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第七話「人が生み出した業」後編(下)

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 これがFパーツの特殊能力、ミラージュダイブである。質量を持った分身を作り出し敵を惑わせるというも
のなのだが一定の速度に達するまで起動するのは不可能というデメリットを抱えていた。だがそのデメリット
を含めても対人、及び無人機の効果は抜群であった。レーダーにも敵機として登録される為、どれが本物であ
るか見当もつかない。
「大丈夫ですか?」
 部下の一人がファルに声をかける。彼女は元気良く腕を上げて元気さをアピールする。
「問題ないわ、このまま攻撃を続行!」
「了解」
 再びバイラムへの攻撃が始まった。鉛の銃弾がバイラムに向けて放たれる。
 バイラムも応戦をするがミラージュダイブを発動したビスマルクには攻撃という攻撃が一切通用しなかった。
 斬撃を与えようとしても素早く逃れられビームを当てようとしても幻影のせいでかわされてしまう。
 剣も効果がなくビームガンで攻撃しようにも本物の見分けがつかない。もはや打つ手が無くなったかに見えた。
 そんなバイラムが取った行動とは。
「防御?」
 そう、バイラムは身体を丸めこちらから攻撃することなく防御に徹した。
 先ほどのような攻撃のみとは違い、全く動かないでじっとしている。
「各機、迂闊な行動は控えて! もしかしたら考えがあるのかもしれないわ!」
「了解」
 今度は距離を取りマシンガンで攻撃を始めた。
 どんなに撃たれてもバイラムは動かず、ただじっとしている。しかしその視線は確実に一機一機を丁寧に観
察していた。動き一つ、仕草一つ、癖の一つ、それも見逃さないように……。
「弾切れ!?」
 ファルがマシンガンのマガジンを取り替えようとした時、バイラムは動いた。
「うそ!」
 Fパーツの速度を完全に凌駕した機動性の前にファルは驚くしかなかった。
 まさに一瞬だった、その一瞬でファルのビスマルクの背面を取るとそのままダブルスレッジハンマーをビス
 マルクの背中に叩き込む。
 装甲が歪む音と共に内部の基板に火花が走った。
「くぅぅぅぅ!」
 ビスマルクは破片を撒き散らしながら重力に従って落下していく。
 凄まじい落下の重力がコクピットに降りかかる。
 また負けるの? こんなのに! 恥をかかされっぱなしで?
「何度もやられるあたしじゃない!」
 お腹に力をいれ気合を入れなおすと一気にスロットルを上げ、姿勢制御のレバーを思いきり手前に傾けた。
「いっけぇぇ!!」
 そのまま地面に激突するかと思われたがビスマルクは瞬時に体勢を立て直し、バネのように跳ね返ってきた。
「くらえぇぇ!」
ロングソードを構えながらバイラムに向かっていく。折れても関係ない、自分の全てをぶつける!
 案の定、ビスマルクのロングソードは折れたが勢いを失わずそのまま体当たりをする形となった。
 体当たりを食らったバイラムは雲の向こう側へと消えていく。
「待ちなさい!」
 追いかけようとするが危険信号を示す警告文がディスプレイいっぱいに現れた。
 左上にはメインCPUの破損を知らせるランプが赤々と灯っている。
「追撃は無理か……」
 ファルは調子に乗りすぎていた事を反省した。

 先ほどの衝撃を喰らいバイラムは厚い雲から追い出されるかのように出てきた。
 雲から出ると同時に体勢を立て直し、いつもの低空飛行状態になる。
 しかし、バイラムを休ませようとする者はいない。
「待たせたな、バイラム!」
 今度は銀色の騎士が悪魔の相手をするようだ。
「隊長、他の部隊に応援を要請しなくていいんですか?」
「残念だが今の部隊にバイラムと戦おうという者はいないだろう」
 アルの質問にボルスは軽くため息を付きながら答えた。
 まったく、いつも一番にこだわる者がこういうときに限って戦わないとはな。
「応援を要請しても恐らく着く事はないだろう。だったら最初からしないほうが賢明だ」
「しかし……」
 一度負けた相手、あの化け物に勝てると思っているの?
 レイは不安そうな顔をする。
「勝つか負けるかではない、戦うか戦わないかだ」


 ボルスは自分自身に言い掛けるようにレイに言った。
「いくぞ、これよりバイラムに攻撃を開始する!」
「「了解!」」
 二人はボルスの返事と共にバイラムに向けてミサイルを発射する。
 蛇行をしながら迫るがバイラムは慌てることなくビームガンでミサイルを撃ち落す。
 だが、これでナイツの攻撃が終わったわけではない。
「喰らえ!」
 今度は上からミサイルが飛んでくる。
 バイラムは当然のようにビームガンでミサイルを迎撃する。一機の爆発が他のミサイルに誘爆し火と煙が一
 面に広まった。
 炎の中からボルスのナイツが飛び出してくる。
「こういった事が出来るのは貴様だけではないぞ!」
 そのままソードを振るう。しかしバイラムはバックステップをしてこれをかわした。
 申し訳程度に機関砲を撃つがバイラムには効果が見られない。
 やはり一筋縄ではいかないか……。
 お互い間合いを取り直すとボルスはバイラムの手ごわさを再認識した。
 長くなりそうだな。
 バイラムは自身の剣を構えボルスのほうに突きつける。
「決闘という訳か? 面白い、二人とも手を出すなよ。」
「た、隊長!?」
「ほ、本気なんですか!?」
 戸惑う二人を尻目にナイツはソードを構える。が二人とも微動だにしなかった。
 これはどちらかが動いたら負けるという事をお互い認識しているからだろう。
 ただ無意味な時間が少しずつ過ぎていく。
 バイラムの剣の先に一匹の鳥が止まろうとした時だった。
「はぁぁぁぁぁ!」
 ナイツが動いた。真っ直ぐバイラムへと向かっていく。しかしバイラムは動かずそのまま剣で受け止める。
 ボルスはここに来る前にしたケントとの会話を思い出していた。
 ボルス、とりあえず現時点でのバイラムのデータをフィールドバックさせてみたよ。細かい部分は後になる
と思うけどとりあえずソードだけは変えておいたよ。少なくとも鍔迫り合いくらいはできるはずだ。
 ボルスは剣が折れないことを心の中で感謝した。
「でぇぇぇい!」
 剣と剣とのぶつかり合い、甲高い金属音が一面に響きあう。
 バイラムが横に払うとナイツは飛んで避けながらキックを叩き込もうとする。しかしバイラムはそれ屈んで
かわしナイツの顔面へと付きたてようとするがそれを首を動かし避ける。そしてそのまま懐に飛び込み唐竹割
りの要領でバイラムの頭部を狙うがそのまま力任せに地面に叩きつけられてしまう。
 尻餅をついているナイツにバイラムの剣が迫るがナイツはバック転をしその攻撃から逃れようとする。
だが、バイラムはスピードを殺さずそのまま突っ込むとナイツの頭を掴んだ。
ミシミシと頭部が砕ける音がコックピットに伝わってくる。
 だがボルスはこれを待っていた。
「この距離ならば!」
 ボルスはナイツの右足首の辺りに隠してあるハンドガンを取り出すとバイラムの胸にくっ付けるとトリガーを引いた。
特製のホローポイント弾だ、直撃すればひとたまりのないはず!
 だがバイラムの胸部には凹んだ様子も傷がついた様子もなかった。
 若干黒い焦げが見えることが当った事を示している。
「くっ!」
 毎度の事ながらとんでもない装甲だな。
 一方のバイラムは剣を振り上げナイツに止めをさそうとする。
「隊長!」
 アルの絶叫が砂漠一面に広がる。
 だが、ボルスもボルスでここで終わるような男ではない。
「こういうところが甘いのだな、バイラム!」
 そう言うとボルスは素早く変形しバイラムの下を滑るようにして飛んでいった。
 そしてそのまま背面と取ると自身のミサイルをバイラムに向けて発射する。
 直撃を食らうがバイラムはピンピンしていた。
「こちらの攻撃が通用しないのはやはり痛いな」
 思わず鼻で笑ってしまう。
 だがバイラムはボルスたちの方をちらりと見るとそのまま東の方角へと飛び去った。
 何かを優先しなくてはいけない出来事があるのか、その様子は”焦り”に似ていた。
 ダメージを食らっていると思われるのにあんなスピードが出せるだと!?


「待て、バイラム!」
 バイラムが飛び立った方向へと向かおうとするが機体がそれに待ったをかける。
「なに、オーバーヒートだと!?」
 ナイツの限界を超えた動きがエンジンに負担が掛かったらしい。
「仕方が無い……か」
 ボルスは軽くため息を付くとそのままシートにもたれかかった。

 ボルスたちが居た場所から東へ飛んで時、突然何者かバイラムの側頭部を思いっきり蹴り飛ばした。
 横からの衝撃を喰らったバイラムは勢いよく砂の大地を転げまわる。
「ヒュゥ、身体は頑丈だが重量はねぇみてぇだな!」
 アジャムは倒れた悪魔を見ながらその頑丈さに心の中で拍手を送った。
 バイラムとは違った黒みがかかったシーダーグリーンの機体、AUAの推進機構を持ちながらその外装はユ
 ニオンのPM。持っている銃器はステイツのPMが持っている標準装備のショットガンだ。どの陣営のPMと
 聞かれればどの陣営のPMとも言えない。
 ふら付きながらもバイラムは立ち上がろうとする。
「ちぃ、効かねえのかよ」
 アジャムは少し落胆をすると今度は別の武器を使おうとパネルのボタンを押す。
「なら、こいつはどうだ?」
 グライドアの脚部から特殊弾頭を取り出しショットガンの先端に取り付ける。
 体勢を立て直したバイラムは目の前のグライドアに向かっていく。
「焦せんなよ! せっかちだと嫌われるぜ!」
 バイラムの剣がシーダーグリーンのPM、グライドアの首を刎ねようと飛んでくる。
 しかしそれを寸で避け、そのままローキックを右太腿にぶつけるが今度は微動だにしない。
「そう来なくちゃ面白くねぇよな!」
 アジャムは目論見が崩れた事を一切気にせず後ろに下がり間合いを取り直す。
 しかしバイラムはそれを追撃しさらに間合いを詰めた、がこれが命取りになった。
「せっかちは嫌われるって教わらなかったのか?」
 剣が届くギリギリのところでグライドアは仰向けに倒れながらショットガンのトリガーを引く。
 弾はバイラムの腕に当った。がバイラムはそのまま剣を振るう。
 しかしがいつものような切れが無い。バイラムが腕を見ると白い粘液が付いていた。
 先ほどの特殊弾頭の中身は液体接着剤のようだ。
 腕を曲げようとするが軋んだ音を響かせるだけでなかなか曲がらず構えが取れない。
「ははは! どうしたぁ! もっと楽しませて見せろよ!」
 グライドアが急接近する。バイラムも応対しようとするが普段の動きと言えずギクシャクとした動きであった。
「その首ぃ! 頂くぜぇ!」
 アジャムの叫びとともにグライドアの腕に仕込まれたの暗器、アームブレードがバイラムの喉元に突きつけら
そうになる。しかしバックステップをして間合いを取り直すとビームガンをグライドアに向けて放つ。
「苦し紛れに撃つんじゃねぇ! 隙が出来てんだよぉ!」
 しかしそれを避けることなくバイラムに向かって突進していく。
 アジャムが言ったとおり苦し紛れに撃ったのか分からないがグライドアの身体をすり抜けていった。
 そしてそのままアームブレードをバイラムの顔面にぶつけた。当然のようにブレードは砕けるがアジャムは
気にしなかった。なぜならブレードは囮であり――。
「本命はこっちなんだよぉ!」
 ブレードがあった手の平から金属のコネクトが現れバイラムの頭部を掴む。
 金属のコネクトから数百万ボルトの電流が一気に流れる。
 効果があったのか数秒ほど動きが止まり、力無く腕がダラリと下がった。
「ちぃ、何だよ。もう終わりか?」
 アジャムは少し落胆した顔で手を放すとバイラムはその場に崩れ落ちた。
「あーあ、つまんねぇの。これならもう少し――」
 アジャムが落胆の顔を見せながら蹴りを入れようとすると、突然バイラムは起き上がりグライドアを切り付けてきた。
「ったく! 狸寝入りかよ! 姑息だねぇ!」
 グライドアは飛んできたバイラムの剣を横に蹴り上げるとそのまま脚部に備わっていた硫酸弾を投げつけた。
 硫酸を受けたバイラムは少し戸惑ったのか大きく飛び退きグライドアから距離を置く。
 バイラムはどことなく顔をしかめているように見えた。
「さて、ここからどういくとするかな」
 アジャムは残った装備を見ながら次の手を考える。
「硫酸もダメ、電撃にも耐える、どうするか……」
 あれこれ考えているうちに彼の顔は綻んでいた。未知の敵が彼の心を潤しているようだ。
「なら、仕方がねぇ。せっかくだから自爆でもしてみるか!」
 アジャムがペダルを思い切り踏み、目の前のバイラムに向かっていこうとした時だった。


「そこの傭兵! 後は我々に任せろ!」
「ああん!?」
 どこからともなく通信が聞こえてくる。辺りを見渡すと大きな崖の上に一機のポーンが立っていた。
 どうやらあそこから通信をしているらしい。
「ここから先は正規軍の仕事だ!」
 兵士の言葉を聞いたアジャムは少し嫌な顔をした。
 仮にも仕事の途中なのにその仕事を止めて帰って来いと言うのだ。
「……金は入るんだろうな?」
「無論だ」
 この言葉を聞くとあっさりと掌を返した。
「了解、そんじゃ帰るとしますか。」
 アジャムはバイラムをちらりと見ると足早に立ち去った。
「じゃあな、二度と会うことはねぇだろうがな!」
 アジャムが去った後、多数のPMがバイラムを囲う。
 ポーンから始まり、朱雀、青龍、玄武、白虎、ネルソン、クレマンソーなど実に多彩だ。
「こいつを倒せば給料も上がるってもんだ」
「バイラム、わが国に戦いを挑んだ事を後悔させてやる」
「これだけの数だ、いくらバイラムと言えど」
「散々やられたんだ! やり返してやる!」
 それぞれが思い思いの事を言いながらバイラムへと足を進めて行く。
 バイラムはその場に立ち止まり自分の持ち物である銀の筒をそっと小脇に抱え直した。
 まるでその時が来たかのように。

 アジャムが撤退して五分くらい経った頃だろうか、ケントはディスプレイを見て蒼ざめた。
「な、何てことだ! あ、あんな物を持ち出すなんて! バイラムは正気なのか!?」
 ケントはオペレーターシートから立ち上がるとボードの艦長に向かってヒステリックに叫んだ。
「艦長! 越権行為なのは承知でお願いがあります! 今すぐこの艦を撤退させてください!」
 声はうわずっており完全に動揺していた。
「理由は?」
 艦長がケントの方を向き理由を聞く。
「このデータを見てください!」
 ケントが艦のモニターに自分が解析したデータを写す。そこには様々な数値が書かれていた。
「これは……まさか……」
 艦長は数値を見ながら蒼ざめる。彼は”何か”を理解したらしい。
「すぐに全部隊を呼び戻せ!」
「え?」
 呆気に取られるオペレーターに対し今にも殴りかかってきそうな勢いで叫ぶ。
「もたもたするな! 死にたいのか!」
「了解! 展開中の部隊に告げる、至急帰還せよ、繰り返す――」
 通信士は命令どおり、出撃中の部隊へ帰還命令を送り続けた。

「ふぅ、終わったか。意外と長かったな」
 ボルスはどこにも警告文が無い事を確認をすると再び操縦桿を握りなおした。
 ようやく弾薬の交換と機体冷却を終え逃げ去ったバイラムへと追撃に移ろうとした時だった。
 突然通信ウィンドウが開いた。
「ケントか? これから我々もバイラム追撃に……」
「ボルス、悪いけどバイラム追撃は無しだ! 部下にもこう伝えてくれ、バイラムの半径五十キロいないに入るな!」
 早口で捲くし立てるケントに思わず首を傾げてしまう。
「どうしたんだ? これからという時に撤退とは……」
「いいから従ってくれ!」
 鬼気迫るケントの表情に思わず引いてしまうボルス。
「わ、わかった」
「頼んだよ」
 ボルスの答えにケントは安堵の表情を浮かべると一方的に通信を切ってしまった。
「仕方がない、帰還するぞ」
「ほ、本気ですか!?」
「いくらベルガン主任と言えど…」
 レイとアルは不平不満をボルスにぶつけてくる。
 無理もないだろう、今から大詰めだというのに自分達は参加しないというのは肩透かしを食らった気分に違いない。
「分かっている、だがあんな必死なケントを私は見たことがない。頼む、ここは撤退してくれ」


 ボルスはそんな部下たちに頭を下げた。長年の親友の願いを無碍にするわけにはいかない。
「…了解」
「了解」
 仕方なくといった表情で二人は命令に従った。
 一体何があったんだ? ケントのあの表情も気になる。
 ボルスはバイラムが飛び去った方向を暫く見続けていた。

 ケントが撤退を懇願している同時刻、マールはふと何かが気になった。
 待ってよ、もしも、もしもバイラムの目的がここにある軍事兵器の破壊だとしたら……。
 新型を狙ったのはデモンストレーションと存在の誇示、各軍事基地を狙ったのは軍事行為に対する警告とデータ収集。
 そしてこの演習で起こり得ること、それは……警告ではなくてもっと強い物。つまり――。
 マールは一気に蒼ざめる。バイラムがやろうとしていることを理解したのだ。
 すぐさま通信機のスイッチを入れる。
「ファルちゃん! 帰ってきて!」
 通信ウィンドウが現れた瞬間、マールはファルに帰還命令を出した。
「な!? もう少しでバイラムを倒せそうなのに!?」
 突然のマールの言葉に戸惑いを隠せなかった。さっき総攻撃命令が出たばかりなのに……。
「倒せるじゃないの! 倒したらお終いなの!」
「でも!」
「また約束破るの!?」
 マールの言葉に思わず言葉を詰まらせるファル。
 遠い昔彼女はマールとの約束を破ってしまった。とても小さな、しかしとても大切な約束を。
「わかったわ、帰還する。全機撤収!」
「了解」
 苦い顔を浮かべながら彼女は部下の返事とともにバイラムから遠ざかって行った。

 一方、伏儀に居る奈央の顔は完全に蒼ざめていた。
 間違いない、リーシェン軍曹に行われたあの”技”は紛れもなく……。
 そんな事を考えているナオに突然通信ウィンドウが現れた。
「ナオ、ボーっとしてないでデータの解析をして進めろ」
「も、申し訳ありません!」
 敬礼をして謝る奈央を見ながら怒りの表情を崩さなかった。
「解析が終わったらすぐにブリッジに送れ。分かったな?」
「りょ、了解!」
 ナタリアからの通信が途切れると奈央は重いため息を付いた。
 何やってるんだろう、私。
 そう思いながらふとディスプレイを見るとバイラムの銀の筒に何かマークがついていた。
 鳳凰から送られてくるカメラの映像を解析すると銀色の筒に赤いマークが付けられていることに気がついた。
 そのマークとは――。
 奈央はブリッジにいるナタリアに通信を送る。
「ナタリア大尉!」
「データ解析は終わったのか、奈央?」
 慌てふためく奈央を見て首を傾げるナタリア。
「これを見てください」
 画像の一部を拡大させ、メインモニターに送る。赤いマークの部分の輪郭はっきりさせる。
「これは……」
 少し思考を張り巡らせると奈央の方を向く。
「ナオ、各部隊に警告を送っておけ! あと、出撃中の部隊には帰還命令を出しておけ」
「了解」
 奈央はそう言うと再びキーボードを叩き始めた。

「うっ……」
「おっ、気がついたか?」
 リーシェンが目の開けるとそこ青い空が広がっていた。
 耳元のマイクからパーチャイの声が聞こえてくる。どうやらずっと気絶をしていたらしい。
「自分はどうなりましたか?」
「バイラムの攻撃を喰らって今まで気絶してたんだよ」
 気絶……と言うことはバイラムに逃げられたのか?
「申し訳ありません……」
 リーシェンは頭を下げる。



「なに、気にすんなって。それよりも鳳凰の調子はどうだ?」
「調べてみます」
 鳳凰のエンジンの蓋を開けて中を見る。特に壊れた様子は見られない。
 飛び立つためにエンジンをかけるが、なかなか立ち上がらない。
 リーシェンは何度もエンジンをかけ直す。しかし擦れた音はすれどどうも調子が悪い。
 やっとのことで起動音を立てて動き出したがメーターを見ると本来の出力には到底及ばなかった。
「おい、どうだ?」
「駄目です、帰還するには支障はありませんけどこれ以上の戦闘は不可能ですね」
リーシェンは落胆した顔を見せる。もう少しという所で……。
「そうか、じゃあお前は帰還しとけ」
「しかし!」
「その状態じゃあいつと戦うって言っても足手まといだ」
 いきり立っているリーシェンにパーチャイは現在の状況をぶつけた。
「くっ……」
 パーチャイの言葉が心に響く。初陣の時のようにまた何も出来ないのか?
「上官命令だ。リーシェン軍曹、お前はそれを持って帰って修理してもらえ」
「了解しました」
 苦虫を噛み潰したかのように眉間に皺を寄せるリーシェン。
「後、ついでにこいつのデータをも持ってってくれ」
 麒麟から実験データが送られてくる。しかしリーシェンは顔をしかめたままだ。
「おいおい、そんな顔をするなよ。お前の分まで頑張ってくるから」
「……お願いします」
 リーシェンは頭を下げる。これが自分にできる最大限の礼儀なのだから。
「おう、帰ったらいい店紹介してやる」
 飛び切りの笑顔をリーシェンに見せる。
「はい、チャウ・リーシェン軍曹、これより帰還します」
 鳳凰は砂漠の砂を振り払い大空へと舞う。そのボロボロの機体は新型というにはあまりにも滑稽だった。
「さて、世紀の悪党のお顔を拝見と行きますか!」
 飛び立つ鳳凰を見送ると麒麟は悪魔へと向かった。
 皮肉なことに奈央達が送った通信はリーシェンの介護のせいで聞き逃してしまったのだ。
 これが彼の命運を分けることになるとは誰も予想が付かなかった。

 バイラムの剣がネルソンを突き刺す。だがすでに動きが単調になっており誰の目からも疲れていることが分かる。
 横から青龍の攻撃が来るがいつものような余裕はなく大きく避ける。しかし上からポーンの銃撃を喰らい大
地に叩きつけられた。バイラムは命からがらといった雰囲気で戦場から逃げていく。
「逃がすな! 追え! 追うんだ!」
「バイラムを追跡しろ!」
「なんとしても奴を捕らえろ!」
 艦長席から司令官の檄が飛ぶ。
 あのバイラムが逃げ回っている、その事実だけが彼らを突き動かしていた。
「艦長、退避せよという味方からの要請が来ておりますが?」
 通信士が振り向き様に艦長に報告する。
「無視しろ! 何故退かねばならん!?」
「臆病風に吹かれた者など放っておけ!」
「なにをいう! バイラムを倒すのに撤退などするつもりは無い!」
 しかし、誰一人として退こうとする人間はいなかった。

 目の前の玄武を切り捨てるといきなり背面から無数の砲撃を受けた。バイラムが振り向くとそこにはステイ
ツの主力部隊が当たり一面に広がっている。さらに空にはネルソンの大部隊。そして背面からはAUAの連隊
クラスの攻撃部隊が展開していた。
 その数は数千を超えるかというほどだった。
 バイラムは背面のバーニアを光らせ天高く駆け上がろうとする。
「バイラムめ、逃がす物か!」
 一機のネルソンがバイラムの足首を掴むがあっさりとその腕を切られる。
「甘いんだよ!」
 今度はポーンに背中から羽交い絞めにされるが無理やり振りほどくと凄まじいスピードで上昇を始めた。
「待て! バイラム!」
「バイラム! 逃げても無駄だ!」
「バイラム!」



「バイラム!」
「バイラム!!」
 多くのPMがバイラムを目掛け向かっていく。ステイツやユニオン、AUAなど実に様々だ。
 バイラムは雲を突き破り遮るものが何一つない蒼空に到達すると慈悲深さを感じさせる”目”でその光景を
 見つめていた。


 そして手に持っている”物”を大地に向けて投げつけた。
 ”それ”は神が使わしたかのように全てのPMの間をすり抜けて地面と接触をする。


「総員!対閃光!対ショック防御!」
 ケントが、ナタリアが、マールが、同じ言葉を叫ぶ。
 その声にブリッジにいた全員がそれに沿った行動を取る。
 それと同時に凄まじい閃光と爆音が響き渡り、全てを消し去る突風と熱が艦を、PMを、そして大地と空を焼いた。
 何かに吸い込まれるかのように再び熱い風が巻き起こり水蒸気がきのこの形の雲を作り出す。
 振動が艦やPMを揺する。物が落ち、人が飛び、光が人々を恐怖に陥れる。そして爆発音が現実である事を
示している。
「うわあああああ!」
「ぐぅぅぅぅ……」
「きゃぁぁぁぁぁ!」
 全ての人々が『歴史』として学んだことであり、全ての人々が『危険』だと思っていたもの。
 そして全ての『国家』が体面のために存在し、使わないと思っていたもの。
 全ての人々が『必要悪』としてその存在を容認していた物。
 その名は【核】。人類が生み出した力の象徴であった。

 爆発が収まると辺りには今日の演習の為に参加していた艦隊やPM、戦闘機などがどこにも見当らなかった。
 爆風に吹き飛ばされたのか、それとも衝撃波にやられたのかは分からない。今ここにいるのはマールたちだけだった。
 マールは頭を手を当て再び気を取り直す。
「状況報告をお願いします」
 マールは冷たく威厳に満ちた声でオペレーターに声をかけるがオペレーターは放心状態であった。
「状況報告!」
 今度はさらに大きな声でオペレーターを叱り飛ばす。
 我を取り戻したオペレーターはレーダーを眺める。しかしそこにはもう悪魔の反応はどこにも無かった。
「は、はい! 敵、消失しました」
「そう……ファルちゃんや隊のみんなは?」
「全機健在です」
「そう、ありがとう」
 マールはそう呟くと悲しげな瞳でメインモニターを見つめる。
 ファルちゃん、大丈夫かな?

「みんな、大丈夫か?」
 先ほどの閃光からようやく目が馴れてきた。
 艦長の呼びかけにオペレーターたちもようやく気が付いたようだ。
「はい……いたた……」
「一体なんだったんだ?」
 それぞれが気が付くと同時にざわざわと今までの事を話し始めた。
「ベルガン主任、艦内の放射能係数は?」
 ケントはキーを叩き艦内の様子を調べる。どうやらどこも被害はなさそうだ。
「問題ありません、しかし帰還予定者には悪いんですけれど、艦外待機をお願いします」
「分かった、すぐ指令だしておこう」
 艦長は椅子に備え付けられている受話器に手を伸ばすと整備室にいる整備長を呼び出す。
「全く、どこから持ってきたんだ?」


「ふぅ、まさか奴があんな物を使うとはな」
 ナタリアは被害が軽微だったことに軽くため息を付いた。
「お手柄だったぞ、ナオ。もしアレが核であることに気が付かなかったら――」
 ナタリアは奈央の方を見る。しかし奈央の顔は真っ青だった。


「おい、奈央」
 ナタリアの呼びかけに答えないまま彼女はブリッジを走り去る。
 そしてそのままトイレに駆け込むと嗚咽と共に胃の中のもの全て吐き出してしまった。
 私は知ってしまった、この嗚咽の正体を。
 私は知ってしまった、バイラムの正体を。
 私は知ってしまった。あの人がどうなったかを……。
 そう、バイラムの正体とは――。
「うっ……」
 それを考えたとたん再び激しい嘔吐をしてしまう。
 どうしてこんな事になってしまったのだろう?
 真実ではない、所詮仮説のレベルだ。データ解析だってまだ途中で確証はない。
 しかしあのバイラムというPMはあまりにも似ていた。気持ちが悪いほど似すぎて……。

 ボルスは悔しさと怒りのあまりディスプレイを力任せに叩く。
「くそ! なんてことだ!」
 まさか、我々の『人間』の力を使われるとは……。しかも何のためらいも無くアレを使うなんて……。
 私も甘かったということか!
 ボルスは再びあれが悪魔である事を認識した。

 リーシェンは信じられなかった。目の前で自分の仲間が跡形もなく消えた。
 ほんの数分の前まで会話していた人間がまるでそんなものが最初からなかったかのように……。
「そ、そんな……応答してください!」
 回線を使い何度も呼びかけるが答える者は何もいない。
 外のスピーカーに切り替えても聞こえてくるのは風の音だけだった。
「くっ、パーチャイ少尉ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
リーシェンの悲痛な叫びがコックピット内に響き渡った。

 ファルはコックピットの中で力なくうなだれた。
「あははははは……馬鹿みたい、本当に馬鹿じゃない…」
 借りを返せる? ビスマルクの評価を上げる?
「何も出来てないじゃない、何も……」
 そして目の前に起こった事は父が危惧をしていた事。いつか起こりうる世界の破滅の始まり。
 核戦争のお話であった。
 彼女は一しきり笑った後、弱弱しい声でむせび泣いた。

 いくらバイラムと言えど千を超すPMに勝てるはずが無いと信じていた。
 いくら化け物と言えど必ず倒れると思っていた。
 だが、現実はそれより斜め上を行く形となり人類の絶望をさらに広める結果になってしまった。
 バイラムが使った人類の『業』。それはいつか誰かがやるものであったのかもしれない。
 この事件により、各国の状況は次第に悪化し、経済の低迷や政治不信、ストライキなどを引き起こすことと
なった。
 しかし・・・この事件からバイラムへの反抗作戦が始まろうとしている。
 絶望出会っても足掻く事を忘れなければ必ず人は未来をつかめるのだから。

第8話「希望は月にあり」につづく・・・



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