■笑う飯■
トーグ=ジュイ …… 魔界の処刑人
きゅう太 …… 問い正す断首剣(QUES-CUTER)。魂を斬る魔剣
きゅう太 …… 問い正す断首剣(QUES-CUTER)。魂を斬る魔剣
まず、常識と言うものを捨て去るといい。
例えばニンジンは赤みの強い橙色だが、それが水色や桃色だったらどう感じるだろう。
多くの場合は「キモい」だろう。
現実にそれを眼にしたトーグ=ジュイの場合はまさにそうだった。
多くの場合は「キモい」だろう。
現実にそれを眼にしたトーグ=ジュイの場合はまさにそうだった。
例えばタマネギが根を蠢かせて足元に擦り寄ってきた場合、どう感じるだろう。
多くの場合は「ウゼぇ」だろう。
現実にそれを眼にししたトーグ=ジュイの場合はまさにそうだった。
多くの場合は「ウゼぇ」だろう。
現実にそれを眼にししたトーグ=ジュイの場合はまさにそうだった。
おかしな色の、蠢く野菜の群れを眼にした時、人はどう感じるだろう。
多くの場合は「ヤベぇ」だろう。
多くの場合は「ヤベぇ」だろう。
「しかし我が主は嬉々としてそれらを口に運ぶのです――」
「運ばねぇよ!?」
かご一杯の怪しい野菜を手にして一人語りを始めた従者に、トーグ=ジュイは
ツッコんだ。想像力の乏しいものでも、かさかさと蠢く蟲の串焼きを口に運ぶ時、
つい「急に動き出したらどうしよう」と思ってしまうものである。
わかってても、無理。
無・理。
そういう事は、往々にしてあるものである。
凡そ常識というモノの通用しない「魔の世界」――魔界に住んでなお、トーグ=ジュイ
は飽くまで人間だった。
「ロゥリーズ派に帰順すれば食の不自由の無い機械の身体を手に入れられるのですが……」
「それだったら銀河鉄道に乗るわ!」
メーテルと一緒に旅に出られるとは限らないが。
「ですが、ジョバンニさんはお呼びしました」
「宮沢賢治じゃねぇか!」
自分の膝にも届かない矮躯の従者――きゅう太のどっきり発言に、もはやお笑い芸人の
ツッコミと化したトーグ=ジュイは脊髄反射でツッコんだ。
これでも魔界では処刑人である。芸人ではない。
だから――きゅう太はツッコミをスルーして話を続けた。
「何処がだからなんだコレ!?」
「それでは登場していただきましょう」
よいせ、と怪しい物体満載の籠を置くと、きゅう太はぽんと手を叩いた。
「運ばねぇよ!?」
かご一杯の怪しい野菜を手にして一人語りを始めた従者に、トーグ=ジュイは
ツッコんだ。想像力の乏しいものでも、かさかさと蠢く蟲の串焼きを口に運ぶ時、
つい「急に動き出したらどうしよう」と思ってしまうものである。
わかってても、無理。
無・理。
そういう事は、往々にしてあるものである。
凡そ常識というモノの通用しない「魔の世界」――魔界に住んでなお、トーグ=ジュイ
は飽くまで人間だった。
「ロゥリーズ派に帰順すれば食の不自由の無い機械の身体を手に入れられるのですが……」
「それだったら銀河鉄道に乗るわ!」
メーテルと一緒に旅に出られるとは限らないが。
「ですが、ジョバンニさんはお呼びしました」
「宮沢賢治じゃねぇか!」
自分の膝にも届かない矮躯の従者――きゅう太のどっきり発言に、もはやお笑い芸人の
ツッコミと化したトーグ=ジュイは脊髄反射でツッコんだ。
これでも魔界では処刑人である。芸人ではない。
だから――きゅう太はツッコミをスルーして話を続けた。
「何処がだからなんだコレ!?」
「それでは登場していただきましょう」
よいせ、と怪しい物体満載の籠を置くと、きゅう太はぽんと手を叩いた。
「水属性弓使い――ジョバンニ=ベンリさんの登場です」
「宮沢賢治ですらねぇ!?」
空間が、ぐねりと歪んだ。
青い髪を逆立て、軽装鎧に身を包んだメガネの優男。
弓使い――ジョバンニ=ベンリその人である。
「何処まで常識捨て去れば良いんだよ己れは!?」
至極もっともである。
だがここは魔の世界――魔界。
「――ん? ポータルの先って事は――ここが依頼の場所か」
「そうです。シリーズで言うなら「RPG外伝」、「求む! グルメの冒険者」という――」
「なんですんなり受け入れてんの!?」
物理法則を無視して現れた弓使いと従者にツッコむしかない処刑人であった。
至極、人として真っ当である。
「ですが、ここは魔の世界――」
「てめぇそれで何処まで押し切んだよ!?」
「じゃんじゃん行きますよ」
「行くなよ!」
問答する主従を脇に置いて。
「――で、これ食っても良いのか?」
歌うじゃがいもを摘みながら、弓使いが言う。
冒険者としては多分、真っ当である。
己れは処刑人でよかった――と、ちょっとだけトーグ=ジュイは思った。
「宮沢賢治ですらねぇ!?」
空間が、ぐねりと歪んだ。
青い髪を逆立て、軽装鎧に身を包んだメガネの優男。
弓使い――ジョバンニ=ベンリその人である。
「何処まで常識捨て去れば良いんだよ己れは!?」
至極もっともである。
だがここは魔の世界――魔界。
「――ん? ポータルの先って事は――ここが依頼の場所か」
「そうです。シリーズで言うなら「RPG外伝」、「求む! グルメの冒険者」という――」
「なんですんなり受け入れてんの!?」
物理法則を無視して現れた弓使いと従者にツッコむしかない処刑人であった。
至極、人として真っ当である。
「ですが、ここは魔の世界――」
「てめぇそれで何処まで押し切んだよ!?」
「じゃんじゃん行きますよ」
「行くなよ!」
問答する主従を脇に置いて。
「――で、これ食っても良いのか?」
歌うじゃがいもを摘みながら、弓使いが言う。
冒険者としては多分、真っ当である。
己れは処刑人でよかった――と、ちょっとだけトーグ=ジュイは思った。
「では続いて――エントリーナンバー二番」
「やっぱり行くのかよ」
そう、ここは魔の世界――魔界。
ツッコまない方が良いのではないかとそろそろ思い始めていた処刑人だが――。
「ちゃんと野菜も食べやさい!」
空間の歪みから現れたオールバックの現代人が現れたその時。
「シリーズがどうとか関係ねぇじゃねぇか!」
迅雷の速さの手刀で己の従者にツッコんだ。
布袋に包まれたその頭部の中心を正確に裂くような縦の一撃。
手応え的には、ぐにょん、としていた。
当然のように従者は口上を続ける。
「此方は聖護院学園の国語教師をしております。外崎剛悟先生です」
「平然と続けるてめぇの事が、己れは少々怖くなってきたよ……」
青褪める処刑人の横で、国語教師が顎に手を遣りながら呟く。
「それで――きゅう太くん、バーベキューをやると聞いて出向いてきたんだが」
「なにそれ知り合いなのてめぇら!?」
眼を見開く処刑人を、従者は袋の切れ目から醒めた目線で見上げた。
「そういえば我が主は「さいしゅうがくれき」が「ちゅうがっこう」でしたね。聖護院
学園は由緒ある中高一貫教育。「どろっぷあうと」組の我が主が知る由もありませんね」
「そういう問題じゃねぇだろ……っていうか、お前たまにキツいよな」
けたけた笑うピーマンを手に取りながら、国語教師が呟いた。
「栄養学の修士に教員免許――今では保父か。いや、教え子が成長した姿を見れるのは
教師の役得だね」
「お前の過去に何があったんだよ、きゅう太!?」
「さあ――私は一本の魔剣ですから」
そう、ここは魔の世界――魔界。
「続きまして、エントリーナンバー――」
「助けてくれッ! ネムレスッ!」
そろそろ心が折れそうな処刑人であった。
「話の腰を折って悪いんだが、これ食っても良いのか?」
冒険者だけが食欲に溢れていた。
「やっぱり行くのかよ」
そう、ここは魔の世界――魔界。
ツッコまない方が良いのではないかとそろそろ思い始めていた処刑人だが――。
「ちゃんと野菜も食べやさい!」
空間の歪みから現れたオールバックの現代人が現れたその時。
「シリーズがどうとか関係ねぇじゃねぇか!」
迅雷の速さの手刀で己の従者にツッコんだ。
布袋に包まれたその頭部の中心を正確に裂くような縦の一撃。
手応え的には、ぐにょん、としていた。
当然のように従者は口上を続ける。
「此方は聖護院学園の国語教師をしております。外崎剛悟先生です」
「平然と続けるてめぇの事が、己れは少々怖くなってきたよ……」
青褪める処刑人の横で、国語教師が顎に手を遣りながら呟く。
「それで――きゅう太くん、バーベキューをやると聞いて出向いてきたんだが」
「なにそれ知り合いなのてめぇら!?」
眼を見開く処刑人を、従者は袋の切れ目から醒めた目線で見上げた。
「そういえば我が主は「さいしゅうがくれき」が「ちゅうがっこう」でしたね。聖護院
学園は由緒ある中高一貫教育。「どろっぷあうと」組の我が主が知る由もありませんね」
「そういう問題じゃねぇだろ……っていうか、お前たまにキツいよな」
けたけた笑うピーマンを手に取りながら、国語教師が呟いた。
「栄養学の修士に教員免許――今では保父か。いや、教え子が成長した姿を見れるのは
教師の役得だね」
「お前の過去に何があったんだよ、きゅう太!?」
「さあ――私は一本の魔剣ですから」
そう、ここは魔の世界――魔界。
「続きまして、エントリーナンバー――」
「助けてくれッ! ネムレスッ!」
そろそろ心が折れそうな処刑人であった。
「話の腰を折って悪いんだが、これ食っても良いのか?」
冒険者だけが食欲に溢れていた。
多くの者が来た。多くの者が語った。
キシオムバーグ将軍とエージェント・ニードルのお料理教室。ダンチェッカー博士の
魔界植物の進化仮説。秘密組織NEXT幹部、柳秋一の演説。ダニエル=P=シュレイ
バー博士の「脳科学から見る「だからこの野菜は食べても大丈夫」!」。東国騎士団長
ジュバ=リマインダスの「とりあえずコレは食える」。アルジャーノン=ブラックウッド
の「よくわかんないのが世の中だからスルーしろ」。ライスマンの「農業しよう!」――
魔界植物の進化仮説。秘密組織NEXT幹部、柳秋一の演説。ダニエル=P=シュレイ
バー博士の「脳科学から見る「だからこの野菜は食べても大丈夫」!」。東国騎士団長
ジュバ=リマインダスの「とりあえずコレは食える」。アルジャーノン=ブラックウッド
の「よくわかんないのが世の中だからスルーしろ」。ライスマンの「農業しよう!」――
残ったものは、極彩色の野菜たちの切り身。
残った結論は「サラダ、これ、最強」。
「おかしい――何かがおかしい」
斬られてもけたけた笑うタマネギを見つめて処刑人 トーグ=ジュイは呟く。
「目に見えるものだけが現実ではないのだよ――東郷=呪井」
ちょっとかっこいい事言ってやった感満載の魔剣きゅう太。
「――ってか、てめぇ剣だろ、本体。別に綺麗なツラした女でも良くね?」
「いやいや、私はこれでも魔剣ですから。この身は確かに鞘のようなモノですが、刀身に
合う事が鞘としての絶対条件。魔剣QUES-CUTERは「魂を斬る魔剣」ですから、魂の残滓を
持ち得る、強固な生きた肉によって包まなければその切れ味を留める事はできません」
「はあ」
最終学歴が中学校なので、処刑人には判る様で判らなかった。
「しかし、ウリズス派の研究する魔術を使えば、我が主の要求を叶える事も出来ますが」
「魔界なんでもアリだな」
箸で蠢く野菜の切れ端を摘みながら、ふと処刑人が零す。
「でも、人間の形になるような奴を斬れなかったってのぁ、シャクだな」
「そうですか」
がらがらと、唸るようにきゅう太――魔剣QUES-CUTERが声を発する。
膝丈の矮躯が、霧となって広がる。
見上げるような巨躯――見下ろすような単眼。
不意に本性を現した従者が、ずいとトーグに寄ってくる。
「さあ、箸を付けたからには完食して頂きます」
はい、あーん。
鋭い鉤爪の先にぶら下がる、うねうね動く野菜を見て、処刑人は思う。
俺、帰ってムショにでも行った方が良いんじゃねぇかなぁあ――。
斬られてもけたけた笑うタマネギを見つめて処刑人 トーグ=ジュイは呟く。
「目に見えるものだけが現実ではないのだよ――東郷=呪井」
ちょっとかっこいい事言ってやった感満載の魔剣きゅう太。
「――ってか、てめぇ剣だろ、本体。別に綺麗なツラした女でも良くね?」
「いやいや、私はこれでも魔剣ですから。この身は確かに鞘のようなモノですが、刀身に
合う事が鞘としての絶対条件。魔剣QUES-CUTERは「魂を斬る魔剣」ですから、魂の残滓を
持ち得る、強固な生きた肉によって包まなければその切れ味を留める事はできません」
「はあ」
最終学歴が中学校なので、処刑人には判る様で判らなかった。
「しかし、ウリズス派の研究する魔術を使えば、我が主の要求を叶える事も出来ますが」
「魔界なんでもアリだな」
箸で蠢く野菜の切れ端を摘みながら、ふと処刑人が零す。
「でも、人間の形になるような奴を斬れなかったってのぁ、シャクだな」
「そうですか」
がらがらと、唸るようにきゅう太――魔剣QUES-CUTERが声を発する。
膝丈の矮躯が、霧となって広がる。
見上げるような巨躯――見下ろすような単眼。
不意に本性を現した従者が、ずいとトーグに寄ってくる。
「さあ、箸を付けたからには完食して頂きます」
はい、あーん。
鋭い鉤爪の先にぶら下がる、うねうね動く野菜を見て、処刑人は思う。
俺、帰ってムショにでも行った方が良いんじゃねぇかなぁあ――。
挿絵的な。

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