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美人コンテスト

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2:美人コンテスト


「ここは美人コンテストだろう。常識的に考えて」
「………」
「な、なんだその目は……」
「ううん……別に。舞人もやっぱり、そういうの好きなんだ」
「い、いやっ。別に他の女がとかそういうのじゃなくてだな……っ」
「わたし、他の女の子とか言ってないよ」
「うぐぅ……そうじゃなくて、祭りにミスコンはつき物だろってことで……」
「……じぃー」
「う……」
志乃の刺すような視線を浴び、たじろぐ舞人。
「お、俺の一番は志乃だけだぞ!」
次の瞬間、思わず赤面するだけではすまないような言葉が出ていた。
「……えへ。冗談だよ」
「へ?」
志乃は一瞬にして破顔した。
「ちょっとからかってみただけのつもりだったんだけど……えへへへ、一番かぁ。改めていわれると、やっぱりうれしいね」
「~~~~っ!!」
満面の笑みで喜びを表現する志乃とは対照的に、羞恥でダンダンと地団駄を踏むように足を踏み鳴らす舞人。
「か、帰る!」
「わっ、帰っちゃヤだよー。ほら、行こうよー、まいとー」
真っ赤になってきびすを返した舞人の腕を絡め取るように抱きかかえると、そのままずるずると引きずる志乃。
「早くしないと、コンテストはじまっちゃうよ~」
「うーあー!」
どこにそんな力があったのやら。
恋する乙女の底力は偉大である。

………
……
…


「えー、では次の方~!」
特設会場のステージの上で、美人コンテストは華やかに行われていた。
名乗りを上げ、自己アピールで審査員や観客たちに愛想を振りまいていく、お決まりのパターンはフォスタリアでも同じようだ。
今しがたも、きわどい衣装に身を包んだ美女が投げキッスを振りまきながら舞台袖へと引っ込んでいった。
「うーん、ケバいな」
「そうだね……ちょっと気色が違う感じだったね」
何だかんだでコンテストを見に来た二人は、実に勝手な感想をのたまりながら観客していた。
「やっぱり、志乃に勝てる女の子はいないな」
「もうっ、舞人ったらぁー」
「あっはははは」
「えへへへ~」
お約束の一言に、お約束の突っ込み。
そしてバカップルムードをぷんぷん振りまきながらイチャつく二人は、会場内でも異質の存在だった。
その少女がステージ上に現れるまでは。
「えー、次のエントリーはカルチノフの森から、なんとエルフ族の少女の参戦です!」
無駄に煽る司会者の声に、会場から湧き上がる歓声。
「エルフって、あの……」
「ああ。ファンタジーによくある、細くて白くて小さくて耳の尖ったアレだろ」
舞台袖から姿を現した少女は、まさに舞人の言うとおりの姿だった。
「………」
色白の肌に緑の髪が生える、小柄な少女。
髪から突き出た尖った耳が、彼女がエルフであると知らしめている。
澄んだ瞳が会場を見据えている―――見据えているだけで、それ以上のアクションがなかった。
「あ、あのー……まずは自己紹介の方を……」
見かねた司会が、おずおずと声をかける。
「……エントリーナンバー13番。アリスティア」
鈴のような美しい声が、ぼそりとそう告げた。
もし、ステージ上に拡声魔法がかけられていなかったら、その声を拾うことは出来なかっただろう。
そしてまた訪れる、無言空間。
アピールしてなんぼのコンテスト会場は、前代未聞の事態に陥りざわざわと観客たちがざわめき始める。
「……新手のアピール方法かな?」
「もしかしたら、フォスタリアでは今、クーデレが流行ってるのかもしれんな」
またしても勝手な憶測をのたまりながら、様子を見守る二人。
「え、えーっと……それで、アリスティアさん。何かこう、アピールは……」
「……アピール?」
「そうです、得意技とか、スピーチとか……」
これほど困った顔の司会を見るのも、後にも先にもないだろう。
「……得意技」
アリスティアと名乗ったエルフは、ステージ上でおもむろに背負っていた弓を手に取った。
エルフという美人コンテスト会場に似つかわしくない存在、そして美貌と現実とのギャップで審査員を含めた観客のほとんどが失念していたが、彼女の格好も異質だった。
着飾る様子もない普段着に、皮の胸当て、そして背中の弓。
明らかに森からそのまま出てきましたという格好だった。
「あ、あのアリスティアさん? なにを……」
「……」
弓を手にしたことで焦りを見せた司会のことなど気に留めず、アリスティアはおもむろに弓を引き絞った。
だが、その弓には矢が番えられていない。
そのことが、コンテストの警備兵たちを困惑させていた。
「……波動弓80式」
囁くように一言発した次の瞬間、引き絞られた弓から手が離れ、光の矢が放たれた。
「きゃああああ!?」
「うおっ、なんだあれ、魔法の矢か!? テロか、クーデターか!?」
驚愕する舞人と志乃。
それとも、フォスタリアではこれが普通の自己アピールなのだろうか。
しかし、会場中のどよめきは最頂点、悲鳴もひとつやふたつではないからただ事ではないのだろう。
さすがに警備兵も動きを見せた次の瞬間。

ぱぁぁぁぁぁ!!

「ほへ?」
光の矢が会場のちょうどど真ん中付近の空中で柔らかな光を発しながら弾けた。
それは春の日差しのような暖かさと共に会場中に広がり、そして―――
「これ……桜の花吹雪か……?」
「わぁぁ……綺麗~」
会場中の誰もが、今は春かと錯覚した。
アリスティアが振りまいたのは、破壊でも殺戮でもない。
誰もを感嘆させる、季節外れの美しき光景だった。
「お、驚きましたねぇー……これは魔法、ですか?」
「……桜の精霊。そこにある桜の大木から力を少し借りて、波動弓で増幅させた」
アリスティアの瞳が、会場のある公園に植えられた桜の木へと向けられる。
「は、はぁ……よくわかりませんが、感動しましたよ」
「……そう」
アリスティアはやはり無表情のまま、弓をしまうとぺこりとお辞儀をして、舞台袖へと引っ込んでいった。
「あっ、あ……い、以上、アリスティアさんでしたー!」
驚くほどのマイペースに、事を進めるアリスティアに、終始翻弄されっぱなしの司会であった。
「うーん……エルフ、よくわからん種族だ」
「でも、綺麗だったね」
「……まぁな。欲を言えば、もう少しおっぱいが……ハッ!」
「まいと……?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「ひいぃっ!?」

………
……
…

コンテスト後。
「……ダメだった」
「いえ、そんなに気にしないでください。こちらが無理に頼んだんですから」
「……そう」
「ええ。あ、これはほんのお礼の気持ちです」
「……なに?」
「武術大会の賞品です。なんと、お米が1年分もあるんですよ! ですから、アリスさんにもおすそ分けです」
「……ありがと」
「いえいえ、こちらこそ、付き合わせてしまってすみません」
「……貴重な体験」
「あはは。そうでしたか」
「……(こく)」
黒髪の少女とエルフの少女。
詳しい事情は察してくださいとしか言いようがないものの、ひとつ言えるとすれば。

暮らすって物要りね。

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