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【オープニング】
●求めるもの
 夜、マギラントの闇に紛れ黒衣が踊る。
「ウフフフフ……」
 女の手にしたナイフは鮮血に染まり、肉塊を不出来な形へと変えていく。
「あ……あぁ……」
 その背中、手足を縛られ猿轡をされた少女が恐怖に怯え涙を流す。
「ふぅ……それじゃ、次は貴女の番ね。いい声を聞かせてちょうだい」
 後ろに転がされた少女と同類だったモノを満足行くまで『創作』したらしく、女は動けない少女の猿轡を外す。
「ど、どうしてこ、こんな事を……! 神はあ、貴女を決して許しませんっ!」
 猿轡を外された少女が恐怖に震えながら何とか声を絞り出す。すると女は不思議そうに答えた。
「どうして? クスクス……そうねぇ、じゃあちょっとだけ教えてあげるわ」
 女はナイフに付いた血を拭き取り、少女の首筋にナイフの側面をピタリとくっつける。ついさっきまで少女の隣を歩いていた友達を刻んだナイフは、冷たい輝きとは裏腹にとても暖かい。
「万能の願望器……エリクシルという宝石の為よ」
「エリクシル……?」
 聞きなれないその名に少女はオウム返しのように呟く。
「そう! それで私は完全になるの。そうすれば……フフフフフ」
 その事を夢に描いているのか、足の縄を解いた少女は女の元から逃げ出す。
「あら? 随分と器用な娘ねぇ」
 女が気付いた時、少女は既に外へ繋がる扉へ手を伸ばしていた。
「逃げなきゃ! 逃げなきゃ……!」
 後ろ手で扉のノブを回すも、焦りで出る手汗のせいで上手く回せない。
「早く、早く……!」
 急がないと魔女に扮した女が迫ってくる。そう焦る少女とは裏腹に、女は動くこと無くその様を見るのみ。
「クスッ……」
 女が笑みを浮かべるのと扉が開くのは同時だった。
「あ、開いた……!」
 そのまま後ろから倒れるようにドアを押し開け外へ転がり出る少女。そして起き上がり走り去ろうとした瞬間。
「――ぁ」
 その頭蓋がスイカのように砕け散った。
 そのまま膝から地面へ崩れ落ちる少女。その背後にはスーツを着た男が血と脳漿に塗れた拳を突き出していた。
「メア、気を抜くなと言った筈だ」
 血塗れの拳を気にすること無く男は女の居る教会へと入っていく。
「ふふ……クウが居てくれたから心配はしていなかったわ。それに、クウも少しは楽しみたいでしょう?」
 メアと呼ばれた女は男の拳を拭う。手にしているのは『創作』の材料となった少女の衣類だ。元々黒いシスター服が赤黒く塗り潰されていく。
「……まぁいい。それで、俺は引き続き外で見張ればいいか?」
「えぇ、お願いします」
 クウが再び教会の外に出て見張り、メアは外で死んだ少女を教会に引き入れ新たな創作に取り掛かる。
「あぁ、楽しみだわ……万能宝石エリクシル……あれがあれば私はクウと同じになれる……」
 創作の途中、少女の心臓を取り出すメア。若く瑞々しいそれは死してまだ間もない故に僅かながら温もりを感じる。最も、その温もりも数秒もすれば消えてなくなるのだが。
「ん……ん……はぁ、まだ……まだマシ、ね……。赤子の血肉が最善だけど……」
 温もりが消える前に、少女の心臓はメアの口に運ばれ、咀嚼された。
 血肉を食らう毎にメアの体は若さを取り戻していく。それは即ち、只の人ではない事を表わす。
「エリクシルを得るためなら、幾らでも屍の山河を築きましょう。幾らでも血の雨を降らせましょう。そうして、私はクウと添い遂げる……あぁ、待ち遠しいわ……」
 創作が終盤に差し掛かった頃、教会の外で物音がする。
 振り返るとクウが2人の男の死体を中へ投げ入れた。
「近づいてきた男だ。悲鳴は出されていない」
 すぐに外へ出たクウ。その口元には笑が浮かんでいた。

●討伐
「というのが、私の見た内容よ」
 射干玉の夜の姫君・シルフィア(c01856)が喫茶店「ミミ」に集まったエンドブレイカー達に告げる。
「万能宝石エリクシルを求めるアンデッドとそれに従う人間による凶行よ。死体はアンデッドの創作が終わると男が破壊し尽くしてただの肉塊にするそうよ」
 その創作というのが、アンデッドであるメアの独特な世界観からくるもので、一般的にはおぞましく吐き気を催すモノらしい。
「アンデッドの方は体力はそんなに無いが、マスカレイドであるからか若い血肉を口にすることで力と自身の若さを維持しているそうよ」
 故にアンデッドは幾度も凶行を重ね続けていくそうで、今ではかなりの高火力を有している。
「逆に男の方はそんなに力は強い訳じゃないみたい。とはいえ、鍛えていない一般人にとっては脅威と言える腕の持ち主ね。あと、火力はン無いが体力はかなり有る方よ」
 クウの目的は不明で、只々メアに付き従うのみ。一応、夫婦として一緒に暮らしているそうだが、男の真意は不明。
「2人が凶行に及ぶ時、必ず男が見張りをし、アンデッドが建物内で犯行に及ぶわ。もし何かあったら、アンデッドも出てくるそうね」
 犯行現場は常に教会で、被害者も教会に足を運ぶ人達ばかりだ。
「私が見た限りだと……次はこの教会で行われるみたい」
 シルフィアが用意した地図に印をつける。
「人払いをしないといけないし、その後にまた2人の男がその近くを通り掛かるから、その対策も必要ね。先回りしてれば教会に居る2人のシスターは何とかなるけど」
 シルフィアが言うには、教会に誰か居れば凶行に及ぶそうなので先回りして一人で居たいと言えば直ぐに出て行くそうだ。
「個々で見ればそう問題じゃないのだけどね。一緒に戦うとなると、相当厄介な相手よ。これ以上放っておく訳にも行かないわ」
 そう言い、シルフィアは協力を仰いだ。

【リプレイ】
●Preemptive strike
 夜の教会に猛る烈風・アヤセ(c01136)と翔る疾風・セナ(c02046)が訪れる。教会内は誰も居らず、被害に遭うシスター達はまだ来ていない。
「私はここに隠れてるよ」
 アヤセが長椅子の下に隠れ、セナが残る。
「あ……」
 アヤセが隠れるのと入れ替わるように入り口が開き2人のシスターが入ってくる。
「あぁ、シスターさん? 実はこの教会で一人でお祈りをしたいんだ。一人にしてくれないかな……」
 セナが表情を作り追いだそうとする。
「あ、はい、わかりました」
「え、でも……」
「別にここじゃなくてもいいでしょう。他の所で……ね?」
 背の小さなシスターは食い下がろうとするが、もう一人が繋いだ手を引いて外へ向かう。暫し見つめ合い、アイコンタクトでもしたのか2人は直ぐに出て行く。
 アヤセが長椅子の下から出て間もなく、教会の扉が開く。入ってきたのはシスターでも祈りを捧げに来た信仰者でもない、黒いローブに身を包んだ魔女だった。
「……」
 言葉は無く、静かに近づいてくる魔女。それと同時に2人がアラームを使う。

 2人のシスターが教会から出て行くのを待っていたかのように、黒いローブの女とスーツを着た男が現れた。
 女は教会へ、男は教会の入り口で壁に背を預け立つ。それだけなら何も怪しくはない。これから行われようとしている凶行を知らない者からすれば。
 そこへ桃宮・ロイ(c31056)、世界樹の妖精術士・シル(c25139)、射干玉の夜の姫君・シルフィア(c01856) が男、クウへ近づく。
「ハロー、私、エンドブ――」
 ロイの言葉が終わる前に動いたのはクウだ。一瞬の内にロイの懐に入り込み鳩尾に左の拳を叩き込み、そこから後ろの足を半歩動かし隣にいるシルフィアの頭部へ遠心力を利用した裏拳を打ち込む。
「――ッ!?」
 同時に教会内からアラームが鳴る。手筈通りならクウとの会話で探りを入れ、アラームを合図にクウを教会内へ吹き飛ばす筈だった。
 しかし現実は違った。会話の余地は無く、問答無用の先制攻撃を仕掛けられ出鼻を挫かれた。
「……今ので死なんか」
 淡々と、本を読むように淡々と呟くクウ。そこへローブに捕まり教会の屋根から見ていた喫茶店ミミの女店主・リムィリファルァ(c32636)が飛び降りる。
「こっちが、がら空きよ?」
 着地の衝撃を殺さず手にしたハンマーへ乗せクウへ振りかぶる。
 力任せの一撃はクウの手に受けられるが、勢いを殺すことは出来ず、教会の扉ごと中へ吹き飛ばす事は成功する。

●Serial Killers
「クウ!」
 扉ごと吹き飛ばされたクウを見たメアはアヤセの鬼爪を弾きクウの元へ駆け寄る。
 その隙にサクヤ姉弟は入り口でロイ達と合流する。
「何!? もう始まっているのか!?」
 教会周辺に通行止めの看板を置いてきた切り札・エマス(c30188)が遅れてやってくる。人払いは完了し、全員が揃ったようだ。
「ハロー、私、エンドブレイカーの桃宮ロイ。……私達ね、あなた【たち】が何をしてるか知ってるの」
 クウの先制攻撃により途切れた台詞も再び言うロイ。その言葉を聞いた2人は動きが止まる。
「へぇ……それじゃあ、貴方達は何を知っているのかしら?」
「うん。貴女が最終的に何をしたいかは分からないけど、一般の方々には脅威よ」
「何故こんなことを続ける?」
「妻が望むからだ」
 エマスがクウへ視線を送り問いかける。ロイとメアの会話に終始無言を通したクウは、さも当然とばかりに端的に答えを返す。
「それは彼女の為になるのか?」
 クウは僅かに考える素振りを見せ、答える。
「それは知らん。だが、妻が求めるのならば手を貸すまでだ」
 話を聞いていたシルフィアは見下すように鼻で笑う。
「フン。万能宝石エリクシル……その為に人を殺すか」
 万能宝石に触れられ、メアの空気が変わる。
「そう……。そこまで知ってるのなら話は早いわね。貴方達も私の目的の為に死んで貰うしかなさそうね」
 メアのローブがはためき黒い翼へと展開する。そこから淡い紫色の光線が幾重にも放たれた。
 その光線を追うようにクウが接近。メアの光線を潜り抜けたアヤセに放たれた左の拳は直角で不軌道を描き防御の隙間から的確に攻撃を当ててくる。更にメアの光線は後方に居るシルとリムィリファルァを巻き込み教会の壁を焦がした。
「本当に愛してるなら、愛する人の間違いを止めてあげるのが本当の愛でしょう!! それでも愛しているからこそ止めないのですか? それは本当の愛じゃないですよ。歪んだエゴに過ぎません!!」
 すかさず鬼爪の刃を鳴らしながら空間ごとクウを引き裂くアヤセ。そこへセナが援護に魔符を放ち霊気を流しこみ神火を灯す。
「……赤トレンチの格闘ピエロ、桃宮・ロイ」
 間髪を入れずにロイが蹴りの乱打でクウを打ち据える。
「……」
 アヤセの問いかけに答えること無く、ロイの蹴りの乱舞に耐えるクウ。
「あなたを突き動かすものは、一体何?」
 シルは祈りを捧げた弾丸はメアの両腕を撃ち抜き動きを封じ、シルフィアが魔導書から白蛇を召喚しメアへと放つ。
「ククッ……これで何が出来るか見せて貰うとしよう」
 白蛇が両腕に絡みつき石化していく様を見て嘲るシルフィア。
「フフッ……これでアドバンテージを得たとでも? だとしたらとんだおバカさんね」
 嘲笑に嘲笑で返すメア。どちらの表情にも余裕の色が見て取れる。
「それで2人は本当に幸せになれると思っているのか?」
 エマスが足を振り衝撃波を放つも、クウの右手がその衝撃波を叩き壊し相殺する。
「クウさん、メアさんを止めるのは本当は貴方なのではなくて? ……彼女、とても可哀相。メアさんの顔が私には泣き顔に見えるわ」
「泣いてなどいない。お前の見間違いだ」
 リムィリファルァの言葉にメアを一瞥し、律儀に返すクウ。視線が外れてもリムィリファルァの放った犬のスピリットの奇襲に気付き、犬の頭部を掴み地面へ叩きつけた。
「貴様を砕く……!」
 そして再びクウが動く。真っ直ぐにロイへと駆け、消えた。
 否、ロイの真横へと一足で跳び、そこから更に真上へと跳び上がり両の拳を放つ。
「ッ……!?」
 ロイの背を足場に後方に居るエマスにも同じように死角へと拳を見舞うクウ。素早い動きと慣性を無視したかのような急激な変則的な軌道が攻撃を不可避なものへと変貌させていた。
「……今してる事は本当に君が心からしたいと思っていること? メアのしている事だから従っているなら考えを改めたほうがいい。君はまだ引き返せる。愛する人の過ちを止めるのが本当の愛だよ。違う?」
 陣中に入り込んだクウ目掛け魔符を放ち爆破させる。
「ッ、口の減らない子達ね……!」
 苛立った声でメアがローブの翼から濃い紫色の槍を生み出し射出し、アヤセの体をすり抜け影に突き刺さる。
「ぐっ……ぅ……!」
 アヤセの顔が苦痛に歪み冷たい汗が流れる。槍は影と同化し、それと同時にアヤセの体は自由を取り戻す。
「お返しだよっ!」
 ロイの蹴りがクウの腰と頭部をメッタ打ちにするが、多少の流血のみで表情は最初と何ら変わらず無表情のままだ。
「今、引き返せると言ったな」
 セナを正面に捉え、クウが語る。
「何を、引き返す必要がある? 先程から聞いていれば、あいつの何が過ちだと言うのだ?」
 それを、眉一つ動かさず言い切るクウ。その台詞に言葉を呑む。
「ほぅ……。面白い。殺人を是とするか」
 なるほど、と納得したようにシルフィアが呟く。
「元よりこの身は只の殺人鬼に過ぎん。……最も、今ではとうに朽ちているがな」
 言葉は途切れ、始めてクウは構えを取った。両の拳は鳩尾に抱え、体は斜に構える。
「何を勘違いしているかは知らんが、私はあいつの望みを叶える為に手を貸すと約束をした。ならば、果たさねばならん」
 愚かなまでに実直に、殺人鬼は1つの約束を守る為に凶行に手を貸し続けていた。
「メア。これ以上時間を掛けるわけにはいかん」
「え、えぇ、そうね。早く終わらせるとしましょう」
 エンドブレイカー達の僅かな可能性の説得は元より意味はなく、戦いは激化していく。

●Dedication
 シルの妖精が円を描いてエンドブレイカー達の傷を癒していく。
 特に負傷が酷いのはエマスとロイの2人だ。
「まだ足りんか……門よ!」
 シルフィアが魔鍵で楽園の門を開きロイの傷を全快させ、リムィリファルァが忍犬を召喚し、咥えた刀でクウを刻み、雄叫びを上げアヤセに力を与える。
「喰らえ……!」
 クウの右手が一直線にセナの喉を掴み、勢いを増して後頭部を床に叩きつける。
「セナ!」
 アヤセがクウの顔面に蹴り仰け反った体に拳の雨を降らせる。
「邪魔はさせないわよ!」
 クウに近づけさせないようにメアが光線を放ち、教会の床や椅子を巻き込みロイとシルフィア、リムィリファルァ、エマスを襲う。
「クッ……拙い……!」
 膝を折り肩で息をするシルフィアは体力自体が少ない事もあり既に死に体だ。
 セナの神楽舞で何とかシルフィアは持ち直すが、それでも楽園の門で消費した体力は戻らない。
「ニルちゃん、お願い!」
 シルの放った妖精の矢はメアの脚を撃ち抜き反転、背後から脇腹を撃ち抜いた。
「うっ……ッ!」
 メアが呻き声と共に膝を突く。一方、クウは頭や手足から出血しているものの、表情は最初と変わらず無表情で疲れを感じさせない。
「それっ!」
 ロイが戦闘で破壊され散らばった椅子の残骸を足場にして、軽くステップを踏みクウの背後から蹴りの乱舞を。
「今だ、リリ!」
 続けてエマスが壊れた椅子の陰から二丁の紫煙銃のトリガーを引きクウへ発砲。注意がエマスに逸れたタイミングでリムィリファルァがハンマーを手にフルスイング。
「ぬぅっ……!」
 ハンマーは腹に命中し、クウを吹き飛ばした。
「く、…ぅ、クウ……今、治し……」
 吹き飛ばされたクウはメアの前で止まり、立ち上がる。
「私は……私達は負けられない……!」
 アヤセがクウに肉薄し、竜の力を宿した拳と脚を乱舞させる。
「それはこちらも同じ……!」
 クウの両拳がアヤセの乱舞を受け流していく。しかし次第に手数で圧され撃ち負ける。
「クウッ……!」
 メアは自身の体力が少ない事を顧みず、ローブの翼を切り離し漆黒の炎に包まれた不死鳥を作り出した。漆黒の不死鳥はクウの傷を大きく癒し、その身を焦がす神火をも消し去る。
「……あっ、ッ……!」
 自身の体力を消費し、最早風前の灯となっていた。
「……もしかしたら、僕達も……」
 メアの献身に思うことがあるのか、セナは少しだけ悲しそうにメアを見つめる。
「だからこそ、乗り越えないといけない……」
 セナは手にした魔符をメアへ放ち、そして。
「ぐっ、ああぁぁ……!」
 メアに貼られた魔符に霊気が注ぎ込まれメアが力尽きる。
「……クウ、無事……です、か……」
 力尽きる、筈だった。既に体力は底を突き、現にマスカレイドの仮面は崩壊を始めている。それでもメアは留まっていた。生への執念か、それ以外の何かがそうさせるのか。
 その姿を前に、エンドブレイカー達は動けずに居た。放っておいてもメアは倒れるというのもあるだろう。しかし、それ以上に動ける空気ではなかった。
「メア……」
 倒れそうになる体をクウが抱き留める。
「良かった……。貴方に死なれては……でも、ごめんなさい……。もう、望みは……」
 仮面が崩れ落ち、メアは本来あるべき姿、死体へと戻ろうとしている。
「謝ることはない。お前の望みは私が叶えよう」
 伴侶が再び死を迎える間際でもクウの表情に変化はない。その心には何も去来しないかの如く。
「ふふっ……」
「何がおかしい?」
 小さく笑みを浮かべるメアにクウが尋ねる。
「だって、クウは優し過ぎるもの。だからこそ、もう望みは――」
 メアの言葉はそこで途切れた。教会に残ったのはエンドブレイカー達とクウ、そして物言わぬメアだった死体のみ。
「……」
 崩れ落ちたメアを見下ろしていたクウは、エンドブレイカー達へ振り返り拳を構える。
「もう戦う必要は無い筈ですよ……?」
 警戒しつつも、シルが呼びかける。
「既に約束を果たすべき者は居ない。そこまでして万能宝石に拘るか?」
 魔導書を手に攻撃態勢のままシルフィアも呼びかける。
「それがどうした。例え本懐を遂げるとしても。その日から長き月日を耐え、忍び、困難に打ち勝たねばならぬ『生きる』という試練が待ち受けているのだ」
 一歩、構えを崩す事無く近づく。
「それに対し私に出来うる事は、今現在の数刻の苦痛のみ。何と楽な道か。だがこの程度の事しか、私には妻にしてやれる術が見つからん――」
 今までで饒舌に、そして僅かながらの感情が乗った言葉を、クウは発した。
「……我ながらよく回る舌だ。……来るがいい、勇者と呼ばれる者達よ。我が安楽の道を阻んでみるか」
 そして発せられる殺気。朽ちた殺人鬼が目を覚ます。
「殺るしか無いか……。良かろう、死ぬがよい」
 シルフィアが魔導書から白蛇を喚び出しクウへ放ち、それと並行するようにシルが月光のカーテンを作り出しクウを包み込む。
「ハァーッ!」
 白蛇に巻きつかれ脚が石化するが、それを物ともしない動きでシルの月のカーテンを突破する。
「散れっ!」
 音速を超える速度で放たれた拳はしかし、ロイの蹴りの応酬で総て弾き返され、そのまま蹴りの乱舞がクウを襲う。
「まだっ、ぬぅっ……!」
 ロイの蹴りから逃れるように下がった所へエマスの放つ衝撃波がクウを捉える。
「そっちがその気なら、仕方ないわ」
 その隙に背後に忍び寄ったリムィリファルァが電気を纏う鞭で幾度も打ち据えた。
「ハアッ!」
 アヤセの拳の乱舞がクウを打ち抜き、トドメとなった。
「……フ……。致し方なし……」
 アヤセの拳を浴び、仰向けに倒れるクウ。その表情は虚ろで何も見ていないかのようである。
「……」
 その言葉を最後に、クウは二度と起き上がることは無かった。

●Residual heart
 戦闘後、メアの死体はシルフィアのローズリチュアルで消すことが出来たが、クウはマスカレイド化していないので消すことが出来ず、そのまま放置することとなった。
「さっさと出るわよ。見つかったら拙いから」
 そう言い戦闘で荒れ果てた教会を我先にと出るシルフィア。他の面々も急いで出るが、エマスとリムィリファルァはまだクウの死体を見つめていた。
「……エマス……」
 エマスに寄り添うようにリムィリファルァがポツリと呟く。視線の先にはエマスの手にしている『恋人』のタロットカードだ。
「エマス。証拠は残せないわ」
 見かねたシルフィアがエマスの手からタロットカードを奪い取る。何が元で足がつくか分からないからだ。
「だが……」
「……」
 食い下がるエマスをリムィリファルァが手を引いて止める。感傷に浸る時間も許されないようだった。
 だからせめて、心の中でエマスは願うのだった。
「……せめて今度は、メアと幸せに過ごせクウ」



冒険結果:成功!
最終更新:2013年05月19日 15:33