「はぁっ、はぁっ…」

息が荒い。足が重い。あごがあがる。
それでも走ることをやめるわけにはいかない。
今止まればすぐにでも追撃が迫ってくるだろう。
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どれくらい走っただろう。
森の切れ目が見えてきたところで、ネスティはようやく立ち止まって
両膝に手をつき休むことにした。

「ぜぇっ…ぜぇっ…クソッ……」


この島に飛ばされてからわずか5~6時間といったところか。
既に3回、死んでもおかしくないような状況に巻き込まれてしまった。
(地図の縮尺をを信じるならば)これだけの広さの島で、
参加者が50名程度(うち一割以上は知り合い)という状況で。
自分の不幸さを呪ったことはこれまで幾度とあったが
今回の不幸っぷりも大概である。

呼吸を整え頭を冷やすと、さらに今の状況の悪さを認識してしまう。

これだけ参加者に襲われ続けた中で、ただ一人信用してもいいと感じた
イスラとははぐれてしまった。
時刻が昼に近く太陽は東とも西ともつかず、そもそも森の中を必死で走っていたのだから
太陽なんてほとんど見えない。
自分が森をどう走ったのかすら見当がつかない。

情報不足で戦場で迷子。
とてもじゃないが笑えない。まるでマグナみたいじゃないか。
まずは、自分の現在位置だけでも把握しなければならない。

森の切れ目まで歩いてみる。
暗い森の中に慣れた目に外の光が刺さるが、すぐに慣れる。
視界がひらけてくると同時進行で外の景色が鮮明になっていく。
3/4ブロック程先に森。左前方には城。
主に目に付いたのはそんなところだが、今はそれで十分だ。

(…B-6とC-6の境界あたりか)

問題はこれからどうするか。

このまま森の中に留まる?――――選択肢としてなくはないが、心情的に却下だ。
北、つまり海側へ?―――――――弓矢を装備した危険人物が近くにいるのに見通しが良すぎる。論外だ。
前方の森へ?――――――――――城や橋の様子を観察できる。第一候補だろう。
C-4の橋を通りC-3の村へ?――――村へ行くのは結構だが距離がある。
C-6の城へ?――――――――――距離が近くリスクは低い。待ち伏せの危険はどこも同じだ。

考えを巡らせていると、平原を疾走するあるものに気付いた。
慌てて木々の密集する森の中へと引き返す。
先程の剣を持った襲撃者だ。
幸い、こちらには気付いていないようだ。
南へと移動している。

木々の隙間からしばらく観察していたが、あの襲撃者へと駆け寄る女性が見えた。
危ない、とは思ったが割って入るような真似はしない。
なにせまだ死にたくはない。そもそも割って入ってどうにかなる相手でもない。
結果、それは正解だったらしい。
あの襲撃者はその女性を手にかけることはなく手を引いて南下していった。

彼らが駆けていく先をよーく目を凝らすとまた別の人物がいることがわかった。
距離がありすぎて眼鏡をかけていても男性か女性かすら分からない。
せいぜい、上から下まで全体的に青いということが分かったくらいだ。

そちらのほうに目を凝らしていたら先程の襲撃者達は進路を変えていた。
どうやら城の向かうのではなく南下するようだ。
ネスティの視界から消えるまでそう時間はかからなさそうだ。

残された青い人物に接触するべきか否かを考えているうちに
その人物も彼らを追うように動き出し視界から消えていった。
この人物がどうなるかは予想できないが、
予想できたところでどうこうできるような力は残念ながら持ち合わせていない。

自分ものんびりしている場合ではない。
あの襲撃者が慌てて去っていったのはこの森に潜むあの少女を考えてだろう。
あの少女のことを思い出し背筋に寒いものが走り、なんとなく後ろを振り返ってみたが
視界に広がるのは木々ばかりであった。

名前も分からない3人の動きをただ傍観していた。
だが、ネスティのこれからの進路を決めるには十分な情報量だ。

向かう方向がある程度一致する以上、あの襲撃者に見つかる可能性がある
城に向かうという選択肢は候補からはずれた。

「……C-5の森へ行こう」
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特に何もなく目的地に到達できた。
外から目に付きにくそう、かつこちらから外は最低限見える場所を確保し
腹5分目程度に食事を摂った。
機会をみて城に向かうなりC-3の村へ向かうなりこの森に留まるかを決めるのは
それほど急がなくても大丈夫であろう。

眠るとまではいかなくてもいい。
擦り減った神経を休ませたい。

「………クソッ」

何度目の悪態だろうか。
ストレスの源ともいえるあのバカと望まぬ形とはいえ別行動しているのに
より強いストレスに晒されている自分をつくづく不幸だと感じたネスティであった。

あのバカ―――マグナが近くにいれば
気が紛れて少しはストレスもマシになりそうなものなのに。

【C-5/森の中/1日目・日中】
【ネスティ@サモンナイト2】
[状態]:健康
[装備]:ダークロア@TO
[道具]:支給品一式(食料1/2食分消費) 、封魔の首飾り@TO
[思考]1:協力者を探す
   2:仲間たちとの接触も早めにしたい
   3:自分と仲間の身の安全を優先
『※デニム達はNo.048「深く沈む」参照』

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最終更新:2009年04月17日 23:05