ウサギのナミダ・番外編
少女と神姫と初恋と
その6
◆
この試合のステージは、『山岳』ステージが選択された。
山岳ステージは、特に飛行タイプの武装神姫にとって、スタンダードで人気の高いステージである。
小高い丘陵と、森林、そして湖が広がる美しい舞台設定だ。
眺望の美しさもさることながら、地形を利用したテクニカルなバトルが展開されることになり、好ゲームになる率が高いステージでもある。
今回は両神姫とも飛行タイプ。
ギャラリーの熱は徐々に高まっていく。
山岳ステージは、特に飛行タイプの武装神姫にとって、スタンダードで人気の高いステージである。
小高い丘陵と、森林、そして湖が広がる美しい舞台設定だ。
眺望の美しさもさることながら、地形を利用したテクニカルなバトルが展開されることになり、好ゲームになる率が高いステージでもある。
今回は両神姫とも飛行タイプ。
ギャラリーの熱は徐々に高まっていく。
「勝率がまた少し上がったな」
「運も味方したみたいね」
「運も味方したみたいね」
遠野と菜々子のつぶやきに、大城は首を傾げるばかりだ。
「なあ、いい加減、俺にも教えてくれよ。いったい、オルフェはどんな手を使うってんだ」
「試合を見ていればわかる。おそらく、俺が説明してる間に、試合が終わるから」
「試合を見ていればわかる。おそらく、俺が説明してる間に、試合が終わるから」
その言葉に、大城は改めて、試合の映し出されている、観戦用の大型ディスプレイを見上げた。
いままさに、『玉虫色のエスパディア』が、深緑の上を飛翔しているところだった。
いままさに、『玉虫色のエスパディア』が、深緑の上を飛翔しているところだった。
◆
『玉虫色のエスパディア』ことクインビーは、森林上空を索敵しつつ飛んでいた。
今日のバトルは簡単だ。
初心者の新型を切り刻むだけでいい。
いつもはたくさんの武装を搭載しているが、今日はノーマル装備である。ほぼすべて近接武器という仕様だ。
だが、心許ないことはない。
むしろ体が軽くて機動性が上がり、いつもよりも戦える気さえしてくる。
彼女のマスターはいつも憎たらしい言動で、嫌われるのも当然かと思うが、バトルの腕は本物だ。
負ける要素が見あたらない。
クインビーはそう思っていた。
今日のバトルは簡単だ。
初心者の新型を切り刻むだけでいい。
いつもはたくさんの武装を搭載しているが、今日はノーマル装備である。ほぼすべて近接武器という仕様だ。
だが、心許ないことはない。
むしろ体が軽くて機動性が上がり、いつもよりも戦える気さえしてくる。
彼女のマスターはいつも憎たらしい言動で、嫌われるのも当然かと思うが、バトルの腕は本物だ。
負ける要素が見あたらない。
クインビーはそう思っていた。
すると突然。
クインビーの直下、深い森の隙間から、何かが飛び出した。
クインビーの直下、深い森の隙間から、何かが飛び出した。
「うわっ!」
猛スピードで突っ込んで来た白い塊は、そのままクインビーに激突、弾き飛ばした。
しかし、彼女は身体を振り、スラスターを器用に操って姿勢を制御。
すぐに正位置に戻り、体勢を安定させる。
その間に、激突した各部のチェック。
特にダメージは見られない。
激突してきた相手を見据えたときには、すでに臨戦態勢が整っていた。
クインビーの実戦経験の豊富さがなせる技であった。
クインビーは口元をゆがめ、ニヤリと笑う。
相対するのは、アルトレーネ・タイプのオルフェ。
今日のオルフェの装備は、ノーマルと違い、一対のメカニカルな翼が背中についている。機動性を上げ、先手を取る作戦か。
だが、追加装備はそれだけのようだった。
武器はデフォルト装備のツインランスのみ。
クインビーは思う。
ヤツは、千載一遇のチャンスを逃した!
奇襲ならば、今の一撃で勝負を決めていなければならない。
しかし、彼女は身体を振り、スラスターを器用に操って姿勢を制御。
すぐに正位置に戻り、体勢を安定させる。
その間に、激突した各部のチェック。
特にダメージは見られない。
激突してきた相手を見据えたときには、すでに臨戦態勢が整っていた。
クインビーの実戦経験の豊富さがなせる技であった。
クインビーは口元をゆがめ、ニヤリと笑う。
相対するのは、アルトレーネ・タイプのオルフェ。
今日のオルフェの装備は、ノーマルと違い、一対のメカニカルな翼が背中についている。機動性を上げ、先手を取る作戦か。
だが、追加装備はそれだけのようだった。
武器はデフォルト装備のツインランスのみ。
クインビーは思う。
ヤツは、千載一遇のチャンスを逃した!
奇襲ならば、今の一撃で勝負を決めていなければならない。
クインビーは間髪入れずに突撃を敢行する。
弾かれた後の間合いは中距離。
この一度の仕切り直しは、クインビーに有利に働く。
体勢を整える時間と、対峙するチャンスを与えてしまったのだから。
真っ正面から戦えば、圧倒的な実力差を発揮できる。
だからクインビーは突撃した。
蜂須は指示を出すまでもない。彼もクインビーと同じ考えだった。
ギャラリーの多くも同様に思っていただろう。
弾かれた後の間合いは中距離。
この一度の仕切り直しは、クインビーに有利に働く。
体勢を整える時間と、対峙するチャンスを与えてしまったのだから。
真っ正面から戦えば、圧倒的な実力差を発揮できる。
だからクインビーは突撃した。
蜂須は指示を出すまでもない。彼もクインビーと同じ考えだった。
ギャラリーの多くも同様に思っていただろう。
被我の距離はあっという間に埋まった。
オルフェはツインランスを副腕に持ち、待ちかまえている。
クインビーの背後から、アンテュースサブアームが繰り出される。
先端に装備されたのは、エスパディアの二振りの大剣「ジュダイクス」。
左右から、クインビーの超高速の斬撃が閃いた。
しかし。
オルフェはツインランスを副腕に持ち、待ちかまえている。
クインビーの背後から、アンテュースサブアームが繰り出される。
先端に装備されたのは、エスパディアの二振りの大剣「ジュダイクス」。
左右から、クインビーの超高速の斬撃が閃いた。
しかし。
「……なっ!?」
クインビーの斬撃は、オルフェに届かなかった。
エスパディアの副腕は、アルトレーネから伸びるカニのようなハサミ状のアームでがっちりと押さえ込まれていた。
クインビーは目を見張る。
オルフェの背中にある、追加された翼が展開し、巨大なアームになって、彼女の副腕を掴んでいたのだ。
今度はオルフェが動いた。
副腕で、ツインランスを正面から振り下ろす。
エスパディアの副腕は、アルトレーネから伸びるカニのようなハサミ状のアームでがっちりと押さえ込まれていた。
クインビーは目を見張る。
オルフェの背中にある、追加された翼が展開し、巨大なアームになって、彼女の副腕を掴んでいたのだ。
今度はオルフェが動いた。
副腕で、ツインランスを正面から振り下ろす。
「くうっ……!」
クインビーは、かろうじて、手にした槍「リノケロス」でその一撃を受け止めた。
アルトレーネの副腕は力任せにクインビーを押し切ろうとしてくる。
じりじりと押される。
クインビーに焦りの表情が浮かんだ。
アルトレーネの副腕は力任せにクインビーを押し切ろうとしてくる。
じりじりと押される。
クインビーに焦りの表情が浮かんだ。
「くそっ、はなせっ!」
間合いを取るべく、オルフェの身体を蹴り飛ばそうと、脚を振り上げた。
しかし、その脚も、オルフェには届かなかった。
しかし、その脚も、オルフェには届かなかった。
「な、なにっ……」
今度は、スカートアーマーが展開し、やはり巨大なカニのハサミ状のアームになっていた。
そして、クインビーの両脚をそれぞれ挟み込んでいる。
よく見れば、翼も腰のアーマーも同じ形状をしている。翼はアルトレーネのデフォルト装備である、腰部アーマーを組み替えたものなのだ。
そこまで理解したとき、クインビーは気が付いた。
今自分が置かれている状況。
オルフェに、サブアームを含めた四肢を、完全に押さえ込まれている。
まるで空中で磔になっているような状態だ。
そして、クインビーの両脚をそれぞれ挟み込んでいる。
よく見れば、翼も腰のアーマーも同じ形状をしている。翼はアルトレーネのデフォルト装備である、腰部アーマーを組み替えたものなのだ。
そこまで理解したとき、クインビーは気が付いた。
今自分が置かれている状況。
オルフェに、サブアームを含めた四肢を、完全に押さえ込まれている。
まるで空中で磔になっているような状態だ。
クインビーは、正面のオルフェを見た。
戦慄する。
オルフェにはまだ手がある。
彼女はまだ、素体の両腕が自由だ。
今、オルフェは細身の剣を腰だめに構えている。
戦慄する。
オルフェにはまだ手がある。
彼女はまだ、素体の両腕が自由だ。
今、オルフェは細身の剣を腰だめに構えている。
「ま、まて……」
なぜだ。どこにそんな剣を持っていたと言うんだ。
ふとクインビーの瞳に映ったのは、自分に振り下ろされているツインランス。
今は、ただのソードになっている。
オルフェはツインランスの片側をはずし、もう一本の剣として運用していた。
ふとクインビーの瞳に映ったのは、自分に振り下ろされているツインランス。
今は、ただのソードになっている。
オルフェはツインランスの片側をはずし、もう一本の剣として運用していた。
「そ、んな……そんな、そんな……」
オルフェはまっすぐにこちらを見据えている。
突きの構え。
身動きのとれないクインビーに、かわす術はない。
突きの構え。
身動きのとれないクインビーに、かわす術はない。
『オルフェ、いっけえええぇぇーーーーー!!』
「はああああぁぁっ!!」
「はああああぁぁっ!!」
安藤の叫びとともに、オルフェは躊躇なく突きを繰り出す。
はずすはずがない一撃。
刃はクインビーの胸元に吸い込まれ、CSCを貫いた。
はずすはずがない一撃。
刃はクインビーの胸元に吸い込まれ、CSCを貫いた。
「そんなああああああぁぁぁ……!!」
クインビー無念の叫びが響きわたる。
次の瞬間、『玉虫色のエスパディア』の身体は、無数のポリゴン片となって、砕けて散った。
ポリゴン片が舞い散る中、オルフェは展開していたハサミ状アームを、翼と腰部アーマーに戻す。
そして、二本のソードを振るい、ポリゴン片を吹き散らした。
はらはらと音もなく舞い散る光の粒子の中で、戦乙女は佇んでいる。
その幻想的な光景に、ウィンメッセージが重なった。
次の瞬間、『玉虫色のエスパディア』の身体は、無数のポリゴン片となって、砕けて散った。
ポリゴン片が舞い散る中、オルフェは展開していたハサミ状アームを、翼と腰部アーマーに戻す。
そして、二本のソードを振るい、ポリゴン片を吹き散らした。
はらはらと音もなく舞い散る光の粒子の中で、戦乙女は佇んでいる。
その幻想的な光景に、ウィンメッセージが重なった。
『WINNER:オルフェ』
試合時間は五三秒。
あっと言う間のバトルだった。
あっと言う間のバトルだった。
◆
「勝ったーーーーーーーっ!!」
有紀の歓喜の叫びと同時、ギャラリーが一斉に沸き立った。
秒殺という、まさに圧倒的な勝利。
誰が見ても疑いのない、オルフェの勝ちである。
涼子と梨々香は、美緒の肩を抱きながら喜んでいた。
美緒自身は喜んではいたが、それ以上に安心しすぎて気が抜けたようになってしまっていた。
二人に揺さぶられて、左右に揺れる視界の中。
安藤は震える両手を見つめていた。
秒殺という、まさに圧倒的な勝利。
誰が見ても疑いのない、オルフェの勝ちである。
涼子と梨々香は、美緒の肩を抱きながら喜んでいた。
美緒自身は喜んではいたが、それ以上に安心しすぎて気が抜けたようになってしまっていた。
二人に揺さぶられて、左右に揺れる視界の中。
安藤は震える両手を見つめていた。
◆
遠野の作戦は、こうだ。
一週間という短期間で修得できることは数少ない。
現状のオルフェでも使いこなせる装備といえば、セットされている基本プログラムだけで動作できる、アルトレーネのデフォルト装備しかない。
そこで、オルフェの背中に、腰部パーツを組み替えた翼を増設することにした。
これはアルトレーネの発売前に、雑誌で見た組み替え例だ。
安藤の親戚が、アルトレーネの開発会社に勤務しているとのことで、現在入手困難なアルトレーネの装備を、無理矢理借りさせた。
これで一回の接敵で出せる手数は、エスパディアより多くなる。
一週間という短期間で修得できることは数少ない。
現状のオルフェでも使いこなせる装備といえば、セットされている基本プログラムだけで動作できる、アルトレーネのデフォルト装備しかない。
そこで、オルフェの背中に、腰部パーツを組み替えた翼を増設することにした。
これはアルトレーネの発売前に、雑誌で見た組み替え例だ。
安藤の親戚が、アルトレーネの開発会社に勤務しているとのことで、現在入手困難なアルトレーネの装備を、無理矢理借りさせた。
これで一回の接敵で出せる手数は、エスパディアより多くなる。
「……それ、戦闘中の手数の意味とちがくねーか?」
「いいだろ、別に。勝ったんだから」
「いいだろ、別に。勝ったんだから」
そして、蜂須に後からクレームを付けさせないためにも、誰にでもわかる圧倒的な勝利を演出する。
それも初手奇襲による一回の接敵で、である。
そこで考えたのが、先ほどの、大型のサブアームで相手を押さえ込む戦法だ。
相手が手も足も出ない状態での、決定的な勝利。
これなら誰も文句は言えまい。
この一週間のトレーニングは、オルフェが装備を自在に操れるようにすることと、副腕を持った神姫を押さえ込む、という動きに絞りこみ、それを徹底的にたたき込むメニューを作った。
結果は大成功と言っていいだろう。
だが、大城はまだ首を傾げている。
それも初手奇襲による一回の接敵で、である。
そこで考えたのが、先ほどの、大型のサブアームで相手を押さえ込む戦法だ。
相手が手も足も出ない状態での、決定的な勝利。
これなら誰も文句は言えまい。
この一週間のトレーニングは、オルフェが装備を自在に操れるようにすることと、副腕を持った神姫を押さえ込む、という動きに絞りこみ、それを徹底的にたたき込むメニューを作った。
結果は大成功と言っていいだろう。
だが、大城はまだ首を傾げている。
「だけどよ。俺が奴らを見張っていたことに、何の意味があるんだ?」
「それはこの策の大きなポイントだ。
そもそも、玉虫色が安藤を侮っていて、何の対策も行わず、エスパディアのデフォルト装備で戦うことが、大前提の策なんだ。
ヤツが何か対策をするなら、策を練り直さなくちゃならない。『ポーラスター』来られても困る。
そのためにどうしても、監視役が必要だった」
「それはこの策の大きなポイントだ。
そもそも、玉虫色が安藤を侮っていて、何の対策も行わず、エスパディアのデフォルト装備で戦うことが、大前提の策なんだ。
ヤツが何か対策をするなら、策を練り直さなくちゃならない。『ポーラスター』来られても困る。
そのためにどうしても、監視役が必要だった」
平日来ない遠野が監視役では怪しまれる。
菜々子やシスターズは、オルフェの練習相手に必要だ。
だから、大城にしかできない役目であり、「何もない」という日々の報告が作戦の成功を裏付けたのだった。
菜々子やシスターズは、オルフェの練習相手に必要だ。
だから、大城にしかできない役目であり、「何もない」という日々の報告が作戦の成功を裏付けたのだった。
「まあ……そんならいいけどよ」
つっけんどんな口調だったが、大城の顔はまんざらでもなさそうだった。
◆
バトルが終わった後、その衝撃的な勝利の余韻が、いまだに安藤を震わせていた。
自分の両手を見つめている。
手のひらはじっとりと汗ばみ、いまだに細かい震えが止まらない。
それほどに、安藤にとって、今のバトルは衝撃的だった。
自分の両手を見つめている。
手のひらはじっとりと汗ばみ、いまだに細かい震えが止まらない。
それほどに、安藤にとって、今のバトルは衝撃的だった。
百パーセント勝てない、と言われていた対戦だった。
それを覆すために、バトル前から戦いは始まっていた。
知略を尽くした作戦と、それを可能にするための事前の特訓メニュー。
死にものぐるいで身につけた、バトルの基本と技、そして対策のための動き。
オルフェと二人で強敵に挑み続け、戦い抜いた一週間。
その結果、オルフェは、ミスティの必殺技『リバーサル・スクラッチ』さえ、展開したアームで止めることに成功した。
それを覆すために、バトル前から戦いは始まっていた。
知略を尽くした作戦と、それを可能にするための事前の特訓メニュー。
死にものぐるいで身につけた、バトルの基本と技、そして対策のための動き。
オルフェと二人で強敵に挑み続け、戦い抜いた一週間。
その結果、オルフェは、ミスティの必殺技『リバーサル・スクラッチ』さえ、展開したアームで止めることに成功した。
安藤の想い、オルフェの想い、この試合に運命を賭けられた少女の想い、仲間たちの想い、安藤たちを支えてくれた『ポーラスター』の人々の想い。
そして、厳しい訓練を支えた、マスターと神姫の絆。
それらすべてが、この五三秒に結実していた。
そして、厳しい訓練を支えた、マスターと神姫の絆。
それらすべてが、この五三秒に結実していた。
安藤は、はじめて遠野に会ったときの、彼の言葉を思い出す。
「すべての要素が噛み合って、はじめて勝利を手にすることができる」
まったくその通りだった。
すべての要素が噛み合ったとき、まるで流れるように、思った通りに試合は進み、興奮が一気に沸き上がった。
だから、最後の一撃の時、思わず叫んでいた。
そして、試合が終わった今も、震えが止まらない。
すべての要素が噛み合ったとき、まるで流れるように、思った通りに試合は進み、興奮が一気に沸き上がった。
だから、最後の一撃の時、思わず叫んでいた。
そして、試合が終わった今も、震えが止まらない。
アクセスポッドが軽い音を立てて開いた。
「マスター! わたし、勝ちました!」
すぐに、安藤の神姫が顔を出し、彼を見上げてそう言った。
花咲くような笑顔。
安藤はまだ回らない頭で言葉を探しながら、答えた。
花咲くような笑顔。
安藤はまだ回らない頭で言葉を探しながら、答えた。
「そう、そうだな……オルフェ、よくやった……」
口をつく言葉も震えている。
だが、言葉にしたことで、安藤の心の底から、ようやく溢れてくる気持ちがある。
それは歓喜だった。
開いていた両手を握りしめる。
安藤はオルフェを見つめ、笑いかけた。
だが、言葉にしたことで、安藤の心の底から、ようやく溢れてくる気持ちがある。
それは歓喜だった。
開いていた両手を握りしめる。
安藤はオルフェを見つめ、笑いかけた。
「そうだよ、オルフェ、お前は……最高だ!」
「はい!」
「はい!」
興奮気味のマスターに、オルフェも表情いっぱい喜びを露わにした。
◆
「み、認めない……こんなバトル認めないぞ!」
放心していた蜂須が叫びだしたのは、筐体の表示が待機状態に戻ったころだった。
蜂須の怒鳴り声に、歓声が徐々に収まってゆく。
蜂須は顔を真っ赤にして、安藤に大声で文句を付けた。
蜂須の怒鳴り声に、歓声が徐々に収まってゆく。
蜂須は顔を真っ赤にして、安藤に大声で文句を付けた。
「オレが、てめえみたいな初心者に負けるはずがねえ! 今のは練習だ! これから本番、もう一回勝負だっ!」
「ああん? 自分が負けたからって、何勝手こいてんだよ」
「ああん? 自分が負けたからって、何勝手こいてんだよ」
肩をすくめて応じたのは有紀だった。顔に呆れたような笑みを浮かべている。
「ふざけんな、今のは練習だったから、ちょっと油断して手ぇ抜いてたんだよ! そうじゃなきゃ、オレが負けるはずがねえだろ!」
「は、そんなの、油断してたお前が悪いんじゃねーか、明らかに」
「うるせえ! とにかく、今のバトルは無効だ! もう一度勝負しろ!」
「勝ったのに、もう一度バトルしてやる理由がねえだろ、バーカ」
「黙れ、デカ女! オレは安藤に言ってんだよ!」
「は、そんなの、油断してたお前が悪いんじゃねーか、明らかに」
「うるせえ! とにかく、今のバトルは無効だ! もう一度勝負しろ!」
「勝ったのに、もう一度バトルしてやる理由がねえだろ、バーカ」
「黙れ、デカ女! オレは安藤に言ってんだよ!」
蜂須が激しく睨みつけている。
安藤は静かに蜂須を見据えた。そしてはっきり言った。
安藤は静かに蜂須を見据えた。そしてはっきり言った。
「断る」
「なんだとぉ!? てめえ、練習試合で、しかもまぐれで勝っといて、勝ち逃げする気かよ!」
「するさ、勝ち逃げでも何でも。今のは練習じゃない、俺は真剣に戦った。まぐれだって勝ちは勝ちだ。もう二度と、あの条件でバトルする気はない」
「くそっ、卑怯者! だいたい、こっちがノーマル装備で戦ってやってるのに、お前は武装強化しやがって……どこまできたねえんだよ、てめえは!!」
「なんだとぉ!? てめえ、練習試合で、しかもまぐれで勝っといて、勝ち逃げする気かよ!」
「するさ、勝ち逃げでも何でも。今のは練習じゃない、俺は真剣に戦った。まぐれだって勝ちは勝ちだ。もう二度と、あの条件でバトルする気はない」
「くそっ、卑怯者! だいたい、こっちがノーマル装備で戦ってやってるのに、お前は武装強化しやがって……どこまできたねえんだよ、てめえは!!」
その発言に、梨々香が肩をすくめて反論した。
「ノーマル装備で勝ったら、美緒ちゃんにやらしーことするって条件を出したの、そっちじゃない。それで喜んでノーマル装備でバトルしてたのに、相手を卑怯者呼ばわりはないんじゃない?」
すると、ギャラリーが一斉にブーイングをした。
その声があまりにも大きくて、安藤が驚いたほどだ。
ギャラリーはわかっている。卑怯なのは玉虫色の方だということを。
そもそも、彼をいけ好かないと思っている常連は多い。
今まで溜まった鬱憤が、ここで吹き出したのだ。
蜂須は戸惑いながらも、それでもなお食い下がろうとした。
その声があまりにも大きくて、安藤が驚いたほどだ。
ギャラリーはわかっている。卑怯なのは玉虫色の方だということを。
そもそも、彼をいけ好かないと思っている常連は多い。
今まで溜まった鬱憤が、ここで吹き出したのだ。
蜂須は戸惑いながらも、それでもなお食い下がろうとした。
「だ、だったら、今の勝ちは認めてやる。三本勝負にしてやるよ。先に二勝した方が勝ちだ!」
「負けたから三本勝負にするって……小学生じゃあるまいし」
「負けたから三本勝負にするって……小学生じゃあるまいし」
心底呆れた表情で涼子が言う。
ブーイングはさらに強まった。
ブーイングはさらに強まった。
「うるさいうるさいっ! オレは三強だぞ!? このゲーセンで三本の指には入る強さなんだぞ!? こんな初心者のバカに負けたなんて認めるか!」
「……いい加減にしとけ、玉虫色の。もうお前は三強とは呼べん」
「な、なんだと……!?」
「……いい加減にしとけ、玉虫色の。もうお前は三強とは呼べん」
「な、なんだと……!?」
蜂須は驚いて、その声の主に顔を向けた。
ギャラリーの中に立っているその人物は、坊主頭で筋肉質の男だった。
彼は、蜂須と同じ『三強』の一人、『ヘルハウンド・ハウリング』のマスター・伊達正臣である。
ギャラリーの中に立っているその人物は、坊主頭で筋肉質の男だった。
彼は、蜂須と同じ『三強』の一人、『ヘルハウンド・ハウリング』のマスター・伊達正臣である。
「な、何言ってんだよ、ヘルハウンド……」
「初心者に油断して後れを取ったヤツに、三強を名乗る資格なんかない。しかも、女を弄ぶ権利を賭けてのハンデ戦なんて……バトルに対して誠意がないにもほどがある」
「あんなのはまぐれだ! ただのまぐれ、運が良かっただけだ!」
「本当にそう思ってるのか、玉虫色の」
「な、なんだよ……」
「あの戦い方を見て、なんとも思わなかったのか。
そこのアルトレーネ・タイプは、戦う前から作戦を立て、きっちり準備してお前とのバトルに望んだ。お前が実力差に溺れて、油断してくることも計算に入れて、な。
そのくらい、端から見てたってわかる。
初心者の彼の方が、よほどバトルに誠意があったぞ」
「初心者に油断して後れを取ったヤツに、三強を名乗る資格なんかない。しかも、女を弄ぶ権利を賭けてのハンデ戦なんて……バトルに対して誠意がないにもほどがある」
「あんなのはまぐれだ! ただのまぐれ、運が良かっただけだ!」
「本当にそう思ってるのか、玉虫色の」
「な、なんだよ……」
「あの戦い方を見て、なんとも思わなかったのか。
そこのアルトレーネ・タイプは、戦う前から作戦を立て、きっちり準備してお前とのバトルに望んだ。お前が実力差に溺れて、油断してくることも計算に入れて、な。
そのくらい、端から見てたってわかる。
初心者の彼の方が、よほどバトルに誠意があったぞ」
その言葉に、蜂須は激昂した。
「うるせえよ、ヘルハウンド、オレを裏切る気か!?」
「味方ができないような状況にしたのは、おまえ自身だ」
「味方ができないような状況にしたのは、おまえ自身だ」
伊達は蜂須の言葉を静かに受け流した。
そして、淡々と言葉を続ける。
そして、淡々と言葉を続ける。
「最近じゃ、三強の株はガタ落ちだ。
『エトランゼ』とのバトルじゃ一方的に負け、『アーンヴァル・クイーン』には相手さえしてもらえず、虎実は俺たちを押しのけてランバト一位獲得……。
それで今日は、初心者に後れを取って敗北……三強という称号にとどめを刺したのはお前だ、玉虫色」
『エトランゼ』とのバトルじゃ一方的に負け、『アーンヴァル・クイーン』には相手さえしてもらえず、虎実は俺たちを押しのけてランバト一位獲得……。
それで今日は、初心者に後れを取って敗北……三強という称号にとどめを刺したのはお前だ、玉虫色」
蜂須は愕然とした表情のまま言葉もない。
ギャラリーも、伊達の言葉に、静かに耳を傾けていた。
ギャラリーも、伊達の言葉に、静かに耳を傾けていた。
「今日限り、『三強』という称号をおしまいにする。俺はもう、そう呼ばれるのをやめる。今日からはただの『ヘルハウンド・ハウリング』だ。そしてもう一度ランバト一位を目指す。お前も一神姫プレイヤーに戻れ」
「冗談じゃねぇ! てめえ、勝手に決めんな……」
「冗談じゃねぇ! てめえ、勝手に決めんな……」
蜂須の声が尻すぼみになる。
彼の声をかき消して、ギャラリーから時ならぬ拍手が起こったからだ。
皆、ヘルハウンドの潔さを賞賛していた。
伊達はそのまま、蜂須に背を向けて、ギャラリーの中に消えた。
その隙間から、こちらを見て首を振り、やはり背を向けた男が見える。
もう一人の三強『ブラッディ・ワイバーン』のマスターだった。
蜂須は呆然とする。
彼も伊達と同意見と言うことだった。
彼の声をかき消して、ギャラリーから時ならぬ拍手が起こったからだ。
皆、ヘルハウンドの潔さを賞賛していた。
伊達はそのまま、蜂須に背を向けて、ギャラリーの中に消えた。
その隙間から、こちらを見て首を振り、やはり背を向けた男が見える。
もう一人の三強『ブラッディ・ワイバーン』のマスターだった。
蜂須は呆然とする。
彼も伊達と同意見と言うことだった。
「認めねぇ……」
蜂須はようやくに声を絞り出し、安藤たちを憎悪の視線で睨んだ。
「こんなの、俺は絶対に認めねぇぞ! ちくしょうっ! 覚えてろよ、てめえら……っ!!」
捨てぜりふを残し、蜂須はゲーセンから小走りに立ち去った。
あとに、彼のチームのメンバーたちが続く。
こうして、『ノーザンクロス』における、三強の体制が崩壊したのだった。
あとに、彼のチームのメンバーたちが続く。
こうして、『ノーザンクロス』における、三強の体制が崩壊したのだった。
◆
「自分から三強やめるなんてな……遠野、ここまで予想してたのか?」
「まさか。……だが、俺たちの望んだとおりになった。結果オーライだ」
「まさか。……だが、俺たちの望んだとおりになった。結果オーライだ」
腕を組んで、遠野は静かにそう言った。
菜々子は隣でそっと微笑んでいる。
三人は視線をかわし、静かに笑った。
やがて、安藤がLAシスターズの四人と共に、こちらへとやってきた。
安藤と美緒は並んで遠野の前に立つ。
菜々子は隣でそっと微笑んでいる。
三人は視線をかわし、静かに笑った。
やがて、安藤がLAシスターズの四人と共に、こちらへとやってきた。
安藤と美緒は並んで遠野の前に立つ。
「遠野さん、ありがとうございました!」
二人は深々とお辞儀する。
二人の後ろでは、シスターズの三人もかしこまって礼をした。
安藤は遠野に心から感謝していた。彼の策がなければ、今頃本当にどうなっていたのか分からない。
だが、顔を上げた安藤に、遠野は手を振って言った。
二人の後ろでは、シスターズの三人もかしこまって礼をした。
安藤は遠野に心から感謝していた。彼の策がなければ、今頃本当にどうなっていたのか分からない。
だが、顔を上げた安藤に、遠野は手を振って言った。
「あー、お礼なんかいい。俺は大したことは何もしてないし」
「え……でも、遠野さんの策と訓練メニューがなければ……」
「あんなのは、偉そうに命令してただけだろ。礼を言うならむしろ、協力してくれた八重樫さんたちと、久住さん、大城にしてくれ」
「え……でも、遠野さんの策と訓練メニューがなければ……」
「あんなのは、偉そうに命令してただけだろ。礼を言うならむしろ、協力してくれた八重樫さんたちと、久住さん、大城にしてくれ」
ぶっきらぼうな口調に、安藤は困ってしまった。
後ろで吹き出す音がする。
涼子だった。
彼女は安藤に耳打ちするように、
後ろで吹き出す音がする。
涼子だった。
彼女は安藤に耳打ちするように、
「照れくさいのよ、師匠は」
と言った。
なるほど、明後日の方向に視線を投げているのは、実は照れ隠しなのか。
陸戦トリオにLAシスターズ、そして安藤が、ようやく緊張を緩め、誰もが笑っていた。
ようやく訪れた、穏やかな時間。
ふと、遠野がこんなことを言い出した。
なるほど、明後日の方向に視線を投げているのは、実は照れ隠しなのか。
陸戦トリオにLAシスターズ、そして安藤が、ようやく緊張を緩め、誰もが笑っていた。
ようやく訪れた、穏やかな時間。
ふと、遠野がこんなことを言い出した。
「チームを作るか……」
その場にいた全員が、思わず遠野を凝視する。
実は以前から、菜々子や大城が「武装神姫のチームを組もう」と言っていた。
しかし、遠野はそれに乗らなかった。彼はバトルロンドで勝敗にこだわっていない。だからチームを組むメリットがない、現状維持で十分、というのがその理由だった。
ところが、遠野が自分から言い出したのだから、驚いて当然である。
実は以前から、菜々子や大城が「武装神姫のチームを組もう」と言っていた。
しかし、遠野はそれに乗らなかった。彼はバトルロンドで勝敗にこだわっていない。だからチームを組むメリットがない、現状維持で十分、というのがその理由だった。
ところが、遠野が自分から言い出したのだから、驚いて当然である。
「どうしたの、急に?」
「今回の件で、気が変わった。
……どうも俺は、誰かの世話を焼くのに、自分が納得の行く理由が必要らしい。
チームメイトなら、理由には十分だろう?」
「今回の件で、気が変わった。
……どうも俺は、誰かの世話を焼くのに、自分が納得の行く理由が必要らしい。
チームメイトなら、理由には十分だろう?」
菜々子がと大城は、顔を見合わせ、同時に遠野を見た。
珍しく、優しい表情で皆を見渡している。
すると二人は、先を争うように、焦りながら遠野に尋ねた。
珍しく、優しい表情で皆を見渡している。
すると二人は、先を争うように、焦りながら遠野に尋ねた。
「それで、わたしは数に入ってる!?」
「俺は、俺はメンツに入れるんだろうな!?」
「……君らがいなくて、どうやってチーム作れって言うんだ、俺に」
「俺は、俺はメンツに入れるんだろうな!?」
「……君らがいなくて、どうやってチーム作れって言うんだ、俺に」
遠野は不思議そうな顔をしてそう言った。
二人は喜びのあまりハイタッチなんかしている。
わけがわからない。
遠野にしてみれば、二人がいなければ最低限のチームにもならず、むしろ困る。
だが、自分のチームのメンバーになっても、大してメリットがない。これからはじめる弱小チームだ。
チームメイトになったところで、喜ばしいなどとは、到底思えないのだった。
ところが、二人よりも焦っている人物がいた。
遠野の一番弟子を自称する涼子は、胸ぐらを掴みあげかねないような勢いで詰め寄った。
二人は喜びのあまりハイタッチなんかしている。
わけがわからない。
遠野にしてみれば、二人がいなければ最低限のチームにもならず、むしろ困る。
だが、自分のチームのメンバーになっても、大してメリットがない。これからはじめる弱小チームだ。
チームメイトになったところで、喜ばしいなどとは、到底思えないのだった。
ところが、二人よりも焦っている人物がいた。
遠野の一番弟子を自称する涼子は、胸ぐらを掴みあげかねないような勢いで詰め寄った。
「遠野さん、わたしは!? 私はチームに入れますか!?」
続いて、他の三人も遠野に詰め寄る。
「わたしも遠野さんのチームに入れてもらえませんか?」
「あたしは菜々子さんの一番弟子だから、当然入れてもらえますよね!?」
「わたしだけ仲間外れはなしです!」
「あたしは菜々子さんの一番弟子だから、当然入れてもらえますよね!?」
「わたしだけ仲間外れはなしです!」
美少女四人に詰め寄られ、遠野はどん引きしていた。
なんでそんな必死な顔して、俺のチームに入りたがるのか。
そんな疑問を払拭しきれなかったが、それでも遠野はこう言った。
なんでそんな必死な顔して、俺のチームに入りたがるのか。
そんな疑問を払拭しきれなかったが、それでも遠野はこう言った。
「ああ……君らなら、断る理由がない」
四人は、きゃー、と喜びの声を上げた。
元からLAシスターズは誘う予定だったので、ある意味予定通りだったが、どうにも解せないといった表情で、遠野は首を傾げた。
当人は気が付いていないが、あの『ハイスピードバニー』がチームを組むと言って、メンバーがその名を知られた『エトランゼ』と、現ランキングバトル・チャンピオンだったら、このゲームセンターで注目を集めない方がおかしいというものである。
元からLAシスターズは誘う予定だったので、ある意味予定通りだったが、どうにも解せないといった表情で、遠野は首を傾げた。
当人は気が付いていないが、あの『ハイスピードバニー』がチームを組むと言って、メンバーがその名を知られた『エトランゼ』と、現ランキングバトル・チャンピオンだったら、このゲームセンターで注目を集めない方がおかしいというものである。
「で、俺から一つ、メンバーのみんなに提案があるんだけど」
ひとしきり騒ぎが収まったところで、遠野はみんなに向かってこう言った。
「このメンバーだと、チームで飛行能力を持つ神姫が圧倒的に不足してる。そこで、『三強』を倒した期待のルーキーをスカウトしようと思うんだが……どうかな?」
遠野はメンバーをぐるりと見回したあと、安藤に視線を投げた。
口元に笑みを浮かべてみせる。
メンバーは皆、笑って頷いていた。
ああ、そうか。
なぜ、美緒たち四人が、遠野のことを尊敬しているのか。
安藤はようやく分かった気がした。
口元に笑みを浮かべてみせる。
メンバーは皆、笑って頷いていた。
ああ、そうか。
なぜ、美緒たち四人が、遠野のことを尊敬しているのか。
安藤はようやく分かった気がした。
◆
「俺は、武装神姫を続けるよ」
数日後。
すでに恒例と化した、屋上での昼食。
美緒が持ってきた手作りのお弁当を、満面の笑みで食べ尽くしたあと、安藤がそう言ったのである。
すでに恒例と化した、屋上での昼食。
美緒が持ってきた手作りのお弁当を、満面の笑みで食べ尽くしたあと、安藤がそう言ったのである。
「チームに入るの?」
「うん。誘われたってのもあるけど……あの遠野さんに付いていきたいと思ったんだ。
それに、この間の対戦が忘れられない。……バトルロンドって、すごく面白いよな」
「うん。誘われたってのもあるけど……あの遠野さんに付いていきたいと思ったんだ。
それに、この間の対戦が忘れられない。……バトルロンドって、すごく面白いよな」
微笑みながら言う安藤は、いつもながら爽やかだ。
美緒はそんな彼をまぶしそうに見つめた。
ふと、思いついたことを口にする。
美緒はそんな彼をまぶしそうに見つめた。
ふと、思いついたことを口にする。
「でも、玉虫色との対戦……なんであんなに頑張ってくれたの?」
美緒が傍目に見ても、クインビーとの対戦までの一週間の訓練スケジュールはスパルタだった。
一週間でエトランゼの必殺技を受け止めようなんて、無謀すぎる。
しかし、遠野の提示した訓練メニューを、安藤とオルフェは忠実に、そして完璧に実行したのだった。
それは並大抵の努力ではない。
安藤は、少し口ごもるように、答えた。
一週間でエトランゼの必殺技を受け止めようなんて、無謀すぎる。
しかし、遠野の提示した訓練メニューを、安藤とオルフェは忠実に、そして完璧に実行したのだった。
それは並大抵の努力ではない。
安藤は、少し口ごもるように、答えた。
「ああ、それはさ……好きな女の子守るためなら……やるよ」
「…………え?」
「俺、八重樫のこと好きだから」
「…………え?」
「俺、八重樫のこと好きだから」
彼女自身が予言したとおり。
美緒の視界の中で、天と地がひっくり返った。
美緒の視界の中で、天と地がひっくり返った。
「お、おい、八重樫! 大丈夫か!?」
美緒はあまりのことに卒倒した。
そして、美緒を抱き起こす安藤の視界の外。
盗聴していた数十人の女子は、一斉に卒倒していた。
そして、美緒を抱き起こす安藤の視界の外。
盗聴していた数十人の女子は、一斉に卒倒していた。
◆
安藤智哉にとって、八重樫美緒は、理想の彼女像の塊だった。
安藤の姉・智美は、智哉にとってコンプレックスの対象である。
外ではカリスマモデルとして活躍する姉であるが、家では男勝りで乱暴、弟を顎で使う傍若無人な人物だ。
しかも、美人でスタイルもよく、頭もいいし運動もできる。そして、溢れ出るカリスマ性。
いつしか、智哉の嫌いな女性像は姉・智美になっていた。
彼女にするなら、大人しい女の子がいい。図書館で本を読むのが似合うような、知的な美人だ。
スタイルはいいに越したことはないが、姉のようなモデル体型の痩せぎすはごめんだった。健康的なスタイルの女の子がいい。
そして、性格は優しいのがいい。明るくて、気遣いができて、落ち着いた性格の女の子。
姉とは全く正反対。
そんな都合のいい女子がいるだろうか?
いるはずがなかった。なにしろ、世の女性は皆、Tomomiのようになりたいと思い、ファッション雑誌を買うのだから。
だが、安藤は出会ってしまった。
高校入学の日、クラスメイトになった女の子。
八重樫美緒は、彼の理想のすべてを兼ね備えていた。
つまり、安藤は美緒に一目惚れだったのだ。
安藤の姉・智美は、智哉にとってコンプレックスの対象である。
外ではカリスマモデルとして活躍する姉であるが、家では男勝りで乱暴、弟を顎で使う傍若無人な人物だ。
しかも、美人でスタイルもよく、頭もいいし運動もできる。そして、溢れ出るカリスマ性。
いつしか、智哉の嫌いな女性像は姉・智美になっていた。
彼女にするなら、大人しい女の子がいい。図書館で本を読むのが似合うような、知的な美人だ。
スタイルはいいに越したことはないが、姉のようなモデル体型の痩せぎすはごめんだった。健康的なスタイルの女の子がいい。
そして、性格は優しいのがいい。明るくて、気遣いができて、落ち着いた性格の女の子。
姉とは全く正反対。
そんな都合のいい女子がいるだろうか?
いるはずがなかった。なにしろ、世の女性は皆、Tomomiのようになりたいと思い、ファッション雑誌を買うのだから。
だが、安藤は出会ってしまった。
高校入学の日、クラスメイトになった女の子。
八重樫美緒は、彼の理想のすべてを兼ね備えていた。
つまり、安藤は美緒に一目惚れだったのだ。
◆
こうして、安藤を巡る闘争は終わりを告げた。
女子連は、戦う前から、美緒に敗れていたのだった。
戦いは、いつも、むなしい。
女子連は、戦う前から、美緒に敗れていたのだった。
戦いは、いつも、むなしい。
(少女と神姫と初恋と・おわり)
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