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Diver's shell another 『primal Diver's』 第二話

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 第二回【機神】




 第二地球歴五十五年。八月十九日。
 ネオアース。上空。


 作戦は簡単だった。
 投下用カプセルで大気圏にダイブし、減速用ロケットモーターで減速、着水。潜水艇に乗ったままカプセルに納められたフランは、カプセルから脱出してそれをブイ兼荷台として利用しつつ遺跡へ移動する。
 よほど不測の事態が無ければ、有人初とは言え実証されたシステムによる投下は安全に終えるはずだった。

「………ッッッッッ!!!」

 声も出ない。強烈なGがそのベクトルを次々と変えながらフランを襲う。
 機体の一部は大きく破損。そこで生じる空気抵抗は有り得ない機動を生み出し、結果としてフランの乗るカプセルはスピンしながら落下していく。
 たった一粒の宇宙ゴミの衝突による影響である。よほどの不測の事態は簡単に訪れたのだ。

 そのまま高速で落下しつつ、スラスターで姿勢を制御しようと必死に操作をする。安定翼は高速故に意味をなさない。海面に近づくにつれ、空気抵抗は増大していく。そして機体のスピンは減って行くが、今度はその空気そのものが機体の傷をえぐっていく。
 重力の恐ろしさをフランは見せ付けられる。ネオアースに引き寄せられていく。フランを飲み込もうと。

 歯を噛み締めて、一か八かロケットモーターを点火しようと手を伸ばす。ボタンまであと数センチではあるが、それが異常に遠い。
 フランの胸中は悔しさで溢れる。自分に与えられた任務。それも自らも望んで参加したと言うのに、それを果たせず散るかも知れない。死の恐怖よりもそれの方が重要だった。
 持ち前の常軌を逸した責任感は方向定まらないGや恐怖を打ち破り、ボタンへと手を伸ばす力になる。
 しかし、届かない。あと僅かな距離が遠い。青い海面はフランを飲み込み、かみ砕こうと迫ってくる。アルバトロスの時のように。
 そしてようやくボタンに触れた時、更なる衝撃が加わり、急減速を感じつつも別のスピンが生まれた感覚も覚える。
 それがほんの一瞬だけ訪れた後、フランは最後の衝撃と同時に意識を失っていった。

「見たわね……」
「ええ。バッチリ見たっす」

 フランは海面にたたき付けられる。カプセルの一部は四散し、海面をボールのように転がっていく。
 その様子を偶然にもその場で見ていた連中。

「何かな?」
「ゴミでは無いっすよね」
「シャトルとも違うみたい」
「宇宙船の一部とかじゃないすか?」
「まぁどっちにしろ……」
「ええ。貴重っすよ……」
「スクラップだぁああああ!!」
「スクラップだぁああああ!!」

 しがない海賊もどきのマーレ一家。目の前に落下したフランもといお宝にテンションを上げ、回収作業の準備を始めた。





※ ※ ※





 第二地球歴五十五年。八月十九日。深夜。
 遺跡から約七十キロの海上。


「何コレ?」
「潜水艇っすね。あとは武器とか、食料とか」
「食料とはイヤッホウな収穫じゃん。あと金になりそうなのは?」
「うーん……。通信機とかもあるっすけど、こりゃ酷い壊れっぷりっすね。スクラップで二束三文っす」
「直せば高く売れるんじゃない?」
「これをっすかぁ? 完全にうちゅー人用っすよ。こっちじゃあんまり見ないし、修理も無理っすねコレ」
「うちゅー人用じゃ仕方ないか。潜水艇は動くの?」
「ドコ見てんすか。半分ポッキリでしょ」

 マーレ一家の回収作業は結構な時間を要した。やたらと貪欲なマーレの指揮の元、沈んだカプセル等を自前の潜水艇で引き上げ、四散したパーツを拾い集める。当然、探索する範囲は膨大であり、結果として仕分け作業は深夜までに及ぶ。
 乗組員の数人の男共はマーレの無駄にいやらしい身体を視覚的なカンフル剤として回収にあたったが、深夜となれば疲れて大人しくなる。
 おかげで仕分けはやたらとタフなマーレと、ツッコミ係のスキンヘッドの大男だけの作業となった。ちなみに彼の名前はサシャという。

「マッズ! なにコレ?」
「それうちゅー人の携行糧食っす。栄養バッチリ味最低で有名っす」
「それがこんな量あんの? 売ったほうがいいんじゃね?」
「保存効くからとっといたほうがいいと……。ていうか早速食うんすか」

「そういえばさ」
「なんすか?」
「例のうちゅー人は?」
「まだ寝てるっす。今はマリオンのオッサンが看てるっす」
「そう。じゃ、せっかくだし挨拶してくっかぁ」

 マーレは颯爽と仕分け部屋から飛び出す。サシャは頭を抱える。
 また悪いクセがでなければいいが。マーレの節操の無さは海賊仲間でも有名な札付きのアレである。いざとなったら止めねばなるまい。相手はついさっき死にかけた人なのだ。
 仮に敵だとしても、武器を奪われ身動きできないケガ人に手出しをするのは憚られる。戦闘で命を奪うのにはやぶさかではないが、それとこれとは話が別。仁義ってモンがあるだろう。
 サシャの頭の中でこんなお堅い思考が堂々巡りをしている頃、当のマーレは既に例のうちゅー人、救出されたフランの眠る一室の前に到達してたりする。
 ドアを開ける。見えるのは横たわるフランに、付き添っている初老の痩せた男性。彼がマリオンだ。
 マーレに気づいたマリオンは小さく咳込みながら振り返る。その痩せ方は並ではなく、頬はげっそりとこけ、腕はまさに骨と皮といった様相である。

「お疲れマリオン。選手交た~い!」
「ダメでしょう。仕分けしてなさいな。私の仕事まで奪わんでくれ」

 マリオンの言葉に少し沈黙する。だが、この男に無理をさせる訳には行かなかった。結局マーレはマリオンを追い出し、強制的に休むように指示。
 しぶしぶ諦めるマリオン。最後にフランの状態を報告し、その場を立ち去る。

「さぁ~て。どれどれ?」

 マーレはフランの顔をじっと見る。実は殆どの連中は回収作業に追われフランの事を見ていない。マーレもその一人。
 身分証の類は一切なかったので、彼女の事は本人に直接聞くしかない。パイロットスーツのフランは明かに海賊の敵である軍人だが、それにしちゃ装備がおかしい。冒険心の塊のマーレの興味はビンビンである。

「……叩き起こすのもアレよね?」

 そして次の行動は、あまりにも好ましい物とは言えなかった。

※ ※ ※


 同時刻
 ネオアース。遺跡近辺――


 それは飛んでいた。所々改造され、本来の目的を捩曲げられたそれ。
 側面にはあるはずのない電磁加速ランチャーが並び、口径の大きい機関砲が備えられ、レーダーはミサイル攻撃用の物が付け足されている。
 醜悪な姿に変えられた惑星改造船。今は、海賊船として飛んでいるのだ。
 一部の過激派の海賊達は躊躇無くあらゆる物を襲い、遂には政府の船まで奪うに至った。武装は年々強力になり、戦闘機すら手に入れている。人々の間では政府が支援しているのではとの噂が流れるほどだった。
 陸地から遥か遠いこの海域では、船がその替わりになる。中は言わば海賊達による一つの国家のような状態だった。

「……暇だなぁ」
「寝たらブン殴るぞ」

 見張り手がつまらなそうに会話している。
 脅威となりそうな敵はレーダーや熱探知であらかた警戒出来るので、目視による見張りが活躍する事は滅多にない。しかしながら、昔ながらの慣習でたいがい下っ端はこの役目を押し付けられる。
 これがまたつまらない。深夜となればなおさらだ。警戒すべき相手は退屈とそれを追ってやってくる睡魔。そのうえ見張りそのものも疎かに出来ないので、ある意味での精神拷問である。

「もうヤダ」
「何がだよ」
「お前はどーなんだよ」
「別に。腹いっぱいメシ食えりゃどーでもいい」
「つまんねぇ人生だな」
「余計なお世話だな」
「うるせぇよ……。っておい、あれ見ろよなんかあるぜ」
「あぁ? 飽きねぇ野郎だ。すぐ話題見つけやがって……」
「いいから見ろよ! お前双眼鏡持ってんだろ!?」
「はいはい……」

 見張りの一人が言われた通りに自前の双眼鏡を覗く。暗視も出来る製品だった。

「どこを見ろって?」
「何で遠くを見るんだよ! 海面だ海面!」
「うっせーな。はいはい海面だろ」
「……何が見えた?」
「……」
「何か言えよ。海の中に何が居たんだ?」
「警報……」
「あ?」
「警報……。警報だ警報! 警報鳴らせ!」
「どうしたってんだよ!?」
「いいから早くしろ! 警報だ!」

 一人が叫ぶ。少し間を置いて船に警報が鳴り響く。
 それを察知したのだろうか。海面に居たそれも、動き出した。

※ ※ ※


 ほぼ同時刻。
 ネオアース。マーレの船――



「……」

 驚くべき事だ。
 海面にたたき付けられ、気を失ったはずだ。自分はきっと何も出来ずに海中に没していくだな。そんな覚悟すらしてしまった。
 それがどうだ。ふと目を覚ましたら目の前に見えたのは、真っ黒な布で覆われた巨大な何か。それを見て女性としての敗北感に打ちひしがれたとか、形なら負けないとか意味がよく解らない雑念が次々と巻き起こる。
 その雑念をなんとか取っ払い、今の状況が何なのかを推測する。
 その答は今の所、助けてくれたと思われる女性がじーっとこちらを覗き込んでいる事。そして目の前の何かへの羨ましさがハンパないという事。


「お? 起きた起きた」
「?」

 フランを覗き込んでいたマーレのわくわく感全開の声。まだ思考が定まらないフランだったが黙っている訳にもいかない。

「ここは……?」
「お? 喋ったぞ。こんばんわうちゅー人。身体の具合はどう?」
「え……?」

 フランは何の事かは解らず。どこか怪我をしているらしいが痛みは無かったからだ。取り合えず首だけ動かして身体を見る。

「……」

 なんという事でしょう。
 下着一枚である。怪我の手当をしたのも解るが、せめて上一枚着せて置いて欲しい物だ。それどころか、その羨ましい何かを装備した女性の手は自分の敗北感の塊の上。いろいろと危機的状況だった。
 そんな中、叫ぶどころか一回りして引き攣った表情を浮かべたフランを見て、羨ましさの対象であるマーレが喋り出す。

「カラダの具合はどう?」
「手をどけて……」

 マーレが手を退ける前にフランは自ら払いのける。何をされていたかを想像してしまって顔が赤くなる。それなりに大人であり、この手の趣味に理解が無い訳ではないが、寝ている間に見も知らぬ相手に好き勝手やられて気分がいい訳がない。
 当然の如く声を荒げて抗議の一言を発しようと起き上がるが、それは失敗に終わる。

「ッッッ――……!!」
「おっとっと。せっかく『優しく』起こしてあげたのに。肋骨イってるわよ。動かないほうがいいわ」

「う……うるさい!」
「元気ねぇ。それよりカラダの具合はどう? ていうかどうだった?」
「だからうるさい!」

 叫んで見るが痛みに勝てず。痛み止めをフランに渡すマーレ。先に寄越せと言いたいがここはガマンして素直にそれを受け取り、助けてくれた事の礼と一緒に自ら名乗る。
 マーレも名乗るが、それがさらにマズイ。

「私はマーレ。この大海原の海賊様よ!」
「海賊!?」
「うん。そうだよ」

 マーレはさらりと言ってのけるが、フランには許しがたい単語が含まれている。海賊だ。
 素早く立ち上がり、部屋の隅に移動。痛みはあるがアドレナリンが一気に放出されたのか、気にならなくなっていた。
 重心を落として、敵意剥き出しの構えを取る。

「海賊!!」
「おっといきなり元気になっちゃった? やり過ぎたかな……」
「ここはどこ!? 答えなさい!」
「当然私の船だけど?」
「私の潜水艇や持ち物はどこ!?」
「ああ……。残念だけどほとんどスクラップ。ボッコボコだよ?」
「そんな……!」

 愕然とするフラン。その隙を見逃さずに目の前まで瞬時に移動したマーレ。二人の距離はほとんどゼロになり、息すら感じる程に近い。
 さらには、マーレの身長は少し大きい。フランが百六十丁度なのに対して、目の前のマーレの目線は遥か上。フランの目線は羨ましい何かを支えるマーレの鎖骨当たり。威圧感があるのだ。

「っく……」
「ケガ人が動いたらダメでしょ。今日は寝てなさいな」
「誰が………あ」

 時既に遅し。マーレの右手はさらけ出されたフランの膨らみへ。そして、それが罠。一瞬とは言え注意を反らされた。

「ちょ………!?」
「隙有りぁあ!」

 思い切りヘッドロック。そのままズリズリとベッドへ引きずり込まれ、たたき付けるように寝かされる。

「何を……!」
「大人しくなさい。聞きたい事あるなら明日たっぷり付き合ってあげる。それより今は休んだほうがいいわ」
「ふざけ……。っあぅ! やめろ!」
「元気だねぇ。まぁ今から大人しくさせてやるけど」

 不適な笑みを浮かべるマーレ。その後は、映像化出来ないのが残念で仕方ない事になった。

※ ※ ※


 ほぼ同時刻。
 海上。遺跡近辺――



「きききき、来たぁぁあああ!」
「怯むんじゃねぇ! レールガン発射用意」

 海賊船の中は混乱の坩堝と化している。困惑と恐怖はパニックを生み、宇宙での戦闘すら行う彼らの能力を奪っていく。

「撃てぇぇぇえ!」

 号令と共にプラズマの閃光が走る。数本放たれたそれは目標付近で大爆発を起こし、周囲に煙を撒く。

「……命中したか」
「……いいえ。接近して来ます」
「化け物か……!?」

 海賊船に近づくそれは、今だ海中を泳ぎ回っている。とても海の中とは思えない速度で移動し、定期的に止まっては様子を伺うようにじっとしている。こちらを嘲笑うかのように。
 そんな動きだったのが、遂に接近してきたのだ。

「撃て……。とにかく撃て! ミサイルでも大砲でも何でもいい足止めしろ!」

 その命令で、海賊船は有りったけの火力を放つ。武装は軍艦に匹敵するそれの攻撃は海面を激しく掻き回し、水しぶきを上げ、ミサイルの噴射炎とレールガンのプラズマの尾がそれを照らす。
 これだけの火力を集中すれば、破壊出来ない物などない。そのはずだった。

「船長……あれを……」

 誰かが言った。水しぶきの中に立つそれの姿がモニターに映る。

「目の前まで来た……もう終わりだぁ!」
「焦るな! まだやられた訳じゃねぇ! 向こうだって積極的に攻撃してくる訳じゃ――」

 言いかけた時、海賊船を襲う強烈な振動。
 ダメージコントロールが大騒ぎし、船の異常を伝えている。中腹が大きくえぐられたと。すぐに追撃が加えられる。海賊船上部に設置された無数のレーダーが次々と爆発を起こし、消滅していく。
 それは巨大な首を高々と掲げ、その光景を楽しむように眺めている。たった二回の攻撃で、恐るべき悪の船は死にかける。

「何が起きてんだ……!?」

 海賊船の船長は甲板へと走る。直に見たかったのだ。何が起きているか。何がそこに居るのか。
 そして、見てしまう。あまりに巨大で、余りに狂暴なその姿を。

「何だ……。何なんだ? 一体何だコイツは!!?」

 次の瞬間、海賊船はバラバラに解体されていった――




――続く


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