●永遠に閉じた可能性
そうして、彼女は手に入れた。
『有資格者』よ。『エリクシル』への『道』は『開かれ』ました。
さあ、『エリクシル』に『代償』を『捧げ』、汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
彼女の前に現れたのは待ち望み、探し求めた万能宝石エリクシル。そこへと至る道を開く巨大な妖精である。
「あ……あぁ……! 遂に……遂に手に入れた……! 万能宝石エリクシル……! これで私は戻ることが出来る……!」
感極まり涙を流すメア。
「『この都市に生きる人』を代償に、『私を元の人間に戻して』!」
メアの『望み』と『代償』を聞き届け、万能宝石エリクシルは妖しく煌めいた。
『有資格者』よ、『望み』を『実行』します。
『この都市に生きる人』を抹消し、『有資格者を元の人間に戻す』を実現します。
『この都市に生きる人』の数、592734人。その総てを抹消します。
『有資格者を人間へ再構築』し、『体内の棘を放出』します。
『有資格者を人間へ再構築』完了。『体内の棘を放出』完了。
『有資格者を人間へ再構築』した為、『マスカレイドとしての力』を失い、現在は『有効な自衛手段』を有しません。
「あ……あぁぁ……!」
メアが歓喜に打ち震える。冷たかった体に熱が灯り、生の胎動を感じることが出来る。
「やった……遂にやったわ! ねぇ、クウ! 私戻ったの! やっと私、元の人間に戻れたの!」
喜びはしゃぐメアの言葉に返事は無い。
「クウ、何黙ってるのよ! やっと願いが叶ったのよ!」
隣に立つクウの肩に手を置こうとして、ようやく気付く。
「え……?」
隣には『誰も居ない』
幼い頃から共に過ごした愛しい夫は、メアの前から姿を消した。
戦いで傷つき破れ、血の滲んだ衣服だけを残し、姿を消した。
「ク……ウ?」
辺りを見回すが、視界に入るのは『意味のない光景』のみ。
「え……? クウ、何処……? 何処へ行ったの……?」
ぞぶり。
「えっ?」
何か音がした。視線を下に向けると、腹から赤黒い棒のようなものが生えている。
「なに、これ?」
気づくとメアは地面に倒れていた。
「あれ……? あぁ、そう、クウを探さないと……」
立ち上がろうとするが上手く行かない。おかしいと思った彼女は直ぐに納得する。
「あれ? 脚、無い?」
膝から下がイノシシのような顔になって脚が見えないのだ。
ゴリ、ゴリ、ゴギリ。足先から奇っ怪な音が鳴っている。
「え……クウ………嘘……ウソよ、そんな……!」
次第に痛覚からの刺激が伝わると同時に、彼女は理解しだす。
メアは言った。『この都市に生きる人』を代償に。
妖精は言った。『この都市に生きる人』を抹消し。
メアは思い出す。『この都市で共に生きた夫』を。
「まさか……そんな……!!」
身を引き裂くような痛みをも忘れるほど、彼女は理解してしまった。
「嘘よ、そんな、そんな事ありえない! だって……だって……!」
クウの姿を探そうと体を動かすが、視界は得体の知れない何かによって遮られる。
「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘う――」
既に動くことすら出来なくなった体で、心が絶望に塗り潰される前にメアの意識は大きく開かれた顎の光景で永遠に閉じられた。
三塔戒律マギラントは滅亡し、新たなギガンティアとして後世のエンドブレイカー達によって発見されることだろう。
その時は、誰もメアの事を知るものは居ない。
最終更新:2013年05月19日 15:34