――3時15分。
「待ち人、現れず」
相手は一向に現れなかった。待ち惚けにも程がある。
「確かに遅いですね。何か、あったんでしょうか?」
柏木さんも、とっくに筐体の調整を終わらせて、パソコンをいじっている。
「仁さん、その人、電車で来るの?」
「いえ、徒歩のハズです」
「いえ、徒歩のハズです」
電車であれば、電車が遅れているということも有り得るのだが、徒歩ともなれば話が違う。
「心配」
「だね。一体どうしたんだろう」
「だね。一体どうしたんだろう」
シリアも同意見らしい。
「何か予定でもはいったんでしょうかね~」
「いえ、でしたら連絡の一つくらいあるハズです」
「いえ、でしたら連絡の一つくらいあるハズです」
柏木さんもパソコンから顔を上げ、店のドアの方を見る。しかし、一向に誰かが来る気配はない。
「連絡したら? 仁さん、向こうの電話番号わかってるんでしょ?」
「そうですね、かけてみましょうか」
「そうですね、かけてみましょうか」
柏木さんが電話の方に向かった、その時だった。ゆっくりと扉が開く音がした。
「あ、あの遅れてすみません……」
まるで遅刻して気まずそうに教室に入る小学生だと思ったら、本当に小学生だった。私より背が小さく、すこし長い髪を左右でまとめている。
「絵美ちゃん! 久しぶりね~元気?」
「あ、華凛お姉ちゃん!」
「あ、華凛お姉ちゃん!」
絵美と呼ばれた少女は、華凛の元に走って行った。そのまま華凛の服に顔を埋める。
「華凛、妹?」
「違う違う。この子は南絵美(みなみ えみ)ちゃん。仁さんの姪っ子だよ」
「はじめまして。南絵美です。その、よろしく……です」
「違う違う。この子は南絵美(みなみ えみ)ちゃん。仁さんの姪っ子だよ」
「はじめまして。南絵美です。その、よろしく……です」
初対面の相手に緊張しているのか、絵美と名乗った少女は緊張気味に挨拶をする。
「私は、奏萩樹羽。よろしく」
私も挨拶をする。どうにも初対面の相手だと、たとえ年下でも素っ気なくなってしまう。わかってはいるのだが、こればっかりは直しても直りそうにない。
「シリアも、挨拶する?」
私は自分の肩に乗る相棒に聞いた。
「うん、そうだね。私は樹羽の神姫のシリア。樹羽は素っ気なく見えるけど、いい人だから、安心していいよ」
「は、はい……」
「は、はい……」
シリアのフォローも、あまり効果はないように見える。未だに華凛の影に隠れるようなポジションだ。
そんな彼女の態度を叱咤する声があった。
そんな彼女の態度を叱咤する声があった。
「絵美? 人と話す時はまず相手の顔を見る。相手に失礼でしょう?」
今のは華凛ではない。声は彼女のポーチから聞こえてきた。それは、ポーチから頭だけ覗かせていた。
確か、マーメイド型のイーアネイラタイプ。ポニーテールになっている水色の髪が目立つ。シリアと同じ、マジックマーケットの神姫だった筈だ。
確か、マーメイド型のイーアネイラタイプ。ポニーテールになっている水色の髪が目立つ。シリアと同じ、マジックマーケットの神姫だった筈だ。
「ご、ごめんアイラ……」
「わかればよろしい。さ、絵美。私も樹羽さんに挨拶するからあげて」
「わかればよろしい。さ、絵美。私も樹羽さんに挨拶するからあげて」
アイラと呼ばれた神姫は少女のポーチからその手に乗る。そして、丁寧にお辞儀をしてから自己紹介をした。
「はじめまして。私はアイラと申します。絵美は人見知りが激しくて……、気を悪くしないでくださいね?」
「気にしてない。大丈夫」
「気にしてない。大丈夫」
別に嘘でもなく事実なのだが、どうしても気にしているように聞こえるらしい。その証拠に、まだ少女は華凛の影隠れている。
どうしようかと思った矢先に、柏木さんが奥から戻ってきた。
どうしようかと思った矢先に、柏木さんが奥から戻ってきた。
「あ、絵美さん。いらっしゃい」
「お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!」
柏木さんの登場に、絵美ちゃんの表情が明るくなる。
「柏木さんにこんな可愛い娘がいたとは」
「娘じゃなくて、彼女は僕の姪ですよ」
「樹羽、さっきもそう説明されたよね?」
「娘じゃなくて、彼女は僕の姪ですよ」
「樹羽、さっきもそう説明されたよね?」
肩からツッコミが入る。
「健忘病」
「病院行く?」
「冗談」
「病院行く?」
「冗談」
その時、華凛の後ろからクスクスと笑い声が聞こえてきた。どうやら、うまいこと緊張をほぐせたらしい。
「お姉ちゃん、その、仲良くしてくれる?」
絵美ちゃんはまだビクビクしてはいたが、それでも近付いてこようとする姿勢は見せてきた。
「うん、友達」
絵美ちゃんの表情が明るくなる。小さい女の子の相手は慣れていないが、多分こんな感じでいいんだろう。
「あぁ、麗しき友情……いいですねぇ」
エリーゼも感慨深そうにうなずいている。
絵美ちゃんのポーチの中で。
「え、エリーゼさんっ!?」
「あらあら、いつの間に……」
「う~ん、やっぱり反応が返ってくるのは華凛さんと絵美さんだけですね。しかも店長ならわかりますが樹羽さんにいたっては初めから驚いてくれませんでしたし」
「あらあら、いつの間に……」
「う~ん、やっぱり反応が返ってくるのは華凛さんと絵美さんだけですね。しかも店長ならわかりますが樹羽さんにいたっては初めから驚いてくれませんでしたし」
実際は驚いていたことは伏せておく。
「まぁ、両者揃ったところで、ぼちぼち神姫バトルといきましょうか」
柏木さんは半場強引に流れを変え、私達を筺体のある練習用のブースに案内した。まぁ今回の本来の目的はそれだから何の問題もないのだが。
「そういえば、絵美さんは神姫バトルを始めてどれくらいなんですか?」
バトル前にシリアが絵美ちゃんに尋ねる。相手の実力の確認、と言ったところだろうか?
「えっと、一年とちょっとです」
365日+αと考えていいかも知れない。毎日バトルしていたわけじゃないだろうが、少なくともそれだけ神姫と一緒にいるのだ。息は合っていると思う。
「でも、負けない」
「うん、私と樹羽だって負けないよ。たとえ出会ったのは数日前でも、大切なのは時間じゃない。如何に自分のバートナーを理解し、信頼しているかだよ!」
「でも、気持ちだけじゃ勝てない」
「うん、私と樹羽だって負けないよ。たとえ出会ったのは数日前でも、大切なのは時間じゃない。如何に自分のバートナーを理解し、信頼しているかだよ!」
「でも、気持ちだけじゃ勝てない」
だから、と私は繋ぐ。
「全力で戦う」
シリアが筺体の中に滑り込む。ポッドが筺体の中に格納され、私もコード付きのヘッドギアを装着する。
『準備出来たよ、樹羽』
耳元のスピーカーからシリアの声が聞こえる。
「こっちも」
後は手元のボタンを押すだけ。それだけで、私の精神は神姫の世界へと飛ぶことができる。
「いくよ」
『OK、頑張ろうね』
『OK、頑張ろうね』
ボタンが沈み込む。
『神姫ライドシステムを起動します。マスターは椅子に深く腰掛けてください』
機械のアナウンスが入り、私は無意識に緊張する。
何度やっても、これは慣れない。
何度やっても、これは慣れない。
『カウントダウンを開始します。10、9、8、7…』
カウントダウンとは何故こうもドキドキするのだろう。
0になった瞬間の感覚は、割りと好きだったりする。時限爆弾とかは勘弁して欲しいが。
0になった瞬間の感覚は、割りと好きだったりする。時限爆弾とかは勘弁して欲しいが。
『…3、2、1、0、RideOn―――』
そして、私の意識は闇に沈んだ――。