SHINKI/NEAR TO YOU
Phase02-1
Phase02-1
快晴の青空の下、シュンとゼリスは群衆の織り成す熱気なかで揉みくちゃになっていた。
「連休の最終日だってのに、なんでこんなに大勢集まってるんだ?」
人のうねりが作り出す流れ。その隙間を縫うように進みながら、シュンが辟易として呟く。
「連休の最終日だってのに、なんでこんなに大勢集まってるんだ?」
人のうねりが作り出す流れ。その隙間を縫うように進みながら、シュンが辟易として呟く。
「それだけ武装神姫の人気がある証でしょう。良いことではないですか」
それに答える声は文字通り、彼の頭上から降ってきた。
すっかり外出時における彼女の定位置と化した少年の頭の上に座って、ゼリスは呑気な感想を述べる。
「あのなゼリス。……今日何をしに来たか分かってるんだよな?」
そんな相棒に釘を指す意味でシュンは問いかける。
それに対しゼリスは「何を今さら?」といった態度で、はっきりと宣言した。
「この大会で優勝するために決まっているでしょう?」
シュンはやれやれと肩をすくめる。
それから中身を確かめるように、肩から下げたクォーターバックを背負い直す。バックのなかに入っている〝これ〟がどこまで通用するのか。不安な気持ちもあるけれど……
すっかり外出時における彼女の定位置と化した少年の頭の上に座って、ゼリスは呑気な感想を述べる。
「あのなゼリス。……今日何をしに来たか分かってるんだよな?」
そんな相棒に釘を指す意味でシュンは問いかける。
それに対しゼリスは「何を今さら?」といった態度で、はっきりと宣言した。
「この大会で優勝するために決まっているでしょう?」
シュンはやれやれと肩をすくめる。
それから中身を確かめるように、肩から下げたクォーターバックを背負い直す。バックのなかに入っている〝これ〟がどこまで通用するのか。不安な気持ちもあるけれど……
(ユウ、こいつにも期待してるぞ)
ゼリスの反応が頼もしく感じられたのか、それとも周囲の熱気にあてられたのか。
シュンは会場に近づくにつれ不安とは別の意味で自分の気持ちが昂ぶっていくのを感じていた。
シュンは会場に近づくにつれ不安とは別の意味で自分の気持ちが昂ぶっていくのを感じていた。
*
関東の首都圏から幾分離れた丘陵地帯に、摩耶野市という街がある。
今や多数の企業や研究施設が誘致された学術研究都市として多くの人々が暮すその街は、市の中心に公共施設や大型商業施設の集まった中央区があり、それを取り巻くように多くの民家や集合住宅が集まった住宅地区が広がっていた。
その住宅地区では今、そこかしこの住宅から鯉のぼりが上げられている。
その姿は街に色を添え、年に一度のゴールデンウィークの到来を告げていた。
今や多数の企業や研究施設が誘致された学術研究都市として多くの人々が暮すその街は、市の中心に公共施設や大型商業施設の集まった中央区があり、それを取り巻くように多くの民家や集合住宅が集まった住宅地区が広がっていた。
その住宅地区では今、そこかしこの住宅から鯉のぼりが上げられている。
その姿は街に色を添え、年に一度のゴールデンウィークの到来を告げていた。
そんな若葉の匂いも心地よい四月末の日曜日。
とある一軒家の庭先で、ひとりの少年がのどかな雰囲気とは対照的に真剣な顔でPDA(携帯情報端末)を開いていた。
庭には段ボールを継ぎ接ぎしたオブジェクトが鎮座している。造りは荒いものの各所に凹凸や障害物が設置されたそれは、彼の手による自作のテストフィールドなのだ。
とある一軒家の庭先で、ひとりの少年がのどかな雰囲気とは対照的に真剣な顔でPDA(携帯情報端末)を開いていた。
庭には段ボールを継ぎ接ぎしたオブジェクトが鎮座している。造りは荒いものの各所に凹凸や障害物が設置されたそれは、彼の手による自作のテストフィールドなのだ。
「よし、次の動作チェックいくぞ」
少年の呼びかけに応じ、段ボールの上で小さな影が動く。
全長15cmほどの、褐色の肌に青と白のボディースーツをまとったオートマトン。
名前はゼリス。
彼女は彼――有馬シュンの武装神姫だ。
少年の呼びかけに応じ、段ボールの上で小さな影が動く。
全長15cmほどの、褐色の肌に青と白のボディースーツをまとったオートマトン。
名前はゼリス。
彼女は彼――有馬シュンの武装神姫だ。
ゼリスは青いポニーテールを揺らしながら、テストフィールドを軽快に飛び跳ねる。
今ゼリスが身につけているのは、ハンドメイドの試作武装パーツだ。成形色も新しい試作武装。その性能を楽しむように、ゼリスは次々とアクロバティックな動きを披露する。
今ゼリスが身につけているのは、ハンドメイドの試作武装パーツだ。成形色も新しい試作武装。その性能を楽しむように、ゼリスは次々とアクロバティックな動きを披露する。
「実際に使ってみてどうだ、調子は?」
「……そうですね。若干肩アーマーの反応が遅いかもしれません」
ゼリスは段ボールのフィールドから大きくジャンプし、空中で繰る繰る回転しながらベランダに着地する。それから確認するように何度か肩を回した。
シュンの目には問題ない動きに見えるが、ゼリスは納得がいってない様子。
肩部にマウントされている馬蹄状のユニット。棒状のスラスターを備えたそれは、このハンドメイド武装の要になるパーツだ。それだけに確かに調整は念入りに行なうべきだった。
シュンはゼリスの隣に腰を下ろし、PDAにチェック内容を入力していく。
「……そうですね。若干肩アーマーの反応が遅いかもしれません」
ゼリスは段ボールのフィールドから大きくジャンプし、空中で繰る繰る回転しながらベランダに着地する。それから確認するように何度か肩を回した。
シュンの目には問題ない動きに見えるが、ゼリスは納得がいってない様子。
肩部にマウントされている馬蹄状のユニット。棒状のスラスターを備えたそれは、このハンドメイド武装の要になるパーツだ。それだけに確かに調整は念入りに行なうべきだった。
シュンはゼリスの隣に腰を下ろし、PDAにチェック内容を入力していく。
「ふたりとも~、お茶持ってきたよ~♪」
彼が書き込みを終えると同時に、ベランダにおさげの少女がやってきた。シュンの妹である有馬由宇だ。
由宇は両手でお盆を持ったまま、器用に片方の足で引き戸を閉めてシュンの隣に座る。
我が妹ながら、いいタイミングだ。テストもひと段落ついたところで休憩には丁度いい。……女の子が片足で戸を開け閉めするのはどうかと思うけどな。
「はい、ぜっちゃんには疲れたときのクーラントだよ」
「ユウ、ありがとうございます」
ゼリスは軽くジャンプすると由宇のつまむヂェリカンを空中で巧みにキャッチし、そのままふたりの間にちょこんと座る。
由宇は両手でお盆を持ったまま、器用に片方の足で引き戸を閉めてシュンの隣に座る。
我が妹ながら、いいタイミングだ。テストもひと段落ついたところで休憩には丁度いい。……女の子が片足で戸を開け閉めするのはどうかと思うけどな。
「はい、ぜっちゃんには疲れたときのクーラントだよ」
「ユウ、ありがとうございます」
ゼリスは軽くジャンプすると由宇のつまむヂェリカンを空中で巧みにキャッチし、そのままふたりの間にちょこんと座る。
ちなみにヂェリカンとは神姫専用の嗜好品で、今ゼリスが受け取ったクーラント・ヂェリーは飲むとクールダウン効果が得られる。前にゼリスに聞いてみたら、お茶みたいな味で結構おいしいらしい。……いや、僕は人間だから決して飲んだりはしないけどな。
「テストの調子はどう?」
「やっぱり肩部ユニットの調整が必要みたいだな……」
シュンは冷えたアイスティーを受け取る代わりに、PDAを由宇にパスする。受け取った由宇は表示されたデータに目を通しながら「むむむぅ~」と眉を寄せた。
うーん、妹よ。武装神姫用の武装セットをいきなり自作するってのは、流石にハードルが髙かったんじゃないのか?
「やっぱり肩部ユニットの調整が必要みたいだな……」
シュンは冷えたアイスティーを受け取る代わりに、PDAを由宇にパスする。受け取った由宇は表示されたデータに目を通しながら「むむむぅ~」と眉を寄せた。
うーん、妹よ。武装神姫用の武装セットをいきなり自作するってのは、流石にハードルが髙かったんじゃないのか?
ゼリスは数週間前に有馬家の一員となった。
しかし、ここで問題がひとつ。彼女には専用の武装パーツがセットされていなかったのだ。
そこで自称〝美少女神姫マイスター〟の妹、由宇が自作武装を作ると宣言したのだが、こいつにとっても武装パーツを一から自作するのは初めてのこと。
それでもなんとか一通り武装の組み立ては終わったものの、今は各部の調整作業に手間取っている状態。
シュンもできる限り妹に協力しようと、パーツの買い出しやこうしてテストを手伝ったりしている。しかし、これがなかなかうまくかない。
完成まで至らないうちに、気づけばもう四月も終わりだ。
週末からはゴールデンウィークに入る。由宇はもちろん、シュンにとってもなんとかこの連休中にテストを完了させるのが目標となっていた。
しかし、ここで問題がひとつ。彼女には専用の武装パーツがセットされていなかったのだ。
そこで自称〝美少女神姫マイスター〟の妹、由宇が自作武装を作ると宣言したのだが、こいつにとっても武装パーツを一から自作するのは初めてのこと。
それでもなんとか一通り武装の組み立ては終わったものの、今は各部の調整作業に手間取っている状態。
シュンもできる限り妹に協力しようと、パーツの買い出しやこうしてテストを手伝ったりしている。しかし、これがなかなかうまくかない。
完成まで至らないうちに、気づけばもう四月も終わりだ。
週末からはゴールデンウィークに入る。由宇はもちろん、シュンにとってもなんとかこの連休中にテストを完了させるのが目標となっていた。
アイスティーで喉を潤しながら横目でゼリスを見やる。
ゼリスはクーラントヂェリーをこくこく飲みながら、由宇と一緒にPDAを覗き込んでいる。
その真剣な表情から他ならぬゼリス自身が一番、この自分専用武装パーツの完成を待ち望んでいることは間違いない。
ゼリスのためにもできる限り頑張りたいのだが……由宇みたいにパーツの設計や製作ができないシュンがやる気になったところで、せいぜい細々とした作業の手伝いくらいしかできない。それがもどかしい。
ゼリスはクーラントヂェリーをこくこく飲みながら、由宇と一緒にPDAを覗き込んでいる。
その真剣な表情から他ならぬゼリス自身が一番、この自分専用武装パーツの完成を待ち望んでいることは間違いない。
ゼリスのためにもできる限り頑張りたいのだが……由宇みたいにパーツの設計や製作ができないシュンがやる気になったところで、せいぜい細々とした作業の手伝いくらいしかできない。それがもどかしい。
(僕も由宇みたいに、そっちの知識をもっと増やすべきなのかもな……)
そんなことを考えながら、いつの間にか空を仰いでいた視線を戻す。
すると、真向いの住居からこちらに歩いてくる人影が見えた。有馬家のお隣さんであり、シュンの幼馴染でクラスメイトでもある少女――伊吹舞だ。
「はろ~、シュッちゃーん♪」
「どうしたんだよ、伊吹?」
満面の笑みで現れた伊吹に、シュンは内心呆れつつ答える。……きっとこいつには悩みとかないんだろうなあ。
そんなシュンの思いなど知らぬ伊吹は、由宇とゼリスに「やっほー。ユウちゃん、ぜっちゃん、元気~?」と気さくに挨拶を交わしている。
「……ふ~ん。ひょっとして、例のぜっちゃん専用武装のテスト中だった?」
「はい。現在予定シークエンスを終了し、クールダウンを行っています」
ゼリスの返答に伊吹は「やっぱりね」と納得顔。こう見えて伊吹は摩耶野市でも有数の武装神姫マスターだ。数少ない女性ユーザーの上位ランカーということで、その界隈ではちょっとした有名人であるらしい。
ゼリスのマスターになった際にも、伊吹には先輩マスターとしていろいろ助言してもらっている。そのためかゼリスも伊吹のことを信頼しているようだけど……マスターである僕よりも敬意を払ってるように思えるのは気のせいか?
「――別に、そのようなことはありませんよ?」
ゼリスがジトッとした視線を寄越す。――人の心を読むな。
すると、真向いの住居からこちらに歩いてくる人影が見えた。有馬家のお隣さんであり、シュンの幼馴染でクラスメイトでもある少女――伊吹舞だ。
「はろ~、シュッちゃーん♪」
「どうしたんだよ、伊吹?」
満面の笑みで現れた伊吹に、シュンは内心呆れつつ答える。……きっとこいつには悩みとかないんだろうなあ。
そんなシュンの思いなど知らぬ伊吹は、由宇とゼリスに「やっほー。ユウちゃん、ぜっちゃん、元気~?」と気さくに挨拶を交わしている。
「……ふ~ん。ひょっとして、例のぜっちゃん専用武装のテスト中だった?」
「はい。現在予定シークエンスを終了し、クールダウンを行っています」
ゼリスの返答に伊吹は「やっぱりね」と納得顔。こう見えて伊吹は摩耶野市でも有数の武装神姫マスターだ。数少ない女性ユーザーの上位ランカーということで、その界隈ではちょっとした有名人であるらしい。
ゼリスのマスターになった際にも、伊吹には先輩マスターとしていろいろ助言してもらっている。そのためかゼリスも伊吹のことを信頼しているようだけど……マスターである僕よりも敬意を払ってるように思えるのは気のせいか?
「――別に、そのようなことはありませんよ?」
ゼリスがジトッとした視線を寄越す。――人の心を読むな。
「ねえ、シュッちゃん。ユウちゃんはさっきから何をうんうん唸ってるの?」
伊吹に言われて振り向くと、由宇はまだ低く唸り声を上げながらPDAにデータを打ち込んでいた。そのままディスプレイに目を走らせ、思案気に視線を漂わせていたかと思うと、
伊吹に言われて振り向くと、由宇はまだ低く唸り声を上げながらPDAにデータを打ち込んでいた。そのままディスプレイに目を走らせ、思案気に視線を漂わせていたかと思うと、
「う~~ん、だめだ~~っ」
急に倒れ込み、ベランダに寝転んだ。
「……あれ、マイさん来てたの?」
ころんと寝転んだまま、由宇はきょとんとした顔で伊吹を見上げる。
どうやらデータと睨めっこするのに夢中になるあまり、伊吹が来たことも気がついていなかったらしい。やれやれだぜ。
「どうしたのユウちゃん。何かトラブルでもあった?」
心配そうな伊吹に、シュンは武装パーツの調整で手間取っていることを教える。
「なるほど。要するに、システム的に複雑な部分の制御で悩んでるわけね」
「うん。もう少し実戦的なデータが取れれば、それを使って調整もできるんだけど……ここじゃあちょっと……」
「……あれ、マイさん来てたの?」
ころんと寝転んだまま、由宇はきょとんとした顔で伊吹を見上げる。
どうやらデータと睨めっこするのに夢中になるあまり、伊吹が来たことも気がついていなかったらしい。やれやれだぜ。
「どうしたのユウちゃん。何かトラブルでもあった?」
心配そうな伊吹に、シュンは武装パーツの調整で手間取っていることを教える。
「なるほど。要するに、システム的に複雑な部分の制御で悩んでるわけね」
「うん。もう少し実戦的なデータが取れれば、それを使って調整もできるんだけど……ここじゃあちょっと……」
一同の目の前には、例の段ボール製テスト用フィールドの姿があった。
ユウの要望でシュンが必死にいらない段ボールをかき集めて作り上げた代物だが、所詮は素人の工作。簡単なものならともかく、本格的なデータ収集に使うには無理がある。
ユウの要望でシュンが必死にいらない段ボールをかき集めて作り上げた代物だが、所詮は素人の工作。簡単なものならともかく、本格的なデータ収集に使うには無理がある。
「そういうことなら、丁度いいものがあるわ!」
伊吹は明るい声を上げ、ポケットから一枚のチケットを取り出す。
「なんだそれ?」
首を傾げると、伊吹は「ふふんっ♪」と得意げにチケットをシュンの目の前にかざす。
ちょうど映画の前売り券くらいの大きさのチケットだ。緑色をしたそれの中央には、大きく「公式トーナメント参加権」と印刷されていた。
「なんだそれ?」
首を傾げると、伊吹は「ふふんっ♪」と得意げにチケットをシュンの目の前にかざす。
ちょうど映画の前売り券くらいの大きさのチケットだ。緑色をしたそれの中央には、大きく「公式トーナメント参加権」と印刷されていた。
「今度、神姫センターでトーナメント大会があるんだけど、この大会タッグマッチ戦なのよ。これにうちのワカナとぜっちゃんのコンビで参加しましょう!」
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