伸ばしてみたり。
一度目の絶頂を抑える間もなく、外皮が伸びるたびに、再び軽い絶頂へ。
「ひっ、ぐ…!」
体はただ跳ね回るだけで、その性感を逃すためには動いてくれない。
「神経がむしろ敏感になっているわね…勃起した時に、表皮が引き延ばされているのかしら?」
「いっ、いぃいいぃっ…やめ、らめて…っ」
根元をつまんでプルプルと跳ねさせ、加藤先生はクリトリスを視線でなめまわす。
やめてほしいのに、それなのに力が抜けた脚は、媚びるように大きく開かれ、腰を突き出し。
まるで、もっと弄ってくれとでもいうかのように。
そこにそれが存在しているというだけで、もうイってしまいそうなほどに苦しいのに。
「ひど、い……」
「酷い? それは違うでしょう、小山さん」
「酷い、こんな、こんなもの…!」
「あなたは今、喜んでいるのよ。こんなにみだらによがり狂って、愛液でシーツに水溜りを作って…」
いやだ、聞きたくない。
私はエッチな子じゃない。
仕方ないんだ、こんなものをつけられたら、誰だって。
「小波君が見たら、なんていうかしらね」
「――!?」
と、ちょうどそのタイミングで。
こんこん、と、保健室の扉が叩かれた。
「っ…!」
「…あれ? 鍵閉まってる…先生、小波ですー」
これ以上ない厭らしい笑みで、魔女がほほ笑んだ。
別にそれだけなら、なんの問題も無い話だろう。
…趣味は野球である。
部活にも入っている。それも、男子野球部だ。
もともと野球が好きで、けれど私の家の周りに女子野球部のある高校はほとんどなくて。
運動ばかりで勉強を怠けていたから、入れるような高校はここくらいで。
女子野球部がないのなら、男子野球部に入ればいい。
そうして私は、『僕』になった。
けれどもいざ入学して見れば、野球部なんて名前だけ。
ボロボロになった看板と、空き缶の転がる部室、荒れ放題のグラウンドがある程度。
メンバーもほとんどいなくて、新入部員も同じ学年の二人だけだったらしい。
当然そんな所で野球が出来るはずもなく、一度始めた男装を止めるきっかけも失って。
私は偽りの高校生活を貫き通していたんだ。
つい、半年前まで。
「行くぞー、ショート!」
カキン、と、小気味いい音とともに、ゴロが転がってくる。
予測して先に一歩踏み出し、サードよりのそれをグラブを弾いて拾い上げ、体を捻ってファーストへ。
「ナイス、雅ちゃん!」
バッターボックスから投げかけられた声に、思わず頬が緩んでしまう。
「も…もー1球! どんどん行こー!」
ニヤけてしまいそうになるのを隠すために、バッターボックスに向けて声を張り返す。
打席の彼は微笑んで、今度はややフライ気味に打ち上げる。
「小波ー、こっちにも飛ばせよー!」
「おっしゃ、取れるもんなら取ってみろー!」
性別を偽りながら、好きな野球も出来ず、辛い高校生活の真っただ中にいた私。
そこから救いだしてくれたのが、小波君だ。
何か特別な事をしたわけじゃない、ただ野球部を復活させて、私を誘ってくれただけ。
でも、たぶん。
彼じゃなければ、僕は誘われても野球部に入ろうとは思わなかった。
彼じゃなければ、このように野球部に息吹を吹き込むことは出来なかった。
ちょっと冴えなくて、時々頼りなくて、あと割とエッチだけど。
でも、不思議と人を引きつける力があるというか、なぜか背中について行きたくなる雰囲気があるというか。
そんな彼に私が、その、まあ、惹かれてしまったとしても、それはしょうがないというか。
「よっし、ノック終わりー!各自クールダウンなり自主練習なりに切り替えて…あっと、今日は自主連は七時までなー」
彼が大きく通る声で、練習の終了を告げる。
私は真っ先にグローブをおいて、彼のもとへ駆け寄った。
「あの…小波君」
おずおずと声をかけると、気持ちのいい笑顔で振り向かれる。
「お疲れ、雅ちゃん!」
彼は私を名前で呼ぶ。
最初は名字で呼んでいたのだけど、『おやま』には『女形』とかそういうイメージがあるから呼ばれるのは苦手だ、と、
私が無理を言って下の名前を呼ぶようにお願いしたのだ。
「よ、よかったら今日も…トスバッティング付き合ってくれないかな」
「オッケー、任せて」
「ごめんね、小波君も自分の練習あるのに…」
「いや、雅ちゃんは家遠いから早く帰らなきゃだろ。俺の方が長く残れるから、全然付き合うよ」
雅ちゃん、と呼ばれるたびに、くすぐったいような切ないような気持が背筋を走る。
彼は僕を男の子として扱っている、そんなのわかっているのに。
「それにしても、やっぱり雅ちゃんは守備上手いよなぁ」
「そ、そうかな…えへへ」
「うん。やっぱり俺より、雅ちゃんがショートにいた方がいいな」
「あ、……」
誉められて無遠慮に笑ってしまった自分を恥じる。
彼が悲しそうに笑いながらトスをだすのに、私は何も返せなかった。
小波君の守備位置はショート。私と同じだ。
けれど贔屓目無しに見ても、守備は私の方が一回り上手い。
だから彼は、いつも裏方に回ってしまう。
せいぜい代打か、サブポジションで別の守備に入る程度だ。
彼が誰よりもみんなと野球をしたがっているのに、ショートにいる私が邪魔なせいで。
まあ、逆に打撃は彼の方が上手いのだけれど。
確か合宿では、青葉君の魔球にも喰らいついていたし。
だからこうして、私も打撃練習は欠かさない。
彼が抜けた分、打線でも貢献できるように。
「……でもさ」
と、彼はやっぱり笑って言う。
「雅ちゃんはショートがベストポジションだろ。俺はホラ、どこ守っても変わらないし」
「……」
「それなら、裏方に回ってチームを補強する役割に徹したほうがいいだろ」
最近は外野の守備も慣れてきたし、と、ややおおげさな遠投のフォームをして見せる。
私なんかいなければ、と思う。
女の子なのに男子野球部に入って、彼の居場所を奪って。
「どうせ狙うなら甲子園、だしね。勝つためには、どんなことでもやらなきゃ」
もし私が女の子だとバレたら、甲子園どころではなくなってしまう。
その意味でも、私なんかいなければいいのに。
そしたらこの部活も、見えない爆弾に脅かされずに済むのに。
と、
「――!?」
「え」
ギィン、と、隣のネットから鈍い音がした。
練習の最中だというのに考え事をしていた私は、一瞬反応が遅れてしまった。
「う、ぇ…っ!!」
今度は、ドス、と、もっと鈍い音がした。
次いで脇腹に、熱が灯る。
ひゅ、と口から息が漏れて、私はその場に突っ伏した。
「雅ちゃん!?」
「ご、ゴメンでヤンス!」
頭上から小波君と矢部君の声が響く。
「あ、……か、はっ…!」
熱がゆっくりと痛みに変わる。
息を吸おうとしても、上手く肺が空気を取り込めない。
苦しい。
視界が黒くなっていく。
トスバッティング中の矢部君の打球があらぬ方向に跳ね、私を直撃したのだ。
おそらく勢いはそれほど強くなかったのだろうけど、避けも受けもしなかった私に、ボールは容赦なく突き刺さった。
耳元で矢部君が謝っている。
違う、矢部君は悪くない。私の不注意だ。
そう言いたくても、ろくに空気も吸えないせいで、言葉を上手く発せられない。
「俺、保健室連れてくよ」
いつの間にか周りに集まっていた仲間達に、小波君は言った。
「みんなは練習再開してて。矢部君は一応監督とマネージャーに報告。いいね」
そう伝えながら彼は、
「……!?」
私を軽々と、背に負ぶった。
ちょっと、待って。
これは、恥ずかしすぎる。
アンダーウェアと服越しに、彼の体と私の体が密着して。
暗くなっていった視界が、一気に冴えた。
同時に、肺のあたりにあった熱が、一気に顔にまで伝染したかのように火照る。
「あ、あの、…コホッ、小波君…」
「大丈夫、すぐ連れて行くから」
振り向いた彼の表情がとても真剣で、私は何も言えなくなってしまい。
意外と背中大きいんだとか、肩幅広いとか、そんなことを考えながら必死に羞恥心を誤魔化して。
校舎の中、彼に背負われて保健室に行くのを、顔から火が出る思いで耐えるしかなかったわけである。
「加藤先生、いらっしゃいますか」
保健室の扉を開けると、色っぽい女性教諭が椅子を回してこちらを向いた。
「あら、どうしたの?」
「練習中に硬球が当たってしまって…診察をお願いしたいんですけど」
「あ、あの、そんなに大げさなものじゃなくて…」
優しく椅子に下ろされる頃には、少しだけど痛みは引いていた。
保健室まで来るほどのものではなかったのかもしれない。
脇腹を殴られた直後は息も出来なかったが、今は少し痛みを感じる程度だ。
けれど、
「大げさなもんか!」
「そうよ、怪我を甘く見ると怖いわよ」
「あぅ…」
二人があまりに真剣な目つきで言うので、私はそれ以上反論できなくなる。
「俺、一応部活の方に戻って、あとで迎えに来ます」
「はいはい」
と、私の意見なんてまるで介さず、矢のようなスピードで小波君は保健室を後にした。
部屋に取り残されたのは、私と加藤先生。それと静寂。
「…慌ててたわね、彼」
「え?」
「一目見ては分からないかもしれないけれど…いつもよりも早口で、人の話を聞かなかったでしょ」
普段はそんな子じゃないのよ、と、可笑しそうに加藤先生が笑う。
く、と、再び肺が苦しくなった気がした。
いつも一緒にいる私よりも、この人の方が小波君を知っているような気がして。
大人の女性の余裕に当てられて、どこか不安になってしまう。
加藤先生は若くて、美人で、スタイルもよくて。
私なんか、性別を誤魔化そうと思えば簡単に誤魔化せるくらい貧相な体で。
きっと小波君も、加藤先生みたいな女の人が好きなんだろうな、と、なぜかちょっとへこみそうになる。
「じゃ、服脱いで」
「へ?」
と、また関係ないことを考えていたからだろうか。
私の存在自体を脅かすその言葉に、またしても私は反応を遅らせてしまった。
「聞こえなかったの? 服。脱がないと診れないでしょ」
「…!!」
加藤先生は、なんでもない当たり前のことを言っている。
怪我をしたのなら、患部を直に見ないと診察できない、と。
けれど、理屈は当たり前だけど、私という存在はイレギュラー。
その当たり前の理屈に、脅かされてしまう。
見られたら、バレてしまうのだ。
女の子が男子野球部に入っていると。
「あの、あの…僕、本当に大丈夫だから…問題ないから、見なくていいですっ」
「あのねぇ…それを決めるのは、あなたじゃなくて養護教諭の私なの」
呆れたように溜息を吐かれても、こっちにとっては死活問題なわけで。
性別を偽って、公式大会に出場しようだなんて。
それがバレてしまえば、一大事だ。
下手をすれば部活動の停止や、出場の取り消しだってあるかもしれない。
私のせいで、小波君に…部活に、迷惑がかかってしまう。
それだけは、あってはならない。
「ホラ、男ならぐずぐずしないでさっさと脱ぎなさい!」
少し怒った顔つきで、先生が服に手を伸ばす。
「やっ、待って…! お願い、お願いします!」
手から逃れようと必死に体を捩るも、流石に大人に力で叶うわけも無し。
更に加藤先生は器用で、私の両手を軽くつかみ、上で固定してしまう。
「あ……!」
一瞬で。
私は上着を剥ぎ取られ、貧相な裸体を外気に晒すこととなってしまった。
「は…!?」
加藤先生が驚いて目を見開く。
貧層とはいえども、けっして男子だとは偽れない、わずかな胸の膨らみ。
慌てて両手で隠すけれど、もう遅かった。
「あなた……女の子、だったの…!?」
「っ……」
「ち、違います…僕は、男です…」
「…あのね、私は養護教員よ。裸を見て、男か女か見分けられないワケないでしょ」
ごもっともである。
驚きと呆れの入り混じった顔で、加藤先生は私を見る。
裸にされても、恥ずかしさよりも先立って私の頭を覆い尽くしたのは、焦り。
「どうしたものか、ねぇ」
バサリ、と髪を仰いで、加藤先生が困惑の表情を浮かべる。
「あ、あの」
先手を、取らなければ。
「お願いです、小波君には、…いや、誰にも言わないでください…! お願いします!」
「いや、別に誰にも言ったりは、」
「お願いしますっ…私、何でも言うこと聞くから、お願いします…」
ピクリ、と、加藤先生の眉が動く。
「……何でも?」
困惑に模られていた表情が、すこし歪む。
「はい、だから……」
「……そうよねぇ」
「ひゃっ…?」
つ、と、加藤先生の指が脇腹を突く。
そのままするすると、触れるか触れないかのくすぐったい指遣いで、私の裸体を撫でまわし始める。
「あ、あのっ…」
「小波君、ね。あなたが女の子だと知ったら、どんな顔するかしら」
「っ…」
細められた目が近付いてきて、私の耳元に口を寄せる。
指は体を這い続け、たまらず私は体を捩った。
「公になれば、大会出場も危険かもね。あの子、みんなで大会に出るの楽しみにしてたし…」
「そんな…!」
耳元で腐るほど甘い声にささやかれ、ぞくりと怖気が走った。
「黙っていて欲しかったら……わかるわね?」
ああ、なにかをされてしまう。
具体的なことはわからないけれど、きっと辛いこと。
それでも、私には頷く以外の選択肢は、残されていない。
首を縦に振ると、ニヤリと加藤先生が笑った。
「…服を全部脱いで、ベッドに横になりなさい」
「ぜ、全部、ですか」
「ええ、そうよ。私は保健の先生だし、別に恥ずかしいことも無いでしょ」
いや、それは。
さすがに人前で脱ぐことへの羞恥心は拭えない。
特に、性別を隠すために人前で着替えなんてほとんどしてこなかったのだ。
そう思うと、上着を脱がされたという自分の状態への羞恥心が、ようやくやってきた。
「ホラ、早く。大丈夫よ、危ないことはしないから」
「う、…」
加藤先生が見ている前で、ゆっくりと服に手をかける。
向こうを向いてください、なんて言える立場じゃない。
彼女の視線を感じて、羞恥心で頭が燃え上がりそうだった。
「し、下着もですか…?」
「全部よ」
カーテンに隠されてはいるものの、誰かが保健室に入ってきたら、丸見え。
そんな状況で、私は、
「っ……脱ぎ、ました」
胸と下を、手で隠すだけ。
生まれたままの、一糸まとわぬ姿になってしまっている。
「…運動している割に、結構綺麗なものね」
じろじろと、先生が体を舐めまわすように見る。
羞恥心から、鼓動が早くなって、息も荒くなってしまう。
見ないで、お願い。
怖い、恥ずかしい、情けない。
「そんなに怯えなくてイイのよ」
私の内心を見透かしたかのように、可笑しそうに加藤先生が笑う。
「痛いことはしないわ」
「…ホント、ですか?」
「ええ、むしろ気持ちいいことよ」
意味がよくわからずに、私は首をかしげる。
そんな私の背中を押して、加藤先生はベッドを示した。
「横になって。大丈夫、鍵もかけるしカーテンも閉めるから、恥ずかしくないわ。ホラ、手もどけて」
「あぅ」
ベッドの上に横になり、両手もわきに退けられて。
胸も、あんなところも、私は全部晒してしまっていた。
「あ、あの、結局何をされるんですか…?」
「んー? や、ちょっと新薬の実験をね」
そういうと、ゴソゴソと自分のデスクを漁る。
内心、私はホッとした。
薬の実験と言うのなら、よくアルバイトなんかでもあるのだし。
でも、それならなぜ裸にされたのだろう。
「両手挙げて、バンザイして」
「?」
ペットボトルのようなものを手に取り、そこから何か粘性の高い液体を絞っている。
新薬とは、日焼け止めのローションのようなものなのだろうか。
言われた通りに両手をあげると、
「…!? ひゃ、あっ!」
真っ先に先生の手が、胸へと降りてきた。
さすがに、それは。
「コラ、動かないの」
「あのっ…で、でも」
「……なるほど。小波君の夢は、あなたにとってどうでもいいものなのね」
「!!」
そうだ。
今の私は、この人に逆らってはいけないんだ。
「んっ…」
下げかけていた腕を、再び頭の上に戻す。
恥ずかしさに顔をそむけながらも、自分は無抵抗だ、とアピールする。
「…よろしい。続けるわよ」
手に取ったローションを胸の上で広げられる。
ぬるぬると、知らない感触が胸の上で踊る。
「……んっ」
心なしか、乳首の周辺に、入念に塗りこまれている気がする。
くるくると、指で弄ぶように塗られて、ひゅ、と肺が縮む。
「気持ちいいのかしら?」
「はぇ…?」
加藤先生の甘い声が、ぼんやりと響く。
気持ちいい、のだろうか。よくわからない。
少し、胸の先端がジンジンしてくる。
「ふふ、可愛いわね、あなた」
「そんな、可愛くなんか…男の子だって言っても気付かれないし……っ、ひぅ…」
言葉を遮る様に、爪の先端で乳首を擦られる。
「あ、ふ……」
ぞくり、と、知らない感覚が背筋を駆け抜けて、体が震えた。
「ふふ、気持ちいいのね…オナニーはするの?」
「え…」
カッ、と、額に熱が灯った。
オナニー。
野球部のみんなが、よくエッチな本を見ながら口にしている。
そういえば、あの中に小波君もいたっけ。
家に帰って、お父さんやお母さんが眠ってから辞書やパソコンで調べて、一人で興奮したんだ。
その後試しに、自分のその…そういうところを触ってみたけれど、刺激があまりに強すぎて、怖くて止めてしまったんだ。
「知ってはいるけど、やったことはない…って顔ね」
「う…」
正確に言い当てられて、反論も出来ない。
どうも、こういう大人の女性は苦手だ。
余裕を見せて、色香を漂わせて、こっちの考えなんか全部お見通しで。
そうやって、小波君も惹きつけてしまうんだろう。
「じゃ、イったこともないのね?」
と、まるで小動物でも愛でるような顔で、加藤先生は微笑み、
するり、と、私の足の間へと手を伸ばした。
「ふぁっ!?」
思わず驚いて、足を閉じてしまう。
自分で触るのとは違う、くすぐったいような甘い感覚。
ふ、と目をあげると、加藤先生がジト目で私を見ていた。
「…別に私は、やめてもいいのよ」
「…」
「ただ、あなたが我が身可愛さに私を拒めば、代償に小波君の夢が失われること……わかっているわよね?」
「そんな…っ」
ん?と、首をかしげて加藤先生が再び内股に足を這わせた。
ぞわり、ぞわり、さっきまでのくすぐったさとは違う、不安になるような感覚。
お腹の奥、たぶん子宮のあたりが、酷くヒクついている。
「どうするの? もうやめておく?」
「っ…続けて、ください」
内股から伝わる感覚と怖れと、その両方で震えながらも、私は再び足を開いた。
「ひっ……あ、ふゃっ」
割れ目をひと撫でされて、思わず情けない声をあげてしまう。
お風呂で自分で洗う時よりも、すごく敏感になっているみたいで。
「やっぱり、若いとみずみずしさが違うわね…ここも」
「んっ、ぅ、ふっ……」
「胸を軽く弄っただけなのに、もうこんなに濡れちゃって…」
息を止めて、必死に声を我慢する。
こんなことされてあんな声あげて、まるで変態みたいだ。
それこそ、みんなが部室で読んでいる本に出てくる、エッチな女の人みたいに。
私は違う。エッチじゃない。
加藤先生に逆らえず、仕方なくこんなことやっているんだ。
「ダメっ…触っちゃ、ダメです、そこっ……ん、ふぅっ…」
「その割には、腰が突き出てるわよ。いやらしい子ね…」
「あっ、うぁっ…!!」
ピシっ、と、爪で一番敏感な所を弾かれる。
電撃が背筋を駆け抜けて、思わず背中を反らした。
「こっちは割と大きいのね。小指の先端くらいかしら」
「あっ、ひゃ…!! つ、摘ままないでっ…あう、んっ! はぁうっ!!」
コリコリと指で遊ぶように転がされ、何度も電撃が走って、腰が勝手に浮いてしまう。
そんな敏感な所を、加藤先生は少し乱暴に弾いたり、擦ったり。
「ひっ、ひぃぎっ!! あっ、かはぅ……!」
「んー、ちょっと刺激が強いかな? でも、これくらい耐えられないと、後がきついわよ」
息を止めて声を我慢、だなんて、到底出来ない。
電気が走るたびに、勝手に体が弾けて、肺が痙攣するように呼気を出して。
「やめ、やめてっ…ふ、ぃぎっ!! ひ、ひぃんっ!!」
情けない声が何度も漏れて、足を閉じたくても力が入らず。
あまりの感覚に、涙まで零れ出す。
「…あなた、もしかして強い方が好みなの?」
「ふぇ…?」
言うが早いか加藤先生は、デコピンの要領で一番敏感な豆を弾き飛ばした。
「ひっ、あぎぃいいいいいっ!!!」
バチバチ、と、目の前がショートする。
一瞬奔る痛みの後に、じんわりと温かい何かが零れだした。
「あっ、か、ひっ……」
ヒクンヒクンと、あそこが痙攣する。
「ふーん…」
奥の深い目が、私の顔を捉えて覗き込んだ。
「いやらしいのね…ちょっと痛くて激しい方が気持ちいだなんて」
『いやらしい』…?
「ち、違い…ます…」
「違わないでしょ?」
ビシっ!
「あがっ、……っ!!」
「ほら、そんなにアヘっちゃって。将来が思いやられるわね」
ビシッ、バチっ!
「ひっ、ぎ!! や、やめっ……いやぁ…!!」
刺激が怒涛の奔流になって、脳髄を駆け巡る。
痛みなんて些末なもので、強すぎるその感覚に脳が焼けてしまいそうになる。
「ひぅっ……、っ!? や、ダメ…っか、はぅ…な、なにか…あぁああっ!!」
蓄積され、脳で処理しきれないそれを、確かにこの体は快感と感じ始めてしまっている。
認めたくないのに、その私自身の声が、反応が、その何よりの証拠。
背筋をゾクゾクと、より大きな波が走り抜けていく。
あ、ヤバい。
クリトリスを指で弾かれる度に、どんどんとその波が大きくなっていく。
なにか、来る。
腕や足が自由に動かなくなって、背中が拘束されたようにピンと張って大きく反って。
体が、変だ。
「やめ、センセっ……あ゛ぁああっ!! も、もう、いじめないでくださっ…」
「イきそうなの? いいわよ、イって」
それまで力強く爪先で弾いていたのが、一転して優しい手つきに。
軽く爪を立て、カリカリと引っ掻かれて。
急な変化に私の体は快感を我慢できない。
「あっ、あ、あぁ…っ、い、やぁあ、ああああぁああっ!!!」
力の入らないはずの四肢が、一層に大きく跳ねて。
体中を、それまでの比じゃない快感が走り抜けた。
「あっ……! か、はひぃっ……!」
上手く呼吸が出来ずに、鯉のように口をパクパクさせて酸素を求める。
天井を貫いたような突き抜ける快感が、私の体を支配する。
時間にしては数秒だろうけれど、その数秒がとても、息苦しくて、切なくて。
チクリ、と、
「い、っ…?」
そんな恍惚状態で身動き一つ満足できない隙を狙って、加藤先生が私の首に何かを押し当てている。
鋭い痛み、金属。これは…
「な、にを…?」
「うん? 動かないでね、血管破れちゃうわよ」
脅しともとれる言葉で、身動きを封じられる。
どちらにせよ、まだ足に力が入らない今では、激しい抵抗なんて出来やしないのに。
「さ、それじゃ実験台になって貰うわよ」
「え」
顔から血の気が引いて行く。
今ので終わりだとばかり、思っていたのに。
「あの、え…?」
「ああ、さっきのローションはちょっと肌が敏感になる程度のものだから、関係ないわよ」
そういって首から注射器を外し、今度は別の針でもって、私のクリトリスを、
「って、ちょっと、先生…!?」
「大丈夫、痛くはないから」
「ひ、ぁああっ……、…?」
細い針で貫かれる激痛を想像して、それが訪れないことに拍子抜けする。
どこをどうやっているのかは知らないけど、確かに針は私のクリトリスに刺さってしまっている。
それなのに、感じるのは痛みではなく、むしろ、
「…ふぁぁあっ…!?」
「うん、感度良好ね。さっき散々揉みほぐしたし、これならすぐかな」
「へ…?」
蕩けそうになる律動が、クリトリスに走る。
ドクン、ドクン。
まるで、そこに大きな血管でもあるかのように。
「あぅっ…えっ、えぇっ!?」
ちがう、気のせいじゃない。
本当に、クリトリスに大きな血管が奔っている。
何をどうしたのかは分からない。
でも、その形はどう見ても、
「こ、これって、男の子の…!?」
「よかったわね、小山さん。これで男子野球部の仲間入りよ」
親指ほどに大きくなってしまったクリトリスに、加藤先生が優しく指を這わせた。
表面積が増えてしまった分、性感はさっきの比じゃなかった。
「ひっ……あぁぁあぁ…」
「まあ、おちんちんに見えるってだけで、ホントに生えてしまったわけじゃないわ、安心なさい」
「やっ、やだぁああ…」
軽く腰を揺するだけで、慣性でクリトリスが揺れ、それだけで感じてしまう。
こんなの、日常生活に支障が出るレベルだ。
「戻して、戻してください!」
「大丈夫よ、時間が経てば戻るから」
こともなげに言って、また加藤先生が指を這わせる。
「あぁうっ…!」
危険だ、と脳が伝える一方で、下半身がギュっと強張る。
この刺激は、危ない。
私が、私じゃなくなってしまう。
背骨を鷲掴みにされるような、頭のブレーカーが落ちてしまいそうな、大きすぎる感覚。
危険だ。それなのに、
「あっ…!? いや、いやぁあっ!」
それを拒もうと手を伸ばそうにも、腕は動かず。
それを防ごうと足を閉じようにも、脚は動かず。
それを避けようと腰を浮かそうにも、力を入れた先から、抜けていってしまう。
「さっき首筋にした注射があるでしょう…随意筋の活動を緩慢化させるお薬よ。気をつけてね、息止めたら死ぬから」
そんな、そんな…!
おびえなくていい、痛いことはしないと言ってくれたのに…
「ふぁっ、あ…! ダメっ、っ…~~~!!!!」
快楽という名の恐怖に責め立てられ、私は絶頂に堕ちていった。
脳が、締め付けられる。
視界が焼け、意識が海に沈んでいくときのように、深く遠くなる。
あそこが、熱い。
クリトリスが、焦げ付いてしまう。
腰全体に、鈍痛によく似た重い快感が響き渡っている。
「~~~っ!!、は、ぁあぁあ……っ!!? ちょ、待……許し、て、…あぅっ!! ぐ、ふぃいいぃいっいぃいいっ!!」
絶頂を迎えて一区切り、と思っていた私をあざ笑うかのように。
加藤先生はクリトリスを離すことなく、興味深げな目で、それを曲げてみたり、伸ばしてみたり。
一度目の絶頂を抑える間もなく、外皮が伸びるたびに、再び軽い絶頂へ。
「ひっ、ぐ…!」
体はただ跳ね回るだけで、その性感を逃すためには動いてくれない。
「神経がむしろ敏感になっているわね…勃起した時に、表皮が引き延ばされているのかしら?」
「いっ、いぃいいぃっ…やめ、らめて…っ」
根元をつまんでプルプルと跳ねさせ、加藤先生はクリトリスを視線でなめまわす。
やめてほしいのに、それなのに力が抜けた脚は、媚びるように大きく開かれ、腰を突き出し。
まるで、もっと弄ってくれとでもいうかのように。
そこにそれが存在しているというだけで、もうイってしまいそうなほどに苦しいのに。
「ひど、い……」
「酷い? それは違うでしょう、小山さん」
「酷い、こんな、こんなもの…!」
「あなたは今、喜んでいるのよ。こんなにみだらによがり狂って、愛液でシーツに水溜りを作って…」
いやだ、聞きたくない。
私はエッチな子じゃない。
仕方ないんだ、こんなものをつけられたら、誰だって。
「小波君が見たら、なんていうかしらね」
「――!?」
と、ちょうどそのタイミングで。
こんこん、と、保健室の扉が叩かれた。
「っ…!」
「…あれ? 鍵閉まってる…先生、小波ですー」
これ以上ない厭らしい笑みで、魔女がほほ笑んだ。