アットウィキロゴ
この国は争いもなく、自然にあふれている。
なのに僕はこの国を美しいとは思わない。

この国の国民には能力がある。
ひとりひとり必ず能力をもって生まれる。
けれども神は平等に作ってはくれない。
強い能力もあれば弱い能力もある。
そして能力が強ければ強いほど位が高い。
この国は能力で評価される。たとえ金持ちの生まれでも、貧乏な生まれでも、能力さえ高ければ評価される。そんな国。

そして僕は……天才的な記憶力を持っていた。
しかしこれは国民としての能力ではなくあくまで僕個人の能力であり、国民としての能力は平凡より下くらいのものだった。

いくら学業で好成績を収めても、僕はキュールが長いから評価されないし、逆にいくら素行が悪くてもキュールが短いから敬われる。
どこか違和感を抱きながら口に出して言えることでもないし悶々と日々を過ごしていた。


ある日弟の部屋から声が聞こえた。
嗚咽と弱弱しい涙声。
「みんなが僕のこと嫌いになるんだったら、僕もみんなのこと嫌いになる。
 みんなが僕をいらないっていうなら僕もみんなのことなんて……」

「……違う。いらないのは僕の能力。こんなのいらない。これがなければ僕はみんなと仲良くなれた。
 短いキュールなんていらない! 友達がほしい! ひとりぼっちなんてやだよ!」

弟は僕と違ってキュールが短い。彼の能力は音楽で他人を自由に操るものだった。
しかしその能力は音楽を奏でている間という一時的なものにすぎず、それほど影響力のあるものでもない。
それなのに彼はキュールが短いからこそその能力を恐れられ、避けられているというのか。
弟は無邪気でさびしがりで優しい性格だ。そんな他人を陥れるような真似をするような奴ではない。
でも周囲は皆彼の能力だけで判断し迫害している。やはりこの国はどこかおかしい。

「反吐が出る」

僕は国から出て行く決心をした。



黙って家出をした僕は国を出る船に乗ったとき清々した気分になっていた。
しかしこれからどうしたものか。
生憎僕は引篭り体質で、あまり表立ったことをするのは得意ではなかった。
戦闘能力は一応あるのだから国を出たらどこぞのギルドに所属して生計をたてるという道も考えたがどうもしっくりとこなかったのだ。
とりあえず観光がてら適当にぶらつきながらそのときに考えるようにしよう。ということに落ち着いた。


ある日、図書館の本をあと少しで全制覇できるというところで男に声をかけられた。
頭にはポリゴン2の被り物をかぶっていてどう見ても怪しい。

「無限記憶媒体の実験体にならないか」

彼曰く世界中の古いものから新しいものまでいたる情報をかき集めるシステムを作ったらしいがその最適な器がいないらしい。
数日間図書館で本を異例の速さで読み進める僕に目をつけていたそうである。
器は忘れることを封印された状態で常時情報を与えられる。
ただしその器に適していないと情報量に耐え切れず発狂してしまうらしい。
さらに発狂しなくても脳の容量が足りなくなれば意思、感情、個人的な記憶などの領域を全て与えられる情報の記憶域に割り当てられ最終的に人格というものはなくなりただの道具に成り果てるだろうということだった。

そんな怪しげかつ恐ろしげな説明を聞いた僕は ――――それに乗った。


僕はある部屋の中でじっと座りこんでいる。
常に情報が流れ込んでくるので退屈はしていない。
幸い僕は情報にまみれても発狂なんてしなかった。むしろ楽しんでいる節がある。
何も努力もせずただこうして座っていれば情報が流れ込んでくる。なんて楽なのだろう。
ずっとこのままでいたい。あの国でくすぶっているよりもずっと幸せのように感じられた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年09月07日 21:41