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captar3 転 前編 

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―――――――私には無理だ。




CR ―Code Revegeon― capter3 刹那を超えて―― 転

The condition of Hero


AM5:23 イーグル本部鋼機第二格納庫

深い闇に星々がきらめく夜空に薄ら明かりが侵食ししはじめた時にそれは起こった。
耳を刺すような金属の反響音。
鋼鉄で作られた鋼機格納庫の屋根が引き裂かれ、その中から大きな尾が姿を現す。
姿を表した尾は十字を描くようにして屋根を切り裂いた後、壁が崩れ落ち格納庫はその体をなくしていく。
瓦礫となった格納庫の中からせり上がるように一機の鋼の獣がその姿を現す。
大きな尾をもった蠍を模した鋼獣。
その腕は大きな鎌であり、口を大きく開け咆哮する。
その音は周囲の空気を大きく震わせ響いた。
そして怒れる荒御魂の如く、その尾を振り回し施設を破壊していく。
近くにいたイーグル所属員は逃げ惑い、中には逃げ遅れた瓦礫に潰されたものもいる。
第二格納庫の破壊を終え、蠍を模した鋼獣は次の格納庫へとその歩を進める。
緊急発進した2機のアインツヴァインはすぐさま鋼獣へと攻撃を開始。
手にもったアサルトライフルを発砲する。
しかし、無力。その攻撃の全てを鋼獣の装甲が食い散らかし、その尾にて鋼機を貫いた。
エンジン部に直撃し機体は爆発し、炎が上がる。
もう一機は後退しながら発砲を続けるが、すぐに取り憑かれその口で鋼機をその口で貪りはじめた。
それは人が牛や鳥の肉を食するのと同じで弱肉強食の図の如く鋼獣が鋼機を食らう姿だった。
鋼獣の体はみるみると再生を始め受けていたダメージが修復されるばかりか性能の拡張が行われていく。
新たな鎌が生成される。そして尾の形状が変化していく。瞳が2つから4つに増え、口が十字に割ける。
それは剛蠍と呼ばれた鋼獣に既にあらず、まったく新しい脅威の誕生だった。
鋼獣凶種、閃蠍。
そして、鋼獣は第三格納庫へと向けて歩みを進め始めた。



―1―



『緊急警報。緊急警報。第一格納庫に捕獲されていた鋼獣が拘束から抜け出し当施設への攻撃を開始。職員は施設からの退避を戦闘員はただちに鋼機への搭乗し迎撃を…。』

本日の真昼から雪華の登録解除の為の認証を行う為にイーグルの鋼機収容施設に前日から泊まり込んでいたシャーリー・時峰はその警報で叩き起こされた。
ボサボサになった髪をかきながら立ち上がり、寝起き特有のぼやけた思考を止める為、シャーリーは頬を両手で叩き覚醒させ、すぐに荷物をまとめてゲストルームの戸を開けた。

「何だ…。」

爆発音が聞こえ、シャーリーは事態の異常性を認識する。

(敵襲?だが誰が?)


警報や爆発、瓦礫の倒壊する音が聞こえる。
施設が攻撃を受けているのは疑いようがない。しかし一体誰に受けているのだというのだろう?
敵なのだろうが、ここは仮にもイーグルの鋼機を収容する施設であり、こんなに奥深くに敵が潜り込む前に敵襲を察知していなければおかしいのだ。
敵がこちらに迫っていてもこんな状況になる前になんらかの対応が取れる筈である。
だが、それが出来ていない。これの意味する所は何か?
1つの答えがシャーリーの脳裏を横切る。
シャーリーはその答えを頭で何度も否定した。そんな事があるわけがない。
大地が揺れる。
まだシャーリーのいる施設まで敵の手は迫ってはいないようだ。とはいえそれほど遠くなく音が聞こえるという事はここが襲撃されるのも時間の問題と考えるべきだろうか?
そう考えながら走り、シャーリーは他の避難者と一緒に外にでた。
そしてあたりを見渡し絶句する。
夜明けを迎えつつある薄暗い夜空を染める炎の赤。
遠くに見えるのは破壊された第二格納庫と鋼機達。
そしてそれを絨毯のようにして、踏みしめてこちらへとゆっくりと歩を進める蠍を模した鋼獣。

「どういう事だ。」

シャーリーはその姿に目を見開き心底驚いたようにしてみる。
それとの戦闘を人工衛星を介して撮影された記録で見ていた。
だから細部に違いはあるもののそれが何なのかはわかる。確かに、それならば事前に察知できなかったのは頷ける。
何故ならばそれは、最初からこの施設内に捕獲されていた鋼獣に違いないのだから…。
それが逃げ出したのであれば、それは確かに察知出来ない事態であると言える。
だが、それは本当にありえる事なのだろうか?とシャーリーは思う。
真由里達γ部隊は確かにあの鋼獣の四肢をもいで拘束し、再生を行わせない為に電磁ネットで拘束を行った筈なのだ。
つまりはあの鋼獣は拘束されていた第一格納庫から出てくる事はできなかった筈である。
それが何故か今、その体の全てを再生させて咆哮し破壊を繰り返している。

「誰かが手引したとでもいうのか?」

シャーリーが逃げ出した施設の隣にある第三格納庫から、二機の鋼機アインツヴァインが出撃する。
片方の機体の手には先の戦いで鋼獣を拘束することに成功したエレクトロニカルネットランチャーが構えられていた。

(あれは…。γ部隊の―――)

その光景を見て、シャーリーはそう思う。
片方の鋼機はネットランチャーを構え、鋼獣の攻撃を受けないように後方に下がる。
そしてもう一機は前に出てライフルを撃ち続けた。当然、鋼獣のナノイーター装甲はその弾丸を喰らい自身へと還元していく。
つまりはこれは時間稼ぎ、ネットランチャーの充電が終わるまで気を引くのが前衛の機体の役割であった。
振り下ろされる鎌と尾を紙一重で回避しながら、時間を稼ぐ前衛の機体。その配置は状況は悪いが先の捕獲作戦の再現だった。
決着はそう長い時間がかからなかった。
三之秀次を殺害した時のように三股に別れた尾は鋼機の右脚部を射抜いた。
脚部を失い尻もちをつく機体、それにトドメを刺そうと再び尾を突き出す。
その瞬間、もう1機のアインツヴァインがネットランチャーを構えて引き金を――――
その時、鋼獣の尾から閃光が走った。
瞬間、ネットランチャーをもった鋼機の胴体に大きな風穴が出来、機体は力なく倒れる。

(え、何が…。)

シャーリーはその光景に絶句する。
何かが鋼獣の尾から放たれたのは間違いない。だが、何が放たれたのかはわからない。
ただ、残ったのは鋼機が破壊されたという結果のみだった。
鋼獣は脚部を破壊されたもう1機の鋼機をその鎌で完膚なきまでに破壊する。
右腕をもぎ、腹部を貪り、何度も胴をその尾で貫く。
まるで勝利を誇示するかのように、先の戦いの恨みを晴らすかのように蹂躙する。
シャーリーはその光景を見て、過去にあった事がフラッシュバックする。
犬を模した鋼獣達に食われる仲間達の姿。それをただ見ていることしかできなかった無力な自分。
シャーリーは酷い嘔吐感を覚え、必死に抑えこんだ。
基地内を走る為の特殊車両がシャーリーに向かって走ってきて目の前で止まる。

「ひどい顔をしていますわね。」

そう車両の座席から言葉をかけてきたのは久良真由里だった。
彼女はγ部隊の隊長であり、今鋼機部隊を統括する立場でもある。

「真由里、これはどういう事だ?」
「さあ、知りませんわ…わたくしの仕事は猛獣を檻に入れる事、誰が猛獣を檻から出したかなんてわたくしの預かりしる所ではありませんもの…。」

余裕そうに声をかけてきてはいるものの額からは汗が流れており、息も荒い。そのトレードマークである三つ編みも解けており、内心彼女が焦っているのは見て取れた。
彼女としてもこの異常事態を理解出来ずにいるのだろう。

「しかし、あの馬鹿な豚どもは、勝手に出撃して勝手に貴重なAMB兵器をおしゃかにして何を考えているんでしょうね。」
「お前は仲間に向かってそんな口を…。」
「そういった事は後でいくらでも出来ますわ、まず乗りなさい。じゃないとあなたもわたくしもここで死にますわよ?」

そう言って車の戸を開ける真由里。

「鋼機に乗れない私に何が出来るっていうんだ?」

シャーリーの質問を真由里は鼻で笑う。

「登録の解除でしょ?あなたその為にここに来たんだから…。」
「解除…だと?」

シャーリーはその意味を理解して目を見開いた。

「ええ、S-21Cアインツヴァインプランレギオネーター『雪華』あの化け物を倒すために私に譲っていただきますわ。」

そう真由里は冷笑を浮かべた。


―2―

施設の破壊行動を続ける鋼獣を背にしながら車で移動するシャーリーと真由里。
真由里は雪華が眠る第七格納庫へとアクセルを踏み込む。
その荒い運転に車体が揺れ、シャーリーは思わず車内の取っ手を掴んだ。

「お前、本気で雪華を出すつもりなのか?あれがどういう機体なのか知っているのか?」

そう尋ねるシャーリーに真由里は面倒そうに

「詳しくは知りませんわ、だってCMBUの機密だらけじゃありませんか…。」
「―――なら!」
「私にそんな機体を動かせるのか?とそういう事を聞きたいんですの?ふふ、仮にも鋼機部隊の隊長である私を侮っているんです?」
「そういう意味では…だが、あれは…。」
「噂は聞いていますわ、CMBUが対鋼機を想定して単機で鋼獣を倒す為に作り上げたアインツヴァインのカスタム機。世界中の技術の粋を集めたAMB兵器を複数搭載した人類反撃の一手の雛形。それが雪華なのでしょう?」
「それはそうだが…。」

久良真由里の情報は正鵠を得ていた。
雪華は確かに対鋼機ではなく対鋼獣を想定して改造されたアインツヴァインのカスタム機だ。
CMBUが研究を重ねたAMB兵器をいくつも搭載しており、鋼獣を鋼機が単機で倒す事が出来る可能性を秘めている。
だが、それは可能性にすぎない。
それにそれ以上に雪華には『問題点』がある。

「まあ、楽しみにしておきますわ…誰の失態か知りませんが、この惨状、この絶望感、この状況を私が最新鋭機で打破する。これで誰もが私を英雄と認める事になり、私の地位は不動のものに…。ふふふ、」
「お前、この状況でそんな事を―――」
「考えていて何が悪いんですか?結果この惨状を救い得るのですよ?なんの問題が?理由なんて瑣末な問題だと思いますけどね。」
「雪華はお前が考えてるような機体じゃない。」

そう思いつめたように告げるシャーリー。
その言葉に真由里は不快に感じ眉をひそめた。この期に及んで負け惜しみだろうか?

(まったくこの女は本当に気に入らない。殺してしまいたい。)

そう思いながら、今は我慢しようと考える。
雪華は今、シャーリー・時峰が搭乗者として登録されている。
それ故に、雪華は今シャーリー以外の手によって動かす事が出来ない。
登録の解除には生体認証も絡んでいるらしく、その登録を解除するまでは彼女は生かして置かなければならない。
なに心配することはない、雪華を自分のものにした後、彼女を事故に見せかけて殺せばいいのだ。
だから今は我慢が必要だ。そう思い、真由里は顔に笑顔を貼り付けた。

「あら、そうですの、余程凄い機体なのですね…。」

シャーリーの言うことなど聞く耳持たないとでもいうように相槌を打つ真由里。
シャーリーは少し悩んだ後、

「確かに現状を打破できる可能性があるのはお前とあれだけだろう。だから協力はする…けれど―――」
「けれど?」
「―――後悔はするなよ。」

そういうシャーリーを真由里は心底馬鹿にしてように笑った。

「―――――するわけがありませんわ…ちっ、こっちを追ってきたみたいですわね。」

舌打ちする真由里。
後ろには鋼獣がこの車に向けて歩を進めてきている。

「どうするんだ?久良!このままじゃ追いつかれるぞ!」
「わかってますわよ!!」

真由里はアクセルを強く踏みこむ。加速する車。
だが、鋼獣の歩行速度は今シャーリー達が乗っている車の速度を遥かに超えていた。

「シャーリー、そこのあなたが座っている場所の助手席の横にある無線を取り出して電源を入れてくださりませんか!」
「―――わかった。」

すぐにシャーリーは助手席の横の溝にあった無線を取り出して電源を入れた。
既に鋼獣は寸でのところまで迫っている。

「それで!」

何をすればいいのか尋ねるシャーリーを無視して真由里は言った。

「プランA3、やりなさい。」

そう無線に向けて声をあげていう真由里。

「りょ、了解しました。」

無線から了解の声が返ってくる。
それと同時に何かが鋼獣の頭部で爆発する。
爆風に揺れる車体。それを真由里は華麗なハンドルさばきでバランスを撮り直しなおアクセルを踏む。
倒転しなかったのが不思議なほどであった。
シャーリーは何が起こったのかを理解しようと辺りを見渡す。
そこには3機のアインツヴァインがいた。
そのどれもがおそらくは真由里の部下の者だろう…彼女は今、自分の部下に支援をさせたのだ。
鋼獣の注意はシャーリー達の乗る車から鋼機に向きぐるりと反転する。
3機の鋼機はアサルトライフルを構え鋼獣に撃ち放った。

「無茶だ!」

その行動をみてシャーリーは思う。
鋼獣と鋼機には超えられない性能の差がある。
なんの準備もなしに立ち向かっても勝てない。
そんなシャーリーを心配を気にもとめず真由里は言った。

「あなた達、何をすべきかわかっているわね?」

そう問う。

「はい、わかっています。」
「ですからあなたは先へ。」
「私達の事を無駄にしないでください。」

そう各々からの連絡が入り通信が切れた。

「おい、真由里、彼らに何をさせた!」
「何をって鈍いわね、囮でしょう?」
「囮だと!だが、あの装備では2分も持たないだろう?」
「でしょうね、ですがその二分があれば私達は雪華の眠る第七格納庫へと辿り着く事が出来ますわ。」
「お前はあいつらを見殺しにするのか?死ねと命じたのか!」

真由里は心底おかしそうに笑った。

「ええ、それの何の問題が?」
「久良ァ!」
「あー五月蝿い五月蝿い。よく考えてみなさいな雪華は特別な機体なのでしょ?だったら今この基地にいる人間で一番操縦技能が高い人間が乗るべきでしょ?何故ならばそれが一番被害を少なくする可能性がある方法なのだから…。私達が死んだら元も子もないでしょう?」
「それは――――」
「だから、彼らは死地に赴いたんですよ。それが何を意味するかを知っているから…わかります?無能操縦者、私達が今出来るのは彼らの為にも私達は雪華の元にたどり着かなければならない。違いますか?」
「――――。」

黙りこむシャーリーを真由里は鼻で笑う。

(ちょろいものだ)

そう内心で思いながらも2人を乗せた車は第七格納庫にたどり着いた。
その背後には、無残に割断されて破壊された3機の鋼機をむさぼる鋼獣の姿があった。



―3―

イーグル本部司令部。
わずかな仮眠時間を叩きおこされイーグル総司令秋常貞夫は緊急時の連絡で起こされた瞬間にあった微睡みが既にかき消され、緊張感ある面持ちで報告を聞いている。
今、直面しているのはイーグル未曾有の危機と言っていい。
イーグルが持つ最大の鋼機収容施設、第一鋼機実験場に拘束されていた鋼獣がその拘束を破り破壊活動を開始したのだ。
現在イーグル鋼機収容施設には8つの格納庫に全30機の鋼機が配備されており、イーグルがもつおおよそ8割の戦力がそこにあった。
既にその半数の格納庫が鋼獣に食い荒らされ破壊されているとの報告が飛び交っている。緊急事態であり情報が錯綜しておりまだまともまっていない。
もはや報告は悲鳴が飛び交っているのに近い状況で行われていた。

「まったく、この間は超巨大鋼獣の本部への襲撃だったというのに、次はうちの戦力を根本から潰される羽目になるとはもう運の悪さを呪いたくなるな…。それで…なんで鋼獣が逃げ出した。大事に大事を重ねて通常の倍の警備はつけるようにという指示を出しておいただろう?」
「はい、それなのですが、警備についていた人間全員が連絡が取れなくなっておりまして…こちらでも状況を確認しています。」

慌てて答えるのはイーグル司令部のオペレーターである柳瀬恵だった。
それを聞いて貞夫はおかしいと顎に手を当て考える。
いくら鋼獣が脱走したとはいえ、それで十数名つけた警備のものから一人も連絡がないということはあるだろうか?
いや、あるはずがない。そう貞夫は考える。
仮にもイーグルの誇る要人警護、施設防衛のエキスパート達である。何か異常を感知したならばすぐに報告が入る筈だ。
実際、イーグル本部に鋼獣が脱走し暴れているという報が入ったのは午前5時20分であるし、その時間には既に鋼獣が捉えられていた第一格納庫は既に原型を残さぬ程に破壊された後だった。
その破壊行動の余波で警備の人間が全員報告する間もなく殺されたというのはすこしばかり考えづらい。
それに鋼獣の拘束は厳重に行われており、エレクトロニカルネットによる機能の無力化も行っていた。
つまりは鋼獣独自の力でそこから脱出するという事は考えづらいのである。
それが意味する事はつまり――

「誰か、手引したものがいるということですね司令。」

副官である琴峰雫は貞夫の結論を先読みするようにして言った。

「ああ、そういう事になる。だが、誰が一体なんの為にこんな事をする必要がある?」
「そこ…なのですよね、黒峰潤也からの情報提供にあった鋼獣達の所属する組織、地下世界UHでしたっけ…彼らの仲間が仲間を助ける為に無力化したというのはどうでしょう?」
「それが自然な結論か…しかし、例えUHの手のものであろうとも我らの警備がそう簡単に抜かれるとも思えないのだが…。柳瀬くん発信機も全て無力化されていると先ほど私に報告していたね?」
「はい、警備チーム全15名その全ての発信機が無力化されています。」
「それはどのような順番でかね?」

第一格納庫の警備配置図を見ながら恵に聞く貞夫。
その発信機の反応が消えた順番から手引をしたものがどう警備無力化されたのかを推測しようというのだ。
しかし、恵は少し言葉を濁して

「そのですね、司令。同時なんです。」
「同時?」
「はい、同時です。1分1秒の誤差すらもなく同時に無力化されているんです。」
「なにかECMでも使われた形跡はあるか?」
「いえ、ECM系の兵器が確認された場合、すぐに感知器が動き格納庫に強制ロックをかけるようになっています。それが起動した形跡もなく無力化されています。つまりその手の兵器は使われてないと考えるのが妥当です。」
「ふむ、手引を行ったものは複数いて、それが各自裏を合わせて警備班を同時刻に無力化したという事でしょうか?」

そう推論する琴峰雫。
普通に考えるならそれが自然な考えだろう。だが貞夫はその推論に対して首を縦にふる事ができなかった。
そうだとするならどう考えてもおかしい報告があったからだ…。

「柳瀬、警備班全員が無力化されたのは完全に同じ時間なんだな?」
「はい。」

そう答える柳瀬を背に貞夫は考える。
おかしい。
もし誰かと示し合わせて警備班の無力化が行われており、発信機も破壊されとしてもそれには数秒のズレが生じる筈なのだ。
どれほど訓練されたチームでも数秒の誤差はでる。
だが、現在のこれはそれにまるで該当しない事態だった。

(襲撃者がいて同じ時刻に同じように動いて襲撃したとでもいうのか…)

貞夫はいくつかの仮説を立てようと試みるもののその全てが霧散する。
不可能だ。貞夫の率直な感想はそれだった。
どのような原理、どのような理屈があればそれが可能になるというのか?
敵はどんな手を使って鋼獣の拘束を解いたのかまるで見当がつかなかった。

「被害状況が更新されました。」

そう報告が入り司令部の巨大スクリーンに被害状況と衛生から撮影されている施設の状況が映し出された。
その光景に貞夫は息を呑む。
報告から予想はついてはいたが、実際みるのとでは印象が大きく異なる。
俯瞰するようにとられた鋼機収容施設は北部にある第一、第二、第五格納庫が既に瓦礫の山となっており、煙をあげている。
その傍らには残骸となった鋼機が数機が倒れている。

「まったく、本当にまったく…。」

貞夫はあまりの状況の酷さに目眩を覚え頭に手を当てる。
何故こうも次から次へと窮地なのか、鋼獣の出現から始まり、ナンバーIの強襲、山ほどの大きさを誇る亀型の鋼獣の本部への強襲。
それを乗り越え黒峰潤也となんとか協力関係を取ることが出来たと思った矢先にこれだ。
もう己の不運を呪う他ない。
まったく誰か、この司令という役割を変わってくれないだろうか…と内心ぼやきながらも貞夫は事態の解決に繋がる方法を模索した。
現在イーグル鋼機収容施設にはおおよそ50人のイーグル所属員が配属されている。内、先日の捕獲作戦後待機中だったγ部隊は全員収容施設にいる。
警備班と加えて戦力になる人間はおおよそ14名といった所だろうか…。
だが、既に警備班の鋼機は全滅しており、緊急発進したγ部隊員の操る鋼機2機もエレクトロニカルネットランチャーを持ち出すもののランチャーごと撃破されてしまったようだ。
既に戦闘員として動けそうなのは7名といったところだろうか…だが、その7名も全員生存しているかどうかはわからないし、根本的に不利を強いられる鋼獣に何の用意もなく対抗できるかも怪しい。
つまり今、イーグルだけの力でこの状況を打破するという事は非常に困難だという事だ。
やはりここで一番頼りになるとするならば、先に協力関係を結んだ彼だろうか…。
催促するように貞夫は尋ねる。

「黒峰潤也へ送った増援要請はどうなった?」
「つい今しがた返答が…黒峰潤也の持つリベジオンも第三区で鋼獣との戦闘に入ったらしく『潤也は今戦闘中なの、話しかけてこないで!』との返答が…こちらの支援に回るには時間がかかるかと思われます。」

貞夫は苦笑いをするしかなかった。
鋼獣に単独で唯一対抗できる戦力であるあのブラックボックスだらけの黒い鋼機は今こちらにすぐ向かえない状況なのだという。
もはや運命の女神がイーグルに滅ぶべしとその糸を手繰り寄せているようにしか思えない。他機関からの増援を依頼するにももう遅いだろう。
万事休すとはこの事をいうのかと貞夫は苦笑した。
副官である琴峰雫が貞夫に声をかける。

「司令、つい先程、久良真由里から連絡が…。」
「久良か…生きていたか、相変わらず悪運が強い女だ。」

久良真由里。γ部隊隊長に名を連ねる鋼騎部隊隊長の双璧の一人。
鋼機操縦の技術事態はα部隊隊長のシャーリー・時峰に劣るもののその高い統率力はイーグルの中でも軍を抜いていた。
秋常貞夫としてはあまり好まざる人材ではないが、彼女は必ず結果を残す。
それを評価しないわけにはいかなかった。結局窮地に必要なのは正しく結果を残せる人間なのだと貞夫は考えている。

「まあいい、現地の状況や生存者の情報も出来るだけこちらに伝えさせろ。」
「いえ、それが要件だけを伝えられて連絡を断ってしまいまして…。」

貞夫は訝しげな面持ちになる。
久良真由里一体何を考えている?

「それで要件はなんだ?」
「要件というよりはもう要求なのかもしれないのですが、雪華を自分の機体として登録する許可を頂けるようにと…。」
「雪華か…。」

久良真由里が何を考えているのかを理解した後、貞夫はため息を吐いた。
その名前をこの事態で本当に聞くことになるとは思ってはいなかった。
可能性は考えなかったわけではない。
この窮地、覆せる可能性があるとするならばそれだけだろう。
S-21Cプランレギオネーターアインツヴァインカスタム『雪華』。
単機で鋼獣を破壊することが出来る鋼機をコンセプトにCMBUで開発されたそれは、確かにこの事態を好転させうる可能性を持つ機体だ。
本来、鋼機と鋼機の戦いを想定されて作られた鋼機を対鋼獣用決戦兵器として作り変えるという暴挙を行ったということだ。
その結果、どのような機体になったのか久良真由里には想像出来ているのだろうか?
雪華はCMBUの最新技術を注ぎ込まれた機体であるがゆえにその試作機にある特異さを究極的にまで表しているのだ。
だからこそイーグル副司令である時峰九条は自身の養子であるシャーリーにあの機体を託した。
その意味を正しく理解しているのは自分と九条ぐらいのものだろう。
だが、シャーリーは既に心を病んでおり兵士としては用をなさない。
そして、今、自分達には彼女の回復を待つ時間的猶予もない。

「シャーリー・時峰は同伴しているのかね?」
「はい、そのようです。」
「気は進まんが、可能性があるのにそれを選択しないという択はないか…。」

そういって、少し悩んだ後、秋常貞夫は許可を出す。
結果、どうなることをある程度予想はしながら…。
そして、この日、貞夫の元に更なる凶報が入ったのはその決断を済ませた3分後だった。
柳瀬恵が焦りを声にだして報告する。

「高速で鋼機施設に向かうアンノウンが3つ確認されました…おそらくは鋼獣です、司令!」

言ってしまえば現状はこの災難の序章にすぎなかったのだと貞夫は知り、拳を爪が食い込む程に握りしめた。



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