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チェンジ・ザ・ワールド☆
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倉持13日目・No.4

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私のやんごとなき王子様












「わあ……」


 岩場の向こうにはとても幻想的な世界が広がっていた。

 真っ赤な夕日が海の上に点々と広がる岩礁に光を落とし、まるで花火のように赤と黒の影を海一面に見せていた。

 私はそのあまりの美しさに言葉を出せずにいた。


 なんて綺麗なんだろう――――


「ここはね、昔僕が好きだった人と初めて来た場所なんだ……」


 ピタリと動きを止め、私は思わず理事長の顔を見据えた。

 聞きたくない……好きだった人の話しなんて聞きたくないのに、理事長の穏やかな声は耳を塞ぎたくなる私の手を縛ってしまう。

 夕日に照らされた理事長の顔は泣きそうにも見えて、私の胸は更に苦しくなった。


「前に臆病だったから告白出来なかったと言ったよね。本当はね、ここでその人に告白するつもりだった。だけど、言えなかったんだ……」


 前に理事長は自分に自信がなかったから、その人に告白出来なかったと言っていた。だけど、きっと理由が他にあるんだ。

 もしかしたらそれを誰かに聞いて欲しいのではないかと思った。


「――どうして、言えなかったんですか?」


 無意識のうちにそう尋ねていた。


「その人に、先に告白されたから」

「え?」


 驚いた私に、理事長は一歩近づいて笑う。


「僕以外の男が好きなんだと、打ち明けられたんだよ」

「あ……」

「僕はまだ子どもだった。一人で勝手に舞い上がって、彼女を好きだと言う気持ちばかりが勝ちすぎていたんだ……彼女の事を考えてあげてなかった。彼女は僕の気持ちに気付いていたのかもしれないね。ここには二人きりで来た訳じゃなくて、他にも友人達数名と来ていたんだけど、その中の一人、僕の友人の事を好きなんだと彼女が言ったんだ」


 そんな……こんなに素敵な理事長じゃなく、他の人を好きだなんて―――


「こんな話をして、馬鹿な大人だと思うだろう?」


 いいえ……そんな事ありません。

 黙って首を振ると、理事長はもう一歩私に近づいた。


「僕は卑怯だ。彼女に優しく出来なかった事をずっと後悔していた。もっと優しく接していれば、彼女は僕の事を見てくれたかも知れない、と……だから、彼女に似ている君に優しくする事で、過去から抜け出せないでいる自分を救いたかった」

「理事長―――」

「本当にすまない事をしたね……小日向さんとゆっくりと話しをしたのはほんの数日前だけど、僕は気付いたんだ」


 そこで理事長は私の目の前まで来て足を止めた。

 私は初めて理事長と会った時からのこの数日間を思い返していた。


「君と話していると、昔だけじゃなく、今でも愚かで成長していないということに気付かされた。ずっと進めずにいた過去から、君が僕を救ってくれたんだ……」

「私が? 理事長を……?」


 何もしていない。ただ私は、素敵な理事長のお役に少しでも立ちたかっただけ。

 卑怯なのは私だ。


「小日向さん――――君に、恋をしてもいいだろうか?」

「っ……」


 私は耳を疑った。

 予想もしなかった理事長の言葉に、私はじっとその整った顔を見たまま、何故か溢れてくる涙をぬぐう事も忘れていた。


「僕みたいなおじさんに、こんな事を言われても迷惑かもしれないけど、君といると前に進めそうな気がするんだ」

「迷惑だなんて―――」

「本当に?」

「はい」


 顔を下に向け、ぐっと両目をつぶると理事長のコロンがふわりと香った。


「……ありがとう」


 優しい理事長の腕に抱きしめられ、私は何度も何度もありがとうと囁く理事長の声に酔いしれた。

 理事長は私を選んでくれた。綺麗で大人びた水原さんではなく、私を。

 絶対に叶わないと思っていた想いが通じたのだ。

 きっともう二度とないだろうこの幸せを、私はきっと逃したりしない。


「理事、長……私も、理事長に、恋をしても……いいですか?」


 嗚咽の隙間からそう尋ねると、そっと私の頭を撫でながら理事長が答えてくれた。


「もちろん。嬉しいよ……ゆっくり、一緒に歩いて行こう」

「はい……はい!」


 音の無い夕日と岩礁の花火が、じっと私達を見守っていた。 


 この学園に入って良かった。この理事長と出会えて良かった。

 偶然だったけど、あの時真壁先生に迎えに行くように言われなかったら、こんな幸せを得る事は出来なかったのだ。


「健亮には、何かお礼をしないといけないな」


 同じ事を考えていたらしい理事長は、私の体を放して指で涙をぬぐってくれると、そう言って笑った。


「ふふ……そうですね


 ゆっくり行こう。

 時間を掛けてゆっくりと。


 演劇祭を成功させたように、私達の恋が成功するように―――












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