「・・・・あぁ・・・あぁそうだ。申し訳ないな。こんな電話で」
『いや構わぬよ。あまり老体に無理をされても困る。・・・しかし、本当に大丈夫なのだろうな?』
「心配無用、まぁ当日までは持つだろうよ。・・・それよりも、例の品だが」
『今取り掛かっておるよ。・・・それにしても一歩間違えばかなり縁起が悪い』
「間違わなければいい。俺ぁそこんとこは職人芸を期待しているぜ」
『・・・・うむ。全力を尽くす。・・・それにしても“前足”に“後足”か。そっちはいいのだな?』
「そいつぁ俺の仕事。山仙から作り方は教わってるし、“前足”はもう完成してるからあとは“後足”だ。正直俺の体よりもこっちが心配だが」
『・・・全てがすんだらきちんと病院にいくのだぞ?』
「わぁってるよ。男に二言はねぇ」
『その言葉、信じよう。・・・それでは元気でな、記四季殿』
「応、お前さんも元気でな・・・・槇野」
黒電話の受話器が、置かれた。
『いや構わぬよ。あまり老体に無理をされても困る。・・・しかし、本当に大丈夫なのだろうな?』
「心配無用、まぁ当日までは持つだろうよ。・・・それよりも、例の品だが」
『今取り掛かっておるよ。・・・それにしても一歩間違えばかなり縁起が悪い』
「間違わなければいい。俺ぁそこんとこは職人芸を期待しているぜ」
『・・・・うむ。全力を尽くす。・・・それにしても“前足”に“後足”か。そっちはいいのだな?』
「そいつぁ俺の仕事。山仙から作り方は教わってるし、“前足”はもう完成してるからあとは“後足”だ。正直俺の体よりもこっちが心配だが」
『・・・全てがすんだらきちんと病院にいくのだぞ?』
「わぁってるよ。男に二言はねぇ」
『その言葉、信じよう。・・・それでは元気でな、記四季殿』
「応、お前さんも元気でな・・・・槇野」
黒電話の受話器が、置かれた。
ホワイトファング・ハウリングソウル
第二十三話
『囲炉裏を囲む暖かさ』
記四季の朝は早い。
五時にはもう起きて薪を割っている。割った後は風呂に入り汗を流し、未だに動いていることが不思議なパソコン(Windows95)を起動しメールチェックをする。普段は大したメールは来ていないのだがその日は違った。
「・・・つまり、サラ様が再戦を望んでいると」
「細かいところは違うが、要はそういうことらしい。本文の一番下にサラの名前が書いてあったしな」
記四季の屋敷の囲炉裏端。
その囲炉裏で魚を焼きながら記四季と彩女は話し合っていた。
「ふむ・・・再戦は私も望むところですが、主は・・・・如何ですかな?」
彩女は、記四季にそう問いかけた。
具合が悪いなら恐らくは行こうとは言い出さないはずだ。
「あ? ・・・別にいいけどよ。どうしたんだお前。普段なら俺の意見なんて無視してさっさと決めちまうじゃねぇか」
「単なる気紛れに御座います。あまり御気に為さらぬ様」
彩女の予想と反し、記四季は平然とそういいきった。
むしろ彩女の態度に疑問すら覚えているようだ。
「・・・・そろそろかな。ホレ、焼けたぞ魚。ほぐしてやるから少し待ってろ」
「あ、これはどうも」
彩女の小さな喉では魚を食べることは出来ない。なのでこういう食事をするときは大抵記四季が彩女用に作るか、小さくするかしていた。
別に神姫がものを食べる必要は無いのだがこれも一種のコミュニケーション機能なのだ。
現に記四季は自分の料理を食べる彩女を嬉しく思っている。食事というのは視覚的にも重要なものなのだ。
記四季はほぐし終えた魚を小皿にわけ彩女の前に置く。
彼女が使う食器や箸は全て記四季手作りの一品だ。
「では主、一献どうぞ」
彩女はそういって記四季に酒を勧める。
なぜか記四季の屋敷では食事に酒が必ず出る。彼なりの健康法らしい。
神姫の彼女にとっては徳利を傾けることすら難しいが、器用にやってのける。
「どうも。ほれ、返杯だ」
今度は記四季が彩女のコップに少しだけ酒を注ぐ。
もちろん神姫の大きさに合わせて記四季が作った陶器の一品だ。出すところに出せば中々の値がつくだろう。
別に物書きでなくとも生きていけるのがこの老人の不思議なところである。一体どこでその技術を学んだのか。
「んじゃ・・・頂きます」
「頂きます」
しばらくは無言で租借する音と、囲炉裏の炭が焼ける音だけが響く。
「そういえば主。漬物がそろそろ食べ頃ですが」
「そうか。じゃぁ明日の朝飯にでも出すかな。・・・そうだ、リンゴの蜂蜜付け作ってやるよ。お前あれ好きだろう」
「是非に」
そう冷静にいう彩女の尻尾は千切れんばかりに振られている。
彼女はこう見えて甘いものが大好きなのだ。
その尻尾を見て記四季は優しく微笑む。
「・・・む。なんですかその子供を見るような目は」
「いや、ついな。お前さんが可愛くてな」
「――――――――――――――っ!?」
記四季の突然の言葉に彩女は飲んでいた酒を吹き出した。
「・・・・大丈夫か?」
「は、ハイ大丈夫です。・・・・何ですかいきなり」
差し出されたちり紙で口を拭きながら、ついでに赤くなった顔を隠しながら彩女はいう。
今の今までそんなこと、言われたことすらなかったのだ。
「・・・・・・別に。単なる気紛れさ」
記四季はそういうとそっぽを向いて漬物をほお張る。
その顔は別段赤いわけでもなく普段どおりなのがまた彩女の動揺を誘う。
今日の主はご病気がどうのこうの言う以前に何かおかしい。彩女はそう考える。
「主、何か良いことでも御座いましたか?」
「・・・・秘密だ」
何かいいことがあったのだろう。
記四季は無表情でそういったが彩女は僅かな変化を見逃さなかった。
「・・・左様で」
見逃さなかったが、特に追求もしなかった。
いいことならば何も問題は無いからだ。
「そういえば主。バトルは一対一ですか?」
「いや二対二。向こうは春奈とそのダチだそうだ。こっちには都のハチ公が入る」
記四季はそういって醤油を取る。
ハチ公というのはハウの事だ。
「ハウ様で御座いますか。なら問題はありませんね」
彩女はそう言って茶を啜る。
・・・このまったりとした時間は昼頃まで続いたという。
五時にはもう起きて薪を割っている。割った後は風呂に入り汗を流し、未だに動いていることが不思議なパソコン(Windows95)を起動しメールチェックをする。普段は大したメールは来ていないのだがその日は違った。
「・・・つまり、サラ様が再戦を望んでいると」
「細かいところは違うが、要はそういうことらしい。本文の一番下にサラの名前が書いてあったしな」
記四季の屋敷の囲炉裏端。
その囲炉裏で魚を焼きながら記四季と彩女は話し合っていた。
「ふむ・・・再戦は私も望むところですが、主は・・・・如何ですかな?」
彩女は、記四季にそう問いかけた。
具合が悪いなら恐らくは行こうとは言い出さないはずだ。
「あ? ・・・別にいいけどよ。どうしたんだお前。普段なら俺の意見なんて無視してさっさと決めちまうじゃねぇか」
「単なる気紛れに御座います。あまり御気に為さらぬ様」
彩女の予想と反し、記四季は平然とそういいきった。
むしろ彩女の態度に疑問すら覚えているようだ。
「・・・・そろそろかな。ホレ、焼けたぞ魚。ほぐしてやるから少し待ってろ」
「あ、これはどうも」
彩女の小さな喉では魚を食べることは出来ない。なのでこういう食事をするときは大抵記四季が彩女用に作るか、小さくするかしていた。
別に神姫がものを食べる必要は無いのだがこれも一種のコミュニケーション機能なのだ。
現に記四季は自分の料理を食べる彩女を嬉しく思っている。食事というのは視覚的にも重要なものなのだ。
記四季はほぐし終えた魚を小皿にわけ彩女の前に置く。
彼女が使う食器や箸は全て記四季手作りの一品だ。
「では主、一献どうぞ」
彩女はそういって記四季に酒を勧める。
なぜか記四季の屋敷では食事に酒が必ず出る。彼なりの健康法らしい。
神姫の彼女にとっては徳利を傾けることすら難しいが、器用にやってのける。
「どうも。ほれ、返杯だ」
今度は記四季が彩女のコップに少しだけ酒を注ぐ。
もちろん神姫の大きさに合わせて記四季が作った陶器の一品だ。出すところに出せば中々の値がつくだろう。
別に物書きでなくとも生きていけるのがこの老人の不思議なところである。一体どこでその技術を学んだのか。
「んじゃ・・・頂きます」
「頂きます」
しばらくは無言で租借する音と、囲炉裏の炭が焼ける音だけが響く。
「そういえば主。漬物がそろそろ食べ頃ですが」
「そうか。じゃぁ明日の朝飯にでも出すかな。・・・そうだ、リンゴの蜂蜜付け作ってやるよ。お前あれ好きだろう」
「是非に」
そう冷静にいう彩女の尻尾は千切れんばかりに振られている。
彼女はこう見えて甘いものが大好きなのだ。
その尻尾を見て記四季は優しく微笑む。
「・・・む。なんですかその子供を見るような目は」
「いや、ついな。お前さんが可愛くてな」
「――――――――――――――っ!?」
記四季の突然の言葉に彩女は飲んでいた酒を吹き出した。
「・・・・大丈夫か?」
「は、ハイ大丈夫です。・・・・何ですかいきなり」
差し出されたちり紙で口を拭きながら、ついでに赤くなった顔を隠しながら彩女はいう。
今の今までそんなこと、言われたことすらなかったのだ。
「・・・・・・別に。単なる気紛れさ」
記四季はそういうとそっぽを向いて漬物をほお張る。
その顔は別段赤いわけでもなく普段どおりなのがまた彩女の動揺を誘う。
今日の主はご病気がどうのこうの言う以前に何かおかしい。彩女はそう考える。
「主、何か良いことでも御座いましたか?」
「・・・・秘密だ」
何かいいことがあったのだろう。
記四季は無表情でそういったが彩女は僅かな変化を見逃さなかった。
「・・・左様で」
見逃さなかったが、特に追求もしなかった。
いいことならば何も問題は無いからだ。
「そういえば主。バトルは一対一ですか?」
「いや二対二。向こうは春奈とそのダチだそうだ。こっちには都のハチ公が入る」
記四季はそういって醤油を取る。
ハチ公というのはハウの事だ。
「ハウ様で御座いますか。なら問題はありませんね」
彩女はそう言って茶を啜る。
・・・このまったりとした時間は昼頃まで続いたという。