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東堂衛のキャンパスライフ > 6


第六話

今日は土曜日。かれんとの家具防衛戦を終えた衛は、一週間分の疲れを癒すためぐっすり眠っていた。
昼前になって、その安眠を妨害する音が部屋の中に鳴り響く。
「衛さん、電話ですよ。」
「んー。」
寝ぼけた頭でかれんから電話を受け取る衛。
「もしもし。」
「おはよう、東堂君。」
相手はナオミだった。
「かれんを連れて、今すぐ駅前の時計広場に集合。分かったわね。」
要件だけ告げて一方的に電話を切られてしまった。
衛はため息をついて枕に顔をうずめる。
「何だったんですか?」
「ナオミ先生から、二人で来いって。」
そう言って衛はかれんが座っているのと逆の方向を向く。
今日と明日、陽が出てる間は家でごろごろするつもりだったのに。
気合を入れるため大きく一回深呼吸をしてから、衛は立ち上がった。

衛たちは集合場所のすぐそばにあるデパートのレストランで昼食をとることにした。
ちょうどこの時間帯、店は混んでいて、従業員が忙しそうに動き回っている。
そんな中でも、例えば衛にカレーを運んできた眼鏡のウェイトレスはにこにこと素敵な笑顔を浮かべている。
接客業も大変だ。
衛は水を一口含んでからナオミに尋ねる。
「で、何の用ですか?」
「無いんでしょ、かれんの服。」
大きなカニのハサミを生やしたコロッケを乗せたスパゲティをくるくる巻きながらナオミは答えた。
「あー……。」
衛はすっかり忘れていたが、かれんは現在、衛と初めて会ったときに着ていたボロボロの服と、ナオミに譲ってもらった数着しか持っていない。
服が無いというのは女の子としてはなかなか辛いことなのかもしれない。
「ごめん、かれん。気づかなくて。」
「いえ、私は……。」
「かれん、遠慮しちゃ駄目よ。」
ナオミは一息置いて言葉を付け加える。
「食後のパフェもね。」
テーブルの端に置いてあるメニュースタンドをチラチラと見ていたかれんは、ナオミに見抜かれ、赤くなってうつむくのであった。

「ここよ。」
「ここ?」
「ええ、ここ。」
食事を終えた衛たちは、同じデパートの中にある、ナオミの顔なじみであるというファッションショップに案内された。
しかしその中を見た衛は開いた口が塞がらなかった。
なにしろ、そこに並んでいたのは、膝くらいまで丈のありそうな真っ白なTシャツだけであったからだ。
「こんな店でどうしろと……。」
衛が呆然とするも無理はない。
そこにカウンターから声が上がった。
「あれ、ナオミちゃん?」
「久しぶりね。」
ナオミはカウンターの女性のところへ駆け寄る。
「紹介するわ。彼女がここの店主、服部結衣よ。」
結衣は「カッコいい」という形容詞がよく似合う外見の女性だった。
彼女にそそのかされるまま、かれんは試着室に入れられる。
試着室のカーテンが再び開いたとき、かれんは例のTシャツ一枚の姿だった。
それを見た結衣は顎に手を当ててなにやら思考しているようだ。
「うーん、じゃあこんなのはどうかな。」
つぶやいてかれんの肩をぽんと叩く。
すると驚くことにそこにいたのはさっきまでのかれんではなかった。
いや、かれんはかれんであり何も変わっていないのだが、彼女を包むものがまるっきり違うのだ。
かれんは花柄のワンピースにボレロといったコーディネートでそこに立っていた。
「これが彼女の昼の能力よ。」
ナオミの言葉の続きを結衣本人が引き受ける。
「衣装変換能力。人が着ている服を、触るだけで私の想像した服に変換できるの。
 布でも革でもなんでもオーケー。鎧……はちょっと無理だけど、ボタンくらいなら金属も付けられる。
 さらに……」
結衣はかれんのボレロをはぎ取ってこう続けた。
「一枚から複数にすることも可能。」
そしてさらに能力の説明からかれんの服の説明に移る。
「中は半袖になってるから、夏まで長く使えるよ。」
かれんと結衣が話している傍ら、ナオミはTシャツを次々と、十枚ほど手に取っていた。
衛が遠慮がちにナオミに尋ねる。
「先生、つかぬことを伺いますが、そんなにたくさんどうするのでしょうか?」
「かれんの分、もっと必要でしょ。それにやっぱり私も買っておきたいし、ついでにあなたも……。」
「えーっと、僕、外で待ってますよ。」
慌てて後ずさる衛の腕をナオミががっしりと掴む。
「まあまあ、先生が買ってあげるから。」
逃げようと思えばいくらでも方法はあるが、その笑顔に逆らうことはできなかった。
「はい……。」
こうして衛は女のショッピングの恐ろしさを知ることとなったのであった。

つづく

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最終更新:2010年07月17日 17:27
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