バトルも終わり、記四季は彩女と共に席を立った。
「しかしあの狙撃手、恐ろしいほどの腕前でしたね」
「だぁな。俺もまさか、動けなくなるほどに正確とは思ってなかった」
来たときと同じように、着物の肩に彩女を乗せその場を去ろうとする記四季。しかし記四季のその行動は、女の声で遮られた。
「・・・・おじいちゃん?」
記四季が振り返った先にいたのは、サラを肩に乗せた春奈だった。
「・・・おぉぅ。春奈じゃねぇか。元気してたか」
突然の孫娘の登場で、記四季はばつが悪そうに頭をかく。
無理も無い。武装神姫はかなり市民権を得、一般にも普及し始めてはいるがまだかなりコアな部類に入る趣味だ。彼の周りには女性ユーザーが多いが、やはり男性ユーザーの方が圧倒的に数は多い。
見つかった相手が孫娘、ましてや記四季は老人である。何だかいわれの無い誤解を受けそうな空気だ。
「・・・・あー・・・つまりだな・・・・こいつはよ・・・ほら、アレだ・・・」
ボケ予防に買ったとか嘘をつくか?
だが本当は妻が死んだとき、春奈の姉の都が寂しかろうといきなり送りつけてきたと言うのも別にいいかもしれない。
・・・いや、そもそも自分は何故こんなにも混乱しているのか?
別にやましい理由が無いならば、真実を話しても構わないのではないか? しかしそれを言うのは都に悪い気がするし、なにより自分のプライドがそれを許さない。
・・・どうしたものか、と記四季の脳が全力で回転していると
「お初にお目にかかります。記四季の神姫をしております。彩女と申します。春奈お嬢様のお噂はかねがね」
空気読んでない犬が、深々と座礼をしやがったのだ。
「しかしあの狙撃手、恐ろしいほどの腕前でしたね」
「だぁな。俺もまさか、動けなくなるほどに正確とは思ってなかった」
来たときと同じように、着物の肩に彩女を乗せその場を去ろうとする記四季。しかし記四季のその行動は、女の声で遮られた。
「・・・・おじいちゃん?」
記四季が振り返った先にいたのは、サラを肩に乗せた春奈だった。
「・・・おぉぅ。春奈じゃねぇか。元気してたか」
突然の孫娘の登場で、記四季はばつが悪そうに頭をかく。
無理も無い。武装神姫はかなり市民権を得、一般にも普及し始めてはいるがまだかなりコアな部類に入る趣味だ。彼の周りには女性ユーザーが多いが、やはり男性ユーザーの方が圧倒的に数は多い。
見つかった相手が孫娘、ましてや記四季は老人である。何だかいわれの無い誤解を受けそうな空気だ。
「・・・・あー・・・つまりだな・・・・こいつはよ・・・ほら、アレだ・・・」
ボケ予防に買ったとか嘘をつくか?
だが本当は妻が死んだとき、春奈の姉の都が寂しかろうといきなり送りつけてきたと言うのも別にいいかもしれない。
・・・いや、そもそも自分は何故こんなにも混乱しているのか?
別にやましい理由が無いならば、真実を話しても構わないのではないか? しかしそれを言うのは都に悪い気がするし、なにより自分のプライドがそれを許さない。
・・・どうしたものか、と記四季の脳が全力で回転していると
「お初にお目にかかります。記四季の神姫をしております。彩女と申します。春奈お嬢様のお噂はかねがね」
空気読んでない犬が、深々と座礼をしやがったのだ。
ホワイトファング・ハウリングソウル
第三話
『爺の心労』
「・・・つまり彩女ちゃんは、お姉ちゃんからのプレゼントって訳なんだ」
「・・・・応」
彩女が春奈に挨拶した後、なし崩し的にティールームに連れ込まれ(彩女の発案)店内で一番奥の席に座り(記四季、最後の抵抗)麦茶を注文したところで記四季は春奈に彩女の事を話していた。
「となると・・・まさかビルを袈裟切りしたのは・・・」
「はい、私で御座います」
神姫は神姫で話が盛り上がっているようだ。ようなのだが人間側が全く盛り上がってない。
別に春奈は普通にしている・・・というか記四季が“自分が神姫を持っている”事を気にしすぎて、春奈はどうすればいいのか対応に困っている。
彼の考え方は妙に古いところがあり、恐らくは女子どもが持つべき人形を男の、しかも老人の自分が持っていることを孫娘に知られたのがショックなのだろう。
ボケ予防に神姫を買う老人もいることだし・・・別に気にすることは無いと思うのだが。
「・・・そ、そうだ。彩女ちゃんってハウリンタイプだよね。なのになんで髪が白いの? 耳も生えてるし」
「・・・・・・なんでも、都が知り合いのカスタムメイカーから貰ってきたらしい」
「ふ、普段から甲冑着てるの?」
「・・・・家に送られてきたときは十二単を着ていた」
「お、おじいちゃんは、最近どう? 私はテストで赤点ぎりぎりだったよ」
「・・・・昨日イノシシ鍋食べた。・・・・・解体に手間取ったよ」
「・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
会話が続かない。
春奈は今、非常に困っていた。
その様子を少し楽しそうにテーブルから見ているサラは本物のサドだろう。八谷以外でこんなに困っている春奈を見るのは初めてだ。
彩女はというと暢気に茶をすすっている。あんな山奥で暮らしていると人付き合いが無いため、春奈には悪いがちょうどいい機会であると助け船を出さないつもりだ。
「・・・あ、あのさ・・・えぇと・・・そ、そういえばお姉ちゃんも神姫を持ってるんだよ。悪魔型と犬型の姉妹でね・・・」
「クロとハチ公か。知ってるよ」
「う、うん、それでこの間その二人がね・・・」
「・・・・応」
彩女が春奈に挨拶した後、なし崩し的にティールームに連れ込まれ(彩女の発案)店内で一番奥の席に座り(記四季、最後の抵抗)麦茶を注文したところで記四季は春奈に彩女の事を話していた。
「となると・・・まさかビルを袈裟切りしたのは・・・」
「はい、私で御座います」
神姫は神姫で話が盛り上がっているようだ。ようなのだが人間側が全く盛り上がってない。
別に春奈は普通にしている・・・というか記四季が“自分が神姫を持っている”事を気にしすぎて、春奈はどうすればいいのか対応に困っている。
彼の考え方は妙に古いところがあり、恐らくは女子どもが持つべき人形を男の、しかも老人の自分が持っていることを孫娘に知られたのがショックなのだろう。
ボケ予防に神姫を買う老人もいることだし・・・別に気にすることは無いと思うのだが。
「・・・そ、そうだ。彩女ちゃんってハウリンタイプだよね。なのになんで髪が白いの? 耳も生えてるし」
「・・・・・・なんでも、都が知り合いのカスタムメイカーから貰ってきたらしい」
「ふ、普段から甲冑着てるの?」
「・・・・家に送られてきたときは十二単を着ていた」
「お、おじいちゃんは、最近どう? 私はテストで赤点ぎりぎりだったよ」
「・・・・昨日イノシシ鍋食べた。・・・・・解体に手間取ったよ」
「・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
会話が続かない。
春奈は今、非常に困っていた。
その様子を少し楽しそうにテーブルから見ているサラは本物のサドだろう。八谷以外でこんなに困っている春奈を見るのは初めてだ。
彩女はというと暢気に茶をすすっている。あんな山奥で暮らしていると人付き合いが無いため、春奈には悪いがちょうどいい機会であると助け船を出さないつもりだ。
「・・・あ、あのさ・・・えぇと・・・そ、そういえばお姉ちゃんも神姫を持ってるんだよ。悪魔型と犬型の姉妹でね・・・」
「クロとハチ公か。知ってるよ」
「う、うん、それでこの間その二人がね・・・」
「・・・アヤメ、キシキはハルナが苦手なのですか?」
「違います。多分、お嬢様に私の存在がばれたのが問題なのでしょう。ほら、私達はマニアックな存在ではないですか。多分引かれるとでも思っているのでしょう」
「なるほど、まぁその心配は無用ですが。・・・しかし大した狼狽ぶりですね。ハルナもさることながら、キシキも無言で狼狽すると言う芸を披露するとは。いやはや七瀬一族、中々に奥が深い」
「・・・まぁ主も山に引き篭もってばかりではいけませんからね。たまにはこうして街に下りるようにしているのです」
「山に引き篭もる・・・随分アウトドアなヒッキーですね」
「事実その様なものです。あの竹が生い茂り、緑しかない景色の中では、あまり外にいると言う感覚がしません」
「ほほぅ、竹林ですか。少し見てみたいですね」
「それでしたら春奈お嬢様と是非お越しください。文字通り何も無い場所ですが、持てる限りの持て成しをさせて頂きますので」
「それはありがたい。ではそのうちにお邪魔させていただきます」
神姫は神姫で暢気なものである。
「違います。多分、お嬢様に私の存在がばれたのが問題なのでしょう。ほら、私達はマニアックな存在ではないですか。多分引かれるとでも思っているのでしょう」
「なるほど、まぁその心配は無用ですが。・・・しかし大した狼狽ぶりですね。ハルナもさることながら、キシキも無言で狼狽すると言う芸を披露するとは。いやはや七瀬一族、中々に奥が深い」
「・・・まぁ主も山に引き篭もってばかりではいけませんからね。たまにはこうして街に下りるようにしているのです」
「山に引き篭もる・・・随分アウトドアなヒッキーですね」
「事実その様なものです。あの竹が生い茂り、緑しかない景色の中では、あまり外にいると言う感覚がしません」
「ほほぅ、竹林ですか。少し見てみたいですね」
「それでしたら春奈お嬢様と是非お越しください。文字通り何も無い場所ですが、持てる限りの持て成しをさせて頂きますので」
「それはありがたい。ではそのうちにお邪魔させていただきます」
神姫は神姫で暢気なものである。
「それじゃ、またね。おじいちゃん」
「・・・・・・・・・・応。お前も元気してろな」
ティールームで一時間ほど話した後、春奈と別れ記四季は帰路についた。
行きは手に持っていた杖を、今は突いている。・・・背筋は真っ直ぐではあるが。
「今日はお疲れ様で御座いました」
「・・・全くだ」
彩女が微笑みながら言うと記四季は溜息をつきながら答える。
自分がいなければ主はここまで疲れなかっただろうと、彩女は思ったが気にしないことにした。
何分刺激の少ない山暮らしだ。たまにはこういうのも悪くは無いだろう。
「こんなことならムラサキんとこ行っとけばよかった・・・そうすりゃ心構えも出来たってのによ・・・」
「主、彼女は『アメティスタ』です。・・・確かに彼女の“能力”には目を見張るものがありますが。それにばかり頼っていてはいけませんぞ?」
記四季と彩女が暮らす山の入り口にある北白蛇神社。そこにいる『アメティスタ』は予言ができると言う。確かに彼女は他の神姫とは違い、どこか神秘的な美しさを備えていはいるが・・・彩女にとってはただの友人だ。
ちなみに、アメティスタが予言が出来ることは秘密にされている。彼女のマスターが騒ぎを嫌う性格だからだ。そのためアメティスタは自身の姿を見せないように、パソコンで予言したことを書いて印刷している。その精度はなかなかで好評なのだが、予言できる内容が日常に関すること(どこぞのスーパーがセールをするとか。明日は雨が降るとか)ばかりなので地域密着型の預言者とも言えるかもしれない。
「ならば明日こそはアメティスタに会いに行きましょう。ここ最近彼女と話していませんしね」
「・・・俺ぁむしろ神主の方に用事があるんだがな。まぁいいさ、明日行こう。今日はもう帰るぞ。このままじゃ帰る頃には真っ暗だ」
「御意。最近不逞の輩が増えたそうですし、騒動は避けたいですな」
「タバコ屋のタミさんとこだったか? この間空き巣が入ったのは」
「ですね。まぁいつも居眠りしていらしたようですし。空き巣も何も取らずに帰ったそうですが」
二人は話しながら、逢魔ヶ時の街を歩いていった。
・・・・二人が家に着いたのは日が落ちてからの事である。
「・・・・・・・・・・応。お前も元気してろな」
ティールームで一時間ほど話した後、春奈と別れ記四季は帰路についた。
行きは手に持っていた杖を、今は突いている。・・・背筋は真っ直ぐではあるが。
「今日はお疲れ様で御座いました」
「・・・全くだ」
彩女が微笑みながら言うと記四季は溜息をつきながら答える。
自分がいなければ主はここまで疲れなかっただろうと、彩女は思ったが気にしないことにした。
何分刺激の少ない山暮らしだ。たまにはこういうのも悪くは無いだろう。
「こんなことならムラサキんとこ行っとけばよかった・・・そうすりゃ心構えも出来たってのによ・・・」
「主、彼女は『アメティスタ』です。・・・確かに彼女の“能力”には目を見張るものがありますが。それにばかり頼っていてはいけませんぞ?」
記四季と彩女が暮らす山の入り口にある北白蛇神社。そこにいる『アメティスタ』は予言ができると言う。確かに彼女は他の神姫とは違い、どこか神秘的な美しさを備えていはいるが・・・彩女にとってはただの友人だ。
ちなみに、アメティスタが予言が出来ることは秘密にされている。彼女のマスターが騒ぎを嫌う性格だからだ。そのためアメティスタは自身の姿を見せないように、パソコンで予言したことを書いて印刷している。その精度はなかなかで好評なのだが、予言できる内容が日常に関すること(どこぞのスーパーがセールをするとか。明日は雨が降るとか)ばかりなので地域密着型の預言者とも言えるかもしれない。
「ならば明日こそはアメティスタに会いに行きましょう。ここ最近彼女と話していませんしね」
「・・・俺ぁむしろ神主の方に用事があるんだがな。まぁいいさ、明日行こう。今日はもう帰るぞ。このままじゃ帰る頃には真っ暗だ」
「御意。最近不逞の輩が増えたそうですし、騒動は避けたいですな」
「タバコ屋のタミさんとこだったか? この間空き巣が入ったのは」
「ですね。まぁいつも居眠りしていらしたようですし。空き巣も何も取らずに帰ったそうですが」
二人は話しながら、逢魔ヶ時の街を歩いていった。
・・・・二人が家に着いたのは日が落ちてからの事である。