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東堂衛のキャンパスライフ > 9


第九話

青い空に熱い日差しが照りつける、夏真っ盛り。
衛・かれん・幸広・輪・ナオミのいつものメンバーに刹那を加えた一行は電車に揺られていた。
しかしそのことで衛は不満を漏らす。
「なんで連れてきたのさ。」
衛は刹那が同行することに最初から乗り気ではなかった。
そんな衛をどう思っているのか、感情の感じられない声で本人が答える。
「使者たる者、主の危険を見過ごすわけにはいかない。」
主とは、刹那が個人的に神と崇める輪のこと。
「神なら水難事故なんて遭わないでしょ。」
「まあまあ衛さん、日頃お世話になってるんですし……。」
「かれん!」
口調が荒くなってきた衛をなだめるため、かれんが口を挟んだが一蹴されてしまう。
かれん自身は実際、不足しがちな栄養を補うために刹那の能力に頼っている。
もっとも、衛としてはその役を刹那が務めていることが余計に気に入らない。
いらだつ衛を面白がって幸広がからかう。
「おやおや、中学生相手に嫉妬ですか?」
その言葉に衛は衝撃を受ける。
「……ちょっとトイレ行ってくる。」

洗面台の水は温かったが、顔にぶっかけて頭を冷やすには十分だった。
「何をやってるんだ僕は。」
かれんを守ると決めたのに、人に頼りっきりで自分では何もできていないんじゃないのだろうか。
そんな焦りが衛の心を急かしていた。
確かに幸広の言う通りだ。
衛は直接かれんに何かしてやれる刹那に嫉妬していた。

車両に戻ろうとしたところで、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ふふふ、甘いよ鉄っちゃん……革命返し!」
「あっー!」
「サンキューヤッチー、私も上がりっ!」
大人の男が二人に女子高生らしい少女が二人、小学生くらいの金髪少女が一人と、パッと見どういうグループなのかよく分からない。
その点は衛たちも似たようなものだが。
ただ、その中の一人が、春に西堂と戦ってもらった八地月野だというのだけは、衛も気づいた。
「八地さん、久しぶり。」
「お、衛っちじゃん。奇遇だね。どこ行くの?」
四月ぶりの再会にも月野は軽く答える。
「備市海岸に海水浴だよ。」
「ホント? 偶然! 私たちもそうなんだ。」
会話が弾みはじめそうなところを月野の隣のバンダナ男が制する。
「おいツキ、誰かくらい教えろ。」
「あ、そうだった。S大生の衛っち。」
「だーかーらー、何の知り合いだ。」
「んーと、一緒に悪者をやっつけた? みたいな?」
ここまで聞くとバンダナ男は盛大なため息を吐いた。
「あまり危ないことに首突っ込むんじゃねえぞ。」
それから思い出したように衛と目を合わせて自己紹介した。
「スマンかった。俺は川芝鉄哉。こいつの……まあ保護者みたいなもんだ。よろしく。」
東堂衛です、こちらこそよろしくお願いします。」
五人の注目が衛に集まった。
「友人の吉野小春です。」
「同じく、秋山幸助っす。」
ツイン三つ編み女子高生、もうひとりの男の順に挨拶を述べる。
「ほら、アイリンちゃんも。」
残る金髪少女のことだろう。
「こんにちは、お兄ちゃん。なぎさわアイリンです。」
「こんにちは。」
小さな手と握手をしながら、衛は考えていた。どこかで聞いたことのある名前だけど、どこだったっけ?
しかし思考は中断される。
車内アナウンスが次の到着駅を告げたのだ。海岸に最も近い駅。衛たちも月野たちも下車する駅だ。
「じゃあ僕、連れのところに戻りますね。後でまた。」
こうして、波乱の一日が幕を開けるのであった。

浜辺に着いて最初にすること。それは水着に着替えることである。
廻はひそかに胸を弾ませていた。男子禁制の園、女子更衣室。
大学ではなかなか服を着替える機会が無い。なので姉と体を共有してからそこへ足を踏み入れるのは初めてだ。
しかしそんな少年の儚い男心は、姉の悪戯心によって見事に吹っ飛ぶこととなる。覗きどころではなくなってしまったのだ。
『それ……着るの?』
『当たり前でしょ。そのために持ってきたんじゃない。』
輪がナイロンのバッグから取り出したのは、真っ赤なビキニ。
Tシャツを着たまま、中でブラを外し、ビキニのトップを着けていく。
廻にはなすすべもない。
あっという間に着替えは完了し、上に着ていたTシャツもスカートも取り払われてしまった。
「じゃーん。」
背の高いロッカーは扉の裏が鏡になっている。そこにはナイスバディの美女が映っていた。
これが他人ならば、どんなことをしてでもお近付きになりたかっただろう。
しかし廻にとっては、どんなことをしてでもその場から離れたくて仕方がなかった。
『姉貴、恥ずかしい……。』
なにせ感覚まで共有しているのだ。
肌が空気に触れて、ひんやりとしたエアコンの風に当たる。
水着の面積は廻には見た目よりずっと小さいように感じられた。
『大丈夫、すぐ慣れるって。』
輪の方はというと、全然気にしていないようだった。
その上、弟が恥ずかしがるなんてことは百も承知である。
むしろそれを楽しむため、というのがこの水着を選んだ理由の九割だ。
残りの一割には幸広へのアピールの意味も含まれているのだが。
『ほら、行くよ。』
無情にもその足は止まることなく更衣室の外へと向かっていった。

「三人とも! こっちこっち!」
全員が揃ったところで水着のお披露目会となる。
「衛さんと選び合ったんです。」
嬉しそうに語るかれんは、ピンクのワンピース型の水着。
下半身はスカート状になっていて、胸の中央には小さなリボンがあしらわれている。
一方の衛のものは、水中に小魚がたくさん泳いでいるデザインだ。
「へー……。」
衛の方を白い目で見つめている幸広は、カラフルな絵の具をこぼしたような模様。
「ところで、あんたどうしたの?」
輪に声を掛けられた刹那は、白ずくめの服装のまま着替えていなかった。
「神が事故になど遭うはずがない。よって水に入る必要は無い。」
「僕の受け売りじゃん。」
「泳げないのね。」
「……。」
見事に図星を指したナオミ。彼女が着ているのは白のセパレートタイプ。
トップは胸前で布地を結んだデザインになっていて、ボトムはパレオ。
彼女自身の落ち着いた雰囲気も相まって、子供ながら優雅に見える。
「ま、そのことは置いといて、ここにパラソル立てようぜ。」
そう言って、幸広が後ろ手に持っていたパラソルを開く。
それから衛がビニールシートを砂浜に広げ、一日限りの彼らの“基地”が完成した。
「何かあったらここに戻ってくること、な。」
そして海に繰り出そうとしたその時。
「あ、いたいた、衛っちー! ユッキー!」
月野たちが衛たちの姿を見つけ、駆けつけてきたのだった。
「衛、誰?」
輪がそう尋ねると、衛は大声を上げた。
「思い出した! 輪に聞いたんだった!」
「何の話よ。」
「ほら、あのハーフの子。あの子がアイリンちゃん。」
「えっ!」
一瞬驚きはしたものの、輪はアイリンの元へ近寄る。
そして、彼女の目の高さに合わせ、しゃがみこんで言った。
「あなたが、アイリンちゃん?」
「うん!」
迷いの無い返事。
「私は川端輪って言うの、よろしくね。」
輪は少し考えてからこう続ける。
「十月の最後の土日にS大学で学園祭があるの。来てもらってもいいかな?」
「わかった。お姉ちゃん、おさそいありがとう。」

その後は各々挨拶を終えて、刹那以外の全員で波打ち際に向かった。
輪は少し後ろから、アイリンの姿を眺めながらゆっくりとみんなに付いていく。
ちょうど半分ぐらいのところで、輪は突然何かにぶつかった。
視線を少し下の方に向けると、それは、中学生になるかならないかくらいの少年だった。
「ご、ごめんなさい! お姉さん、僕、お父さんとはぐれちゃったんだ。一緒に探してくれない?」
輪の両手をぎゅっと握って、少年は懇願する。
困りきった輪は廻に相談を持ちかけた。
『ど、どうしよう?』
『気持ち悪いから逃げてほしい。』
『いやいや。』
あてにならなかった。
そこに競泳用のような水着の少女が一本の三つ編みを揺らして怒りの表情で現れた。
「陸! またこんなことして!」
「あーはいはい。」
「ああもう! 海に行くって言った時から警戒はしてたのに……。」
「お前がそんなサービス精神のかけらも無い恰好じゃなきゃ少しは我慢したんだがな。」
「あんたにサービスしてやるくらいなら死んだ方がマシよ!」
喧嘩しながら二人は去って行った。
彼らを呆然と見送る輪に廻は一言声を掛ける。
『な、だから言っただろ?』

「あー、もうダメだ……。」
「若いっていいねえ。」
三十分後、鉄哉と幸助の二人はパラソルの所まで戻っていた。
二人も二十代中盤で十分若いのだが、十代のテンションにはもうついていけない。
海からこちら側に向かって月野たちが手を振っているのが見える。
黒地炎柄、スポーツタイプの月野。白地に原色の水玉模様、控えめなフリルを付けた小春。どちらもセパレートの水着。
彼女たちのはしゃぐ姿が、おっさんたちの日常業務で溜まった疲れ癒してくれるのであった。
そんな穏やかな時間が流れる中、突然、刹那が預かっていた全員分の携帯電話の中のひとつが着信を告げる。
顔色を変えたのは鉄哉であった。

さらに三十分ほどして、みんなが戻ってきた。
「あれ? 鉄っちゃんは?」
「電話が来てどこか行った。」
「ふーん。」
月野はバスタオルでわしゃわしゃと頭を拭く。
「それにしても、のど乾いたなー。」
そう漏らしたら、幸広がこう提案した。
「じゃあ、じゃんけんで負けた奴が全員分のジュース買ってくることにしようぜ。」

どうやらじゃんけんの神様は言い出しっぺの法則がお好きなようだ。
「くそー、どこもかしこも並んでるなぁ……。」
幸広は浜辺に並ぶ露店をひととおり物色した。
しかし、この暑さで、どこの店舗も並んでいる途中で倒れてしまいそうなくらいの行列になっている。
「しょうがない、少し遠いけどコンビニまで買いに行くか。」

幸広が海岸の端にあたる岩場まで来た時、人気の無さそうなその場所で、声が聞こえてきた。
「バカンス中なんだけど、見逃してくれないかな?」
「ああ、こっちだってそうさ。」
こっちの声は知っている! 幸広が岩陰からそーっと覗くと、そこには三人の男女がいた。
瓶底眼鏡を掛けた長いストレートの黒髪女。無地の真っ白な競泳水着をまとった彼女が、最初に聞こえた声の主だ。
その女が寄り添うようにそばに立っている男は、オリンピック選手が着るような全身をすっぽり覆うタイプの水着を着けている。
そしてその二人と対峙しているのが、緑地に白抜きで「69」と書かれた水着を履いた男。
川芝鉄哉だった。
「だからさっさと片付けて帰りてえな。」
先ほど一緒にいた鉄哉は、面倒見の良い好青年に思えた。
しかしこの場にいる彼からはおびただしい殺気を感じる。それは素人の幸広にも感じ取れるほどだ。
幸広は今まで“秘密を目撃する能力”でいろんなものを見てきた。
しかしそれらは、教授の髪の毛が変な方向にずれていることだったり、
どう見ても女の子な学生が人目を気にしながら男子トイレに入っていくところだったり、
大抵はうわさ話のネタにしかならないようなささいなことだった。
こんな恐ろしい秘密を目撃するのは初めてだ。
それゆえに、幸広は注意力が少し鈍っていた。
足にじりじりと、無意識に力が加わって、砂利とこすれる音を出してしまったのだ。
「誰だ!」
あわてて隠れなおす。息もひそめる。
「気のせい、か?」
「何をそんなに焦っている。」
初めてカップルの男の方が口を開いた。
幸運なことに、鉄哉の注意は完全にそちらに向く。
「こっちは正体は秘密なんでね。」
鉄哉がそう言った後、数秒、間があった。
岩に体をぴったりつけて後ろを向いている幸広には、何が起こっているのか分からない。
やがて、男が口を開く。
「今日は休戦だ。その方が互いにとって良いだろう。」
男と女が去っていく。
残った鉄哉は、「マジかよ」とか「いつの間に」とか、放心状態でつぶやいている。
今がチャンスだ。
幸広はジュースのことも忘れて一目散にその場から逃げ出した。

「ちょっと、ユッキー、何してたのよ!」
手ぶらで戻ってきた幸広は、当然、月野に散々怒られる羽目となった。
「だいたいあんたは四月のあの時も……あ! 鉄っちゃん!」
平然とした顔で現れた鉄哉は、頬に一筋のかすり傷を負っていた。
「どうしたの?」
「いやあ、カニと遊んでたら引っかかれた。」
笑う鉄哉、呆れる月野。
「じゃ、もうひと泳ぎしようか!」
鉄哉が言うと、みんなの視線が海に向かう。
その瞬間を見計らって、鉄哉は幸広に、唇の動きだけで伝えた。
(全部忘れろ。)
そして何もなかったかのようにゆっくりと歩いて海に向かう。
一方、幸広はその場で固まってしまった。
「ほら! ユッキーも! ジュースはいいから早くこっち来なさい!」

太陽が一番高く昇る頃、一行は再び砂浜に上がってきた。
「そろそろお昼にしましょう。」
ナオミの提案には全員一致で賛成だった。
どこも混んでいる中で、手分けして一番空いている店を探す。
「衛、秋山さんがあっちに良い店があるって!」
「分かった。」
輪に連れられてきた店。その看板に書いてあった名前に、衛は嫌な予感がした。
「海の家・道楽……。」

「ふはははははははは!」
嫌な予感はことごとく的中するものだ。
海の家には似合わない白スーツを着た男が、意味も無く高笑いしていた。
ちなみにこの笑いは、思いつきで建てた海の家が想像していたよりずっと高い売上げを叩き出したことに対する笑いだ。
その後、客が来たと気が付いた男は出迎えようとする。
が、衛の顔を見て凍りついた。
「な、なぜ貴様がここに……!」
「それはこっちの台詞だ。」
衛はあからさまにテンションを下げて答える。
この二人は以前敵として戦ったことがあるのだ。
男の呼び名はドウラク。本名は不明。
とある無法地域で一地区のボスとして君臨していた男だったのだが……。
「貴様らに負けて気づいたのだよ。私にあんな野蛮な土地は似合わない。」
「さいですか。」
案内されたテーブルでは既に他の全員が席についていた。
「衛、また知り合いか?」
「できれば会いたくなかった。」
幸広の問いにもため息まじりで答える。
しかし腹が空いているのは確かなので早速ドウラクに注文を告げる。
それはそれ、これはこれ、なのだ。
「じゃあカニの丸ゆででも作ってくれ。」
メニューも見ずにそう言った。
すると当然こうなる。
「そんなものは無い。」
当たり前だ。だが衛にとって、これは意外だった。
「なんで無いんだよ。」
なぜなら衛はドウラクの能力を知っている。
“カニをボイルする能力”という非常に限定的な能力だ。
そんな彼が海の家なんてものを開くのだから当然あるだろうと思い込んでいたのだ。
だがこの男に理屈は通じなかった。
「なぜなら、私はカニが嫌いだからだ。」
もはや衛はツッコむ気力も失せた。

青系でまとめたタンクトップの水着。
その長身や短髪から一見男の子と間違えてしまいそうな少女が、注文を取りに来た。
「じゃあこのイカスミパスタで。」
「はい、これで注文は全部ですね。」
さわやかな笑顔を浮かべて復唱する。
その少女の後ろから、Tシャツ短パンにねじりハチマキ姿の少年が声を掛ける。
「おい晶、これどこに持っていくんだっけ?」
「ちょっと待って。」
素早く伝票をめくり確認をとる少女。
「三番テーブルだよ。」
「さんきゅ!」
その時、少年は視界に捉えたある人物を見て動きを止め、叫んだ。
「あーっ!」
少年と目があったのは刹那だった。
刹那は相変わらずの無表情で答える。
「貴様……、神に叛く者……。」

二人がにらみ合っている間に、晶と呼ばれた少女は空いたテーブルの掃除をし、新しい三人組の客を迎えた。
「雄大で深遠なる蒼海を来訪するというのは晴天の霹靂だったわ。」
「そうか、だから遥ちゃんは学校の水着なんだね。」
「尖崎主任がいなくて良かったよ。スク水に歓喜する様子が目に浮かぶ……。」
「でも彼は実物には興味無いんじゃないかなあ。」
ダンディな中年男性と、衛と同年代くらいの男、長い黒髪をポニーテールにしたスク水少女の三人だ。
スク水少女は、けん制を続ける二人に気付くと、間に立って声を掛けた。
「あら、岬月下じゃない。」
「お前もかーっ!」
少年はまたもや叫んだ。
その様子を眺めていた幸広が一言。
「今日はこんなのばっかだな。」

その後、三人は「決着をつける」などと言ってどこかへ行ってしまったとか。

遊泳時間も終わりが近づいてきた。
太陽は一向に落ちる気配を見せないが、もう午後五時を回っている。
「大分遠くまで来たねー。」
鉄哉と幸助はまたもや先にギブアップしていた。それに加えて、今回は流石にアイリンも体力が続かなかった。
一方のティーンズ組は、その三人の姿が判別できないところまで、沖の方に来ていた。
「そろそろ帰ろうか。」
しかし、そこでハプニングが現れる。
事の起こりは小春の様子が変になったこと。
「ふゎ……は……は……」
「まずい!」
月野があわてて近づくが遅かった。
「くしゅん!」
小春の“衝撃波を発生させる能力”。それがくしゃみによって暴発し水中を駆ける。
最悪なことに、岸辺へ向かう方向に衝撃波は発生した。
衝撃波は波を増幅する。しかし海岸ではそれほど大きな被害にはならない。
問題はそこからだ。寄せた波は、引くしかない。
つまり彼らの方へと襲ってくるのだ。
徐々に海面が盛り上がってくる。
「みんな、逃げて!」
月野の叫び声もむなしく、体の小さなかれんとナオミが流されてしまった。
さらに、二人の体は今にも波に飲まれそうだった。
「かれん!」
いの一番に飛び出したのは衛だ。
その様子を見た輪は、
『廻、チェンジ。』
『え?』
突然の交代に廻は戸惑う。
しかしためらっている時間は無い。
大急ぎでナオミのところに近寄り、肩を貸した。

「大変な一日だったわね。」
ブロンドのショートヘアにドライヤーを掛けながらナオミが言った。
あの後、結局、誰も大事にならずに岸にたどり着いた。
そして今、更衣室で着替えを終えた彼女たちは、髪を乾かしながら駄弁っているところだ。
「すみません……。」
小春がすまなさそうに肩を縮ませる。
それを聞いて、かれんが言った。
「でも、私、ちょっと嬉しかったんですよ。」
それは小春のフォローなどではなく、かれんの本心だ。
衛に助けてもらったこと。そして、岸に着くまでずっと衛の背中に触れていられたこと。
それからも話は恋愛、能力、おしゃれ、と、あてもなく広がる。
廻も気が乗らないながらも参戦させられていた。
気が付くと、更衣室の閉鎖時間だった。
「そろそろ男たちが待ちくたびれてるわね。」

男性陣と合流したときには、既に刹那が戻って来ていた。
「激しい戦いだった。」
彼はそれ以上は何も語らなかった。彼らの間で何が行われていたのかは想像するしかない。

「あ、見て見て!」
月野が西の空を指差した。
それは、オレンジから青に広がるグラデーションの中心。
真っ赤な太陽が山へと沈んでいく場面だった。

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最終更新:2010年10月03日 14:31
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