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【オープニング】
●墓荒し
「混ざれ混ざれ混ざれ混ざれ♪」
 夜、月の無い墓場に声がする。
 棺に収められた死体に複雑怪奇な文字を書き、その上に赤い液体を垂らしていく。
「断ち切る度に5度、閉ざされる刻を怨嗟で潤し、我が声の傀儡とせん♪」
 墓場に朗々と響く声はしかし、夜の静寂に吸い込まれるように消えていく。
 呪文と共に文字と赤い液体は死体に吸い込まれるように跡形もなく消えていく。
「ウフフフフ……これでよしっと」
 くるりと一回転。声の主は黒いローブを被り、顔は奇っ怪な仮面で隠されている。
「使えそうな子って意外と少なくて苦労するわぁ」
 そう言いながら木の板――棺の蓋を被せ土を戻す。無意味に丁寧に、元に戻す。
「あと……400体は欲しいかしらん? えーっと、次は……」
 袖口から地図を取り出し広げる。明かりはなく何も見えない夜の中、地図を見つめ次の目的地を確認する。
「あらやだぁ! 次はここよりもっと大きな所じゃなぁい! 全部調べるだけで大変ねぇ~」
 嬉しそうに声を上げる。オネエ口調ではあるが全身を覆うローブと仮面で性別は不明である。
「それじゃ今から急がないとヴェルニアの墓には着かないわねぇん」
 声の主が去った後の墓場はどれも、丁寧に直されているものの、総て掘り返された墓が残されていた。

●流れた依頼は
 ある日、喫茶店ミミに1つの依頼が舞い込んできた。
『求む:正体不明の墓荒しの調査及び捕獲』
 黒の塔の管轄地である農村、エシタ村。その近くにあるヴェルニアの墓というエシタ村が1、2個入りそうな程広大な墓地に夜な夜な墓荒しが現れるそうだ。
 村人が交代で朝まで見張っているものの、朝になればかならず1つ2つの墓が掘り返されている。
 しかし不思議な事に、何も盗られたり壊されたりはしておらず、これといった被害は無いという。
 実害は無いものの、村民達は不気味に感じ、酒場へ依頼を出すことにしたそうだ。
「ふーん……」
 どうでもよさそうな顔で射干玉の夜の姫君・シルフィア(c01856) が依頼書を見ている。ただの愉快犯。そう決め付けることが出来るのだが、場所が黒の塔の管轄地というのがどうもキナ臭い。
「えーっと……黒の塔って確か……」
 闇の力について他の二塔より一日の長がある。先の黒の塔のクーデターでマスカレイドが絡んでいる事もあり、ただの愉快犯と済ますには些か乱暴な結論とも言える。
「でもこれって……」
 しかし、とシルフィアは記憶を手繰り寄せる。
 喫茶店ミミ以外の酒場でも似たような依頼があった気がする。どれも結果が出ず、異常なしという報告で打ち切られた、とも。
「まぁ、どうせ暇だし」
 そう、軽い気持ちで依頼書にサインをした。

【リプレイ】
●
 夜のヴェルニアの墓に4人のエンドブレイカーが集まっていた。
「それでは、何か異常があった場合はこの笛を吹いてください。あと、私達が笛を吹いても近寄らないようお願いします」
 紅水晶・フィーア(c03049)が墓守をしている村人へ笛を渡す。墓守は東西南北の四方に分かれ入口を見張るだけで、それ以外の事は基本的にしないらしい。怖いし。全員かなりの高齢だし。
 ヴェルニアの墓は四方に設置されている入り口以外は、高い塀で囲われており基本的に飛び越えるのは難しい。
「それじゃあ、ロイさん、フィーアさん。そちらをお願いしますね」
 世界樹の妖精術士・シル(c25139)が腰に下げたランタンを確認しつつ手を振る。その後ろには干玉の夜の姫君・シルフィア(c01856)も居た。
「えぇ。シルさんも何かあったら笛を。私達がすぐに駆けつけますから」
 黒のローブに身を包んだ桃宮・ロイ(c31056) がそれに応える。2人1組の2組に分かれて捜索するようだ。
 正面入口の東側から、シルとシルフィアが南から西へ左回りに。ロイとフィーアはその反対、北から西へ右回りに捜索していく。
「……」
 2組に分かれてから、シルフィアはずっと無言のまま歩を進めていく。今回は目よりも耳が重要ということもあり、一言も喋らない。
「……」
 そんなシルフィアの前を歩くシルは内心恐る恐る捜索をしていく。
 後ろを歩くシルフィアの無言が何時も以上に無駄に重圧感を醸し出していた。
 ガサッ。
「!!」
 草むらから音がし、ビクッと体を震わせたシル。しかしシルフィアは振り返ることなく先に進んでいく。
「え、あれ? シルフィアさん……?」
「猫よ」
 シルの呼び掛けに足を止め指をさすシルフィア。その先を見ると草むらからこちらを伺う猫の目がランタンの明かりを受け白く光っていた。
 ニャーーー。とひと鳴きした猫は草むらに隠れ何処かへ行ってしまう。2人はそれからも墓の様子を見ながら捜索を続けていく。
 一方、ロイとフィーアは、ロイのヒアノイズで注意深く音を探っていき、フィーアも音に注力して進んでいく。
 2人共黒い服装をしている為、手にしているランタンを消したら完全に闇に紛れる事だろう。
 カツン、カツン。
 ヒアノイズを使用していたロイの耳が僅かな音を拾う。隣を歩くフィーアは聴こえていないようで、気付いたようすはない。
「フィーアさん、こっち」
 ロイがフィーアに声を掛け、音のする南南西へと進んでいく。
 次第にフィーアにも聴こえる程になり、2人は慎重に音のする方へと進んでいった。
 音の発生源は、パンパンパンとシャベルの底で地面を叩き平らにしていた黒いローブの人物。件のマスカレイドである。
「フゥー……」
 まるで一仕事終えたかのように腰に手を当て反り返る。工事現場のオッサンさながらである。
「こんばんは。私たち、エンドブレイカーっていう特殊な戦士なんだけど……」
 ロイがぽんぽんと黒ローブの肩を叩いてみる。
「あらあら。こんな時間にどうしたのん? 今は立入禁止の時間よぉん?」
 黒ローブは振り返り場違いな返事をする。それと同時にロイとフィーアの目にマスカレイドの仮面が見え、直ぐに笛を吹き仲間へ知らせる。
「やぁねぇもう、いきなりそんな笛鳴らさなくたっていいじゃなぁい。今日は何かのお祭りなのぉ?」
 男のような女のような、判断が付かない中性的な声をしている黒ローブ。口調はおネエ系だが。
「やっぱりあなたね、件のマスカレイドって」
 ロイが【†・姫巫女・†】を抜刀し居合一閃。追撃としてフィーアがデモンの翼を具現化させて破壊のレーザーを打ち込む。
「あいたたたた! 痛い痛い痛いってば! もぅ、お肌に傷が付いちゃうじゃないの!」
 太刀による居合い斬りとデモンのレーザーを一身に受け痛がる黒ローブ。しかし斬られ、レーザーが貫通したローブからは血は流れていない。
「痛いのは好きだけどお肌に傷が付くのは頂けないわぁ……お返しよ!」
 ローブ越しにロイの頭を掴み両手から目に見える程に濃い呪詛がロイの体へ流し込まれる。
 ダメージと共にロイの中に入った呪詛が抜け切らない。
「やぁっ!」
 黒ローブがロイから下がるのを押し戻すように、妖精と同化したシルが月光剣『シルバー・クレセント』で斬る抜ける。
 背中から生えた羽により飛べるのか、滑空するように滑り込み脇腹を月光剣が走り抜けた。
「お待たせ! 大丈夫だった?」
 その後を追うようにシルフィアも追い付き全員が揃う。
「あらあら、女の子ばかりじゃなぁい♪ いいわいいわぁ! 皆可愛がってア・ゲ・ル♪」
「私は男よ!」
「あらそうなの? でもカワイイから無問題よん♪」
 ウフフフフ、と厭らしい笑みと共に奇っ怪な仮面の横に浮かび上がるマスカレイドの仮面。
 死者の眠りを妨げ、死を冒涜する者の狂宴が始まった。

●
「そ~れぇっ! 皆お仕事よぉ~!」
 黒ローブが手を振り声を上げる。戦闘中とは思えない陽気な声に誘われるように墓から這い出る死体。そのどれもが頭部に真っ赤な刻印が浮かび上がっていた。
「好きなだけ食べちゃいなさぁい!」
 黒ローブの声に従い、近くに居たロイへ襲いかかる。3体の死体を掻い潜り脱出するも、腕や足に受けた傷から猛毒が入り込み体力を削る。
「何故こんな事をしている……!」
 死体の檻を掻い潜りそのまま黒ローブへ迫るロイ。
「何故? 決まってるじゃなぁい。ただ単に楽しいからよ♪」
「ッ……!」
 【†・姫巫女・†】を抜刀し袈裟から左薙ぎ、更に逆袈裟と太刀を走らせローブを刻む。
「あぁん、もぅ! せっかく洗ったばっかりのローブがボロボロよぉ~」
 自身のダメージよりもローブが傷つく事を嘆く黒ローブ。そんな隙だらけで大丈夫か。
 続けてフィーアがデモンの翼をはためかせレーザーを照射。威力を増すように、背中を侵食し、翼がより大きくなっていく。
「ニルちゃん、宜しく!」
 シルが召喚した妖精群が針を手に黒ローブへ飛びかかる。縦横無尽に五月蝿く飛び回る妖精が四方八方から針を突き刺していく。
 シルの妖精が後退するのと入れ替わるようにシルフィアの魔鍵がローブの影を縫い止め、足の動きを封じた。
「あらら? 足が動かないじゃなぁい」
 黒ローブが何とか足を動かそうとするも、魔鍵に縫いとめられた足は動かない。
「仕方ないわねぇ……。いいわ。本気で相手をしてあげるから……!」
 戯けた口調が一変、威圧感のある口調に切り替わる。
「こんなトコロでくたばって堪るもんですか! 邪魔立てするのなら、蛆虫の苗床にしてあげるわ!」
 途端、両の腕を振るうとシルフィアへ不可視の衝撃波が襲いかかり血が流れる。
「貴方はどんな経緯で、マスカレイドなんかになってしまったんです……!」
 猛毒に侵されながらも居合い斬りでローブを刻んでいく。しかし、幾ら刻んでも血は流れることはない。
 それでも尚、バトルトークでロイは語りかけた。
「どんな経緯……ねぇ。そんなのアタシだって知りたいわよぉ。気付いたらこうなってたんだもの」
 そう言い、黒ローブは仮面を外す。
「なっ……!?」
 それは誰の声だったか。誰もが動きを止め、仮面に隠された素顔に驚愕する。
「やっぱりよねぇ……。みーんなこの顔見たらそんな反応するんじゃないかって思ってたのよぉ」
 剥き出しになった歯がぶつかりカタカタと音を立てる。仮面に隠された髑髏が今、エンドブレイカー達の前に曝け出された。
「そ。アタシはアンデッドのマスカレイドなのよ。だからなのかしらねぇ? アタシ、死体を操れるようになちゃったのよぉ♪」
 そして再び仮面を付け、黒ローブは告げる。
「だからアナタ達も死んでアタシの仲間にしてあげるわ。そうすれば、もう死ぬことを気にしなくていいわよぉ? だってもう死んでるんだもの♪」
 戯けた口調で、しかし殺意はより深く熾烈に放つ。
「死ぬのはごめんよ。それに、私達は」
「その終焉を壊すために此処に居るっ!」
 フィーアとシルが同時に動く。デモンの力で禍々しい邪剣を召喚し妖精と共に黒ローブへ殺到。無数の邪剣が体を貫き、無数の針が邪剣の隙間を縫うようにその身を刺していく。
「死体が喋るな。黙って死んでろ」
 そこへシルフィアが白蛇を召喚し黒ローブへ放つ。足元からローブ内へと潜り込み腕と足を石化させていく。
「あらあら……あんまりアタシを、舐めるんじゃないわよぉっ!」
 黒ローブは指で虚空に何らかの印を描き、同時に沈黙を保っていた死体が動き出しフィーアに襲いかかる。
「うっ……」
 手にしている武器で薙ぎ払おうとするが、躊躇いステップで避ける。
「これ以上は拙いね……」
 ロイの体内を廻る魔獣の血を覚醒めさせ傷を癒そうとするが、体内に沈殿していた呪詛が活発に動き出し傷は塞がらず、寧ろ猛毒のダメージにより体力を削られる。
「待って。今癒すわ」
 フィーアが魔鍵でロイの傷を『塞ぐ』が、中に淀む呪詛とその身を蝕む猛毒は消えることは無かった。
「ありがとうございますなの、フィーアさん♪」
 その間にもシルは妖精のニルと同化し妖精の翼から鱗粉を撒き散らしながら月光剣『シルバー・クレセント』で黒ローブの右腕を切り落とした。
「あら……?」
 切り落とされた自身の腕を呆然と見つめる黒ローブ。そこへシルフィアの魔鍵が頭の影に突き刺さる。
「グ……ギッ……! あんまりいい気になってんじゃないわよこの糞ガキ共があぁぁっ!」
 怒りに身を任せた不可視の一撃がフィーアを襲う。1波2波と複数の衝撃波がその体を、デモンの翼をズタズタに刻み付ける。
「くぅっ……」
 一気に体力を削られたフィーアは膝を折り肩で息をしている。
「それは貴方の方よ!」
 一息のもとに接近したロイは【†・姫巫女・†】で左腕を切り落とす。
 不可視の衝撃波で体力を吸い上げていても、それは回復と呼べる程ではない微々たるもの。正当な回復を受け傷を癒すそれとは雲泥の差がある。
「ヒッ!」
 両の腕を失い、逃げに転じようとする黒ローブを追う影が1つ。
「逃がさない!」
 妖精の翼を生やしたシルが滑空しつつ手にした月光剣を振り下ろし足を断つ。
「ギャァァァァ!」
 顔面から地面へ倒れこみ近くの墓にぶつかり止まった。
「トドメよ!」
 そこへフィーアの邪剣の群れが雨のように降り注ぐ。
「クゥッ……! アタシは死ぬものですか……! こんなトコロでまだ……!」
 藻掻こうとするも、既に体力は底を突き体内の棘は霧散していくのに引きずられ、体はただの死体へと戻りつつあった。

●
 黒ローブの死体が水晶のように透き通った赤黒い薔薇の花になると、操られていた死体の刻印が消え、本体と同じく元の死体へと戻った。
「赤、か……」
 そう呟くとシルフィアは薔薇を踏み躙る。嫌いな色が土で汚れて見えなくなるまで。
 死者は死者のまま、生者と交わること無く土へ還るのみ。
 もう二度と、死者の眠りを妨げる者は現れる事はないだろう。
「それじゃ、元に戻してあげないとね」
 フィーアの言葉に異を唱えるものは居らず、死体を元の墓へと戻していく。
「何か……無いかなぁ?」
 シルも墓に戻す作業を手伝いつつ、何か黒ローブについての痕跡がないか調べていく。
 そして、見つけたのは名前の刻まれた古いシャベルのみ。
「フレネン・カ……って読むのかな?」
 収穫はそれだけ。既に真実を語れる者は居らず、それ以外は何も分からない。
「それでは夜が明ける前に帰りましょうか」
 ロイの言葉に頷き、エンドブレイカー達は帰路へ就く。




冒険結果:成功!
最終更新:2013年05月19日 15:36