「いったい……なんだ……。どうなっている……クソッ……」
苛立ちを抑えるように、
ネスティは奥歯を噛み締めた。
恐怖がようやく収まり、息も整い、心拍数が下がってきたところで…
「大丈夫ですか、お兄さん?」
背後から声をかけられ、再び心拍数が跳ね上がった。
振り返ると、そこには黒髪の青年。
穏和そうな表情でこちらを見ている。
が、先程殺されかけたネスティがそんなことで気を許すはずもなく。
「…君は?」
そう言いながらも、気取られないように軽く後ずさる。
「僕は
イスラです。あなたにその気がないなら戦う気はありません。
あなたに戦う気がないのなら話をしたいので、両手を挙げて逃げずにこちらに来てください」
そう言って、イスラと名乗った青年がまずは自分がと両手を挙げた。
「………」
どうするべきか。
逃げることができるかどうかは分からない。
追いかけられた場合を考慮すると、先程魔法を行使しようとして失敗したのが不安材料だ。
話をしたとしても、戦闘になった場合を考えると同様の理由で――――
(………僕は馬鹿か?)
この状況で、いちいち人を疑ってどうするというのだろう。
わざわざ、友好的に話しかけてきた相手を、だ。
こんな状況で友好的だからこそ怪しい、などと考えてはキリがない。
第一、いくら知り合いがそこそこ参加してるといえど、
マグナ達に会うまでひたすら逃げていてはそのほうが生存率が落ちそうだ。
自分も一応は悪魔との戦いを生き残ってきた召喚師だ。いざとなればどうにかしてみせる。
ならなかったときはそのときまでだ。確実に生き残る方法などないのだから。
ネスティは両手を挙げ、青年のほうへとゆっくりと歩み寄った。
近くの茂みの中で、二人は簡単な自己紹介をした。
「まさか、いきなりリィンバウムの人間と会えるとは…」
「狭いものですね、この島も」
会話はある程度?弾んではいたがある程度の距離はとったまま会話している。
「当然と言えば当然ですが警戒してますね、ネスティさん」
「……君があまりに警戒してなさすぎなだけだと思うが?」
ちなみに、ネスティが一方的に距離をとっている。
「僕は一度、死んだ身…いや、死を望んでいる身なので。」
そう言ったイスラの顔に暗い影がのぞく。
死の影―ネスティはそう感じた。
「こんな状況だ。生きる意志がないと、本当にすぐ命を落とすぞ」
イスラの顔を見ていた目を伏せ、ネスティは言った。
「だから、それでもいいんですよ。ただ、犬死する気はないです。
ただ………万が一、無事に帰れたとすれば姉さんを少しでも―――」
口を開いたまま、イスラは少しの間、硬直し―軽く笑いながら首を振った。
「……少しでも?」
「気にしないで下さい。それよりも、目の前のことを考えましょう。
名簿の中にネスティさんの知り合いはいますか?
いるなら危険人物だけでも―――」
そこまで言ったところで、再びイスラの口が止まった。
しかし、今度は硬直も笑いもしない。
唇を引き締め、荷物の中からチェンソウを取り出し立ち上がった。
視力の弱いネスティも、状況を理解して立ち上がった。
「二人か…これも想定内です。運が悪かったと思ってください。これもヴァレリアのためです」
少し離れた木の影から、強力そうな騎士剣を構えた、赤黒く上体を汚した青年が現れたのだ。
(ネスティさん、武器は?)
明らかな襲撃者に聞こえないようにイスラがささやいた。
(一応、呪文の書みたいなものはある。君はそのチェンソウか。扱えるのか?)
(使い方は分かります。僕を信用しているなら援護をお願いします)
(返り血を浴びている男よりは君を信用するさ)
「覚悟してくださいッ!!」
イスラとネスティが意思確認すると同時に、襲撃者は剣を構え間合いを詰めてきた。
ウィィィィ…………ン…ガキィッ!!
チェンソウの駆動音を、襲撃者の剣がかき消す。
腕力は襲撃者のほうが上に見えたが、高速で回転するチェンソウの刃と鍔迫り合いをするのは
武器にとって悪影響と判断したのか、すぐに剣を離し、再びイスラ向かって振り下ろす。
軽くステップを踏みその一閃をかわしたイスラもチェンソウを横薙ぎに払うが、
襲撃者は後方に跳び回避した。
(強いな、この人)
イスラは素直にそう思った。だが、二人がかりでなら倒せない相手ではない。
ネスティがうまく援護してくれれば、手痛い一撃を加えることはそう難しいことではない。
だが―――。
(くそっ…やはり…魔力が上手く引き出せない…!)
なぜだ?一度使ったことによる制限?
いや、そんな制限をかけるほど威力のある魔法でないように感じた。
では何だ?一番最初に召喚に成功したときと魔力を引き出せない自分との違い。
その間に何をした?
アルマと名乗る少女に出会った。…違う。
位置を確認するため海岸線を見ようと北上した。……違う。
それ以前にしたことは……
(――――首飾りかっ!!)
すぐさま判断し、首飾りを引き千切るつもりかというくらい力をこめて首からはずし、
魔力を練ろうとする。
(よし、いけるぞ…)
この感覚。全身に行き渡る魔力。やはりあの首飾りが原因だったようだ。
目の前では、再びイスラと襲撃者が打ち合っていたが―慣れない武器、というかそもそも
人間用に作られた武器ですらないものを使っているせいか、イスラが次第に押されてきている。
すぐに援護できるようにしなければマズい。
左手に持った文章に目をやり、精神を集中させる。
「漆黒の闇にうごめく悪霊を呼び寄せ……」
形成されていくこの力。成功したときと同じ感触。
「汝の生命を奪い去らん……」
まだだ。術を完成させるにはまだ早い。タイミングを待つ。
押されつつもイスラは的確に襲撃者の剣を捌いていった。
だが、劣勢には変わりない。
キィンッ!!
襲撃者が振り上げた剣でチェンソウごと腕を弾き上げられ、胸元に大きな隙ができてしまった。
「とどめです!」
襲撃者が、振り上げた剣を、重力と自身の力を込めて下方向へと返そうとした。
(今だ!)
「ダークロア!」
ネスティが叫び、ファントムが現れ、トドメをさそうとした襲撃者に体当たりをした。
「ぐっ……!!?」
予期していなかった反撃を受け、動きが止まり、攻撃してきたネスティのほうに視線が行く。
イスラはこのチャンスを逃さなかった。
キィン!
渾身の力で、チェンソウを襲撃者の剣の鍔の根元に叩きつけ、襲撃者の手から剣を離れさせた。
「終わりだ。僕たちを殺す気で襲ってきたからには、それなりの覚悟はできているんでしょうね?」
ネスティと話をしていた彼からは想像できないような、冷たい眼で襲撃者に宣告するイスラ。
ネスティも甘くはない。ある程度の情報を引き出すにせよ拘束するにせよ、
抵抗できない程度に痛めつける必要があるのだから止めることはしない。
「お願い、やめてっ!」
しかし、止める声が割り込んできた。
三人の声とは全く違う声。女性の声である。
森の南の方角から、赤い長髪の美しい女性が少しふらつきながらもこちらへと駆けてきていた。
「ハァッ、ハァッ…ハァ、ハァ……」
イスラはいつでも襲撃者に攻撃を加えられるような体勢のまま、
ネスティは術の反動で疲労こそ溜まっているがいつでも動けるような体勢のまま、
襲撃者は呆然としたような表情で、走ってきた女性を見ていた。
「その人は、自分のために人を殺そうとしているのではありません。
だから、決して悪人ではないはずです。お願いします、争いはやめて話し合いましょう!」
三人のすぐそばまで走ってきて、息を整えた後、その女性はこう言った。
どことなく、カリスマ性を感じるこの女性。
話し合いとまではいかなくとも、元々襲撃者から情報を引き出すつもりだったネスティとしては
この女性と言い争いをするつもりはなかったが。
「悪人じゃないから敵じゃない、だから武器を納めろと?
馬鹿らしい。善人が敵だったなんてことはもう僕は経験してるんです」
ぴしゃりと赤髪の女性の意見を遮り、厳しい眼でイスラはその女性を睨みつけた。
赤髪の女性もそれに臆することなく、イスラと目を合わせる。
「そのときと今が同じ状況なんですか!?今、私たちが置かれている状況は絶望的です。
こんなときにこそ、手を取り合わないといけない!
争いは憎しみを生み出すだけで――――ゴフッ…」
驚きに見開かれた赤髪の女性の瞳。
口からは、血。
胸には、深々と突き刺さる矢。
「ネイスさんを狙ったんだけど…はずれちゃったわ、残念」
血も凍るような惨状の中、場違いなほどに冷静―そして楽しそうな女性の声。
不幸なことに、森の中にしては視界が開けていたその場所では確認するのは容易だった。
どす黒く変色した服に身を包んだかわいらしい女性、
その血塗れの格好には不自然なほどに手に構えた自動弓がサマになっているアルマの姿を。
「あ…そわ…いで………」
力ない言葉と共に、女性が崩れ落ちる音が静かに森に響く。
じくじくと、胸の辺りを中心に血が地面に染み出していく。
瞳は既に何も写さないかのように、輝きを失っている。
致命傷なのは誰の目にも明らかだった。
「みんな、そこを動かないでね。すぐに殺してあげるから」
新たな襲撃者はそう言って、次の矢を自動弓にセットし始めた。
「ネスティさん、ここは二手に分かれて逃げましょう」
ある程度開けたこの場所で弓を持った新たな襲撃者。不利を悟ったのだろう。
目の前の元・襲撃者のことはもはや眼中にないようだ。そうとだけ言って、
ネスティの返事も待たずにイスラは駆け出した。
「……くっ」
ちらりと倒れた赤髪の女性を見やる。顔はこちらを向いて倒れていたが、
髪の毛が顔にかぶさっていたため、表情は分からなかった。
ここに留まっても自分は
アメルのような治癒の力はない。何もできないのは明白だ。
ネスティも荷物を背負い、すぐに駆け出した。
「…みんな行っちゃったわね。仕方ない、あなただけでも殺してあげるわ」
そういって矢をセットし終えた自動弓を構え、アルマは残された男に言った。
「……僕はまだ死ぬわけにはいかないっ!」
男が叫び、横っ飛びに跳躍した。
ドスッ!
アルマが放った矢は男の左肩をかすめ、地面へと突き刺さった。
弾き飛ばされた剣を拾いあげ、男は走り去った。
残されたのは、血みどろの女性と血まみれの女性。
「結局、あなただけか」
本当に残念そうにアルマはつぶやいた。
「………」
地面に横たわり、血を噴出し続ける女性は、最後の力を振り絞り何かを言う。
「言い遺したことがあるの?」
加害者とは思えないような神妙な表情で、アルマは赤髪の女性の口元に耳を持っていった。
「……どう…して…た…にんと…あ…らそう…の?
…みんな…と…きょ…う…りょくし……て、だ…しゅつ………を…」
しゃべるたびにごぽごぽと泡立った血が口から漏れ、最期の言葉を不鮮明にしていく。
「私の兄を優勝させるためよ。みんなと協力したところで生き残れるとは思えないわ」
その言葉を聞いて、静かに。湖水のような静かさをもって、アルマは言った。
自身につけられた首輪をなぞりながら。
「………だれか…の……ため…に…だ…れかを……ころ……す…な……て
かな………し……い…こ…………と…を……し……な…い………で………」
森に、鈍い音が響いた。
「
ラムザ兄さんが死ぬことと比べたら、そんなことは悲しいことでもなんでもないわ」
赤髪の女性の顔に振り下ろした手斧を持ち上げ、アルマは言った。
平静な顔をしてそばの地面に突き刺さった矢を引き抜き、
ティーエの荷物を回収するアルマ。
その眼に宿るのは、強い決意と狂気。
大勢の兵を、マールの獅子王子の心すらも動かしたティーエ。
死霊の指輪の恐怖にも屈しなかったティーエ。
彼女の心は、儚く散った。
【B-6/森の中/1日目・午前】
【イスラ@サモンナイト3】
[状態]:戦闘による中程度の疲労。外傷はなし。
[装備]:チェンソウ@サモンナイト2、メイメイの手紙@サモンナイト3
[道具]:支給品一式
[思考]1:安全な場所までの逃亡
2:アズリアか
アティと合流する
3:対主催者or参加拒否者と協力する。
4:自分や仲間を害する者、ゲームに乗る者は躊躇せず殺す
【ネスティ@サモンナイト2】
[状態]:ダークロアの反動で軽い疲労
[装備]:ダークロア@TO
[道具]:支給品一式 、
封魔の首飾り@TO
[思考]1:安全な場所への逃亡
2:協力者を探すため、人の集まりそうな城などへ向かう
3:仲間たちとの接触も早めにしたい
【
デニム=モウン@タクティクスオウガ】
[状態]:軽症(肩に刺し傷、左肩にかすり傷)、プロテス(セイブザクィーンの効果)
[装備]:セイブザクィーン@FFT
[所持品]:壊れた槍、首輪、不明×2(確認済)
[思考]:1:
カチュアの生存確保
2:カチュアとの合流
3:その他参加者の排除
4:脱出法の模索
5:脱出が不可ならカチュアを優勝させる
6:カチュアをヴァレリアへ帰還させる
【B-6/森の入り口/1日目・午前】
【アルマ@FFT】
[状態]:健康、服や顔に返り血
[装備]:手斧@紋章の謎 死霊の指輪@TO
[道具]:支給品一式×3、折れ曲がったレイピア@紋章の謎、ガストラフェテス@FFT、
ガストラフェテスの矢(残り3本)、アメルの支給アイテム(不明)、ティーエの支給アイテム(不明)、アメルの首輪
[思考]1:ラムザ兄さんが生きていることを確認したい
2:ラムザ兄さんを優勝させるため、ゲームに乗る
3:血を洗い流したい
【ティーエ@ティアリングサーガ 死亡】
【残り44人】
最終更新:2009年04月17日 09:11