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初めてのお使い

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rozen-yuri

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 仁王立ちする水銀燈の前に真紅が正座している。いつもなら逆の状態なのに、今日は珍しく真紅が下手のようだ。
「真紅、私は猛烈に怒ってるのぉ」
 額に浮かんだ青筋を隠そうともせず、感情を露にさた水銀燈が真紅に話す。
「はい……」
「何故か分かるぅ?」
「はい」
 何故、こんなにも水銀燈が怒っているのかと言うと、水銀燈のヤクルトを片っ端からピルクルに置き換えたから。
 普通ならこんなに怒るようなことではないが、水銀燈にとっては真紅の次に大事なものにイタズラされたのだ。
 何故、真紅が水銀燈にそんなイタズラするはめになったかはまた別の話だが、とにかく水銀燈の怒りは頂点に達している。
「ごめんなさい」
 何でこんなことで怒られるんだろう、と些か不満だったが、自分が悪いのに変わりはないから真紅は素直に頭を下げた。
「本気ですまないと思ってるぅ?」
「もちろんよ」
「本当ぅ?」
「えぇ」
「じゃあ何でも言うこと聞けるわよねぇ?」
「当たり前よ」
「そう……」
 ここで真紅は慌てて水銀燈を見上げたが時既に遅し。
 今までに見たことのない清々しい笑みの水銀燈。対して真っ青な真紅。
 しまった。と思った時には水銀燈の言うことを聞かなければならない状況になってしまった。


 ──初めてのお使い


 冷や汗が背中を伝う感触が分かる。
「本当に?」
 背後に立ってる水銀燈に僅かな希望をかけて振り返るが、笑顔の彼女の前にその希望は呆気なく砕かれた。
 怒りの代償として、今日一日、日付が変わるまで、真紅は水銀燈の言うことを聞かなければならなくなった。
「大丈夫、大丈夫。ここの店員さんは女性しかいない女性向けのお店だからぁ」
 背中を押されて自動ドアの前に立たされる。慌てて左右を見渡すが、人影はない。誰かに見つからないようにパッとドアをくぐった。
 水銀燈は慣れてるのか焦る様子もなく足を踏み入れた。
 まぁ、慣れていて当たり前か。こんなものを買っているわけだから。
「さて、真紅。貴女がしなきゃいけないことは?」
「適当なコスプレ服と手錠を買ってくること……」
 拙い口調で何とか水銀燈に言われた買い物を口にする。それを言うと水銀燈は満足気に笑って、頷いた。
「正解。と、ご褒美ぃ」
 水銀燈はそう言うのと同時にポケットに入っているスイッチを押した。
「っ……!」
 ビクリと真紅の体が跳ね、途端に腰がひける。体に入っている異物が振動しているのが分かる。
「や……すいぎ、やだっ……」
 もう既にうっすら瞳に涙を浮かべた真紅が水銀燈を見上げる。

 幸い他の客が見当たらないので、店員にバレないように真紅の額にキスを一つ落とす。
「ちゃんとできたらもっといいご褒美あげるからぁ」
 いらない、という言葉が喉まで出かけたがなんとか飲み込んだところで、スイッチがオフにされ、なんとか体勢を立て直した。
 うろうろと店内を歩き回り、やっとコスプレ服のコーナーへ着いた。
 そこへ着いて驚いたのが、色々な種類があること。ナース服といっても5種類ほどある。
「どれがいいの?」
「別にぃ、真紅が選んでいいわよぉ」
「そう言われても、私は別に着たいのはな……ひっ、」
「何?」
「ん、分かった……選ぶ、選ぶ……からぁっ」
 スイッチが切れたと同時にペタリとその場に腰をおろしてしまう。こんなのを続けていたらなかなか終わりそうにない。
「真紅ぅ、大丈夫?」
 水銀燈のせいだ、とは口が避けても言えず、差し出された手をとってフラフラと立ち上がる。
「じゃあ、これ……」
 さすがにメイドやナース等のマニアックなものは選べず、無難なセーラー服を手に取った。
「後は、手錠ね……」
 セーラー服を持ったまま再び店内を歩き回るが、なかなか見つからない。

 何だか同じコーナーをぐるぐる回っている気がする。
「店員さんに聞いてみたらぁ?」
 水銀燈がとてつもなく妖しい笑みを浮かべている。こういう時はろくなことを考えていない。
「ほら、丁度レジに来たしぃ、聞いてみた方が早いわよぉ?早く終わらせたいでしょう?」
 店員に話しかけた途端、水銀燈が何をするか予測がつく。しかし、早く終わらせたいのも事実。
 唇を噛んで、真紅は店員の女性に近づく。
「すいませ……っ!」
 その途端、中のものが震え始める。しかし、ここで反応するわけにもいかず、レジ台に手をつき、なんとか我慢する。
「手じょ……拘束、具ってあ、りません、かっ……?」
 語尾の方がかすれてしまっている。店員は気付いているのかいないのか、丁寧にその場所を説明してくれた。
 店員にお礼を言って水銀燈の方へフラフラと向かう。
「止、め……てぇ……やぁ」
 水銀燈の服を掴んで、崩れそうな足腰をなんとか保たせる。
「よくできましたぁ」
 水銀燈は真紅の頭を撫でてスイッチを止める。

 真紅は彼女の手を引いて教えてもらった方に向かう。
「あった……」
 なんとか手錠を手に入れ、再びレジへ向かう──とこで気づいた。
「まさか……」
 恐る恐る水銀燈の方を振り返ると、今日何度目かの妖しく、清々しい笑み。
「ん?あぁ、財布ねぇ」
 はい、と気軽に渡され、自分がレジへ行かなければいけないことを確信した。
「頑張ってぇ」
 ヒラヒラと手を振ってみせる水銀燈に恨みがましい視線を送るが、水銀燈は気にしてないようで平気な顔をしている。
 小さくため息をついて、セーラー服と手錠、財布を握ってレジへ向かう。
 一定の距離を保ったまま後ろから着いてくる水銀燈を警戒しながらも焦る気持ちから足が早まる。
 なんとかレジへ到着した時だった。予測通り水銀燈がスイッチを入れたらしい。
 台にセーラー服と手錠を置いて片手で財布、片手で自分の体重を支える為に手をつく。
 ピッピッと店員がバーコードを読み取る作業をボーッとした頭で見つめる。
「っ……」
 時折、上がりそうな声を押さえるときに正気を取り戻す。
「6580円です」
 店員が口にした数字通りにお金を出す。手が震えて硬貨が上手く掴めなかったがなんとか払う。
 品物を袋に入れてもらって、水銀燈と一緒に覚束ない足取りで店を出る。

 自動ドアをくぐると中のものがようやく振動を終えた。
 同時にその場に腰をついてしまった。
「あらあらぁ、大丈夫ぅ?」
 全く心配してなさそうな口調で問いかける水銀燈を真紅は睨み付ける。
「大丈夫って……貴女のせ、いっ……ひっ」
 またスイッチが入ったらしく、振動が真紅を襲う。
「そんな事言える立場じゃないことを真紅は理解した方がいいわよぉ」
 真紅を支えながら立たせてやると、スカートに着いた砂を払ってやる。
「今日はまだまだ長いんだからぁ」
 至極、ご機嫌そうな水銀燈とは裏腹に真紅はこっそりと溜め息をついた。
「せっかく買ったものだし、使わなくちゃねぇ」
 真紅の手から袋を奪うと水銀燈はさっさと歩き始める。
 水銀燈の後ろ姿を見つめながら真紅は日付が変わるまでの時間を計算して、再び溜め息をついたのだった。
「……ひっ!」
「真紅、遅ぉい」
 痺れを切らしたらしい水銀燈にスイッチを入れられ仕方なく水銀燈の元へ走り出した。


終わり


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