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【オープニング】
●孤高
 彼女は異質だった。
 女性のみが通う『学校』で、彼女のように男性的で素っ気ない、近寄りがたい雰囲気をした生徒は居なかった。
 だからだろうか。いつしか彼女は『王子さま』という二つ名で呼ばれるようになった。
「王子さま、おはよう御座います」
 下級生の1人が彼女に挨拶をする。しかし、彼女は視線を向けることもなく通り過ぎる。
「セーラさん、おはよう御座います」
 そこに1人の生徒が挨拶をする。服装から見て同級生だろう。
「あぁ、おはよう」
 素っ気ない挨拶を返すセーラと呼ばれた彼女。それが嬉しかったのか、挨拶をした生徒は頬を綻ばせる。
「今日の授業、実技があるんですよね。セーラさんは何を選びました?」
「僕は……アクトレスだね。ニナは?」
「私はお料理です」
 淡々とした返事を返すセーラだが、その表情は柔らかい。
 セーラとニナは、最近になって親友の関係になったばかりだ。ほんの些細な切っ掛けが、彼女たちを動かした。
 その変化は周りを驚かせるものだったが、それと同時に好しとしない者も現れ始めた。
「……」
 二人のそんなやり取りを遠目で見つめながら眉を顰める二人を、彼女たちは知る由もない。
 そして、事件は起きた。
 その日の放課後、ニナは下級生の教室に居た。
「貴女、王子さまに迷惑をかけすぎじゃないかしら?」
「そうよ。王子さまは孤高なのよ? それを貴女が侵してもいいと思って?」
 下級生二人がニナに詰め寄る。
「えっ……? あの……」
 困惑の表情を浮かべるニナが何かを言う前に下級生達は畳み掛けるように言い放つ。
「貴女のせいで、孤高であるべき王子さまは失われてしまうのよ!」
「そうよ! 貴女さえいなくなれば、王子さまは孤高で居られるのよ!」
 下級生の1人がニナに掴みかかる。
「えっ!? イヤッ! やめてっ!!」
 抵抗するニナをもう一人が押え、もう一人が隠し持っていたナイフを取り出す。
「ひっ……!」
 羽交い絞めにされ、抵抗出来ないニナが悲鳴を挙げようとするが、それを阻止するようにナイフがニナの首へと吸い込まれる。
 血飛沫が飛び散るのもお構いなしに、彼女たちは幾度と無くニナの体にナイフを突き立てる。
「王子さまは孤高であるべきなのよ……」
 狂気の笑みを浮かべるその顔には、マスカレイドの仮面が張り付いていた。

●憧れ
「……思いやりの無い憧れは、既に憧れとは言えないのでしょうね」
 月の箱庭・シルフィア(c01856)が喫茶店「ミミ」に集まったエンドブレイカー達に自身が見た内容を話し終えた。
「場所は女学院だけど……まぁ、敷地内に入りさえすればどうとでもなるわ。入り方も、抜け道は幾らでもあるから問題ない」
 そう言うとシルフィアは懐から建物の見取り図を取り出す。
「問題は少女達。多分戦闘になるけど、その時はマスカレイド化していないニナって子も居るから、その子の安全も確保しないといけない。あと、マスカレイド化しているけど、まだ元に戻る事は可能みたいね」
 まぁ、別に倒してしまっても構わんのだが、とシルフィアは零す。
「言うは易く行うは難し……ね。当然私も行くけど、出来ればあと数人、手を貸して欲しい」
 そう言い、シルフィアは強力を仰いだ。

【リプレイ】
●Mona Lisa is in a bad mood.
 戦神海峡アクスヘイム。祭りの多いことで有名なこの都市はつい最近、滅びの危機に瀕していた。棘の具現である薔薇が開花し、万能宝石エリクシルが顕現したのだ。
 その『終焉』はしかし、『終焉を破壊する者』により『終り』を迎えた。
 今から凡そ、2年前の事であった。
 それから月日は流れ、『終焉を破壊する者』は各都市を旅し、今まで巡った都市への移動手段を手に入れた。
 確かにアクスヘイムは滅びる事はなく、都市を取り巻いている棘は消え去った……筈だった。
 極僅かではあるが、棘の微かな残滓が残っている事もある。そして今回、残滓を見つける事が出来た。
 場所はとある女学校。夕日が校舎を照らし白い壁を赤く染めていた。
「さて……」
 先頭を歩くのは月の箱庭・シルフィア(c01856)だ。今回、彼女が見たのはこの学校で起きる1つの終焉。
「もう生徒は帰ったのかな?」
「えぇ。確か今日は完全下校日の筈だから……だからこそ、起きたのでしょうけど」
 辺りを見回し、シルフィアの斜め後ろを歩く切り札・エマス(c30188)は呟いた。何時もの服とは違い、黒と白のツートンカラーの執事服を着ている。
「へ~、学校ってみんなおんなじ服を着るんだ~」
 世界樹の妖精術士・シル(c25139)も普段とは違う服、今から入る女学校の制服を着ていた。修道女のように白と黒のツートンカラーでシンプルかつ地味な制服を、物珍しいのかしげしげと眺めている。
 制服を着ているのはシルだけではない。猛る烈風・アヤセ(c01136)と翔る疾風・セナ(c02046)も制服に見を包んでいた。外見が瓜二つの姉弟は姉妹と言っても通じるだろう。
「む、むぅ……」
 そんな姉弟を見て小さく唸るのは空仰ぐ栗鼠・チナ(c23562)だ。
「どうしたの?」
「えっ!? あ、いえ何でもないですよ……?」
「そう。ならいいけれど」
 唸る声が聞こえたのか、殲滅妖精・ミラ(c11229)が声を掛けた。勿論2人も制服を着ている。
「……こっちね」
 これらの制服は先頭を歩くシルフィアが何処からか用意した物で、多少サイズに難があるものの、着れない程という訳ではなかった。
 校舎内は静かで、エンドブレイカー達の歩く音以外は聞こえない。
「シルフィア……お嬢様、迷いなく進んでいるようですが、場所は分かっているのでしょうか?」
 校内見取り図を見ること無く進むシルフィアにエマスが尋ねた。
「えぇ、まぁ……ね」
「コラッ! 貴方達待ちなさい!」
 そうして曲がり角を曲がろうとした所で声が掛かる。振り返ると、シスター服を着た女性がこちらに近づいて来る。
「貴方達、今日は下校日なのですよ。早くお家にか……あら? 氷姫じゃないですか」
 女性はシルフィアを見つけると言葉が途切れた。
「……お久しぶりです、シスター・アンジェラ」
 シスター服を着た女性、シスター・アンジェラの前で一礼するシルフィア。するとシスター・アンジェラの表情がガラリと変わった。
「あらヤダもう、今はシスターじゃなくてマザー・アンジェラなのよ。それにしても今日はどうしたの? そちらの子達は?」
「この子達は懇意にしている貴族のご子息様です。この学校の見学をしたい、と申されたので、卒業生である私が」
 立て板に水のように話を作り上げるシルフィア。するとアンジェラはエマスへと目を向けるが、シルフィアが先回りする。
「彼は私の執事です。ご子息様にもしもの事があってはいけないと思い、同行させた次第です」
「あら、それもそうね……。でもそれならちゃんと連絡を……いえ、氷姫なら大丈夫でしょう」
 アンジェラはそう言い何か納得するように頷く。
「……ところでマザー・アンジェラ。もうここには誰も残ってないのでしょうか?」
「えぇ。今見回りが終わった所だから、誰も残ってないわよ。氷姫も、見学を終えたら早くお帰りなさい」
 そう言い残しアンジェラは去っていった。
「氷姫……?」
「…この学校では昔から、人気のある生徒にはあだ名が付くのよ。……本人以外が決めたあだ名がね」
 エマス達の疑問にシルフィアは短く答える。そしてそれはつまり、今回の『王子さま』にも言えることだった。
 それからは目的の教室まで誰とも会う事は無かった。

●Sleeping beauties into overdrive.
 教室内には3人の少女が居た。
「貴女、王子さまに迷惑をかけすぎじゃないかしら?」
 一人が単刀直入に、しかし荒唐無稽に火蓋を切る。
「そうよ。王子さまは孤高なのよ? それを貴女が侵してもいいと思って?」
 もう一人がそれに乗るように捲し立てる。
「はじめまして。お話いいですか?」
 そこに本来なら有り得ない横槍が入る。慌てて声のする方、教室の入口を見るとそこにはアヤセが立っていた。
「な……だ、誰よ!?」
 驚きを隠せず震えた声を上げる少女。しかしそれを気にする風も無くアヤセは奥へと進む。
「そうですね……ピンチに駆けつける王子さま、でしょうか」
 アヤセは少女達に手を伸ばせば触れ合える距離まで詰める。その後をセナ、シル、チナが続く。
「私とそこにいるセナもよく王子様と言われる。貴方達は孤高の王子様が素敵だというけど、それは王子様の持つ一面。私とセナのように大事で心通うお友達と一緒にいて輝く素敵な王子様もいるんですよ」
 そう言いアヤセとセナは手を取り合う。
「うん、アヤセと僕はよく周囲から王子様と呼ばれた。でも特に特別扱いするのではなく、親しく接してくれる人が多かった。……前に孤高だったこともあったけどね」
 セナは手を握り返し、思い出すように目を瞑り言葉を繋ぐ。
「……」
 その言葉をどう取ったのか、少女達は繋がれた手を見つめていた。
 視線がニナから離れたのを見たシルは廊下に丸石を投げ、廊下に居る3人に知らせる。
「……こっち」
 音もなく教室に入ったシルフィアが教室に入りニナの手を引き廊下へ連れ出した。
「王子様かぁ、他人に自分の理想を押し付けるのは、ただのエゴじゃないかな?」
 自分から言い出したのでないなら特に、とシルが続ける。
「憧れの人なら……お二人も、声をかけてみたらどうですか? ……孤高じゃない王子様の魅力も、沢山あるはず、です」
 チナが恐る恐る言う。
「王子様の幸せを願うなら、お友達と一緒にいさせてあげたほうが断然いい。貴方達も王子様のお友達になって、身近で心おきなく話すほうが、遠くで見てるよりずっとよいと思わない?案外その方が理想の王子様って事もあるんですよ」
「君達から見たセーラさんは幸せそうだったろう? あれが本当のセーラさんだ。君達がセーラさんが『孤高の王子様』である事が絶対幸せと信じる……果たして君達の理想の通りになったって、セーラさんは本当に幸せかい?」
 アヤセとセナが一石を投じる。多感な年頃であるからこそ、1つの魅力に惹かれ易くそれ故に他の魅力に気付けない。
「まぁ、『こうあって欲しい』っていう想いは分かるけどね。なら、孤高である彼女はずっと友達を作っちゃダメなのかしら? ずっと貴方達の理想の為に、人生を投げ出さないといけないのかしら? 貴方達はこうして、友達と一緒に行動をしているのに」
 ミラは机に腰掛けたまま、顔は少女達を見ずに独り言のように言う。
「っ……」
 突き放すようなその言葉が少女達に突き刺さる。
「セーラさんの本当の姿に向き合って……それが君達のすべき事。違う?」
「私達がそうでしたからね。良く分かりますよ」
 互いの目を見つめ合うアヤセとセナ。
「っ……ぅ、あ……」
 自らの求めている事を理解した少女達は涙を流し泣き崩れる。
「泣くぐらいなら最初からしなければいいのに」
 嗚咽を漏らす少女達を冷ややかな目で見つめるミラ。手にはエマスのハイドウェポンで畳まれた大鎌が握られていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……! わ、私……王子さまが居なく、なっちゃうんじゃないか、って……怖くて、不安で……!」
 嗚咽を漏らす少女達に変化が現れる。涙に濡れた顔は次第に仮面が現れだし、体にも変化が現れる。
「ニナさんが、うら、羨ましくて……王子さまに声を掛けるなんて、私なんかが、迷惑になるんじゃないかって……!」
 背中からデモンの翼を生やした少女は涙ながらに告白する。
 棘と少女達の想いが拮抗しているのだろう。顔を覆い隠す筈のマスカレイドの仮面は、半分だけ苦悶に歪む少女達を曝け出していた。
 先に動いたのはアヤセとセナだ。バトルガントレットの拳と鎌鼬がマスカレイド化した部位を襲う。
「う、これで少しおとなしくなって……!」
 優先すべきは少女達の生存。ここで命を散らしては説得の意味が無い。それ故にシルは魔力で作られた蜘蛛の糸を杖から放つ。糸はナイフを持つ少女を捉えるが拘束力は無い。
「さてと……殺さないよう、気を付けないとね」
 大鎌を振るう勢いで机を寄せながらミラも前に出る。本来なら後方からの攻撃が主だが、星霊を戦闘に駆り出す事に抵抗を感じていた。そして、手にした大鎌を回し守りの姿勢を取りつつも、一気に近付きデモンの翼目掛けて振り落とした。
 少女の一人が前に出てアヤセの死角から背中を突き刺すと同時に毒を流し込む。
 チナは前後の扉の中間、丁度少女達から開いている扉を遮るように位置していた。
 それは少女達の逃亡を阻止する為であり、外に居るニナへの攻撃を防ぐ為でもあった。
「余り、傷付けたくは無いのですが……」
 大小様々なトラバサミやマキビシを少女達の足元に投げ込む。投げ込まれた罠に吸い寄せられるかのように少女達の足は次々と罠を踏んでいく。
 デモンの翼が少女の背を侵食し混ざり合う。それと連動するように、翼から幾つもの光源が生まれ、机や床、天井を巻き込みながらエンドブレイカー達を貫いていく。
 少女達の涙は止まらぬまま、戦闘音に嗚咽は掻き消されていく。

●Rapunzel alone in the kitchen garden.
 シルフィアに腕を引かれ廊下に連れだされたニナは状況を理解出来ずに居た。
「え、えっと……失礼ですが、貴方達は……?」
 シルフィアとエマスを交互に見つつ最初に出たのはその一言だった。
「……エンドブレイカー」
 多くは語らず、必要最低限の言葉を告げるシルフィア。
「えっ……? エンドブレイカー……?」
 驚くニナ。それもそうだろう。2年前にアクスヘイムを救った者達の総称であり、今は殆どが他の都市へ旅立っていった。アクスヘイムに残っているエンドブレイカーはほんの一握りなのだから。
「お嬢さん……ニナ、だったね。私達は君の理不尽な終焉を終わらせに来たんだ。ある程度の事情は知っている……だが、後1つ、パズルのピースが足りない」
 エマスはチラリと、教室内での戦闘を見やる。戦線はエンドブレイカー達が圧倒的有利に進めている。しかしそれで勝っても『大団円』とは行かないだろう。
「足りない……ですか?」
「王子さま……そう呼ばれているセーラという子はどんな子なんだい?」
 ニナはそう尋ねられ、答えようとするが留まり思い直す。『王子さまと言われるセーラ』ではなく本来の『セーラ・グランセリス』という少女について尋ねているのだと気付く。
「えっと……セーラさんは確かに『王子さま』って言われるようにカッコ良くて背も高くて、ちょっと近寄りがたい雰囲気はありますけど……ちゃんと話し掛ければ答えてくれますし、色々と教えてもくれますし……とっても頼りになる人です。あ、でも料理は苦手みたいで、よく私がセーラさんに教えてますね。それ以外だと殆ど私が教わっているのですけど……」
 少し照れくさいのか、最後の方は声が小さくなっていった。
「少し近づくと、王子さまという感じは和らぐということだね」
「えぇ。でもやっぱり、芯は確りとしてますから、王子さまっていうのも納得出来てしまうんです」
「他の子はそんなに親しくないらしいが……ニナは何が切っ掛けで仲良くなったんだい?」
「それは……えっと、セーラさんが、お弁当を作るのが大変だって言ってたので、なら自分のを作る時一緒に私が……って」
「お弁当を? しかしそれだと」
「あ、いえ私姉弟多いんです。弟が3人居て。ですから、そこにもう一人増えてもそんなに手間じゃないんです」
 エマスの疑問に答えるニナ。セーラの事を話す彼女の表情は何処か楽しそうであった。
「そうか……。だが今回のように、周りはセーラの事を『孤高』とか『王子さま』という目で見ているようだが、ニナは何も思わないのかい?」
「それは……少し残念ですけど、でも仕方ないんじゃないか、って思うんです」
「ほぅ……」
 嬉しそうな表情から一転、少し困ったように言うニナ。その変化にエマスは関心を覚える。
(無条件で庇護するという訳でもなく一歩引いた見方も出来ているか……。……まぁ、マザーがあのアンジェラなら当然か)
 ニナとエマスの話を聞きつつ戦況を見つめていたシルフィアは思う。誰もがその様な考えを身に付ける事が出来れば、と。
「だが仕方ない、で終わっていてはいけない。改善策を考えたことはあるの? 例えば……そう、必要以上に壁を作っているセーラの振る舞いとか」
 エマスとニナの会話に割り込むシルフィア。その言葉は深くニナに突き刺さるが、お構いなしとばかりにシルフィアは言葉を続ける。
「親しくなった、というのなら、少しは相手に踏み込んで忠告なり助言なりした? ニナの前だけでは、というのは確かにいいだろう。独占欲というのは誰にでもある。だがそれで満たされたから周りとの軋轢を見て見ぬふりをしていては、今回のような事がまた起きる」
 自分の事でもあるな、と自覚しつつも今は棚上げするシルフィア。
「変わるのはニナにだけだと、セーラから友達を作る楽しみを知れないだろう? ニナがセーラにお弁当を作ってあげると話たように、セーラからも周りに歩み寄るよう手伝ってあげてはどうだろう?」
 エマスが努めて優しく言う。難しい事じゃない。自分が出来たのなら、セーラも出来る。そう伝えた。
「そう……です、ね。私だけじゃなくて、皆さんもセーラさんと仲良くなりたいって思ってる筈ですし……」
 こくこく、と頷くニナ。そして教室の様子を見ていたシルフィアが声を掛ける。
「頃合いね。行きましょう」
 見ると教室での戦闘は終りを告げていた。

●Farewell song.
 多くの修羅場を潜り抜けてきたエンドブレイカー達にとって、戦闘は容易なものだった。
 少女達の攻撃はどれも致命傷足り得ず、半分近くはアヤセとセナが真正面から受けきっていた。
 残り半分も、シルやチナの回復で事足りる。
 サクヤ姉弟は見た目も相俟って兄弟ように見られる事はままある。だからだろうか、今回の依頼には一際想いが強いのだろう。
「遠くで見ているだけじゃ物足りなくなったら……」
「一歩、近づいてみたらどうですか? 誰かに当たるんじゃなくて、輪の中に入って行く。そういう接し方もあると思いますよ」
 戦いの最中、ナイフをバトルガントレットの甲で受け止めて真正面から見つめる。その凛とした瞳は、セーラとはまた違った「王子さま」を感じさせる。
「悪夢から目覚める為に、今はお休みなさい……」
 シルの妖精がデモンの翼を生やした少女の頭上を舞う。キラキラと輝く粒子は眠りを誘い足元から崩れ落ちる。
 残るはナイフを持った少女のみ。チナもミラも、少女を傷付けたくないという思いからか防御に徹する。ならばもう一度、とシルが思っていると後方から鍵が飛来した。
「ッ……!?」
 シルフィアの投げた魔鍵が少女の影に突き刺さり、動きを封じた。それと同時に、仮面の割れる音がし、エンドブレイカー達の勝利が確定した瞬間だった。
 棘が消え去ったのを確認し、少女達を解放するシルとシルフィア。2人は憑き物が落ちたようにニナに謝り続けていた。
「もう、いいんですよ。お二人の気持ちも分かりますし……。それに、私の方こそごめんなさい。セーラさんは皆さんが憧れている人だっていうのを知ってて、独占するようなことをして」
 怒られると思っていた少女達はニナが頭を下げたのを見て目を白黒させていた。
「それだけセーラさんは魅力的なんですよね。寧ろ私が、セーラさんの隣に居させて貰えるだけでも嬉しいことです。あと……もし良ければ、お二人もセーラさんとお友達になって頂けませんか? セーラさん、余りそういうのには無頓着な所がありますので」
 泣きじゃくる2人の頭を撫でるニナ。そしてその提案は、少女達にとって驚きと喜びを齎す物だった。
「あ、そういえばあの人達は……?」
 2人を慰めていたニナは教室を見回す。夜の帳が下りかけている教室には、自分達3人しか居らず、いつの間にかエンドブレイカー達は姿を消していた。

●Princesses of complete darkness.
「お疲れ様です、氷姫と皆様方」
 正門から出たシルフィア達を待っていたかのように声が掛かった。
 振り返るとそこにはマザー・アンジェラが門に隠れるように立っていたのだ。
「エンドブレイカーとして、我が校の生徒をお救い頂き感謝の言葉も御座いません」
「……何も語らず、それでいて全てを知っているかのように……。貴女のやり方は昔と変わってないわね」
「そういう氷姫は、随分と変わりましたね。外に出て、多くを失い、より多くを得ましたか?」
 棘のあるシルフィアの言葉に笑顔で返すアンジェラ。その言葉にシルフィアは首を振る。
「違う」
「ふふっ。何も失わず、多くを得ましたか。……やはり貴女は射干玉ね」
 短い否定。それだけで伝わったのだろう。シルフィアの表情は僅かながら揺らいでいた。
 その答えに満足したのか、アンジェラは校舎へと戻っていく。
「それでは、皆様方の旅路に幸多からんことを」
 一度振り返り、笑顔で送り出すマザー・アンジェラ。その姿が見えなくなってから、エマスはシルフィアに尋ねた。
「シルフィア、あの女性は一体……?」
 シルフィアの事を知り、尚且つエンドブレイカーであることを看破した女性。その事に疑問を抱くのは当然と言えよう。
「……ここの生徒だった頃の、担任なのよ。シスターというのは教師という意味。マザーは校長よ」
「そんなに凄い人だったのかい!?」
 驚きの声を上げるエマス。そして次に向く興味といえば……。
「さて、夜になってきたし、帰りましょうか」
 そう言いスタスタと進むシルフィア。結局、学生時代の話は聞くことなく帰路に着く事となった。



冒険結果:成功!
最終更新:2013年05月19日 15:29