目次
Part7
1つ目(≫52~76)
>>37 22/02/17(木) 02:49:31
「なんとっ!おめでとうございまぁぁぁす!!特賞『温泉旅行券』、出ましたぁ~~~~!!」
「うそ…」
寒い冬の季節、今日もあいつの為に作る弁当の材料の買い出しに行ったときに
たまたま貰った福引券でまさか特賞なんて…
夢なんじゃないかと思いつつもこの現実を嚙み締めたまま寮に戻る道を歩きながら色々考えていた。
「二人で行けるのか…誰と行こうかな…」
やっぱりいつも料理の時にお世話になってるクリークさん…?
でもあの人なら断ってなんだか誘いを断って「他にもっといい人がいますよ~」とか言ってきそうだな…
じゃあタマモさんやイナリ先輩…?
いやあんまりあの人たちとはオグリと比べて接点無いしな…
「あ…」
無意識に避けていても、不意に出た名前。
『オグリキャップ』
何故無意識に避けていたのか、
何故アイツ以外に一緒に行く相手が他に思い浮かばないのか、
アイツを誘おうにもやっぱり誘いたくはないという謎の気持ちも現れつつ色々考えていると
「お、イチ」
「あ…オグリ…こんなとこで何やってたの?」
「いやあ、少し暇だったからここらをうろついてたんだ。そっちこそどうしたんだ?こんなところで唸って」
え。うそ、声出てた?
「あー…、さっき福引で特賞当ててさ、温泉旅行券。誰と行こうかなー…って」
「そうか、それは良かったな!…温泉か…どんな料理が出てくるんだろうな…!」
あーあ、完全に食べ物のことで頭いっぱいになってんじゃん…
「…一緒に行く?」
「え!?いいのか!?」
「まああんたがそんなに行きたいって言うんならね」
「ありがとう…!イチ…!大好きだ!」
「え、うわ!」
きゅ、急に抱きしめてきた!思いっきり!
なんなのコイツ…!
「ちょ、ちょっと離して…」
「あ、ああ、すまないイチ、あまりにも嬉しくて…イチは本当に優しいんだな」
「え!?い、いやぁ…そんなこと無いわよ…」
あービックリした…心臓がまだバクバク言ってる…
温泉に入る前に火照ってしまった顔を冬の風で冷ましながらオグリと共に寮へと戻っていく。
明日にはオグリと温泉か…
なんだかドキドキするな…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次の日の早朝。
ガサゴソと音を立てるオグリキャップに起きてしまったタマモクロスが話しかける。
「ふぁあ………なんやオグリ、朝から騒々しいな…ああそうか!今日イチと温泉旅行行くんやっけな」
「ああ、そうなんだ。それで念のために荷物の確認をな」
「一人でできるんか?ウチが手伝ったろか?」
「心配無用だ、タマ。…もうそろそろ来る時間だしな」
「来る?来るって誰が…」
コンコン
ガチャ
「おはよオグリ、準備できたー?」
「ああ、出来てる。あとはイチに確認してもらうだけだ」
「あーなるほどなるほど、そういう訳か」ニヤニヤ
「?どうしてタマはにやけているんだ?」
「いやー?なんでもないでー」
こうして準備を終えたオグリキャップとイチは時間を確認しながらバスへと、そして新幹線へと向かう。
「イチ、すまないが弁当は無いだろうか…?いつもならイチの弁当を食べている時間なんだ…」
「ふふ、そう言うと思った。はい、クリークさんと一緒に作りおきしておいたの」
「…!流石だなイチは…!ではさっそくいただこう」
「あんまり食事に夢中になるのもいいけど、ちゃんと景色も楽しんでよね~」
「あ、ああ。分かってる」
ふふ、なんだか楽しいな。やっぱりたまにはお出かけも大事よね。
初めてのふたりでの遠出に会話は弾んで…昨日夜から準備したせいか話疲れて眠たくなって…
ねむ…………
…………
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ん…」
あ、
…思わず寝てしまった、
気付いたら何かを枕にして横になっていたようだ…
ん?、なんだろこれ……
柔らか…
「お、起きたか、イチ。もうそろそろ着くみたいだぞ」
「ん…あ…うわ!」
お、オグリの太もも…!?
「うお、危ないぞイチ、いきなり起き上がったりしたら」
「あ、ごめん。じゃなくて!」
「?、どうした?イチ。ああ、景色を見れなくて残念だったんだな。でも慌てなくても大丈夫だ。帰りにならまた見れるぞ。」
「ああもう!、そうじゃなくて…!」
「?起こしてほしかったのか?すまない、起こしたら悪いと思ったし、それにイチの寝顔が可愛くて…ついつい見惚れてしまったようだ」
「な…」
思わず顔を赤らめる、駄目だ!このままじゃ完全にコイツのペースだ…!
ここは冷静に。まるで気にしていないかのように!
「ふ、ふーん…ああそう…」
「お、もう着いたみたいだな、行こう、イチ」
「え、あ、ちょっちょっと」
あー、もう!なんなの!
でも…少し怒りつつも「可愛い」と言われたことを思い出して…また赤くなって…
……もうやめやめ!それより今は旅行を楽しまなくっちゃ…!
『ついつい見惚れてしまったようだ』
駄目だ…走る新幹線の窓に映る景色と合わさって…
まるでドラマのワンシーンのようで…
「なんなのよ…もう…」
「おお…!おーい!イチ、見てくれ!このぬいぐるみ動いてるぞ!可愛いな…!」
あ!だいぶ先に行ってる!もう!
「わかったからもう少し静かになさいよ!」
「む、すまない」
この旅行で本当に疲れが癒せるのかしら…
でも、楽しそうだしいっか…
そんなことを思いながら、はしゃぐオグリの後を追う。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
だいぶ日も落ちてきた頃…
私とオグリは旅館に着き自分たちの部屋で荷物を置き休んでいた。
「はー…楽しかったな…!イチ…!明日はどこを回ろう!できればさっきの行けなかった店も行ってみたいな…!」
「ふふ、そうね。とりあえず予定は寝る前に立てましょうか」
「そうだな。…?…なんでちょっと笑ったんだ?」
「いやあ、楽しそうだなー…って。なんだか見てたら私まで嬉しくなっちゃってさ」
ふふ、と笑う…イチのその笑顔が…なんだか…
「……!そ、そうか!それは良かったな!」
「?…なんかちょっと顔赤くない?大丈夫?はしゃぎすぎちゃった?」
「え!?いやあ?べ、別になんでもないぞ!さて!ご、ご飯はまだかな!」
「…?変なの。」
「……ずるいぞ…」
思わずつぶやく。
あんな笑顔見せられたら…なんだかこっちが…
そんなこんなで飯も済ませ、とうとう温泉に入る時間が来た…が。
「……」
『ついつい見惚れてしまったようだ』
「……」
『なんだか見てたら私まで楽しくなっちゃってさ』
(…どうにも頭から離れない…!)
お互い悶々としつつも用意を済ませ…
「じ、じゃあ行くか、イチ…!」
「え、ええ、そうね…!」
(どうしたというんだ…!?私は…!)
(どうしちゃったの…!?私…!)
とにかく気持ちを落ち着かせるために深呼吸をしてから扉を開けて――
「あ…」
扉を開けた途端、入り込んだ夜風。
熱くなった顔がその夜風に吹かれて冷まされていき、
「…気持ちいい…」
「…そうだな…」
「…よし、さっさと体洗って温泉入っちゃいましょ!」
「そうだな。風も心地良いし、冬に入る温泉はあったかそうだ」
よし、なんとか気持ちは落ち着いた。
このまま過ごせばあとは…
そんなことを思いながら色々考え事をする。
今日旅行券当てて良かったな…なんて事でも思いながら
ザバッ
さて…泡も洗い流したことだし、
「よし。入ろう、イチ。」
ゆっくり足から肩まで、浸かっていくとどんどん力が抜けていき
「ふぅーー……なかなかに気持ちいいわね」
「そうだな…!トレーニングの疲れが抜けていくようだ!」
温泉を堪能していく…
「これがまさに極楽ってやつか」、なんてことを考えていると
「……あ……なあイチ、…見てみろ。月が綺麗だな…満月だ」
「え!?あ、ああ、そうね……なんだか…落ち着くっていうか…」
「…そうだな…」
「…」
不意に
そっと
手が触れる。
(あ…)
(手…触れちゃった…でも…オグリ気付いてない…のかな…)
…
ちょっと…ちょっと、だけ…
まだ…良いなら…
(このまま…でも…)
「…」
静かに時間が流れていく…
一生こんな時間を過ごしていたい…なんて…
…でも、いいかな…
「…?な、なあ。イチ、大丈夫か?」
「…ん?…あ…」
私…
「のぼせちゃった…みたい…」
「…!大変だ…大丈夫か…!私が今脱衣所に運ぶからな…!」
「…ん…ありがと…」
「ッく…!ダメだ!どうやらッ…私も少しっ…ハァっ…のぼせた…みたい…」
「だいじょうぶだよ…オグリ…ここまで出たならあとは風に当たって冷ませばいいし…それに人もすくないし…」
「む、そうか…じゃあ私も少し…ふぅ…」
風に当って…
「ふふ、今の私たち…よそから見たらだいぶはしたないね…」
「はは…!そうだな…でもなんだか…良い気持ちだ…」
「私も…」
「……」
「……ハッ…危ない、あやうく寝てしまう所だった。イチ、もうそろそろ出よう」
「ん…そうだ…ね」
ゆっくり起き上がる。
なんだか逆に疲れた気もするが…
まあ気持ち良かったし、良しとしよう。
「……」ボー
「ん?どうしたの?オグリ。まだちょっとのぼせてる?」
「ああ、いや、なんだか…月を見てるときのイチの表情を見て…。綺麗だったなー…と。」
「え?」
「あ」
…どうやら、流石にあのにぶにぶオグリも自分の言ったことに気付いたらしい
「あ!いや、こ、これはだな、その…だな…」
「い、いや!大丈夫!私も、あのっその…、私も、なんだか綺麗だな…って思ってたから…」
「え!?」
「あ!い、今のは、あ、違くて…!」
「……」
「部屋…もどろっか…」
「…うん…」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ぼふっ
「はーー、つかれたー!」
「ああ、まったくだ」
「よし、さっさと寝て明日に備えましょ」
「そうだな、もう電気を消すか」
カチ…カチ…
「ふぅ……」
今日の旅のことを色々思い出す…
バカみたいにはしゃぐオグリを思い出し、ついつい笑みがこぼれてしまう
そんな時だった。
「な、なあ。イチ。まだ起きてるか…?」
「ん?どうしたの?」
「あ、あの……そっちの布団に入っていいか…?」
「え、え!?なんでそんないきなり…」
「いや、なんだか布団に入ってると落ち着かなくて…何しろ今日はほとんどはしゃぎっぱなしだったんで…」
「はぁ…しょうがないわね…ほら、どうぞ」
「!ありがとうイチ…!じゃあ、お言葉に甘えて…」
もぞもぞと私の布団に潜りこんでくる様はまるで子供の様でなんだかお母さんにでもなった気分だった
「ふぅ……やっぱり人が居るとなんだか…心地いいな」
あ…ダメだ、これ思っていたよりドキドキするやつだ…!
「あ、ああ、そう…と、とりあえず明日はなるべく早く出かけたいから、もう寝ましょ!」
「そうだな、おやすみ、イチ」
…!ダメだ、こんな距離でそんなこと言われてドキドキしないはずがない…!
「………なあ、イチ…」
「…こ、今度は何…?」
「……こんな時に言うのもあれなんだがな…私はイチと出会えて本当にうれしいんだ」
「イチが今までどんな思いをして私と過ごしてきたか私は知らない。」
「あの日…イチがどんな思いで私に弁当を渡したのかは知らないんだ…」
「…あの日…どんな辛い思いをしたのか…」
「…………うん…」
「でも…でもな…私はあの日、本当に嬉しかったんだ…弁当をくれたあの日…そに今までも…今も…」
「一緒に遊びに行ったりもしたし、タマやクリークやイナリと一緒にご飯を食べたりしたな…」
「他にもいろんな思い出がある…イチとは楽しい思い出ばかりだ…」
「どれもかけがえのない、大事な思い出なんだ。」
「でも…さっき色々考えてて…、そのときふと思ったんだ。」
「今日を今までの…どんな日よりもかけがえのない日にしたい…って」
「……え…?」
「私は…私は今日…イチが見せてくれた笑顔にな…なんだか…なんだろうな…なんて言えばいいのか…」
「私はあまりこういうことを言葉にするのが苦手なんだがな…言葉にするなら…そうだな…」
「『惹かれた』…とでもいうべきか…」
「そう、そうだな…それが私にできる表現だ…」
「今日見せてくれた君の笑顔に…君のあの言葉に…月に見惚れていた表情を…月よりも綺麗に感じて…それで…」
「…まあ、とにかくそういうことだ。今まで以上に君に惹かれているんだ…今、私は…イチに…」
「イチ…君は…この感情に応えてくれるか…?」
…黙って聞いていたら…とんでもないこと言いだして…
私が今までどんな気でいたかも知れないで…!
でも…
オグリも…
…「ふぅ」、と息を付く。
ダメだ、一息付いたところで落ち着くわけもない。
ドキドキが止まらない。
そりゃそうか。そんなこと言われたら…、なんて思いつつ。
もう、どうにでもなれ、と…
「ねぇ……オグリ…」
「な、なんだ…?…イチ…」
私は何も考えずに、
オグリの手を引き、
自分の胸に押し当てた。
「なっイチ、な、何を…!」
「オグリ…静かに…」
「…!」
「聞こえる…?私の心臓の音…」
「う、うん」
「じゃあ…今度は私の…顔に触れて…」
「わ、わかった…、ん…なんだか…熱い…な」
「そう…私ね、オグリにそう言ってもらえて…凄く嬉しいの…」
「こんな自分がたまに嫌になるけど…オグリはいつも優しくしてくれて…」
不意に涙が零れ落ち、頬を通る、
「それで…私は…本当に嬉しくて…」
「私もね、今日オグリの言葉が…オグリの気持ちが…全部…」
「……はは、私もよくわかんなくなっちゃった」
「イチ……」
「…でも……うん、これだけは言葉に出来る…」
「私も…オグリと今日を…かけがえのない日にしたい…」
「…!い、イチ……!」
な、なんだこれは…
今までのどんな時よりも…初めてイチに惹かれたあの日よりも…!
ずっと胸が…!ドキドキしている…!
そうか…これ…が…イチと同じ…
「ふふ…張り裂けそうだな…」
私はこの苦しさに思わず、
むくりと起き上がる。
「…?オグリ…?」
私は…イチを起こして
「な、なあ!イチ……!」
私も…何も考えずに、
イチの手を引き、
自分の胸に押し当てた。
「…オグリ…?」
「イチ…。君なら分かるだろう…?…これが…どういう意味か…」
「私も…君の気持ちに…応えたい…」
「オグ…リ…」
「…イチ…」
月の光に照らされた君は…
なによりも美しくて…
思わずその唇に…
「あ……」
……………………
……………………………………!
………
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
……………………………………
鳥の声がする…
「はは…朝…ね…」
薄く青がかった空をみて少し笑う。
「そう…だな…」
…なんだか思わず顔が赤くってしまう…
「ねえ……オグリ…」
「ん……なんだ…?」
「もし…ね…卒業したら…一緒に…」
「…!あ、ああ…!いいぞ、もちろん…!」
「ふふ、よかった…!」
…ああ、まただ。君の笑顔はどんな時でも…ずっと…ずっと素敵で…
「な、なあ、イチ。もう少し…もう少し起きててないか…?なんて…」
「…へー、オグリって…意外とむっつりなんだー」
「な、ちっ違うぞ!これはだな…!」
「ふふ、冗談よ!」
「むう…。イチは意地悪だ…」
「オグリほどじゃないわよ、夜…あんなに意地悪して…」
「そ、それは…すまない…」
「いいよ、別に。良かったし…」
「…!そ、それは良かっ…た…」
だめだ…がまん…できない…
「え?オグリ…?」
「…クカー…クカー…」
「寝た…?」
それもそうか…いつもなら寝てる時間とっくに過ぎてるもんね…
「…ちょっと期待してたんだけどな…なんて…」
そんなこと言っちゃったら私の方がむっつりみたいじゃん
なんてくだらないことを考えながら…
「おやすみ、オグリ…」
…深い眠りに落ちる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
温泉旅行後、バスに乗り寮へと戻ってきた二人。
「…お、帰ってきたで!クリーク、イナリ!」
「てやんでい!ずいぶん遅い帰りだったじゃねえか!」
「…?なんだかおふたりの雰囲気が違って見えませんか…?……あっ…あらあら~!うふふ…!」
「なんや?クリーク、なんかあったんか?」
「ふふ、ほら見てくださいあれ…!あんなに手を繋いじゃって!」
「な、なんだって!?…ほんとだ…あ、あの二人に二日で何があったってんだ!?」
「なにってそりゃあ…なあ、あんまり言うのも野暮ってもんやろ…」
「まあまあ、まずはとりあえずおふたりから土産話でも聞きましょうよ~!」
「そうやな!クリーク!今日はお赤飯炊いといたほうがええかもな!」
「は~い」
こうして、帰ってきた二人は三人に茶化されながらも楽しく旅行を過ごせた。
かけがえのない思い出を抱えて。
終
2つ目(≫161~163)
>>37 22/02/21(月) 11:34:06
「それでさー、ほんとまいっちゃうよねー…だってあんなこと言わないわよ?普通…あんなとこで」
この子はイチ。私と同室でいつもオグリキャップに弁当を作ってあげている。
当初は嫌がらせ目的だったが徐々にそれは名ばかりになっていき最終的にはただ、飯をあげているだけになっていた。
「まあ、オグリ先輩ってそういうところあるらしいしね、天然って話はイチの話でしか聞いたことないけど。」
「な、なによその言い方、まるで私しか言ってないみたいじゃない」
「だからそう言ってるのよ」
「うそ、皆知ってるもんだと思ってた…」
「オグリ先輩と一緒にいる後輩なんてあんたぐらいしかいないしねー」
「まあ…それはそうだけど…」
「じゃあ皆に言いふらしてみたら?「オグリは天然ですー」とか」
「まさか!わざわざ言うような事じゃないわよ」
「ふふ、それもそうか」
「あ、そろそろ消灯時間よ」
「え?もうそんな時間か…」
「じゃあ電気消すわよー」
「うん、イチ、おやすみ」
「おやすみモニー」
布団に潜り
瞼を閉じる
今日のイチとの会話を思い出す
今日のイチの姿を思い出す
今日もイチのことで頭がいっぱいだった…なんて考える。
わかってる。
イチがアイツのことを好きってことぐらい
いつも見てきたから
アイツの話をしてる時がどんな時より幸せそうだったから
初めて気が付いたときは一人で隠れて泣いてたっけな、なんて恥ずかしいことを思い出す
もう叶わない筈なのに
私があの子の一番にはなれないって
わかってる筈なのに
でも、諦めきれない
頭ではわかってても心が諦めてくれない
イチがアイツと楽しそうに話している姿を見るたびに胸が苦しくなる。
イチと話している時に見せる笑顔を見ると思いっきり抱きしめたくなる。
この欲望が尽き果てることは無いということはわかっている。
だから、
今日も
本当の私を抱えたまま
「……イチ、おやすみ……」
3つ目(≫178~181)
>>37 22/02/22(火) 14:17:36
「ふー…やっぱ屋上は風が気持ちよくてええな…」
珍しくオグリが風邪引いたらしく、珍しく昼休憩に一人になったからどうせなら休めそうなとこを…
と思っとったんやけど
なんや先客おったんかいな、邪魔やろうしここは…
「んー…?なんやアイツどっかで見たような気が…」
「あっ」
思い出した!アイツ確かイチと同室の子や!
前にチラッと見ただけでよう覚えてんな~ウチ
…あんなとこでなにぼけーっとしとるんや…?
…聞いてみるか
「なあなにしとるん?えーっと、名前は確か…」
あかん、肝心の名前を思い出せとらんかった
「…エイジセレモニーです、タマモ先輩こそなんで?」
「ああ、ウチ今日トレーナーに休ませてもらっててな。それでここって風気持ちええやろ?だからちょっとな、
で、…アンタはこんなとこで何をしとるん?」
「私…は…なんでもない、です。なんとなく…」
「…本当になんでも無いんやったら唸ったりせんやろ、まあとりあえず話してみいや」
「…でも……分かりました、…誰にも言わないでくださいね…?特にイチや…オグリ、には」
「おう、安心しぃ、ウチ結構口の固さには自信あんねん」
「そう…ですか、じゃあ言いますね…」
「……実は、私…私知ってるんです、イチがオグリのことを好きな事……」
「でも、諦めきれなくて…!そんな自分が嫌で…わ、私…は…」
……!?な、泣いとる!?待……
「ちょ、ちょい待ちい!お、落ち着かんかい…」
とりあえず泣いてるコイツをなだめた後、色々考えた
……いやこれウチにはどうすることもできひんやろ…
まあ聞いたんはウチやねんけど…
コイツの表情とかを見るに多分ホンマなんやろうな…
「…よし、…とりあえず今度からまたここに来い。」
「え?」
「…正直なとこ、ウチにはなんとも言えん。アンタを応援したいちゅう気持ちもあんねんけど…
はっきり言うて、オグリとか…イチのことも応援したい。ウチにはどっちかを…諦めることなんか出来ひんからな。
でも話ぐらいなら聞けるやろ?話すだけでもだいぶ気ィ楽になるやろ。まあウチにはこんぐらいのことしかできんから…」
「…!ありがとうございます…!タマモ先輩!本当に…」
「いつも苦しかったんです、ひとりで抱えてて。同室だったし、好きだったしで…
どうしようもなくただずっと…でも、タマモ先輩に会えてよかったです!おかげでやっと…少し楽になれます…」
「そうか…まあアンタもあんま思い詰めたらアカンで、わかったか?」
「はい!」
「お、チャイム…昼休憩も終わったしウチももうそろそろ教室帰るわ」
「はい!ホント、ありがとうございました!」
「…ハハ、今日からもっと惚気話聞かなあかんのか…」
タマモクロスは今後の苦労と楽しみに、少し笑った。
終。
Part8
1つ目(≫88~89)
>>37 22/02/28(月) 02:16:26
「どこで食べようか…」
昼、食堂でご飯をどこで食べようかと席を探していると、
それを見つけた。
「……?」
あれは…イチ、と…
誰だ…?
ずっとイチのことを見ているようだが…
「お、イチじゃん。隣いい?」
「ん、いいわよ」
イチの知り合いだったのか…友達か?
楽しそうに喋っているな…
もしかして私が今行ったら邪魔になるだろうか…
…どうしよう……
「よう、オグリ。どないしたん?こんなとこで突っ立って」
「あ、ああ、タマ、タマこそどうしたんだ?いつもなら既に食べ終わっているだろう」
「あー…まあ色々あってな、可愛い後輩の話聞いとってん」
「なるほど…私は…どこに座ろうかと思っていてな、席を探していたんだ」
「ほーん、ほなあそこ座ればええやん。イチん所…あ」
(モニーも一緒かぁ…どないしよ、二人の邪魔にならんとええけど)
「イチの隣…でも見てくれ、となりにイチの友達が座ってるんだ。邪魔になるかもしれないからどうしようかと迷ってて…」
「…ほなウチが聞いてくるわ、それならええやろ」
「え、ま、待ってくれタマ」
「なあモニー、となりええか?」
「あ、タマさん。いいですよ全然」
「ええってー、オグリー」
(オグリ…オグリ!?)
「あ、ああ。わかった。今行く。」
(オグリ…そういえば話すのは初めてか…一応挨拶しなきゃな…)
「こ、こんにちは。初めましてですよね…一応…」
「オ、オグリキャップだ、こんにちは…」
「なにかしこまってんのよオグリ、この子、私の友達でエイジセレモニーっていうの」
「そ、そうか。よろしく、モニー」
「よ、よろしく…」
(なんだろうこの感じ…話してると警戒心が無くなるというか…気が抜けるというか…)
そりゃ…好きにもなるよね…
(あかん!モニーの顔がちょっと曇っとる!なんか話を…!)
「と、とりあず食おか!」
「そうだな、もうお腹がぺこぺこだ」
(それにしても…なんでさっきモニーは少し不機嫌そうだったんだろうか…何かやってしまったのか…?)
(なんでオグリとモニーがちょっとしょげてるのかしら…なんだかんだ言ってやっぱり二人ともよく分からないわね…)
それはそれとして食事は楽しく終わった
終。
2つ目(≫149~157)
>>37 22/03/07(月) 03:56:11
朝、目が覚める。
いつもイチが部屋を出る音で騒々しいはずの朝が今日はやけに静かだった。
イチまだ寝てる…
なんか変だな、と思い顔を覗いてみる。
息が荒く、顔が赤い。
おそらく風邪だ、それもまあまあ重症
「おーいイチー、生きてるー?」
……返事が無い。
もしかして相当ヤバい感じ?
数時間後
「ふう…これでひとまずは安心かな」
「ありがとうございます、フジ寮長」
「フフ、礼なんていいよ。大事なポニーちゃんが風邪を引いてるんだ、当たり前の事をしただけだよ。後は一人でできるかい?」
「はい、任せてください」
フジ寮長のおかげで一応大丈夫にはなったらしいけど、それでもやっぱり不安なので私がつきっきりでイチを見ておく事になった。
理由としては心配っていうのもあるけど、やはりあのオグリと二人っきりで居られるのがたまんないっていうのも…まあ無くはない…
ご飯とか飲み物とかはクリークさんに頼んであるからとりあえず私に出来ることといったら見ておくことぐらいか
それだけしか出来ないとなるとなんだか友達として情けないな、なんて思いながら椅子に腰掛ける。
…もう何時間経ったんだろうか…
あ、
イチの服ちょっとはだけてる。
…熱いだろうしこのままにしておくか
…イチまだちょっと苦しそう…
……イチの…はだけた服…
……イチ…の火照った顔…
……イチ…の荒い息…
鼓動が速くなる
息が荒くなる
そのとろけた表情がまるで私を誘惑しているようで、
(…だーーー!!!ダメだダメだ!!何考えてるんだ私は!病人に対して!)
「…ん」
!? お、起こしちゃったかな…
「……オグリ……」
………
はぁ…
イチの一言が私をクソみたいな現実に引き戻す
そうだ、そうだよ。
何を考えてるんだ私は
どんなに想い続けても夢は叶いやしない
理不尽な現実。
……
そんなこと
わかっていても
愛おしく
思わず触れたくなる。
そんな人
この手がそんな人の頬に
そっと近づく。
これは
これは、体温を測るため
だから、なんの問題もない。そう、
そう自分に言い聞かせ、震える手を頬に当てる。
「んあっ…」
「ッ…!」
その声に驚き、一瞬固まる。
赤く染まった顔から発せられる音は淫らにも聞こえ、私を掛からせる。
「…フーッ…フーッ…」
(どうか、イチが起きませんように…)
汗が吹き出す
心臓の鼓動が速まる
呼吸が整わない
どうせ、どうせ叶わないなら、どうせ
いいよね、こんなチャンス滅多にないんだ。
ずっと、こうしていたかった
私の「妄想」は今から私の「思い出」になる。
唇を
近づける
何も知らずに眠る天使への口づけ、その背徳感による興奮と抑えられぬ衝動で胸が苦しくなる。
イチ、イチ。
愛してる、例え貴方が他の誰かを好きでも。
誰よりも
息がかかる程近づいた唇と唇は
やがて触れ合う。
…触れ合ったまま、何分経っただろうか
もしかしたらまだ一分も経っていないかもしれない
初めて覚える感触とその興奮で冷静でいられなかった。
頭が空になっていく
まるで世界にイチと私だけしかいないような感覚に陥る。
神様、ああ神様。
どうか私をこのまま
「すみませ〜ん、両手が塞がってて、開けてくれませんか〜?」
「!!!は、はい!!」
慌てて離れる
「クリークさん…」
「フフ、おかゆ、作ってきました。それにモニーちゃんもお腹空いてるでしょう?はい、これ!」
皿いっぱいに盛り付けられたカレー、具材には野菜もある
「美味しそう…いいんですか?貰っちゃって」
「もちろんですよ〜、こんな時間までイチちゃんを見てくれている、お礼みたいなものです〜」
こんな時間…?
あ、もうこんな時間だったんだ…
「では、お言葉に甘えて…あ、イチ」
「…」
「丁度よかった、一緒にご飯たべよ」
「う、うん」
「では、ありがとうございました、クリークさん」
「うふふ、全然良いんですよ〜、イチちゃんも早く良くなってくださいね〜、オグリちゃんも寂しがってましたよ〜」
「は、はい。ありがとうごさいます…」
…?まだ元気無いのかな
「よし、じゃあ食べようか」
「う、うん」
(気のせいだよね……夢だよね、モニーがあんな…)
「…?まだ顔赤いね、大丈夫?」
「え!?あ、ああ、うん。大丈夫、大丈夫…」
「そ、よかった」
(あれは夢…夢…にしてはやけに感触がリアルだった…でも…)
自然と布団を握る手が強くなり、鼓動が早まる。
落ち着け私、落ち着け。
よく聞く話じゃん、熱があったら変な夢を見るなんてことぐらい。
だから大丈夫、大丈夫。
(カレー食べてたらなんか冷静になってきた…)
何やってんだろうな私…
こんなことやってるって知られたら失望されちゃうよね…
そう、わかってる筈なのに
思い出しただけで…
胸が
張り裂けそうになる。
後日モニーは風邪を引いた
終。
Part22(≫47~57)
二次元好きの匿名さん23/02/10(金) 02:44:35
確かお風呂の後だった
タマモ先輩の部屋に来てた時に、そう呟いた
「なあモニちゃん」
「なんすか」
「いっぺんウチの名前言うてみてや」
「ええ…また藪から棒に…えー…タマモ先…輩?」
「モニちゃんさあ、オグリのことは呼び捨てにしてるやんなぁ」
「え?あーまあ、ハイ」
「それやったらさ…なんでウチの事は呼び捨てにせえへんの?」
「えっ」
「…」
なんか今ドキっとした…なんでだ…?
「なんでって…そりゃあ先輩だからですよ」
「ほなオグリはなんで呼び捨てなん?」
「…うーん…ライバルの真ん前で言うのもアレなんスけど…あんまし先輩としての貫禄を感じないというか…」
「あー…まあ…あいつ割とレース以外やとぼけーっとしとるトコはあるからなあ」
「まあ、レースの中継とかみてるとやっぱりG1ウマ娘なんだなって感じではあるんですけどね」
「ほーん…それやったらウチのことも呼び捨てにしてみいや」
「それやったらって…なんでですか」
「あー…まあウチのことはええねん…そうそう気になるっちゅうだけやし」
「はあ…まあそれなら」
「…タマ…」
待て、なんだこの気っ恥ずかしい感じは
「も……く…ロス…」
「…いやなんでフルネームやねん、ちゃんとタマって呼んでみい」
「なんだ…!?なんでだ…!?いや違う、よし、ちゃんと言うぞ、ちゃんと言うぞ!」
はあ~顔あっつ!マジで何でだ…!
「……た…タマ…!」
「……お、おう…」
「…なんスかその反応…なんで顔赤くしてんスか!」
「…モニちゃんこそ真っ赤っかやんか」
「これはっ…よくわからんですけども…」
「とにかくやな…まあこれからはそっちのが違和感無いっちゅうか」
「はぁー?いや、ムリですよ…」
「なんでや、今言えてたやんか」
「いや…それは…むぅ」
「とりあえず…」
「…いや、違う、不公平だ!」
「は?」
「タマモ先輩も私のことモニちゃんって呼んでますよね、呼び捨てにしてくださいよ」
「いや、ウチは別に」
「別にってなんですか、私だって別にだったんですけど」
「ええ…いや…」
「なにモジモジしてんスか、さっさと呼んでくださいよ」
「でも…」
あっ
なんだ、この、ああ
この人をめちゃくちゃにしてやりたい
「…あったま来ちゃった」
「え、あ」
私はタマモ先輩の腕をつかむと
そのままベッドの上に押し倒し
力のまま抑え腹の上に跨り
顔を近づけて
「…ほら…呼んでくださいよ」
「………」
頬を汗が伝う
数秒しか経ってない筈なのに、何時間も時が経ったように思える
…手汗が滲んできた
「…あんま舐めとんちゃうぞ」
「うっおぉ!」
そう呟いた先輩は私の手から腕を抜け
咄嗟に肩を掴み
押し返し
唇と唇がくっついてしまう程の距離で
「…モニー」
そう囁いた
「は…………はい……」
…うぅ…顔が溶けそうだ…
「…っと……あんまし後輩イジめすぎたらあかんな…」
「…はぁ…はぁ…」
汗を拭う
(髪いい匂いだった…とか思ってみたり)
「あー…顔洗ってくるわ、ウチ…」
「……」
今日の事は水に流そうってか
「あの……今日の事は…」
あほか
なんでか腹が立った私は
タマモ先輩の傍に歩み寄り
「あ、あの…モニちゃん?」
ほっぺを掴んでやった
「ぶえ」
(やっぱし…やわこいな…)
そんで
キスをしてやった
「…」
「────!?」
タマが離れようとするが
それが反って私に火をつける
「っ……!」
髪がくしゃくしゃになるほど抱きしめてやった
頭ん中がとろける感覚、あー…キスってこんな感じなんだな
「………」
次第にタマは抵抗する気すら滅入ってしまったようで
「…」
ゆっくりと
私を抱き締め始めた
(…あれ、どんくらいキスしてんだ私)
…ちょっとだけ
我に返って
「…ぷは……長すぎやろ」
「ああ……すい…ません…」
離してしまう
「その…」
「…まあ…別に嫌やなかったけど…いきなりちょっとハードやないか?その……舌は」
「……え、あれ、入れてましたっけ」
「は!?無意識やったん!?ウチの純情返せどアホ!」
可愛らしくボカボカ叩いてくる
「ふふ、あ、いてて、あ、けっこう痛い」
「ハハハ、はぁ……あー…そんじゃまあ夜も更けとるし……」
「これ以上は…その……時間的に、ですね」
「まあ、せやな」
…
「それじゃ、また明日……タマ」
「……ほな…モニー」