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神と悪魔の見えざる手

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神と悪魔の見えざる手 ◆Yue55yrOlY



ここに空を飛ぶ者たちがいる。
鷹、鯨、妖に妖精。
そんな彼らよりも尚高き所、あるいは神の視点とも呼べる場所にその男は居た。

だが、もし地上からこれが見えた者がいれば、それをどう見たであろうか。
その姿を形容するとするならば、子供の手に糸を抓まれ、思うがままに振り回される蜘蛛であった。
空を自在に翔る者たちとは、比べるべくもない無様な滑空。
暴風の乱気流に身を揉まれ、頼りなく揺れるその姿は哀愁すら感じさせる。


だが、その正体は神に救いを求め、蜘蛛の糸に縋りつく地獄の亡者などではなく。

神を殺した13番目の男である。


超A級スナイパー、ゴルゴ13。

天の底にあって、そのスコープはいったい何を捉えるのか。


◇


細い路地を、裸足の少女がゆっくりと歩いている。
建物の隙間を縫うように伸びるその道は、少女が後にしてきた旅館へと続いていた。

道を逆に辿るように、時間も巻き戻せればいいとゆのは思う。
悔恨は深く、だが、他に選ぶ道もない。
身勝手に殺した人間の首を落とし、首輪を自分の腕の治療の為に貰い受ける。
二重の罪を前にして、ゆのはキンブリーとの会話を思い出していた……


――――

『貴方は既に――
 人を、殺しているのだから』

腕の治療の見返りに、殺し合いを要求してきた錬金術師の弾劾。
秘められた、心の傷。
それを突然暴かれて、ゆのは激しく狼狽した。

『ち、違いますっ! あれは……あれは違うんですっ!』

『何が違うと言うのですか? 殺したのでしょう? 自分の身を守るために』

『ッ……』

反射的に発した自衛の言葉は意味をなさず、キンブリーの言葉の前にたやすくねじ伏せられる。
しかし。

『良いではないですか』

『……え?』

錬金術師は、殺人を肯定する。
その言葉には、弾劾ではなく、称賛の意思こそが込められていた事に少女は気付き……

『夢があるのでしょう? 
 絵描きになる。素晴らしい夢です。
 ならば、殺されるべきではありません。生きるべきです。生き残るべきです。
 その為に……貴方は戦わなければならない』

しかし、そんな異端の価値観を少女が受け入れる事はなかった。

『そ、そんな……私にそんな事……殺し合いなんて、出来ませんっ!
 そんなの、無関係ですっ!
 なんで、私たちが……殺し合いなんて……うう……
 か、帰りたい……ただ、帰りたいだけなんです……ひっく……』

『……なるほど、確かに貴方は、そういう世界の人間ではないのでしょう。
 当たり前のように生きて、当たり前に年を取る。
 血生臭い、戦争などとは無関係な……
 そんな、平和で素晴らしい毎日を送っていたのでしょう。
 ……ですが、貴方が望む、望まざるに関わらず、ここは既に殺し合いの場……
 ならば、無関係の者などいるはずがないッ!』

いつまでも愚図る少女に業を煮やしたかのように、キンブリーはゆのの両頬を両手で挟み込む。
可憐な少女の顔が、ひょっとこのように歪む。
ぐいっと顔を引き寄せ、瞳をそらす事すら出来ぬ距離に近付くと、錬金術師の眼光が少女を射抜いた。

『ひぃっ……』

『殺し合いに乗った者に、私は無関係だから見逃してくれとでも言うおつもりですかっ!?
 最後の一人になるまで殺し合いが続くこの島で、そんな言葉を信じろとでも?
 人殺しの、貴方の言葉を』

その口調は、いつのまにか底冷えのする冷え切った声となっていた。
少女の反論を許さずに、淡々と紡ぐ言葉は実経験に裏打ちされた迫力に満ちている。

『あ……ああ……』

『貴方は既に人殺しだ。それを忘れて傍観者でいたいなどと、私は許しませんよ。
 覚悟を決めなさい。
 罪と向き合って、生きなさい。
 人殺しが嫌なら、大人しく殺されておけば良かったのです。
 自ら進んだ道で、何を今更被害者ぶるのか。
 自分を哀れむくらいなら、最初から人を殺すな』

『わ、私はっ……』

『目を背けるなっ!
 現実を見ろっ!
 貴方が殺した人々の、その姿を正面から見ろ。
 そして忘れるな。
 忘れるな。
 忘れるな。
 奴らも貴方の事を忘れない』

――――


感覚のない右腕を擦る。
いつの間にか、足は止まっていた。

あの時、両頬を挟まれて間近で見たキンブリーの眼が忘れられない。
底光りし、こちらをまっすぐに見据える、キンブリーの眼が。
そして淡々と殺人を肯定し、それを要求してくる言葉が、いつまでもゆのの耳に残っていた。

じっとりと、背中に汗をかいている。
強く煌めく陽射しが肌に当たり、肩ひもで吊り下げられた白地のワンピースに、ほっそりとしたシルエットが透けて見える。
空が高い。

いつかのように、学校の屋上でお弁当でも食べたら少しは気が晴れるだろうか。

そんな事を考えていたら、

ググウゥゥゥゥー

と、盛大にお腹が鳴った。
お昼の時間はまだだったけど、凄くお腹が減っていた。
だって、もう何時間も食べてない。

食べるという事は、生きるという事。
食欲とは、生きたいという肉体からの欲求だ。
ゆのは、その欲求に素直に従う事にした。

手近な建物の、石造りの階段にお尻をぺたりと下ろして混元珠を足下に置く。
デイパックから食べ物を一包み取りだすと、包装を開いた。
磯の香りがその場に広がり、思わず唾を飲み込む。
海苔が巻かれたそれは、おにぎりだった。

かぶりつく。

小さな歯が湿った海苔を突き破り、塩気の利いた白米を咀嚼する。
ツンと酸っぱい梅の香りが鼻をつく。
日本人であれば、食欲をそそらずにはいられない取り合わせ。
たちまちの内に一つ食べきった。

包みの中には、もう一つおにぎりが入っていた。
それを食べる前に、ゆのはペットボトルの水を取り出す。
口中に残る、梅の酸味をゆすぐように水を飲むともう一つのおにぎりに取り掛かる。

「宮ちゃん、お腹空かせてないかなぁ……」

いつも腹ペコの、親友を思う。
凄く嬉しそうにご飯を食べる宮子の、太陽みたいな笑顔を思い出すと少し元気が出た。

この空の下で、宮ちゃんも同じ物を食べているのかな。
宮ちゃんだったらこんな時、早めのおべんとしててもおかしくない。
……だったら、いいな。一緒におべんとなら、嬉しいな。

そう思ったので、ゆのは親友へと語りかける。
きっと、風に乗ってこの声が届くと信じて。

「宮ちゃん、おにぎり、美味しいねっ」

『うん、美味しいねぇー♪ ゆのっちっ♪』

そんな返事が、聞こえたような気がした。


◇


自分で破った塀から、再び大浴場へと侵入する。
タイルは既に乾いており、風呂の栓も抜けていた。
そこには、湿り気の欠片も残っていなかった。

だが、そんな事より少女の意識はその向こうの脱衣所へと向けられている。

あの時、ゆのが大量の水を持って押し潰した相手。
踏みつぶされたカエルのような二人の死体が、そこには……


――なかった。

まるで露天風呂のように、すっかり見通しもよくなったそこには死体の隠れる場所など、どこにもないというのに――
影も形も見当たらない。
存在するのは、棚や洗濯機などの小さな瓦礫だけだが、その下敷きになっているとも考えにくかった。

……洗濯機?
ゆのは、忘れていた事があった事に気付く。
そう、制服と下着である。
お風呂に入る時、洗濯機に放り込んだそれは今でもその洗濯槽の中に入っているはずだった。
――回収しなきゃ。
なにせ、ゆのは今、何もはいていない。
女の子としての本能が、それを命じていた。

幸い、洗濯機の外装はベコベコのボコボコになっていたものの、洗濯槽は無事だった。
ゆのはぐっしょりと濡れた制服と下着の水を絞ると、とりあえずデイパックに入れた。
……さて。


――――死体を探さなければならない。

キンブリーの言葉を受けて、考えて、考えた結果……ゆのは死体の首を斬る覚悟を決めていた。

死体とちゃんと向き合って、ごめんなさいって言って……それで、首輪を貰うんだ。

首を斬る道具は、混元珠がある。
ペットボトル程度の水があれば、混元珠はそれを極薄の水の刃と成せる。
だから死体さえあれば、ここで成すべき事は出来るのだが……肝心の死体が見つからない。

水に押し流されてしまったのだろうかと、ゆのは脱衣所を出る。
……死体はない。

もしかして、騒ぎに気付いたグリフィスさんが遺体を見つけて埋めてしまったのだろうか。

その可能性に思い当たり、玄関まで行ってみる。
グリフィスの靴はなかった。
最初、土足で建物の中に上がろうとしたグリフィスに、確かにここで脱がせたというのに、だ。

「やっぱりグリフィスさんが……」

自分の犯した罪の証を、やはり彼にも見られてしまっていたのか。
暗澹とした気持ちで、自分の靴を履き――外に出ようとした所で。
ゆのは突然、背後から伸びてきた万力のような腕に、フェイスロックを極められていた。


◇


ゆのは混乱した。
恐ろしく筋肉質な男性に、背後からいきなり組み付かれたのだ。
これに驚かない少女など、いるはずがない。

片腕をフェイスロックに。
もう片腕で腰を固められて、ゆのはその小柄な体を宙に持ち上げられている。
足をバタつかせても逃げる事も、振り向く事も出来ない完全拘束を前に、少女が出来るのは混元珠を抱き締める事だけだ。

しかし、混元珠は答えない。
操るべき水がない。
まるで水を操る彼女の襲撃を予知していたかのように、ここには一滴の水すら存在していなかった。

「んんうぅーーっ!!」

ゆのは、くぐもった悲鳴を上げる。
少女を抱きかかえたまま、男は移動を始める。
玄関から、渡り廊下。渡り廊下から階段へ。
窓から差し込む光すら届かない、地下の暗闇の中へと。

「ふぅっ、ふううううーーー!!」

息苦しさで、ゆのの顔が真っ赤に染まる。
いくらもがいても、ビクともしなかった。
男が力を込めれば、ゆのの細い首など、簡単にへし折れてしまいそうだった。

――誰なの!? 私を……どうする気!?

恐怖と酸欠で脳髄が痺れる。
癖になりかけていた、失禁の兆候を必死に抑える。
下から吹き上げてくる風で、すーすーした。

「……質問をする」

そして、ゆのが疲れてパニックが収まるのを待っていたかのように、耳元で声が聞こえた。
聞いた事のない声だった。
一切の感情を感じさせない、冷徹な声だった。
素直に答えなければ死ぬと思った。
ゆのでもわかるほどの、殺しの気配がその男にはあった。

「YESなら、瞼をゆっくりと二回閉じろ。NOなら一回だ」

そこで男は言葉を区切る。

私が理解するのを、待っているんだ。

それが判ったので、ゆのは瞼を二回閉じた。

「お前は、水を自在に操れる。そうだな?」

混元珠があれば操れる。
ゆのは瞼を二回閉じた。

「お前の、その水を操る力は錬金術という術か?」

違ったので、ゆのは瞼を一回閉じた。

「……錬金術師に知り合いはいるか?」

先ほど出会ったキンブリーが該当した。
ゆのは瞼を二回閉じた。

「連絡手段はあるのか?」

電話で連絡出来るので、瞼を二回閉じた。
太い、無骨な男の指が意外なほどの繊細さで、ゆっくりと、慎重にゆのの身体を調べ始めた。
カサリと、紙擦れの音がした。
スリット状のポケットからキンブリーの連絡先が書かれたメモ用紙が引っ張り出された。

「錬金術師の連絡先か?」

二回閉じた。

それで全ての質問が終わったのか、背後の男は腕に嵌めた時計を確認する。
男の、過剰なほどの緊張感が更に増して……
そして言った。

「これから――川へと落下する。

 ……水を操って落下の衝撃を殺せ。
 出来るな?」


……ゆのは、何を言われたのかわからなかった。
わからなかったが……出来ないなどと答えたら殺されそうだったので。
瞼をゆっくりと二回閉じた


そして、次の瞬間。
二人の身体は、宙に舞った。


◇


川のほとりに呆然とへたり込む少女を、ゴルゴは向こう岸の木の陰から見つめていた。

結論から言うと、二人は無事着地に成功した。
少女は、泥の山に堰き止められていた大量の水を操り、柔らかなクッションとしたのだ。
地上まで後僅かというところまで降りた後、ゴルゴは素早く五点着地で森の茂みへと姿を隠す。
この水場での少女の能力を警戒し、反撃に転じられる前に離れたのである。

幸い、行方を悟られる事はなかったようだ。
ゴルゴは、密かにその場を離れて“対象”を発見した地点へと急ぐ。

――安藤との不意の別れの後。
ゴルゴは護衛の依頼を果たすべく奔走していた。

まずは何が起こったのかを解明する為に周囲の民家などで役立ちそうな品々を調達した後、撚り合わせたロープで
旅館のボイラー室に降下したゴルゴは、縦横無尽に島の上空を移動するワープ出口の動きに翻弄される事となる。

ある時はまっすぐに、またある時は弧を描き、不規則に動く出口の法則をようやくに把握し、島の地表を隈なく
双眼鏡で走査したゴルゴが護衛対象たる少年を上空より発見したのが先ほどの事。

E-04の地点にて鳥籠に拘束されし少年を救いだすため、山中に赴こうとしたゴルゴはその直前にゆのと出会う事となった。
ゆのの能力で、川に着水する事が出来れば歩いて移動するよりずっと早く、誰にも会う事無く移動出来る。
そう考えたゴルゴは、ゆのを伴って時間を見計らい、ボイラー室へと飛び込んだのである。

そしてゴルゴの思惑はズバリ当たった。
予定より数段早く到着した現場には、上空から観測した時の参加者たちは既に見当たらなかったがその痕跡は残っていた。
草地に刻まれた三対の足跡。
三人の内、一人は義足なのだろうか。
左足の踏み込みが、右脚よりも深い。
そして、拘束された人間特有の足取りもあった。
“対象”はどうやらまだ無事なようだ。
進路から考えて、目指すポイントは工場だろうか。

ゴルゴは、契約を果たすべく再動する。

契約とはゴルゴ13に取り、もっとも神聖にして侵すべからざるものである。
それは探し求めていた錬金術師の情報を手にしても、尚優先すべきもの。
必ずしも脱出への最適解とは成り得ないのだが、この優先順位が覆る事は、絶対にない。

しかし、護衛任務とは己の持つ技能の全てを護衛対象に見られる事である。
そしてゴルゴ13は己の手の内を知る人間を、決して生かしてはおかない。
つまり、“護衛対象”の脅威となる外敵が全て排除され、契約自体が無効化されたその時、“護衛対象”は
ゴルゴ自身の手によって排除される。
いずれ殺す人間を、全力を持って守る。
この矛盾に満ちたゴルゴの行為は、あるいは神の調和を覆すためにゴルゴ自身があえて作りだした“破局点”なのだろうか。

ただ一つだけ言える事は。
神の見えざる手があまねく必然を齎すように。
ゴルゴの腕は、あらゆる者に不可避の死を齎してきたという事実だけ。

超A級スナイパー、ゴルゴ13。

彼に狙われて、生き延びた者はいない。



【E-04/川の両岸/1日目 昼】

【ゆの@ひだまりスケッチ】
【状態】:貧血、後頭部に小さなたんこぶ、疲労(小)
【服装】:白いワンピース
【装備】:混元珠@封神演義
【道具】:支給品一式(一食分と水を少々消費)、PDA型首輪探知機
【思考】
基本:腕を治してもらって、ひだまり荘に帰る
0:ここはどこ? 一体何が?
1:十の首輪を集める
【備考】
※首輪探知機を携帯電話だと思ってます。
※PDAの機能、バッテリーの持ち時間などは後続の作者さんにお任せします。
※二人の男(ゴルゴ13と安藤(兄))を殺したと思っています。
※切断された右腕は繋がりましたが、感覚がありません。動かすのに支障は(多分)ありません


【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:ブラックジャックのメス(10/10)@ブラックジャック、ジャスタウェイ(4/5)@銀魂
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、包丁、不明支給品×1(武器ではない)、熱湯入りの魔法瓶×2、ロープ
    携帯電話×3、安物の折り畳み式双眼鏡、腕時計、ライターなどの小物、キンブリーの電話番号が書かれたメモ用紙
[思考]
基本:安藤(兄)に敵対する人物を無力化しつつ、主催者に報復する。
1:護衛対象を探して守る。
2:首輪を外すため、錬金術師や竹内理緒に接触する。
3:襲撃者や邪魔者以外は殺すつもりは無い。
4:第三回放送頃に神社で歩と合流。
[備考]
※ウィンリィ、ルフィと情報交換をしました。
 彼らの仲間や世界の情報について一部把握しました。
※鳴海歩から、スパイラルの世界や人物について彼が確証を持つ情報をかなり細かく聞きました。
 結崎ひよのについては含まれません。
※安藤の交友関係について知識を得ました。また、腹話術について正確な能力を把握しました。
※ガサイユノ、天野雪輝、秋瀬或のプロファイルを確認しました。
※未来日記の世界と道具「未来日記」の特徴についての情報を聞きました。
※探偵日記のアドレスと、記された情報を得ました。
※【鳴海歩の考察】の、1、3、4について聞いています。
  詳細は鳴海歩の状態表を参照。
※ゆのを危険人物として認識しました。
※旅館のボイラー室から島の上空がワープ空間でつながっています。
ワープ出口は地上1km強あたりの上空を移動中。
ゴルゴは出口の移動の法則を把握しました。
ただしどこに移動しても常人が落ちたら死ぬ高さなのに変わりはありません。
※一日目午前の時間帯に、島の屋外で起こった出来事を上空から見ていた可能性があります。

※E-4の川に泥の山が流れ落ちました


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