パワプロ男対聖
作・619氏
帝王実業のパワプロクンが、代打で出場したと思いねい。
波和は、バッターボックスに左足から入り、靴の中の親指に力を入れて、土を踏みしめる。
何気ないどころか、第三者からは気付かれもしないしぐさだが、
彼にとっては重要極まりない儀式であり、決してはずすことの出来ない癖だった。
メジャーで活躍するイチロー選手が、バッターボックスに入る際に必ず決まった動きをする
のは有名な逸話があるが、あれは決して無意味な癖ではなく、いつもの癖を繰り返すことで
集中力を高めているのだ。
それと同じだ。波和は、バッターボックスに入るときの親指の動きで、己の集中力を高め、
気持ちを切り替え、敵と相対する。
何気ないどころか、第三者からは気付かれもしないしぐさだが、
彼にとっては重要極まりない儀式であり、決してはずすことの出来ない癖だった。
メジャーで活躍するイチロー選手が、バッターボックスに入る際に必ず決まった動きをする
のは有名な逸話があるが、あれは決して無意味な癖ではなく、いつもの癖を繰り返すことで
集中力を高めているのだ。
それと同じだ。波和は、バッターボックスに入るときの親指の動きで、己の集中力を高め、
気持ちを切り替え、敵と相対する。
(現在9回の裏、0対1、2アウト三塁……俺達帝王の打線がここまで押さえられた上に、
安打に至っては、三塁にいる久遠以外打ってない。
それほどの厄介なピッチャーにはとても見えないが……)
安打に至っては、三塁にいる久遠以外打ってない。
それほどの厄介なピッチャーにはとても見えないが……)
すばぁんっ!
ボール!
ピッチャープレートの最端から放たれた、クロスファイヤーのボール球を見逃しつつ、
波和は己の推論を確信に変えた。
ボール!
ピッチャープレートの最端から放たれた、クロスファイヤーのボール球を見逃しつつ、
波和は己の推論を確信に変えた。
(うん。やっぱりいい球投げるけど、うちが三振の山築くほどじゃない)
「……」
(しかし、友沢まで三振したからには、まだ何かあるとみていいな。
……やられた連中全員が、何故か全員前かがみになってるのは理解不能だが)
(しかし、友沢まで三振したからには、まだ何かあるとみていいな。
……やられた連中全員が、何故か全員前かがみになってるのは理解不能だが)
ちらりと帝王側のベンチをみやる波和。その視線の先では、超高校級と言われる帝王実業の猛者たちが、
目を血走らせて自分達を弄ぶ強敵を睨み付けている。
……心なしか目が血走っているが、波和はそれをおかしいとは思わなかった。あそこにいる
全員が、3タコ4タコなど、2軍落ち確実の成績しか残せていない。しかも、全員がバッティング中に
フォームを崩すなど、無様な醜態を見せている。
少しでも野球人としてのプライドがあるなら悔しくないはずは無い。
目を血走らせて自分達を弄ぶ強敵を睨み付けている。
……心なしか目が血走っているが、波和はそれをおかしいとは思わなかった。あそこにいる
全員が、3タコ4タコなど、2軍落ち確実の成績しか残せていない。しかも、全員がバッティング中に
フォームを崩すなど、無様な醜態を見せている。
少しでも野球人としてのプライドがあるなら悔しくないはずは無い。
(みずき)
(おっけ~♪)
(おっけ~♪)
聖は、セットプレー中に自軍のベンチに視線を流す波和のうかつさを見逃さず、みずきにアイサインを
送り、みずきもそれに答えすぐさまクイックモーションで投球した。
送り、みずきもそれに答えすぐさまクイックモーションで投球した。
びゅっ!
右打席の人間に、内角高めに食い込むクロスファイヤー。しかも、バッターは肩越しに余所見中。
確実に討ち取れるシュチュエーションだが、聖は念のため……京の帝王打線を手玉に取り続けた
みずきによってもたらされた『ささやき戦術』を実行した。
確実に討ち取れるシュチュエーションだが、聖は念のため……京の帝王打線を手玉に取り続けた
みずきによってもたらされた『ささやき戦術』を実行した。
「最近、摩れて痛いんだが、どうしたらいい?」
「……!?!?」
「……!?!?」
いきなり聞こえた場違いすぎる問いに、波和は狼狽し……
かきぃんっ!
ファール!
ファール!
振り遅れ確実のはずのタイミングから、難しいコースの玉をファールチップにしてのけた。
「!?」
「げっ!」
「……うっわー、びっくりした~」
「げっ!」
「……うっわー、びっくりした~」
目を白黒させる聖タチバナ場バッテリーをよそに、波和は冷や汗をぬぐいながらバットを
構えなおした。どう見てもプロ……それも一線級のスイングスピードとミート技術に、みずきに背中が
冷や汗で埋め尽くされる。
構えなおした。どう見てもプロ……それも一線級のスイングスピードとミート技術に、みずきに背中が
冷や汗で埋め尽くされる。
みずき達は知る由も無かったが……この男、帝王実業ではちょっとした有名人なのだ。
総合打率9割。ホームランも打てず守備も小学生並だが、それを補って余りある打撃技術を持ち、
ミートヒッティングにおいては帝王一と名高い代打の専門家、波和風呂男である。
守備のあまりの下手さが原因で、2軍と1軍を行ったりきたりしているので学外ではあまり知られていない
が。
総合打率9割。ホームランも打てず守備も小学生並だが、それを補って余りある打撃技術を持ち、
ミートヒッティングにおいては帝王一と名高い代打の専門家、波和風呂男である。
守備のあまりの下手さが原因で、2軍と1軍を行ったりきたりしているので学外ではあまり知られていない
が。
……パワプロオトコではなく、『なみわふろお』と読む。念のため。
(こ、こいつ……むちゃくちゃうまいじゃん!
よっぽどの野球馬鹿なのか、女に興味が無いのか……)
(……どうする? みずき……)
(こうなったら……奥の手よ!)
(……またか?)(嫌そう)
(仕方が無いでしょ!? 相手は帝王実業なんだから!)
よっぽどの野球馬鹿なのか、女に興味が無いのか……)
(……どうする? みずき……)
(こうなったら……奥の手よ!)
(……またか?)(嫌そう)
(仕方が無いでしょ!? 相手は帝王実業なんだから!)
予想外の強敵の出現に、アイコンタクトで急いで打ち合わせをする聖達の横で、波和は冷や汗を流
していた……別の意味で。
していた……別の意味で。
(……まさかとは思うが、今までの連中が三振してたのは、これが原因か?(汗)
まあ、確かに男子校のうちに対しては有効な手段だが……なっさけなー)
まあ、確かに男子校のうちに対しては有効な手段だが……なっさけなー)
すくなくとも、超一流の高校野球選手が引っかかっていいささやきではない。チームメイトの
ふがいなさを嘆くとともに、三塁側から送られてくるすがるような目線の理由も理解できた。
唯一反応しなかった久遠からすれば、こんな戦術で帝王が敗れるなど、悲しすぎるだろう……
色んな意味で。しかも久遠の場合、尊敬する友沢まで引っかかっていたりするから、悔しさはひとしお。
ふがいなさを嘆くとともに、三塁側から送られてくるすがるような目線の理由も理解できた。
唯一反応しなかった久遠からすれば、こんな戦術で帝王が敗れるなど、悲しすぎるだろう……
色んな意味で。しかも久遠の場合、尊敬する友沢まで引っかかっていたりするから、悔しさはひとしお。
(友沢らぶなあいつからすりゃ、悲しいじゃすまないだろうなー)
ずばぁんっ!
他人事のように思いながら、第三球を見逃す。外角低めのシンカーはギリギリボール。
キャッチャーからの返球を見送り、もう一度肩越しにベンチを見る。
サインは……無し。
キャッチャーからの返球を見送り、もう一度肩越しにベンチを見る。
サインは……無し。
(カウント1,2。さて、次あたりくるかな)
「なぁ」
「なぁ」
構えなおそうと体に力を入れたところで、真後ろからお声がかかった……聖だ。
波和はそちらをちらりとも見ず、返しもしなかった。
何を言われても動じるものかと、身構えて……
波和はそちらをちらりとも見ず、返しもしなかった。
何を言われても動じるものかと、身構えて……
「私達……
今 日 ノ ー ブ ラ ノ ー パ ン な ん だ が ど う 思 う ?」
「qwせdrftgyふじこっっっっっ!!1!!11!!!?」
思いっきり崩れまくった。なんとまあ、フォームとか表情とか色んなものが。
形容し難い奇声を上げて、めちゃくちゃなフォームでめちゃくちゃなスウィングをし、
ものの見事に空振りストライク。逆に崩れすぎてびっくりである。
一回転した挙句しりもちをつき、呆然とすること三秒……聖からの返球が終わり、
主審から声がかかってようやく、波和は我を取り戻した。
形容し難い奇声を上げて、めちゃくちゃなフォームでめちゃくちゃなスウィングをし、
ものの見事に空振りストライク。逆に崩れすぎてびっくりである。
一回転した挙句しりもちをつき、呆然とすること三秒……聖からの返球が終わり、
主審から声がかかってようやく、波和は我を取り戻した。
よろよろと立ち上がって、サインの確認のためにベンチをちらり。
そこでは、相も変わらず目を血走らせてバッテリーを観察……否凝視する帝王実業の面々。
その目に冷静さは無く変わりに欲望が煮えたぎり、よくよく観察してみれば、
鼻を押さえてうめいている奴やら、顔を真っ赤にして倒れている馬鹿までいるのが見える。
そこでは、相も変わらず目を血走らせてバッテリーを観察……否凝視する帝王実業の面々。
その目に冷静さは無く変わりに欲望が煮えたぎり、よくよく観察してみれば、
鼻を押さえてうめいている奴やら、顔を真っ赤にして倒れている馬鹿までいるのが見える。
(お、お前ら……そういう事くぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?)
むかつくやらやるせないやら。普段バッターボックスに立てば平静になるはずの胸中に
湧き上がる、形容し難い感情をもてあます波和。
帝王実業の皆さん、どーやらバッテリーを『観察』していたのではなく、
ノーブラノーパンという言葉に引かれて『鑑賞』していただけのようである。前かがみになるはずだ。
……悲しいことに、ベンチでまともなのは監督一人だった。それ以外は全員欲望にたぎっております。
湧き上がる、形容し難い感情をもてあます波和。
帝王実業の皆さん、どーやらバッテリーを『観察』していたのではなく、
ノーブラノーパンという言葉に引かれて『鑑賞』していただけのようである。前かがみになるはずだ。
……悲しいことに、ベンチでまともなのは監督一人だった。それ以外は全員欲望にたぎっております。
あ、久遠男泣きしてる。
(い、いくら女日照りだからって……)
クラクラきつつも、バットを構えてみずきを見据える。
まともかどうかはさておいて、このささやき戦術の有効性は認めねばなるまい。何が厄介かといえば、
ささやいたときに投げられた球は、コーナーとはいえ伸びの無い打ちごろ過ぎる球だった。それゆえに
次の投球においてバッターは打ち気がはやってしまい、ボールだまに手を出してしまう……
考えてみれば帝王側の連中は、一流ぞろいだ。ただささやいただけで空振りするような連中じゃなし、
卑劣に見えるささやきも、実は立派な投球パターンのひとつというわけだ。
まともかどうかはさておいて、このささやき戦術の有効性は認めねばなるまい。何が厄介かといえば、
ささやいたときに投げられた球は、コーナーとはいえ伸びの無い打ちごろ過ぎる球だった。それゆえに
次の投球においてバッターは打ち気がはやってしまい、ボールだまに手を出してしまう……
考えてみれば帝王側の連中は、一流ぞろいだ。ただささやいただけで空振りするような連中じゃなし、
卑劣に見えるささやきも、実は立派な投球パターンのひとつというわけだ。
ショックから立ち直りきれてないのでまともなヒットは不可。よって、ファールで粘る……そう
方針を決め手から、投じられた5球目。
方針を決め手から、投じられた5球目。
ずばぁんっ!
先程とまったく同じコースに渾身のストレート、しかもコーナーギリギリ外へ制球された伸びの
あるストレート。
ささやかれた一球とは、コースは同じでも明らかに球質が違う。打ち気にはやって手を出してい
たら、確実に討ち取られていただろう。事実、今までの連中は打ち取られていたのだから。
あるストレート。
ささやかれた一球とは、コースは同じでも明らかに球質が違う。打ち気にはやって手を出してい
たら、確実に討ち取られていただろう。事実、今までの連中は打ち取られていたのだから。
(確かに組み立てはいいが、所詮小手先だっ)
冷静さを取り戻すと同時に、怒りが湧き上がってくる。
「……なあ」
神聖なる野球の場に、このような卑猥な話題を……
「股間のバットが元気になってるみたいだが、大丈夫か?」
623 名前:パワプロ男対聖5[sage] 投稿日:2006/07/20(木) 23:55:12 ID:o7ZrPOS/
「ファー!!!! ブルギコファーーーーーーーーーーっ!!!!!!!(゚∀゚)」
「波和先輩が壊れたーー!!?(TдT)」
「ファー!!!! ブルギコファーーーーーーーーーーっ!!!!!!!(゚∀゚)」
「波和先輩が壊れたーー!!?(TдT)」
キャッチャーの聖だからこそ認識できた突込みだったため、波和の尊厳は守られているのだが、
精神ダメージは計り知れなかったらしい。
壊れファービー化する波和に、久遠追加ダメージで泣きが入る。
精神ダメージは計り知れなかったらしい。
壊れファービー化する波和に、久遠追加ダメージで泣きが入る。
その後、帝王実業高校は結局一本のヒットも打てず、聖タチバナ学園相手に敗北した。
試合終了後のミーティングで、鬼といわれた監督は何も言わずに男泣きを披露し、『共学にするよう申請するか』
と一言だけ言い残したそうな。
試合終了後のミーティングで、鬼といわれた監督は何も言わずに男泣きを披露し、『共学にするよう申請するか』
と一言だけ言い残したそうな。
ちなみに、波和風呂尾が6球目をスイングする際、『モルスァ』と言ったかどうかは読者諸氏の想像にお任せする。