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真壁10日目・No.3

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私のやんごとなき王子様














「真壁先生」


 私は呼びかけられたその声に、思わずドキリとして顔を弾かれた。振り向くとそこには水原さんが立っていて、私の事を睨みつけていた。


 あ……。


 もしかして、先生の事を探していたんだろうか。少し息が上がった様子で、呼吸を整えて今度は真壁先生を見た。


「どうした、水原?」

「私も一緒に花火見てもいいですか?」


 思わず真壁先生の顔を見てしまった。

 先生は一瞬複雑な顔をして、それでも頷いた。


「ああ、いいよ」


 その答えに傷ついたのは私だった。まさかOKするなんて。

 先生は先生であって、生徒の誰か一人を特別扱いすることは許されない。分かってる。

 分かってるけど―――


「ありがとうございます!」


 笑顔でこちらへやって来た水原さんは、私と真壁先生の間に入り込んで来た。


「ここ、すごくいい場所ですね」

「ああ、そうだな」


 二人の会話を聞きながら、私は泣きそうになるのを必死で堪えていた。

 この間水原さんが告白していたのを、私は聞いて知っている。水原さんは好きな人と少しでも一緒にいたいんだ。その気持ちが痛い程分かって、辛かった。


『俺は教師でお前は生徒だ』


 あの日から何度となく頭の中で再生されたその言葉は、水原さんだけでなく私そのものに向けられているのと同然なんだ。

 昨日見せてくれた先生の過去は、きっと水原さんは知らない。私しか知らない真壁先生は確かにいるけど、ただそれだけ。

 次々に打ち上がる花火は、先ほどと違ってくすんで見えた。


 ドーーーン!!


 大きな1尺玉が空に花を咲かせると、


「私、絶対に先生の事諦めませんから」


 響く音の合間にそう水原さんが言うのが微かに聞こえた。

 先生に向けて言っただろうその決意は、私の弱さを否応無しに直撃した。


「あっ!」

「どうした、小日向?」


 気付いたら私は立ち上がっていた。


「すみません、仕事のやり残しがあったのを思い出しました。私、ちょっと生徒指導室に行ってきます!」

「あ、おいっ!」


 先生の呼び止めを振り切り、私は先生と一緒に歩いて来た道を駆け抜けた。

 花火が終わる頃、先生は水原さんと二人でこの道を帰って来るんだ。

 どうして私は先生の事なんか好きになったんだろう。どうして私は二人だけにして戻って来てしまったのだろう。


 訳の分からない感情に、涙が溢れて止まらなかった。












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