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天下一お料理会

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4:天下一お料理会



「さぁぁぁて、これより天下一お料理会を開催いたしまぁぁっす!!」

ごわぁぁぁぁん!!

拡声魔法により大音響で響き渡る司会の声に、けたたましい銅鑼の音が重なる。
「な、なんでこんなことに……?」
志乃はステージ上に無数に設置されたキッチンを前に、呆然と呟いていた。

………
……
…

数十分前。
「ここが会場かー」
「見てみて、ステージ上」
わいわいと賑わう天下一お料理会の会場にやってきた二人。
「おー……なんか、すげー古風なキッチンだな」
志乃が指差すステージ上には、いったいどうやって運び込んだのか疑問が残るほどのキッチンが無数に鎮座していた。
石造りの古風でファンタジーチックなキッチン。
逆に言えば、水道やガスがないからこそ、特設ステージ上でも割と簡単に設置出来るのかもしれない。
「まぁ、魔法もあるしな。もしかしたら、魔法で作ったキッチンかもしれないし」
「そだね」
なんという便利な言葉なんだろうか、魔法。
さておき、そんな風にのんきにしていた志乃がいかにして天下一料理会に出場する羽目になったのか。
「人が増えてきたね、舞人……あれ?」
ステージばかりに気を取られていたら、いつの間にか握っていたはずの舞人の手の感触がなくなっていた。
視線をやると、やっぱりそこに舞人はいなかった。
「……あれ?」
ザ・迷子!
「ふぇー……困ったなぁ……」
改めて気づいたが、とてつもない人ごみである。
この中から特定の一人を見つけ出せというのは、ウォーリーを探すよりも難しいかもしれない。
「お、落ち着いて志乃。こういうときは警備の人だよ」
最近ではバカップルの片割れのイメージでしかない志乃だが、これでも元(?)委員長のしっかりものである。
冷静に周囲を見渡し、見知ったルネーニの紋章をつけた兵士を見つけ出す。
「すいませーん」
「あっ、まだこんなところをうろうろしてたんですか?」
「へっ?」
突然変なことを言われ、きょとん顔の志乃。
だが兵士は有無を言わさず、その腕を取るとぐいぐいと引っ張り歩き出す。
「さぁこっちですよ。がんばってくださいね」
「え、ちょっと、あの……!?」
あれよあれよと志乃は受付らしきところに通され、聞かれるままに氏名を名乗り、ゼッケンを縫いつけられたエプロンを渡され――


「さぁぁぁて、これより天下一お料理会を開催いたしまぁぁっす!!」

ステージ上に立たされていた。
どうやら声をかけた兵士は警備ではなく、大会関係の補充要員だったようだ。
「な、なんでこんなことに……?」
人それを、ご都合主義という。

………
……
…

「ということで始まりました天下一お料理会。ルールは至って簡単、審査員の舌を唸らせる料理を作ったものが優勝!」
「うわホントに簡単だな……」
「遅れましたが実況はわたくしアナ・ウンサー、茶々入れおよび特別審査員は我らが国王ルネ様が召喚なされた異世界の勇者、マイト様でお送りいたしております」
「ていうか、なんで俺が……しかも解説でもなんでもなくて茶々入れかい!」
志乃を探して警備の兵士に声をかけたつもりがやっぱり大会関係者で、有無を言わさず解説席まで引っ張ってこられたらしい。
そんな舞人のぼやきもどこ吹く風か、会場中から異様な歓声が沸きあがる。
「フォスタリア料理界からさまざまな選手が参加しております、今大会。注目の選手をご紹介しましょう!」
盛り上がりに応えんと、司会のアナは朗々とした声で注目選手を紹介していく。
まず、いかにも堅物といった感じの壮年の男性。フォスタリア料理界の重鎮、ユザン・オーシャン。
次に、すでに絶縁しているらしいが、ユザンの実子であり元一番弟子のヴァイス・マウントヒル。
そして若干13歳にして、東の国の料理界の頂点に君臨する若獅子、マーオ。
すべてが謎に包まれたダークホース、リングネームでエントリーしたオーマイ・ワカメ。
「おいおい、どっかで聞いたような連中ばっかだな……」
「強豪たちがしのぎを削る今大会、果たして優勝の栄光を手にするのは誰なのかぁぁぁ! 今、戦いの火蓋が切って落とされますッ!」
さっそく茶々を入れる舞人の存在など気にも留めず、アナは声を張り上げまくる。
その声を合図にしたように、それぞれの料理人が得物を手に鬼気迫る勢いで料理を開始する。
洗礼された手並みで魚を解体するものもいれば、雑技団もびっくりな空中食材刻みを披露したりと、実に様々な手法で観客たちを魅了している。
「わわ、とくにかく参加した以上はお料理しなきゃ……」
変なところで生真面目な志乃は、無意識のうちに能力を発揮し、すでに使い慣れた包丁だのフライパンを呼び出す。
「おおおお!? いったい何が起こったぁ!? 飛び入り参加のシノ・アリスガワ! 珍妙な名前の通り、珍妙な術でも使ったのかぁぁぁ!? 虚空から包丁が現れました!」
その光景に、ざわつく会場内。
さすがの注目選手たちも、目を見張っている。
「って、珍妙な名前じゃないよぉ!」
それに遅れて悲痛な声を上げる志乃。
オーマイ・ワカメとかふざけた名前が横行しているが、むしろそっちのほうがこの世界では普通なのかもしれない。
「こんな素朴な少女が召喚魔法でしょうか? 世の中、何が起こるかわかりませんが、否が応でもこの先の展開に期待が膨れ上がります!」
「と、とにかく集中集中……」
無責任な司会に煽られながらも、志乃は心を落ち着かせ何を作ろうかと思案する。
食材はステージの中央に腐るほど用意されているが、やはりそれはフォスタリアの食材だ。
野菜類や肉は現実世界と大差ないため、作ろうと思えば割りとなんでも作れそうではある。
「でも、相手は巨匠とか重鎮とか言われてる人たちだしなぁ……同じようなもの作るのもなぁ」
思い悩んだ志乃は、不意にとある出来事を思い出した。
「そういえば舞人、和食を恋しがってたなぁ……」
この世界に来て以来、久しく日本食を口にしていない。
いつだったか、夕飯を作ってあげたときにぼそりと「和食くいてー」ともらしていた舞人。
「でも、無理だよぉ……それっぽいのを作ることは出来ても、お味噌がないし」
白飯に納豆に焼き魚に味噌汁におしんこ。
これが舞人の思い描く和食の姿だった。
しかし、白飯と焼き魚までは作れても、味噌汁を作るために必要な味噌がこの世界にはなかった。
「どうしようもないのかなぁ……お味噌があればなぁ」
まるで塩を欲するタムラさんのように、無駄に切実な表情で呟く志乃。
「お味噌があれば、舞人の好きなもの作ってあげられるのに……」
そういうことはプライベートでしろ、というツッコミを入れてくれるものは悲しいことにいなかった。
しかしそんなとき、志乃の純粋な思いに応えるように新たな力が、奇跡とも言える形で開花した。

ぱぁぁぁぁ!!

「これはぁぁっ!? シノ選手、またしても謎の力を発揮しているぞぉぉ!?」
「こ、これって……!!」


………
……
…


「優勝はエレナ選手でぇぇぇぇす!!」
「ちょwwwおまwwww唐突に出てきた人が優勝とかどんだけwwwww」
審査終了後、司会者がおもむろに告げた名前は、このシーン中どころかシナリオ中を通してみても初耳の名前の女性だった。
優勝トロフィーを授けられた本人――まだ若いように見える物腰穏やかなご婦人――は、「あらあら」とか言わんばかりの仕草で微笑んでいる。
しかし、たまらず突っ込んだ舞人もエレナが作った料理に、特別審査員として10点と採点していた。
理屈抜きで純粋に美味しいと言える家庭の味にも似たその料理は、舞人だけでなくすべての審査員に好印象を与えていた。
また、その穏やかな性格と人当たりのよさ、地味ながらもしっかりとして見るものに安心感を与える調理方法も好印象だった。
ユザンのような偉ぶった態度やヴァイスの無精ひげによれよれの服、見世物としては一流だが調理法としては首を傾げたくなるマーオの演出とは比べ物にならないくらい、見ていて癒される姿だったと観客は語ったそうな。
見事優勝を勝ち取ったエレナは、トロフィーと賞金、そして娘らしい子供を連れ、いつの間にか姿を消していた。
きっと、優勝のどさくさにまぎれて宣伝していた自分たちの店へと帰ったのだろう。

「負けちゃったね」
「……そうだな」
志乃の成績はそれはそれはひどいものだった。
32点。
審査員10人、一人の最高点が10点で、100点満点中32点である。
言うまでもなく、最下位だった。
「実際には物凄いことが起きたんだけどな……」
あのとき、志乃に開花した新たな力。
それはルネの偉大なる魔法にも並ぶであろう、異世界からの召喚魔法ともいえる能力だった。
志乃が包丁やまな板を呼び出したように召喚した新たなもの、それは味噌やしょうゆ――いわゆるひとつの和食に必要な食材や調味料だった。
もちろん、そんなものはこのフォスタリアにはない。
東の果てには現代日本に良く似た雰囲気の国があるとルネから聞いていたが、その国にもそれらの食材は存在していない。
ということは、考えられるのは異世界――厳密に言えば元の世界から召喚したということになる。
「えへへ……呼び出すのに力使いすぎちゃって、疲れちゃったかな」
実際、呼び出した次の瞬間にはめまいにも似た急激な披露が志乃を襲っていた。
それに耐え料理を――舞人が望んでいた和食のフルコースを作り上げた気力は、高評価に値する。
「そんなことないぞ。ていうか、フォスタリア人には日本の心がわからんのだ」
特に納豆を口にしたときのリアクションといったら、まるでゲテモノ料理を口にする料理番組のリポーターのような表情だった。
横からしゃしゃり出てきて審査員の料理を奪ったユザンにいたっては、
「こんなものは料理とは言えん!」
などと怒鳴り散らすほどだった。
しかし、そこまで言われても志乃の顔は晴れやかだった。
「でも、やっぱり舞人は美味しいっていってくれたもん。それだけで満足だよ」
「ああ。すごく美味かった」
ただ一人、志乃の作品に10点と評価したのは、言うまでもなく舞人だった。
和食だということや、味はこの際関係なかった。
公的な大会であっても、多大な魔力を浪費してまで本来存在しないものを召喚するという常識はずれなことをやってまで、自分だけのために作ってくれたことが嬉しかった。
「愛情はたっぷりだよ?」
はにかみ、舞人の手をとる志乃。
「ああ……個人的には、ぶっちぎりの優勝だ」
「えへ……ありがとぉ」
日が傾き始めても、未だ醒め止まぬお祭りムードの中、二人の影が重なり合った。

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