目次
裏スレ お母さんの味だった
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最近学園内で妙な噂が流れている
それは私がオグリ先輩のことが好きだという噂だ
冗談じゃない
むしろ大嫌いだ
人参あげたのて
毎日毎日お弁当作って
靴の手入れして
調子が悪いときに少し声をかけて
フォームの乱れを指摘しただけだ
何処をどう見てそう思ったんだ
しかも人参とお弁当は妨害工作だ
毎日お弁当を持っていって嫌い物を探っているんだけだ
でも周りから「頑張ってだの」「応援してるだの」もうウンザリよ!
もう分かったそんなに言うなら
もう靴の手入れなんでしない!
もう練習見に行かない!!
もうお弁当作らない!!!
この噂が収まるまで妨害工作は中止にしよう
◇
なぁタマ...
どうしたんやこの世の終わりみたいな顔しとるぞ
断食三時間目か?
無理なダイエットは体に毒やで
最近お弁当を作ってきてくれないんだ
...それって、あの通い妻の子かいな
あの子オグリにぞっこんやったやないか
なんかやったんやないか?
オグリ結構そういうとこあるで
心当たりがないんだ...
どうしたらいいんだタマぁ~
...そないゆーてもなぁ...ウ~ン...せや!!
思いついたでオグリ!!!
◇
ん?誰?...なんだ先輩...なに?もうお弁当は...
私の話を聞いてくれないか
...いや!私は用事があるからそれじゃ...
!!?え!??ちょ!?な!!?なに急に!!!?
『ああいうタイプは押しに弱いって相場が決まっとんねん!
グワッといったあとは自分の想いを伝えたらいいって言っとったわチビが』
...ここは良いところだ人も優しくて毎日楽しい...
でもお母さんが恋しくなったんだ
ここのご飯は美味しい...でも何か物足りなかった...
お母さんの作るご飯が食べたくなったんだ
そんなとき君がお弁当を作ってきてくれた
君のお弁当の味はお母さんにそっくりだったんだ
お母さんの味だったんだ
本当に嬉しかったんだ
涙が出るかと思った
そのぐらい似ていたんだ
だからまたお弁当を作ってきてくれないだろうか...
...離れて
...
明日は何が食べたいの...?
!!!なっなんでも...なんでもいいぞ!!!!なんでも食べる!!!!!
それが一番悩む何か要望を
それじゃ唐揚げがいい!
子供みたい...いいよ...
ドサッ!
...なんか草むらで誰か倒れた音しなかった?
気のせいじゃないのか?
うわぁ!デジタル先輩が倒れてるぞ
保健室に連れて行け!
◇
これはお願いなんだけど
もし私の心を読める人がいるなら次のことを墓場まで持っていってほしい
それは一つのおかずだけ味付けを変えたということ
それは先輩の言う『お母さんの味』とはかなり違うテイストの『私好みの味』だということ
内緒だよ
お母さんの味"だった"
終わり
後日談
人を褒めるとき〇〇に似てるというのは一見褒めているように見えて実は全く褒めていないというのを聞いたことがある
正直アイドルの〇〇に似てるとか言われたら普通に嬉しくない?と思っていたが今はそう思わない
『お母さんの味だった』
なんかモヤモヤするそれ私の料理を褒めてるの?じゃあアンタのお母さんでよくない?ただの思い出補正じゃないの?そんな思いが止まらない
ぶっちゃけ本気で悔しくて自分の味付けを模索している
私のお弁当はお母さんの味付けをそっくりそのまま真似ている
そしてそれと違う新しい味付けをしているのだがその結果は
「微妙だなぁ〜」
ただ味が濃いだけのような微妙に食材とミスマッチなような
こんなの当たり前だ手伝いでしか料理をしたことのない素人が最近やり始めた程度で簡単に覆せるわけがない
ただ自分を出すと致命的に悪いわけではないが何かの劣化になる
それは成績の奮わない私自身の価値を表しているように見えて少しツラかった
たかだか料理を作るだけのことになにをナイーブになっているんだ
でもどうしてもこの料理食べたときの反応を想像してしまう
喜んでいる顔が微妙に引き攣る姿を「今日はあんまりだな」という落胆を「いや美味しいぞ」という気遣いを…駄目だ辛い胸が苦しい痛い見たくない
別にアイツを意識してるとかそんなんじゃないけどキツいものはキツい
やっぱり余計な味付けせずにお母さんの味付けでいこう
お母さんの味…お母さんの……
『お母さんの味だった』
……………………………………
翌日─
結局だし巻きだけ私の味付けにした
みみっちい自己主張こんなのならやらない方がマシだ
なにはともあれ後戻りはできない約束の場所に向かう
──────────────
時間より10分早く来たのにもうオグリのやつはいた
「待ってたぞ!早く食べたい!」
なんだか騙してるみたいで後ろめたい
そんな私の思いとは裏腹に弁当を開け食べ始める
いつどのタイミングで食べられるかドキドキしながら笑顔で食べる彼女を眺める
そしてついにだし巻きに箸が伸びる
『食べないでほしい』
でかかった言葉を飲み込む
無意識に手を強くギュッと握ってスカートが少し持ち上がる
パクリと口に含み咀嚼し飲み込むそして別の物を箸で掴み何事もなく食べ続ける
なんの反応もなかったことに肩透かしをくらった私は少し冷静になった
「今日のも美味しいな!!!」
なんでもないように言った貴女に私はこう返した
「そっかよかった」
きづけよばかぁ…
乙女の面倒な心情などつゆ知らず彼女は笑顔で食べ続ける
それは周りから見ればいつもと何も変わらない日常であった
終わり